アンチテーゼとしての「音」(平面バッフル・その12)
スタインウェイに、Model Dというスピーカーシステムがある。
いくつかあるスピーカーのなかで、Model Dがフラッグシップモデルであり、
Model Dはリンク先をみればわかるように、エンクロージュアをもたない。
平面バッフル(オープンバッフル)のスピーカーシステムである。
しかも、そのバッフルに縦に長く、横幅は狭い。
これで低音の十分な再生が可能なのか、といえば、
アンプ搭載タイプであり、低域の補整を行っているのだろう。
振動板のストロークが大きいユニットであれば、
こういうプロポーションの平面バッフルでも、満足のいく低音は再生可能なのだろう。
実をいうと、シーメンスのコアキシャルを鳴らしていたころ、
こういう平面バッフルを考えたことがある。
低音のためには面積の広さが必要なのだが、
誰もが2m×2m級の平面バッフルを、部屋に置けるわけではない。
そのころシーメンスのコアキシャルを取りつけていたのは、
1.8m×0.9mの平面バッフルだった。
それでも狭い部屋では、かなりの圧迫感だった。
もう少し、幅を狭くできないものか──。
そんなことをよく考えていた。
縦に長い平面バッフル。
考えただけで、実行に移すことはしなかった。
スピーカーをセレッションのSL600にしたからである。
それでも、そのころからユニットの幅ぎりぎりまでに狭め、
縦に長いプロポーションの平面バッフルの音は、聴ける日が来るのか──、と思っていた。
スタインウェイのModel Dを聴く機会はそう簡単には訪れないだろうけれど、
それでもいい、と思うのは、
うまく低域を補整することで、うまくいく可能性がある、という確信が得られたからだ。