Archive for category SP10

Date: 7月 10th, 2016
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10・その13)

その4)でSL1200も標準原器だと書いた。
けれど、SP10他、テクニクスの標準原器として開発されたモデルとは、
標準原器として意味合いが違う。

SL1200はあくまでもディスクジョッキーにとっての標準原器であり、
標準原器として開発されたモノではなく、
ディスクジョッキーによって広く使われることによって標準原器となっていったモノだから、
テクニクスがSL1200を復活させるというニュースを聞いたとき、がっかりしたものだった。

昨年の音展では、テクニクスのダイレクトドライヴのプロトタイプが展示されていた。
アクリルのケースの中で回転していた。
それを見て、テクニクスはSP10に代るターンテーブルの標準原器を開発しようとしている、
そういう期待を勝手にもってしまった。

けれど実際に製品となって登場したのはSL1200である。
このニュースを聞いて、テクニクスの復活は本ものだとか、
さすがテクニクス、とか、そんなふうに喜んだ人がいる反面、
私のように、テクニクスに標準原器を求めてしまう者は、がっかりしていたはずだ。

テクニクスは名器をつくれるメーカーとは私は思っていない。
SL1200を名器と捉えている人もいるようだが、そうは思っていない。
最近では、なんでもかんでもすぐに「これは名器」という人が増えすぎている。

テクニクスは、そのフラッグシップモデルにおいて標準原器といえるモデルをつくれるメーカーである。
そう考えると、テクニクスというブランド名がぴったりくる。

だが新しいテクニクスは、以前のテクニクスとはそこがはっきりと違っている。
少なくともいまのところは。

テクニクス・ブランドの製品が充実してくれば、それでテクニクスは復活した、といえるのだろうか。
簡単に「これは名器」といってしまうような人であれば、
テクニクスは復活した、と捉えるだろうが、
以前のテクニクスを知り、テクニクスのフラッグシップモデルを知る者にとっては、
いまのテクニクスは、新生テクニクスかもしれないが、
テクニクスの復活とは思いたくとも思えない──のが、本音ではないだろうか。

Date: 7月 10th, 2016
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10・その12)

名器ではなく標準原器を目指していたとしても、
アナログプレーヤー関連の製品においては、
ターンテーブルとカートリッジとでは少し違ってくる面がある。

テクニクスのEPC100Cは、MM型カートリッジの標準原器といえるモデル。
SP10はターンテーブルの標準原器といえる。

カートリッジは標準原器として存在していても、
その性能を提示するには、カートリッジ単体ではどうにもならない。
トーンアームが必要であり、ターンテーブルも必要とする。
もちろんアナログディスク(音楽が収録されたもの、測定用)を必要とする。

アナログプレーヤー一式が揃わないと、標準原器としての性能は提示できない。
一方ターンテーブルはといえば、
トーンアームもカートリッジがなければどうにもならないモノでもない。

粛々とターンテーブルプラッターが回転していれば、それである程度は提示できる。
SP10の場合であれば、キャビネット取り付けることなく水平な台の上に置いて、
回転させていればいい、といえる。
ターンテーブルプラッターに手を触れたりスタートボタンを操作することができれば、
単体で提示できる性能は増える。

測定には測定用レコード、カートリッジ、トーンアームなど一式が必要となる項目もあるが、
ターンテーブル単体でも測定できる項目もある。

ターンテーブルは単体で動作(回転)することのできる機器である。
アンプは電源を入れただけでは動作しているとはいえない。
やはり入力信号を必要とする。

スピーカーもそうだ。単体でどうにもならない。
入力信号があってはじめて振動板が動き、動作している状態といえる。
しかもターンテーブルは、プレーヤーシステムを構成する一部(パーツ)にも関わらず、
単体で動作できる。

スピーカーシステムを構成する一部(ユニット、エンクロージュア、ホーンなど)で、
単体で動作できるものはない。

こういうターンテーブルならではのある種の特異性が、
SP10のデザインを生んだとすれば、
テクニクスがどんなにあのデザインを酷評されようと細部の変更を除き、
まったくといっていいほど変更しなかった理由がはっきりしてくる。

Date: 6月 3rd, 2015
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その11)

テクニクスのSP10の性能の高さを誰もが認めるところだが、
SP10のデザインとなると、私は最初見たときに、相撲の土俵を思い浮べてた。

いまも土俵だな、と思ってしまう。
台形の台座に、円形のターンテーブルプラッター。
ターンテーブルプラッターは中心ではなくやや右側に寄っている。

つまり優れたデザインだと思っていない。
けれどテクニクスはMK3まで、このデザインを変更していない。
私だけが優れたデザインと思っていないのであれば、それも理解できるのだが、
SP10のデザインは、ステレオサウンドを読んでもわかるように、決して高い評価を得てはいない。

SP10MK2が新製品として登場した時にも、デザインについて、井上先生と山中先生が語られている。
     *
山中 このスタイルというのは、人によって好き嫌いがはっきり分かれそうですね。
 僕個人としては、モーターボードの高さの制限を相当受ける点に、問題点を感じてしまうのですけれども、これは、実際にアームを取りつけて使ってみると、非常に使いにくいんです。
井上 モーターボードをもっと下げて、ターンテーブルが突き出たタイプの方が使いやすいと思いますね。
山中 ターンテーブルの、ひとつのベーシックな形というのは、昔からあったわけです。プロ用の場合には、そういったものに準拠して作っているはずなんです。
 なにもここでSP10の最初のモデルを固執する必要は、まったくないと思います。性能的にも、まったくの別ものといえるわけですし、旧型に固執しないほうがこのターンテーブルの素晴らしさが、もっとも出されたのではないかと思います。
(ステレオサウンド 37号より)
     *
かなり厳しく言われている。
これは井上先生、山中先生とものSP10の性能の高さは認められていて、さらなる改良が加えられ、
それだけでなくより洗練されて名器と呼べるモノになってほしいという気持からの発言ではないのか。
それだけの期待をSP10に対して持っていた、ということでもあろう。

けれど、テクニクスは名器よりも標準原器をめざしていたのであれば、
SP10の、あのデザインも、変更を加えなかったことも、理解できるような気がしてくる。

Date: 10月 20th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その10)

テクニクスのEPC100Cは、
1978年11月にMK2(65000円)、1980年11月にMK3(70000円)に改良されている。
MK2もMK3も聴く機会はなかったが、MK4(これが最終モデルである。70000円)は、
ステレオサウンドにいる時に登場したので、試聴室でじっくりと聴く機会があった。

もともと忠実な変換器を目指して開発され、それをかなりのレベルで具現化しているカートリッジをベースに、
細かな改良を加えていった末のMK4であるから、悪かろうはずがない。

試聴条件は、EPC100Cを聴いたときとずいぶん違っている。
その間に、さまざまなカートリッジを聴く機会があった。
EPC100Cが登場したころとは、他のカートリッジの性能も向上している。

そういう中にあっては、以前のようにEPC100Cの「毒にも薬にもならない」音は、
もう魅力的に感じられなかった。

すこしがっかりしていた。
改良を受けることで、もっと魅力的なカートリッジに仕上っているのでは、と勝手に期待していたからでもあり、
私自身も変ってきていたためでもある。

私にとって一時期までは、日本の音ということでイメージするのは、EPC100Cの音だったことがある。
EPC100Cは製造中止にならず、地道に改良されていけば、名器になったかも、という想いもあった。

EPC100 CMK4を聴いたときから、32年が経ってやっと気がついた。
テクニクスは、一般的なイメージとしての名器をつくろうとしていたのではない、と。
標準原器としてのカートリッジとしてEPC100C MK4を評価すべきだったことに気づく。

Date: 10月 19th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その9)

菅野先生はEPC100Cについて、
ステレオサウンド 43号で「音質の聴感的コントロールは、意識的に排除されているようだが」と書かれている。

菅野先生はまたステレオサウンド別冊「テクニクス」号で、テクニクスの製品は、
「出た音が良いとか悪いとかいった感覚的な、芸術的な領域には触れようとしていないのが大きな特徴だ」
と書かれている。

つまりEPC100Cはカートリッジという、
レコードの溝による振動を電気信号に変換するモノとしての、徹底的な技術的追求から生れてきた、といえる。
いわば忠実な変換器としてのカートリッジである。

EPC100Cが登場した1976年はCD登場以前であり、
オーディオマニアは一個のカートリッジだけということはなかった。
最低でも二、三個のカートリッジは所有していた。
多い人は十個、それ以上の数のカートリッジを持っていた。

そしてかけるレコードによってカートリッジを交換する。
それは音の追求でもあり、カートリッジは嗜好品としても存在していた。

どのカートリッジメーカーも、嗜好品を作っているという意識はなかったはずだ。
それでもほぼすべてのカートリッジには嗜好品と呼びたくなる面が、このころはあった。

だからこそ、音の特徴が一言で言い表せるモノが多かった。
エラックのSTS455Eを例に挙げているが、
このカートリッジに私が感じていた良さ(特徴)は、
別の人が聴けば良さではなく、悪さにもなり得ることがある。

つまり私が感じていた良さは、私にとっては薬であったわけだが、
別の人にとっては毒になるわけで、どのカートリッジも「毒にも薬にもなる」面があった。

Date: 10月 18th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その8)

テクニクスのEPC100Cといっしょに聴いた他のカートリッジの音は、
その特徴を一言で表そうと思えばできなくはない。
けれどEPC100Cの音は、そのカートリッジを特徴づけるであろう音のきわだった特徴、
つまりその部分において、他のカートリッジよりも秀でていると感じさせるところがないように感じる。

たとえばエラックのSTS455Eだと艶っぽさを色濃く出してくる。
これだけがSTS455Eの特徴ではないのだが、STS455Eの音を思い出そうとすると、
やはり艶ということがまず浮んでくる。

これはSTS455Eというカートリッジの特徴(音の良さ)でもある反面、悪さの裏返しでもある。
STS455Eはいいカートリッジであったし、私も買って常用していた。
けれど完璧に近いカートリッジというわけではない。

足りないところもだめなところもある。
けれど、ときとして、足りないところ、だめなところがあるから、
STS455Eの音の特徴ははっきりと浮び上ってくる。

このことは何もSTS455Eに限ったことではなかった。
他のカートリッジにもいえる。

けれどEPC100Cには当てはまらないような気がする。

Date: 10月 17th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その7)

テクニクスのオーディオ機器で、音を聴いて「欲しい」と思ったのは、
カートリッジのEPC100Cが最初である。
1976年に登場したヘッドシェル一体のMM型カートリッジのEPC100Cは、60000円していた。
高価だった。

この当時のほかのカートリッジの価格。
たとえばEMTのTSD15は55000円、XSD15が65000円、デンオンのDL103は19000円、
エンパイアの4000D/IIIが58000円、シュアーのV15 TypeIIIが34500円だった。

輸入品のカートリッジだと60000円前後はあったけれど、
国産カートリッジで60000円というのは、価格だけでも話題になっていたようだ。

EPC100Cの評価は高かった。
     *
 振動系のミクロ化と高精度化、発電系の再検討とローインピーダンス化、交換針ブロックを単純な差し込みでなくネジ止めすること、そしてカートリッジとヘッドシェルの一体化……。テクニクス100Cが製品化したこれらは、はからずも私自身の数年来の主張でもあった。MMもここまで鳴るのか、と驚きを新たにせずにいられない磨き抜かれた美しい音。いくぶん薄味ながら素直な音質でトレーシングもすばらしく安定している。200C以来の永年の積み重ねの上に見事に花が開いたという実感が湧く。(瀬川冬樹 ステレオサウンド41号「世界の一流品」より)

 モノ時代からMMカートリッジの研究を続けてきたテクニクスが、いわば集大成の形で世に問う高精度のMM型。実に歪感の少ないクリアーな音。トレーシングも全く安定。交換針を完全にボディにネジ止めし、ヘッドシェルと一体化するという理想的な構造の実現で、従来のMMの枠を大きく超えた高品位の音質だ。(瀬川冬樹 ステレオサウンド43号「ベストバイ・コンポーネント」より)

 技術的に攻め抜いた製品でその作りの緻密さも恐ろしく手がこんでいる。HPFのヨーク一つの加工を見ても超精密加工の極みといってよい。音質の聴感的コントロールは、意識的に排除されているようだが、ここまでくると、両者の一致点らしきものが見え、従来のテクニクスのカートリッジより音楽の生命感がある。(菅野沖彦 ステレオサウンド43号「ベストバイ・コンポーネント」より)
     *
EPC100Cの音は、瀬川先生が熊本のオーディオ店の招きで定期的に行なわれていた試聴会で聴くことが出来た。
EMTやオルトフォン、エラック、エンパイア、ピカリングなどのカートリッジと聴いている。

Date: 10月 6th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その6)

テクニクスは、SU-A2でコントロールアンプの標準原器といえるモノを開発しようとした──。
いまでは、私はそう考えている。

パワーアンプはメインアンプと呼ぶこともある。
いまではそう呼ぶ人は経てきているようだが、メイン(main)アンプ、主要なアンプということであり、
その前に存在するアンプをプリ(pre)アンプとも呼ぶ。
プリとは、前置の意味である。

コントロールアンプなのか、プリアンプなのか。
音質向上を謳い、各種コントロール機能を省略する傾向が広まってきた時期から問われていることである。

音量調整と入力切替えしか機能がなくとも、
それでもコントロール機能がふたつは残っているのだから、コントロールアンプと呼べないわけではないが、
それでもこういうアンプ(マークレビンソンのML6)は、もうコントロールアンプとは呼べず、
プリアンプということになる。

ではコントロールアンプとプリアンプの境界線はどこらあたりにあるのか。
トーンコントロールがついていたら、プリアンプではなくコントロールアンプと呼べるのか。
それとももっと多くの機能をもつアンプがコントロールアンプなのなのだろうか。

この問いに、テクニクスが出した答がSU-A2といえないだろうか。
ここから先がコントロールアンプ、そんな曖昧な境界線ではなく、
コントロールアンプとして最大限の機能を搭載しておけば、誰もがSU-A2をコントロールアンプとして認める。

SU-A2を目の前にして、これはプリアンプ、という人はいない。
絶対にプリアンプとはいわせない。
それがSU-A2なのだ、と思う。

Date: 9月 18th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その5)

原器という観点からテクニクスのオーディオ機器をふり返ってみると、
名器かどうかという観点にしばられていたときには見えてこなかったものがみえてくるものがある。

1977年にテクニクスはSU-A2というコントロールアンプを発表した。
外形寸法W45.0×H20.5×D57.4cm、重量38.5kg、消費電力240Wという、
プリメインアンプよりも大きな筐体のコントロールアンプだった。
価格は1600000円。このころマークレビンソンのLNP2Lは1280000円だった。
国産と輸入品ということを考えれば、もっとも高価なコントロールアンプでもあった。

SU-A2には、コントロールアンプとして考えられる機能はすべて搭載されている、
そう断言できるほど、各種機能が搭載されている。

SU-A2を最初見た時、テクニクスがヤマハのCIに対抗するコントロールアンプを出してきた。
そう思った。
CIも多機能のコントロールアンプを代表する存在だった。

CIが登場した時とSU-A2が登場した時とでは、状況が変化していた。
マークレビンソンのJC2の登場により、国産のコントロールアンプは薄型になり、
トーンコントロールやフィルターといった機能を省く設計のものが増えていた時期でもある。

そこにテクニクスが分厚く多機能なコントロールアンプを投入した。
このSU-A2を、私はヤマハのCIとの比較で捉えてしまった。

Date: 9月 13th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その4)

パイオニアから七月にアナログプレーヤーが発表になった。
PLX1000だ。

誰が見ても、テクニクスのSL1200だ。
ブランドと型番の表示を隠してしまえば、誰もがSL1200と思うことだろう。

SL1200はMK6で製造が終了した。
現行製品ではないから、とはいうものの、オーディオ専業メーカーとしてスタートしたパイオニアが、
こういう製品を恥ずかしげもなく出してしまうが意外だったが、
何かの記事で、ユーザーインターフェイスを変えないため、あえてこういうデザインにした、とあった。

テクニクスのSL1200は、オーディオマニアにはそれほど話題になった機種ではなかった。
最初のSL1200が登場し、MK2の登場までの間、一時的に製造中止になっていた、と記憶している。
ステレオサウンドでも、ほとんど取り上げられていない。
ベストバイでも、最初のころはSL1200は登場していなかった。

そのSL1200が、ディスクジョッキーのあいだで評価が高い、ということを聞くようになったのはいつごろだったか。
ほとんど憶えていない。SL1200がねぇ……、というふうに思ったことだけは憶えている。

結局、そのSL1200がテクニクスのアナログプレーヤーとして最後まで製造されていた。
そんなこともあってSL1200を名器として紹介する記事もある。

私は個人的にSL1200が名器とは思わない。
SL1200はディスクジョッキーにとっての標準原器であったと思っている。
そう考えれば、パイオニアがPLX1000においてSL1200の操作性と同じにしたことは、理解できないわけではない。

Date: 9月 12th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その3)

復活した現在のテクニクスではなく、以前のテクニクスはどんなオーディオメーカーだったのか。

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」テクニクス号で、菅野先生は書かれている。
     *
 こうしたブランド名としての成功とともに、テクニクスに対して見のがすことのできないのは、テクニクスがオーディオ技術の進展に真剣に取り組んで、この世界をリードしてきたということだ。テクニクスというメーカーがなければ、オーディオ技術の進展はもっと遅いものだったかもしれない。それだけにテクニクスは技術色の強いメーカーだし、自他ともに、技術集団であることを認めている。
 こうした環境のなかで生まれるテクニクス製品は、その結果、出た音が良いとか悪いとかといった感覚的な、芸術的な領域には、触れようとしていないのが大きな特徴だ。これは私のオーディオ観からすれば、少々異論をとなえたいところでもある。オーディオという人間の感性を満足させるものにあっては、技術はその手段であり、その目的を見ないで手段だけを追求するのは、中途半端であり片手落ちでもあると思う。しかし、これはあくまでも私の持論であって、テクニクスのとり続けてきた姿勢は、メーカーとして立派に評価できるものだと思う。手段を生半可にしたまま、あいまいに感覚や芸術の領域に首を突っ込んで、いいかげんな技術で製品を作る、虚勢をはったメーカーと比較すれば、テクニクスはオーディオメーカーとして非常に高い水準をもっているといえよう。
     *
この文章をはじめて読んだ時、確かにテクニクスはそういうメーカーかもしれない、と思った。
テクニクス号は1978年に出ている。
その前に、私はステレオサウンド 43号を読んでいた。43号は1977年6月に出ている。

ベストバイの特集号で、テクニクスのMM型カートリッジEPC100Cが選ばれている。
このカートリッジに対する菅野先生の文章も、またテクニクスというメーカーをよく表している、といえる。
これを読んでいたから、テクニクス号、読む人によっては少々意外に思える内容かもしれないが、
すんなりと受け入れることが出来た。

43号のEPC100Cについての文章だ。
     *
 技術的に攻め抜いた製品でその作りの緻密さも恐ろしく手がこんでいる。HPFのヨーク一つの加工を見ても超精密加工の極みといってよい。音質の聴感的コントロールは、意識的に排除されているようだが、ここまでくると、両者の一致点らしきものが見え、従来のテクニクスのカートリッジより音楽の生命感がある。
     *
ここに、「音質の聴感的コントロールは、意識的に排除されているようだが」とある。

SP10は名器ではなく原器としての存在だということに気づいた後に、菅野先生の文章を読めば、
すでにテクニクスがそういうメーカーであることが書かれていることに気づく。

Date: 9月 12th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その2)

State of the Artの意味については、別項「賞からの離脱」で触れている。
日本語にするのが難しい。
いまだ端的な日本語に置き換えることはできないでいる。

State of the Art──、
artがつくから、State of the Art賞に選ばれたオーディオ機器はすべて名器といえるのか、となると、
これも即答するのが難しい。

State of the Art賞が始まったステレオサウンド 49号を読むかぎり、
State of the Art賞に選ばれたオーディオ機器すべてが名器ということではない、というのは伝わってくる。

結局、テクニクスのSP10MK2が選ばれたのは、State of the Art賞だったから、ともいえよう。
誰もが、その性能の高さは認めている。
単体のターンテーブルとして、SP10MK2の性能は、標準原器と呼ばれるにふさわしいレベルであった。

ようするにSP10MK2がState of the Art賞に選ばれたのは、標準原器であったからではないのか。
名器ではなく、原器としてのSP10MK2に、State of the Art賞が与えられた、ともいえる。

原器とは、測定の基準として用いる標準器で,基本単位の大きさを具体的に表すもの、
同種類の物の標準として作られた基本的な器、と辞書には書いてある。

SP10はターンテーブルである。
ターンテーブルは正確な回転の実現が求められるオーディオ機器である。
アンプやスピーカー、他のオーディオ機器よりも、原器としての機器のあり方がはっきりとしている、ともいえる。

Date: 8月 28th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その1)

テクニクスについて書いている。
書けば書くほど、おもしろい存在だということを実感している。

テクニクスときいて、どの製品を思い浮べるかは人によって違う。
若い世代だとテクニクス・イコール・SL1200ということになるらしい。
SP10の存在を知らない人も、いまでは少なくないようでもある。

意外な気もしないではないが、そうかもしれないなぁ、と納得してしまうところもある。
そのSP10、MK2、MK3と改良されロングセラーモデルでもある。

ダイレクトドライヴの標準原器ともいわれていた製品である。
ステレオサウンド 49号の第一回State of the Art賞に、MK2が選ばれている。
誰もが、SP10の性能の高さは認めるところである。
にも関わらず、ステレオサウンドが2000年がおわるころに出した別冊「音[オーディオ]の世紀」に、
SP10は、どのモデルも登場してこない。

この別冊では、17人の筆者、
朝沼予史宏、新忠篤、石原俊、井上卓也、上杉佳郎、倉持公一、小林貢、佐久間輝夫、櫻井卓、篠田寛一、
菅野沖彦、菅原正二、楢大樹、傅信幸、細谷信二、三浦孝仁、柳沢功力らが、
「心に残るオーディオコンポーネント」を10機種ずつ挙げている。

ダイレクトドライヴのアナログプレーヤーも登場している。
小林貢氏がデンオンのDP3000、細谷信二氏がデンオンのDP100を挙げている。
けれどテクニクスのSP10は、初代モデルも、MK2もMK3も出てこない。

ここでの選出は、State of the Art賞とは異り、
きわめて個人的な選出であることが、その理由なのかもしれない。