Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 4月 19th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その49)

タンノイのデュアルコンセントリックのオリジナルモデル(つまりモニターシルバーの前にあたる)は、
1947年に生れている。

もともとタンノイのスピーカーユニットは、
当時製造していたマイクロフォンの校正用音源として生れたものから発展してきたものだときいている。
いわば、この時点から、その時代におけるワイドレンジを目指していたものであり、
タンノイの解答が、高域にコンプレッションドライバーによるホーン型を採用し、
ウーファーのコーン紙をカーブさせることで、中高域のホーンの延長とするデュアルコンセントリック型である。

デュアルコンセントリックが発表された年の9月、ロンドンで、第二次大戦後初のオーディオショウが開催され、
注目を浴びることになるのだが、偶然というべきか、タンノイのブースの前に、デッカのブースがあった。
デッカは、すでにSPレコードで、
高域の限界再生周波数を従来の8kHzから14kHzあたりまでに拡張することに成功していた。
デッカの、このシステムこそがffrr(full frequency rahge recording)であり、
第一弾としてすでに発売されていたのが、アンセルメ/ロンドン・フィルによる「ペトルーシュカ」だ。

デッカのffrr、この広帯域録音システムを開発したのは、同社の技師長アーサー・ハディであり、
この技術の元となったのは、
第二次大戦初においてドイツの潜水鑑を探索する水中聴音兵器のトレーニング用レコード製作の委嘱である。
12kHzまでの広帯域録音が要求されたものらしい。

タンノイとデュアルコンセントリックとデッカのffrrが、1947年のオーディオショウで出逢う。
そして、デッカのデコラ(モノーラルのほう)への採用が決り、
デッカの録音スタジオスタジオモニターとしても採用されていく。

Date: 4月 18th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その48)

タンノイ・オートグラフは、1953年のニューヨークオーディオショウにて発表されている。

1953年は、まだステレオLPは登場していない。
オートグラフはモノーラル時代の、つまり1本で聴くスピーカーシステムである。

翌54年にはヨーク(これもコーナー型、ただしバスレフ)、
55年にはオートグラフからフロンショートホーンを省き、いくぶん小型化したGRFが出ている。
いうまでもないことだが、GRFもコーナー型だ。

ヨークは、のちにコーナーヨークと呼ばれるようになったのは、
1960年代にはいり、一般的な四角い箱のレクタンギュラーヨークが出て、はっきりと区別するためである。
GRFにも、ご存知のようにレクタンギュラー型がある。
ヨークを小型化したランカスター(1960年発売)も、コーナー型とレクタンギュラー型とがある。

ステレオLPの登場・普及、
それにARによるアコースティックサスペンション方式のブックシェルフ型スピーカーの登場、
スピーカーのワイドレンジ化ということもあいまって、
コーナー型のスピーカーシステムは次第に姿を消していくわけだが、
オートグラフが登場した頃は、イギリスだけでなく、
アメリカにおいても大型の高級スピーカーシステムの多くはコーナー型が占めていた。

オートグラフはフロアー型のなかでも大型に属するスピーカーシステムだ。
しかもコーナー型で、複合ホーン型。
この手のスピーカーシステムを、ほんとうにスタジオモニターとして開発・設計されたといわれても、
ステレオが当り前の世代には、にわかには信じられないことだ。

だがオートグラフが登場した頃は、くりかえすが、モノーラル時代である。
スピーカーシステムは1本のみの時代である。

このことに注目すると、この時代、コーナー型のタンノイがスタジオモニターとして使われていても、
そう不思議ではないことかもしれない。

Date: 3月 10th, 2011
Cate: 4343, JBL

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・その11)

スピーカーシステムの後側の壁面が大きなガラスだったら、
ほとんどの人が嫌がるだろうし、実際ガラスとの距離がそれほど確保できない場合は、そのままでは耳障りになる。

ジャーマン・フィジックスのDDDユニットが、
ほかのスピーカー(つまりピストニックモーションによるもの)と大きく異るのは、まずここだ。
水平方向には無指向性があるから、ガラスのような反射壁に近づけたら、
フロントバッフルにのみスピーカーユニットがある通常のものよりも、
ガラスからの反射が多くなりよけいに耳障りな響きがのってくる、と思いきや、
実際には響きが豊かになるけれど、耳障りな響きが増すわけではない。

推測にしかすぎないが、
おそらくDDDユニットから放射されている波面がきれいに広がっていっているためだと思っている。

水面に石を落す。
波紋がきれいに広がっていく。石を複数落していくといくつもの波紋ができ、ぶつかりあう。
ぶつかることで波紋が乱れるかといえば、そんなことはない。

DDDユニットを壁にぐんと近づけても、いやな響きがのりにくいのは、このことと関係している気がする。
おそらくDDDユニットから放射される音の波面を真上からみたとしたら、
水面にできる波紋と同じようにきれいに広がっていっているのだろう。

乱れがない(極端に少ない)から、壁に当っても反射されてくる波面も乱れが少ない。
だから壁の素材の固有音に起因するいやな響きがのりにくい。
私は、そう考えている。

まわりの壁の影響を受けやすいスピーカーは、波面の乱れが大きい(汚い)せいではないのか。

Date: 3月 9th, 2011
Cate: 4343, JBL

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・その10)

スピーカーの指向特性については、人によって意見が分かれる。
広ければ、直接音に対する壁からの反射による間接音の比率が増えてくるわけだから、
それだけ部屋の影響を受けやすくなる。
それに聴くのは、つねに左右のスピーカーから等距離でいつも聴いているから、
むしろ狭い方がいいくらいだ、という声は、ずいぶん昔からある。

ときには、こんな声もある。
楽器に無指向性のものはないのだから、無指向性スピーカーのどこに意味があるのか、と。

だが、ほんとうに指向特性のいいスピーカー、もっとも優れている無指向性スピーカーは部屋の影響を、
より受けやすいのか。つまりいい部屋でなければ、うまく鳴らないのか。

たとえば以前からあったビクターのGB1や、
比較的新しいところではソリッドアコースティックスの12面体のスピーカーが、
いわゆる無指向性スピーカーと、なぜか呼ばれてきている。

これらは小口径のフルレンジスピーカーを多面体のそれぞれの面にとりつけたものにしかすぎず、
決して無指向性スピーカーではない。
これらのスピーカーを無指向性スピーカーとするならば、確かに部屋の影響は受けやすいだろう。

でも、ジャーマン・フィジックスのDDDユニットのように、水平方向のみではあるが、
真に無指向性スピーカーは、何度か聴く機会があり、セッティングを自由に変えてみることもできた。
だからいえるのだが、DDDユニットは、むしろ部屋の影響を受けにくい。

過去のオーディオの常識にとらわれていると、そうは思えないことだろうが、事実だ。

Date: 2月 26th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その7)

LS5/1をみていくことではっきりしてくるのは、指向特性を、
LS5/1以前のスピーカーシステム以上に重要視していることだ。

周波数特性が、振幅特性だけでないことは、別項で書いた。
位相特性も関係してくる。
スピーカーシステムにおいては、そこに指向特性も大きく関係してくる、といってもいいだろう。

無響室でスピーカーシステムの正面軸上では周波数特性に、ほとんど指向特性は関係していない。
けれど、われわれがスピーカーシステムを設置する部屋は、どんなに響きの少ないデッドな部屋でも、
無響室とはまったく異る空間である。
そこに置いて鳴らす以上は、周波数特性に関係してくる項目のひとつとして、指向特性は決して無視できない、と
BBCモニターの開発陣は、考えたように私は思う。

LS5/1が開発され、最初のモデルが登場したのは1958年ごろ。
すでにステレオ録音は登場していた。
このこともLS5/1の指向特性重視の設計に関係しているように思っている。

Date: 2月 23rd, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その6)

ウーファーの開口部を横幅の狭い四角にすることで、
トゥイーターとのクロスオーバー周波数附近の指向特性を改善する手法を見つけ出したハーウッドが、
1976年に設立したハーベスのスピーカーシステムには採用していない。

ハーベスの最初スピーカーシステム、Monitor HLはクロスオーバー周波数は2kHzだが、
ウーファーの口径は20cm。たいてい、この口径の有効直径は18cmを切る。
つまり開口部を四角にすることで、指向特性を改善する必要性がほとんどない、からだ。

ウーファーをフロンドバッフルの裏側から取りつけることに、
ウーファーの前にいかなるものであろうと置けば、音が悪くなる、という理由をつける人がある。

裏側から取りつけて、しかも開口部がウーファーの振動板より狭く、形も四角ということになると、
よけいに音が悪くなりそうだという人がふしぎではない。

でも必ずしもデメリットばかりではなく、
指向特性の改善のほかにも、ウーファーのフレームからの輻射音を大幅に低減できる。
またLS5/1ではエッジ部分もほとんど隠れているため、この部分からの輻射も減らせる。

ウーファーのフレームからの輻射音が、振動板が動くことによって音が鳴りはじめる前に放射されていることは、
1980年代にダイヤトーンが解析をして発表していることからも明らかである。

ウーファーをバッフルのどちら側からとりつけるかは、実際に耳で判断すればいいこと。
どんな方法にも、メリットとデメリットがあるわけだから、何を望むのかを明確にすることのほうが大切である。

Date: 2月 23rd, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その5)

セレッションのHF1300は、正確に言えばドーム型トゥイーターとは呼びにくい。
見た目はたしかにドーム型のようだが、振動板の形状は、いわゆるドーム状ではなく、鈍角の円錐状に近い。
材質は、合成樹脂という記述も見かけるが、山中先生によるとアルミ合金製、とのこと。

この振動板の前面に、音響負荷の役割をもつディフューザーを置き、
振動板の固有振動の抑制と高域の指向特性の改善を図っている。

現在、似た構造のトゥイーターは、おそらくないと思う。

このHF1300を、LS5/1は2個使っている。
ただ単純に並列に接いでいるわけではなく、3kHz以上では、1個だけロールオフさせている。
とうぜん、高域補整のない、一般のパワーアンプで鳴らすと高域はゆるやかに減衰してゆくかたちになるが、
高域補整しない音を聴いてみると、じつは意外にも聴ける。

LS5/1のウーファーは38cm口径のグッドマン製。
1.75kHzのクロスオーバー周波数だから、38cm口径よりも30cm口径のウーファーの方が有利なのでは?
と思いがちだが、38cm口径の方が高域特性に優れているから、の採用理由だときいている。

ウーファーはフロントバッフルの裏側から取りつけられている。
しかもバッフルの開口部は通常の円ではなく、四角。
LS5/1Aを実測したところ、横幅は18cmだった。ウーファーの左右端はバッフルによってやや隠れる形になる。
縦はもうすこし長くとられているが、ウーファーのエッジはほとんど隠れてしまう。

この四角の開口部は、クロスオーバー周波数附近の指向特性を改善するためであり、
LS5/1の開発中に、開発の中心人物であったハーウッド(のちのハーベスの創設者)が気づいたもの、とのこと。

この手法は、チャートウェルのLS5/8まで続いていたし、
スペンドールのBCIII、SAIIIのウーファーも、LS5/1ほどではないにしても、左右は多少隠れている。

実際に測定してみると、60度での効果はあまりないようだが、
30度までの範囲であればはっきりと水平方向の指向特性の改善が示される、ときいたことがある。

Date: 2月 21st, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その4)

いま入手できるスピーカーユニットは、なにも新品、現行製品に限るというわけではない。
少々の根気があれば、良好なモノが見つけられる可能性のある製造中止のユニットも含めて、のことだ。

だから、LS5/1をいまつくるとしたら、大きくふたつある。
ひとつは、あくまでも現行のスピーカーユニットのみで構成するということ。
もうひとつは、現行・製造中止に関係なく、入手できそうなユニットであれば採用するということ。

最初の現行のスピーカーユニットだけで、というのが、実はけっこう難しい。

LS5/1の良さを、なんとか再構築してみたいと思い、
各国のスピーカーユニットの製造メーカーのウェブサイトをみてまわっているけど、
なかなかセレッションのHF1300のかわりになるようなユニットは、ない。

LS5/1のウーファーとトゥイーターのクロスオーバー周波数は1.75kHz。
トゥイーターはドーム型だから、現在のスピーカーシステムの一般的な値からすると、意外に低い。

おそらくHF1300の数字は、1.3kHzから使えるということだと思う。
それでいて十分な高域まで延びていること。

いま入手できる現行製品のドーム型トゥイーターだと、比較的口径の大きなもので25mm、
たいていのユニットはさらに小さい。
といってもうすこし大きい口径のものとなると、いきなりスコーカー用となってしまい、
逆に大きくなってしまう。

HF1300は38mm口径のダイアフラムを採用している。
だから、このトゥイーターを採用した他のスピーカーシステム、
たとえばスペンドールのBCII、BCIII、B&WのDM4などは、
HF1300の上にスーパートゥイーターを追加している。

決して20kHzまで高域がきれいに延びているトゥイーターではない、が、
私の好きなイギリスのスピーカーには、たいてい、このHF1300がついている。

Date: 2月 20th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その3)

手応えを感じていた。

スピーカーシステム本体だけでなく、パワーアンプのほうが、さらにくたびれていた。
時間をかけて、きちんと手入れをしていけば、もっと素晴らしい、美しい音を鳴らしてくれる……。

でもその期待もしばらくして、アンプが片チャンネル、低域発振しはじめて、
さらにウーファーも片チャンネル、ボイスコイルが断線したようで、まったく鳴らなくなった。

オーディオに関心のない人にとっては、わずか数ヵ月の音のために、
40万円という出費は、馬鹿げたものでしかないだろう。

たしかに高い買い物だった。
しかも、その頃は仕事をしていなかったから。

それでもLS5/1が聴かせてくれた音、
聴かせてくれたであろう音を想像すると、
自分のモノとして鳴らしてよかった、と思えてくる。

LS5/1というスピーカーシステムを、もっともっと詰めていけば、
どこまでの音を鳴らしてくれるのか、そういう想いが、そのときからどこかにくすぶっている。
そして、いつかは、LS5/1をふたたび手にしよう、それも今度は、自分の手でつくって、だ。

LS5/1は製造されて50年以上、KEFのLS5/1Aにしても、40年以上(50年近い)経過している。
もう程度のいいモノを見つけてくるのは、とても困難だし、
使われているユニットの作りからしても、これから先、あと何年もつのかも、心もとないところがある。

ならば、いま手に入るユニットを使って、自分でつくってみるしかない。

Date: 2月 20th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その2)

BBCモニターのLS5/1を、無線と実験の売買欄で見つけて、
なんとかお金を工面して購入して、運び込まれた日、その外観を見て、すこし落胆した。

木目のエンクロージュアのはずなのに、目の前にあるスピーカーはグレイの塗装仕上げ。
売買欄には、はっきりとKEFのLS5/1Aとあったが、
実際に届いたのは、KEFがまだ設立される前につくられたLS5/1だった。

その分、年季の入ったモノだった(つまり、けっこうくたびれていた)。
附属の専用アンプも、EL34のプッシュプルであることは同じでも、
製造会社が、リークとラドフォードで違う。

こんな感じだったので、正直、最初の音出しはまったく期待していなかった。
それでも、ぱっと手にとったCDをかける。

ステレオサウンドで働くようになってしばらくして、
試聴室で聴いた瀬川先生のLS5/1Aを聴いたときよりも、印象がいい。

おそらく、私が手にしたLS5/1は1958年ごろ作られたものと思われる。
当時としてはワイドレンジだったLS5/1も、すでにナローレンジのスピーカーのはずだが、
鳴ってきた音は、そんなことはまったく意識させずに、美しいと思わせてくれた。

見た目のくたびれた感じは、目を閉じて聴いていればまったくない。
フレッシュな音、とはいわないけれど、ケイト・ブッシュの声を、こんなにもよく鳴らしてくれるなんて、
なんという誤算だろう、と思っていた。

しかも、この大きさのスピーカーシステムなのに、驚くほど定位がいい。
その定位の良さは、ある種快感でもある。
ふたつのスピーカーの中央に、数歩前に出て、ケイト・ブッシュがいて、歌っている。

これはそうとうにいいスピーカーだ、と確信した。

Date: 2月 19th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その1)

あれこれ妄想しているのは、システム全体の組合せだけではなく、
自作スピーカーに関しても、けっこう、電車の中、とか、映画館での待ち時間、とか、
そういうなんとなく、ぽっかり空いた時間に考えている。

ただ自作スピーカーといっても、私のなかでは、その大半を占めているのは、
BBCモニターのLS5/1を、どうつくるか、だ。

LS5/1は、グッドマンの38cm口径ウーファーと、セレッションのドーム型トゥイーターHF1300を2本、
やや特殊なネットワークで構成したスピーカーシステムで、
あらためていうまでもはなく瀬川先生がもっとも愛されたスピーカーシステムである。

私の、あまりコンディションのいいものではなかったけれど、LS5/1は鳴らしていた時期がある。
それに、ステレオサウンドの試聴室で、瀬川先生の愛器そのものだったKEFのLS5/1Aそのものも聴いている。

このスピーカーシステムの特質については、瀬川先生ほどではないにしても、
ある程度は知っている、と自負している。

だから、いまLS5/1を再現してみたら……、という誘惑が、消え去ることがない。

オリジナル通りのスピーカーユニットは手に入らないし、
もしコンディションのいいものが手に入ったとしても、
それではオリジナルのLS5/1を超えることは、ほぼ不可能といえる。

ならば、同じコンセプトで、他のユニットを使って、独自のLS5/1を作ってみたい、と思い続けている。

LS5/1をつくるうえで、まずぶつかるのがトゥイーターの選定の難しさである。

Date: 2月 19th, 2011
Cate: 4343, JBL

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・その9)

瀬川先生の4ウェイ構想は、
各帯域を受け持つスピーカーユニットをできるだけピストニックモーションの範囲内で使いたいがため、
たいてい、こう受けとめられている。

それは誤解とまではいえないけれど、
瀬川先生の4ウェイ構想は、ピストニックモーションと同じくらい、指向特性を重要視しての結果であることが、
意外に見落されている。

私は、むしろ指向特性の方をより重視されていると受けとっている。

私が読んだ瀬川先生の4ウェイ構想は、
ステレオサウンド別冊のHIGH-TECHNIC SERIES-1に掲載されてたもので、
そこでは指向特性については、それほど触れられていない。
私も、最初読んだときは、ピストニックモーションの追求しての構想だと受けとっていたし、
その後、数年間はそう思い続けてきた。

けれど、瀬川先生の書かれたものを広く読んでいくと、
そのなかでも瀬川先生のリスニングルームの環境について書かれたものを読んでいくうちに、
スピーカーの指向特性をひじょうに重要視されていることがわかってきた。

Date: 2月 7th, 2011
Cate: D44000 Paragon, JBL

パラゴンの形態(その2)

JBLの、以前のトレードマークは、Jに「!」を組み合わせたものだった。
このとき言われていたのは、「!」はドライバーとホーンの組合せを表している、ということ。

下部の点がコンプレッションドライバーで、上の部分がホーンにあたるわけだ。
そんな視点からパラゴンを見ると、375とホーンのH5038Pは、まさしく「!」そのものだ。

しかもパラゴンのウーファーの音道はJの形をしていて、その開口部に375+H5038Pがある。
このふたつが、JBLの以前のトレードマークそのものになっている。

パラゴンのデザインは、子細に見れば見るほど、凄い! と思うしかない。
アーノルド・ウォルフは、きっとトレードマークを意識してパラゴンをデザインしたのだろう。
そうとしか思えない。

スーパーウーファーについて(パラゴンに関しての余談)

仮想音源について考えると、JBLのパラゴンをマルチアンプで、
デジタル信号処理で3つのユニットの時間差を補整して鳴らすのは、果してうまくいくのだろうかと思ってしまう。

パラゴンではウーファーいちばん奥にある。しかも低音のホーンは曲っている。
もうパラゴンを聞いたのはずいぶん昔のことで、しかもまだハタチそこそこの若造だったため、
音源がどのへんにできているかなんて、という聴き方はしていなかった。

低音の仮想音源は、高音用の075の設置場所のすこし手前であたりにできるのだろうか。
低音のホーンはこのへんでカーブを描いている。

そして中音は中央の大きくカーブした反射板をめざすように設置されている。
反射板も、中音に関しては、左右チャンネルの音が交じり合っての仮想音源となっているだろう。

高音と中音の各ユニットは近くに位置している。

パラゴンの図面を眺めるたびに、いったいどこにそれぞれの音域の音像は定位するのだろうか、と考えてしまう。
考えるよりも、実際にパラゴンを聴いた方が確実な答えがでるのはわかっている。
でも、いまその機会はないから、こうやってあれこれ考えている。

私の予想では、やはり075の周辺にうまくできるような気がする。
だとすると、パラゴンを、いまの時代に鳴らすことの面白さが、いっそう輝きを増す。

Date: 1月 23rd, 2011
Cate: 4343, JBL

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・その8)

4ウェイ構成のスピーカーシステムで、もっとも重要、と昔からいわれているのは、ミッドバスである。

あえていうことでもないと思うが、ここで言う「4ウェイ」とは、
瀬川先生の提唱されたもの、
JBLの4343、4350などの同じもの、
岡先生のいわれる2ウェイの両端の帯域を拡張したもの、のこと。

スペンドールのBCIIIのように、3ウェイのBCIIIにさらにウーファーを足したもの、とか、
3ウェイにスーパートゥイーターを足したものではなく、ミッドバス帯域に専用のユニットのもつモノのこと。

この種の4ウェイで、なぜミッドバス(中低域)のユニットが重要となるのか。
もちろん、音楽のメロディ帯域を受け持つ、ということもある。
でも、オーディオ的にいえば、
それ以上に、このミッドバスのユニットのみが、40万の法則に従っている、ということだ。

このことはふしぎと誰も指摘していないことだが、他のどんな構成のスピーカーでは、
ウーファーやトゥイーターはもちろん、スコーカーでも、40万の法則を満たすことは、まずできない。
4ウェイのスピーカーシステムにおいて、ミッドバスだけが、そうである。

40万をミッドバスの下のカットオフ周波数300Hzで割れば、上限は約1.3kHzになる。
ほぼ4343のミッドバス(2121)の受持帯域に重なる。

このことに気がつけば、瀬川先生がフルレンジからスタートされ、ユニットを段階的に足していくことで、
帯域の拡大を実現されてきたことを、少し違う視点から眺められるようになる。