挑発するディスク(その7)
TSD15を取りつけた930stの音を、しみじみ、いい音だなぁ、と思ったことは幾度とある。
1985年、フィリップスの業務用CDプレーヤー、LHH2000が持ち込まれたときも、そう感じた。
CDが登場したのは、1982年10月。
発表日まで、CDの音を聴くことは、開発者・関係者以外いっさいできなかった。
26年前のCD発表日の前日の夜、ある人が、こっそりとステレオサウンド試聴室に、
CDプレーヤーとディスクを1枚持ってきてくれた。
はじめて聴いたCDの音だった。
ディスクは小沢征爾指揮によるR.シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」、
CDプレーヤーはマランツのCD63だった。
同じディスクを、まずエクスクルーシヴP3とオルトフォンのMC20MKIIで聴いたあとに、
いよいよCDを鳴らす。
出てきた音に、編集部全員が驚いた。
P3は、その後もずっと使いつづけている、合板を何層も積み重ねた高さ数十センチの、
重量も相当ある専用の置き台の上な、
CD63は、天板のセンターから脚が出ている、そんなテーブルの上。
当時は、まだヤマハのラックGTR1Bも登場してなくて、置き台に関してもそれほど関心が払われてなかった。
いまの感覚では、置き台に関して不利な条件のCD63。
しかもP3は重量45kg、一方のCD63は片手がひょいと持てる軽さ、おそらく4〜5kgだろうか。
大きさだって、大人と子供以上に違う。
にも関わらず出てきた音の安定感は、CD63が数段うわまわっていた。