ワイドレンジ考(その78)
ウェストミンスターをオートグラフの後継機種、
つまりは現代版のオートグラフという認識でウェストミンスターを使っておられる方も少なくないと思う。
私もウェストミンスターが登場したときは、そう思っていた。
オートグラフのコーナー型を、
一般的な日本の住環境でも設置しやすいレクタンギュラー型とした現代版オートグラフだと受けとめていた。
ウェストミンスターが登場したころはユニットはフェライトマグネットであり、
この点には不満を感じたものの、それでものちにマイナーチェンジを重ねるごとにアルニコマグネットになり、
ネットワークにも手が加えられエンクロージュアの寸法にも変化があり、
風格を増していったウェストミンスターに対して、
ほんとうにオートグラフの後継機種だろうか、という疑問を持ちはじめたころにKingdomが登場した。
Kingdomを紹介記事をステレオサウンドで読んで思い出していたのは、
1978年に登場したバッキンガムとウィンザーである。
このふたつのスピーカーシステムに関しては、この項の(その30)から(その36)にかけて書いているし、
さらに(その56)と(その57)でも触れている。
(その30)から(その36)を書いたのは2009年の7月、
(その56)と(その57)は2011年の5月。
すこしあいだを開けすぎたと反省して書いているのだが、
バッキンガムは25cm口径の同軸型ユニットに30cm口径のウーファーをダブルで足している3ウェイ・システム。
ウィンザーはシングルウーファー仕様。
当時はタンノイはハーマン傘下にあった。
主力となっていたのは、いわゆるABCシリーズと呼ばれていた、アーデン(Arden)、バークレー(Berkeley)、
チェビオット(Cheviot)、デボン(Devon)、イートン(Eaton)であった。
オートグラフとG.R.F.はタンノイの承認を得てティアックによる国産エンクロージュアとなっていた。
往年のタンノイを知る者にとっては、やや物足りなさをおぼえていたところに、
バッキンガムとウィンザーが登場し、
このふたつのスピーカーシステムについて、(その56)でも引用しているように、
タンノイのリビングストンは、こう述べている。
「オートグラフとGRFを開発した時と全く同じ思想をバッキンガム、ウィンザーにあてはめている」と。
リビングストンは1938年にタンノイに入社した、いわばタンノイの生き字引ともいえる人物であり、
彼が、このように語っているのだ。
ならばKingdomもオートグラフを開発した時と全く同じ思想をあてはめている、といってもおかしくはないはず。
むしろ、バッキンガム、ウィンザーよりも、
より徹底した、その思想をあてはめて開発されたのがKingdomといえよう。