Archive for 6月, 2011

Date: 6月 30th, 2011
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その19)

私が感じている、よくできた鉄芯型のカートリッジに共通するよさは、
中低域から低域にかけての響きの充実ぶり、とでも表現できる要素である。

このことは、クラシックを聴くことがほとんど私にとって譲れないところでもある。

鉄芯型の優秀なMC型カートリッジが、
なぜ、そういう音(むしろ響きと表現したい)を聴かせてくれるのかについては、
その理由ははっきりとわかっていない。
けれど、このしっかりとして、そして豊かな中低域から低域のよさは、
音楽をしっかり支えてくれて、フォルティッシモではそのことを強く感じることができる。

たしかに空芯型の優秀なMC型カートリッジを聴いたあとでは、鉄芯型のフォルティッシモは、
やや濁りが生じて解像力の高さということではすこし劣る。
でもその反面、力に満ちて吹きあげるようなフォルティッシモとなると空芯型では、
優秀なものでも、鉄芯型の優秀なカートリッジと比較すると、もの足りなさを感じる。

鉄芯型の優秀なカートリッジには、響きの確かさがある、と思う。
そして、この響きの確かさは、ピアノのフレームに鉄が使われていることにも関係しているように思えてならない。

Date: 6月 30th, 2011
Cate: PM510, Rogers, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(ロジャース PM510・その2)

レコード芸術の1980年11月号に、PM510の記事が載っている。
瀬川先生と音楽評論家の皆川達夫氏、それにレコード芸術編集部のふたりによる座談会形式で、
PM510とLS5/8の比較、PM510を鳴らすアンプの比較試聴を行なっている。
PM510というスピーカーシステム、1機種に8ページを割いた記事だ。

比較試聴に使われたアンプの組合せの以下の通り
QUAD 44+405
アキュフェーズ C240+P400
スレッショルド SL10+Stasis2
マークレビンソン ML6L+ML2L
マークレビンソン ML6L+スレッショルド Stasis2
マークレビンソン ML6L+スチューダー A68
マークレビンソン ML6L+ルボックス A740

この座談会の中にいくつか興味深いと感じる発言がある。
ひとつはマークレビンソン純正の組合せで鳴らしたところに出てくる。
     *
しばらくロジャース的な音のスピーカーから離れておりまして、JBL的な音の方に、いまなじみ過ぎていますけれども、それを基準にして聴いている限り、EMTの旧式のスタジオ・プレーヤーというのは、もうそろそろ手放そうかなと思っていたところへ、このロジャースPM510で、久々にEMTのプレーヤーを引っ張り出して聴きましたが、もうたまらなくいいんですね。
     *
ステレオサウンド 56号の記事をご記憶の方ならば、そこに927Dst、それにスチューダーのA68の組合せで、
一応のまとまりをみせた、と書かれてあることを思い出されるだろう。

このレコード芸術の記事では、スチューダー、ルボックスのパワーアンプについては、こう語られている。
     *
このPM510というスピーカーが出てきて、久々にルボックス、スチューダーのアンプの存在価値というものをぼくは再評価している次第です。
(中略)JBLの表現する世界がマークレビンソンよりスチューダー、ルボックスでは狭くなっちゃうんですね。ところがPM510の場合にはルボックスとスチューダー、それにマークレビンソンとまとめて聴いても決定的な違いというようなものじゃないような気がしますね。コンセプトの違いということでは言えるけれども、決してマークレビンソン・イズ・ベストじゃなくて、マークレビンソンの持っていないよさを聴かせる。たとえばスレッショルドからレビンソンにすると、レビンソンというのは、アメリカのアンプにしてはずいぶんヨーロッパ的な響きももっているアンプだというような気がするんですけれども、そこでルボックス、スチューダーにすると、やっぱりレビンソンも、アメリカのアンプであった、みたいな部分が出てきますね。

Date: 6月 29th, 2011
Cate: PM510, Rogers, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(ロジャース PM510・その1)

瀬川先生の「音」を聴いたことのない者にとって、
その「音」を想像するには、なにかのきっかけ、引きがねとなるものがほしい。
それは瀬川先生が書かれた文章であり、瀬川先生が鳴らされてきたオーディオ機器、
その中でもやはりスピーカーシステムということになる。

となると、多くの人がJBLの4343を思い浮べるだろう。
4341でもいいし、最後に鳴らされていた4345でもいい。
ただ、JBLのスピーカーシステムばかりでは、明らかに偏ってしまった想像になってしまう危険性が大きい。

どうしても、そこにはイギリス生れのスピーカーシステムの存在を忘れるわけにはいかない。

ここに書いているように、瀬川先生はロジャースのPM510に惚れ込まれていた。

瀬川先生ご自身が、PM510を「欲しい!!」と思わせるものは、一体何か? と書かれているのだから、
第三者に、なぜそれほどまでにPM510に惚れ込まれていたのか、のほんとうのところはわかるはずもない。
それでも私なりに、瀬川先生の書かれたものを読んでいくうちに、そうではないのか、と気づいたことはある。

Date: 6月 29th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その13)

ベルトドライヴは、モーターの振動をベルトを介することによって
ターンテーブル・プラッターに伝わらないようにできることがメリットとされている。
つまり機械的なフィルターが構成されているからである。

この機械的なフィルターを電気回路に置き換えてみると、
モーターとターンテーブル・プラッターの慣性モーメントはインダクタンスに相当し、
ベルトの弾性はコンデンサーになり、ローパス(ハイカット)フィルターを形成していることになる。

このローパスフィルターのカットオフ周波数(共振周波数)は、
モーター、ターンテーブル・プラッターの慣性モーメント、
ベルトの等価スティフネス、それにモーターのプーリーとターンテーブル・プラッターの半径によって決る。

ローパスフィルターだから、これらの要素によって決定される周波数以上の振動成分は、
ターンテーブル・プラッターには伝わらない、ということになる。
つまり共振周波数(カットオフ周波数)をできるだけ低く設定できれば、それだけSN比を高くすることができる。

実際にはベルトを柔らかくし、モーター、ターンテーブル・プラッターの慣性モーメントをできるだけ大きくして、
モーターのプーリー、ターンテーブル・プラッターを小さくすればいい。
ターンテーブル・プラッターの径はレコードの大きさが決っている以上、30cmよりも小さくするわけにはいかない。

だがリンのLP12、トーレンスのTD125、TD126のように二重ターンテーブル構造にして、
インナーターンテーブルにベルトをかけるという方法で、これは実現できる。

Date: 6月 29th, 2011
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その18)

オルトフォンのSPU、もしくはMC20MKII、MC30といった鉄芯型と、空芯型のMC2000と比較する。
デンオンのDL103を、空芯型のDL303、DL305と比較する。

これらの比較は振動系も違うし、ボディのつくりも違うから、鉄芯型と空芯型の正確な比較試聴とはいえないまでも、
大まかな傾向はつかむことができる。

空芯型のMC型カートリッジの方が、聴感上の歪は少ないと感じる。
ピアニッシモでもそのことは感じるし、フォルティッシモにおいても濁りが少ない、
だから、キメの細かさを感じさせる。
優秀な録音のアナログディスクになればなるほど、この差ははっきりとしてくる。

こういう実例を耳にすると、磁気回路という大きな磁性体のカタマリを排除できなくても、
地道にひとつずつ磁性体を取り除いていくことの大切を感じる。

でも、そういったことがわかっていながら、私が選んできたカートリッジは、鉄芯型のモノばかりである。

まったく同じ発電構造であれば、鉄芯型と空芯型では、鉄芯型の方が発電効率は高い。
つまり出力電圧は大きくなる。
もともと出力電圧の低いMC型カートリッジにおいて、出力電圧が少しでも高くなることは、
音質的にもメリットはいくつもある。
鉄芯型の音質的メリットは、このことだけだろうか。
ただ出力電圧が大きいことだけが音に与えるメリットだけで、私は鉄芯型のカートリッジを選んできたのだろうか。

アナログディスクの音溝に刻まれたエネルギーをカートリッジの針先が拾い、
カンチレバーを伝わって信号を発電する。つまりコイルの巻枠もとうぜん振動している。

このコイルの巻枠の振動モードが、空芯型と鉄芯型はずいぶん違うのではなかろうか。
そのことと出力電圧の大きさとが相俟って、鉄芯型でなければ表現できない音をつくり出している──、
鉄芯型の優秀なMC型カートリッジを聴くと、そう思ってしまう。

Date: 6月 29th, 2011
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その17)

鉄(磁性体)がオーディオの系の中にあると、音を汚す、濁す。
だから徹底的に排除していくべきだ、という考え方は正しいと思う。
だからといって、絶対的なものである、とは思わない。

いまのところどうやっても電源トランスには鉄芯が、
スピーカーユニットには磁気回路に磁石と磁性体が、最後まで残ってしまう。

たとえ磁気回路を必要としないコンデンサー型スピーカーにしても、
昇圧のためのトランスが必要になってくる。ここに鉄心がある。

そうはいっても、信号系からひとつひとつ磁性体取り除いていく、
直接信号系に含まれていなくても、周辺にあるだけでも磁性体は影響を及ぼすから、
取り除いていけば、それだけの効果はある。

一般的に鉄(磁性体)は悪者ということになっている。
でもMC型カートリッジを例にとると、果して、磁性体は悪影響ばかりだろうか、とも思う。
MM型、MC型にしても磁石は必要とする。
スピーカーユニット同様、磁性体から逃れられないオーディオ機器のひとつである。

そのMC型カートリッジには、大きく分けてふたつある。
発電コイルの巻枠が磁性体か非磁性体か、である。

いわゆるオルトフォン型と呼ばれるMC型カートリッジは、巻枠に磁性体を使用している。
オルトフォンのSPUがその代表的なカートリッジであり、デンオンのDL103、EMTのTSD15などがある。

井上先生は巻枠に非磁性体を使用したカートリッジ(空芯型)を、純MC型とも呼ばれていた。
オルトフォンもMC2000で空芯型を発表、デンオンもDL303、DL305などは空芯型となっている。

Date: 6月 28th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(トーレンス・リファレンスのこと)

リファレンスのフローティングベースのモーター用の穴よりも、もっともっと余裕をとりすぎているのが、
中央、シャフト軸受け用の穴である。

これは、おそらくダイレクトドライヴ用のモーター用のものではないか、とどうしても思ってしまう。

ステレオサウンド 56号に、瀬川先生のトーレンスの訪問記が載っている。
そこには、1929年にダイレクトドライヴ型のフォノモーターの特許をとっている、とある。
テクニクスが開発し、その後主流となったダイレクトドライヴとは違うものだが、
トーレンスもダイレクトドライヴを研究していた事実である。

その後、トーレンスはSN比の向上からベルトドライヴだけに製品をしぼっていくが、
トーレンスと協力関係にあったEMTは、1978年あたりにダイレクトドライヴの950を出している。
当時のトーレンスとEMTは西ドイツにあるラール工場で、両ブランドの製品が作られていた。
この工場は生産部門だけではなく、設計部門も含まれている。

ダイレクトドライヴとは直接関係はないが、TD125でシンクロナスモーターを、
専用の駆動回路を設け電子的にコンロトールするなど、一見保守的にメーカーではあるが、
他社に先駆けている面も持っている。

これらのことを考え合わせると、トーレンスがふたたびダイレクトドライヴを再設計しようとした可能性を、
完全には否定できない。
リファレンスの開発にあたっては、ダイレクトドライヴも再検討されたのではないだろうか。
その名残りが、フローティングベースの中央の大き過ぎる穴である……。

他に納得のいく理由が、なにかあるだろうか。

Date: 6月 28th, 2011
Cate: 録音

50年(その8・追補)

音に対する視覚的な感覚について考えるとき、
ソニック・ステージを提唱したジョン・カルショウ、
この人の視覚的感覚はどうだったんだろうと思ってしまう。

Date: 6月 28th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その12)

トーレンスのリファレンスのフローティングベースには、
2つの丸い穴がある。ひとつは中心にある軸受けをマウントするためのもの。
この中心の穴を囲む4つのスペースにはアイアン・グレインと称する鉄の細かい粒をオイルで練った上で、
ぎっしりとつめられている。

フローティングベースのもうひとつの穴はモーターのためのものである。
リファレンスのモーターは、すでに書いたように全体の偉容にしては貧弱な印象のものだ。
このモーターのための穴としては大き過ぎるのだ。多少の余裕は必要なのはわかるが、
モーターのサイズからは余裕をもたせすぎている感じがしてしまう。

モーターは、フローティングベースに、
その振動を伝えないようにするためにメインベースに立てられた3本の柱の上に、
かなり厚めのアルミハウジングに収納された上で固定される。

この部分を見ていると、ある仮説が頭に浮かんでくる。
もともとリファレンスのモーターには、EMTの930stのモーターが流用されていたのではないか、と。
930stのモーターの径がどの程度だった正確な寸法はわからないが、
記憶の上では、ちょうど930stのモーターが、すとっとおさまってしまう。

930stのモーターであればトルクも十分だし、プリーナーをレコードに押しあてても回転が止ることはないはずだ。

プレーヤーとしての使い勝手の面からはモーターのトルクは十分にあった方がいい。
けれど、930stのモーターでベルトドライヴでは、
「リファレンス」の名に値するだけの音が得られなかったのではなかろうか。
それでモーターをいくつか試していった結果、
トルクの小さな、930stのモーターからするとずっと小型のものになってしまった。

フローティングベースはもともと930st用のモーターを前提に型をつくってしまっていたので、
結果としてモーターの周りにスペースの余裕ができてしまった。
そう思えてならない。

Date: 6月 27th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その11)

アナログプレーヤーの音を駆動方式で語るのは難しいことではあると充分判っているつもりだが、
それでもベルトドライヴ型のプレーヤーで、私が圧倒的に音がいい、というレベルをこえて凄い! と感じたのは、
やはりトーレンスのリファレンスだけである(Anna Logはまだ聴いていない)。

リファレンスは、1980年に358万円という、おそろしい価格だった。重量は約100kg。
堂々とした、その偉容に反して、モーターは、あれっ? と思うほど小型だった。

リファレンスのシャフトとその軸受けは、EMTの930stのものをそのまま流用した、と思われる。
寸法的にも見た感じも同じである(ただし資料には新開発のもの、とある)。
そのリファレンスのターンテーブル・プラッターの重量は6.6kg。930stよりも2倍以上重くなっている。
このターンテーブル・プラッターの内側には分厚いドーナツ状の合板が、鳴き止めのため打ち込まれている。
外周裾に取りつけられているストロボスコープ用のパターンは、930stのそれとまったく同じ。

930stのよりも物量を投入してつくられているリファレンスなのに、モーターに関してだけは930stの方が上だ。
リファレンスのモーターはハイトルクのシンクロナスモーターとうたっているが、
930stのモーターとの比較でははっきりと、
比較的トルクが弱いといわれていたダイレクトドライヴ型と比較しても、トルクは弱いと思う。

瀬川先生も、ステレオサウンド 56号に書かれているが、
「レコードをのせてプリーナーを押しあてると、回転が停ってしまう」くらいの弱さである。

358万円もするプレーヤーなのに、こんなところでケチることないのに……、1980年の私は思っていた。

Date: 6月 27th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その10)

モーターの駆動回路は、いわばアンプだから、アンプ自体の歪やノイズがわずかとはいえ発生している。
それでもどんな外来ノイズが混入してきて、
ときには正弦波が崩れてしまうこともあるAC電源をそのままモーターに給電するよりも、
モーターにとっては、それでも良好な電源供給となり、モーターの回転は滑らかになっている、と思われる。
その滑らかさが、LP12におけるヴァルハラのある無しの音の違いを生んでいる。

ターンテーブルの回転を眺めていると、じつに滑らかに廻っているように思えるのだが、
見ただけでは感知できない領域で、その回転は実のところぎくしゃくしているのだろう。

そのぎくしゃくを生む原因のひとつが回転のためのエネルギーを生むモーターであり、
そのモーターのエネルギー源である電源の汚れである。

ヴァルハラを取りつけたLP12の音は、まさにそんな汚れを洗い落した感じに聴こえる。
いままで回転のぎくしゃくによって生じていた汚れにマスキングされていた、されかかっていた音が、
姿を現してくれる。

だからといってヴァルハラのようなモーター駆動回路さえありさえすれば、
ターンテーブル・プラッターの駆動源として理想に近いものいえるのかとなると、
モーターそのものが、決して完璧なものではないことが浮き彫りになってくる。
しかもそのことは、モーターのトルクがしっかりとターンテーブル・プラッターに伝わるほどに明瞭になってくる。

マイクロのSX8000IIのモーターユニット(RY5500II)は、
起動時にはトルクが必要なためモーターにかかる電圧は100Vだが、
しばらくするとその電圧を半分の50Vに自動的に切り替わるようにしている。
シンクロナスモーターにかかる電圧が低くなればそれだけトルクは下がり、
モーターそのものが発生する振動も減ることになる。

SX8000IIのターンテーブル・プラッターはステンレス製で重量は28kg。
慣性モーメントは十分に大きい。

Date: 6月 27th, 2011
Cate: audio wednesday

第6回公開対談のお知らせ

次回の、イルンゴ・オーディオ楠本さんとの公開対談は、7月6日に行ないます。

前回はステレオサウンド 179号を読んで、というテーマでしたが、今回のテーマはまだ決めておりません。
こういうテーマで話してほしいというご要望がありましたら、ご連絡ください。

時間、場所などはこれまで通りです。

Date: 6月 26th, 2011
Cate: 録音

50年(その8)

それにしても、なぜ音から、こういう視覚的な感覚を味わえるのか、とずっと疑問だった。
同じレコードを同じ音、つまり同じ場所、同じ時間で聴いても感じとれる人と感じとれない人がいる。
同じレコードであっても、再生するオーディオの違い(音の違い)によって、感じとれないこともある。

感じとれない人からすれば、感じとれる人のことを、錯覚、という一言で片づけてしまえるだろうが、
感じとれる人にとっては、やはり同じように感じとれる人がいる以上、錯覚の一言で片づけるわけにはいかなくなる。

菅野先生のところで、違う時に聴いたふたりが、感じとっていたということは、
菅野先生の出されている音に、なんらかの視覚的感覚を刺激するものがあったのかもしれない。

なぜか、というその疑問に、ひとつのヒントが与えられた。
川崎先生が以前いわれていた「ロドプシンへの直感」であり、ロドプシンである。

このロドプシンが脳の一部である海馬と関係しているのではないか、ということを以前書いた

いま川崎先生が、ご自身のブログで音に関係することを書かれている。
その中の23日のブログに、ロドプシンのことを書かれている。

聴覚と海馬とロドプシンが、どう関係しているのかが解明されれば、
オーディオの世界だけでなく、映像に世界においても、大きな変化・進化が訪れるのかもしれない。

Date: 6月 26th, 2011
Cate: 録音

50年(その7)

音場もそうだが、それ以上に音像は、視覚的な感覚に通ずるものである。
フォルティッシモで強く弾かれたとき、実際のピアノの鍵盤が崩れることはない。
だがそれが一旦録音され再生されると、もろくも崩れ去れることが多い。
モノーラル録音ではもともと鍵盤が音像として提示されないから気にならないけれど、
ステレオ録音、それも優れた録音になっていけばいくほど、
フォルティッシモになるまでは鍵盤がそこに提示されるために、よけいに鍵盤の崩れを意識してしまう。

これと同じことは小出力アンプでも経験することがある。
たとえばマークレビンソンのML2。定格出力は25W(実際には50Wほど出ていたようだが)と小さい。
スピーカーがかなり高能率であれば問題とならないことだが、
90dB程度の出力音圧レベルのスピーカーとの組合せでオペラを聴いていたとしよう。

プリマドンナが静かにアリアを歌っている。
ふたつのスピーカーのほぼ中央に歌手がいて、その後ろにオーケストラの演奏が抑えた音量で響いている。
いい音で鳴っているなぁ、と聴き惚れる。
ところがアリアがおわり、合唱になりオーケストラの響きもクレッシェンドしていくと、
それまで見事に提示されていた音場(ステージ)が、一瞬のうちに崩れてしまう。

アンプのせいばかりではない、録音の不備もせいも関係していることだが、
出力に余裕があるアンプでは、極端な崩れは起さない。
出力の小ささが、ステージの崩壊を、ときにひどくすることはがある。

音色だけを気にしていれば気づかない小出力アンプの苦手とするところである。

Date: 6月 26th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その9)

この先入観が、SX8000IIのベルトテンションを緩めてしまったときの音を、
素直に、これがいい音だ、と認めることができなかったことに影響している。

リンのLP12をベルトを外してターンテーブル・プラッターを廻した音を聴いたとき、
やっと素直に認めることができた。
ベルトドライヴでは、ベルトのテンションをできるかぎり緩くしていった方がいい。

もちろんベルトドライヴならすべての機種についてそういえるわけではない、と思う。
少なくともメカニズムがしっかりと精度高くつくられたもので、
スムーズな回転を実現しているもの。
さらにある程度の慣性モーメントをもつことが、条件となってくる。

慣性モーメントを最大限利用して、回転数がぎりぎり低下しないように最低限の力をベルトによって伝える。
停止しているターンテーブルがモーターの力だけでは回転しはじめないくらいに、
ベルトのテンションを緩く、モーターのトルクを低くしたほうが、音楽がよりみずみずしく表現される。

音楽に含まれている水気が増していき、その水気のもつ味わいがよりなめらかになり、おいしさを増していく。
旬の果実を、それもとりたてのものを口にしたときの美味さに近づいていく。

どうもモーターは、それほど滑らかに廻っていないように思ってしまう。
その不完全な回転がベルトを通じてターンテーブル・プラッターに伝わると、
慣性モーメントを利用して滑らかに廻っているターンテーブルの回転を邪魔することになる。

モーターの回転を滑らかにする方法のひとつが、
シンクロナスモーターならば、トーレンスのTD125、リンLP12のヴァルハラにみられる、
発振器とアンプの組合せによるモーター駆動回路の搭載がある。

ACコンセントからノイズがまったくない、きれいな正弦波が得られるのであれば問題はないはずだが、
実際には、特にいまは、そういう状況ではない。
AC電源の汚れは、そのままモーターの回転を阻害する。
だからそのままAC電源を供給せずに、間に駆動回路を置く。