Archive for 2月, 2015

Date: 2月 28th, 2015
Cate: バッハ, マタイ受難曲

カラヤンのマタイ受難曲(その1)

カラヤン指揮によるバッハのマタイ受難曲は、
ふたつのCDが現在では入手可能である。

ひとつはドイツ・グラモフォンによる1972-73年にかけてのステレオ録音。
もうひとつは1950年のモノーラルのライヴ録音である。

1950年録音は、カスリーン・フェリアーが歌っているので、
アナログディスクでももっていた(ただし音はひどかった)。
CDになってからも購入した(まだこちらの方が音はまともになっていた)。

でもドイツ・グラモフォン盤は持っていないどころか、聴いたことがない。
聴こうと思ったことがなかった。

1970年代のカラヤンに対する、こちらが抱く勝手なイメージとマタイ受難曲との印象が異質な感じがして、
なんとなく聴く気がおきなかっただけが理由である。

けれどクラシック音楽における精神性と官能性、精神的なものと官能的なものは、
実のところ一体であって、不可分のものであることに気づけば、
カラヤンのマタイ受難曲(ドイツ・グラモフォン盤)に対しての興味がわいてくる。

このことは昔から気づいていたのかもしれない。
レクィエム(モーツァルトでもフォーレでもいい)において、
ある種の官能性が稀薄なものに関しては、名演といわれるものであってもさほどいい演奏とは感じてなかったからだ。

Date: 2月 28th, 2015
Cate: 真空管アンプ

真空管の美(その4)

ずっと以前、電気がまだなかったころ、
人類にとっての最初の灯は燃える火であり、
その火の灯に近いのが白熱電球であり、
真空管のヒーターが発する色である。

Date: 2月 28th, 2015
Cate: prototype

prototype(その7)

ダイヤトーンの水冷式のパワーアンプの次に思い出すのは、
ビクターのスタンダードスピーカーシステムである。

このスピーカーシステムは、ステレオサウンド 50号、
岡先生による「オーディオ一世紀 昨日・今日・明日」で取り上げられている。

エンクロージュアの回折効果の影響をなくすために、卵形をしている。
ユニットはコーン型の円錐状の部分を発泡樹脂で充填した平面型の3ウェイ構成。
ウーファーは21cm、スコーカーは5.7cm、トゥイーターは2.6cm口径。

同じ構造の平面型スピーカーはKEFが1960年代に採用しており、
Lo-DもHA10000で同じ構造のユニットを全面的に採用している。

HS10000は平面バッフルに装着しての使用を前提としているのに対し、
ビクターのプロトタイプは、卵形のエンクロージュアが示すように4π空間での設置前提という違いがある。

それからHS10000はスーカーシステム単体として市販されたが、
ビクターのプロトタイプは専用アンプ内蔵の、いわゆるアクティヴスピーカーである。

3ウェイのマルチアンプ構成で、すべてのアンプは定電流駆動、さらにウーファーに関してはMFBもかけられている。
クロスオーバー周波数は550Hz、2kHzで、
デヴァイディングネットワークの前段でディフラクション補正を行っている。

ビクターの発表資料によると卵形エンクロージュアのディフラクションのグラフをみると、
500Hzあたりからなだらかに低域にかけて減衰していく。
この減衰カーヴと反対の特性の補正をかけることで、システム全体の周波数特性をフラットにしている。

ビクターのプロトタイプが登場したころ、
フィリップスは小型スピーカーにMFBをかけたシリーズを製品化していたし、
テクニクスはリニアフォースドライブスピーカーという技術を発表していた。

Date: 2月 28th, 2015
Cate: audio wednesday

第50回audio sharing例会のお知らせ(黄金の組合せ)

3月のaudio sharing例会は、4日(水曜日)です。

テーマを何にしようかと考えていた。
4月のテーマはかなり前から決めていた。
今年の4月の第一水曜日は1日にあたるからだ。
だから五味先生のことを話そうと決めている。

でもその前に3月がある。
来週になればステレオサウンドの最新号が発売になる。
今号の特集はなんだろうと、ステレオサウンドのサイトをみたら、黄金の組合せとあった。

私も「黄金の組合せ」をテーマに書いている。
まだ途中であり、これからも書きつづけていく。
偶然にもダブってしまったから、今回のテーマは「黄金の組合せ」にしたい。

黄金の組合せという表現は、昔ほど目にしなくなっている。
「黄金の」というのが、時代にそぐわなくなってきたからなのだろうか。
それとも黄金の組合せと呼ばれるにふさわしい組合せが生れなくなってきたためだろうか。

オーディオの組合せは、オーディオの想像力だ、と以前書いた。
だからオーディオの組合せはじつに面白い。

けれどその面白さが誌面から伝わってくるからは、必ずしもそうとはいえない。

黄金の組合せはつくるものなのか、それとも発見するものなのか。
黄金の組合せといえるものができたとして、その普遍性はどの程度なのか。
音の鳴ってこない誌面で、黄金の組合せを伝えるのに必要なのはどういうことなのか。

そんなことを話せたら、と考えている。

時間はこれまでと同じ、夜7時です。

場所もいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 2月 27th, 2015
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(その5)

HIGH-TECHNIC SERIES 4が出たのは1979年春。
約一年前のステレオサウンド 44号、45号、46号の特集はスピーカーシステムだった。
実測データも載っている。インピーダンス特性ももちろん載っている。

これらのグラフをみてわかるのは、典型的なバスレフ型の特性を示すスピーカーシステムの方が、
1977年から1978年の時点で少なくなっていることがわかる。

バスレフ型ならではのインピーダンス特性、
共振のふたつの山ができているのは、エレクトロボイスのSentry V、サンスイのSP-L100、
パイオニアのExclusive 2301、アルテックのModel 19、ビクターのS3000ぐらいである。
意外に少ない。

たとえばアルテックの場合、Model 15とModel 19はどちらもバスレフ型なのに、
インピーダンス特性をみるかぎり、バスレフのチューニングの考え方は違っている。
Model 19の開口部は縦に細長い四角、Model 15は円である。

同じ四角の開口部をもつアルテックの612Cと620Aも、
低い方の山はけっこう高くなりそうではあっても、
掲載されているグラフは20Hzまでであり、それ以下の周波数はどうなっているのかははっきりしない。

けれど低い方の山を可聴周波数限界まで下げるという考え方は、瀬川先生の考え方と一致している。
ただ、ここがオーディオの面白いところなのだが、
だからといって瀬川先生の評価が高いのはModel 15ではなくModel 19であったりする。

JBLはL200、L300、4343、4301、4333などがテストされている。
いずれもバスレフ型だが、低域の共振の山はひとつだけである。
この中では4301がいちばん設計が新しく、インピーダンス特性も、
共振のピークは、他のJBLのモデルよりも抑えられていて、密閉型的な特性のようでもある。

サンスイも、SP-L100ははっきりとバスレフ型とわかる特性だが、
同じシリーズのSP-L150はそうではない。

意図的にメーカーはバスレフのチューニングを、
スピーカーの教科書に書かれていることからははずれたところでやっているともいえるわけだ。

Date: 2月 27th, 2015
Cate: 4343, JBL

40年目の4343(その8)

ステレオサウンド 58号の瀬川先生の4345の記事は何度読んだことだろうか。

読んではやっぱり4345の方が音はいいんだな、とか、
でもデザインは圧倒的に4343であるから、なんとか4343の音を4345に近づけることはできないのか。

内蔵ネットワークで鳴らす4345とマルチアンプで鳴らす4343とでは、どうなるのだろうか、
そんな書いていないことを想像するために、何度も読み返していた。

ネットワークについての記述を読んでは、前回書いたように、
4345のネットワーク技術で4343のネットワークが改良されれば、と思ったし、
もう少し現実的なところでは、2405のダイアフラムが、
4345搭載のモノと4343搭載のモノとでは違うとある。

ならば新しい2405のダイアフラムを4343の2405に換装したらどうなるのだろうか。
それからミッドハイの2420も、ダイアモンドエッジのダイアフラムになった2421が、
登場したかまだだったころではあったが、2440は2441へとすでに改良されていた。

2421の登場は確実であった。
このふたつの中高域を受け持つダイアフラムが新型に換装できれば、
ずいぶん4345へと近づくのではないのだろうか。

瀬川先生が書かれている。
     *
♯4343の新しいうちは、♯2405の超高音域が出しゃばりがちなのだが、♯4345ではそのようなことがない。試聴用に聴き馴れたフォーレのヴァイオリンソナタ(グリュミオー/クロスリー=フィリップス9500534/国内盤X7943)の第二楽章。アンダンテ、二短調の艶麗の旋律が相当にいい感じで鳴ってくれる。
     *
こういう音に4343が近づくような気がしていた。
それでも、この文章に続いて、こうも書かれている。
     *
 これはいい、と、少し安心してこんどは大パワーの音を聴いてみる。カラヤンの「アイーダ」。第三面、第二幕凱旋の場。大合唱に続く12本のアイーダ・トランペットの斉奏そして……このきわどい部分が、ほとんど危なげなく、悠揚せまらざる感じで、しかし十分の迫力をもって聴ける。この低音の量感と支えの豊かさは、大口径ウーファー、そして大型エンクロージュアでなくては聴けない。
     *
ここを読むと、やっぱり4345なのか、4343のデザインのままでは4345にはどうしても追いつけないのか……、
とまた少し落ち込んでいた。そんな一喜一憂をくり返しながら読み返していた。

4343のデザインのままで、4345の音が出せるのであれば、
JBLがやっていたはずである。
JBLが4345という、不格好なサイズで出してきたのは、
あのサイズではなければ出せない領域の音があるからなのはわかってはいた。

わかっていたからといって、あきらめられるものではない。

Date: 2月 26th, 2015
Cate: 書く

オーディオにおけるスケッチとは(その1)

このブログを書こうと思い立ったのにはいくつかの理由・きっかけがある。
そのひとつは、川崎先生が毎日スケッチをされているからである。

ならば私はオーディオについての文章を毎日書いていこう、と思ったから、
audio identity (designing)を始めた。

スケッチ(sketch)には、写生(図)、下絵、素描、見取り図、略図といった意味であり、
素描をそこに見つけると、菅野先生の著書「音の素描」のことも考えたりする。

「音の素描」は、いいタイトルだと思う。
だからといって、ここでのタイトルに「音の素描」とつけるほど、ずうずうしくはない。
でも「オーディオの素描」とするのも、「音の素描」がある以上、ためらってしまう。

そうやって書き始めると、
オーディオのスケッチといえるものは、どういうものであるのか。
どういう行為を指すのだろうか、ということを考えるようになってきている。

毎日書いている。
けれど、まだオーディオにおけるスケッチがどういうものなのか、
まだ言葉にできるほどはっきりと見えてこない。

Date: 2月 26th, 2015
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(密閉型について)

何度かオーディオ雑誌や個人サイトで目にしたことがあるのが、
それまで使ってきたスピーカーシステムを挙げて、
密閉型ばかり(もしくは中心に)使ってきた、という記述である。

たしかにそこに挙げられているのは、バスレフ型ではないという意味では密閉型である。
けれどそれらが、いわゆるアコースティックサスペンション方式ばかりだと、
少しばかり異を唱えたくなる気持がわいてくる。

アコースティックサスペンションと、
スピーカーユニットの口径に対して十分すぎる内容積を確保した密閉型とを、
いっしょくたに考え、どちらのスピーカーも密閉型と呼ぶのは少し安易ではないだろうか。

どちらのタイプの密閉型も使ってきた人が、
ずっと密閉型ばかり使ってきた(鳴らしてきた)といわれるのと、
アコースティックサスペンションばかり使ってきた人が、
密閉型ばかり使ってきたというのとでは、読み手としては同じに受けとることはできない。

それでもブランド名と型番を挙げて、そう書いてあればまだいい。
どんな密閉型のスピーカーなのかを挙げずに、
ただ「密閉型ばかりを使ってきた」とあっても、
その密閉型が、アコースティックサスペンションの密閉型なのか、それとも違うのか。
そこがはっきりしない。

Date: 2月 25th, 2015
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(その4)

ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4を読む以前にも、
スピーカーの自作関連の本は何冊か読んでいた。
バスレフの設計についても一通りの知識はもっていたけれど、
私にとってのバスレフ型の考え方の基本は、HIGH-TECHNIC SERIES 4の瀬川先生の考え方である。

HIGH-TECHNIC SERIES 4から約十年後、
ヤマハからAST方式のスピーカーシステムが登場した。
専用アンプ込みでのバスレフ方式であり、
AST1の音を聴いて、技術解説を聞いて、バスレフ型の考え方を修整したともいえる。

AST1以前にも、ダイヤトーンのDS503でバスレフポートの材質を変えた音を聴いている。
寸法は同じでも材質が変れば、想像よりも音の変化は大きい。
紙製のバスレフポートでも、エンクロージュア内の開口部の支持の仕方や、
その部分のダンプによっても音が変ることは体験していた。

とはいえ、これらは根本的なバスレフ型の考え方を変えるものではなく、
バスレフ型のチューニングのテクニックとして、であった。

ヤマハのAST1は、バスレフ型の動作とは、本来こういうものだったのか、という驚きがあった。
AST1以前のバスレフ型は、バスレフ型本来の動作とは決していえないものだったからこそ、
瀬川先生がHIGH-TECHNIC SERIES 4に書かれたことが聴感上好ましい結果を生んでいた──、
ともいえるのではないか。そう考えるようにもなっていた。

Date: 2月 25th, 2015
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(その3)

瀬川先生は、
《エンクロージュア自体では共振のできることを意図的に避けることが、
聴感上の低音を自然にするひとつの手段ではないかと思う》とされている。

クリティカルな設計のバスレフ型のインピーダンス特性は、
良く知られるようにピークがふたつできる。
エンクロージュアの容積が小さすぎ、もしくはポートが短すぎると、
ふたつの山は高域へとスライドし、ふたつの山の高さも同じではなくなり、
高い周波数のピークが大きく、低い方のピークは抑えられる。

エンクロージュアの容積が大きすぎ、もしくはポートが長すぎると、
低い周波数へとスライドする。山の高さはふたつとも低くなり、
低いほうのピークはかなり抑えられている。

バスレフ型では容積が同じで、ポートが短いと低域がやや盛り上り、
適切なポートの長さよりも減衰し始める周波数が高くなる。
反対に長すぎると減衰がはじまる周波数はもっとも高く、しかも段がつく周波数特性となる。

バスレフポートが同じで内容積を変化させた場合も、ほぼ同じ変化をする。
つまり内容積を大きくし、バスレフポートを長くするということは、
瀬川先生も書かれているように、
《バスレフの二つの共振の山のうち、高い方をできるだけおさえ、
低い方を可聴周波数限界近くまで下げるという考え方が、
わたくしの実験では(この例にかぎらず)概して好ましかった》ということになる。

だから瀬川先生は、こう続けられている。
《ともかく、バスレフは難しく考えなくてよい。
それよりも、むしろ積極的にミスチューニングしよう
(本当は、いったい何がミスなんだ?と聞きかえしたいのだが)。》

むしろ瀬川先生はエンクロージュアのプロポーション(寸法比)を重視されている。
エンクロージュアの幅・高さ・奥行きは各辺の比が、
互いに割り切れないような寸法比にすることをすすめられている。

Date: 2月 24th, 2015
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(その2)

HIGH-TECHNIC SERIES 4はフルレンジユニットの一冊であり、
瀬川先生は「フルレンジユニットを生かすスピーカーシステム構成法」を担当されている。

その中の見出しで「位相反転型の教科書に反抗する」というのがある。
ここでは当時秋葉原にあったオンキョーオーディオセンターで行なわれた実験を基にして書かれている。

オンキョーの20cm口径のフルレンジユニットFRX20を、
エンクロージュアの材料、形状、構造やサイズ、プロポーションなどを変えての、かなり大がかりな実験である。
「位相反転型の教科書に反抗する」の章では、
オンキョーオーディオセンターでの実験のデータも紹介されている。

これは興味深いデータであったし、
スピーカーシステムは実際のリスニングルームに設置して聴くものである、という、
ごくあたりまえのことを改めて考えさせられる内容でも合った。

FRX20を使った実験では、内容積が65リッター、85リッター、150リッターの三種類のエンクロージュア作り、
まず密閉型で聴き、その後、バスレフポートの長さを増していくというもの。
その結果を書かれている。
     *
 これを実際に、約50名のアマチュア立会いでヒアリングテストしたところ、箱を最大にすると共にポートを最も長くして、旧来のバスレフ理論からは最適同調点を最もはずしたポイントが、聴感上では音に深みと幅が増してスケール感が豊かで、とうてい20センチのシングルコーンとは思えないという結果が得られた。
     *
実測データとして、
それぞれの内容積で、密閉型、ポートの長さを変えたバスレフ型の周波数特性とインピーダンス特性が載っている。

測定はヒアリングテストの前に行なわれている。
オンキョーのエンジニアからは、ミスチューニングで好ましくない、と意見がついてきた特性、
内容積150リッターで、ポート寸法130φ×365mmの二本の組合せが、
聴感上もっとも好ましい結果となっている。

Date: 2月 24th, 2015
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(その1)

スピーカーのエンクロージュアにはいくつかの種類(構造)がある。
スピーカーの教科書に載っているのは、まず密閉型とバスレフ型がある。
その他にホーン型や音響迷路型と呼ばれるものなど、いくつかがある。

とはいえ、市販されている大半のスピーカーシステムは、密閉型かバスレフ型が多い。
ずっと昔から、密閉型こそが良質の低音を再生してくれるエンクロージュアと主張する人もいれば、
いやバスレフ型こそが自然な低音を再生してくれると主張する人もいる。

どちらにも言い分があって、どちらかが全面的に正しいとはいえない。

岩崎先生はプレーンバッフル(平面バッフル)かホーンバッフル、
それに密閉型を推奨されることが多かった。

バスレフ型に関しては、どちらかといえば否定的なことを書かれることもあった。
とはいえ、岩崎先生の推奨する密閉型は、かなりの内容積をもつモノであるようだ。

密閉型を支持する人の中には、バスレフ型はバスレフくさい音ががする、という人がいる。
いわゆるボンボンという低音の鳴り方をするスピーカーのことを、バスレフくさい音という。

バスレフ型は、スピーカーの教科書には密閉型よりも設計が難しいと書いてある。
使用するスピーカーユニットの細かな特性がわからなくては最適なバスレフ型の設計はできない──、
そんなふうに書いてあり、たいていの場合、難しい数式が並んでいる。

もっとも最近ではバスレフ型のそういった計算をやってくれるウェブサイトもあり、
パソコン、インターネット普及以前にくらべてずっと簡単になっているともいえる。

けれど瀬川先生は、以前、バスレフ型でも、
ほとんど計算しないでも、カンどころをはずさなければ、聴感上十分に良い音質が期待できる、
とステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4に書かれている。

Date: 2月 23rd, 2015
Cate: ヘッドフォン

ヘッドフォン考(その4)

ヘッドフォン、イヤフォンをスピーカーの代用品と見做す人はいまもいるようだ。
満足に音を出せる部屋をもたない者がヘッドフォンに凝るんだ、と、そういう人はいいがちだ。

自由にいつでも好きな音量で聴ける環境をもっていればヘッドフォンで聴く必要は、
ほんとうにないのだろうか。

1990年夏に骨折して、一ヵ月半ほど入院していた。
当時はiPodやiPhoneなんてなかった。
ウォークマンは持っていなかったから、音楽を聴けるモノは何ももたずに入院していた。

一ヵ月ほどは音楽を聴きたいという欲求はそれほど強くなかった。
順調に回復したころから、松葉杖で病院内を歩いていると、
ふと気づくと口ずさんでいる曲があった。

ハイドンのピアノソナタだった。
グールドの弾くハイドンのソナタであった。
グールドによる軽快なリズムで進行するハイドンのピアノ曲が、無性に聴きたくなっていっていた。

最近、このグールドのハイドンをイヤフォンで聴いた。
なんといい感じで鳴ってくれるんだろうか、と感じていた。

このハイドンが、グールドにとってはじめてのデジタル録音である。
聴いていると、これほどヘッドフォン、イヤフォンの良さを聴き手に認識させる演奏はないようにも感じる。

一言で表現すれば、マスからの解放なのかもしれない。

Date: 2月 23rd, 2015
Cate: 4343, JBL

40年目の4343(その7)

ステレオサウンド 58号に4345の記事が載っている。
瀬川先生生が書かれている。
そこにこうある。
     *
JBLのLCネットワークの設計技術は、L150あたりを境に、格段に向上したと思われ、システム全体として総合的な特性のコントロール、ことに位相特性の補整技術の見事さは、こんにちの世界のスピーカー設計の水準の中でもきめて高いレヴェルにあるといえ、おそらくその技術が♯4345にも活用されているはずで、ここまでよくコントロールされているLCネットワークに対して、バイアンプでその性能を越えるには、もっと高度の調整が必要になるのではないかと考えられる。
     *
4343と4345の直接比較による試聴記事。
瀬川先生の文章を何度もくり返し読んだ。
読めば読むほど、4345のプロポーションの悪さが、
自分のモノとしてときにはどう感じるのだろうか。
買えるあてなどなかったけれど、そんなことを想像していた。

4343と4345が並んでいる写真もあった。
4343のままで、4345に近い音がしてくれれば、とも何度も思いながら読んでいたから、
4345のネットワークを4343に換装したらどうなるのだろうか、
JBLは4343の次のモデルで4345のネットワークと同じレベルのネットワークを搭載しないのか、
そんなことも思っていた。

4343は4344になった。
4344は4343の後継機というよりも、私にとっては4345のスケールダウンモデルにしか見えなかった。
4344のネットワークは、発表された回路図をみるかぎりでは、4345のネットワークとまったく同じである。

それならば4345のネットワークはそのまま4343に使っても、いい結果が得られる可能性が高いのではないか。
このころから、私の4343計画は始まっていた、といえる。

Date: 2月 23rd, 2015
Cate: 4343, JBL

40年目の4343(その6)

記事のタイトルが「名作4343を現代に甦らせる」ではなく、
「4343のユニットを現在に使う」とか「4343のユニットの現代的再構築」といった感じであれば、
何も書かなかった。

あくまでも「名作4343を現代に甦らせる」とあったからこそ、ここに書いている。

あれだけの数売れたスピーカーシステムだから、いまも所有されている人はけっこう多いし、
あのころ学生で買えなかった人が、中古の4343を手に入れていることも少なくない。

4343がいまもメインスピーカーである人、
メインスピーカーは別にあるけれども、4343が欲しかったから、という人、
いろいろな人がいる。

その人たちは、いまどういうふうに4343をみているのだろうか。
2016年には誕生40年に迎えるスピーカーシステムである。

いまもメインスピーカーとして使えるだけの実力をもつともいえるし、
細部を検討していくと、部分的にはどうしても……、と思えるところがないわけではない。

実際に行動にうつすかどうかは別として、
4343ユーザーなら、来年の4343誕生40周年を迎えるにあたって、
4343をどうしようか、ということを考えてみてはいかがだろうか。

徹底的にメンテナンスして、できるかぎりオリジナルの状態を保ったままで、これからも鳴らしていくのか。
オリジナルといっても、厳密な意味では発売当時の状態には戻せない。
コーン紙の製造工場も変っているし、工場が同じだとしても、
当時と同じ森林からパルプの材料となる木材を切り出しているわけではない。

細かくみていけばいくほど、1976年当時のオリジナルの状態に戻すことは、はっきりいえば不可能である。
オリジナル度に関しては、本人がどの程度で満足するか、でしかない。

ならば40年を機に手を加えてみる案はどうだろうか。
ステレオサウンドの記事のようにユニットだけを取り出して再利用して、
4343とはまったく別モノのスピーカーシステムに仕上げるのも考えられる。

私がここで書いていきたいのは、4343のアイデンティティを維持したまま、
どこまでやっていけるかである。