Date: 7月 1st, 2025
Cate: ハイエンドオーディオ

ハイエンドオーディオ考(その19)

二十年以上前に、聞いた話がある。
都内のとあるオーディオ店に、女の人が入ってきた。常連の客ではなく、初めての客だったそうで、
その女の人は展示してあるソナス・ファベールのStradivari Homageを見て、
音を聴くこともなく、買っていったそうだ。

Stradivari Homageは2003年に登場している。当時、ペアで五百万円ほどしていた。
そのスピーカーを、ポンと買っていく人がいる。

話では、30から40代くらいの女の人ということ。話をしてくれた人はオーディオ業界の人なので、
まるっきりの作り話ではないだろうし、彼も聞いた話ということで、
その女の人がStradivari Homageの他に、アンプなどをどうしたのかははっきりとしない。

この話を聞いて、こういう買い方まであるんだな、と思ったし、
オーディオ機器はオーディオマニアのためだけのモノでもないということだ。

富裕層にとってStradivari Homageの価格は、それほど高額でもなかったのだろうか。
これは日本での一例である。
世界には、もっと凄い富裕層の人たちがいて、そういう人にとってはもっと高額なオーディオ機器であっても、
この女の人のように、ポンと買っていってしまうだろう。

オーディオマニアは、当時のStradivari Homageも、
いま非常に高額になっているオーディオ機器も、
ハイエンドオーディオ機器として捉えがちだが、
こんなふうに買っていく人たちにとってはハイエンドオーディオというよりも、
ラグジュアリーオーディオとして目に映っているのだろう。

Date: 6月 30th, 2025
Cate: 新製品

REVOX B77 MK III(余談)

オープンリールデッキといえば、中学生のころ、
これなら買えそう、と思ったのはパイオニアのRT701だった。

外形寸法はW48.0×H23.0×D36.0cmで、ラックに収まるサイズとスタイルだったからだ。
価格は、109,800円で、オープンリールデッキといえばプロ用という憧れはあったけれど、
それらは本当に高価で、しかもコンソール型で大きく重いモノだった。

その点、RT701はオープンリールデッキの入門機として格好の製品だったと言える。

そんなことを中学生のころは思っていたけれど、テープにあまり愛着のない私は、
結局、いまにいたるまでオープンリールデッキを自分のモノとしたことがない。

欲しいな、と思う製品は少ないけれど、いくつかあった。
それでもアナログプレーヤーにおいて、どうしても欲しいといって手に入れたEMTの927Dstほどの情熱はなかった。

そんな私だが、オープンリールデッキは小学生の低学年のころから触っていた。
先月亡くなった父が中学の英語の教師だったため、
授業で使うポータブル型の録音機があったからだ。

リールからテープを引き出して、ヘッドのところに這わせていく。
理屈がわかっていたわけではないが、やっていた。
このころすでにカセットテープは登場していたけれど、
父が授業でカセットテープを使うようになったのは、もう少し後のこと。

そんなことがあったから、私にとって録音機といえば、
オープンリールデッキが最初の体験だったし、
実際にオープンリールデッキの安定した音の後には、
カセットテープ(デッキ)の音は、不安定で頼りなく感じる。

成人してから何度かオープンリールデッキをいじる機会はあったけれど、もう四十年近く触っていない。

Date: 6月 29th, 2025
Cate: audio wednesday

audio wednesday (next decade) –第十八夜(Westrex Londonを鳴らす)

7月9日のaudio wednesdayでは、ウェストレックス・ロンドンのスピーカーを鳴らす。
エラックのリボン型トゥイーター、4PI PLUS.2を加えて鳴らす予定。

野口晴哉氏のリスニングルームの写真を見たことのある人ならば、シーメンスのオイロダインのサイドに、
デッカのリボン型トゥイーターがあることに気づかれているだろう。

野口晴哉氏は、JBLのネットワーク、N8000でローカットしてデッカをオイロダインに加えられていた。

2024年からオイロダインを鳴らすようになったが、現状、デッカへの結線は外して、
オイロダインのみが鳴るようになっている。
ネットワーク等を整備して、デッカを加えた音にする。

野口晴哉氏は、オイロダイン・サイドのトゥイーター以外に、
ストックとして、あと4台、デッカを所有されていた。

ストックのためだけだったのか、
それともウェストレックス・ロンドンでも同じことをやられようとされていたのか。

そのこともあって、今回、エラックとともに鳴らす。
当日、どんな音が鳴ってくるのか。
その音次第で、8月のさそうあきら氏のDJの会のスピーカーを決める。

Date: 6月 28th, 2025
Cate: 「オーディオ」考

耳の記憶の集積こそが……(その11)

「趣味なんだから」、
これに続くことばは、人によってずいぶん違う。

昔から、楽しむことと楽をすることは違う、と言われてきている。
どちらも「楽」という漢字であっても、違う。

これも人によっては、同じと捉えている。
その人は「趣味なんだから」に続くことばとして、
どんなことを言うのだろうか。

楽しむを拡充していくには、積み木を一つひとつ積み上げていく地道なことが求められる。
それは才能だけでは、どうにもならないことでもある。

最近になって、楽しむために積み木を積み上げてきた人と、
楽をしてきただけの人が、なんとなくだが見分けられるようになってきた。

口では何とでも言える。
けれど積み上げてきた(きている)人とそうでない人は、
同じことを言っていたとしても、何かが違う。

楽をするのはいい。
けれど、それは楽しむこととは、違う。

Date: 6月 27th, 2025
Cate: ショウ雑感

2025年ショウ雑感(その4)

今年のOTOTENは、うまく行ったのではないだろうか。
今年は行けなかったので、はっきりとは言えないけれど、
X(旧twitter)を見ていると、そう思う。

今回、OTOTENに来て、オーディオの面白さに気づいた人も少なかずいるだろう。
その人たちは、この秋に、インターナショナルオーディオショウがあることを知っているのか知らないのか。

開催までもう少し時間はあるのだから、
インターナショナルオーディオショウの開催を知る機会まであるはずだから、
何割かの人たちは、インターナショナルオーディオショウにも来てくれるかもしれない。

来てくれるのはいいことだけれども、
同じオーディオショウで、同じ会場での開催でも、
OTOTENとインターナショナルオーディオショウでは、違う雰囲気もある。

二つのオーディオショウが同じ雰囲気である必要はないけれど、
インターナショナルオーディオショウの常連の人たちの一部が醸し出す雰囲気の悪さに、
インターナショナルオーディオショウに初めて来る人は居心地の悪さを感じるのではないだろうか。

Date: 6月 26th, 2025
Cate: 新製品

REVOX B77 MK III

オープンリールデッキの新たな開発は、十年ほど前からいくつかあったけれど、
製品化に辿りつけたのはあったのだろうか。
一つは立ち消えになったのは確認にしているが、他はどうなったのだろうか。

なかなか難しい問題をいくつも解決していかなければ、
この時代にオープンリールデッキを新製品として出すのは相当に大変なことのはず。

昨年だったか、ルボックスがB77の最新モデルを開発しているというニュースがあった。

ルボックスだから、他のメーカーよりは実現の可能性は高いと思っていたけれど、
実際に、ルボックスのウェブサイトで発表になっている。

いまのところ日本の輸入元のウェブサイトには、何の情報もない。

オープンリールテープは何も持っていないから、B77 MK IIIに興味はあっても、
どうしても聴いてみたいと思っていたわけではなかったのだが、
ルボックスのウェブサイトを見てると、オープンリールのミュージックテープを発売していることを知る。

クラシックもある、ジャズもロック、ポップスもある。
クラシックだけを見ても、聴いてみたいと思わせるアルバムがいくつかある。

グルダの平均律クラヴィーア曲集、グールドのバッハもある。

さすが、ルボックスである。

Date: 6月 25th, 2025
Cate: 楽しみ方

オーディオの楽しみ方(その12)

《真剣に戯れること》、
このことをaudio wednesdayをやっていると、あれこれ考えてしまう。

深刻に悩みながらのaudio wednesdayは、絶対にやりたくない。

Date: 6月 24th, 2025
Cate: 604-8G, ALTEC, ワイドレンジ

同軸型ユニットの選択(その32)

アルテックの604-8Gを中心としたワイドレンジなシステムの構築は、
おそらくなのだが、技術的な完成度を高めていこうとすればするほど、
604-8Gの限界もはっきりしてくるはず。

同軸型ユニットという構造、そして中高域をホーン型としたことによる制約が、
技術的に詰めれば詰めるほど、どうしても解消できない問題として残る。

そこを面白いと感じられるか、
限界が見えているから、といってその程度のモノと思ってしまうのか。

そういうところがあるから、アルテックの同軸型ユニットはスピーカーというモノ、
スピーカーシステムというモノを理解するのにつながっていると、私は思っている。

スピーカーというカラクリの面白さを、どこに見出すのか。こここそが肝心な一点のはずだ。

Date: 6月 24th, 2025
Cate: 黒田恭一

黒田恭一氏のレコード・コレクション

黒田先生のレコード・コレクションが、渋谷にあるbar bossaにて展示されている。
しばらくの間の展示とのこと。

詳しいことは、bar bossaのnoteをお読みください。

Date: 6月 23rd, 2025
Cate: ジャーナリズム, ステレオサウンド

オーディオにおけるジャーナリズム(リーダーとマネージャー、それに組織・その11)

二年前の(その9)で、いまのステレオサウンドの見出しならば、
ChatGPTにまかせてもいいぐらいと書いたし、
さらに編集作業のいくつかはChatGPTにまかせたほうがクォリティが高くなるくらいには、
なっていてもおかしくない、とも書いている。

Googleのおせっかいな機能が、ステレオサウンド・オンラインの記事を表示した。

惚れ惚れするような余韻の細かさと美しさ。Qobuzの真価、魅力をさらけ出す!》とある。
普段ならば、アクセスすることはしないが、
《さらけ出す!》を、こういう見出しに使うのか、
誰が書いているのか知らないが、本文にも《さらけ出す!》とあるのか。

それが気になって本文を読んでみた。
どこにも《さらけ出す!》は、ない。

ステレオサウンド・オンラインの編集者が、《さらけ出す!》としたのだろう。

見出しは何も本文中にある言葉だけを使うものではない。
とはいえ《さらけ出す!》は、ないだろう。

さらけ出すは、曝け出すと書く。
この漢字が、どういう意味なのか、どういう使い方なのかを表している。

ずいぶん前から、耳障りを、耳ざわりとして、耳ざわりのいい音という使い方をする人がいる。

言葉は変っていくものだから、さらけ出すも、そういうふうになっていくのもしれないが、
まだいまのところは、いい意味での使われ方はわざわざではないだろうか。

《さらけ出す!》と、ステレオサウンド・オンラインの編集者が、見出しとする。
それがそのまま公開される。

ステレオサウンド・オンラインには編集長はいないのか。
誰もチェックしないのか。

ChatGPTならば、《さらけ出す!》と、見出しにつけるだろうか。

Date: 6月 23rd, 2025
Cate: MERIDIAN, ULTRA DAC

メリディアン ULTRA DACと青春の一枚(その8)

グラシェラ・スサーナのアルバムは、ほぼ全て、私にとっても青春の一枚といえる。
アナログ録音で、LPで聴いてきたスサーナのアルバムは、
十代を青春というのであれば、どれもが青春の一枚である。

グラシェラ・スサーナのアルバムで一番売れたのは、「アドロ/サバの女王」である。
ミリオンセラーと聞いている。

この「アドロ/サバの女王」を録音した時、スサーナはまだ十代だった。

そのことをこれまで長いことスサーナを聴いてきたけれど、意識したことはなかった。
カセットテープで聴いていた時も、LPで聴いていても、
CDで聴くようになっても、意識したことはなかった。

それがMQA-CDを、メリディアンのULTRA DACで、スピーカーはフランコ・セルブリンのKtêmaで聴いて、初めて気づいた。

喫茶茶会記でもアルテックのシステムで、ULTRA DACで、
スサーナのMQA-CDは聴いている。
けれど、その時はスサーナが十代とは意識しなかった。
Ktêmaというスピーカーを通じて、初めて気づいた。

Date: 6月 22nd, 2025
Cate: ジャーナリズム, ステレオサウンド

編集者の悪意とは(その31)

書き手だけでなく、それぞれのオーディオ雑誌のリファレンス機器にも、個性、カラーはあらわれていた。

スピーカーシステムは、ステレオサウンドはJBLの4343、
1980年代になり後継機の4344だったが、
他のオーディオ雑誌は違っていた。

それが良かった。いまはどうだろうか。
優秀なスピーカーシステムならば、どのオーディオ雑誌でもリファレンス機器とする──、
そういう見方、捉え方もできるが、
何も優秀なスピーカーシステムは一つだけではない。

他のブランドにも、優秀なスピーカーシステムはある。
なのに、いまのオーディオ雑誌は、とあえて指摘するまでもないだろう。

昔はスピーカーシステムが違えば、アンプも違っていた。
このことですぐさま頭に浮ぶのは、Lo-Dのパワーアンプ、HMA9500である。

MOS-FETを出力段に採用したアンプは、長岡鉄男氏が高くて評価されてたし、
自宅でも使われていたから、長岡鉄男信者、長岡教信者の間では、
高い人気と評価を得ていたが、ステレオサウンドでは、その熱気がウソのような取り上げられ方だった。

HMA9500は、だから中古市場でも人気のようだが、
私はそのことを傍観者として眺めている。

HMA9500が優れていたとかそうでなかったとか、言いたいのではなく、
HMA9500は、オーディオ雑誌によって、取り扱われ方の熱気が違っていた、ということだ。

Date: 6月 21st, 2025
Cate: ショウ雑感

2025年ショウ雑感(その3)

今日、明日開催のOTOTEN。
行くつもりでいたけれど、今日もダメで明日も行けそうにない。

どんな感じなのだろう、と思い、X(旧twitter)で検索してみると、かなりの数が表示される。
若い人と思われる投稿多い。
初めてのOTOTENと思われる人も、けっこう多い。

ネガティヴな反応ではなく、楽しんでいる感じが伝わってくる。

OTOTENは、インターナショナルオーディオショウは違う。
そのことが今年はよく出ているように感じるだけでなく、うまくいっているようにも感じられる。

Date: 6月 20th, 2025
Cate: ジャーナリズム, ステレオサウンド

編集者の悪意とは(その30)

私がオーディオ雑誌を初めて手にしたのは1976年の終りごろだった。
まずステレオサウンドがあった。
ステレオがあった、オーディオピープルが、サウンドメイトが、別冊FM fan、ステレオ芸術、サウンドレコパルが、オーディオアクセサリーなどがあった。

それぞれに、その雑誌を代表すると言える書き手(オーディオ評論家)がいた。
この雑誌しか書かないという専属制ではなかったけれど、
ステレオサウンドならば、菅野沖彦、瀬川冬樹の二人を中心に、
井上卓也、上杉佳郎、岡 俊雄、長島達夫、山中敬三といった顔ぶれだった。

これらの人たちが、他の雑誌には書かないわけではなかったけれど、
活動の中心としてステレオサウンドがあった、と言える。

他のオーディオ雑誌には、それぞれの人たちがいた。
ステレオ、別冊FM fanには長岡鉄男がいた。
オーディオアクセサリーには江川三郎がいた。

他の人たちも、どれかのオーディオ雑誌を活動の拠点としていた。

そのことが、それぞれのオーディオ雑誌の個性(カラー)を生んでいた。
それが、いまはどうだろうか。

書き手の顔触れだけで、どのオーディオ雑誌なのか、昔はすぐにわかったものだが、この点に関しても、いまはどうだろうか。

Date: 6月 19th, 2025
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その32)

JBL D44000 Paragon。
死ぬまでに一度鳴らしてみたいスピーカーの筆頭だ。

パラゴンが、私にとっての終のスピーカーとなることはあまりないけれど、
一年間、じっくりと取り組んでみたい、といまでも思う。

パラゴンとともに大きな部屋が欲しいわけではない。
オーディオ専用の空間であれば、六畳間くらいの部屋でもいい。

パラゴンにグッと近づいて聴く。小音量で鳴らしたい。
だから、静かなオーディオ機器を用意したい。
電源トランスも唸らず、空冷用のファンもないアンプで鳴らす。

ローレベルのリニアリティ、S/N比の良さだけでなく、
ローレベルのリアリティの優れたアンプを持ってきたい。