Archive for category 1年の終りに……

Date: 11月 26th, 2024
Cate: 1年の終りに……

2024年をふりかえって(その10)

11月22日夜、思い出したように「グラシェラ・スサーナ 」で検索した。
一年に一度くらい検索している。
新しいCDが出ていないのか、それを知りたいためなのだが、
四日前の検索は、違っていた。

検索結果のトップは、読売新聞の記事だった。
グラシェラ・スサーナが亡くなったことを伝える記事だった。

人はいつか死ぬ。
遅いか早いかはあっても、死なない人は一人もいない。

グラシェラ・スサーナだって、いつかは死ぬわけで、
とても悲しいという気持はわいてこなかった。

グラシェラ・スサーナに限らない。
好きな演奏家が亡くなっても、もう新録音は聴けないのか……、
そうは思うが、それ以上の感情を持つことは、久しくない。

それは録音が残っているからだ、と私は思っている。
誰かの死を嘆き悲しんだりはしない。
けれど録音を残してくれていることには感謝している、
ありがとう、という気持も忘れたりはしない。

13歳の秋に、グラシェラ・スサーナの歌に出逢った。
衝撃だった。
それからずっと聴いている。
いまも聴いている。

グラシェラ・スサーナが、どういう人生を送っていたのかは、
断片的に知っているくらいだ。

1990年ごろに東芝EMIからソニーミュージックに移籍した時のゴシップ的な記事も読んでいる。
その後のことも少しは知っていたけれど、
今回改めて検索して、スペイン語の記事を見つけた。

DeepLでの翻訳で読んだ。
知らなかったことが多かった。

YouTubeで、ここ数年のグラシェラ・スサーナの姿を捉えた動画もいくつか見た。

だからといって、聴き方が変るということはない。
これからも聴いていくだけだ。

Date: 11月 25th, 2024
Cate: 1年の終りに……

2024年をふりかえって(その9)

目の前に「コンポーネントステレオの世界」がある。
私が最初に手にして「コンポーネントステレオの世界」は、
1976年末に出た’77年度版だ。

「コンポーネントステレオの世界」は1981年末に出た号が最後だった。

このころ年末になると、各オーディオ雑誌が別冊を出していた。
ステレオサウンドが「コンポーネントステレオの世界」、
ステレオが「ステレオのすべて」、
ラジオ技術が「コンポグランプリ」、
オーディオ雑誌社ではないが、朝日新聞からは「世界のステレオ」が出ていた。

当時学生だった私にとって、冬休みにじっくり読める、これらの別冊の発売は、本当に楽しみだった。

中学生、高校生だったから、すべてを買えたわけではない。
楽しみにしていたのは、「コンポーネントステレオの世界」だった。

その「コンポーネントステレオの世界」が出なくなって、四十年以上経つ。
年末に別冊が出なくなって、かなり経つ。
出ないのが当たり前になってしまっている。

学生だったころ、この時期、
「コンポーネントステレオの世界」の発売を楽しみにしていたことを、
ふと思い出した次第。

Date: 11月 24th, 2024
Cate: 1年の終りに……

2024年をふりかえって(その8)

今年はなんといってもアリス・アデールが来日してくれてこと、
これが私にとっては、最も嬉しかったことだ。

二回のリサイタルを聴いた。
「フーガの技法」も聴くことができた。

アリス・アデールはフランスに戻ってから、録音の予定がある、ということだった。
10月に、”Chimères”が出ている。

96kHz、24ビットで配信されている。
TIDAL、Qobuz、Apple Musicで聴ける。

Date: 11月 21st, 2024
Cate: 1年の終りに……

2024年をふりかえって(その7)

今年はホーン型スピーカーを聴く機会が、例年よりも多かった。
audio wednesdayでも鳴らしているし、
野口晴哉記念音楽室のスピーカー、
シーメンスのオイロダインとウェスターン・エレクトリックの594Aのシステム、これらの音も聴いている(鳴らしている)。

ホーン型なんて古い! と切り捨てる人がいる。
そういう人は両手をホーン状にして、口にあてて喋っては、
ほら、ホーン型はこんな音になるんです、という。

この程度の認識でホーン型をバカにする。

ホーン型すべてがいいわけではない。
いいホーン型もあれば、そうでもないホーン型もある。
このことはホーン型ではない、他の動作方式のスピーカーにも当てはまる。

こんな人のことは、もうどうでもいい。
今年は、いくつかのホーン型の音が聴けた(鳴らせた)。楽しかった。そのことを言いたいだけだ。

Date: 11月 17th, 2024
Cate: 1年の終りに……

2024年をふりかえって(その6)

むかしから、詩、俳句、短歌が苦手だった。
作るのだけでなく、読むのも苦手意識がつきまとう。

それでも十年くらいに一度くらい、
ものすごい──、そんなふうに胸を抉られるような作品と出会うことがある。

今年は、それがあった。

河野裕子氏の歌だ。
「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が」

いまごろ知ったのか、と呆れられてもいい。
とにかく、今年は、この歌に出会えた。
それだけでいい、と思っている。

Date: 11月 14th, 2024
Cate: 1年の終りに……, 老い

2024年をふりかえって(その5)

以前、別項で二回引用した孔子の論語が頭に浮ぶ一年でもあった。

子曰く、
吾れ十有五にして学に志ざす。
三十にして立つ。
四十にして惑わず。
五十にして天命を知る。
六十にして耳従う。
七十にして心の欲する所に従って、矩を踰えず。

「七十にして心の欲する所に従って、矩を踰えず」、
このことを思い出しながら、
なぜ、そうなれない人がいるのか、
それどころか大きく矩を踰えてしまった音を出す人がいる。

齢を重ねなければ出せない音があるのは確かだが、
どう齢をとっていったかによって、矩を踰えるかどうかが決まっていくのか。

どこでそうなっていったのか、
そういうポイントは一つでなく、幾つもあったように思うし、
その度にずれていってしまうのか。

修正することは、もう無理だったのか。
その意味で、齢を重ねてしまったがゆえに、
出せない音が生まれてしまった──、ともいえよう。

そんなことを考えさせられた一年だった。

Date: 11月 13th, 2024
Cate: 1年の終りに……

2024年をふりかえって(その4)

別項で「オーディオのプロフェッショナルの条件」を書いている。

オーディオのプロフェッショナルとは、どういうことなのか。
今年は、そのことについて、いつも以上に考えさせられることが、
いくつか重なった。

結局、オーディオ業界にいて、お金を稼いでいれば、
その人はオーディオのプロフェッショナルということになる──。

もちろん、そういうレベルの低い人ばかりではないことはわかっている。
それでも、オーディオのプロフェッショナルを自称している人の中には、
そういうレベルの人が、決して少なくないことを、
今年は目の当たりにすることが何回かあった。

おそらく、ではなく、きっと来年も、そういう人を目の当たりにするであろう。

Date: 11月 10th, 2024
Cate: 1年の終りに……

2024年をふりかえって(その3)

audio wednesdayで音を鳴らすようになったこともあって、
今年はメリディアン のUltra DACを三回聴くことができた。
3月、6月、11月の三回だ。

このことも今年をふりかえって、嬉しかったことのひとつとして挙げたい。

Date: 11月 9th, 2024
Cate: 1年の終りに……

2024年をふりかえって(その2)

2020年12月、喫茶茶会記の閉店・移転に伴い、
audio wednesdayもいったん終了した。

2022年9月から再開したaudio wednesdayだけれど、
くり返し書いてきているように、どこか特定の場所を確保して、というわけではなかった。
とりあえず継続させていこう──、そこにとどまっていた。

なので以前のように音を出すことはできないでいた。
それが今年から大きく変った。

また音を鳴らせる。
聴いてもらえる。
このことの楽しさ、喜びはやってみればわかる。

確かに面倒なことは、常にある。
特にスピーカーをどうするかは、悩むところだった。
それでも毎回終ると、やってよかった、と思える。

喫茶茶会記からの常連の人たちも来てくれるし、
新しく常連となられた方たちもおられる。

これまでオーディオに関心のなかった人が、関心を持ってくれるようになったのは、
本当に嬉しいことだ。

今年はあと一回ある。
すでにスピーカーは搬入済みだから、気が楽だ。

12月に鳴る音も、個人的に楽しみにしている。

とにかく音を鳴らせるaudio wednesdayが、始められた。
そういう一年だった。

来年も続いていく。

Date: 11月 2nd, 2024
Cate: 1年の終りに……

2024年をふりかえって(その1)

2020年は11月8日から、
2021年は11月1日から、
2022年は11月10日から、
2023年は11月1日から、それぞれこの項を書き始めている。

今年は今日(11月2日)から。

まだ二ヵ月あるから、何が起こるか(起こらないか)は、
まったくわからないけれど、それでもひとつ思っているのは、
オーディオ関係の友人、仲間、知人で亡くなった人がいないことだ。

昨年は、同世代の友人(オーディオ仲間でもある)が亡くなった。
私より少し年上のオーディオ関係の知人、仲間も亡くなった。

だから今年は、誰も亡くなっていないことが、ほっとする。

これから先、何年生きているのかはわからない。
私よりも先に亡くなるオーディオ関係の友人、仲間、知人がいることだろう。

人はみな死んでいくのだから、
嘆いたりはしないが、一人去り、また誰かが去り……、
最後の独りになる可能性もある。

菅野先生が「みんないなくなったよ……」と呟かれたことがあった。
岩崎先生が亡くなり、瀬川先生も、その四年後に──、
1990年代になり、また一人、また一人──と、
菅野先生の周りにいてオーディオ評論家として活躍されていた人が去った。

ながく生きるとは、そういうことでもある。

Date: 12月 30th, 2023
Cate: 1年の終りに……

2023年をふりかえって(その6)

オーディオアクセサリー 191号、ステレオサウンド 229号、
どちらも特集は賞で、オーラのプリメインアンプVA40 rebirthが選ばれている。

オーディオアクセサリーでは表紙を飾っている。
いい製品なのだろう。

オリジナルのVA40が登場した時、私はすでにステレオサウンドを離れていた。
VA40を聴いたのは、早瀬文雄(舘一男)氏の部屋だった。

そのころの彼は自宅を建て直して、そうとうに広いリスニングルームを持っていた。
そこで聴いたわけではない。
自宅近くに、アパートを借りていた。
結婚して子供が生れて、一人で静かに原稿書きに集中したいためだ、と言っていた。

一度だけそこに行ったことがある。
スピーカーはJBLの4312だった。
現行製品の4312とは違い、このころまでの4312は4310、4311の流れをくんで、
ウーファーにはネットワークが介在しない構成だ。

この方式のよさもあれば悪さもあるから、
現行の4312よりも、この時代の4312の方がいい──、とは言い難いものの、
ネットワークの介在しない4312を鳴らしていたのが、VA40だった。
CDプレーヤーははっきりと憶えていないが、ビクターのXL-Z505だった。

そんなに長い時間聴いていたわけではないが、この時の音は印象に残っている。
木造のアパートだから、音量は控えめだ。

そういう音量だからこそ、4312の構成とVA40が互いにうまく相手のよさを抽き出していたのだろう。
舘さんの音は、いくつも聴いてきている。
そのなかで、印象に残っているのはダリのSkyline 2000の音と、4312とVA40の音である。

Date: 12月 19th, 2023
Cate: 1年の終りに……

2023年をふりかえって(その5)

ステレオサウンド 229号が、先週からKindle Unlimitedで読めるようになっている。
以前は一ヵ月、もしくはそれ以上待つこともあったけれど、
ここ数号、発売されてからけっこう早くにKindle Unlimitedで読める。

今春、原本薫子氏が亡くなったことは、
夏発売の227号の編集後記で触れられていた。

早瀬文雄(舘一男)氏のことは、たぶんないだろうな、とは思っていた。
追悼記事が載ることはない。
それはそうだろう。

それでも編集後記で誰かが、触れるのか。

早瀬文雄氏はステレオサウンドに連載を持っていた。
ステレオサウンドに書かなくなってからけっこうな時間が経つ。

若い読者は早瀬文雄の名前をきいても、誰なのかわからなかったりするだろう。
それでも以前からの読者ならば、知っている人は少なくないはずだ。

229号は一言もなかった。
それが、いまのステレオサウンドなのだろう……。

Date: 12月 11th, 2023
Cate: 1年の終りに……

2023年をふりかえって(その4)

二人の死は訃報で伝わってきたからはっきりとしている。
けれど、もう一人、友人でありオーディオ仲間のAさんが亡くなったようである。

はっきりとそうだとわかっているのではない。
けれど亡くなったとしか思えないことがいくつもある。

Aさんと出逢ったのは、2005年の秋だった。
インターナショナルオーディオショウのあとに、共通の友人のYさんが、Aさんを紹介してくれた。
きっと二人は相性がいいだろう、という予感があったそうだ。

二年前ぐらいから、体調がすぐれないとは本人からきいていた。
検査入院もしたけれど、特に悪いところは見つからなかった、ときいていたから、
いずれ体調も快復してくれるだろう──、そんなふうに思っていた。

けれど今年5月に、もう一度、検査入院をすると連絡があった。
彼が入院しているときにショートメールで少しやりとりしただけで、
退院してきたら、以前のように会えるだろう、と思いながら、
いつぐらいに退院なのかというメールを送信したところ、戻ってきてしまった。

えっ、と思い、電話してみると通じなくなっている。
自宅の固定電話も同じだった。

Yさんに確認してもらったけれど、同じだった。
彼のところにも5月の終りごろに短いメールが届いていた、とのこと。

このこと以外にもいくつかのはっきりした事実からいえるのは、亡くなったのだろう、だ。

Date: 12月 11th, 2023
Cate: 1年の終りに……

2023年をふりかえって(その3)

原本薫子氏とは、ステレオサウンドを辞めてからは、
二度ほど電話で短い時間話したきりで、それからは共通の知人からウワサをきくぐらいだった。

早瀬文雄氏(舘一男氏)は、けっこうながいつきあいだった。
舘さんが、ステレオサウンドに登場したころは、医学部を卒業して国家試験の浪人中だった。
なので自由にできる時間はたっぷりあったためか、かなり頻繁に会っていたし、
ステレオサウンド編集部にも遊びに来られていた。

それに当時、舘さんは久我山、私は西荻窪と、わりと近いところに住んでいた。
舘さんの、東京でのスピーカー遍歴はすべて知っているし、
彼がセレッションのSL600を鳴らしていた音以外はすべて聴いている。

北海道と京都にも聴きに行っている。
北海道ではエラックのCL330、京都ではJBLのDD66000だった。

東京から北海道、それから東京に戻ってきて京都へ。
また東京に戻ってきて、もう一度京都、そして沖縄への引っ越し。

東京だけでも、何箇所で音を聴いただろうか。
そんなつきあいも、舘さんが二度目の京都に行ってからは会うこともなくなっていった。

2020年、コロナ禍のころ、電話があった。ひさしぶりの電話だった。
その後、数回電話で話したり、ショートメールのやりとりをしたくらいで、
互いの近況について話すことはなくなっていた。

そんな感じなので、原本薫子氏と舘さんとでは、
オーディオを通してのつきあいが大きく違う。

だから二人が、別の年に亡くなっていたら、あれこれおもうことはなかっただろう。
けれど、二人とも2023年に亡くなっているから、ついついおもうことがある。

Date: 11月 23rd, 2023
Cate: 1年の終りに……

2023年をふりかえって(その2)

今年の1月29日から毎日更新しなくなっている。
昨秋の時点では、書くことをやめるつもりだったけれど、
別項で書いているように、終のスピーカーがやって来たことで、
毎日ではないものの続けている。

続けていることで、今年会えた人が数人いる。
書いてきてよかった、と思っている。

そして出会えた人もいれば、もう会えなくなってしまった人もいる。
検索してみると、日本では三十数秒に一人、亡くなっているらしい。

こうやって書いているあいだにも、どこかで誰かが亡くなっている。
そのなかにオーディオ関係者が含まれていることだってある。

今春、原本薫子氏、
今秋、早瀬文雄氏(舘一男氏)が亡くなっている。

原本薫子氏と舘一男氏とは、ステレオサウンドの試聴室で出会っている。
井上先生の使いこなしの記事、
76号に掲載されている「読者参加による人気実力派スピーカーの使いこなしテスト」である。

二人が読者代表として参加されている。
その二人が、二人とも今年亡くなっている。

単なる偶然なのだろう──、そう思いながらも、ほんとうに偶然なのだろうかとも思ってしまう。

二人を知らない人からすれば、偶然だよ、それ以外の何がある、ということになるが、
そう思えないのは、あることがひっかかっているからだ。

そのことについては、二人のプライヴェートについて触れることになるから、
誰にも話すことはしない。

一度だけ、菅野先生に話したことはあるが、それが最初で最後だ。