Archive for category 測定

Date: 2月 15th, 2023
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(その5)

一年前からの疑問なのだが、
いいかえるとマジコのM9の重量が発表になったときからの疑問なのだが、
M9は無響室で測定できるのだろうか、という疑問である。

無響室に入ったことのある人、
入ったことはなくても無響室がどうなっているのか知っている人ならば、
あの床(床といっていい構造ではなくフレーム)は、
どこまでの重量に耐えられるのだろうか、と思うことだろう。

454kgと発表されているM9の重量。
無響室は、これだけの重量に耐えられるのか。

耐えられる無響室とそうでない無響室があるだろう。
グランドピアノが無響室に入っている写真を、どこかでみた記憶がある。

グランドピアノよりも重いけれど、ものすごく重いわけでもないから、M9も測定可能なのか。

Date: 7月 9th, 2018
Cate: 測定

アナログプレーヤーの測定(40年前の測定から学ぶ・その4)

テレメールの端末を使って、図形の電気信号への変換、その逆を行うわけだから、
再生図形には、テレメール端末の変換精度も関係してくる。

それにカッティングの性能、状態も深く関係してくる。
カッティングまでの時点で、図形が歪んでいると考えるべきである。

この測定方法がその後どうなったのか。
少なくとも、私は「プレーヤー・システムとその活きた使い方」以外では目にしたことがない。

ソニーは、どうしたんだろうか。
社内では、この測定をやっていたのか。
そのへんのことはまったくわからない。

1976年当時では、解決すべき問題があった。
けれど、いまはそうではない、といえるのではないか。

テレメールの端末と比較にならないほど精度の高い図形の電気信号への変換は可能だ。
それにデジタル信号処理の進歩は、カッティングにまつわる技術的な問題も含めて、
補正することも可能なはずだ。

テストレコードの制作までは、当時とは比較にならなくほど精度の高さが実現できる。
つまり、40年前に提唱された測定方法が、いま日の目をみる、といえるではないのか。

「プレーヤー・システムとその活きた使い方」にも、こう書いてある。
     *
 確かに、原画と再生画との違いによる原因のなかには、すべての高低における僅かな状態変化をも含まれるため、もしプレーヤー・システム以外で起きる状態変化分を、電算機でも使って誤差修正したならば、プレーヤー全性能が画で判断できるかも知れませんし、今後の研究に期待したいところです。
     *
そのとおりである。
それに図形にしても、マス目と円形とバッテンマークだけでなく、
もっと精細な図形も使えるだろうし、図形そのものも研究も必要であろう。

それに、図形を使った測定は、なにもアナログプレーヤーだけに限るものではないはずだ。
アンプの測定、スピーカーの測定にも応用できるはずだ。

Date: 7月 9th, 2018
Cate: 測定

アナログプレーヤーの測定(40年前の測定から学ぶ・その3)

テレメールについて知りたい方は、
Googleで「テレメール NEC」で検索してみてほしい。
「テレメール」だけで検束すると、違う分野のテレメールが結果として表示される。

金子一夫氏発表の測定方法は、テレメールの端末で、なんらかの図形を描く。
その図形を送信状態にする。図形を読みとって電気信号に変換し、
カッティングする、というものだ。

音楽信号をカッティングするのではなく、図形を電気信号にしたものをカッティングするわけだ。
それをアナログプレーヤーで再生する。
カートリッジがピックアップした信号を、テレメールの端末を受信状態にして、
電気信号から図形へと変換する。

元の図形と再生した図形とが、まったく同じならば、
そのアナログプレーヤーはきわめて優秀な性能をもっていることになる。

「プレーヤー・システムとその活きた使い方」には、
テスト原図と再生図形例が載っている。

原図は格子状のマス目と、円形とバッテンマークを組み合わせたもので、
これが再生図形では直線が波打ち、円も歪む。
円は三つ描かれているが、歪み方は同じではない。

金子一夫氏によれば、
線のゆらぎ、円の変形でワウ・フラッターの量が比較判別でき、
線の大きな曲りや円の再現位置で、回転数、サーボ周波数のドリフトが判定できる、そうだ。

ターンテーブルは同じままで、トーンアーム、カートリッジを交換した測定の場合、
線や円のゆらぎから、カートリッジ、トーンアームの低域共振の度合も判断できる、とのこと。

つまりターンテーブルはの回転精度だけでなく、
アナログプレーヤー・トータルの測定も可能になるわけだ。

それも数値ではなく、図形という、
いままでの測定方法にはなかった形で提示される。

Date: 7月 9th, 2018
Cate: 測定

アナログプレーヤーの測定(40年前の測定から学ぶ・その2)

ステレオサウンド 48号は1978年の秋号だ。
その二年前に、オーディオピープル(1976年3月号)に、ユニークな測定方法が、
ソニーの金子一夫氏によって発表されている。

そのころはいまよりもオーディオ雑誌がいくつもあった。
サウンドメイトもあったし、オーディオピープルもあった。

オーディオピープルも買っていた。
けれど1976年春は、まだオーディオに関心をもっていなかったころで、
そのオーディオピープルを読んでいるわけではない。

なのに知っているのは、1977年に無線と実験/初歩のラジオ別冊として、
誠文堂新光社から「プレーヤー・システムとその活きた使い方」に載っているからだ。

第10章・最近の新しい測定法として、
パルスを応用した測定、テレメールを応用したワウ・フラッターの測定、
レコードを使わないワウ・フラッターの測定について書かれている。

ソニーの金子一夫氏によって発表された測定法は、
テレメールを応用したワウ・フラッターの測定である。

テレメール? という人が大半だろう。
私も「プレーヤー・システムとその活きた使い方」を読むまでは知らなかった。

テレメールを応用したワウ・フラッターの測定とは、
ワウ・フラッターを数値、グラフで表わすのではなく、図形で表示・判別する。

「プレーヤー・システムとその活きた使い方」には、
《電話線で結ばれた加入者相互が、ダイヤルで相手を選び出し、通話確認後、図形や文書を電送するシステムの中に、テレメールというのがあります》
となっている。

一種のファクシミリなのだろう。

Date: 7月 9th, 2018
Cate: 測定

アナログプレーヤーの測定(40年前の測定から学ぶ・その1)

テクニクスのSP10Rが登場した。
ダイレクトドライヴの雄であるテクニクスらしい、優秀な回転精度を誇っている。
ワウ・フラッターのカタログ発表値は0.015%以下である。

低い数値である。
ベルトドライヴでは実現困難な数値である。

ダイレクトドライヴのワウ・フラッターは、低い。
ダイレクトドライヴ全盛時代だった40年ほど前は、
カッティングレーサーもダイレクトドライヴ化し、それをう謳っていたレコード会社もあった。

ダイレクトドライヴにはサーボ技術が採り入れられ、
クォーツロックも導入された。
そうやってワウ・フラッターの値は低くなっていったものの、
一部では音が冴えない(悪い)という評価もあった。

ステレオサウンドでの測定では、無負荷状態での速度偏差、
レコードトレーシング字の速度偏差/ダイナミック・ワウを、
グラフで掲載していた。

48号で行われたこれらの測定データを見ると、
テクニクスのSP10MK2は、確かに優秀だった。

カタログ数値では低い値を誇るプレーヤーの中には、
測定グラフをみると、数値では表わせない特徴が、やや悪い意味で現れている機種もあった。

けれど直感的に、回転精度の優秀さが伝わってくるわけではなかった。
メーカーのエンジニアには、これでも十分すぎるデータであっても、
ステレオサウンドの読者にとって、すべての人にとってわかりやすい、とまではいえない。

それは仕方ないことなのか。

Date: 8月 30th, 2016
Cate: 測定

耳はふたつある(その4)

先日、あるオーディオマニアの方と、けっこう長い時間話していた。
その時、この話をした。

不思議というか、おかしな録音だった、と話したところ、
興味深い答が返ってきた。
マイクロフォンが水平ではなかったんじゃないか、ということだった。

1970年代は生録がブームだった。
生録マニアの中には、オープンリールデッキを持ち運ぶ人もいた。

私は録音の経験はあるけれど、いわゆる生録の経験はない。
そのオーディオマニアの方は、生録の現場にも行かれていた。
そこで目にしたのは、マイクロフォンを水平にしていない人が意外にいた、ということだった。

ステレオのマイクロフォンの場合、
それが一本でステレオ仕様であれ、
マイクロフォンを二本用いる場合であれ、
左右のマイクロフォンは水平になるようにセッティングするのが基本中の基本であるから、
まさかそんな使い方をする人がいるとは想像もしなかった。

けれど現実にはそういう使い方をする人が少なからずいた。
そうやって録音したものを聴いた経験もないから、どういう音になるのか想像し難いが、
確かにあの時聴いたおかしなワンポイント録音には、その可能性もあったのかもしれない。

左チャンネルのマイクロフォンを上に、右チャンネルのマイクロフォンを下に、
というセッティングで録音したら、どういう音(音場)になるのだろうか。
ほぼモノーラルに近い録音になのだろうか。

斜めだったらどういう録音になるのか。
測定だったら、どういう結果になるのだろうか。

マイクロフォンが一本であれば、こういう心配はない。

Date: 8月 30th, 2016
Cate: 測定

耳はふたつある(その3)

メーカーがスピーカーシステムを測定する。
その際、マイクロフォンは一本である。
だからといって、聴き手が自分のリスニングルームで測定をする際に、
マイクロフォンが一本のままでいい──、とどうしてなったのだろうか。

メーカーが測定するのは、あくまでもスピーカーの特性であり、
しかも無響室という、現実のリスニングルームとはかけ離れた環境での測定である。

そこでマイクロフォンが一本だからといって、
残響があり、その残響を含めての音響特性を測定するのに、
なぜマイクロフォンが一本のままだったのだろうか。

リスニングルームでのマイクロフォンが一本の測定が無意味とはいわないが、
なぜ一本のまま来てしまったのだろうか。

耳はふたつある。
ふたつある耳で聴いている。
測定と聴くということは必ずしも同じではないから、
マイクロフォンは一本でいい、ということなのだろうか。

岩崎先生の「カタログに強くなろう」は、40年以上前に書かれている。

ただマイクロフォンを二本にすることによる危惧もないわけではない。
数年前に、あるオーディオマニアが録音したという自主製作のCDを聴いた。
ワンポイントマイクロフォンによるピアノの録音だった。

これが実に不思議な音というか、奇妙な録音だった。
どうすれば、こういう録音ができるのか、と逆に感心したくなるほどだった。

マイクロフォンを設置してそのまま録音しているのだろうから、
いい悪いは別として、もっとまともに録れているはずである。

Date: 8月 29th, 2016
Cate: 測定

耳はふたつある(その2)

マイクロフォンを聴取位置に立てる。
けれど聴取位置とは正確にはどこなのか。
右耳の位置なのか、左耳の位置なのか。
右耳と左耳の中央なのか。

マイクロフォンを使った測定の経験のある人ならば、
マイクロフォンの位置がわずか違っただけでも、測定結果が同じにはならないことを知っている。
それは右耳の位置、左耳の位置の違いでもはっきりと出る。

しかも音は右耳と左耳の両方に入ってくる。
たとえ右側のスピーカーだけで音を出していても、
右側のスピーカーの音は右耳にしか入ってこない、ということは現実にはあり得ない。
右側のスピーカーの音は左耳にも、ほんのわずかな時間差で入ってくる。
左側のスピーカーの音は左耳だけでなく、右耳にも入ってくる。

ということは右側のスピーカーの測定を行う場合、
人が音を聴くのに近づけるには、マイクロフォンを二本使う、ということになる。

マイクロフォンを二本使っての測定は、ずいぶん以前に岩崎先生が述べられている。
週刊FMに連載されていた「カタログに強くなろう」に、こうある。
     *
 前置きが長くなったが、スピーカーの特性を前にすると、アンプと違って山や谷が細かく続き、さらに全体にまたがって大きな起伏がいくつもある。
 これは横の目盛が周波数で、縦の高さがそれに応じた音響出力だ。細かい山や谷は、周波数がわずかずれると出力が大きくなったり、小さくなったりするということを意味する。
 これは簡単な構造のようにみえるスピーカーの振動板が、実は細かい部分部分がそれぞれ別々の動き方をしているため、マイクとスピーカーの距離によってその各部の出力が、相加わったり打ち消し合ったりして、出力が増えて山になり、減って谷ができるわけ。
 ところで、そうした細かい山や谷は、実は耳で聴いたところほとんど気にならない。それは測定上の条件からできる山や谷であるからだ。もしスピーカー前方のマイクの位置を少しずらせば、山や谷のできる周波数もまた少しずれてくる。
 だから人間の耳のように約一六cm離れた二つのマイクで測定してこれを合成すると、山や谷はほとんどなくなって、特別の理由でできた山や谷と、全体の大きな起伏とがはっきりした形となり、それが音の傾向を物語るデータとなる。
     *
マイクロフォンを人間の耳のように離して立てる。
ならばダミーヘッドを使うという手もある。

Date: 1月 25th, 2015
Cate: 測定

FLEXUS FX100(その4)

パソコンが登場し普及し、高性能化と小型化によって、
測定はずいぶんと身近なものになってきている。

30年ほど前、スペアナ(スペクトラムアナライザー)を持っている人は少なかった。
しかも、そのころのスペアナは10バンドのモノが多かった。30バンドのモノもあったが、
価格も40万円前後にはねあがる。

いまはタブレットでそれが可能になっている。
持ち運びもずいぶんと楽になっている。
しかも測定できる項目も増えてきている。

手軽に身近になり、それだけでなく精度も上ってきている。
しかもディスプレイはカラー表示である。

スピーカーの周波数特性も、マイクロフォンを用意して、
測定用のアプリケーションをインストールしてあれば、それだけで行えるようになった。

そういう時代に、NTi AUDIOFLEXUS FX100という、オーディオ専用の測定器は、
オーディオメーカーには重宝なモノであっても、一般ユーザーにとってそれほどのモノなのか、
そう疑問に思われるかもしれない。

自作を趣味としている人ならば魅力的な測定器であっても、自分には関係ない。
それにオプションをあれこれ揃えていくと、けっこうな値段になりそうではないか……。

私はそういう人にこそ、FLEXUS FX100に興味をもってもらいたいと思っている。
FLEXUS FX100の購入を検討する、とまでいかなくていい、
FLEXUS FX100に何ができて、どこまでできるのかを知ってほしい。

FLEXUS FX100は、室内における壁、天井、床からの反射の影響を除外して、
無響室でなくとも無響特性の測定が可能になっている。
詳細は、FLEXUS FX100の当該ページを参照してほしい。

Date: 1月 25th, 2015
Cate: 測定

FLEXUS FX100(その3)

イギリスのスピーカーメーカーは、小さな規模の会社が少なくなかった。
スペンドールにしてもハーベスにしても、小さな会社である。

いまは違うだろうが、創立当時、無響室はどちらの会社ももっていなかった。
ではどうしていたのかというと、BBCが無響室を貸し出していた、ときいたことがある。

無響室が必要になればBBCの無響室まで出向く。
そういう協力関係があったから、
無響室を持たなくとも優れたスピーカーシステムをつくり出していた、ともいえよう。

日本はどうなんだろう。
たとえばNHKが新興スピーカーメーカーに無響室の利用を許しているのだろうか。

仮にそうだとしても、これはBBCでも同じことがいえるのだが、
これらの無響室を使いたいメーカーは、近郊になければ不便である。時間も限られる。
そういう制約がどうしても生じる。

無響室がなくともスピーカー開発は行える。
たしかにそうではある。だからといって、無響室は不必要といえるものではない。

それに測定のためだけの無響室ではない。
無響室に一度でも入ったことのある人ならば、
壁、天井、床からの反射がなくなることで、どれだけ音が変化するのかを体験できる。
自分の声さえも変化する。

だから無響室の音はぜひとも体験してほしい。

Date: 1月 25th, 2015
Cate: 測定

FLEXUS FX100(その2)

音を出すために必要な意味でのオーディオ機器ではないが、
NTi AUDIOFLEXUS FX100は、私にとってオーディオ機器と呼びたくなる測定器である。

その1)を書いたのが2013年10月、
一年以上ほったらかしにしていたが、(その2)を書くために、NTi AUDIOのサイトを見ていた。

FLEXUS FX100は知れば知るほど、欲しくなる一台である。

私がFLEXUS FX100について書こうと思ったのは、
無響測定機能を装備したことを知ったからである。

アンプ、CDプレーヤーなどの電子機器は、測定器を揃え扱える人がいれば測定は可能になる。
けれどスピーカー、それにマイクロフォンとなると、
測定器と人だけでは満足とはいえず、無響室も要求される。

無響室を備えて、測定環境が整う。
オーディオブームだったころは、各メーカーに無響室があった。
大きな会社であれば無響室を用意できた。
けれど小さな規模の会社となると、無響室は用意できない。

無響室に入ったことのある人ならば、
無響室が、いかに一般の部屋と異る環境であるかを実感している。
奇妙な空間ともいっていい。

スピーカーシステムを鳴らすのは、そういった空間ではなく、
一般のリスニングルームであるのだから、必ずしも無響室は必要ではない──、
はたしてそう言い切れるだろうか。

Date: 9月 14th, 2014
Cate: 測定

耳はふたつある(その1)

1977年ごろ、ポータブル型のスペクトラムアナライザーのIvieが登場し話題になった。
価格は100万円をこえていたように記憶している。

いま当時のIvieの製品のスペックをみれば、貧弱といえるが、当時はそうでもはなかった。
だから岡先生は購入された。

このころオーディオマニアが自分のリスニングルームの音響特性を測定することは、
まず機材を揃えることが大変だった。
いまはもう違う。
特性が保証されているマイクロフォンがあれば、
以前とは比較にならないほど誰でもできるように思えるくらいになっている。

とはいえ実際にやってみると、マイクロフォンを立てる位置をどうするのか。
これが意外と難しい。
聴取位置に立てればいいじゃないか、と思うだろうが、
実際に聴取位置で測定した結果と聴感とは必ずしも一致しないことがある。

それにマイクロフォンの位置をわずか動かしただけでも測定結果は変ってくる。
聴取位置(頭)をほんのわずか動いても、測定結果ほどの音の違いは生じないにも関わらずだ。

なぜなのか。
答は耳はふたつあるからだ。
左右に、10数cm以上離れて耳はある。

音響測定に使うマイクロフォンは一本である。

Date: 10月 10th, 2013
Cate: 測定

FLEXUS FX100(その1)

昨日、こういう製品が出ているのを知った。
NTi AUDIOFLEXUS FX100という、測定器である。

NTi AUDIOでは、FLEXUS FX100をアナログ&デジタルオーディオアナライザーと呼んでいる。
FLEXUS FX100の詳細については、NTi AUDIOのページを参照して欲しいし、
YouTubeには、FLEXUS FX100に関する動画が公開されている。

こういう機器が、いつのまにか登場していたのか、と思っていた。
これまでオーディオ機器の測定は、アンプにしてもスピーカーにしても、
一台の測定器ですむわけがなく、いくつも測定器を揃える必要があった。
それだけでもけっこうな金額になるし、場所だって必要となる。

メーカーならばいざ知らず、個人できちんとした、といえるレヴェルの測定器を揃えるのは、
けっこう面倒なことといえる面もあった。

測定器はオーディオマニアにとって、絶対に必要なモノかといえば、
そうとはいえないモノだけに、一台の機器であらゆる測定が行えるモノ、
そんな都合のいいモノが出てきて欲しい、と思っていた。

1977年ごろ、ポータブル型のスペクトラムアナライザーのIvieが登場した。
いまから見ると、こんなレヴェルなのか、と思えるかもしれないが、
それでも当時Ivieの登場は話題になったし、かなり高価だった。

Ivieを欲しい、と思った人は少なくなかっただろう。

Date: 2月 24th, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(続×五・ある記事を読んで)

1981年の週刊FMだっと記憶しているが、瀬川先生の連載が始まった。
カラー見開き2ページの記事で、瀬川先生が惚れ込んでいるオーディオ機器について書かれたもので、
マークレビンソンのML2が取り上げられていたのは、いまでもはっきりと憶えている。

そこにはML2の保護回路についてふれられていた。
なんでもML2の保護回路はアンプ本体にけっこうな量の水をかけても、
瞬時に保護回路が働きスピーカーを保護する、と。
実際に試したことのある人はいないだろうが、
当時 ML2の内部写真を見るたびに、この基板はなんだろう、と思っていたことがある。

ML2の内部はフロントパネルのすぐ裏に電源トランスがあり続いて平滑用の電解コンデンサー、
そしてプリント基板が2枚、垂直にメイン基板に挿さっている。
このうち1枚は電圧増幅用のものだとすぐにわかる。
でものこる1枚はいったいなんなのだろうか、とML2が登場したときから考えていた。
それが瀬川先生の記事を読んで、やっとわかった。2枚目のプリント基板は定電圧回路と保護回路である。
ML2はそれだけ、音だけではなく安全面でも完璧を目指したモノであった。

ML2の出力は8Ω負荷で25W。Aクラス動作で、消費電力は常時400W(片チャンネル)。
たいへんな無駄飯食いなアンプだが、4Ω負荷では50W、2Ω負荷で100Wと、理論通りに出力が倍々と増えていく。
ML2が登場したとき、4Ω負荷でも8Ω負荷時の出力の2倍になるもの、ごくごく一部のもので、
そういったアンプでも2Ω負荷では頭打ちになってしまっていた。
ML2はそれだけの電源の余裕とともに、それに見合ったアンプ回路の設計、
そしてアンプの動作を見守りスピーカーを保護する回路のバランスが見事にとれていたからこそ、
あれだけのパフォーマンスを実現していた、ともいえるだろう。

日本のアンプで、ステレオサウンド 64号の測定で保護回路が働いてしまうアンプは、そのへんはどうだったのか。
保護回路が働くアンプはどれだったのかは64号を読めばわかるようになっている。
ローコスト機ではなく、意外にもコストをかけたアンプで保護回路が働いている。
とうぜん、これらのアンプはそのブランドのトップモデルであったりして、
電源部も余裕のある設計を謳っているし、それに出力段もきちんとしたものであるにもかかわらず、
8Ω/1Ω瞬時切替えでは、出力を上げると保護回路が働くということは、
出力段のトランジスターに流れる電流を検出していて、
ある一定値以上になると保護回路が働くようになっているのだろう。

電源部には出力段が要求する電流を供給するだけの余裕がある、
出力段は負荷が要求する電流を供給できるだけの設計になっている、のは、
保護回路を外した状態での測定結果、その音質からも容易に想像できることだ。
なのに、その実力を保護回路で抑えつけてしまっている、と私は見ている。
だから、もったいないことだ、と思うし、
ML2のように3つのバランスがとれたアンプではない、ともいいたくなる。

Date: 2月 23rd, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(続々続々・ある記事を読んで)

保護回路がアンプを保護するのは悪いことではないし、いいことではある。
けれど、その保護回路が音を悪くしていたとしたら、
それも軽微ではなく、かなり音に影響を与えていたとしたら、どうだろうか。

保護回路が入っていない、もしくはまともな働かないパワーアンプが異常を来したら、
最悪スピーカーの破損につながる。さらにひどい場合にはスピーカーのコーン紙を燃やしてしまうことすらある。
そんなことを未然に防ぐためにも、保護回路は必要なものではある。
けれど、アンプの回路設計が各社様々であるように、保護回路の設計も各社様々である。
そしてアンプの音質とは、アンプの回路設計と保護回路の設計、ともに優れていなければならない。
どんなに優れたアンプであっても、保護回路が、そのアンプの動作を抑圧するようなものであったら、どうなるか。

ステレオサウンド 64号の測定では、国産アンプの保護回路の在り方を、
間接的にではあったが知ることが出来たと思う。
あくまでも安全面を優先したアンプでは、1Ω負荷に対して、保護回路が働いてしまう。
1Ω負荷なんてものはあり得ない、という考え方からなのかもしれないし、
そういう非常に低いインピーダンスが負荷となることがおかしな状況と、設計者が判断してなのか、
それとも会社の方針としてなのか、そのへんは外部の人間にははっきりとしないが、
がちがちの安全面の保護回路の動作をみると、ついルンバを作れない(作らない)、
日本の家電メーカーと共通する因子がオーディオ専門メーカーにもあるように思えてしまってならない。

実は64号の測定のとき、あるメーカーの技術者に協力していただき、
そのメーカーのアンプの保護回路を外して測定している。
誌面に載せているデータは保護回路付きのものであるが、
保護回路を外したときのデータは、誌面に載っているデータよりもずっといい結果だった。
ひじょうに優れた結果でもあった。
つまり、そのアンプはそれだけの能力を持っている、にもかかわらず、その良さをそうとうにスポイルしている。

それは特性面のことだけではない。
実際に保護回路を取り外した状態の音は、そのアンプに感じていた個人的不満を見事に解消していた。
こんなに瑞々しい音を出してくれるのか、そして、なんともったいないことなのか、と、
おそらく保護回路付きの音、保護回路なしの音を聴くことができた人なら、全員がそう思うはずである。