Archive for 11月, 2024

Date: 11月 30th, 2024
Cate: 使いこなし

セッティングとチューニングの境界(その30)

以前から、オーディオには三つのingがあり、
セッティング(setting)、チューニング(tuning)、エージング(aging)であり、
この三つのingをごっちゃにすることなく、
常にその境界を意識していくことが、いつかは訪れる──、
何度も書いていている。

この項の(その27)では、
セッティングに深く関係してくるのは精度、
チューニングに深く関係してくるのは練度、と書いた。

エージングに深く関係してくるのは、熟度だろう。

精度、練度、熟度。
こんなことを考えなくても、意識しなくても、
オーディオはやれる──。

そういう声があり、むしろそういう声の方が多いのかもしれないと思いながらも、
私はそういう態度でいようとは思っていない。

Date: 11月 29th, 2024
Cate:

いいじゃないの幸せならば

グラシェラ・スサーナの訃報。
ここ数日はグラシェラ・スサーナの歌をいくつか聴いていた。
なのになぜか今回は聴いていない歌が、頭の中だ繰り返し響いている。

「いいじゃないの幸せならば」が響いている。

「いいじゃないの幸せならば」は、
佐良直美が1969年のレコード大賞を受賞した曲だから、
テレビから流れていたのを聴いていたのかもしれないが、
私にとっての「いいじゃないの幸せならば」は、
グラシェラ・スサーナの歌である。

聴いたのは中学生の時だ。
歌詞、その退廃さといっていいのだろうか、
それを中学生が理解していたとは言えないが、
グラシェラ・スサーナの「いいじゃないの幸せならば」は、重く湿っていた。

なぜ、訃報後聴いていないのに、「いいじゃないの幸せならば」なのか。

それは、これを歌った十数年後のグラシェラ・スサーナ自身の歌ともいえるからかもしれない。

ソニーミュージックから発売になったスサーナのアルバムは、
スサーナ一人の歌唱ではなく、
お世辞にもプロの歌手とは言えない女性と一緒のものだった。

なぜ? と東芝EMIのころからスサーナを聴いてきた人ならば、
そう感じ思っただろう。

でも、グラシェラ・スサーナが、
結婚相手から家庭内暴力を受けていたことを、
いまは知っている。

だから、「いいじゃないの幸せならば」が鳴ってきたのか、
単なる偶然なのか、その辺のことはなんともいえないが、
スサーナ自身は、どうだったのだろうか。

Date: 11月 28th, 2024
Cate: 異相の木

「異相の木」(好きな音と正しい音・その2)

「趣味なんだから……」、
昔から、そしていまもソーシャルメディアでよく見かける。

「趣味なんだから……」につづくのは、ほとんどの場合、
好きに関することだ。
趣味なんだから好きにやらせろ、
趣味なんだから、好き嫌いだけでいいんだ、とか。

「趣味なんだから……」は、免罪符なのか。
そういっていれば、オーディオは楽しいのか──、と私は昔から思っている。

オーディオは録音と再生の約束事が守られていることが、大前提である。
「趣味なんだから……」と、すぐに行ってしまう人は、
この約束事すら無視するのか。

そして、ここでも孔子の論語を引用したくなる。
ついこの間、別項で引用したばかりだか、その別項とも関係してくる。

子曰く、
吾れ十有五にして学に志ざす。
三十にして立つ。
四十にして惑わず。
五十にして天命を知る。
六十にして耳従う。
七十にして心の欲する所に従って、矩を踰えず。

以前、別項で二回引用した孔子の論語が頭に浮ぶ一年でもあった。

子曰く、
吾れ十有五にして学に志ざす。
三十にして立つ。
四十にして惑わず。
五十にして天命を知る。
六十にして耳従う。
七十にして心の欲する所に従って、矩を踰えず。

《七十にして心の欲する所に従って、矩を踰えず。》、
ここである。

「趣味なんだから……」と、そこに留まっていたのでは、
《七十にして心の欲する所に従って、矩を踰えず》の域には、
到底辿り着けない。

Date: 11月 27th, 2024
Cate: ディスク/ブック

The CONCERTGEBOUW Legacy(その後)

10月25日に、”The CONCERTGEBOUW Legacy”が発売になった。
いままでの例だと、その日に配信も始まる。
リマスタリングされたアルバムだと、96kHz、24ビットであることが多い。

今回の”The CONCERTGEBOUW Legacy”もそうだと、勝手に思っていた。

10月25日に配信も始まれば、
11月のaudio wednesdayに間に合う、鳴らすことができると期待していた。

いくつのアルバムは配信された。
ストラヴィンスキーは、「火の鳥」だけだった。
「春の祭典」はなぜかなかった。

「火の鳥」も96kHzではなく、44.1kHzだった。それでも音は良くなっている。

「春の祭典」は、いつになるのか待っていたけれど、
私が検索したかぎりでは、しばらくなかった。

先日、思い出してみたら、「春の祭典」もあった。
以前からあるストラヴィンスキーのバレエ音楽三部作をすべてまとめたものではなく、
「春の祭典」と「ペトルーシュカ」とのカップリングの方だ。

これもよく仕上がっている。
11月のaudio wednesdayでは「春の祭典」をかけた。
機会をみて、リマスターの「春の祭典」をかける。

Date: 11月 27th, 2024
Cate: audio wednesday

audio wednesday (next decade) –第十一夜(BOSE 901で聴くグラシェラ・スサーナ )

一週間後のaudio wednesdayは、告知しているように、
BOSEの901 Series Vで現代音楽を聴く(鳴らす)。

そのことに変更はないが、開始までの約一時間は、
グラシェラ・スサーナを鳴らすつもりでいる。

11月の会では、18時から開始時間の19時までの一時間を、
リクエストタイムにあてた。
今回もそうする予定でいたが、グラシェラ・スサーナが亡くなったので、
この時間は私のわがままを通して、スサーナ だけの一時間とする。

なので12月の会ではリクエストはなしとなる。

Date: 11月 26th, 2024
Cate: 1年の終りに……

2024年をふりかえって(その10)

11月22日夜、思い出したように「グラシェラ・スサーナ 」で検索した。
一年に一度くらい検索している。
新しいCDが出ていないのか、それを知りたいためなのだが、
四日前の検索は、違っていた。

検索結果のトップは、読売新聞の記事だった。
グラシェラ・スサーナが亡くなったことを伝える記事だった。

人はいつか死ぬ。
遅いか早いかはあっても、死なない人は一人もいない。

グラシェラ・スサーナだって、いつかは死ぬわけで、
とても悲しいという気持はわいてこなかった。

グラシェラ・スサーナに限らない。
好きな演奏家が亡くなっても、もう新録音は聴けないのか……、
そうは思うが、それ以上の感情を持つことは、久しくない。

それは録音が残っているからだ、と私は思っている。
誰かの死を嘆き悲しんだりはしない。
けれど録音を残してくれていることには感謝している、
ありがとう、という気持も忘れたりはしない。

13歳の秋に、グラシェラ・スサーナの歌に出逢った。
衝撃だった。
それからずっと聴いている。
いまも聴いている。

グラシェラ・スサーナが、どういう人生を送っていたのかは、
断片的に知っているくらいだ。

1990年ごろに東芝EMIからソニーミュージックに移籍した時のゴシップ的な記事も読んでいる。
その後のことも少しは知っていたけれど、
今回改めて検索して、スペイン語の記事を見つけた。

DeepLでの翻訳で読んだ。
知らなかったことが多かった。

YouTubeで、ここ数年のグラシェラ・スサーナの姿を捉えた動画もいくつか見た。

だからといって、聴き方が変るということはない。
これからも聴いていくだけだ。

Date: 11月 25th, 2024
Cate: 1年の終りに……

2024年をふりかえって(その9)

目の前に「コンポーネントステレオの世界」がある。
私が最初に手にして「コンポーネントステレオの世界」は、
1976年末に出た’77年度版だ。

「コンポーネントステレオの世界」は1981年末に出た号が最後だった。

このころ年末になると、各オーディオ雑誌が別冊を出していた。
ステレオサウンドが「コンポーネントステレオの世界」、
ステレオが「ステレオのすべて」、
ラジオ技術が「コンポグランプリ」、
オーディオ雑誌社ではないが、朝日新聞からは「世界のステレオ」が出ていた。

当時学生だった私にとって、冬休みにじっくり読める、これらの別冊の発売は、本当に楽しみだった。

中学生、高校生だったから、すべてを買えたわけではない。
楽しみにしていたのは、「コンポーネントステレオの世界」だった。

その「コンポーネントステレオの世界」が出なくなって、四十年以上経つ。
年末に別冊が出なくなって、かなり経つ。
出ないのが当たり前になってしまっている。

学生だったころ、この時期、
「コンポーネントステレオの世界」の発売を楽しみにしていたことを、
ふと思い出した次第。

Date: 11月 24th, 2024
Cate: 1年の終りに……

2024年をふりかえって(その8)

今年はなんといってもアリス・アデールが来日してくれてこと、
これが私にとっては、最も嬉しかったことだ。

二回のリサイタルを聴いた。
「フーガの技法」も聴くことができた。

アリス・アデールはフランスに戻ってから、録音の予定がある、ということだった。
10月に、”Chimères”が出ている。

96kHz、24ビットで配信されている。
TIDAL、Qobuz、Apple Musicで聴ける。

Date: 11月 24th, 2024
Cate: 4343, JBL, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(JBL 4343を聴いて思ったこと・その1)

11月のaudio wednesdayでの久しぶりの4343。
誰かが鳴らした4343の音ではなく、自分で鳴らした4343の音を聴いて、
改めてワイドレンジのことを考えてもいた。

4ウェイ構成の4343は、当時においてもワイドレンジを目指したスピーカーシステムだったが、
いま聴いても、これは軟弱なワイドレンジのことではなく、
しっかりとしたワイドレンジの音だと感じていた。

この時代のJBLの4ウェイ構成を、いまだ誤解している人がいる。
ワイドレンジとはなんなのかについては、
すでに書いているから詳しく繰り返さないが、
単に周波数レスポンスのことではなく、
個々のユニットのパワーリニアリティを含めてのダイナミックレンジ、
そして指向特性の均一性を含めてのことである。

何も4343が、4ウェイとして理想的な形を実現していた──、
とまではいわないが、ワイドレンジを上っ面だけで語り、
誤解している人が、いまでもいることは言っておきたい。

Date: 11月 23rd, 2024
Cate: 電源

ACアダプターという電源(GaN採用のアダプター・その6)

やっと日本を含むアジアでの発売が開始になったroonのNucleus One。
今回の発売で注目したいのは、
Nucleus One with Linear Power Supplyというモデルも用意されているところ。

通常のスイッチング電源仕様のNucleus Oneだけでなく、
文字通りのリニア電源仕様のNucleus Oneもある。

価格差は600ドルほど。
roonがリニア電源を用意したことで、
スイッチング電源否定派の人たちは、
やっぱりリニア電源なんだよ、と喜ぶだろう。

まだ聴いていないのだから、
どの程度の音の違いがあるのかについては何も言えない。

すでにリニア電源仕様のNucleus Oneを注文した人がいるので、
近々聴かせてもらえる。

その際、私が手を加えたGaNのスイッチング電源を持っていく予定なので、
比較試聴ができる。どれだけの違いがあって、
その結果を、私自身、どう受け止めることになるのか。

楽しみしているところ。

Date: 11月 22nd, 2024
Cate: Digital Integration

Digital Integration(roonのこと・その7)

今年春に発表になったroonのNucleus OneとNucleus Titan。

アメリカでは夏ごろから発売になったようだが、
ヨーロッパやアジアでは、まだだった。

facebookのroonに関するページでも、
ドイツでの発売はいつごろ?、イギリスはまだなのか、
そんな投稿をつい最近まで目にすることがあった。

少し前に、ようやくアジアでの販売が開始になった。
けれど、いま日本にはroonの代理店はない。

これまで輸入していた太陽インターナショナルはやめてしまった。
roonがハーマンインターナショナルに買収されたのだから、
それも仕方ないことと思うが、
だからといって日本のハーマンインターナショナルが取り扱いを開始したわけでもない。

やる気がないのか、それとも何か事情があるのか。
いまのところ、新しいNucleusを手に入れたければ、
roonから直接購入することになるようだ。

Qobuzも、ようやくサービスが開始になって、
これまでストリーミングにあまり関心のなかった人も、
やってみようかな、と、思い始めているかもしれない。

roonが良さそうだと思っている人も少なくないはずだ。
なのにNucleusに購入に、
代理店がいまのところないということで不安を持つ人もいるだろう。

早く、どこかに決まってほしい。

Date: 11月 21st, 2024
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(SNS = SESか・その22)

インターネットでの検索に熱心な人がいる。
関心のあることをインターネットでずっと検索している。

彼は何を検索しているのか。
真実を追求しているのだ、と彼は答えるだろう。
そう思い込んでいるのだから、
彼に対して、いえることは何もない。

彼は真実だと思い込んでいる。
けれど、それは真実ではなく、彼が信じている事であって、
それは真実というよりも信実でしかない。

そのことに彼が気づく日が来るのかは、わからないし、
インターネットにも、その答は存在しない。

Date: 11月 21st, 2024
Cate: 1年の終りに……

2024年をふりかえって(その7)

今年はホーン型スピーカーを聴く機会が、例年よりも多かった。
audio wednesdayでも鳴らしているし、
野口晴哉記念音楽室のスピーカー、
シーメンスのオイロダインとウェスターン・エレクトリックの594Aのシステム、これらの音も聴いている(鳴らしている)。

ホーン型なんて古い! と切り捨てる人がいる。
そういう人は両手をホーン状にして、口にあてて喋っては、
ほら、ホーン型はこんな音になるんです、という。

この程度の認識でホーン型をバカにする。

ホーン型すべてがいいわけではない。
いいホーン型もあれば、そうでもないホーン型もある。
このことはホーン型ではない、他の動作方式のスピーカーにも当てはまる。

こんな人のことは、もうどうでもいい。
今年は、いくつかのホーン型の音が聴けた(鳴らせた)。楽しかった。そのことを言いたいだけだ。

Date: 11月 21st, 2024
Cate: audio wednesday

audio wednesday (next decade) –第十一夜(BOSEとマッキントッシュ)

12月のaudio wednesdsyでは、
BOSEの901 Series VをマッキントッシュのMC275で鳴らすわけだが、
その理由は何度か書いているのでここでは省略するが、
昨日の、BOSEがマッキントッシュ・グループを買収したことには、
少々びっくりした。

オーディオ・ブランド(会社)も、買収されることはわりとある。
今回のようにニュースとして報道されることもあれば、
ひっそりと買収した(された)ことも少なくない。

だから、あのブランドとこのブランド、同じ系列だったのか──、
そんなふうに驚く人もいるだろう。

今回の買収そのものについては語らないが、
12月の会で組み合わせようとしていたBOSEとマッキントッシュが、
このタイミングで同じ会社になるとは、まったく予想していなかったし、
世の中、いろいろなことが起こるものだ、と思っているところでもある。

Date: 11月 20th, 2024
Cate: High Resolution

TIDALという書店(その36)

10月の終りに、ようやく日本でもQobuzのサービスが開始になった。
オーディオ雑誌の編集者ならば、ストリーミングを取り上げる。

先日発売になったステレオの12月号の特集は、やっぱりストリーミングである。
他の企画を予定していたとしても、差し替えよう。

ステレオはタイミングよく特集できたが、
ステレオサウンド、オーディオアクセサリーは、どうだろうか。

両誌とも特集は、賞である。毎年恒例の賞の発表だ。
この賞に多くのページがさかれる。

Qobuzが始まったからといって、第二特集として扱うことはないように思う。
ページ数が取れないからだ。

Qobuzが始まりました──、
紹介レベルの記事はやれても特集としては難しいはずだ。

ならば次号(3月発売)でじっくりやればいいのだけれど、
新鮮味はどうしても薄れる。
それを補うほどの充実した内容を期待したいところだが、
どうなるのか。

3月までにTIDALのサービスが開始ということになったら、
それはそれでいいタイミングということになる。

どちらにしてもステレオサウンドが、その執筆者たちが、
ストリーミングをどう扱うのか、どういう切り口で記事とするのか。
関心がある。