「理由」(その5)
まわりには、だれもいなかった。
けれど、ずっと過去には、ひとりいた。
母方の祖父と私はそっくりらしい。
子供のころ、祖父を知る親戚の人からは、
会うたびに、「ほんと生き写しね、ますますそっくりになってきた」といわれていた。
私が中学二年のころから、クラシックとオーディオに関心をもち始めたら、
「不思議ね、クラシック好きなところまでそっくり」といわれるようになった。
祖父は母が幼いころに、趣味であったスキーでの事故のせいで早くに亡くなっている。
だから、母も祖父がクラシックを聴いていたことは、ほとんど記憶にないらしい。
かなりのクラシック好きで、蓄音器にも凝っていたときいている。
ふと想うのは、オーディオを選んだのは、自然なことであり、必然だったのかもしれない、ということ。