Archive for category TANNOY

Date: 10月 25th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その29)

40年以上前のステレオサウンドは、測定をわりとよく行っていた。
そのころのスピーカーの測定項目には、
ピンクノイズとアナライザーによる残響室での周波数特性があった。

ステレオサウンドでは、これをトータル・エネルギー・レスポンスとして掲載していた。
これが実に興味深い。
当時もそうだったが、いまみてもそうである。

測定の方法とデータの読み方にもあるのだが、
残響室での測定のため波長の長い低音に関しては、
拡散音場がえられなくなるため、200Hz以下の特性は、あくまでも参考程度とある。

それでも200Hz以上の特性をみて、試聴記をみると、
帯域バランスと、このトータル・エネルギー・レスポンスはかなり一致している。

正弦波で測定する、無響室での周波数特性は、
良好な特性を示しているスピーカーシステムであっても、
試聴した印象ではそうでないことが、その当時はけっこうあった。

試聴記の印象からイメージする周波数特性と一致するのは、
トータル・エネルギー・レスポンスであった。

ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4では、
フルレンジユニットの測定が行われている。

タンノイのHPDシリーズの測定データも、もちろん載っている。
37機種のフルレンジユニットのなかで、
トータル・エネルギー・レスポンスがもっとも優秀なのは、タンノイである。

Date: 10月 18th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY, バスレフ(bass reflex)

TANNOY Cornetta(バスレフ型エンクロージュア・その2)

1979年にステレオサウンドから出たHIGH-TECHNIC SERIES 4、
「魅力のフルレンジスピーカーその選び方使い方」に、
瀬川先生の「フルレンジスピーカーユニットを生かすスピーカーシステム構成法」がある。

いくつかの項かあって、その一つに「位相反転型の教科書に反抗する」というのがある。
     *
 位相反転型は、いまも書いたように、古くから多くの参考書、教科書で、難しい方式といわれてきた。だがそれは、あまりにもこのタイプの古い観念にとらわれすぎた考え方だ。こんにちでは、スピーカーユニットの作り方や特性が、それらの教科書の書かれた時代からみて大きく変っている。だいいち、メーカー製でこんにち定評のある位相反転型のスピーカーシステムの中に、旧来の教科書どおりに作られているものなど、探さなくてはならないほどいまや数少ない。位相反転型の実物は、大きく転換しているのだ。
 さて、ここで位相反転型エンクロージュアの特性を、多少乱暴だが概念的に大づかみにとらえていただくために、図1から6までをご覧頂く。あくまでも概念図だから、ユニットの設計が大きく異なったりすればこのような特性にはならないこともあるが、一応の目やすにはなる。
 古くからの教科書では、エンクロージュア、ポート、ダクトにはクリティカルな寸法があり、ユニットの特性に正しく合わせなくては、特性が劣化する、とされていた。そして、右の三要素がそれぞれ小さい方にズレると低音の再生限界が高くなりピークができて、低音のボンボンといういわゆる「バスレフの音」になる。また、三要素が大きい方にズレると、f0附近で特性に凹みができて、低音館が不足する……といわれていた。
 意図的に低音の共振を強調して作られた有名な例に、JBLのL26がある。明らかに低音にピークが出ているが、この音を「バスレフ音」とけなした人はあまり知らない。むしろ、とくにポップス系における低音のよく弾む明るい音は、多くの人から支持されている。
 反対に、エンクロージュアを思い切って大きくしたという例は、商品化が難しいために製品での例は知らないが、前に述べたオンキョー・オーディオセンターでの実験で、おもしろいデータが出ているのでご紹介する。
 図7は、同社のFRX20ユニットをもとに、内容積がそれぞれ65リッター、85リッターおよび150リッターという三種類の箱を作り、それを密閉箱から次第にダクト(ポート)を長さを増していったときの特性の変化で、前出の図1や3、4に示した傾向はほぼ同様に出ている。
 これを実際に、約50名のアマチュア立会いでヒアリングテストしたところ、箱を最大にすると共にポートを最も長くして、旧来のバスレフの理論からは最適同調点を最もはずしたポイントが、聴感上では音に深味と幅が増してスケール感が豊かで、とうてい20センチのシングルコーンとは思えないという結果が得られた。
 ヒアリングテストをする以前、無響室内での測定データをみた段階では、測定をしてくださったエンジニア側からは、図7(C)の点線などは、ミスチューニングで好ましくない、という意見がついてきた。しかし、これはあくまでも無響室内での特性で、実際のリスニングルーム内に設置したときは、すべてのエンクロージュアは、壁や床の影響で、概して低音が上昇することを忘れてはいけない(例=図8)。この例にように、エンクローシュア自体では共振のできることを意図的に避けることが、聴感上の低音を自然にするひとつの手段ではないかと思う。とくに、バスレフの二つの共振の山のうち、高い方をできるだけおさえ、低い方を可聴周波限界近くまでさげるという考え方が、わたしくの実験では(この例にかぎらず)概して好ましかった。
 ともかく、バスレフは難しく考えなくてよい。それよりも、むしろ積極的にミスチューニングしよう(本当は、いったい何がミスなんだ? と聞きかえしたいのだが)。
 参考までに、G・A・ブリッグスが名著「ラウドスピーカー」の巻末に載せていたバスレフのポートと共振周波数の一覧表をご紹介しておく(図9)。この本はもともと、一般の計算などにが手の愛好家向けの本だから、なるべつ簡単に説明しようという意図があるにしても、日本の教科書のようにユニットのQだのmだのに一切ふれていないところが何ともあっけらかんとしていておもしろい。そして現実にこれで十分に役に立ち、音の良い箱ができ上るのである。
     *
図について簡単に説明しておくと、
図1は、位相反転型エンクロージュアの箱の容積の大小
図2は、位相反転型エンクロージュアの開口の大きさを変えた場合の傾向
図3は、位相反転型エンクロージュアのダクトの長さの変化と特性器傾向
図4は、位相反転型エンクロージュアのインピーダンス特性
図5は、ドロンコーンの質量の大小と特性の傾向
図6は、吸音材の量と低域特性
図7は、エンクロージュア容積と低域特性の関係
である。
図1から6までは、スピーカーの教科書にも載っていることが多い。
図7は、実測データのグラフである。

Date: 10月 16th, 2020
Cate: Autograph, TANNOY, バスレフ(bass reflex)

TANNOY Cornetta(バスレフ型エンクロージュア・その1)

コーネッタはバスレフ型エンクロージュアである。
コーネッタの記事を読めば、
コーネッタは、バスレフ型としてはミスチューニングと思われる方もいるだろう。

ティール&スモール(Thiele & Small)理論でシミュレートして設計すれば、
もっと小型のエンクロージュア・サイズになるはずだ。

コーネッタの試作のために、レクタンギュラー型のエンクロージュアがある。
W53.0×H68.0×D45.0cmのエンクロージュアである。

このエンクロージュアのポート長は165mmである。
ステレオサウンド 38号に周波数特性が載っている。
典型的なバスレフ型の特性である。
約45Hzあたりまでほぼフラットで、それ以下ではレスポンスか急激に低下する。
インピーダンスカーヴも、約45Hzにピークがあり、約40Ωとなっている。

このレクタンギュラー型エンクロージュアをへースに、
井上先生はコーナー型エンクロージュアの設計にとりかかられている。

コーナーにスピーカーを設置することで、低域のレスポンスは、
無響室の特性よりも、理論的には最大で18dB程度上昇する。

あくまでも、この数値は理論値であって、
現実の壁と床は、この理論値が要求する理想状態からは、ほど遠いため、
現実の上昇は、8〜12dB程度だといわれている。

この数値にしても、かなりしっかりした壁と床があってのものであり、
どちらかが、もしくは両方ともがそうでない造りであれば、低域上昇はもっと低くなる。
それでも無響室よりも、確実に低域のレスポンスは数dBは上昇する。

そのためコーナー型としての設計では、この上昇分を考慮して、
低域に向ってなだらかに下降するレスポンスが求められる。

たとえば1980年ごろに輸入されていたアリソンのスピーカーがある。
トールボーイのコーナー型だった。

このアリソンの広告には、
一般的なスピーカーの無響室での周波数特性とコーナーに設置したときのそれ、
さらにアリソンのスピーカーの、上記の条件で周波数特性、
計四つの周波数特性グラフが載っていた。

Date: 10月 14th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(music wednesdayでの音・その6)

喫茶茶会記のアルテックならば、そんなことを心配する必要はない。
能率にしても、コーネッタよりも7dBか8dBほど高い。
音量に関しては余裕で鳴らしきってくれる。

それでもコーネッタで鳴らしてよかった、と思うのは、
聴き手としての冒険だけでなく、鳴らし手としての冒険が、
10月7日の夜にはあったからだ。

アルテックを鳴らしても、鳴らし手としての冒険はあっただろうが、
アルテックは喫茶茶会記のスピーカーであって、
コーネッタは私のスピーカーであるということも違う。

それ以上にスピーカーとしての性格が、これほど違うのだから、
鳴らし手としての冒険の意味は違ってくる。

この違いを、こまかく説明しようかなとおもったが、
言葉を尽くしても、こればかりは自分で鳴らしてみないと理解してもらえないような気がする。
それに私の独りよがりな冒険なのかもしれないから、
舌足らずなのはわかっているが、ばっさりと省く。

とにかく10月7日は、野上さんと赤塚さんの選曲で、私は私だけの冒険ができた。
二人には感謝している。

赤塚さんは、
「細胞が生れ変わるようなスゴい音体験だった!!」という感想を、facebookに寄せてくれた。

Date: 10月 13th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(music wednesdayでの音・その5)

コーネッタとケイト・ブッシュの相性(その6)」で書いているように、
9月のaudio wednesdayの時に、HPD295Aのマグネットカバーを外している。

今回外していてよかった、と実感したのは、音質面のことよりも、
音量に関することだ。

10月のaudio wednesdayでは、鳴らす曲ほぼすべて、けっこうな音量だった。
鳴らしている本人が、この音量で、
これだけ危なげない音を、タンノイが鳴らすのか、と感心してしまうくらいの音量だった。

おそらくHPD295Aの前のモデル、IIILZだったら、これだけの音量で鳴らすのは無理があったろう。
HPD295Aを搭載していても、小型ブックシェルフのイートンでも、ここまでは鳴らなかったはずだ。

私のところからは、今回はマッキントッシュのパワーメーターが見えなかったが、
見えていた人によると、かなり振れていた、とのこと。

そうだろう。
HPD295Aは、能率が低い。
それでもいまどきのスピーカーとしては、高能率ということになるようだが、
私の世代の感覚では、低能率のスピーカーであり、
どれだけのパワーが必要なのかは、これまで三回鳴らしているので、おおよそはわかる。ら、

しかも、これまでの三回よりも平均音圧は高かったのだから、
そうとうにパワーが入っていたはずだ。

だからこそ、マグネットカバーを外していてよかった。
カバーをつけた状態では、磁気回路の熱がこもるばかりである。
そうなってしまうと、ボイスコイルの温度はさらに上昇することになり、
上昇すれば、それに比例してボイスコイルの直流抵抗が増えていく。

そうなると、よけいにロスが増えてしまい、
どんなにパワーを入力しても、音圧が上昇しにくくなる、という現象がおこる。

四時間、かなりの音量で鳴らしていたのだから、
マグネットカバーがついていたら、途中で音が弛れてきたことだろう。

Date: 10月 11th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(music wednesdayでの音・その4)

コーネッタは、ずっと以前に聴いている。
それだけでなくタンノイのスピーカーは、かなり数聴いている。
タンノイに関するいろんな文章も読んでいる。

そうやって、タンノイのスピーカーというものに対するイメージが、
なんとなくではあっても私の中にあった。

ほとんどのオーディオマニアがそうであろう、と思う。
そのイメージは人それぞれであるから、
共通するところもあれば、そうでないところもある。

そういうイメージがあるからこそ、最初に鳴らす曲を選ぶ(選べる)わけだ。
そして、その時鳴ってきた音から、次にかける曲を選んでいく。

「コーネッタとケイト・ブッシュの相性」で書いているように、
コーネッタがそれほどうまくケイト・ブッシュが鳴ってくれるとは期待していなかった。
けれど鳴らしてみると、そうではなかった。

それどころか発見があった。
とはいえ思い切って、最初からケイト・ブッシュを鳴らしたわけではない。
コーネッタから鳴ってくる音を慎重に聴きながらのケイト・ブッシュだった。

音が鳴ってくると、すっかり忘れてしまうことであっても、
曲を選ぶ際には、さまざまな知識が頭を擡げてくることがある。

選曲の段階で、完全に頭をカラッポにすることは、いまはまだできないでいる。
けれど、今回のmusic wednesdayでは、私の選曲は一曲もない。

すべて、野上さんと赤塚さんの選曲である。
野上さんと赤塚さんが、私と同じようなオーディオマニアであれば、
その選曲は読めるところもある。

けれど違う。特に赤塚さんは違う。
コーネッタがどういうスピーカーなのか、タンノイがどうなのかは、
赤塚さんの頭のなかにはなかったはずだ。

それでも、最初に「EDMとか、大丈夫ですか」といわれた。
選曲に遠慮はなくしてほしかったので、大丈夫と答えた。

Date: 10月 8th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(music wednesdayでの音・その3)

選曲という冒険。
このことを実感した10月7日の、四時間の夜だった。

音の世界は茫洋だ。
音の世界だけにかぎったことではないのだろうが、
音の世界は茫漠だ。

茫洋か、茫漠か。
どちらにしても、その音の世界を渡っていくためには、
乗り物が必要となる。

ここでは乗り物とは、オーディオ機器である。

乗り物だけでは、行き先を示してくれる、そして照らしてくれる存在がなければ、
人は先に進めないだろうし、
たとえ進んだとしても、同じところをぐるぐるまわっているだけだったり、
正反対の方向に歩み出したりする。

行き先を示してくれる、照らしてくれるのは、音楽。
ここでの音楽とは、録音された音楽である。

別項『戻っていく感覚(「風見鶏の示す道を」)』で書こうとしているのは、
そういうことである。

オーディオ機器がある、レコード(録音物)もある。
これらが揃えば冒険ができるのか。

何度もしつこいぐらい書いているが、「音は人なり」である。
オーディオからの音が、往々にして聴く音楽の傾向に影響する。

その音は、それを鳴らす人そのものだ。
ここにオーディオのジレンマがあるように感じている。

冒険しているつもりなのではなく、
音の世界を冒険していくために、野上さんと赤塚さんにDJをお願いした、ともいえる。

8月下旬に、二人にお願いした。
その時は、音の冒険ということなんて、まったく考えていなかった。

それに昨晩のスピーカーをコーネッタではなく、
アルテックにしていたら、音の冒険に必要なこととして、
信頼できる、尊敬できる音楽の聴き手の存在について考えることはなかっただろう。

Date: 10月 8th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(music wednesdayでの音・その2)

7月からの三ヵ月、audio wednesdayではコーネッタを鳴らしていた。
今回は、私が選曲するわけではない。

野上さんと赤塚さんの選曲であり、
そこでの選曲しだいでは、コーネッタでは無理を強いることになるのでは──、
と思うところもあった。

ひさしぶりに喫茶茶会記のアルテックを鳴らそうか、とも思いながらも、
コーネッタとどちらにしようかと迷ってもいた。

迷っていることはすでに書いているから、
読まれた方のなかに、なぜ迷うのか? と思った人もいよう。

どちらにしたか、というと、タイトルからわかるようにコーネッタである。
10月7日は雨だった。
それから赤塚さんの好きな音楽に、モロッコの音楽がある。

モロッコとイギリス(タンノイ)、モロッコとアメリカ(アルテック)。
どちらが近いかといえばモロッコとイギリス。

傍からすれば理由にならなような理由で、コーネッタを選んだ。
コーネッタでどうしても対応できないようなことが生じたら、
アルテックに替えよう、とも考えていたけれど、
コーネッタのmusic wednesdayでの音は、
タンノイ号での井上先生のオートグラフの組合せの音は、
こういうことだったのか、と思わせてくれた。

タンノイ号を読んでから41年。
こういうことだったのか、と納得がいった。

それだけでなく、井上先生、すごい! とも思っていた。
コーネッタはステレオサウンドの記事から生れたエンクロージュアである。
井上先生がいたからこそ、コーネッタは誕生した、といえる。

井上先生でなければ、コーネッタは誕生したとしても、
その出来は雲泥の差が生じていた、とも思う。

ここまでコーネッタは鳴るのか、というよりも、
こんなふうに鳴るのか、という驚きが、昨晩の音にはあった。

昨晩のプレイリストは、すでに公開している。
一般的にコーネッタに向いている曲はほとんどない。
むしろ向いていない、と思われる曲が並んでいる。

そういう曲を、なんとかがんばって鳴らしている、という感じではない。
持っている実力で鳴らしている、という感じだった。

昨晩のコーネッタの音を、井上先生に聴いてもらいたかった。
叶わぬことと承知している、それでも心底、そうおもっていた。
「なかなかうまく鳴らすじゃないか」、
そういってくださった、と勝手におもっている。

Date: 10月 8th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(music wednesdayでの音・その1)

1979年にステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」のタンノイ号が出た。
タンノイ号の終りのほうに、井上先生による組合せがあった。

いくつかの組合せ(もちろんスピーカーはすべてタンノイ)のなかに、
当然ながらオートグラフの組合せもあった。

このことは別項「井上卓也氏のこと」で書いているので、
こまかいことは省くが、井上先生のオートグラフの組合せの意図は、
ジャズであった。

タンノイ号を読んだ時、私は16歳。
その内容がウソとは思わなかったけれど、俄には信じられなかった。

「五味オーディオ教室」からオーディオの世界に足を踏み入れた私にとって、
オートグラフはクラシックを鳴らす最上のスピーカーの、数少ない一つという認識があった。

井上先生の組合せに登場するオートグラフは、
タンノイによるエンクロージュアの生産が中止になったあとの、
輸入元のティアックによる日本製のエンクロージュアと、ユニットもHPD385Aであり、
同じオートグラフの名称であっても、
五味先生のオートグラフと、井上先生の組合せのオートグラフは、
音の上で同じところもあればそうでないところもある。

それでもオートグラフというエンクロージュアの、構造的なところにある音の本質は、
変化することはないわけで、ジャズが聴ける、という感じにはなっても、
ジャズを鳴らしきることができるとは思えなかった。

ステレオサウンドで働くようになって、井上先生に直接訊ねた。

「こまかいことを言うと、そりゃ、ベースの音は、バックロードホーンだから、
(最初の「ウ」のところにアクセントを置きながら)ウッ、ウーンと鳴る。
でも腰の強い低域で、表情のコントラストも豊かだし、聴いて気持いいから、いいんだよ」
(「ウーン」は、バックロードホーンを通って出てくる、遅れをともなう音を表されている)

楽しそうに話してくださった。
「あれは、ほんとうにいい音だった」とも言われたことも、思い出す。

井上先生は、試聴記にしても大袈裟に表現されることをされない。
そういう井上先生が、こんなふうに表現されているのだから、
タンノイ号でのオートグラフで聴くジャズは、ほんとうにいい音だった、はずだ。

昨晩のaudio wednesday、テーマはmusic wednesdayで、
野上眞宏さんと赤塚りえ子さん二人による選曲を聴いていて思い出したのが、
このことだった。

Date: 9月 28th, 2020
Cate: TANNOY

タンノイはいぶし銀か(その11)

この項のタイトルは「タンノイはいぶし銀か」であって、
「タンノイはいぶし銀だ」でも「タンノイはいぶし銀ではない」でもない。

ここで、タンノイはいぶし銀だといいたいわけでもなく、
またいぶし銀ではない、といいたいわけでもない。

「タンノイはいぶし銀か」への答は聴いた人がそれぞれに出すことであって、
その出した結論にあれこれいうつもりはない。

ただ、あまりにも「いぶし銀」が安易に使われているのではないか、
ということをいいたいだけである。

ステレオサウンド 29号に、黒田先生の「ないものねだり」が載っている。
     *
 思いだしたのは、こういうことだ。あるバイロイト録音のワーグナーのレコードをきいた後で、その男は、こういった、さすが最新録音だけあってバイロイトサウンドがうまくとられていますね。そういわれて、はたと困ってしまった。ミュンヘンやウィーンのオペラハウスの音なら知らぬわけではないが、残念ながら(そして恥しいことに)、バイロイトには行ったことがない。だから相槌をうつことができなかった。いかに話のなりゆきとはいえ、うそをつくことはできない。やむなく、相手の期待を裏切る申しわけなさを感じながら、いや、ぼくはバイロイトに行ったことがないんですよ、と思いきっていった。その話題をきっかけにして、自分の知らないバイロイトサウンドなるものについて、その男にはなしてもらおうと思ったからだった。さすが云々というからには、当然その男にバイロイトサウンドに対しての充分な説明が可能と思った。しかし、おどろくべきことに、その男は、あっけらかんとした表情で、いや、ぼくもバイロイトは知らないんですが、といった。思いだしたはなしというのは、ただそれだけのことなのだけれど。
     *
ここに登場する「バイロイトサウンド」も、いぶし銀と同じような使われ方を、
オーディオの世界ではされている、と感じる。

黒田先生はその後バイロイトに行かれている。
バイロイトの音が、ヨーロッパの、ほかのオペラハウスとどう違うのかを、
端的に説明してくださった。

バイロイトに行ったことのない男が、
バイロイトで録音されたレコードを聴いて、「さすが」というのと同じように、
タンノイが鳴っているというだけで、いぶし銀を見たこともないのに、
「さすがタンノイ、いぶし銀の音ですね」といってたりはしないだろうか。

バイロイトでの最新録音という前知識があったから、
その男は「さすが」といったけかもしれない。

そんな前知識がなく、そのレコードを聴いていたら、そんなこといわなかっただろう。

Date: 9月 27th, 2020
Cate: TANNOY

タンノイはいぶし銀か(その10)

(その8)へのfacebookへのコメントに、
いぶし銀ときいて思い出すのは、東欧のオーケストラの音、とあった。
レーグナーのワーグナーやブルックナーでもある、と。

いわれてみれば、いぶし銀といえるかもしれない、と思った。
ステレオサウンドで働くようになったばかりのころ、
試聴レコード(まだCDは登場してなかった)で、レーグナーが使われていた。

ドイツ・シャルプラッテンの録音である。
レーグナーのレコード(録音)は、自分では一枚も買っていない。
なので、当時聴いた音を思い出すしかないのだが、
その弦の音をいぶし銀と喩えることにはすんなりと納得できる。

ステレオサウンドの試聴できいたレーグナーは、
私にとって、初めて聴く東ドイツの音であった。

ずいぶん弦の音が違うなぁ、が最初の印象だった。
あのころは、いぶし銀ということについて、いまのように考えてなかったから、
そんなふうに表現することは思いもよらなかった。

ドイツ・シャルプラッテンには、レーグナーのほかに、
スウィトナー、コッホ、ブロムシュテット、ケーゲルなどの録音もある。

アナログディスクではドイツ・シャルプラッテンの録音は、
他にもいくつか聴いているのに、
CDになってからは、ほとんど聴いていない。

どこかで聴いていただろうが、記憶にはっきりと残っていないだけかもしれないが、
まぁ聴いていない、といったほうがいいだろう。

ドイツ・シャルプラッテンのCDを、レーグナーの他に数枚買ってみようかな、と、
コメントを読んで思っていたが、
ここで察しのよい方からからは、またMQAかよ、といわれそうだが、
レーグナーのMQAがあることは、記憶にある。

e-onkyoをあれこれ眺めていた時に気づいていた。
改めて検索すると、ドイツ・シャルプラッテンのタイトルは40ある。

40タイトルの詳細を見たわけではないが、
flac、WAV、MQA Studioで、196kHz、24ビットで配信されている。

レーグナーのワーグナー、ブルックナーもある。
ドイツ・シャルプラッテン、コーネッタ、MQA、
これらの組合せで聴くと、当時の音の記憶が鮮明によみがえってくるのか、
あらたな発見があるのか。

Date: 9月 27th, 2020
Cate: TANNOY

タンノイはいぶし銀か(その9)

いぶし銀とは、硫黄をいぶして、表面の光沢を消した銀のことである。
それで比喩的に、渋くて、味わいのあるものとして使われる。

どんなに辞書をひいたところで、いぶし銀の音といわれて、
それがいったいどういう音なのか、はっきりとつかめるわけではない。

ならばGoogleで「いぶし銀」を画像検索すれば、
いくつもの写真が表示される。

私はいぶした銀そのものを見たことがない。
それらの写真を見て、やっぱりこういものなのか、と思った。
けれど、これがタンノイの音の印象なのかというと、少なくとも私の場合は違う。

いぶし銀は常套句といえるのか。
一時期は、タンノイの音に対しての常套句といえた。
いまはどうだろうか。

昔ほどには、そうとはいえないのではないだろうか。
どちらにしても、常套句はわかりやすいといえば、そうともいえるけれど、
いぶし銀という表現を見た人すべてが同じ音を思い浮べているという保証はどこにもない。

百人の人がいれば、百通りのいぶし銀の音をイメージしていることだろう。
私がいぶし銀でイメージする音と、Aさんがイメージする音、Bさんがイメージする音……、
それぞれの人の頭をのぞいて、イメージした音を聴ければ、
近い人、まったく正反対の音をそう思っているだけの人、さまざまだろう。

わかりやすい。
それだけは事実であっても、
わかりやすさは善ではない──、ということは以前別項で書いている。

いぶし銀に関しては、ほんとうの意味でわかりやすい表現ではない。
むしろ書き手側にラクをさせているだけの常套句になりさがっているのではないだろうか。

Date: 9月 25th, 2020
Cate: TANNOY

タンノイはいぶし銀か(その8)

ステレオサウンド 94号の特集から、柳沢功力氏の文章からの引用だ。
     *
 タンノイも、最近のカンタベリーやウェストミンスター・ロイヤルなどは、以前ののものに比べるとずいぶん音色が異なってきた。以前の、ということはオートグラフの時代のことだが、例の「いぶし銀の音」の名言が生まれたように、そこにまさに、うす明かりの中で見るいぶし銀の輝きのような渋い音色があって、それが独特の重量感をもつ低音の中に、半ばうもれる様で輝いていた。
 実のところ僕はあのいぶし銀の音は、さめた目でみれば単に中高域の歪み成分だと思うのだが、でも、その正体が何であったかはこの際あまり問題ではない。あの低音とあの中高音が、重厚さを超えた崇厳さと気品に満ちたクラシック音楽の世界を、垣間見させてくれていたのは事実なのだから。
 しかし、現在のタンノイにこの話はそのまま通用はしない。ユニットの基本形は頑として変らずとはいうものの、タイプを重ねるごとに内容は近代化され、もはや歪みの音色に頼るような前時代的なサウンドではない。それに今回のはタンノイといってもバックロードホーンでもなければ、そんなに大型でもないスターリング/HWだから、ここでなにも「いぶし銀」の話を持ちだすことはなかったかもしれない。
 とはいうものの、このスピーカーを他のこのクラスのものと横一列にならべてみれば、やはりこれだけが特別な雰囲気をもつものであるのは事実。そしてその特別さが、タンノイ伝統の血にもとづくものであるのもまた事実だ。僕はこの音をとくに重い響きとは思わないが、しかしこの音を標準にすれば、世の中の大半のスピーカーは軽薄サウンドと思えそうである。それにいまさら「いぶし銀」とはいわないものの、この音を標準とすれば、世の中の多くのスピーカーの音は、まるでアルミニウムかステンレスのようにキラキラとまぶしくもある。
     *
柳沢功力氏の「いぶし銀」に、ウンウン、そうだと頷く人もいるだろうし、
そうかな、と首を傾げる人もいようが、
いぶし銀の音について、どう感じているかを説明しているのは、そう多くはない。

この柳沢功力氏の文章を読んだ後で、
ステレオサウンド 207号の特集中、タンノイの新しいArdenの試聴記で、
和田博巳氏が《他の弦楽器は艶やかというよりはいぶし銀のごとき味わい》とされているのを読むと、
柳沢功力氏と和田博巳氏の音の聴き方の相違が、なんとも興味深く感じられる。

いぶし銀のことからは外れるが、
94号の特集で、スターリングを七機種のプリメインアンプで鳴らした音の、
三氏の試聴記を比較しながら読むと、これまた別の意味で興味深い。

このことに関しては、別項でいずれ書くつもりである。

Date: 9月 25th, 2020
Cate: TANNOY

タンノイはいぶし銀か(その7)

7月、8月、9月のaudio wednesdayで、タンノイ・コーネッタを鳴らした。
来られた(聴いた)方から、いぶし銀ですね、という感想はなかった。

タンノイ・コーネッタとつい書いてしまうけれど、
昔からのステレオサウンドの読者には説明の必要はないであろうが、
タンノイのオリジナルなわけではない。

ステレオサウンドの企画で生れたフロントショートホーン付きコーナー型エンクロージュアに、
10インチ口径のタンノイの同軸型ユニットをおさめたモノを、コーネッタと呼んでいる。

この呼称が通用するのは、日本ぐらいのはずだ。
とはいうものの、タンノイ・コーネッタと書きたくなるのは、
いいスピーカーシステム、
もっといえばタンノイのスピーカーシステムとしても、いいモノであるからだ。

そのコーネッタの音は、五味先生も高く評価されていた。
まがいもの、という人たちがいるのは知っている。

この人たちは、ほんとうにコーネッタの音を聴いているのか。
聴かずに、ステレオサウンドの記事だけで判断しているのではないか。

ひどい人になると、井上先生のことを、スピーカーの素人と書いている。
何も知らないということは、ホント、シアワセなことだ。

いぶし銀と感じていたけれど、黙ってただけなのかもしれない。
でも、いぶし銀と感じさせる音であったならば、
なんらかの反応、感想はあったはずだ。

別項で引用するために、ステレオサウンド 94号をひっぱり出している。
94号の特集は「いまこれだけは聴きたい’90エキサイティングコンポーネント」で、
プリメインアンプ×スピーカーの相性テストで、タンノイのスターリングが、
20万円以上のプリメインアンプ七機種で鳴らされている。

試聴しているのは、井上先生、柳沢功力氏、傅 信幸氏である。
柳沢功力氏の文章のなかに、いぶし銀が出てくる。

井上先生、傅 信幸氏のところには、いぶし銀は出てこない。

Date: 9月 16th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(CHET BAKER SINGS・その後)

9月2日発売予定だったチェット・ベイカーの「CHET BAKER SINGS」のMQA-CD。
当日手に入れることができずに、
9月のaudio wednesdayではかけることができなかった。

数日前、ユニバーサルミュージックのサイトを見ていたら、
「CHET BAKER SINGS」の発売日が、いつのまにか10月になっている。

売っていないわけだ。
渋谷のタワーレコードまで行かなくてよかった。

ユニバーサルミュージックのMQA-CDの発売日は、
これまでのいくつかのタイトルで延びているのがあるから、
「CHET BAKER SINGS」に関しても、待つしかない。

11月のaudio wednesdayではかけられる。