ハイ・フィデリティ再考(続×十七・原音→げんおん→減音)
音楽信号は、確かに正弦波と違い上下(プラス・マイナス)では非対称である。
けれど、この非対称波形の音楽を信号を正しく増幅するには、
アンプそのものの動作が非対称のほうがいい、という理屈は無理がある。
入力された非対称波形の電気信号を正確に増幅し出力するには理想的な対称動作のほうが理に適っている。
けれどパスが考えたのは、その先のことではないだろうか。
アンプが鳴らすのはスピーカーであり、そのスピーカーが鳴らすのはある限られた空間の中の空気である。
そしてその空気が振動させているのは鼓膜。
これらは対称動作をしているのだろうか。
たとえばスピーカー。
一般的なコーン型ユニットをエンクロージュアに取り付けて鳴らすのであれば、
コーン紙の前面にある空気と後面にある空気の量には大きな違いがあり、これは圧力の違いでもあるはず。
平面バッフルに取り付けたとしても、
コーン型ユニットのフレームの構造、それにコーン型という振動板の形状が前後で非対称であるから、
ここでも対称性はくずれている。
ドーム型ユニット、アルテックA5に搭載されているコンプレッションドライバーになると、
この非対称性はより大きくなる。
しかもA5はコーン型ユニットの515の前面にはフロントショートホーンをつけている。
コンプレッションドライバーにもホーンを取り付けている。
ここがパスが以前使っていたコンデンサー型のマーチンローガンと大きく違いところのひとつである。
コンデンサー型はコーン型やコンプレッションドライバーにくらべると、
ずっと前後の条件は対称性をもっている、といえる。
マーチンローガンの振動膜は指向性改善のためカーヴを描いているけれど、
それ以外は振動膜の前後で異る要素は見つけられない。
いわば対称性の高い発音方式であり、スピーカーである。
こういうスピーカーシステムを部屋のほぼ中央におけば、対称性はより高くなる。
アルテックのA5はもともと非対称性の高いスピーカーシステムであるだけに、
部屋の中央に設置して鳴らしたところで、部屋の空気に対する対称性にはあまり影響はないだろう。