Archive for 8月, 2012

Date: 8月 31st, 2012
Cate: 四季

夏の終りに(その2)

ヨハン・ブリュイネールは1999年にアメリカの自転車チーム、USポスタルの監督となる。
このチームには、癌から復帰したランス・アームストロングがいた。

アームストロングはこの年のツール・ド・フランスで初の総合優勝、
この後2005年まで総合優勝を続けている。7連覇である。

アームストロング以前、総合優勝は5回が最高であったし、
インドュラインですら6回目の総合優勝は無理だった。

1996年はオリンピック・イヤーということもあり、
ツール・ド・フランスは通常よりも早く開催された。
そのためもあってのことだろうが、例年にない悪天候が重なり山岳ステージでは積雪によるコース短縮があったほど。
暑くなればなるほど強さを増していく、と言われているインドュラインにとって、
予想外の寒さにより、6連覇確実といわれていたし、
インドュラインの故郷、スペインのバスク地方をとおるコースが、レースの後半に用意されていた。

それまでのインドュラインならば、バスクを通るステージまでに総合優勝を確実なものにしていたはず。
けれど結果は総合11位に終ってしまう。

2004年、やはりオリンピック・イヤーのこの年、
アームストロングは6連覇を達成した。
自転車競技が盛んではないアメリカの選手、ランス・アームストロングによる偉業ともいえる。

アームストロングがドーピングをやっている、というウワサは以前からあった。
これについての詳細は省くが、8月24日、USADA(全米アンチドーピング機関)が、
アームストロングの1998年8月1日以降の記録のすべて抹消する、という宣言を出した。

アームストロングが本当にドーピングをやっていたのかは、はっきりとしない。
これから先もずっとグレーのままだと思う。

私はドーピングを完全悪だと捉えていない。
ドーピングは魔法ではない。
最新のドーピングをやったからといって、
すべての選手がツール・ド・フランスで何度も総合優勝できるわけではない。

ただ思うのは、
1995年の第7ステージで「ベルギーの恥」とまでいわれた卑怯な走りをしたブリュイネールのもとで、
アームストロングのドーピング疑惑は起っている。
アームストロングは、1995年のブリュイネールの走りを「クレバーな走り」だといっている。
所属するチーム監督のことをあからさまに批判する選手はいないだろうが、
それでもまったく否定せずに「クレバーな走り」といってしまうアームストロングに、
どこかなじめないものを、すこし感じていた。

アームストロングがチーム・モトローラ時代に乗っていた自転車のフレームはエディ・メルクス製だった。
メルクスが現役引退後はじめた会社によるフレームである。

アームストロングは、フレームの”Eddy Merckx”のロゴを指して、「誰なの?」と訊ねている。
アームストロングは1971年生れ、しかもアメリカ生れだし、
もともとはトライアスロンの選手だったから、
1978年に引退したメルクスのことは知らなくても当然といえば当然なのかもしれないが、
ヨーロッパの選手とは違うなにかが、そこにはあるように感じてしまう。

Date: 8月 31st, 2012
Cate: 四季

夏の終りに(その1)

1995年のツール・ド・フランスでの、たしか第18ステージだったと記憶しているが、
この日のゴールでのランス・アームストロングのウィニングポーズは、いまも強く印象に残っている。

アームストロングがステージ優勝をとげた3日前のレースで、
チームメイトのファビオ・カサルテッリがピレネー・ステージでの下りコースで落車。
道路沿いの縁石で頭を強く打ち亡くなるという事故が発生した。

アームストロングは、左右の腕を高く上げ、さらに人さし指で天を指していた。
カサルテッリがステージ優勝をしたいといっていたコースでのウィニングポーズだった。

1995年のツール・ド・フランスは、いくつかのことがあった。
ミゲール・インドュラインが5度目の総合優勝、しかも91年からの5連覇。
過去、総合優勝5回を成し遂げた選手は、
ジャック・アンクティル、エディ・メルクス、ベルナール・イノーだけで、
しかも5連覇はインドュラインだけの偉業であった。

初日のプロローグは雨。
イギリスのクリス・ボードマンが、ロータス製のカーボン・モノコック・フレームのバイクで、
ステージ優勝を狙っていたものの、スタート直後のカーヴでの落車による足首の骨折でリタイア。
前年94年の、やはりプロローグでの圧倒的なボードマンの速さに驚かされていたし、
彼の走りをみたいと思っていただけに、ボードマンのリタイアは残念だった。

他にもいくつか書きたいことはあるけれど、自転車についてのブログでもないので、もうひとつだけにしておく。
第7ステージのことだ。

このステージは、クラシックレースとされているリエージュ〜バストーニュ〜リエージュと同じコースで、
クラシックレースを軽視している、クラシックレースでは勝てない、という批判的な声を打ち消すためなのか、
単独でアタックをしかけて集団を引離してしまう。
このときインドュラインにひとりだけついてこれた選手がいた。
ヨハン・ブリュイネールで、彼はゴール直前までいちどもインドュラインの前を走ることなく、
インドュラインを風除けとして体力を温存するため、ずっと後についていた。

ブリュイネールの行為はルール違反ではない。
けれどロードレースにおいて、
小人数でアタックをしかけたときには交互に先頭交代をしながら、というのが暗黙の了解となっている。

空気抵抗がなければ自転車はずっと楽に走れる。
だから小人数でのアタックではひとりにだけ負担をかけないように先頭を交代しながら走っていく。
ブリュイネール以外にも、後につくだけの選手はいないわけではない。
でも先頭を走る選手が、前に出ろ、という手で合図するし、
そうなると渋々なのかもしれないが、そういう選手でも先頭に出る。

第7ステージのゴールはベルギー。ブリュイネールの母国である。
ゴールにはベルギー国王の姿もあった。
ブリュイネールは、だから、このステージでの優勝を狙っていたのだろう。

ブリュイネールはゴール直前、ここではじめてインドュラインの前に出てステージ優勝をする。
こうなることはブリュイネールが一度も先頭にたたなかったことから予想できたことだった。

このステージでのブリュイネールの走りを、どう判断するのか。
ゴールにはベルギー国王だけでなく、
ベルギーが生んだ史上最強のロードレーサーと呼ばれるエディ・メルクスもいた。

メルクスはブリュイネールの走りに激怒した、と伝えられた。
「ベルギーの恥だ」とブリュイネールのことを呼び、
インドュラインこそ「真の王者」だと褒め称えた。

ブリュイネールがステージ優勝を狙っていること、
そのためぎりぎりまで後についているだけの走りをすることをいちばんわかっていたのは、
つねに先頭をひとりで走っていたインドュラインであり、
彼はいちどもブリュイネールに対して前に出るように促したことはなかった。
ただ黙々と先頭を走り続けていた。
ブリュイネールがゴール直前で彼を追い抜くこともわかっていたはず。

もしかするとインドュラインの実力からするとブリュイネールを最後まで抑えることもできたのかもしれない。
けれど、インドュラインは第7ステージの優勝を逃したことを悔しがってもいなかったし、
ブリュイネールに対し批判的な発言もしなかった。

メルクスが「真の王者」だと呼ぶのもわかる。
フランスのスポーツ・ジャーナリストらはインドュラインのことを「太陽王」と呼んでいた。

Date: 8月 30th, 2012
Cate: 「オーディオ」考

サイボーグ009(「オーディオ」考)

いま書店に並んでいる雑誌penの9月1日号は、「サイボーグ009完全読本」となっている。

サイボーグ009は、石ノ森章太郎氏の代表作のひとつ。
今秋映画も公開される。

サイボーグ009という作品そのものについて語ろう、というつもりではない。
penの、この特集のなかに
「改造人間の紡ぐ言葉に、思わず心が震える。」とタイトルがつけられたページがある。
そのなかに「未来都市編」からの引用で、
004(アルベルト・ハインリヒ)と009(島村ジョー)の対話からなる5コマのシーンが掲載されている。

このふたりの会話だ。
004:
……機械(メカニズム)がしばしば人間をうらぎることは──
……機械(メカニズム)を身体(からだ)に埋めこまれている
──身体(からだ)の半分以上が機械(メカニズム)の……
オレたちが一番よく知っている!?
009:
だけど004(ハインツ)──
その──〝うらぎる〟といういいかたは矛盾してるんじゃないか?
……機械(メカニズム)を人間あつかいしていることになる……!
004:
──そう
その矛盾だ!
──いまいましいことに身体(からだ)の中の機械(メカニズム)たちが……
オレの思い以上に働いてくれている時……
……なんてすばらしいヤツラなんだと──
思わず〝人間的〟に感情移入して讃美したくなる!
009:
……うん!
004:
……だが、それでもやはり
──人間的にあつかうのは……
……まちがっているし──
危険なんだ!

004と009がいう機械とは、彼らの身体の中に埋めこまれたメカニズムのことである。
だが、この機械は、そのままオーディオに置き換えても成り立つ。
そう考えた時、オーディオマニアの身体にオーディオというメカニズムが埋めこまれているわけではない。
けれど、コンサートで生の音楽を聴くことよりも、
オーディオというメカニズムを通して音楽を聴くことに時間も情熱も費やしている、ということは、
オーディオは外在化した身体の機械(メカニズム)──、
そう受け止めることができることに気がつき、
飛躍しすぎといわれようが004のことばが、ぐっと重みをまして感じられる。

penの次号は9月1日に発売になるので、
9月1日号に興味をもたれた方は、購入はお早めに。

Date: 8月 30th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その12)

1970年代も終り近くになったころ、
日本のオーディオメーカーは、コンデンサーや抵抗、ケーブルといった部品(受動素子)による音の変化を認め、
積極的に「音の良い部品」を選び採用することから一歩進んで、
部品メーカーと共同であったり、または自社開発で、オーディオ専用部品を開発するようになっていた。

こまかくあげていけばいくつもあるけれど、
私と同年代、または上の世代の方ならば一度は耳にされている部品としては、
オーレックスが全面的に採用したΛコンデンサーがあり、
パイオニアが、独自の無帰還アンプのZ1シリーズに採用したガラスケース入りの電解コンデンサーがある。

Λコンデンサーは当時のオーディオ雑誌に試聴記事が載っていたくらいだから、
一般市販もされたのではないだろうか。
当時は私はまだ上京していなかったから見かけることはなかったけれど、
秋葉原では流通していたのだろうか……。
ガラスケース入りの電解コンデンサーは、市販されなかったはず。

オーレックスとパイオニアだけ例に挙げたが、
各社それぞれ積極的にオーディオ専用部品を開発していた、と思う。

そのころ高校生だった私は、素直にすごいことだと受け止めていた。
それらの部品がほんとうに優れた音質を実現してくれるのにどれだけ役立っているのかはなんともいえないけれど、
そこには他社との差別化という理由もあるだろうが、
各メーカーの意気込みも感じられるのだから、オーディオはある時代、ベンチャービジネス的だったようにも思う。

いまでもこれらの部品がさらなる改良を加えられていたら……、と思うこともある。
けれどこれらのオーディオ専用部品の大半は消えていってしまった。

もちろんなんらかのかたちで、それらの部品開発がもたらしたものが、
現行の部品に活かさされているのだろうとは思っても、一抹の淋しさは否定できない。

そう、これらのオーディオ専用部品は消えていった……。
ということは、これらのオーディオ専用部品を積極的に採用したアンプをいま修理しようとしたとき、
しかもそれらの部品が不良となった故障の場合、
どのメーカーも、これらオーディオ専用部品をストックはしていない、と思われる。

Date: 8月 29th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その11)

海外製のオーディオ機器となると、
輸入商社が変ることにって修理、メンテナンスに関しての状況も大きく変ることもある。
良くなることもあればそうでないこともあるし、ほとんど変らないこともある。

それに輸入商社がなくなることもある。
その会社がなくなってしまったら、そのブランドの取扱いをやめることがある。
ある一定期間は取扱いをやめたあとでも修理に応じてくれるところがほとんどであるが、
それもそう長期間続けてくれるものではない。

修理、メンテナンスに関しては、国産メーカーならばここならば大丈夫、とか、
あそこはあまり良くない、とか、
海外ブランドに関しても、どこがいい、とか、一概にはいえない。

私自身は、といえば、以前はまったく修理、メンテナンスのことなど考慮せずにオーディオ機器を選んでいた。
とにかく音が良いこと、デザインが優れていること、
手もとにおいて愛着がわいてくるモノであることだけで、オーディオ機器を選んでいた。

多少動作が不安定とウワサされるモノであっても、
ほんとうにその音(性能)が、そのときの自分に必要と感じるのであれば、選んでいた。

いまはどうか、というと、そうは変っていない。
故障したら、なんとかなるだろう、なんとかならなかったら、自分でなんとかするしかない、ぐらいの気持でいる。

でも、ときどき、「これって、どう思います?」と訊かれることがある。
この場合の「これ」は、ある特定のブランドであったり、型番であったりする。

このとき、どう答えるかが、私の場合、昔と今とではすこしだけ違ってきているところがあり、
それは修理、メンテナンスに関することである。

Date: 8月 29th, 2012
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その27)

ダグラス・サックスへのインタヴュアーは、こんな質問もしている。
「ある人が莫大な資金をあなたに提供してレコード再生システムを改良するとしたら、どうやるか」と。

彼の答は、「レコード面に接触しないで再生する方法」である。
光学的に音溝をトレースして情報を読みとり電気信号とするもの。
この時点(1980年)では夢物語に近かった、この光学式プレーヤーも、いまや実現されている。
しかも登場したころ100万円をこえる、かなり高額だったものが価格的にも抑えられた機種も登場している。

ダグラス・サックスは、エルプの光学式プレーヤーをどう評価しているのか、知りたいところである。

なぜ彼は光学式だと答えているのか。
その理由については語られていないけれど、
従来の、ダイアモンドの針先で音溝を直接トレースして、
その振動を電気信号に変換して増幅・イコライジングという方法では、
再生機器の能力はカッティングレースの能力をこえることができないからだ。

だから彼は「ベターの段階でとどめておくべき」だと発言している。

機械式に音溝を読みとっていくかぎり、振動の問題から解放されることはない。
振動があれば共振の問題がある。
特にトーンアームの低域共振の問題は、トレース能力に大きく関係してくる。

もしカッティングでの限界である8Hzという低い周波数の音が大振幅でカッティングしてあったら、
どんなカートリッジ、どんなトーンアームをもってきても、まず完全なトレースは不可能であろう。

共振の問題からのがれるには光学式ということになる。
光学式はたしかに多くの技術的なメリットを持っている、と思う。
でも、心情的にはアナログディスクの再生は、
いままでどおりカートリッジでトレースして、の方式に惹かれるし、
アナログディスク再生の面白さは、こちらにあると感じている。

アナログプレーヤーの在り方について考えるのであれば、こういったレコードの事情を充分に考慮した上で、
アナログプレーヤーにおける「オリジナル」とは何か、について考えていく必要がある。

Date: 8月 29th, 2012
Cate: audio wednesday

第20回audio sharing例会のお知らせ

次回のaudio sharing例会は、9月5日(水曜日)です。

テーマは、セッティング、チューニングについて、その違いについて話そうと考えています。

時間はこれまでと同じ、夜7時からです。
場所もいつものとおり四谷三丁目の喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 8月 28th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その10)

このCDプレーヤーの件は、かなり特殊なことだったんだと思う。
これに似た話は、ほかに聞いたことはない。
まぁ、めったに起らないこととはいえるのだが、だからといって絶対に起らないことでもない。

修理、メンテナンスのためにメーカーは補修パーツをストックしておく必要がある。
その補修パーツを保管しておくにはそれだけの場所が必要だし、
オーディオ機器のパーツは温度、湿気によって劣化するものだから、ただ保管しておけばいいというものではない。
保管しておくためにお金が必要となる。
しかも補修パーツは会社の資産としてみなされるはずだから、税金もかかってくる(はず)。

だからメーカーは製造中止になってある期間がすぎたら修理が無理となるのはしかたないともいえる。

でもユーザーは、メーカーが思っている以上に、長く大切に使い続けているものである。
製造中止になって10年以上経ったモノ、
それもメカニズムを搭載していて、そこが故障した場合、修理は望みにくい。
それでもあきらめきれずにメーカーに問い合わせる。
無理です、という返事がくる。

ここまでは体験された方もいよう。
いまはメールで問合せをする人が多いはず。

でもメールでことわられたら、あきらめずに電話をして丁寧に修理を依頼すると、
条件つきで修理に応じてくれるメーカーも、またある。
確実に直せるとは約束できないけれど、みてみましょう、ということになることがある。
そして運良く、とでもいおうか、きちんと修理されてきた例を私は知っている。

そういうメーカーは、いい会社だな、と思う。
そして、メールは便利だけれどもで、やっぱり肉声だな、声によるコミュニケーションとも思う。

Date: 8月 28th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その9)

故障したら修理、
故障までいかなくても古くなってきたらメンテナンスが必要となってくる。

修理、メンテナンスに対して、そのメーカー、輸入商社がどう考えているのか、
実際のつかっているオーディオ機器が故障して修理に出してみないことには、はっきりとしたことはいえない。

それでも、ある程度想像がつく範囲のこともある。
ウワサが耳に入ってくることもある。

でも、なにかオーディオ機器を新たに購入する時に、
修理態勢、メンテナンス態勢まで気にして買う人は、いったいどのぐらいの割合なのだろうか。

まったく故障の心配のないオーディオ機器、
特性の劣化のないオーディオ機器というものが存在していれば、
修理、メンテナンスのことなんかまたく気にすることもないけれど、
故障する可能性は、どんなオーディオ機器であれ持っているわけだし、
特性の劣化しないオーディオ機器も存在しない以上、
購入時には、決して安い買物ではないのだから、少しは考慮した方がいい。

アキュフェーズ、ウエスギアンプは、内外のオーディオメーカーの中では例外的といえるだろう。
ここまで修理、メンテナンスに関して安心できるメーカーは、あとどこかあるだろうか。

アキュフェーズやウエスギアンプよりも規模の大きなメーカーはいくつもある。
日本では家電メーカーがオーディオ機器も作っていたわけだから、
会社規模は比較にならないほど大きい。
大きいから安心できる、いつまでも安心できる、というわけではない。

こんなことがあった。
ある家電メーカーのCDプレーヤーの第一号機。
安いものではない、そこそこ高価なのであった。
にもかかわらず発売3年ほどで修理が不可能ということで、
その時点の、そのメーカーの最高級機種との交換ということがあった。

製造中止になって、それほど長い期間があったわけでもないのに……、である。

Date: 8月 27th, 2012
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その26)

アナログディスクの周波数レンジは、どうなのだろうか。
ダグラス・サックスによると、カッティングレースは8Hzまでフラットなカッティングが可能、とのこと。
高域に関してはノイマンのレースでは25kHzまで、だそうだ。

8Hzから25kHzまで、CDと数値の上だけで比較してみると、遜色ない。
CDはDC(0Hz)から可能だが、現実にはそこまで帯域が延びている必要性を感じることは、まずない。
高域は単純に比較するとアナログディスクのほうが延びていることになる。

左右チャンネルのセパレーションは、どうだろうか。
15kHzのセパレーションを光学的な方法で測定すると35dBは確保できている、らしい。
このセパレーションの値だけは、CDと比較して大きく劣ることになるものの、
アナログディスクのもつスペックは、あなどれないことがはっきりとしてくる。

これらの値は、ひじょうに注意深くつくられたアナログディスクにのみいえることで、
S/N比と密接な関係にあるダイナミックレンジは、ダグラス・サックスが語っているように、
それぞれのプロセスで劣化していくものでもある。

とはいえ、アナログディスクの器としてのイメージは、
一般に思われているよりもそうとうに大きい、といえるわけだが、
このスペックはあくまでも、LPというレコードの最大スペックであり、
再生側がこれらの特性をあますところなく発揮できるかというと、そうではない。

ダグラス・サックスによれば、
中域・低域に関しては、市販されているいかなるカートリッジのトラッキング能力もこえるだけのレベルの記録は、
いまのどんなカッティングシステムももっている、とのこと。

彼はこう言っている。
     *
再生能力をこえるようなレコードをつくることはむしろよくない。そういうものをベストというべきではなく、ベターの段階でとどめておくべきであり、よい再生というのはその限界を心得たよいシステムによって得られるといえるでしょう。
     *
時代ととともに再生側は進歩している。
だからその進歩に応じて、ベターの段階も、年々向上していくように、
レコードの制作者側は、レコードをつくり送り出していた。

いいかえれば、アナログディスクの場合、つねにレコードの送り手(制作側)の技術的限界は、
再生側の技術的限界よりも上にあった、ということだ。
この点が、CDとの大きな違いである。

Date: 8月 26th, 2012
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その25)

ダグラス・サックスは、こう語っている。
     *
最近の大きなノイズ源の要素はマスターラッカー盤にあるといえます。いまのラッカー盤は五年まえにわれわれが使っていたものよりよくない。私はむかしラッカー盤のS/N比を測ったことがありますが、それは基準レベルにたいして、75dBもあった。以前RCAが行った実験で、ラッカーマスターで90dBのS/N比をもっていたと報じられていたものです。私の見るところでは、ラッカー盤はいまやますます品質がわるくなっている。事実、数年前に、ラッカー盤ではきこえなかったノイズが、いまのはきこえるのです。
     *
ラッカー盤の品質が悪くなっている──。
これは1980年の話であり、CDは登場していない、いわはアナログディスク全盛時代の話にもかかわらず、
アナログディスクの製造過程における最初の段階のラッカー盤のS/N比が悪くなっている、ということは、
当時の私には衝撃的だった。

ダグラス・サックスが言っている5年前(1975年)には75dBあったS/N比が、
1980年においてどれだけ劣化したのは、その値についてはふれられていない。
数年前のラッカー盤では聴こえなかったノイズがきこえるということは、
数dBの劣化ではなく、もしかすると10dB程度の劣化はあった、とみるべきかもしれない。

それにRCAの実験での90dBのS/N比は、いつのことなのだろうか。
これも詳細はふれられていないが、1975年よりも以前のことだろう。

おそらく、この90dBがラッカー盤のS/N比としては上限なのだろう。
そこから1975年の時点で15dBの劣化、1980年の時点でさらに劣化している。

そういえば、ステレオサウンドにいたころ長島先生からラッカー盤がどうやって造られるのか、聞いたことがある。
詳細は、なぜかほとんど記憶に残っていない。
自分でも不思議なほど憶えていない。けれど、職人技が要求されるものであることだけは憶えている。

型に材料を流し込んで出来上り、というようなものではない。

つまりラッカー盤のS/N比の劣化は、人の問題でもあるはず。
そうであるならば、いまのラッカー盤のS/N比は、いったいどれだけとれているのだろうか、と思う。
90dBは絶対にない、75dBもおそらくないはず。70dBを切っているとみていいだろう。
1980年の時点で、ダグラス・サックスが75dBよりも劣化している、といっているわけだから、
60dB程度ということもあり得るかもしれない。

残念ながら、技術とはそういう面ももっているのだから。

Date: 8月 26th, 2012
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その24)

ステレオサウンド 55号にダグラス・サックスのインタヴュー記事が載っている。
アメリカの”Audio”誌1980年3月号に掲載された記事の翻訳である。

記事のタイトルは「ディスク・レコーディングの可能性とその限界」となっている。
この記事の冒頭で、ダグラス・サックスはアナログディスク(LP)のダイナミックレンジは、
81dB前後だと語っている。

デジタルの場合、16ビットのPCMの理論値は96dBであるから、
アナログディスクの81dBは、そうとうに高い値であり、
ほんとうにそこまでとれるのか、と疑われる方もいよう。
私もこの記事を読むまでは、LPのダイナミックレンジがそこまで広いとは思いもしなかった。

けれどダグラス・サックスは、
ごく少数ながら81dB前後のダイナミックレンジをもつLPは世に出ていることで実証されている、といっている。
残念なのは、そのLPがなんであるかはわからない点である。

ただし、この81dBのダイナミックレンジを実現するには、
「よくカットされたラッカー盤から上質のビニールを使いうまく製盤され」なければならない、そうだ。
精選されていないプラスティック材料や平凡な製盤プロセスのレコードでは、
S/N比がすぐに10db程度おちてしまい、当然ダイナミックレンジもその分狭くなる。

LPのノイズは製造過程のどこで発生するのかについては、ダグラス・サックスは次のように語っている。
     *
レコード製造の問題のひとつは、ラッカー盤ばかりでなく、そのほかのプロセスの過程でも発生するノイズというものは、これはもう取り去ることはできないということてす。ラッカー盤のノイズばかりでない、質の悪いメタルマザーやスタンパーの発生するノイズ、マスターテープのいわゆるテープヒス、それからビニール自体の出す別なタイプのノイズがある。皆さんはこれら四種類のノイズをみんなきいているわけです。都合のわるいことに、これらのノイズはマスクされてきこえなくなるというものではく、みんなそれぞれがきこえてしまうということです。
     *
ダグラス・サックスがいう「四種類のノイズ」のうち、
私が衝撃的に感じたのはラッカー盤のノイズについて、である。

Date: 8月 25th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その24)

スピーカーのネットワークに並列型と直列型があることは、ずっと以前から知ってはいた。
私が中学生のときは、まだ技術的なことを解説した書籍がいくつも出ていた。
スピーカーに関する、そういう本もいくつもあった。

ラジオ技術から出ていた書籍は、中学生、高校生にとっては、
LPを一枚買うか、それとも本を買うか、迷ってしまうぐらいに、ほぼ同じ価格のが多かった。

ラジオ技術から出ていた一連の技術書は、
当時手に入れることのできる、もっとも充実した内容のものが多かった。

スピーカーの技術に関するのは「スピーカ・システム」というタイトルで、
山本武夫・編著、となっている。

この本でも当然ネットワークについて語られていて、
並列型と直列型があることも書いてある。
けれど直列型がどういうメリットがあるのかについてはふれられていない。

なにも、この本だけにかぎらない。
私が手にした本で、直列型ネットワークのメリットにふれたものは、ひとつとしてなかった。
どれも直列型がある、というだけにとどまっていた。

もっとも現実の製品をみても、
大半(90%以上)のスピーカーシステムは並列型のデヴァイディングネットワークを採用している。
直列型を採用しているのは、数えるほどしかない。
それでも現行製品で直列型を採用しているスピーカーシステムがあるのも、また事実である。

直列型のメリットは、いったいなんだろうか。
実を言うと、私もよくわかっていない。
いちど並列型と直列型の両方のネットワークを作ってみるべきなのだけど、まだやっていない。

ただデメリットは、ひとつ即いえることがある。
直列型では回路構成上、バイワイヤリングは不可能ということ。
そして、これに関連することだが、たとえばJBLの4343のようにスイッチひとつで、
バイアンプ駆動に切りかえるということも、無理である。

Date: 8月 24th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その8)

スピーカーを最悪まきぞえにするパワーアンプを、なかには積極的に客に薦める店員もいるかもしれない。
たぶん、いるであろう。
スピーカーがダメになってしまえば、新たにスピーカーシステムを売りつけることができる。
それらはけっして安くはないスピーカーシステムであることが多い。

さらには故障したパワーアンプも替えてしまうようにと薦める輩もいよう。
売上げだけを重視する店にいれば、そういうふうになっていってしまっても不思議ではない。

私は幸いにして、そういう店員に出会ったことはないけれど、
それに似た話をまったく聞かないわけでもない。

私が店員であれば、やはりスピーカーをきまぞえにするパワーアンプは、
客が納得ずくで購入するのであれば売っても、
そうでなければ、あまり薦めないだろう。

そのスピーカーシステムが現行製品であっても売りにくさを感じるだろうし、
ましてすでに製造中止になっていて、しかもそのメーカーが存在しなくなっているようなモノであれば、
しつこいくらいに確認したくなるはず。
とくにマルチアンプでシステムを組んでいる人に対しては、パワーアンプの安心度は重要なことである。

わずかな音の違いを求めていくのがオーディオの楽しみではあっても、
つねに音の追求が最重要、最優先されるわけではないこともあるのが、またオーディオである。

オーディオのシステムでなにがいちばん大切なのか。
すべて大切、ではあっても、やはりスピーカーだけは特別である。
愛着をもって鳴らし込んできたスピーカー、
入手するまでに苦労したスピーカー、
ある縁がきっかけで巡り廻ってきたスピーカー、
スピーカーはかけがえのないものであることが多い。

そういうスピーカーをなくすつらさを知っているオーディオ店の人であれば、
パワーアンプの薦め方は、そうでない店員とは違ってくる。

おそらくアキュフェーズとウエスギアンプを薦めていた人は、
そのつらさを知る人だろう。

Date: 8月 24th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その7)

故障と修理。
思い出したことがある。
ステレオサウンドで働くようになってから1、2年ほど経ったころ耳にした話がある。
ある地方のオーディオ店のことである。

このオーディオ店ではアンプには関して、アキュフェーズとウエスギアンプを客に薦めていた。
以前は、この店も海外製の高級(高額)なアンプを積極的に進めていた時期もあったらしい。
けれど海外製のアンプの中には故障してしまうと、国内の代理店、輸入商社での修理ではなく、
そのメーカーに送り返して、というものが少なからずあり、
さらには修理を終えてユーザーのもとに戻ってくるまで半年以上かかるものすらあった。

愛用しているオーディオ機器が一ヵ月から長いときには半年以上、リスニングルームからいなくなる。
この間、輸入商社から代替機が用意されることはほとんどないだろう。
店が代替機を用意することもあるだろう。

代替機を用意してくれても、ユーザーにとって愛機が不在なことにかわりはない。
海外製品を使うデメリットと理解してくれる客ばかりではない。
私だって、修理に半年かかるといわれれば、なにかがおかしいと思う。
誰だってそう思うだろう。
それは、高額な価格にみあった製品なのだろうか。

その点、アキュフェーズ、ウエスギアンプは故障そのものがすくない。
しかも修理体制が非常にしっかりしている。
かなり以前の製品でもきちんと修理されて戻ってくる。
このことを軽視しする人もいるだろう。

修理体制がしっかりしているのにこしたことはないけれど、
オーディオ機器でまず大事なのは、音の良さである、と。

私もそう思っているひとりである。
だからSUMOのThe Goldの中古を探し出して使っていたわけだ。

そういう私でも、めったに故障しなくて、
たとえ故障しても修理体制がしっかりしていることは、ひじょうに大きなメリットだと思うし、
そういうオーディオ機器(特にアンプ、それもパワーアンプ)は安心して使える。

なぜなら、パワーアンプの故障でもっともこわいのは、
アンプだけの故障にとどまらず、最悪の場合、スピーカーを破損してしまう危険性もある、ということだ。

おそらく、アキュフェーズとウエスギアンプを薦めるオーディオ店の店主は、
海外製のパワーアンプの故障によって、客の大事なスピーカーを破損してしまうということがあったのだと思う。

客が指名して、そのアンプを購入したのであれば、販売した店、店主に責任があるとはいえない。
けれど、店主としては、それですまされることでもないはず。