Archive for 1月, 2009

Date: 1月 31st, 2009
Cate: JC2, LNP2, Mark Levinson

LNP2について(その2)

ジョン・カールの設計思想として、それほどゲインを必要としない場合には、
差動回路を使っても初段のみである。
差動2段回路のJC2のフォノアンプは、ジョン・カール設計のアンプとしてはめずらしい。

JC2のフォノイコライザーはNF型イコライザーである。
RIAAカーブをNFBでつくり出している。そのためNFBループにコンデンサーが2つ使われている。
NFBがかけられているアンプはすべてそうだが、
次段のアンプの入力インピーダンスとともにNFBループ内の素子も負荷となる。
つまりNF型イコライザーアンプの負荷は容量性であり、
当然周波数の上昇とともにインピーダンスは低下していく。
それに対し安定した動作を確保するため、
JC2のフォノアンプの出力段はパラレルプッシュプル仕様となっているのだろう。

差動2段増幅になっているのも、このNF型イコライザーと関係している。
RIAAカーブは、1kHzを基準とすると、20Hzは+20dB、20kHzは−20dBのレベル差がある。
20Hzと20kHzのレベル差は40dBである。

20kHzのゲインを0dBとしても、20Hzでは最低でも40dBのゲイン(増幅率)は必要となる。
まして20kHzでゲイン0dBということはあり得ないから、
NFBをかける前のゲイン(オープンループゲイン)は、ある程度の高さが求められる。
ゲインの余裕がなければ、低域に十分なNFBがかけられなくなる。

十分なゲインを稼ぐための、差動2段増幅と考えていいだろう。

Date: 1月 31st, 2009
Cate: JC2, LNP2, Mark Levinson

LNP2について(その1)

マークレビンソンのLNP2のモジュールLD2の回路構成はどうなっているのか。

ジョン・カールにインタビューした時に聞いておけばよかった、と後悔しているが、
取材の目的はヴェンデッタリサーチについてだったので、仕方なかった。

私が持っているジョン・カールが設計したアンプの回路図は、
マークレビンソンのJC2、JC3、ディネッセンのJC80、
あとは自分で実物をみながら回路図をおこしたヴェンデッタリサーチのSCP1だけである。
このなかで、LNP2の回路を推測する上で、重要なのはJC2以外にないだろう。

LNP2はフォノアンプ、インプットアンプ、
アウトプットアンプのすべてに共通のモジュールLD2が使われているのに対し、
JC2は、フォノアンプとラインアンプは、モジュールの大きさも異るし、当然回路構成も大きく違う。
JC2のラインアンプは、初段のみ差動増幅の上下対称回路(2段増幅)、
JC3の電圧増幅部とほぼ同じといってよい。

フォノアンプは、上下対称回路ではなく、2段差動増幅回路になっている。
初段の差動回路の共通ソースには定電流回路が設けられ、
2段目の差動回路はカレントミラー負荷になっている。
出力段はFETによるプッシュプル回路で、しかもパラレル仕様である。

使用トランジスター数は、ラインアンプが6石(内FET4石)、フォノアンプは11石(内FET7石)となっている。

Date: 1月 31st, 2009
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(その7)

一度、ステレオサウンド試聴室のリファレンススピーカーだったJBLの4344のレベルコントロールを、
自分なりに徹底的に調整してみようと思い、夜、ひとりで試聴室にこもったことがある。

意外にもミッドハイのレベル差が大きく、少しずつ連続可変のレベルコントロールを動かしては音を聴き、
また席を立ち4344のところに行き、ほんの少しいじる。

あるポイントで、ひじょうにいい感じで、ヴォーカルが鳴りはじめた。
センター定位も、かなり気持ちよく、ぴたっと安定している。
もうひと息だな、とその時、思った。

このときの音は、これはこれで満足度の高い音だったが、直感的にもう少し詰められる、と感じたからだ。

さきほどよりも、さらにほんの少しだけレベルコントロールを触った。
椅子に坐り、音を聴く。先ほどの音が良かった。
ひとつ前の状態に戻した。もどしたつもりだったが、
鳴ってきた音は、もどっていない。さっきの音が鳴ってこない。

もう一度4344のところに行き、いじる。
けれども、レベルコントロールに使われている巻き線による連続可変型のためなのか、
同じ位置にしても(したつもりでも)、けっして同じ音にはならない、そんな気がしてくるほど、
不安定要素(不安要素といってもいいだろう)がある。

Date: 1月 31st, 2009
Cate: 4343, BBCモニター, JBL

BBCモニター考(その6)

ステレオサウンドの50号前半の数号にわたって、JBL 4343研究という記事が連載されていた。
詳細は憶えていないが、JBLのスタッフふたりによる4343の鳴らし込みといった内容の回もあった。
彼らが聴感でレベルコントロールを調整した結果(写真)が載っていたが、
左右でレベルコントロールの位置は、多く違っていた。

部屋の影響ももちろんあっての結果であるし、
4343に搭載されているユニットに、多少の音圧上のバラツキもあるのだろう。
それにレベルコントロールに採用されている巻き線式のアッテネーターの精度も、個人的には疑いたい。
意外にも、ここのバラツキが大きかったのかもしれない。

どこにいちばんの原因があるのかは置いておくとして、
少なくとも完成品としての4343は、一台一台すべての周波数特性が、
ある範囲内にぴったり収まっているわけではない。

4343のミッドバス、ミッドハイ、トゥイーターのレベルコントロールは飾りではない。
積極的に、それぞれのユニットのレベルを揃えるために必要不可欠なものだから、ついている。

彼らの調整が終った後、編集部による、
当時話題になっていたポータブル型のスペクトラムアナライザーのIvieの結果は、
左右の4343のレベルが見事に揃っていることを示していた。

BBCモニターに、4343のような連続可変のレベルコントロールがついている機種はない。
工場出荷時には、左右のペアの特性が揃えられていることも、関係していよう。

Date: 1月 31st, 2009
Cate: 井上卓也

井上卓也氏のこと(その1)

井上先生にはじめてお会いしたのは、ステレオサウンド 64号の新製品の試聴である。

たいてい試聴は午後1時からのスタートなので、午前中に試聴器材をセットし、
新製品の電源を入れウォームアップして、あとは井上先生の到着を待つばかりにしておく。

当時の新製品の担当者のSさんが「井上さんが来られるのは、夜だよ」と言う。
それでもいつ来られるかははっきりしないので、試聴室で、待っていた。
夕方ぐらいかなと思っていたら、あっという間に7時になり、お見えになったのは9時か10時くらいだったか。
これがステレオサウンド編集部で働きはじめて、1ヵ月ぐらいの出来事だった。

すでに何人かの方の新製品の試聴に立会っていたので、このくらいの新製品の数だと、
試聴の時間は、このくらいかな、とある程度予想していた。

予想は見事に、多くハズレた。

このとき、JBLの4411が含まれていた。
横置きのブックシェルフ型で、当時は、スピーカースタンドも、ほとんど市販されているものはなく、
このタイプは、意外に設置に一工夫いる。
4411のセッティングだけでも、どのくらいの時間をかけられただろうか。
長かった。まだ長時間の試聴ははじめてだっただけに、疲れもあったけど、
出てくる音の変化に耳をすましていると、楽しい。

ステレオサウンドに書かれたものだけを読んでいてはわからなかった、
井上先生の魅力、それに凄さを感じはじめた日になった。

Date: 1月 31st, 2009
Cate: サイズ, 井上卓也

サイズ考(その32)

30cmウーファーを4発使ったスピーカーシステムといえば、
インフィニティが1988年に発表したIRSベータがそうだ。
グラファイトで強化したポリプロピレン採用のコーン型ウーファーを4発、縦一列に搭載したウーファータワーと、
中低域以上はインフィニティ独自のEMI型なので、タワーというよりも、プレーンバッフル形状で、
指向性は前後に音を放射するバイポーラ型。

4発搭載されているウーファーのうちの1基は、MFB方式(サーボコントロール)が採用され、
専用のチャンネルデバイダーに、ウーファーからの信号がフィードバックされている。
このサーボコントロールをオンにした状態で、ウーファーのコーン紙を軽く押してみると、
瞬時に押し戻される感触があり、この機能を実感できる。

サーボコントロールのおかげだろうか、ウーファータワーのサイズは、奥行きがそんなにないのと、
フロントバッフルもウーファーのサイズぎりぎりまで狭められていて、実は意外にコンパクトである。

このIRSベータを、井上先生が、ステレオサウンドの試聴室で鳴らされた音を聴いた。
風圧を伴っていると感じるくらいの低音の凄さを聴くと、大半のスピーカーの低音の再生に物足りなさを覚えてしまう。

IRSベータの試聴がおわったあと、井上先生が、試聴室横の倉庫をのぞかれて、
「おい、あれ、持って来いよ」と言われた。
BOSEの301だった。

何を指示されるのかと思っていたら、301とIRSベータのウーファータワーの組合せだった。
おそらく、こんな組合せの音を聴いたのは、その時試聴室にいた者だけだろう。

井上先生の凄さは、こういう組合せでも、パッパッとレベルをいじり、それぞれの位置も的確に決められ、
ほとんど迷うことなく、ごく短時間で調整されるところにある。

この音も驚きであった。低音再生の深みに嵌っていくだろう。

Date: 1月 31st, 2009
Cate: 4343, BBCモニター, JBL

BBCモニター考(その5)

JBLの4343のウーファー2231A(フェライトモデルは2231H)は、マスコントロールリングを採用している。
コーン紙とボイスコイルボビンとの接合部に金属製のリング(アルミ製)を装着することで、
比較的軽いコーン紙を使いながらも、振動板のトータル質量を増すことで、f0を拡張している。

マスコントロールリングなしで、コーン紙を厚くして同等の質量とすると、中低域のレスポンスが低下する。
質量の増加を、ボイスコイル付近に集中させているのが、この方式の特徴である。
というものの、やはり振動系の質量は100gをゆうにこえていたと記憶している。
38cm口径のコーン型スピーカーとしても、その質量は重量級といえる。

これを強力な磁気回路で駆動すれば、能率はそこそこ高くなる。

ロジャースPM510の軽量級のポリプロピレンのコーン紙とほどほどの磁気回路でも、
2231Aとほぼ同じ能率を実現している。
理屈の上では、能率が同じであれば、初動感度は等しい。
だが感覚的には同じとは認識しないのではないだろうか。

低能率のスピーカーをハイパワーアンプで鳴らせば、高能率とスピーカーと同等の音圧を得られる。
だからといって、高能率なスピーカーに共通する特質を、そこに聴くことはできない。

数値上でつじつまは合っていても、感覚的なつじつまはどうなのだろう。

Date: 1月 30th, 2009
Cate: アナログディスク再生, 五味康祐

五味康祐氏のこと(その7)

「想い出の作家たち」のなかで、五味千鶴子氏が語られている。
     *
亡くなる前にベッドに寝ていても、毛布をシュッとかけなおして、「折り目正しくなってるか」とたずねるのです。
「ええ、きちんとなってますよ」と言うと安心しました。何かお見舞いの品をいただいても「真心こもってるか」と言います。「とても真心のこもったものをいただきましたよ」と言うと、「そうか、人間は折り目正しく、真心こめていかなきゃいけないよ」と言っていたのをよく覚えております。
     *
「折り目正しく、真心こめて」が、
五味先生がオーディオ愛好家の五条件のひとつにあげられている、
「ヒゲのこわさを知ること」につながっているのは明らかだろう。

漫然とレコードをあてがうことで、センタースピンドルの先端をレコードの穴の周辺で行ったり来たりさせて、
その跡が細く残る。光にあてると、すぐにわかるスジがヒゲだ。

「折り目正しく、真心こめて」レコードを扱うのであれば、
こんなヒゲがつくことはない。
レコードの扱いは、ひいては音楽の扱いである。
それでも、ヒゲがあっても、肝心の盤面にキズがなければ音には無関係とわりきっている人もいるだろう。

あえて言うが、必ずしも無関係とは言えない。
レコードのセンター穴も、アナログプレーヤーのセンタースピンドルも、その寸法に許容範囲がある。
規格によって定められている寸法ぴったりだと、すっという感じで、レコードをターンテーブルの上に乗せられない。
ごくまれにレコードのセンター穴がぎりぎりの寸法のためなのだろう、
レーベル面をぐいっと力を込めて押す必要があったレコードに出合ったこともあるが、
ほとんど全てのレコードがすっとおさまる。

つまりセンタースピンドルとセンター穴の間には、わずかだけど、すき間が生じている。
そのためレコードがかならずしもセンターにきている保証はどこにもない。
ほぼ確実にどの方向かにオフセットしているわけだ。

以前、ナカミチから、このレコードの偏心をプレーヤー側で自動調整する製品TX1000が出ていた。
TX1000で調整前と後の音を聴き較べると、レコードの偏心による
──偏心といっても、ほんのわずかなブレなのに──音の影響の大きさに驚かれる方も少なくないだろう。

TX1000のように自動調整機構がついてないプレーヤーでも、偏心の影響はすぐにでも確かめられる。
同じレコードをセットして音を聴く。そしていったんレコードを取り外して、またセットして音を聴く。
けっこう音の違いがあるのに気づかれるはずだ。
端的にわかるのが、カートリッジを盤面に降ろした時の音である。
通常、ボリュームを絞ってカートリッジを降ろし、ボリュームをあげるが、
レコードの偏心を確かめたい時は、あえてボリュームには触れず、いつも聴く位置にしておく。

偏心が少なく、ほぼ中心にレコードがセットされている時の、カートリッジが盤面に降りた時の音は、
スパッとしていて、尾をひかず気持ちのいいものだ。
偏心が多いと、「あれっ?」と思うほど、この時の音が違う。

使い手の手に馴染んだプレーヤーで、「折り目正しく、真心込めて」レコードをセットしていると、
たいていは、いい感じの位置にレコードが収まってくれる。

これは、私の体験から断言できる。
ステレオサウンドの試聴室で、それこそ多い日は、何度も何度もレコードを取りかえ、ターンテーブルに乗せている。
その回数は、半端ではない。

だから言える。
ヒゲをつけるようなレコードのセットでは、偏心も大きかろう、音も冴えないだろう、と。

Date: 1月 30th, 2009
Cate: 五味康祐, 伊藤喜多男

五味康祐氏のこと(その6)

ステレオサウンドの姉妹誌HiViに伊藤先生が、五味先生のことを書かれたことが、一度だけある。

五味康祐大人、と、そこには書かれていた。

五味先生は大正10年、伊藤先生は明治45年の生まれ。
だから、「五味康祐大人」の言葉のもつ重み、意味合いを想うにつれ、目頭が熱くなった。

伊藤先生も五味先生も、それぞれのモノに、心酔し惚れ抜いた人である、男である。
伊藤先生はシーメンスのスピーカーに、真空管(とくにウェスターン・エレクトリックの300Bに)。
五味先生はタンノイのオートグラフに。

惚れた、でも、惚れ込んだ、でもない。惚れ抜くことができた。

実現せずに終ってしまった、残念なことがあった、ときいている。
五味先生のお宅に、
伊藤先生製作のアンプ(コントロールアンプのRA1501と300Bシングルアンプの組合せ)を持ち込み、
聴いていただこうというものであった。
実現していれば、ステレオサウンドに載っていたであろう。
どういうふうに載っていただろうか。

もしかすると、オーディオ巡礼のなかで実現していたのかもしれない。
それまでのとは逆に、伊藤先生が五味先生のリスニングルームを訪ねられる、
という形でのオーディオ巡礼だったのではないか、と思ってしまう。

五味先生がなんと語られたのか、
伊藤先生と五味先生の語らい、それを五味先生は、どう言葉にされたのか……。

実現には、時間が足りなかった。

Date: 1月 29th, 2009
Cate: 4343, JBL, SX1000 Laboratory, Victor

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その49)

SX1000 Laboratoryのインディペンデントベースを、4343に使ってみたらどうなるだろうか。

4343の底板のサイズは63.5×43.5cm、SX1000 Laboratoryはすこし小さめで、55×37cmだから、
おそらく低域がタイトに締まった感じになる可能性がある。

4343にぴったりのインディペンデントベースがあったとしたら、どうなるだろうか。
4343の良さも悪さも露呈し、そのコントラストがはっきりするような気がする。

インディペンデントベースは、材質の固有音を積極的に音づくりに活かすモノとは正反対だけに、
それまでベースやスタンドの固有音に、うまく覆いかぶされていた欠点は、
よりはっきりと耳につくようになるだろう。
もちろん反対にそういった固有に音にマスキングされていた、良い面もはっきりと浮かび上がってくる。

だから固有音を活かしたベースなりスタンドは、スピーカーとの相性が、ことさら重要になる。
インディペンデントベースは、そんなことはまったくないとはいえないまでも、
ほぼ無視できるくらいに、固有音の少ない材質と構造となっている。

それだけに、スピーカーの使いこなしが、ますます重要になってくるのは、容易に想像できよう。
4343の場合、雑共振、不要輻射などの2次放射を適度に抑えることで、
聴感上のSN比を積極的に向上させていくのも、ひとつの正攻法な手だと言えるだろう。

だからといって、抑え過ぎてしまうくらいなら、いっそ4343ではなく、
他のスピーカーにしてしまったほうがいい、と私は思う。

4343とインディペンデントベースの組合せで使うようになったら、
4343に手を加えることになるだろう。

ここ10年以上、ベースやスタンドといえば、スパイクとの併用が当り前のようになっているだけに、
インディペンデントベースの設計方針、構造こそ、もう一度見直される価値がひじょうに高い。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その27)

LNP2とJC2を聴けばわかるが、同じ匂いがするといってもいいし、同じ血が流れている印象がある。
ことわるまでもないが、LNP2は自社製モジュールの搭載の方だ。

ML2LとML3Lはどうだろう。似ているところは、たしかにある。でも、どこか血がすこし異る、
異母兄弟、異父兄弟といったところか、もしくはいとこ同士か。
血縁関係にはあるが、少なくとも同じ父母をもつ兄弟という感じはない。

ML2LもML3Lも、登場した時は、どちらもマーク・レヴィンソンの設計と発表されていた。
正式に発表されたわけではないが、ML3Lはトム・コランジェロの設計だと思う。
ML7Lがコランジェロが、マークレビンソン・ブランドではじめて設計したアンプと、当時は言われていたが、
ML2L、ML3Lをレヴィンソンの設計と発表したぐらいだから、鵜呑みにはできない。
回路図が入手できるのであれば回路をみて、それ以上に音を聴いて自分で判断するしかない。

ML2Lは、ジョン・カール設計のJC3をベースに、おそらくコランジェロが改良を施したもの、
ML3Lは、コランジェロがすべてを手がけた、最初のアンプであろう。

2台並べて音を聴いてみると、とても同じ設計者の手によるアンプの音とは思えないことに、
すぐに気がつかれるはずだ。そのくらい、このふたつのパワーアンプの音は、性格が異る。

Date: 1月 29th, 2009
Cate: 五味康祐

五味康祐氏のこと(その5)

五味先生の書かれたものを、いくつか読み進めていくうちに感じていたのは、その洞察力の凄さだった。

もちろん文章のうまさ、潔癖さは見事だし、多くのひとがそう感じておられることだろうし、
そのことで隠れがちなのだろうが、歳を重ねて、何度も読み返すごとに、
その凄さは犇々と感じられるようになってきた。

「天の聲」に収められている「三島由紀夫の死」を、ぜひお読みいただきたい。
わかっていただけると思っている。

マネなどできようもない、この洞察力の鋭さが、オーディオに関しても、
こういう書き方、こういう切り口があったのか、という驚きと同時に、
オーディオについて多少なりとも、なにがしか書いている者に、
絶望に近い気持ちすら抱かせるくらいの内容の深さに結びついている。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その26)

ML2Lの2年後に、ML3Lが登場する。
200W+200WのAB級のパワーアンプである、このモデルは、ML2L同様、
マーク・レヴィンソンの設計によるものと、当初は発表されていた。

とは言うものの、ML2Lとはずいぶん違う仕上がりだった。
ステレオ構成ということを差し引いても、ML2Lとは違い過ぎる。

LNP2とJC2、コントロールアンプの、この2機種も、構成はずいぶん違うのだが、
イメージには共通するものが流れている。ディテールに対するこだわりは徹底して同じ。

そういう共通するものが、ML2LとML3Lには、ほとんど、というかまったく感じられなかった。
見た目のプロポーションからして、そうだ。
モノーラル構成とステレオ構成という違いがあるのを考慮しても、ML3Lはずんぐりむっくりした感じがつきまとう。

全体に黒を基調として、シャーシー左右にヒートシンク、フロントパネルは電源スイッチのみで、
ハンドルが付けられている。
こう書いていくと、ML2Lと同じことになるのだが、それだけである。ここで止まってしまう。

内部を見ると、さらにML2Lとの印象の違いは濃くなる。
整然と緻密なコンストラクションではなく、各パーツを接ぐ内部配線が雑然とした印象を与える。
平滑用コンデンサーとの位置の絡みがあるとは言え、2つの電源トランスが斜めに配置されているのも、
コンストラクションの詰めが甘い。十分な検討がなされていない、そんな感じをどうしても受けてしまう。

Date: 1月 28th, 2009
Cate: 五味康祐

五味康祐氏のこと(その4)

ステレオサウンドが以前出していたHiFi Stereo Guide、途中からAudio Guide Year Bookに変わった、
この本の編集を担当されていたのは、私がステレオサウンドにいたころはTさん、ひとりだった。

締め切り間際になると、別の部署の女の子が手伝っていたけれど、
ほとんどの作業をひとりで黙々とこなされていた。

Tさんは、五味先生の「西方の音」所収の「タンノイについて」で、
「私の友人でレーダーの製作にたずさわる技術者──かつはHi・Fi仲間である」と語られている、その人である。

以前はアンプの自作も手がけられていたときいたことがあるが、
それらはいっさいやめて、その時はQUADのシステムで
──スピーカーはESLの、それもブラック仕様の方、アンプは44と405のペアで、
アナログプレーヤーはリンのLP12(トーンアームはSMEだったか)を、
昔の電蓄を思わせる特注のラックに収められていた。

Tさんに訊いたことがある。五味先生の補聴器のことについて、確認したかったからだ。

音楽を聴かれる時は、補聴器は使われていなかった、と書かれたものを読んで、そう思っていた。
けれども一部では、補聴器をつけたままレコードを聴かれていた、という者がいた。
どう見ても、五味先生とつき合いのあった人とは思えない者が、そういうことを言う。

だからTさんに確認したかった。
ただ確認だけをしたかったのだ。

そのときTさんが、五味先生とレストランで食事をされていた時のエピソードを話してくれた。

補聴器は、こういうところでは用をなさないことが多い。
ナイフやフォークの振れ合う音、椅子を動かす音といった、周囲の雑音が取捨選択なしに耳に飛び込んでくるからだ。

だから耳元で、「五味さぁーん」とそこそこ大きな声で話す必要があったにもかかわらず、
バックグラウンドミュージックでベートーヴェンの曲が鳴っていると、
同席した誰もが気がつかないのに、五味先生だけが「ベートーヴェンの作品○○だ」と口にされたそうだ。
言われて耳をすますと、確かに鳴っているのに気がつく。
そういう音量だったのに、五味先生ひとりだけベートーヴェンに耳をすまされていた。

「不思議だったなぁ、五味さんのそういうところは」と懐かしそうに話してくださった。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その25)

ML2Lには、製造時期によって細部が異るのは、マークレビンソンの製品としては当然のこととして、
ユーザーの多くは受けとめていることなのだろうか。

私の知る限り、電源トランスが2度変更されている。
最初はEIコア型、そのすぐ後にトランスのうなりを抑えるためにエポキシ樹脂で固めたものがあり、
おそらく中期以降、ケース付きのトロイダルコア型になっている。

出力段のパワートランジスターも、最初はモトローラ製の2N5686と2N5684のペアだったが、
後期のロットには、このトランジスターが製造中止になったあおりで、NEC製のペアに変更されている。

つまりトロイダルコアの電源トランスのML2Lには、トランジスターがモトローラ製とNEC製があることになる。

スピーカー端子も変更されているし、天板も、写真で見ただけだが、まったくスリットのないタイプもある。
おそらく内部パーツも、LNP2LやJC2(ML1L)がそうだったように、頻繁に変更されていても不思議ではない。
むしろ、初期のロットから何一つ変更されていないほうが、マークレビンソンだけに不思議であろう。

どのML2Lが、音がいいのかは、どうしても関心のある人の間では話題にのぼる。
私のまわりにいるひとの間では、
圧倒的にエポキシ樹脂で固めたEIコアの電源トランス搭載のもので、一致している。

山中先生は、このタイプのML2Lを、シリアルナンバー続きで6台所有されていた。