Archive for category 対称性

Date: 9月 18th, 2017
Cate: 対称性

対称性(その10)

瀬川先生の指摘にあるように、
B&Oのアナログプレーヤーは、
レコードを真上から掬いとるような形で持っていくような状態でレコードをかけかえるようになる。

EMTの930stも、プレーヤーとしての形状はB&Oと大きく違っていても、
実際に使ってみると、同じレコードのかけかたを、使い手に要求する。

国産のアナログプレーヤーに多いのは、
プレーヤーの正面からほとんど手を前に並えするような形でレコードをかけかえる方法である。

五味先生が、オーディオ愛好家の五条件で、
ヒゲのこわさを知ること、を挙げられている。

ヒゲとは、レコードをプレーヤーにかける際に、
スピンドルの先端でレーベルをこすってしまった線状のあとのことだ。
一発でレコードのセンター孔にスピンドルを通せば、ヒゲがつくことはない。

漫然とレコードを扱っているからついてしまい、
しかも消せないのがヒゲである。
どんなに盤面がきれいにクリーニングされていようと、
ヒゲがついていては、その人のレコードの扱いがどんなものか知れよう。

B&O、EMTがレコードを真上から掬いとるような形でかけかえさせるようにしているのは、
ヒゲをつけないような配慮のようにも思える。

プレーヤーの正面からほとんど手を前に並えするような形でレコードをかけかえるから、
ヒゲがつきやすいレコードの扱いになってしまう。
そういうプレーヤーでも、真上に掬いとるような形でかけかえれば、
ヒゲがつくような扱いをすることはなくなるはずだ。

Date: 8月 30th, 2017
Cate: 対称性

対称性(発想のモザイク)

その9)で引用した瀬川先生の文章を入力していて感じていたのは、
別項で紹介した「発想のモザイク」のことだった。

1972年に出た本だから、ステレオサウンド 40号の四年前。
瀬川先生がいつごろ読まれていたのかははっきりしないが、
40号の文章を読んでいると、「発想のモザイク」を読まれたあとだと、はっきりと感じられる。

私は昨年手に入れて読んだ。
「発想のモザイク」を読んだあとで、
もういちど瀬川先生の文章を読み返してみるのもおもしろい。

Date: 8月 27th, 2017
Cate: 対称性

対称性(その9)

ステレオサウンド 41号掲載の「瀬川冬樹の語るプレーヤーシステムにおける操作性の急所」で、
B&Oのアナログプレーヤーの操作性について触れられている。
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 たとえばターンテーブルの形状についていえば、B&Oのベオグラムのように、いわゆるモーターボード(フレーム)とターンテーブルがほとんど面一(ツライチ)の状態にあるものは、レコードを真上から掬いとるような形で持っていくような状態でレコードをかけかえるようになる。少なくともそういう操作をしろということを、機械のデザインが暗に指示するわけです。それ以外の方法では扱いにくい。本質論からいうと、レコードのかけかえというのはどんな手くせの人が、どんな手つきでかけかえようとしてもやりやすいのが一番いいわけで、B&Oなんかは、少し理屈っぽくいえば、あるひとつの姿勢を、そういう手くせじゃない人にも強いるわけだから、そういう意味で本当に客観的に完璧とはいいにくいんです。
 ただ一般的には、ヨーロッパの機械に対する考え方には、ひとつの扱い方を、それを扱う人間に徹底して体にしみ込ませるように指示するというところがあるんですね。たとえばハッセルブラッドなんていとうカメラは、やはりひとつの手くせを自分の手に覚え込ませないと扱いにくい。逆に、ひとつの手くせが自分の習慣のようになると、大変扱いやすい。どうもヨーロッパの機械の設計の伝統の中にそういうことがあるわけです。
 その反対に、アメリカあたりから出てきたいわゆるフールプルーフという考え方は、いろんな手くせの人がどんな使い方をしても扱いやすいという設計ですね。ところが、それをやると今度はすごい無個性なものができる怖れがある。どちらがいいかは別として、設計の思想には二つの基本的な姿勢があるということです。
 ですからB&Oのタイプはひとつの手くせを覚え込まないと扱いにくいけれども、それが身にしみ込んでしまえば扱いやすい。しかし、B&Oに一見似て、ターンテーブルが非常に薄くデザインされているために、レコードのかけかえにひとつの姿勢を強いながら、その姿勢でやってみても扱いにくいという機械が中にはあるんです。これは人間工学的に問題外ですね。そういうところを見分ける必要がある。
 もうひとつの手くせに、プレーヤーの正面からほとんど手を前に並えするような形でレコードをかけかえる方法がある。この形でレコードを持っていってそのつまかけかえる場合には、ある程度ターンテーブルが高い設計の方がかけやすい。このときによく考えられたプレーヤーは、ターンテーブルの直径と、シートの直径・形状がうまく選ばれていて、持っていった手が30センチレコードの一番外側のふちに自然にかかるようになっている。これが、レコードのふちよりもシートやターンテーブルの径が大きいとかけかえにくいわけです。ここは絶妙な寸法が当然あるわけなんだけれど、ターンテーブルの高さも問題になります。
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確かにB&OのBeogramシリーズは、両中指の先でレコードをすくいとるような形で、かけかえる。
ここで比較対象としているEMTの930stは、というと、Beogramとは違う形状をしている。
モーターボード(メインデッキ)とターンテーブルは面一ではない。
ターンテーブルはフレームデッキよりも高い位置にある。

ならば、前に並え的なレコードのかけかえができるのかというと、そうではない。
プレクシグラスにフェルトを貼ったサブターンテーブルの直径は、
周囲にストロボスコープのパターンがあるため33cm。
しかもターンテーブルの周囲は、フレームデッキが盛り上っている。

930stの真上からの写真をみればわかるが、
ターンテーブルとトーンアーム、カートリッジとの間に、それほどスペースがない。
加えてサブターンテーブルの大きさがあるから、
Beogramとは大きく違う形状であり、フールプルーフに属するような形状でありながらも、
レコードのかけかえは、B&Oと同じで、ひとつの手くせを指示する。

Date: 12月 7th, 2016
Cate: 対称性

対称性(その7)

B&Oというブランド名を知ったのは、
私のオーディオのスタートとなった「五味オーディオ教室」でだった。
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装置の外観もまた、音を美しく聴く要素のひとつである。

見ているだけで楽しいヨーロッパのオーディオ製品
 私がこれまで見聞したところでは、ヨーロッパでも、ずいぶんレコードは聴かれているが、まえにも書いたように、いわゆるオーディオへの関心はうすい。むきになってステレオの音質に血道をあげるのはわれわれ日本人と、アメリカ人ぐらいだろう。値段に見合うという意味で、国産品の音質は欧米のものと比べてもなんら遜色はない。リッパな音だ。
 ただし、カメラを持ち歩くのが嫌いなので写真に撮れないのが残念だが、ヨーロッパのアンプやレシーバーのデザインだけは、思わず見惚れるほどである。こればかりは、国産品もずいぶん垢抜けて来ているようだが、まだ相当、見劣りがする。B&Oの総合アンプやプレーヤーなど店頭で息をのんで私は眺め、見ているだけで楽しかった。アメリカのアンプにこういうデザインはお目にかかったことがない。
 オーディオ装置は、つづまるところ、聴くだけではなく、家具調度の一部として部屋でごく自然な美観を呈するものでなくてはなるまい。少なくともヨーロッパ人はそう思っているらしい。こうしたデザインは、彼らの卓抜な伝統にはぐくまれたセンスが創り出したもので、この点、日本やアメリカは逆立ちしてもまだかなわぬようである。

いい音を出すだけでは、音楽鑑賞は片手落ち
 本当はこういう美観も、レコード音楽では意外と音を美しく感じさせることに、日本のオーディオ・メーカーはもっと注意すべきだろう。
 自動車でいえば、日本のメーカーはやたらフォーミュラー・カーをつくりたがっている。たしかにマシンがよくなくてはいい乗用車はつくれないだろうが、われわれが望むのは、乗り心地のいい車であってレース用のものではない。第一、街ではスピードも出せやしない。必要なのは、まず乗り心地と、美観だ。
 装置のデザインの洗練味を、もっとメーカーは意図してほしいものである。このことは、やたらと“家具調”になることを欲しているのではないのは、もちろん言うをまたない。音を美しく聴くには、それなりの環境をととのえることもまた必要であり、だからこそ、いい音楽を聴く充実感も一層深まるのだ。
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「五味オーディオ教室」に写真はない。
B&Oの総合アンプやプレーヤーが、どれほど美しいのかを目にしていたわけではなかった。
想像していた。

「五味オーディオ教室」からそれほど経たずにB&Oの総合アンプやプレーヤーの写真を見た。
想像していたのとはまったく違っていた。
《店頭で息をのんで私は眺め、見ているだけで楽しかった》という五味先生の気持がわかった。

特にアナログプレーヤーのBeogramを美しく感じた。
そのころのB&Oのアナログプレーヤーは、三機種あった。
Beogram 3400、Beogram 4002、Beogram 6000で、
3400だけが違うデザインで、Beogramの象徴といえるリニアトラッキングアームを搭載していなかった。

私が息をのんで美しいと感じたのは、リニアトラッキングアームのBeogram 4002と6000だった。

1976年当時、リニアトラッキングアームのアナログプレーヤーといえば、
誰もがB&Oを思い出すくらいに、リニアトラッキング型の代名詞的存在でもあった。

B&O以外にもなかったわけではないが、
完成度の高さとデザインからいっても、リニアトラッキング=B&Oであった。

Date: 5月 16th, 2016
Cate: 対称性

対称性(その6)

私がオーディオに興味を持ち始めた1970年代後半、
B&Oは優れたデザインのオーディオ機器という評価を確立していた。

そのころのB&Oの広告、紹介記事には、
B&Oのオーディオ機器がニューヨーク近代美術館に永久所蔵されたことが載っていた。

ニューヨーク近代美術館がどういうところなのか、
まったく知識をもっていなかった中学生の私だったけれど、
それがすごいことであるのは、なんとなく感じていた。

それだけでなくB&Oのデザインの美しさがわかるようになることが、
デザインを理解することにつながっていくはずだ、
いつの日かB&Oのオーディオ機器を……、とも思っていた。

瀬川先生の著書「続コンポーネントステレオのすすめ」221ページの写真。
B&OのBeogram 4002とEMTの927Dstの写真が、そこにはある。

B&Oのオーディオ機器はニューヨーク近代美術館に永久所蔵されたけれど、
EMTのアナログプレーヤーが、ニューヨーク近代美術館に永久所蔵される可能性はほとんどない、といっていい。

このふたつのアナログプレーヤーを見ていると、
EMTの方が古くからある会社のように思えてくる。
だが実際にはB&Oの創立は1925年で、EMTは1940年である。

シュアーが同じく1925年、タンノイが1926年、エレクトロボイスとジェンセンが1927年、
デッカが1929年、ヴァイタヴォックスが1931年、ワーフェデールが1932年、
QUADが1935年、アルテックが1936年。

製品から受けるイメージからすると、
B&Oよりも古いと思いがちのメーカーが、B&Oよりも後の創立であることがほとんどだ。

B&Oよりも古いところといえば、セレッション(1924年)、オルトフォン(1918年)、
フィリップス(1891年)、トーレンス(1883年)といったところだ。

日本ではB&Oと同じ1925年に、ラックスの前身である錦水堂ラジオ部ができている。

B&Oより古い会社の方が少ない。

Date: 9月 20th, 2015
Cate: 対称性

対称性(その5)

別項でも書いたようにEMT930st、927Dstのメインプラッターは車のホイールのようである。

ではB&OのBeogramシリーズのプラッターは? というと、
私の場合、頭に浮ぶのは時計である。

若い人は知らないだろうが、
アナログディスク全盛時代、オーディオ店にB&Oの時計が壁にかかっているところがいくつかあった。
広告にも出ていたはずだ。

Beogramシリーズのターンテーブルプラッター、
放射状にラインが入っている、あのプラッターを文字盤とした壁掛け時計が、当時はあった。
私にとって、欲しい、と思った最初の時計だった。

時計で回転するのは長針と短針であり、文字盤が回転するわけではない。
文字盤は動かない。
一方ターンテーブルプラッターは回転するからこそ、ターンテーブルであり、その仕事を果す。
動かないターンテーブルプラッターは機能していない。

だからEMTのターンテーブルプラッターで車のホイールをイメージするのであれば、
Beogramのターンテーブルプラッターでイメージすべきは、
別の回転体であるべきなのかもしれないと思っていても、
Beogramのプラッターと時計とを、どうしても切り離すことはできないでいる。

Date: 9月 19th, 2015
Cate: 対称性

対称性(その4)

EMTの927DstとB&OのBeogram 4002。

EMTのアナログプレーヤーは、スタジオでの使用を考えてのアナログプレーヤーである。
もっといえばスタジオでの使用のみを考えて設計されたアナログプレーヤーである。

ここでいうスタジオとは放送局のスタジオでもあるし、
レコード会社の録音スタジオでもある。
そういう場で使われるEMTのプレーヤーは扱うのは、それぞれのプロフェッショナルであり、
その意味でもEMTのプレーヤーは、プロフェッショナル用である。

B&Oは、まるで違う。
そういったスタジオでの使用はまったく想定されていない。
家庭で使うアナログプレーヤーであり、
Beogram 4002のデザイナーのヤコブ・イエンセンは、
「モダン・テクノロジーは、人間の幸せのために奉仕すべきものだ」という。
(ステレオサウンド 49号「デンマークB&O社を訪ねて」より)

さらに「オーディオ機器は、トータル・ライフの中で、音楽を楽しむという目的で存在しているはずだ」ともいう。

Beogram 4002だけではない、
レシーバーのBeocenterシリーズも、まさしくイエンセンのことば(主張)が、
それに振れることではっきりと理解できる。

B&Oのアナログプレーヤー(他の製品も含めて)、完全なコンシューマー用である。

EMTのアナログプレーヤー(930st、927Dst)には、モダン・テクノロジーはそこからは感じとれない。
人間の幸せのために奉仕すべき機器として開発されたモノとも思えない。
ましてトータル・ライフの中で音楽を楽しむという目的で存在しているわけではない。

そういうふたつのアナログプレーヤーが、
瀬川先生の著書「続コンポーネントステレオのすすめ」の221ページでは上下に並べて掲載されている。

編集部にどういう意図があったのは不明だが、実に示唆に富む一ページだと思う。

Date: 5月 21st, 2015
Cate: 対称性

対称性(その3)

瀬川先生の著書「続コンポーネントステレオのすすめ」の221ページ。
ここにB&OのBeogram 4002が上半分、
EMTの927Dstが下半分をしめている写真だけのページがある。

927Dstは真上からのカット、
Beogram 4002は真上とはいえないまでも、ほぼ同じカットの写真が上下に並んでいる。

どちらもアナログプレーヤーであり、開発年代は927Dstが古いが、
1970年代、どちらも現役のアナログプレーヤーとして市場に流通していた。

EMTは西ドイツ、B&Oはデンマーク。
いかにも927Dstは古いドイツのプレーヤーという雰囲気をもっている。
Beogram 4002はモダンデザインのプレーヤーである。

どちらがアナログプレーヤーのデザインとして優れているかではなく、
927Dstは精密な機械としてのアナログプレーヤーであり、
そのデザインもそれにふさわしいものである。

一方のB&Oは、そこが違う。
もちろんEMTとは違う精密さをもっているけれど、そこには電子制御というテクノロジーがあり、
そのデザインは、電気・電子が加わったからこそのものといえる。

Date: 5月 19th, 2015
Cate: 対称性

対称性(その2)

アクースティック蓄音器は、100年以上前にエジソンがその原型を発明した時点から、
対称性が確保されていたというか、対称性により動作が成り立っていた。

朝顔と呼ばれるホーンがマイクロフォンであり、
針先に振動を伝え蝋管に音溝をカッティングしていく。
これが録音であり、再生はその逆である。

ホーンは音の入口でもあり、音の出口でもある。
それが蓄音器に電気が加わることで、
マイクロフォンとスピーカーが別個のものになっていく。
ここで対称性は崩れていった。
少なくともそう見える。

そう見えるから、対称性が崩れた、と前回書いた。
書いておきながら、少し考えてもいた。
ほんとうに対称性は崩れていったのか、
それとも何かに変っていったのかもしれない、と。

そうだとすれば、対称性が変化していった先にあるのは、なんなのか。
オーディオにおいて、そのひとつはデザインだと考えている。

Date: 4月 16th, 2015
Cate: 対称性

対称性(その1)

CDが登場したころだったはずだ、
あるメーカーのエンジニアの方からきいたことを思い出す。

デジタル録音再生システムにおいて、
ふたつのアナログフィルターは同一でなければならない、ということだった。

A/D変換の前段にはアナログフィルターがある、
D/A変換の後段にもアナログフィルターがある。
このふたつのアナログフィルターは、本来同一であるのが原則だということだった。

CD登場前に、数社からPCMプロセッサーが登場した。
ビデオデッキに接続して使うモノで、
このプロセッサーにはA/D、D/A、ふたつの変換器を搭載していた。
おそらくこのPCMプロセッサーにおいては、ふたつのアナログフィルターは同一だったのかもしれない。

けれどCDプレーヤーにはD/A変換回路はあっても、A/D変換回路はない。
CDというメディアのA/D変換は録音の現場にある機器に搭載されている。

こうなってしまうとふたつのアナログフィルターは、別のモノとなってしまう。
そういう状況からCD再生(デジタル再生)は、一般家庭で始まった。

ふたつのアナログフィルターが同一であれば、
そこには対称性が保たれていたはずである。
けれどCDの再生には、その対称性は崩れている。

オーディオの原点であるアクースティック蓄音器のことをおもう。
これほど音の入口と音の出口の対称性が存在していたシステムは、
電気が加わっていくことで崩れていってしまう。