Archive for category 平面バッフル

Date: 5月 10th, 2017
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その22)

サンスイのLMシリーズを聴く機会はなかった。
LMシリーズのスピーカーは1975年に出ている。

まだ私はオーディオに興味をもっていなかった。
私がLMシリーズのスピーカーを知ったのは、1977年6月。
ステレオサウンド 43号特集ベストバイにおいてである。

でも、そこではLMシリーズの技術的特徴であるLMトゥイーターについて、
深く知ることはできなかった。
トゥイーター周りのバッフルが、
ウーファーよりも前面にあるという形だけが印象に残っていたくらいである。

LMトゥイーターについて知るのは、ステレオサウンドで働くようになり、
別冊「世界のオーディオ」のサンスイ号を読んでからである。

三井啓氏が、「サンスイに見るオリジナリティ」というタイトルの記事で、
LMスピーカーシステムの開発について9ページに渡って書かれている。

サンスイが全面的に協力しているムックだけに、開発の背景から測定データまで掲載されている。
LMシリーズのトゥイーター周りのバッフルは、前に突き出ているのか。

1977年には、すでにテクニクスからリニアフェイズのスピーカーシステムが登場していた。
コーン型ウーファーで、中高域がホーン型でなく、ドーム型、コーン型であれば、
ボイスコイルの位置はウーファーが奥まってしまうだけに、
テクニクスはスコーカー、トゥイーターの取り付けを階段状にしている。
フランスのキャバスのブリガンタンもそうである。

なのにサンスイのLMシリーズはウーファー、トゥイーター、
どちらもコーン型なのに、トゥイーターがさらに前に位置しているということは、
リニアフェイズということを無視してまで、ということになる。

音を聴く機会があれば、
もっと早くにLMトゥイーターの技術的特徴(マルチラジエーションバッフル)に興味をもっただろうが、
なにしろ聴く機会もなく、LMシリーズが普及価格帯のスピーカーということもあって、
サンスイ号を手にするまで、関心の対象外だった。

LMトゥイーター(マルチラジエーションバッフル)の考え方は、
立体バッフルともいえるし、ある種のホーンバッフルともいえるし、
振動板の前面と後面が逆相の一般的なユニットだけでなく、
同相のハイルドライバーにおいて、マルチラジエーションバッフルはうまく作用するかもしれない。

Date: 12月 11th, 2016
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その21)

平面バッフル(私にとっては立体バッフル)について考えていっていると、
ピストニックモーションのスピーカーユニットの効率の悪さを改めて実感することになる。

93dB/W/mで、入力された信号の1%が音になる。
いまでは93dBを切るスピーカーが当り前になっているわけだから、
スピーカーに入力された信号の99%以上は音になっていないわけである。

スピーカーの変換効率は、昔から決して高いものではなかった。
ここでいいたい効率の悪さとは、単に数値上の変換効率だけではなく、
バッフル、エンクロージュアなどで、スピーカーユニットの前後を遮らないと、
低音に関しては、スピーカーユニットの前後の音が打ち消し合ってさらに音圧は低下することだ。

ピストニックモーションのスピーカーユニットは、前後の音の位相が180度異るため、
打ち消し合うことになる。
低い変換効率が、打ち消しが生じればさらに低くなる。

実際にはスピーカーユニットのサイズがあるため、
すべての周波数において打ち消しが生じるわけではないが、
波長が長くなるに従って、そのままでは打ち消しは無視できなくなる。

だからこそ平面バッフルに取りつけ、そのサイズが低域再生に直接関係してくるし、
エンクロージュアでユニット背面の音を囲ってしまうわけだ。

この点、ハイルドライバーは前後で同位相の音なので、打ち消し合うことは生じない。
つまりスピーカーユニット(特にウーファー、フルレンジ)が、
ピストニックモーションではなく、前後で同位相の動作方式であれば、
平面バッフル(立体バッフル)ということについて考える必要はなくなる。

けれど実際にはハイルドライバーでも、
ジャーマンフィジックスのDDDユニットであっても、
現在のコーン型ウーファーと同等の低域再生能力はもっていない。

だから、こうやってあれこれ考えている。

Date: 12月 4th, 2016
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その20)

平面バッフルから立体バッフル、
立体バッフルからホーンバッフルと書いてきて、
もう一度立体バッフルに戻っていこうとしている。

何をもってして立体バッフルとするのか。
その場合、平面バッフルとの違いはどういうことなのか。
そんなことを考えていた。

別項でも書いているが、世の中には同じことを考える人が三人はいるそうだ。
同時代に三人いるということは、時代を遡ればもっといるといえる。

立体バッフルということを考えた人も、おそらくいることだろう。
そう思い直して、過去のスピーカーシステムの技術を振り返って見ると、
サンスイのLMシリーズというブックシェルフ型スピーカーシステムのことが浮んできた。

1975年に登場したLMシリーズは、コーン型のウーファーとトゥイーターの2ウェイ仕様である。
LMという型番は、リニア・モーション(Linear Motion)から来ていて、
このシリーズ共通のトゥイーターの構造に由来している。

コーン型ウーファーとコーン型トゥイーターのシステムの場合、
ウーファーの振幅の煽りの影響からのがれるために、
トゥイーターにはバックキャビティが設けられる。

トゥイーター(スコーカーもふくめて)は、振動板の振幅がウーファーよりも小さいため、
バックキャビティの影響は、コーンの振動に対してはほとんどないものと考えられがちだが、
バッフルに取りつけただけのコーン型トゥイーターとバックキャビティのもつ場合とでは、
測定してみると、はっきりと差違が生じる。

サンスイはそのことに注目して、コーン型トゥイーターのバックキャビティにメスを入れた。
それがLMシリーズのトゥイーターのバッフル構造であり、
サンスイはマルチラジエーションバッフルと呼んでいた。

Date: 7月 27th, 2015
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その19)

ヤマハのAST方式が実現した低音は、なかなかのものだった。
AST方式はその後YST方式と改称され、
現在ではA-YST(Advanced Yamaha Active Servo Technology)方式というようだ。

ヤマハは、GTラックをエンクロージュアにしたYST-SW1000を1990年に出した。
優れたサブウーファーだった。

現在ヤマハのサブウーファーにはNS-SW1000がトップモデルとしてラインナップされている。
YST-SW1000と同じ30cm口径のウーファーを採用し、立方体に近いエンクロージュアとなっている。
これが現在の、YST-SW1000に代るモデルといえる。

聴けば、印象は変るのかもしれないが、
YST-SW1000の後継機とはどうにも思えないところを感じてしまう。

YST-SW1000に代る製品を開発してほしいと思う。
つまり、オーディオ専用サブウーファーということである。
NS-SW1000には、ホームシアターと兼用のサブウーファーとしてのイメージがはっきりと出ている。

もし叶うのならば、ヤマハが1991年に発表した大型モデルGF1のウーファーセクションを、
アンプ部、フィルター部をリファインしたかたちで出してほしい。

GF1は4ウェイのシステムで、
ミッドバスより上の帯域を受け持つ三つのユニットをおさめたエンクロージュアと、
ウーファー(サブウーファーといったほうがいいかもしれない)のエンクロージュアは独立している。

YST-SW1000はGTラックをそのまま採用しているため重量は48kgあった。
GF1のウーファー部は、ユニット口径はYST-SW1000と同じ30cmだが、重量は80kg。
GF1のウーファー部のエンクロージュアの内容積は145ℓ。

ヤマハがAST1でAST方式を発表したためか、
AST方式は小型であっても低音を出せる技術のように受けとめられているところもある。

しかもヤマハAST方式を採用したスピーカー・デザインを公募したこともあった。
大々的に広告を出していたので記憶されている方も多いだろう。
プロ、アマ問わずで、優秀作は製品化されたこともあって、
本格的な低音再生のための技術であるにも関わらず、少しそれてしまった。

もちろんAST方式が小型であっても低音が出せるのは事実であり、
そのことを活かした製品開発を行うのはメーカーとして間違っているわけではないのだが、
それだけではないのに……、と思ってしまう。

結局YST-SW1000、GF1のウーファーをピークに、
AST(YST)方式のウーファーは、オーディオマニアがほんとうに望んでいるカタチからそれていった。
少なくとも私が望むカタチからはそれてしまった。

それでもまだわずかの期待を込めながらAST(YST)方式のウーファーについて書くのは、
平面バッフルのシステムにもってこれるウーファーは、
家庭におさまる現実的なサイズとしてはAST(YST)方式が最良であると思っているからだ。

AST(YST)方式のウーファーが受け持つ低音域は、
どんなにサイズを大きくしても平面バッフルでの再生は無理なのだから。

Date: 1月 8th, 2013
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その18)

話は変わりますが、皆さんは、本物の低音というものを聴いたことがあるでしょうか。僕はないんじゃないかと思うんです。本物の低音というのは、フーっという風みたいなもので、そういうものはもう音じゃないんですよね。耳で音として感じるんじゃないし、何か雰囲気で感じるというものでもない。振動にすらならないようなフーっとした、空気の動きというような低音を、そういう低音を出すユニットというのは、今なくなって来ています。
     *
音楽之友社発行の「ステレオのすべて ’77」において、
岩崎先生が「海外スピーカーユニット紳士録」で述べられていることである。

これは1976年終りごろの発言であり、
このときまでに岩崎先生はエレクトロボイスのパトリシアン、
JBLのパラゴンにハーツフィールドといった、
1950年代から60年代にかけてのアメリカの大型スピーカーシステムを相次いで導入されたあとの発言でもある。

これらはスピーカーシステムと呼ぶよりも、ラッパといったほうがより的確な表現である構造のものばかりで、
どれもウーファーを直接見ることができない。
中高域のみだけでなく低域までホーンを採用したシステムである。
しかもパトリシアン、ハーツフィールド、パラゴン、いずれもホーンもストレートではなく折曲げ型である。

これらのラッパ以前に岩崎先生のメインであったのはD130をおさめたハークネス。
これもまたバックロードホーンであり、いうまでも折曲げ型である。

こういうラッパをいくつも鳴らされていた岩崎先生が、
「本物の低音というのは、フーっという風みたいなもの」といわれている。

岩崎先生がヤマハのAST1を聴かれたら、長島先生、原田編集長と同じように喜ばれたように思う。

Date: 12月 18th, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その17)

ヤマハのAST1の試聴のときの、
長島先生と原田編集長の、あれほどの興奮は、いまごろになって実感でき理解できるようになった。

つまり、いまになって非ピストニックモーションの低音と
ヤマハのAST1の低音に共通するところがあることに気がついた、ともいいかえられる。

あのとき原田編集長は長島先生に、
「これ(AST方式)、真空管アンプでできませんか」と訊かれていた。

真空管アンプ、それも出力トランスをしょっているアンプで、
ヤマハのAST方式を実現するのは、不可能ではないもののけっこう難しい。
低域の時定数が、出力トランスを含め多すぎるため、安定度が確保できない。

このときの試聴には、ヤマハからはエンジニアの方もこられていたので、
長島先生とエンジニアの方から、ダブルでダメ出しをされて、
本気で残念そうにされていた原田編集長の表情が、いまも思い出される。

AST1が可能にした低音を、ほんとうに手に入れたがっているのが伝わってきた。

AST1の低音は、コーン型ユニットのウーファーがメインではなく、
バスレフポートからの放出がメインである。そのための専用アンプ込みのAST1である。

理想のバスレフ動作を目ざして開発されたAST1のバスレフポートの開口部から放出される低音は、
ピストニックモーションによる疎密波ではない。風に近い、といったほうがいいだろう。

そういう低音だから、ウーファーのコーン紙が前後にピストニックモーションして生み出される疎密波とは、
聴いた印象、それに体感する印象がずいぶん異る。

そして同じようなサイズの小型スピーカーシステムで、バスレフポートをフロントバッフルにもつモノ、
たとえばアコースティックエナジーのAE1、AE2の低音の出方とは、また大きく異る。

Date: 11月 10th, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その16)

JBLのハーツフィールド、エレクトロボイスのパトリシアン、
タンノイのオートグラフといったスピーカーシステムが登場していた時代には、
まだエドガー・M・ヴィルチュアによるアクースティックサスペンション方式のスピーカーは生れてなかった。

低音再生のために必要なユニットは大口径のウーファーが必然という時代だった。
いまのように小口径ウーファーで、モノーラル時代では考えられなかったストロークを実現し、
振動板の小ささをそのストロークで補う(大出力パワーをそれだけ必要とする)ということはできなかった。

もしかするとそんなことを考えていた人はいたのかもしれない。
けれど、それだけのパワーをもつアンプが一般用としては存在していなかった。

低音再生は、難しい。
そのアプローチにしても、大口径ウーファーを使うのか、小口径のウーファーにするのか。
大口径派の言い分、小口径派の言い分、どちらにも一理あって、
どちらが完全に正しくて、他方が完全に間違っているわけではない。

どちらにも良さと悪さがあり、どちらも長所を認め、どちらの欠点をうまく使いこなしで補えるかによっても、
大口径なのか小口径なのか、その選択は変ってくる。

私は、というと、基本的には大口径派である。
それでも良質な低音再生ということでいえば、
20cm口径くらいまでの良質なウーファーが出す低音は魅力的であり、
こういう質感は大口径ウーファーでは正直難しいところがいまでもあるようには感じている。

大口径ウーファーには、大口径ウーファー特有の質感が、どこかの帯域に残っているようにも感じる。
f0を低くとったウーファーとf0は高めのウーファーとでは、
同じ38cm口径のウーファーであっても、特有の質感を感じさせる帯域に違いが出てくる。

この特有の質感は、いわゆるオーディオ的低音の質感、スピーカー的低音の質感ともいっていいだろう。
大口径否定派の人はおそらくひどく嫌うのであろう。
わからなくはない。けれど、この特有の質感を完全に消し去ることはできないまでも、
うまく鳴らすことで、そのスピーカーならではの演出にも変えていくことはできる。

私は思うのだ。
モノーラル時代の大型スピーカーシステムが、いわゆる折曲げホーンを好んで採用した理由のひとつには、
大口径ウーファーの、この特有の質感をそのまま出すことを避けたかったためではないだろうか、と。

Date: 11月 10th, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その15)

ホーン型と呼ばれていても低音ホーンに関しては、いくつかの種類がある。
フロントロードホーン、バックロードホーン、クリプシュホーンなど、といったように。

これらのホーンも大きくふたつに分けられる。
ひとつはフロントロードホーンであり、
もうひとつはバックロードホーン、クリップシュホーンなどの折曲げ型、とにである。

このふたつのウーファーから放射された音がフロントロードホーンではそのまま聴き手を目指して直進してくる。
折曲げホーンの場合には、ホーン内部での折返しが生じる。

このふたつのホーンの違いは、
エレクトロボイスの30Wを、正面を向けて鳴らすのと、
壁に向けて(後向きにして)鳴らすのと、共通する違いかある。

フロントロードホーンではウーファーがピストニックモーションによってつくり出した疎密波は、
いわばそのまま出てくる。ピストニックモーションのままである。

一方クリプシュホーン、バックロードホーンでは、そうはいかない。
ホーンの構造からして、ウーファーがどれだけ正確にピストニックモーションをしていようと、
ホーンの開口部から放射される音はピストニックモーションとは呼べない状態になっているはずだ。

低音ホーンの採用は、低音の能率をすこしでも向上させるためである、というふうにいわれてきた。
たしかにモノーラル時代の、これらの大型スピーカーシステムが生れてきたときのアンプの出力は少なかった。
それでも十分な低音での音響出力を得るにはホーンの力を借りる必要があった。

それは理解できた。でもその理解だけに、そのときはとどまってしまった。
それ以上の理由を考えることはしなかった。

でもいま改めて考えてみると、あえて非ピストニックモーションの低音を得るためではなかったのか、
そんな気がしてならない。

Date: 11月 4th, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その14)

ステレオサウンド 51号に載っている「続・五味オーディオ巡礼」に登場されているのは、
東京のH氏である。
他の号の「続・オーディオ巡礼」に登場している人の名前は出ていたし、顔写真も載っていた。
でも、51号のH氏だけは匿名で顔写真もない。

このH氏は、原田勲氏である。
ヴァイタヴォックスのCN191に、マランツのModel 7とModel 9のペア、
プレーヤーはEMTの927DstにカートリッジはフィデリティリサーチのFR7というシステム。

五味先生は
〝諸君、脱帽だ〟
 ショパンを聴いてシューマンが叫んだという言葉を思いだした、
と書かれ、
さらに47号の登場された奈良の南口氏の装置で、
「サン・サーンスの交響曲第三番の重低音を聴いて以来の興奮をおぼえたことを告白する」とまで書かれている。

原田編集長はその後、スピーカーをCN191からアクースタットのコンデンサー型に、
アクースタットからタンノイのRHR Limitedにされていて、
ヤマハのAST1の試聴時はRHR Limitedだったはず。

AST1を試聴した1988年の秋、
私はそのことに気がついていなかった。

クリプシュホーンのCN191を鳴らしてきた男が、ヤマハのAST1の低音に驚き、喜んでいる、ということに。

そして、もうひとつ気がついてなかったことがある。
クリプシュホーン、バックロードホーンは「音軸」をもつスピーカーである、ということを。

Date: 11月 4th, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その13)

AST1の音は、トータルでいえば、それほど優れているわけではない。
けれど、低音の素晴らしさは、見事だった。
その見事さは、ウーファーの口径が16cmなのに、
エンクロージュアのサイズがW18.8×H29.7×D23.3cmという小型にも関わらず、
といったエクスキューズなしのものだった。

スピーカーシステム2本と専用アンプで135000円ということは、
それぞれが40000円ちょっと価格と考えられなくもない。

1本40000円から50000円のスピーカーシステムと、同価格帯のプリメインアンプの組合せのほうが、
トータルで得られる音は、もうすこし品のあるものが得られるだろうけど、
AST1で味わった興奮は、得られない。

私も少なからず興奮していた。
でも私以上に、私の何倍も興奮していたのは長島先生と原田編集長だった。
このふたりが興奮していたのも、もちろん低音に関して、である。

長島先生、原田編集長の興奮には、喜びがあったように、私は感じていた。
私の興奮には、ふたりが感じていた喜びはなかった。

ふたりの喜びとは、それまでの長いオーディオ遍歴において求めつづけてきていた「低音」が、
AST1で実現できた、聴くことができた、そんな感じをうける喜び方だった。

「こういう低音が欲しかったんだ」という言葉も、そのとき聞いた。

AST1の低音は見事ではあった。
それでもクォリティ的にはまだまだ上があるのは感じさせるレベルであったし、
そんなことは長島先生、原田編集長は私よりもずっとわかったうえで、
低音の出方そのものに対しての「こういう低音が欲しかったんだ」だと思う。

Date: 11月 3rd, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その12)

1988年秋に、ヤマハからAST1が登場した。
AST1は、16cm口径のコーン型ウーファー、3cm口径のドーム型トゥイーターの2ウェイの小型スピーカーと、
専用アンプを組み合わせたシステム全体の総称である。

ASTは、他のオーディオメーカーが商標登録していたため、すぐにYSTという名称に変更されている。
AST1は、このYST方式を最初に採用したモデルだ。

AST1は、この年のステレオサウンドのCOMPONENTS OF THE YEAR賞の特別賞に選ばれている。
正確にはAST1が選ばれたのではなく、AST方式に対しての特別賞なのだ。

なぜAST1そのものに賞が与えられなかったかというと、
トゥイーターのクォリティがそれほど高くないこと、
専用アンプのクォリティもそれほど高くないこと、
つまりAST方式の可能性を高く評価してのものであって、
AST1という、135000円のシステムについては、注文も多かった。

それでも、AST1の低音再生能力の高さは、驚くべきものであったし、
だからこそ特別賞に選ばれているのだ。

いまはステレオサウンド・グランプリと名称は変っているけれど、
この賞の選考は毎年11月1日に行われる。
なので10月は、各社、各輸入商社が推すオーディオ機器の、賞に向けての試聴が行われる。
選考委員の方々の自宅で行われることもあるし、
メーカー、輸入商社の試聴室ということもあるし、ときにはステレオサウンドの試聴室で、ということもある。

AST1の、そういう試聴がステレオサウンドの試聴室であった。
長島先生と、当時の編集長で選考委員でもあった原田勲氏が聴かれた。

この日のことは、よく憶えている。

Date: 11月 2nd, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その11)

クリプッシュホーンの、こういう構造はデメリットとして考えていた。
クリプシュホーンを採用するかぎり、ウーファーはどんなユニットをもってこようと、
それほど高い周波数までの再生は無理である。

ウーファーに再生能力があっても、折り曲げられたホーン内を通ってくるあいだに、
高い周波数は減衰してしまう。
だからエレクトロボイスのパトリシアンではウーファーとミッドバスのクロスオーバー周波数は200Hzと、
あの時代のスピーカーシステムとしては、異例といえるほど低い。

ヴァイタヴォックスのCN191は2ウェイということもあって、
クロスオーバー周波数は500Hzと少し高い値になっている。
そのため、CN191は340Hz付近で10dB程度のディップを生じている。

これはクリプシュホーンを採用している以上避けられないこと。
誰が考えても明白なことで、
クリプシュホーン採用のスピーカーシステムをつくっていたメーカーの人間は、
当然、このデメリットはわかった上でなお採用しているのはなぜだろう? と考えたことがあった。

もうずっと前のことだ。
オーディオに興味を持ちはじめたころ、
クリプシュホーンがどういうものかを知ったときのことで、
まだ10代半ばだった私は、低音までのオールホーンシステムをつくるために、
ある意味、止むを得ずの選択だったのだろう、と結論づけてしまった。

それを、いまは訂正しなければならないかも、と思っている。
そう思わせたのは、この項の(その9)に書いたBALMUDAの扇風機である。

Date: 10月 31st, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その10)

モノーラル時代の大型スピーカーシステムは、そのほとんどが低音に関してもホーン型になっている。
しかも折曲げホーン、つまり縮小ホーンを採用している。

ホーン型は理論通り、計算式通りにつくると、大きくなりすぎる。
部屋ごと家ごとの製作となってしまう。
少なくとも運搬できる、製品として市場に流通できるものではなくなるから、縮小ホーンの採用となる。

縮小ホーンの代表格は、Kホーンとも呼ばれることの多い、
ポール・クリプシュによる考案のクリプッシュホーンである。

クリプシュホーンも、その原型はウェスターン・エレクトリックのW型フォールデッドホーンにまで遡るわけだが、
クリプシュホーンは、フルサイズの低音ホーンを1/16にまでできる、と謳っていた。

低音域までホーン型にでき、そのうえ通常のホーンよりも小型化できる。
いくつものスピーカーメーカーが採用するのもわかる。
クリプシュホーンそのまま、というものもあれば、
各社なりにオリジナルのクリプシュホーンをアレンジしているものもある。
そのどちらにしても、クリプシュホーンを採用する以上、ウーファーはかくれて見えない。

JBLのハーツフィールド、ヴァイタヴォックスのCN191、
これらをオーディオをまったく知らない人が見て、スピーカーだとわかる人はいないように思う。
一般の人がイメージするスピーカーはコーン型ユニットであり、
クリプシュホーンを採用したシステムでは、
通常のスピーカーのようにサランネットを外せばユニットが見える、ということはなく、
ホーンの開口部からのぞき込んでもウーファーの姿を見ることはできない。

クリプシュホーンとは、そういうホーンである。
通常ホーンを、最大1/16まで縮小できるかわりに、ウーファーからの直接音を聴くことはできない。
ウーファーからの音は、折り曲げられたホーンを通って開口部から放射される。

Date: 10月 28th, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その9)

5日前(10月23日)、こんな記事をインターネットで見かけた。
タイトルには「BALMUDA 風を発明した男」とある。
WIREDの記事だ。記事は5ページある。その4ページ目には、こうあった。
     *
「人間が自然の力や電気の力を利用して、自然界と類似の現象を再現することが機械の役割だとすると、自然の風を再現することこそが、これまでにない扇風機をつくるヒントになるんじゃないかと思いました。自然のそよ風は気持ちいいけれど、扇風機の風にずっと当たっていると、疲れますよね。それは、軸流ファンで空気を前に送り出すため、どうしても空気が渦を巻いてしまうからなんです。それに対して自然の風というのは、大きな面で移動する空気の流れなんです。これを、どうにかして扇風機で生み出せないかと考え始めました」

このとき、またしても寺尾を助けたのが春日井製作所であった。ここの職人たちが、扇風機を壁に向けて使っているのを、思い出したのである。

「職人さんたちは、快適な風を生み出す方法を、長年の経験から知っていました。風を一度壁にぶつけることで空気の渦成分が壊れ、面で移動する空気の流れに変わるわけです。確かにそうしてみると、風が柔らかくなるんですよ。やるべき方向性が見つかりました。あとは、どうやってそれを、『扇風機』のなかに落とし込むかでした」
     *
このところを読んだ瞬間、私の頭の中に同時に浮んできたのは、
エレクトロボイスの30Wの使い方だった。

扇風機が送り出す渦を巻いている風が、
ピストニックモーションによる低音だとすれば、
扇風機の風を一度壁に当ぶつけることで、その渦成分がくずれて風が柔らかくなるのであれば、
ピストニックモーションの低音が壁にぶつかることで、どうなるのか、
それを想像してしまった。

そして、この想像は、モノーラル時代の大型スピーカーシステムの構造へと飛ぶ。
エレクトロボイスのパトリシアン・シリーズ、ヴァイタヴォックスのCN191、JBLのハーツフィールドなどである。

Date: 10月 28th, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その8)

2002年、インターナショナルオーディオショウのタイムロードのブースにて、
ジャーマンフィジックスのThe Unicornを聴いて以来、
ジャーマンフィジックスのDDD型ユニットの音、The Unicornの音に惹かれるとともに、
ピストニックモーションに対する疑問が少しずつ大きくなってきている。

いま市場にあるスピーカー、
これまで登場してきたスピーカーのほぼすべてはピストニックモーションによって音を出している。
これまでは考えられてきた発音原理の多くもピストニックモーションの追求から生れてきている。

ピストニックモーションを完璧にすることがスピーカーの本当の理想像なのか、と思う。
完全なるピストニックモーションが実現できたとしたら、
その音に、音楽を聴いて何を感じるんだろう……とも思う。
正直、予測できない面もあり、もしかすると……と思う面もある。

でも、そういうことは完全なピストニックモーションが世に出てきたときに、
やっぱりそうだったのか、か、間違っていたな、とか、判断すればいいことと思いながらも、
DDD型ユニットのベンディングウェーヴという、非ピストニックモーションの発音原理のもつ可能性のほうに、
私の関心は、2003年からずっと、そこにある、といっていい。

現在のところ、低音域に関してはそれほど下まで再生はできないものの、
いちおうフルレンジ的に使えるスピーカーユニットとしては、
どちらもドイツ製の、DDD型ユニット、マンガーユニットがある。

ジャーマンフィジックスはDDD型のウーファーユニットを開発している、といっているものの、
いまだ登場しないところをみると、
実現は可能でも製品化が難しいのか、それとも実現困難なのか、はわからないが、
いまのところベンディングウェーヴで十分な低音域まで再生することは望めない。

そうなるとウーファーに関しては、現時点ではコーン型ユニット、
いいかえればピストニックモーション型のウーファーの助けを借りることになる。

ピストニックモーションのウーファーに、ベンディングウェーヴのフルレンジという組合せは、
竹に木を接ぐ的なところを感じなくもないが、実際にはこの手法しかないし、
それに菅野先生のリスニングルームでは、
竹に木を接ぐ的な面はいっさい感じさせない見事さが実現されていることを何度も耳にして体験しているだけに、
それほどウーファーの非ピストニックモーションにこだわることもない、とは思いつつも、
それでも非ピストニックモーションで、
ピストニックモーションのウーファーと同程度の低音再生ができないのか、とは考えてはいた。
それも無理すれば家庭におさまる範囲内で、である。