Archive for 12月, 2008

Date: 12月 31st, 2008
Cate: Kathleen Ferrier, 快感か幸福か

快感か幸福か(その4)

1年の最後に聴くディスクは、決めている。
カスリーン・フェリアーのバッハ/ヘンデル集である。
1985年に復刻されたCDを、いまでもずっと持ちつづけて聴いている。

このディスクだけは手離さなかった。
オーディオ機器も処分して、アナログディスクもCDも処分したときでも、
このディスクだけは手もとに残しておいた。

持っていたからどうなるものでもなかった。
聴くための装置もないし、ただもっているだけにすぎないのはわかっていても、
このディスクを手放したら、終わりだ、そんな気持ちがどこかにあったのかもしれない。

人の声に、神々しい、という表現は使わないものだろう。
でも、このディスクで聴けるフェリアーの声は、どこか神々しい。
いつ聴いても神々しく感じる。

厳かな時間がゆっくりと流れていく、とは、このことをいうのかと聴いていて思う。

23年間所有しているディスクだけに、ケースはキズがつきすこし曇っている。
けれど、ディスクにキズはひとつもない。

フェリアーのバッハとヘンデルを聴く時は、これから先もこのディスクで聴いていく。
いくら音が格段によくなろうと、PCオーディオにリッピングして聴くことは、
フェリアーの、この歌に関しては、ない。

愛聴盤を聴き続けていく行為とは、そういうものである。
だからこそ、愛聴盤になっていく。

いろいろあったし、これからもいろいろあるだろう。
でも、1年の終わりに、フェリアーをじっくり聴けるだけで、幸福というしかない。

Date: 12月 31st, 2008
Cate: 4343, DIATONE, DS5000, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その23)

ダイヤトーンは、DS5000の5年前(1977年)に、フロアー型の4ウェイ・スピーカーを発表している。
ただしコンシュマー・モデルではなく、放送局用として開発されたモデルで型番も4S-4002Pと、
2S305の流れを汲むものとなっている。
40cm口径のウーファー(ハニカム振動板)、18cm口径のミッドバス(これもハニカム振動板)、
5cm口径のミッドハイ、トゥイーターのみドーム型で口径は2.3cm。
エンクロージュアはバスレフでも密閉型でもなく、ウーファーと同口径のパッシヴラジエーターを採用している。
そのため、かなり大型といえ、高さは133.6cm、重量は135kg。
上3つのユニットは両端にハンドル付きのサブバッフルに取りつけられている。
エンクロージュアのサイドはウォールナット仕上げにはなっているが、
全体的な雰囲気は素っ気無い、やや冷たい感じを受ける。

ステレオサウンド 45号のモニタースピーカー特集で取りあげられているから、
一般にも市販されたと思われるが、いままで見たことはない。

同じ4ウェイでも、4S-4002PとDS5000はずいぶん雰囲気が違う。
DS5000からは、つくり込まれているという印象が伝わってくる。

資料や写真のみでの判断するしかないが、
4S-4002Pは、とりあえず4ウェイ・スピーカーを作ってみました、という感じを、
(私だけだろうが)どうしても受けてしまう。

Date: 12月 30th, 2008
Cate: 挑発

挑発するディスク(その7)

TSD15を取りつけた930stの音を、しみじみ、いい音だなぁ、と思ったことは幾度とある。
1985年、フィリップスの業務用CDプレーヤー、LHH2000が持ち込まれたときも、そう感じた。

CDが登場したのは、1982年10月。
発表日まで、CDの音を聴くことは、開発者・関係者以外いっさいできなかった。
26年前のCD発表日の前日の夜、ある人が、こっそりとステレオサウンド試聴室に、
CDプレーヤーとディスクを1枚持ってきてくれた。

はじめて聴いたCDの音だった。

ディスクは小沢征爾指揮によるR.シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」、
CDプレーヤーはマランツのCD63だった。
同じディスクを、まずエクスクルーシヴP3とオルトフォンのMC20MKIIで聴いたあとに、
いよいよCDを鳴らす。

出てきた音に、編集部全員が驚いた。
P3は、その後もずっと使いつづけている、合板を何層も積み重ねた高さ数十センチの、
重量も相当ある専用の置き台の上な、
CD63は、天板のセンターから脚が出ている、そんなテーブルの上。
当時は、まだヤマハのラックGTR1Bも登場してなくて、置き台に関してもそれほど関心が払われてなかった。

いまの感覚では、置き台に関して不利な条件のCD63。
しかもP3は重量45kg、一方のCD63は片手がひょいと持てる軽さ、おそらく4〜5kgだろうか。
大きさだって、大人と子供以上に違う。

にも関わらず出てきた音の安定感は、CD63が数段うわまわっていた。

Date: 12月 30th, 2008
Cate: 930st, EMT, 挑発

挑発するディスク(その6)

EMTの930st、トーレンスの101 Limited、呼び名はどちらでも良いが、
アナログプレーヤーとしての完成度は、コンシュマー用プレーヤー、
最近のハイエンドオーディオ・プレーヤーとも一線を画している。

1970年代のおわりには、クリアーなピンク色のディスクも、ハイクォリティディスクとして登場したが、
アナログディスクといえば、直径30cmの漆黒の円盤であり、
この円盤のふちを左右の手のひらでやさしく持ち、センターの穴周辺にヒゲをいっさいつけることなく、
すっとターンテーブルの上に置く。
そして最外周、もしくは希望する溝に、カートリッジをぴたりと降ろす。
この一連の動作を、ストレス無く行なえるプレーヤーは、930stの他に、いったいいくつ存在するだろうか。
昨日今日でっちあげられたプレーヤーとは出来が違う。

音質の新しさで、930stを上回るプレーヤーは、いくつかある。
930stを使ってきた者にとっては、プレーヤーとしての未熟なところが、目についてしまうこともある。

ノイマンのDSTを取りつけた930stの音はすごかった。
だからといって、TSD15での音がつまらないなんてことは、まったく感じなかった。

101 Limitedは、トーレンスのMCHIが付属カートリッジだったが、
TSD15も購入していたので、MCHIは、新しいレコードでトレースに不安を感じるときだけ使っていた。
もっとも超楕円のSFL針搭載のTSD15が出てからは、MCHIの出番は完全になくなった。

Date: 12月 30th, 2008
Cate: 4343, DIATONE, DS5000, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その22)

ダイヤトーンのDS505は見た目からして、
アラミドハニカムの振動板をウーファーとミッドバスに採用したとで、
それまで紙コーンが黒色に対して、山吹色といったらいいか、色合いからして、それまでと異る。
ミッドハイ、トゥイーターのドーム型も振動板とボイスコイルボビンを一体化したDUD構造とするなど、
いわばダイヤトーンとしての新世代のスタートを切るスピーカーでもあった。

それをブックシェルフ型で、価格も38万円(ペア)というところで出してきて、
市場の反応を見るというのが、日本のメーカーらしいといえよう。

DS505の音だが、実は一度も聴いたことがない。なかなか聴く機会がないまま、
ステレオサウンドで働くことになり、しばらくしたらDS5000が登場してきた。

ダイヤトーン新世代スピーカーの頂点にあたるモデルとして開発されたDS5000が、
ステレオサウンド試聴室に搬入されたとき、
ダイヤトーンの技術者が「4343が置いてあった場所にそのまま置けます」と言ったのをはっきりと憶えている。

4343の横幅は63.5cm、DS5000の横幅も63.5cmは同じで、
4343からの買い替えを狙って、この横幅に決定した、とのことだった。
奥行きは、4343が43.5cm、DS5000が46cmとすこしだけ大きいが、
4343はサランネット装着すると、奥行きは46cmくらいになる。
高さは、4343が105.1cm、DS5000が105cmと、徹底して4343を意識した寸法となっている。

Date: 12月 30th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その21)

スレッショルドの800Aは、1976年当時、118万円だった。
価格的に4343とほぼ同じだが、まったく無名の新興ブランドということもあってか、
実物を見たこともないという人も少なくない。

けれど、800Aが、国産ブランドのアンプの技術者に与えた影響は、4343のそれと匹敵するかもしれない。
800Aの登場以降、国産アンプの謳い文句に「Aクラス」の文字が増えている。
思いつくまま挙げれば、テクニクスのクラスA+(SE-A1に採用されている)と
ニュークラスA(SE-A3などプリメインアンプにも採用)、
ビクターのスーパーAクラス、デンオンのリアルバイアスサーキットによるAクラス、
Lo-DのノンカットオフA動作、などがある。

800Aも登場したばかりのころは、正確な情報がなかったため、純Aクラス・アンプのように思われたが、
実際は基本動作はABクラスで、出力が増えてBクラス動作に移行したとき、
通常ならば発生するスイッチング歪、クロスオーバー歪を、
特殊なバイアス回路の採用で発生そのものを抑えている。

これに刺激されて、各社から、独自のノンスイッチングアンプが登場したわけだ。
このとき、ステレオサウンドは、国産メーカー各社のアンプ技術者にアンケート調査を行なっている。
自社の技術の特徴と、他社の同様の技術の違いについて回答させたものをまとめた記事で、
技術者が自社製品の技術について語るだけとは異り、ひじょうに興味深い内容だった。

無線と実験やラジオ技術誌がやらなかった記事を、
ステレオサウンドがわかりやすく、しかもつっこんだ内容で、まとめてくれていた。

同様のアンケートを、4ウェイ・スピーカーを発表したメーカーの技術者に対して行なってくれていたら、と思う。
4343をどう捉えていたのかが、はっきりとわかり、ひじょうに面白い記事になったはずだ。

Date: 12月 30th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その20)

4343でコヒーレントフェイズを実現するのは相当に困難なことだが、
4ウェイ・スピーカーでコヒーレンスフェイズに近づける、ということになれば、
ホーン型ユニットを使わずに、
ダイレクトラジエーター(ドーム型、コーン型、リボン型など)のユニットで構成すれば、
それぞれのユニットの音源の位置関係のズレは、かなり小さいものとなる。

4343を意識した4ウェイ・スピーカーが、国産ブランドからいくつも登場した。
それらのスピーカーを見ていくことは、それぞれのブランドのスピーカー技術者が、
4343をどう捉えていたのか──長所はどこで、そして欠点はどこなのか、を間接的に知ることといえよう。

1976年、高効率Aクラス・アンプを謳い、
Aクラスで100Wの出力を可能としたスレッショルドのパワーアンプ、800Aが登場した。
当時のAクラス・アンプといえば、パイオニア/エクスクルーシヴのM4が代表的製品で、
出力は50W+50Wだった。空冷ファンを備えていたが、発熱量はかなりのものだった。

それが同じステレオ機で、出力が4倍の200W+200W。800Aもファンによる冷却だが、
発熱量はM4の4倍の出力をもつアンプとは思えないほど少なく、
筐体がカチンカチンに熱くなるということはなかった。

800Aは、二段構えの電源スイッチで、通常はスタンバイスイッチを入れっぱなしにしておき、
使用時にオペレートスイッチをいれるという仕組みで、
冷却ファンも風量を2段階で切り換え可能にするなど、家庭で使うことを配慮した、
アメリカのハイパワーアンプとは思えない面ももっていた。

800Aはそれほど日本には入荷していないそうだが、
私がよく通っていた熊本のオーディオ店には、800Aがなぜか置いてあり、音を聴く機会にもめぐまれた。

800AかSAEのMark2500か──、LNP2Lに組み合せるパワーアンプはどちらかよいか、
買えもしないのに、そんなことを迷っていたりした。

800Aはいいアンプだと思っていた。
おそらく、いま聴いてもなかなかのアンプのように思う。
当時のアメリカのアンプとは思えないような、清楚な印象の音は新鮮だったし、
しかも秘めた底力も持ち合わせている、どこか、そんな凄みがあった。

「800A、いいなぁ」、と思っていたところに、
五味先生が、ステレオサウンドで再開されたオーディオ巡礼の一回目に、
「スレッショールド800がトランジスターアンプにはめずらしく、
オートグラフと相性のいいことは以前拙宅で試みて知っていた」と書かれていたので、
ますます800Aの印象は、私の中でふくらんでいった時期がある。

Date: 12月 30th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その19)

JBLの4343と同時代のスピーカーのなかには、ユニットの位置合わせにはじまり、
ネットワークの位相特性にまで配慮した、いわゆるリニアフェイズ、
KEFの言葉を借りればコヒーレントフェイズ指向のスピーカーが登場している。

KEFの#105がそうだし、UREIの813は、特許取得のタイムアライメント・ネットワークで、
同軸型ユニットのメリットを最大限に引き出そうとしていた。

それらのスピーカーと見比べると、4343のユニット配置は、コヒーレントフェイズの観点からは、
考慮されているようには思えない。

瀬川先生の4ウェイ・スピーカー構想をあれこれ妄想・空想していた私は、
4343でコヒーレンとフェイズを実現するには、どういうユニット配置にしたらいいのか、
そんなことも考えていた。

高校生が考えつくことは、やはり限られていて、
思いついたものといえば、ウーファーとミッドバスの前面にフロントショートホーンを設けることだった。

UREIの813のネットワークに関する技術的な資料が、当時あれば、
ネットワークによる補正も考えられるのだが、インターネットなどない時代だから、無理である。

となると、フロントショートホーンということになるのだが、
これを4343のスタイルを崩さずにうまくまとめることは、不可能といってもいいだろう。

スケッチという名の落書きを何枚も描いてみたけど、4343のようにカッコよくは、どうしてもならない。
それに、ホーンがついた分、どうしてもサイズが大きくなる。
4343のスマートさとは、正反対のモノになってしまう。

1976年発表の4343を、21世紀のいま、メインスピーカーとして使うために、どうしたらいいのか。
そのためには、4343というスピーカーについて、とことん知る必要がある。
それが、4343を4343足らしめている要素をいっさい損なうことなく、につながる。

4343を現代スピーカーとして甦らせることについては、いずれまとめて書きたいと思っている。

Date: 12月 30th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その18)

JBLの4343に憧れていて、瀬川先生の4ウェイ・スピーカー構想をあれこれ空想・妄想していた時期に、
ダイヤトーンのDS505は登場したから、個人的な衝撃は、意外なほどあった。

38cm口径のウーファーをベースとするならば、4ウェイ・スピーカーはかなり大型となるが、
30cm口径ならば、ミッドバスも大きくて16cm、10cm口径のフルレンジ一発でもいける、
うまくすれば、ブックシェルフ型の4ウェイもできるんじゃないか、そんなことも考えたことがあっただけに、
DS505は、アラミドハニカム振動板の特有の色とともに、
当時、高校生だった私には、現実的な4ウェイ・スピーカーであった。

クロスオーバー周波数の、500、1500、5000Hzからも、
3ウェイ・プラス・スーパートゥイーターという構成ではなく、
本格的な4ウェイ・スピーカーとして開発されていることがうかがえる。
ウーファーとミッドバスが小口径になった分、クロスオーバー周波数も高くなり、コイルの値も小さくなる。
このことも、当時、現実的と受けとめたことのひとつでもある。

ステレオサウンドの新製品の記事は、井上先生が書かれていた。
カラーページだった、その記事を何度もくり返し読んだ。

Date: 12月 30th, 2008
Cate: 4343, JBL, 瀬川冬樹

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その17)

瀬川先生の4ウェイ・スピーカー構想は、フルレンジから始めるか、
2ウェイから、なのかによって、ユニットの選択肢が変わってくる。

2ウェイからはじめるのであれば、タンノイやアルテックの同軸型ユニットも候補となる。
タンノイだと25cm口径のモノ、当時だとHPD295Aだ。
アルテックだと……、残念ながら30cm口径の605Bもラインナップから消えていたし、
25cm口径の同軸型は最初から存在しない。

もっとも6041の例があるから、システム全体は大型化するものの、604-8G (8H)からのスタートもあり、だろう。

もっとも、この場合、タンノイにしてもアルテックにしても、
同軸型のトゥイーターは最終的には、ミッドハイとなる。

こんなふうに、当時はHiFi Setero Guide を眺めながら、いろんなプランを、私なりに考えていた、
というよりも妄想していた。

スピーカーシステムというように、ひとつのパーツから成り立っているわけでなく、
いくつかのユニットとエンクロージュア、ネットワークなどの、「組合せ」である。

アナログディスク、CDのプレーヤー、アンプ、
スピーカーシステムの組合せからオーディオが成り立っているのと同じように、
スピーカーシステムもアンプそれぞれも、すべて組合せである。

アンプは、増幅素子(真空管やトランジスター、ICなど)、コンデンサー、抵抗などの組合せから成り立っているし、
回路構成にしても、ひとつの組合せである。

さらに言うならば、スピーカーユニットにしても、振動板、エッジやダンパー、
マグネットを含む磁気回路、フレームなどからの組合せである。

オーディオに求められるセンスのひとつは、この「組合せ」に対するものではないだろうか。

Date: 12月 30th, 2008
Cate: 4343, JBL, 瀬川冬樹

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その16)

瀬川先生の4ウェイ・スピーカーの構想で、ウーファーを加えた時点でマルチアンプ駆動にするのは、
ウーファーに直列に入るコイルの悪影響を嫌ってのことである。

同時に、同じブランドのユニットでシステムを構成するのではなく、
ブランドもインピーダンスも能率も大きく異る点も含まれる混成システムでは、
マルチアンプにしたほうが、ネットワークの設計・組立てよりも、ある面、労力が少なくてすむ。
もちろん多少出費は、どうしても増えてしまうけれども。

出発点だったフルレンジ用にミッドバス用のキャビネットを用意すれば、エンクロージュアの無駄も出ない。

最後に、ミッドハイを加えて、4ウェイ・システムが組み上がる。

もちろんステップを踏まずに一気に4ウェイに取り組んでもいいし、
最初は2ウェイで始めてもいいだろう。

とはいえ、最初にフルレンジだけの、つまりネットワークを通さない音を聴いておくことが、
この瀬川先生の4ウェイ構想の大事なところだと、記事を読んで10年後くらいに気がついた。

Date: 12月 30th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その15)

ネットワークにおけるコイルの、音質に与える影響は、
クロスオーバー周波数が下がれば下がるほどコイルの値も大きくなり、それに比例していく。
直流抵抗値も増えていく。

コイルの値は、スピーカーのインピーダンスと関係し、インピーダンスが低くなれば、
同じクロスオーバー周波数でも、小さい値ですむ。

いまでこそパワーアンプの安定度が高くなったため、4Ωのスピーカーがかなり増えているが、
4343の時代(1976年から80年にかけて)は、スピーカーのインピーダンスといえば8Ωであったし、
4Ωのものは、極端に少なかった。

現代の4343といえる4348のウーファーとミッドバスのクロスオーバー周波数は、
4343と同じ300Hzだが、インピーダンスは6Ωと、すこし低くなっている。

4348の弟機にあたり、4348と同じウーファー1500FEを搭載している4338は、
ミッドレンジとのクロスオーバー周波数が700Hzと高めになっているため、
システムとしてのインピーダンスは8Ωだ。

4343が6Ωだとしたら、コイルの値も小さくなり、
4343の評価もかなり違ったものになっていた可能性もあるように思う。

4343登場と相前後して、アメリカのパワーアンプは、SAEのMark2500、GASのAmpzilla、
マランツのModel 510M、マークレビンソンのML2Lなどが登場しているから、
6Ωとして設計されていたとしても、アンプの選択に困ることはなかっただろう。

Date: 12月 30th, 2008
Cate: 挑発

挑発するディスク(その5)

ノイマンのDSTとDST62の違いは、おもにコンプライアンスで、
1962年に出たDST62のほうが多少ハイコンプライアンスとなっている。

DSTでカザルスのベートーヴェンを終わりまで聴いて、そのまま間髪を入れずにDST62で、
もう一度カザルスを聴く。

DST62だけを聴いていればよかったのだが、DSTを聴いた後では、
やや普通のカートリッジ寄りになっていることに、不満を感じていた。

ひとりで聴くには、なんとももったいない音で、当時サウンドボーイの編集長Oさんともいっしょに聴いたし、
後日、Oさんの友人で、サウンドボーイの読者訪問に登場されたことのある、
タンノイ・オートグラフを使われている方とも、やはりカザルスのベートーヴェンを聴いた。

年齢が、それぞれ10歳ほど違う三人とも、DSTの音に「白旗をあげるしかないね」ということで同じだった。

DSTとDST62は、自宅でも数週間にわたって聴いた。

Date: 12月 29th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その14)

コイルの性質には、いくつかある。

まず挙げたいのがレンツの法則と呼ばれているもので、コイルは、電流の変化を安定化する働きをもつ。
それまで無信号状態のところに信号が流れようとすると、それを流させまいと働くし、
反対に信号が流れていて、信号がなくなる、もしくは減ろうとすると、流しつづけようとする。
この現象は、中学か高校の授業で習っているはず。

このとき何が起こっているかというと、コイルからパルスが発生している。
このパルスは、ある種のノイズでもあり、他のパーツに影響をあたえる。

2つ目の性質は、相互誘導作用。
2つ以上のコイルが近距離にある場合、ひとつのコイルに流れる電力が他のコイルにも伝わる。
この性質を利用したものが、トランスだ。

3つ目は、共振。
コンデンサーと組み合せることで、電気的な共振がおこり、
ある周波数でインピーダンスが下がったり上がったりして、
電流が流れやすくなったり流れにくくなったりする。

コイルの性質とは言えないが、共振には機械的な共振もある。
音声信号が流れれば、少なからず振動する。

真空管アンプ全盛時代はそうでもなかったが、トランジスターアンプに移行してからは、
コイルの使用は、アンプでは敬遠されがちである。

やっかいな性質をもっているのは確かだが、コンデンサー型やリボン型などをのぞくと、
ほとんどのスピーカーの動作はコイルによって成り立っているのも忘れてはならない。

Date: 12月 28th, 2008
Cate: 挑発

挑発するディスク(その4)

DSTを取りつけて、まずは、ひとりで聴いた。

カザルス/マールボロ音楽祭管弦楽団のベートーヴェンのディスクは国内盤で、
宇野功芳氏が解説を書かれている。

触れれば手から血が出る、こんな表現を使われていた。

DSTが鳴らしたカザルスは、まさしく触れれば手から血が出る音。
それも他のプレーヤー、他のカートリッジではカミソリの刃ぐらいだったのが、
DSTでは、おそろしく切れ味の良い刃物になる。質量のある切れ味だ。

若さもあってか、この音には惹き込まれた。