Archive for category Kingdom

Date: 4月 9th, 2012
Cate: Kingdom, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その78)

ウェストミンスターをオートグラフの後継機種、
つまりは現代版のオートグラフという認識でウェストミンスターを使っておられる方も少なくないと思う。
私もウェストミンスターが登場したときは、そう思っていた。
オートグラフのコーナー型を、
一般的な日本の住環境でも設置しやすいレクタンギュラー型とした現代版オートグラフだと受けとめていた。

ウェストミンスターが登場したころはユニットはフェライトマグネットであり、
この点には不満を感じたものの、それでものちにマイナーチェンジを重ねるごとにアルニコマグネットになり、
ネットワークにも手が加えられエンクロージュアの寸法にも変化があり、
風格を増していったウェストミンスターに対して、
ほんとうにオートグラフの後継機種だろうか、という疑問を持ちはじめたころにKingdomが登場した。

Kingdomを紹介記事をステレオサウンドで読んで思い出していたのは、
1978年に登場したバッキンガムとウィンザーである。

このふたつのスピーカーシステムに関しては、この項の(その30)から(その36)にかけて書いているし、
さらに(その56)と(その57)でも触れている。

(その30)から(その36)を書いたのは2009年の7月、
(その56)と(その57)は2011年の5月。

すこしあいだを開けすぎたと反省して書いているのだが、
バッキンガムは25cm口径の同軸型ユニットに30cm口径のウーファーをダブルで足している3ウェイ・システム。
ウィンザーはシングルウーファー仕様。

当時はタンノイはハーマン傘下にあった。
主力となっていたのは、いわゆるABCシリーズと呼ばれていた、アーデン(Arden)、バークレー(Berkeley)、
チェビオット(Cheviot)、デボン(Devon)、イートン(Eaton)であった。
オートグラフとG.R.F.はタンノイの承認を得てティアックによる国産エンクロージュアとなっていた。

往年のタンノイを知る者にとっては、やや物足りなさをおぼえていたところに、
バッキンガムとウィンザーが登場し、
このふたつのスピーカーシステムについて、(その56)でも引用しているように、
タンノイのリビングストンは、こう述べている。
「オートグラフとGRFを開発した時と全く同じ思想をバッキンガム、ウィンザーにあてはめている」と。

リビングストンは1938年にタンノイに入社した、いわばタンノイの生き字引ともいえる人物であり、
彼が、このように語っているのだ。

ならばKingdomもオートグラフを開発した時と全く同じ思想をあてはめている、といってもおかしくはないはず。
むしろ、バッキンガム、ウィンザーよりも、
より徹底した、その思想をあてはめて開発されたのがKingdomといえよう。

Date: 4月 8th, 2012
Cate: Kingdom, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その77)

また書いているのか、と思われても、
くり返し書くことになるけれど、「五味オーディオ教室」からオーディオの世界へとはいっていった私には、
タンノイのオートグラフは、そのときからずっと、
そして(おそらく)死ぬまで憧れのスピーカーシステムでありつづける。

タンノイの前身であるTulsemere Manufacturing Companyは1926年の創立だから、
あと14年で創立100年の歴史をもつタンノイのスピーカーシステムの中でいちばん欲しいのはオートグラフであり、
これから先どんなに大金を手にしようと、オートグラフを迎えるにふさわしい部屋を用意できようと、
おそらく手に入れずにいるであろうスピーカーシステムもオートグラフである。

特別な存在であるオートグラフを除くと、
私が欲しいと思うタンノイのスピーカーシステムは、
タンノイ純正ではないから、いささか反則的な存在ではあるけれど、
ステレオサウンドが井上先生監修のもとで製作したコーネッタがある。
現行製品の中ではヨークミンスター/SEはいい出来だと思っている。

このふたつのスピーカーシステムを欲しいと思う気持とはすこし違った気持で「欲しい」と思うのは、
やはりKingdomである(それも最初に登場した18インチ・ウーファーのモノ)。

このKingdomこそが、オートグラフの後継機種だと考えているからだ。

オートグラフの後継機種はウェストミンスターではないか、と思われるだろう。
たしかにウェストミンスターは、オートグラフの形態的な後継機種とは呼べるものの、
オートグラフが1953年に登場したとき実現としようとしていたもの、目指していたもの、
こういったものの方向性は、オートグラフとウェストミンスターとではやや違うように感じているからだ。

オートグラフは1953年の時点で行き着けるであろう最高のところを目指していた。
そのための手段としてバックロードホーンとフロントショートホーンの複合ホーン、
さらにコーナー型という複雑なエンクロージュアを採用することになったのではないか。

菅野先生が以前からいわれているように、
スピーカーシステムは同時代の録音と同水準のものそなえることが理想的条件のひとつである。

周波数特性(振幅特性だけでなく位相特性もふくめての周波数特性)、ダイナミックレンジ、リニアリティ、
S/N比……、こういったことをベースとしての音色、音触などいったことを含めての、
つねに同時代の録音に対するタンノイの答が、
1953年はオートグラフであり、それから約40年後はKingdomである。
ウェストミンスターは、オートグラフと同じ要求に対する答ではない──、
私はそう考えている。

だからオートグラフの後継機種といえるのは、ウェストミンスターではなくKingdomであり、
私がKingdomを「欲しい」と思っている理由は、まさにここにある。

Date: 4月 8th, 2012
Cate: 6041, ALTEC, Kingdom, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その76)

このあたりがJBLとアルテックの違いである、と思える。
どちらもアメリカ西海岸にあるプロ用のスピーカーを製造している会社でありながら、
JBLのスピーカーユニットの豊富さとは逆にアルテックのスピーカーユニットの数は少ない。
アルテックにはJBLのようにコーン型ユニットの口径のヴァリエーションが豊富ではない。

だからアルテックが4343と同等かもしくはそれを超えようとする4ウェイのシステムをつくろうとすれば、
604-8Hしかないというのは理解できる。
それに604をシステムの中核に使うからこそ、アルテックの色が濃くなる。

このスピーカーユニットの豊富さの違いは、メーカーの体質の違いでもある。
もしJBLが同軸型ユニットを核にした4ウェイ・システムを開発するのであれば、
現行ユニットだから、とか、会社の顔的な存在のユニットだから、といったような理由ではなく、
最適な口径のユニットがラインナップになければ、新たに開発するであろう。

それに、以前も書いているけれど、6041は急拵えのシステムだと思う。

そうはいいながらも6041には魅かれる。
だから、こうやってあれこれ書いているわけだ。
604-8Hを使い4ウェイ・システムを、完成度を高くまとめていくのであれば、
私ならばウーファーの口径はもっと大きなものにする。
黄金比的にいえばミッドバスが15インチなのだから、24インチ(60cm)口径となる。
現実に、この口径のウーファーとなるとハートレーの224HSがある。
マーク・レヴィンソンがHQDシステムにも採用したハートレーの、このウーファーは、
クラシックをメインに聴く私にとっては、
604と組み合わせる大口径ウーファーとしては、これしかないようにも思う。

とはいえ604-8H(もしくは604-8G)の下に224HS、となると、
エンクロージュアのサイズはかなりの大きさになる。

もうひとつ考えられるのは、18インチ口径のウーファーをダブルで使うことだ。
これもエンクロージュアのサイズはそうとうに大きくなる。

24インチ・ウーファーにするのか、18インチ・ウーファーのダブルか。
18インチ・ダブルの方は、604に合うと思えるユニットが頭に浮ばない。
現行製品だけでなくとも、18インチともなると製品の数も減ってくるし、過去の製品でも思い浮ばない。

604を使いながら4ウェイにしてワイドレンジを狙うのであれば、
私自身の好みをいれると、ハートレーの224HSということになる。
604と224HS──、もうバカげた構成ではあるけれど、試してみたい、と思いつつも、
現実的な構成としては、
タンノイのKingdomの12インチ口径同軸型ユニット18インチ口径ウーファーの組合せは、
うまくオーディオマニアの心をとらえた絶妙な、そしてぎりぎりのサイズ設定だと感じてしまう。

Date: 8月 20th, 2011
Cate: Kingdom, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その74)

JBL4343のウーファーとミッドバスの口径は15インチと10インチ、
タンノイのKingdomの弟分として登場したKingdom 15は、
型番の末尾の数字があらわしているようにウーファー口径がKingdomの18インチから15インチへ変更されている。
この変更にともないミッドバス、ミッドハイをうけもつ同軸型ユニットの口径も、
Kingdomの12インチから10インチと、ひとまわり小さくなっている。
コーン型のウーファーとミッドバスの口径は4343と同じになっている。

これは単なる偶然なのだろうか。

何度も書いている瀬川先生の、
ステレオサウンド別冊のHIGH-TECHNIC SERIES 1に掲載されていた4ウェイ構想の記事を読んだとき、
なぜJBLの4343のミッドバスは10インチであって、8インチにしなかったのか、と疑問に思ったことがあった。

ウーファーとのクロスオーバー周波数がかなり低いのであれば口径がある程度あった方が有利なのはわかるが、
4343では300Hzである。8インチ(20cm)口径のユニットでも十分だし、
口径が小さくなった分だけ中高域の特性はよくなるし、
瀬川先生の記事にもフルレンジの20cmから10cm口径の良質なものを選ぶことから始める、とあった。

そう思ったのは、いまから34年前の話。
4343への関心が強くなっていくほどに8インチじゃなくて、10インチを選択したことを自分なりに納得がいった。

4343(その前身の4341を含めて)が成功したのは、いくつかの要因がうまく関係してのことであろうが、
そのひとつにウーファーとミッドバス、
このふたつのコーン型ユニットの口径比は大きく関係している、と思っている。

だから、Kingdomが成功したのは、このウーファーとミッドバス(同軸型ユニット)の口径比のおかげだ、
という短絡的な断言はしないけれど、それでもこれ以外の口径比で成功はありえなかったはず、だ。

Date: 6月 16th, 2011
Cate: Kingdom, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その72)

4ウェイといっても、そのシステム構成の考え方はひとつではない。
3ウェイのスピーカーシステムに、スーパートゥイーターもしくはサブウーファーを足すかたちのものもあれば、
2ウェイのスピーカーシステムをベースに、高低域両端に専用のユニットを追加するかたちもあり、
JBLの4343やアルテックの6041、タンノイのKingdomは後者である。

3ウェイをベースにスーパートゥイーターを加えるものだと、
ユニット構成は、国産の3ウェイスピーカーシステムの多くの例からすれば、
コーン型の採用はウーファーだけ、ということも十分ありうる。

同じ3ウェイ・ベースでもサブウーファーをつけ足すのでは、コーン型ユニットは最低でも2つ使われることになる。
2ウェイ・ベースでもそれは同じ。コーン型ユニットが、最低でもウーファーとミッドバスに使われる。

これから書くことになにひとつ技術的な根拠はない。
感覚的な印象ではなるが、コーン型ユニットがウーファーとミッドバスに使われた場合、
このふたつのユニットの口径比は4ウェイ・システムの成否に深く関わっているように思う。

ウーファーに対してミッドバスの口径が大きすぎる(もしくは小さすぎる)と感じられるスピーカーシステムと、
うまくバランスがとれていると感じられるスピーカーシステムがある。

ウーファーに対して大きすぎる口径(小さすぎる口径)のミッドバス、
反対の言い方もとうぜん可能で、ミッドバスの口径に対して大きすぎる口径(小さすぎる口径)のウーファー、
──そんなものは人それぞれの感覚によって違ってくる、とは思っていない。

ここにはひとつの最適解がある、はずだ。

黄金比がある。
計算してみると、18インチに対しては11.12インチとなる。46cmで計算すると28.43cm。
15インチでは9.27インチとなり、38cmでは23.49cm、となる。

Date: 6月 10th, 2011
Cate: Kingdom, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その71)

Kingdomと同じ18インチ口径のウーファーの4ウェイ・システムにJBLの4345があるが、
Kingdomは規模としては、4345というよりも4350に相当する、といってもいい。

4350の外形寸法はW1210×H890×D510mmで、重量は110kg。
横置きスタイルの4350を縦置きにしてみてならべてみると、横幅(4350の高さ)が狭いだけで、
あとはKingdomのほうが大きいから、その大きさがより実感できると思う。

ミッドバスを受け持つユニットの口径は12インチで、4350もKingdomも同じ。
低域は4350は15インチ口径が2発、Kingdomは18インチ口径が1発だから、
振動板の面積は4350のほうが大きいが、振動体積という点からみれば、
15インチ2発と18インチ1発は、ほぼ同じくらいのはずだ。

4350はJBL初の4ウェイ・システムであり、Kingdomはタンノイ初の4ウェイ・システムであり、
システムの規模のほぼ同じといえる。

JBLは4350の1年後に4341(4340)を発表している。
タンノイもKingdomの翌年に、Kingdom 15を出している。

この4341(4343といっていい)とKingdom 15が、
4350とKingdomと同じように、対比できる、ほぼ同じ規模のスピーカーシステムとなっている。

4343は15インチ口径のウーファー、10インチ口径のミッドバス、
Kingdom 15は型番が示すようにウーファーが15インチになり、同軸型ユニットは10インチと、
Kingdomよりもひとまわりちいさくまとめられている。

このウーファーとミッドバスの口径比は偶然なのだろうか、と思えてくる。

Date: 6月 5th, 2011
Cate: Kingdom, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その70)

1996年に、タンノイ創立70周年モデルとしてKingdomが登場した。
バッキンガムの登場からほぼ20年が経過して、やっと登場した、という思いがあった。

バッキンガム、FSM、System215と、
同軸型ユニットとウーファーの組合せに(あえてこういう表現を使うが)とどまっていたタンノイが、
トゥイーターを追加して4ウェイのシステムを手がけた。

しかもFSMやSystem215と違う、大きな点は、その時点でのタンノイがもつ技術を結集した、
といいたくなるレベルで、Kingdomを出してきてくれたことが、なにより嬉しかった。

瀬川先生は、JBLから4350、4341が発表されたときに、
「あれっ、俺のアイデアが応用されたのかな?」と錯覚したほどだった、と書かれている。
Kingdomが出たときに、さすがにそうは思わなかったけど、
それでも同軸型ユニットを中心とした4ウェイ構想は間違っていなかった、
それがKingdomで証明されるはず、と思ってしまった。

Kingdomは12インチの同軸型ユニットを中心に、
下の帯域を18インチ口径のウーファー、上の帯域を1インチ口径のドーム型トゥイーターで拡充している。

Kingdomの外形寸法はW780×H1400×D655mmで、重量は170kg。
タンノイのこれまでのスピーカーシステムのなかで、もっとも大型でもっとも重い体躯をもつ、
このスピーカーシステムこそ、私はオートグラフの現代版として捉えている。

同時に、アルテックの6041の行きつく「形」だとも思っていた。