Archive for 5月, 2009

Date: 5月 31st, 2009
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(その14)

105.2ほどではないにせよ、BBCモニター系列のスピーカーは、
左右でシリアルナンバーの揃っているモノ、続き番号のモノが出荷され、ユーザーの手もとに届く。

4343までのJBLとは、ここが違う。

モニタースピーカーという、同じ枠の言葉で括られてしまうのがおかしいほどに、
JBLのスタジオモニター・シリーズとBBCモニタースピーカーは、違いが多々ある。
JBLの場合、スタジオモニターという名が付くスピーカーだけに、これらを使う者は、
プロもしくはそれに準ずるレベルをもつ人であり、相応のシステムを装備していることを前提としていると思える。

スタジオには多素子のグラフィックイコライザーもあれば、スペクトラムアナライザーもあろう。
だからスピーカー側にも、連続可変のレベルコントロールをウーファー以外のユニットすべてにつけて、
細かく調整可能にしておけばいいと考えではなかったのか。

そうしておけば、少々のバラツキは、使い手側で、ほぼ完全に補正できるからだ。
作っている側もプロなら使う側もプロ、そういう前提を無視して、
あまりにも4343までの、JBLの一連のスタジオモニターについて語りすぎていたのではなかろうか。

そうして4343への誤解が生まれていった。

Date: 5月 31st, 2009
Cate: 105, BBCモニター, KEF

BBCモニター考(その13)

現代スピーカー考(その11)の補足でもあるが、
クックは「105はフェイズリニアのスピーカーではない」といい、リニアフェイズスピーカーというのは、
再生周波数帯域内の位相特性が水平で一直線のことであり、技術的には不可能なこととも言っている。

「日本でリニアフェイズとされて売られているスピーカー」──テクニクスのスピーカーのことである──は、
クックによると、そのスピーカーの再生周波数帯域においてリニアフェイズではなく、
ある特定の帯域のみリニアフェイズだということらしい。
600〜6000Hzくらいの帯域でのみリニアフェイズを実現している、とのこと。

一方105はというと、位相特性のグラフの線は低域から高域にいくに従って下がっていくが、
再生周波数帯域内ではカーブを描いたり、段差がついたりせず、直線だということだ。

水平ではないが、帯域内では直線の位相特性の105、
600〜6000Hz内ではほぼ水平の位相特性だが、
600Hz以下では上昇カーブ、6000Hz以上では下降カーブを描くテクニクスのスピーカー、
どちらがステレオ用スピーカーとして、聴感上優位かといえば、個人的には前者だと考える。
もっとも位相特性をほとんど考慮していない設計のスピーカーでは、帯域内で急激な位相変化を起こすものもある。

クックは、さらに大切なこととして、「軸上だけでなく、軸上からはずれたところでも聴いて、
そのよしあしを判断すべき」であり、「スピーカーの周りをグルッと回って聴くことも必要」だと語っている。
しかも耳の高さもいろいろ変えてみると面白いとつけ加えている。

クックがステレオ用としてのスピーカーのありかたを意識していることが、
ここに伺えるような気がして、ひじょうに興味深い。

Date: 5月 31st, 2009
Cate: 105, BBCモニター, KEF

BBCモニター考(その12)

レイモンド・クック(Raymond E. Cooke)はステレオサウンド「コンポーネントの世界’78」のインタビューで、
これからのスピーカーはコヒーレントフェイズ(Coherent Phase)、
もしくはフェイズリニアになっていく必要がある、と答えている。

それは、やはりステレオ再生用スピーカーとして求められる条件だと、クックは考えていたのだろう。
モノーラル再生で優れた音を再現してくれるスピーカーが、
必ずしもステレオ用として優れているかどうかは断言できない。

モノーラル時代のスピーカーには求められなかったこと、
ステレオ時代のスピーカーに求められることは、左右のスピーカーがまったく同一であることも含まれる。

インライン配置の左右同一か左右対称のユニットレイアウトだけでなく、測定できるすべての項目において、
バラツキがひじょうに少ないこともあげられよう。
位相特性も重要なことだが、フェイズリニアが論文として発表されているのは、
クックによると、1936年のことらしい。モノーラル時代のことだ。
発表したのは、ジョン・ヘリアーという人で、ベル研究所の人物らしい。

コヒーレントフェイズは、クックとKEFの技術重役フィンチャムが、1976年9月、
東京で講演したのが最初だという。
そしてフェイズリニアのスピーカーとして最初に市販されたのは、
QUADのESLで、1954年のことだ、とクックは語っている。

1954年、やはりモノーラル時代のことである。

Date: 5月 31st, 2009
Cate: 105, BBCモニター, KEF

BBCモニター考(その11)

KEFの105は、製造ラインをコンピュータ管理していること、
振動板の素材にバラツキの少ない高分子系のモノをつかっていることなどから、
もともと品質・特性のバラツキは少ないスピーカーであったが、
105.2になり、さらにバラツキは少なくなり、KEFの研究所にある標準原器との差は、
全データにおいて1dB以内におさめられているモノのみ出荷していた。

JBLの4344、4343からすると、このバラツキのなさ(少なさというよりもなさと言ってもいいだろう)は、
KEFという会社のスピーカーづくりのポリシー、
そして中心人物だったレイモンド・E・クックの学者肌の気質が結実したものだろう。

出荷の選別基準を1dB以内まで高めたことは、製造時のバラツキの少なさの自信の現われでもあろう。
バラツキの大きいものが作られれば、その分、廃棄されるものも増え、製造コストは増していくばかりだ。

バラツキの少ない素材の選定から製造ラインの徹底した管理などともに、
バラツキを抑える有効な手段といえるのが、ネットワークの高次化ではなかろうか。

特性を揃えるということは、できるだけユニットをピストニックモーションの良好な帯域のみで使い、
分割共振が増してくる帯域はできるだけ抑えることでもある。
コントロールがきかなくなりつつある分割共振の帯域が、レベル的に高いままユニットから出ていては、
スピーカーシステム・トータルの特性もバラついてくる。

もちろんバラツキをなくすためだけに高次ネットワークを採用したわけではなかろう。
それでも高次ネットワークと出荷選定基準の引き上げは、決して無関係ではないと考えられる。

Date: 5月 31st, 2009
Cate: 105, BBCモニター, KEF

BBCモニター考(その10)

ウーファーのハイカットを−6dB/oct.でやる場合、コイルをひとつ直列に挿入すればいい。
トゥイーターのローカットは、コンデンサーをひとつ挿入するだけ。

簡単できることなので、フルレンジユニットでもいいから、適当な値のコンデンサー、
もしくはコイルを直列に挿入した音を聴いてみてほしい。
−6dB/oct.型カーブのゆるやかさが実感できる。
ウーファーならば、特に高域まで素直に伸びているユニットならば、
高域がけっこう出ていること、つまり、あまりカットされていないことに驚かれるかもしれない。

なぜスピーカーシステムをマルチウェイ化するのか。
それぞれのユニットを良好な帯域で使いたいためだが、−6dB/oct.型ネットワークを採用するということは、
使用ユニットそれぞれは、十分な帯域幅をもっていることが前提となる。

狭帯域のユニットだと、−6dB/oct.のゆるやかなカーブでは、分割共振が増えてくる領域までも、
かなり高い音圧レベルで、ユニットから出てくることになる。
同じカットオフ周波数でも遮断特性が−18dB/oct.型となると、分割共振が目立つ帯域は、かなり抑えられる。

Date: 5月 31st, 2009
Cate: 105, BBCモニター, KEF

BBCモニター考(その9)

KEFの105(ことわっておくが、KEF独自の同軸型ユニットUniQを採用した機種ではなく、
1977年に登場した、階段状の3ウェイ・モデルのほうである)は、
−6dB/oct.のゆるやかな遮断特性のネットワークを採用している。

各ユニットの取りつけ位置を前後にずらしていることから分かるように、
105は位相特性の、十分な配慮が特長のスピーカーシステムであるだけに、
位相回転の少ない−6dB/oct.型を採用するのは、当然といえる。

だが105 SeriesII (105.2) のネットワークは、より高次の、基本的に−18dB/oct.型へと変更されている。
ウーファーも新型ユニットに変更され、エンクロージュアの外観も多少変った105.2の音は、
残念ながら聴く機会がなかった。
できれば105と105.2を比較試聴したいところなのだが、なぜKEFは、ネットワークの変更を行なったのだろうか。

Date: 5月 31st, 2009
Cate: BBCモニター, D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

BBCモニター考(その8)

そういえば瀬川先生が、ステレオサウンド 56号に書かれていたことを思い出す。

JBLのパラゴンのトゥイーター(075)・レベルについて
「最適ポイントは決して1箇所だけではない。指定の(12時の)位置より、少し上げたあたり、少なくとも2箇所に、それぞれ、いずれともきめかねるポイントがある。そして、その位置はおそろしくデリケート、かつクリティカルだ。つまみを指で静かに廻してみると、巻線抵抗の線の一本一本を、スライダーが摺動してゆくのが、手ごたえでわかる。最適ポイント近くでは、その一本を越えたのではもうやりすぎで、巻線と巻線の中間にスライダーが跨った形のところが良かったりする。まあ、体験してみなくては信じられない話かもしれないが。」
という記述だ。

パラゴンと4344というシステムの違いはあるが、巻線抵抗のレベルコントロールは共通している。
その微妙さ(ときには不安定さ)も共通しているといえよう。

さきほどまでの、いい感じで鳴ってくれた音と、もう少しと欲張り、先に戻せなかった音の、
レベルコントロールの位置の差は、
まさに「巻線と巻線の中間にスライダーが跨った」かどうかの違いだったのかもしれない。

そうやって微妙な調整を経て、音はピントが合ってくるもの。
だから、巻線抵抗のレベルコントロールに文句を言っているように感じられるだろうが、
否定しているわけではない。

BBC モニター系列のスピーカーにレベルコントロールがついている機種は、あまりない。
ついていても連続可変ではなく、タップ切替による段階的なものである。

Date: 5月 30th, 2009
Cate: Mark Levinson, 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(余談)

2345、つまりツウー、スリー、フォー、ファイブ、というカッコいい型番を与えられているホーンを読者はご存知だろうか。23ナンバーで始まる四ケタ番号は、JBL・プロ用の中高音ホーンだ。そのあらゆるホーンの中で2345という名は、決して偶然につけられたものではなかろう。このナンバーのもつ響きの良さ、語呂のスムーズさは、それだけでも商品としての魅力を持ってしまうに違いない。名前が良くて得をするのはなにも人間だけではない。オーディオファンがJBLにあこがれ、プロフェッショナル・シリーズに目をつけ、そのあげく2345という型番、名前のホーンに魅せられるのは少しも変なところはあるまい。マランツ7と並べるべくして、マッキントッシュのMR77というチューナーを買ってみたり、さらにその横にルボックスのA77を置くのを夢みるマニアだっているのだ(実はこれは僕自身なのだが)。理由はその呼び名の快さだけだが、道楽というのは、そうした遊びが入りやすい。
     ※
「ベスト・サウンドを求めて」で、こんなことを書かれている岩崎先生は、
真空管時代からトランジスターの初期の時代のマランツのモデルナンバーに、
#11と#17が欠けているのを、とても気にされていた、と沼田さんがレコパルに書いている。
#13も欠番なのだが、欧米では凶数だから、なくて当然だろう。

私が気になるのは、マークレビンソンのMLナンバーの欠番である。
レヴィンソンは、型番を順番通りにつけている。
LNP2にしても、その前に4台しかつくられなかったLNP1というモデルが存在しているし、
MLシリーズにしても、JC2からモデルチェンジしたML1からはじまり、ML2、ML3……とつづき、
ML12までラインナップされているが、ML4、ML8が欠番になっている??、
そう思い込んでいただけで、ML8は存在している。

ML8は、Brüel & Kjaerの測定用マイクロフォン・カプセル、4133/2619用につくられたプリアンプである。
ML5の資料に書いてあった。
日本ではあまり知られていないようだが、ML5は、
スチューダーのオープンリールテープレコーダーA80のエレクトロニクス部を、
マークレビンソンでつくりかえたもの。
このML5には、ML5Aという改良モデルがあったようで、これに搭載されているアンプが、L1カードである。
L1カードは、ML7のラインアンプでもある。とうぜん設計者は、トム・コランジェロ。

ただML5の設計者がコランジェロかどうかははっきりとしない。
ジョン・カールの可能性も捨てきれない。
ジョン・カールは、マークレビンソンのアンプを設計する以前は、アンペックスのエンジニアだった。
テープレコーダーの設計にも携わっていた。
だからジョン・カールがML5を設計し、ML5Aに採用されたL1はコランジェロということなのかもしれない。

ML4が存在していたのか、それともほんとうに欠番だったのかは、まだはっきりとしない。
日本が大きな市場だったマークレビンソンにとって、4は日本では嫌われているのを知っていて、避けたのか。
MLシリーズが12で終ってしまったのは、やはり13が凶数だからなのか。

この他にR1というモデルが存在していたこともわかった。
マランツ#10BやセクエラのModel1の設計者と知られるリチャード・セクエラによる
リボン型トゥイーターT1の、マークレビンソンによるモディファイ版である。

HQDシステムに採用されたデッカのリボン型トゥイーターは7kHzからの使用なのに対し、
磁気回路もリボン・ダイアフラムもひとまわり近く大きいT1(R1)は、5kHzから、となっている。

Date: 5月 29th, 2009
Cate: 真空管アンプ, 長島達夫

真空管アンプの存在(その51)

長島先生とは親子ほど歳が違う(父は長島先生よりも2つ下だ)。
だから本音を隠して、当たり障りのない感想を言ってごまかすなんてことも通用しない。
ストレートに、感じたことを言うしかない。

ピアニシモ(ローレベル)において力を感じないことを伝えた。
「どう思った?」ときかれたときは、やや厳しい表情だったのが、にこりとされて、
「やっぱり、そう感じたか。ちゃんと聴いているな」と言ってくださった。

長島先生も、そのアンプに対して、私と同じ不満を感じておられ、そのため、評価はかなり厳しいものだった。
そのときは、正直、なぜそこまで厳しい評価なのかが、完全には理解できていなかった。

たしかにローレベルの力のなさに不満を感じていたが、良さも、いくつももっているアンプであるのだから。

長島先生の試聴に、2回、3回……と回を重ねていくごとに、
「なぜだったのか」が次第に、自然と理解できてくるようになっていた。

Date: 5月 29th, 2009
Cate: D44000 Paragon, JBL, 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(その13)

岩崎先生は、またパラゴンのことを、「プライベートなスピーカー」とも語られている(ステレオサウンド 38号)。

パラゴンは使いこなしが難しいスピーカーだと思われている方には、意外だろうが、
「大きな音はもちろん、キュートな小さい音」も鳴らせるパラゴンは融通性があり、
アンプによる音の変化も他のスピーカーよりも小さく「たいへん使いやすいスピーカー」であるとまで言われている。

ただ「レコードの音の違いを細密に聴き比べたいといった使い方には、やや不向き」だと思われていたためだろう、
39号のカートリッジ123機種の聴き比べでは、アルテックの620Aを試聴用のメインスピーカーとして使われている。

39号では、岡俊雄、井上卓也、岩崎千明、3氏によるカートリッジの試聴テストが特集で、
井上先生だけステレオサウンドの試聴室で、岡先生と岩崎先生は、それぞれの自宅で試聴されている。

岩崎先生は620AをクワドエイトLM6200Rとマランツの510の組合せで鳴らされ、
さらにステレオ音像のチェック用として、アルテックの12cm口径のフルレンジ405Aを、
自作のエンクロージュアに収められ、
至近距離1mほどのところに設置するというヘッドフォン的な使い方もされている。

これらのシステムは音をチェックするためのシステムであり、
「もっと総合的に、音楽を確かめる」ためにセカンドシステムでの試聴も行われている。
くり返すが、123機種のカートリッジを2つのシステム計3つのスピーカーで聴かれているわけだ。

まずカートリッジの取りつけをチェックしたうえで、トーンアームに試聴カートリッジを着装し、
ゼロバランスをとり適性針圧をかける。それからインサイドフォースキャンセラーも確かめ、
場合によってはラテラルバランスの再調整も必要となる。
そしてトーンアームの高さの調整。最低でも、これだけのことをカートリッジごとに適確に行なっていかなければ、
カートリッジの試聴は、まずできない。

Date: 5月 28th, 2009
Cate: D44000 Paragon, JBL, 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(その12)

岩崎先生は、パラゴンをどう捉えられていたのか。
ステレオサウンド 41号が参考になる。
パラゴンの使い手としての文章でもある。
     ※
 家の中に持ち込んでみてわかったのは、この「パラゴン」ひとつで部屋の中の雰囲気が、まるで変ってしまうということだった。なにせ「幅2m強、高さ1m弱」という大きさからいっても、家具としてこれだけの大きさのものは、少なくとも日本の家具店の中には見当らない見事な仕上げの木製であるとて、この異様とも受けとめられる風貌だ。日本人の感覚の正直さから予備知識がなかったら、それが音を出すための物であると果してどれだけの人が見破るだろうか。何の用途か不明な巨大物体が、でんと室内正面にそなえられていては、雰囲気もすっかり変ってしまうに違いなかろう。「異様」と形容した、この外観のかもし出す雰囲気はしかし、それまでにこの部屋でまったく知るはずもなかった「豪華さ」があふれていて、未知の世界を創り出し新鮮な高級感そのものであることにやがて気づくに違いない。パラゴンのもつもっとも大きな満足感はこうして本番の音に対する期待を、聴く前に胸の破裂するぎりぎりいっばいまでふくらませてくれる点にある。そして音の出たときのスリリングな緊張感。この張りつめた、一触即発の昂ぶりにも、十分応えてくれるだけの充実した音をパラゴンが秘めているのは、ホーンシステムだからだろう。ホーン型システムを手掛けることからスタートした、ジェイムズ・B・ランシングの、その名をいただくシステムにおいて、正式の完全なオールホーンを探すと、現在入手できるのはこのパラゴンのみだ。だから単純に「JBLホーンシステム」ということだけで、もはや他には絶対に得られるべくもない、これ限りのオリジナルシステムたる価値を高らかに謳うことができる。このシステムの外観的特徴ともいえる、左右にぽっかりとあく大きな開口が見るからにホーンシステム然たる見栄えとなっている。むろんその堂々たる低音の響きの豊かさが、ホーン型以外何ものでもないものを示しているが、ただ低音ホーン型システムを使ったことのない平均的ユーザーのブックシェルフ型と大差ない使い方では、その真価を発揮してくれそうもない。パラゴンが、その響きがふてぶてしいとか、ホーン臭くて低い音で鳴らないとかいわれたり、そう思われたりするのも、その鳴らし方の難しさのためであり、また若い音楽ファン達の集る公共の場にあるパラゴンの多くは、確かに良い音とはほど遠いのが通例である。しかしこれは、決して本来のパラゴンの音ではないことを、この場を借り弁解しておこう。優れたスピーカーほどその音を出すのが難しいのはよく言われるところで、パラゴンはその意味で、今日存在するもっとも難しいシステムといっておこう。パラゴンの真価は、オールホーン型のみのもつべき高い水準にある。
 パラゴンは、米国高級スピーカーとしておそらく他に例のないステレオ用である。正面のゆるく湾曲した反射板に、左右の中音ホーンから音楽の主要中音域すべてをぶつけて反射拡散することによりきわめて積極的に優れたステレオ音場を創成する。この技術は、これだけでもう未来指向の、いや理想ともいえるステレオテクニックであろう。常に眼前中央にステージをほうふつとさせるひとつの方法をはっきり示している。

Date: 5月 28th, 2009
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(その7・補足)

ジャズオーディオにおけるハークネスは、ネットワークはLX5だった、と友人のKさんが教えてくれた。

通常ハークネスのユニット構成は、001と呼ばれるものが、130Aウーファー、175DLHで、ネットワークはN1200。
ウーファーにD130、トゥイーターに075、ネットワークはN2600またはN2400のものが030と呼ばれていた。
ネットワークのNの後につづく数字はクロスオーバー周波数を表している。
N1200は1.2kHz、N2600は2.6kHzというように。

LX5も、LE85、HL91は1960年に登場し、D50S7-1 Olympusに、ウーファー LE15との組合せで使われている。
クロスオーバー周波数は、5が示しているように500Hzとけっこう低い値だ。

LE85は、アルテックの802を範としていると言われている。
その802と組み合わされるホーンは、811Bもしくは511Bで、
こちらも型番が示すように、802のカットオフ周波数を800Hzとするならば811B、
500Hzまで下げるのであれば、ひとまわり大きい511Bということになる。

511Bは、アルテックの代表的なスピーカーシステムA7-500-8にも使われているホーンである。
同じ500Hzから使えるホーンなのに、JBLのHL91とアルテックの511Bとは、
両者の目指す方向性の違いから、とはいえ、形状も大きさも異なる。

JBLの場合、このころのホーンは、どうしても家庭用ということを念頭においていたためだろう、
大きさの制約があったのではないのか。
アルテックのホーンが、ホーンとして素直な形と大きさとなっているのに対し、
JBLのホーンのいくつかは、途中でホーンを切ってしまったかのような印象すらある。

もっともこのホーンの制約があるからこそ、JBL特有のテンションの高い音が生れてきているのかもしれないのだが。

LE85 + HL91は、500Hzでの使用例があるとはいえ、
それはあくまで家庭内での常識的な音量で成り立つことであって、
ジャズオーディオで、岩崎先生が鳴らされていた音量では、
相当にドライバー(ダイアフラム)への負担も大きかっただろう。

でも、そんなことは百も承知で岩崎先生は、あえて500Hzで、使っておられたそうだ。

「JBLのホーンとドライバーのクセを知っているからやれることであり、
そうでない人は勧められない使い方」と言われていた、とKさんから聞いている。

ダイアフラムが、そうなることは承知の上だったのだろう。

ちなみにPAの世界では、ドライバーのダイアフラムが、金属疲労で粉々に散ってしまうことは、割とあることらしい。
でも、ジャズ喫茶とはいえ、日常的な広さの空間で、ダイアフラムを粉々にした人は、
やはり岩崎先生ぐらいだろう、とのことだった。

Date: 5月 27th, 2009
Cate: D44000 Paragon, JBL, 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(その11)

ステレオサウンド 38号の取材で、井上先生は、
岩崎千明、瀬川冬樹、菅野沖彦、柳沢巧力、上杉佳郎、長島達夫、山中敬三(掲載順)、
以上7氏のリスニングルームを訪ねられ、それぞれのお宅の「再生装置について」、囲み記事を書かれている。

タイトル通り、オーディオ機器の説明を、井上先生の視点でなされている。
音については、全体的にさらっと触れられている程度なのだが、
岩崎先生のところだけは、違う。
     ※
この部屋で聴くパラゴンは、聴き慣れたパラゴンとはまったく異なる音である。エネルギーが強烈であるだけに、使いこなしには苦労する375や075が、まろやかで艶めいて鳴り、洞窟のなかで轟くようにも思われる低音が、質感を明瞭に表現することに驚かされる。2、3種のカートリッジのなかでは、キース・ジャレットの「ケルン・コンサート」のレコードのときの、ノイマンDST62は、感銘の深い緻密な響きであった。パラゴン独得なステレオのエフェクトが、聴取位置が近いために効果的であったことも考えられるが、アンプの選択もかなり重要なファクターと思われる。やはり、このパラゴンの本質的な資質をいち早く感じとり、かつて本誌上でパラゴンを買う、と公表された岩崎氏ならではの見事な使いっぷりである。
     ※
井上先生に、もっと岩崎先生のことを訊いておけばよかった……、といま思っている。

Date: 5月 27th, 2009
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(その10)

当時、いろんな本に書かれていたことは、
スピーカー・エンクロージュアの上にアナログプレーヤーを置くなんて、以ての外だった。

部屋のどこに置いても、置き方を工夫してもハウリングマージンが十分にとれなかったとしても、
スピーカーの上は置くことは、やってはいけないことだった。

パラゴンは、一般的なスピーカーとは異る形態をしている。
だからというひらめきが岩崎先生にあったのかもしれないが、それでもスゴイことだと思う。

ただ、だからといって、パラゴンの上部中央に置いて、
いかなる場合でも、もっともハウリングが少なくなるかというと、そうでもないはず。
マイクロのDDX1000は、先に書いたように三本脚。
これがもし通常のアナログプレーヤーのように四本脚だったら、うまくいっただろうか。

パラゴンの天板の振動モードのちょうどいいところに、DDX1000の脚がのっかっているのかもしれない。
それにパラゴンの両端には、620Aが乗っている。
カタログ上の重量は、1本62kgある。これがあるとないとでは、
パラゴンの天板の振動モードもずいぶん変わってくるはず。

だから、ただ見様見真似で、パラゴンの上にアナログプレーヤーを乗せても、うまくいく保証はない。

Date: 5月 27th, 2009
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(その9)

ステレオサウンド 38号取材時の岩崎先生のメインシステムは、
スピーカーがパラゴン、コントロールアンプはクワドエイトのLM6200R、
パワーアンプはパイオニア・エクスクルーシヴM4、
アナログプレーヤーは、マイクロの三本脚のターンテーブルDDX1000に、
やはりマイクロのトーンアームMA505を組み合わせ、
カートリッジはノイマンのDST62とソナスのグリーン・ラベル。

M4はどこに置かれているのか写真ではわからないが、LM6200Rはパラゴンの上に置いてある。
LM6200Rの上には、さらにJBLのSG520が乗っている。
SG520の上には、ジープの模型が置いてある。

この横に、マイクロのプレーヤーが設置されている。パラゴンの上部中央にあるわけだ。
パラゴンの上には、これらの他に、パイプやら置物やらヘッドホンなど、ところ狭しと乗っている。

大音量の岩崎先生だけに、プレーヤーの置き場所はいろいろと試されたのだろう。
その結果、いちばんハウリングが少なかったのが、パラゴンの上だときいている。

ハウリングはプレーヤーの構造や置き方の工夫によっても多く変わるし、
とうぜん置き場所によっても変化する。床の強度が関係したり、音圧が集まるところは避けたい。

だから部屋によってベストの場所はさまざまだろう。スピーカーの設置場所が変われば、
ハウリングの少ない場所も、また変わる。
試行錯誤して最適の場所をさがすわけだが、岩崎先生以外の人で、
パラゴンの上に試しでもいいから、とプレーヤーを置いてみる人は、まずいないはず。

ハウリングのこと、オーディオのことをまったく知らない人ならば、そこに置く可能性はあるだろう。
でもオーディオの知識がある限り、
しかもパラゴンというスピーカーシステムを買おうという人にとっては、
そこは、試す場所からは、最初から除外される。