いつのころからかB級グルメという言葉をあちこちで目にするようになっていた。
私の記憶に間違いがなければ、
「B級グルメ」を最初に使いはじめたのは文藝春秋社が1980年代後半ごろに出しはじめた文庫本のシリーズのはずだ。
何冊出たのかはわすれてしまっているが、
書店で新刊を見かけるたびに即購入していた。
私が勝見洋一氏を知ったのは、この文藝春秋のB級グルメの文庫本において、である。
勝見洋一氏という人がどういう人なのか知らなくとも、
勝見洋一氏の書くものを読めば、そうとうな食い道楽であることはわかる。
私も勝見洋一氏のことはそれまでまったく知らなかった。
B級グルメの文庫本では複数の人が書いていた。
勝見洋一氏が書かれるもの以外にも面白かったのはいくつもある。
本全体として面白かったからこそ、新刊が出るたびに買っていた。
けれど B級グルメの文庫本で目にした多くの書き手の名前を忘れてしまっている。
いまも憶えているのは勝見洋一氏だけである。
それは、とんかつについて書かれたものが強烈な印象として残っているからだ。
私もとんかつは好物である。
B級グルメが出ていたころは20代ということもあって、
飽きずにとんかつを食べていた。
そういう時に勝見洋一氏のとんかつについての文章を読んだ。
そこにあった一節が、慧眼というしかなかった。
もう手元にB級グルメの文庫本はないし、
もしあったとしても、その部分をここで引用するのは少し憚られる。
だからぼかして書くことになるが、つまりはとんかつを好物とする男はすけべだ、ということだ。
これで察してもらうか、図書館や古書店でB級グルメの文庫本を探して読んでいただくしかない。
ともかく、この一節とともに勝見洋一氏の名前をはっきりと憶えることとなった。
B級グルメの新刊もいつしか出なくなった。
そうしたら今度はステレオサウンドで勝見洋一氏が書かれるようになった。
その連載もあるとき突然に終ってしまった。
不可解な終り方であった。
何か編集部とあったのだなぁ、とわかる、そんな終り方だった。
実際そうだった、とある人からきいている。
そして今朝、もう勝見洋一氏の文章を読むことができなくなったことを知った。