Archive for 7月, 2023

Date: 7月 30th, 2023
Cate: ディスク/ブック

SOUTH PACIFIC(その6)

“SOUTH PACIFIC”にしても、アルテックのA4にしても、
別項で書いているスピーカーの音が嫌いな人にとっては、
どちらも、そして両方を組み合わせた音は、とうてい楽しめるという音ではない──、
そんなことになるだろうと思っている。

そのことが悪いとも思っていない。
けれど……、とおもうこともある。

Date: 7月 30th, 2023
Cate: スピーカーの述懐

あるスピーカーの述懐(その48)

(その47)での引用に続いて、これも読んでほしいことだ。
     *
 ……という具合にJBLのアンプについて書きはじめるとキリがないので、この辺で話をもとに戻すとそうした背景があった上で本誌第三号の、内外のアンプ65機種の総試聴特集に参加したわけで、こまかな部分は省略するが結果として、JBLのアンプを選んだことが私にとって最も正解であったことが確認できて大いに満足した。
 しかしその試聴で、もうひとつの魅力ある製品を発見したというのが、これも前述したマッキントッシュのC22とMC275の組合せで、アルテックの604Eを鳴らした音であった。ことに、テストの終った初夏のすがすがしいある日の午後に聴いた、エリカ・ケートの歌うモーツァルトの歌曲 Abendempfindung(夕暮の情緒)の、滑らかに澄んで、ふっくらとやわらかなあの美しい歌声は、いまでも耳の底に焼きついているほどで、この一曲のためにこのアンプを欲しい、とさえ思ったものだ。
 だが結局は、アルテックの604Eが私の家に永く住みつかなかったために、マッキントッシュもまた、私の装置には無縁のままでこんにちに至っているわけだが、たとえたった一度でも忘れ難い音を聴いた印象は強い。
     *
瀬川先生の「いま、いい音のアンプがほしい」からの引用だ。
このことを読んで、どうおもうのか、どう感じるのか。
それもまた人それぞれなのだろう──とわかっているのだが、
スピーカーの音を好きな人とスピーカーの音が嫌いな人とでは、
解釈がずいぶん違ってくるのかもしれない。

Date: 7月 29th, 2023
Cate: デザイン

管球式プリメインアンプのデザイン(その4)

いま書店に並んでいる管球王国Vol.109の特集は、
「インテグレーテッドアンプのストレートな音」で、
管球式プリメインアンプ、十一機種が登場している。

といっても、まだ読んでいないが、
ステレオサウンドのウェブサイトをみると、
十一機種中フロントパネルをもつのは、オーロラサウンドのHFSA01、
ラックスマンのLX380、カノア・オーディオのAI 1.10、
オーディオ・ノートのOverture PM5、レーベンのC5600Xと、五機種ある。

意外にもあるな、と思う。
けれど、記事中でフロントパネルのことについて語られているとは思えない。

Date: 7月 29th, 2023
Cate: High Resolution

MQAのこれから(とTIDAL・その7)

MQA破綻のニュースが流れてから、もうすこしで四ヵ月が経つ。
アンチMQAの人たちは喜んでいた。

けれど、MQAでの配信は続いているし、
アルバムの数も増えていっている。

昨日(7月28日)、ハイペリオン(Hyperion Records)もストリーミングを開始した。
Apple Music、Amazon Music、Spotifyなどで配信が始まっている。
e-onkyoでも扱っている。

もちろんTIDALも、だ。
そして嬉しいことに、TIDALではMQAでの配信である。
すべてのアルバムというわけではないが、
けっこうな数のアルバムがMQAで聴ける。

個人的にはスティーヴン・イッサリースがMQAで聴けるようになったのが嬉しい。
MQAでの配信は拡がっていっている、といえる。

Date: 7月 23rd, 2023
Cate: ディスク/ブック

SOUTH PACIFIC(その5)

瀬川先生の「たのしい」は、アルテックのA5のところでも登場する。
     *
瀬川 根本的に同意見なんですけれども、A4で非常にいいなと大づかみに感じた部分が、そっくりそのまま、ぜんたいに、ちょっとスケールが小さくなるのは当然で、みなさん、おそらくこの写真をごらんになると、A4をバックにしたA5がいかに小さく見えるか、逆に言えばA4というのが、いかに大きなスピーカーかということにお気づきにあると思う。
 A4でも感じた音の魅力、声がすばらしく明瞭、新鮮、なめらか、声帯がとてもなめらかという感じで、聴きなれた歌手の声でさえ、いっそう上手になったように、たのしく聴けます──この〝たのしい〟っていうのは、ぼくはなん度も使っちゃってるみたいだけれども、〝たのしさ〟というのが、ここの信条でしょうね。
 なんと言うんだろう──、音を無理におさえつけない、とにかく、音のほうが鳴りたがっている、鳴りたがっている音をそっくり、きれいに出してくれるという感じですね。
     *
ステレオサウンド 60号の特集は、何度も読み返している。
アルテックのスピーカーの音も、その後、何度か聴く機会があった。

瀬川先生のいわれる〝たのしい〟も、それなりに理解していたつもりだった。
けれど、“SOUTH PACIFIC”をMQAで聴いて、
まるで理解が足りなかったことに気づいた。

Date: 7月 23rd, 2023
Cate: ディスク/ブック

Solveigs Sang(その2)

その1)を書いた時点では、
アメリングのソルヴェイグの歌が、MQAで聴けるようになるなんて、ほとんど期待していなかった。

デ・ワールト指揮のペール・ギュントで、
アメリングはソルヴェイグの歌を歌っているわけだが、
エド・デ・ワールトのペール・ギュントのアルバムは、いまでもFLACでの配信のままだが、
5月のアメリングのMQAの配信の開始によって、
ソルヴェイグの歌はMQAで聴けるようになっている。

MQAで聴ける環境を持っている人は、一度聴いてほしい。

Date: 7月 23rd, 2023
Cate: ディスク/ブック

キャスリーン・バトルのアルバムも

5月にエリー・アメリングのアルバム、
7月にピエール・ブーレーズのストラヴィンスキーのアルバムが、
TIDALでMQAで配信されるようになった。

いよいよユニバーサル・ミュージックもMQAでの配信に力を入れてくれるのか、
そんなふうに期待できそうな風を感じていた。

数日前、今度はキャスリーン・バトルのアルバムがMQAで配信され始めた。
キャスリーン・バトルということに、それほど嬉しさは感じていないが、
1980年代のデジタル録音をふくめてMQAで、ということは素直に嬉しい。

今後、どうなるのかはわからないけれど、
今年は昨年までとは少し違うようだ。
ユニバーサル・ミュージックのMQAへの期待は大きくなっていくばかり。

Date: 7月 19th, 2023
Cate: ディスク/ブック

花図鑑(その2)

これまでTIDALで聴ける薬師丸ひろ子のアルバムは「時の扉」だけだった。
MQAで聴ける。

しばらく、この一枚だけだった。
いつかは他のアルバムも聴けるようになるだろう、と期待しつつも、
無理かな……、という気持も持ち始めていたところに、
「歌物語」もMQAで配信されていることに気づいた。

気づいたのは数日前。
いつから配信されるようになったのかははっきりとわからないが、
そう経っていないはずだ。

e-onkyoがMQAをやめてしまったため、
薬師丸ひろ子の歌声をMQAで聴こうと思ったら、TIDALということになる。

「花図鑑」も、TIDALで配信される日がくるかもしれない。

Date: 7月 19th, 2023
Cate: デザイン

管球式プリメインアンプのデザイン(その3)

1975年のステレオサウンドのムック「世界のオーディオ」のラックス号で、
井上先生が、SQ38FD/IIについて語られていることが、
私にとっての管球式プリメインアンプのデザインを考えるうえでの根っこになっている。
     *
永井 井上さんがステレオサウンドに、離れて眺めたらどうか書いていましたが、それはラックスの製品の一つの特徴的な見方かもわかりませんね。
上杉 離れて見たら、ってどういうことですか。
井上 普通アンプはそばで見ると、なるほどと思うことが多いのですが、ラックスのアンプは離れてマクロ的に見たときにいわゆるアンプらしさが感じられるということです。そばで見れば、フロントパネルに細かい文字のレタリングがすごく多く入っています──たとえば、メイド・イン・ジャパンまで書いてあるのは他社にはないはずです。
永井 ちょうど38FDのパネルが、ちょっと暗くなったんですね。遠くから見るというのが、おもしろいと思った。
岩崎 大体、日本のアンプは、すぐ目の前に置いて見るようにしか作ってないからね。離れた状態で見るなんて考えてないでしょう。
     *
井上先生の《離れて眺めたらどうか》は、
SQ38FD/IIだけのことではなく、ラックスのアンプ全体についてのことだとはわかっている。
そのうえで、この井上先生が語られていることを読んだ上で、
もう一度、ステレオサウンド 42号のプリメインアンプの総テストを読み返す(眺めると)、
確かにヤマハのCA2000とラックスのSQ38FD/IIのデザインの、
もっとも大きな違いは、このことだと気づく。

42号よりも先に「世界のオーディオ」のラックス号は出ているが、
私は42号を読んで、けっこうあいだがあいて、「世界のオーディオ」のラックス号を読んでいる。

そういうことがあって、SQ38FD/IIのデザインについて語る上で、
《離れて眺めたらどうか》は、いまも忘れていないし、
ここでのテーマである管球式プリメインアンプのデザインについても、
私の価値判断の基準となっているのも、
実のところ《離れて眺めたらどうか》なのかもしれない。

Date: 7月 15th, 2023
Cate: デザイン

管球式プリメインアンプのデザイン(その2)

ステレオサウンド 42号の特集に登場する35機種のプリメインアンプのなかには、
ヤマハのCA2000(158,000円)も含まれている。

CA2000よりも高価な製品もいくつかあったけれど、
42号の時点で、最優秀機といえば、CA2000と多くの人が思っていたはずだ。

私はそうだった。
物理特性もふくめて、試聴記を何度も読み返しては、
CA2000こそ最優秀プリメインアンプなのだ、と感じていた。

そのCA2000は、いかにも当時のヤマハの製品らしいデザインに仕上がっていた。
CA2000を見て、オーディオのことを何も知らない人であっても、
ソリッドステートアンプだと思うだろう。

CA2000をみて、管球式プリメインアンプと思う人は一人もいないはずだ。
このことが、ここでのテーマでは重要になってくる。

プリメインアンプとしてのベストデザイン、
好ましいと感じるデザインについて、ではなく、
あくまでもなく管球式プリメインアンプとしてのデザインについて、であるからだ。

ラックスのSQ38FD/IIは、当時、唯一といえる管球式プリメインアンプだった。
ラックスの製品としては、5L15も誌面に登場している。

5L15を見て、管球式プリメインアンプと思う人は、これもまた一人もいないと思う。
そのくらい、SQ38FD/IIと5L15ではまとっている雰囲気が大きく違う。

オンキョーのIntegra A722nIIはどうかというと、
このデザインならば、管球式プリメインアンプといわれれば、納得しそう──、
私はそんなふうに感じていた。

このアンプも、SQ38FD/IIほどではないにしても、
そんな雰囲気をまとっている気がした。

SQ38FD/IIとIntegra A722nIIは、
開発年代が、他の33機種とは違って古い。

Date: 7月 15th, 2023
Cate: ディスク/ブック

SOUTH PACIFIC(その4)

ステレオサウンド 60号で、菅野先生はアルテックのA4について、こう語られている。
     *
菅野 まったく、瀬川さんが言われるようにそりゃ本物と近いとか遠いとかいうようなことを、もう考えさせない、もう出てくる音が実に魅力的なんです。
 例の〝サウス・パシフィック〟のレコードでびっくりしたのが、あの声。相当音量をあげて映画をほうふつさせようという鳴らしかたをしていたんですが、人間の声としたらああいうものは非常にむずかしいはずです。
 オーケストラの音は、何十年かまえにとって、声はもうまったくいまとったというようにフレッシュでみずみずしくて、リアリティがあって、ほんものよりもほんものらしいというやつだ。それがなんともこたえられない魅力でした。こういう声の再生はやっぱりアルテックじゃないと無理なんじゃないでしょうか。
     *
“SOUTH PACIFIC”のサウンドトラックを、TIDALでMQAで再生して、
最初に鳴ってきた音を聴いて感じたのは、おおむね菅野先生が語られていることと同じだった。

映画は1958年公開なのだから、録音は1957年か1958年。
当然、録音器材は管球式のモノばかりのはずだ。

そのことから、こんな感じの音なのだろう、という予想をしていた。
その予想というのは、同時代のクラシックの録音を聴いての印象をもとにしたものだった。

けれど、鳴ってきた音は、大きく違っていた。
《本物と近いとか遠いとかいうようなことを、もう考えさせない、もう出てくる音が実に魅力的》、
まさにそういう音だった。

色がついているといったらいいのだろうか。
聴いてやっとわかった。
瀬川先生が、60号の特集「サウンド・オブ・アメリカ」に、
この“SOUTH PACIFIC”を持参された理由がわかる。

Date: 7月 14th, 2023
Cate: デザイン
1 msg

管球式プリメインアンプのデザイン(その1)

真空管アンプの存在(KT88プッシュプルとタンノイ・その16)」に、
Tadanoさんのコメントがあった。

コメントの最後に、
《ところで宮崎さんに質問したいのですが、宮崎さんの思う真空管プリメインアンプのベスト・デザインを、ぜひ教えてください。また、その理由についてもお聞かせいただけると嬉しい限りです!》
とある。

無視するわけにはいかないとおもいながらも、この質問は難しい。
別項「プリメインアンプとしてのデザイン、コントロールアンプとしてのデザイン」、
ここでのテーマと関係してくることだし、
《真空管プリメインアンプのベスト・デザイン》でもある。

Tadanoさんのコメントを読んだのが昼過ぎ。
それからいままであれこれ思い浮べてきたけれど、
《真空管プリメインアンプのベスト・デザイン》は、いまのところない、としかいいようがない。

けれど好ましいと思う管球式プリメインアンプがないわけではない。
これまで難度も書いているように、私が最初に読んだステレオサウンドは41号。
その次の42号は、プリメインアンプの特集だった。

53,800円(オンキョーIntegra A5)から、
195,000円(マランツModel 1250)までの35機種がとりあげられていた。

この35機種のなかで、オーディオに興味を持ち始めたばかりの中学三年生だった私が、
デザイン的に、他のアンプとは明らかに違うと感じたのは、
オンキョーのIntegra A722nIIとラックスのSQ38FD/IIの二機種だった。

管球式プリメインアンプはいうまでもなくSQ38FD/IIであり、
Integra A722nIIはソリッドステート(半導体)アンプだった。

Date: 7月 14th, 2023
Cate: ディスク/ブック

SOUTH PACIFIC(その3)

“SOUTH PACIFIC”のことをなぜ書き始めたのか。
理由は──、もう想像がつくという人がいるだろうが、
TIDALにあったからで、しかもMQAで配信されていたからだ。

数日前、そういえば、とふっと“SOUTH PACIFIC”のことを思い出した。
TIDALにあるだろうな、と思ったら、やっぱりあった。

ステレオサウンド 60号のころの私は、“SOUTH PACIFIC”をアルテックで聴いてみたい、
と思いながらも、“SOUTH PACIFIC”のレコードを欲しい、と思っていたわけではなかった。

探すこともしなかった。
そういうディスクのことを、急に思い出したのは、
完全な状態とはいえないものでも、あるところでアルテックのA4に触れたからなのかもしれない。

60号に登場するA4とユニット構成はほぼ同じ。
ホーンがより大型の1505Bで、210エンクロージュアには左右のウイングがない。

ネットワークは家のどこかにあるはずだけど……、
けれど見つからず、とりあえず288-16Kのローカットだけをコンデンサーだけで行う。

A4が収まっている部屋なのだから、スペース的に広いとはいうものの、
A4のためのスペースとしては狭い。

とりあえず鳴らしてみよう、そんな感じでの音出しだったにもかかわらず、
やはりアルテックなのだった。

そんな表現をされても、
アルテックのシアター用スピーカーの音を一度も聴いたことのない人は、
わからないよ、といわれるのは承知のうえで「やはりアルテック」だった。

その音が、“SOUTH PACIFIC”を思い出させたのだろうし、
TIDALで“SOUTH PACIFIC”を聴いたあとに、60号を読み返す。

何かを書きたくなった次第。

Date: 7月 12th, 2023
Cate: ディスク/ブック

SOUTH PACIFIC(その2)

“SOUTH PACIFIC”をアルテックのスピーカーで、一度でいいから聴いてみたい。
ステレオサウンド 60号を読んだ人ならば、そう思われた方も少なくないはずだ。

その音で、日常的に詩文の好きな音楽を聴きたいと思うわけではないけれど、
それでも聴いてみたい、というよりも聴いておきたい音というのがある。

とはいえアルテックのA4で“SOUTH PACIFIC”というのは、叶わぬこととあきらめてもいた。
60号に登場するA4のシステム構成は次の通り。

エンクロージュアは210、ウーファーは515Eのダブル、
ドライバーは288-16K、ホーンは1005Bにスロートアダプター30210を組み合わせたモノ。
ネットワークはN500FAである。

210エンクロージュアには両サイドに補助バッフルがつく。
その際の外形寸法は、W205×H213×D100cm。
この210の上に大型のマルチセルラホーンがのるわけだから、
はっきりと劇場用のスピーカーシステムである。

かなりの大型スピーカーシステムを縦いに持ち込む人が多い日本でも、
A4を自宅で聴いています、という人は、どれだけいたのだろうか。

60号に掲載されているザ・スーパーマニアには、
A4をお寺の本堂に置かれている方が登場しているが、
それでも高さ的にはA4が窮屈そうにみえる。

60号の特集の試聴で使われたのは、ステレオサウンド試聴室ではなく、
54畳ほどのかなり広い空間である。
     *
瀬川 ただ、幸か不幸か、日本の住宅事情を考えますと、きょうはここは54畳ですね。ここでA4を鳴らすと、もうA4では部屋からはみ出しますね。大きすぎる。A5になって、どうやら、ちょうどこの部屋に似あうかな、でも、もうすこし部屋が広くてもいいなという感じになってくるでしょう。
 ただ現実にはわれわれ日本のオーディオファンは、A5を6畳に入れている人が現にいますよね。一生懸命鳴らして、もちろん、それはそれなりにいい音が出ているけれども、きょうここで聴いた、この開放的な朗々と明るく響く、しかもなんとも言えないチャーミングな声が聴こえてくる。このアルテック本来の特徴が残念ながら、われわれの部屋ではちょっと出しきれません。どんなに調整しこんでも……。
 逆に菅野さんが言われたように、このシリーズはクラシックが鳴りにくいと言われた、それがむずかしいと言われた。むしろ6畳なんかでアルテックを鳴らしている人は、そっちのほうに挑戦してますね。
 つまり、このスピーカーは、ほっとくとどこまでも走っていきたくなるあばれ馬みたいなところがある。そこがまた魅力でもあるんだけれども、そこをおさえこみ、おさえこみしないと、6畳ですぐそばじゃとっても聴けないですね。そこをまたおさえこむテクニックはたいしたものだと、ぼくは思います。実際、そういう人の音をなん度も聴かせてもらっているけれども。
 でも、それが決してアルテックの本領じゃない。やっぱり、アルテックの本領は、この明るさ、解き放たれた自在さ、そしてこれは今日的なモニタースピーカーのように、原音にどれほど忠実かという方向ではないことは、このさい、はっきりしておかなくちゃいけない。物理的にどこまで忠実に迫ろうかというんじゃなくて、ひとつの音とか音楽を、ひとりひとりが心のなかで受けとめて、スピーカーから鳴る音としてこうあってほしいな、という、なにか潜在的な願望を、スッと音に出してくれるところがありますね。
 実にたのしいと思うんです。この音を聴いてても、ぜったい原音と似てないですよ。だけど、さっきサウンド・トラック盤をかけた、あるいはヴォーカルをかけた、あのときの歌い手の声の、なんとも言えず艶があって、張りがあって、非常に言葉が明瞭に聴き取れながら、しかも力がある。しかし、その力はあらわに出てこない。なんともこころよい感じがする。
 あの鳴り方は、これぞ〈アメリカン・サウンド〉だ、と。
     *
「たのしい」とある。
この瀬川先生の「たのしい」は、この後にも出てくる。

Date: 7月 12th, 2023
Cate: ディスク/ブック

SOUTH PACIFIC(その1)

“SOUTH PACIFIC”。
邦題は「南太平洋」。1958年(日本公開は1959年)の映画であり、
サウンドトラックのタイトルだ。

“SOUTH PACIFIC”ときいて、
ステレオサウンド 60号の特集「サウンド・オブ・アメリカ」のことを、
いまではどれだけの人が思い出すのだろうか。

もう四十年以上前の記事だし、
そんな古いステレオサウンドは読んだことがない、という世代の人もいよう。

60号を読むまで、“SOUTH PACIFIC”のことは知らなかった。
60号の110ページに、
「アメリカン・サウンド試聴のために集められた機器群」として、
当時の現行製品からすでに製造中止になっていたマランツのModel 7とModel 9など、
この写真をみているだけで、当時の編集部の、この特集への意気込みが伝わってきていた。

アナログプレーヤーは、トーレンスのリファレンス。
リファレンスの置き台に、試聴ディスクが立て掛けられている。
手前にあるのが、“SOUTH PACIFIC”である。

このディスクのことは、アルテックのところに出てくる。
60号の特集に登場するアルテックのスピーカーシステムは、三機種。

A4とA5FとMANTARAY HORN SYSTEMである。
     *
 ぼくが個人的に非常におもしろかったのは、A4のために、瀬川さんがわざわざトーキーのサウンド・トラック・レコードを持ってきて──〝サウス・パシフィック(南太平洋)〟ですけれども──それをかけて、A4の調整にはかなり苦心して、いい状態で鳴らしてみたら、やはりさんざんぼくなんかなじんでいた劇場のウェスターン・エレクトリックの音、ああいうのがよみがえってくるという感じがありました。
     *
このあとにも、“SOUTH PACIFIC”のことは出てくる。
だから、110ページの写真で、“SOUTH PACIFIC”のディスクが手前にあるのは、
編集部が意図してのことのはずだ。