ワイドレンジ考(その80)
タンノイのウェストミンスターを300Bのシングルアンプ(それも伊藤先生製作のアンプ)で鳴らしたい、
ということは、この項の追補でもある「ワイドレンジ考(ウェストミンスターとブラームス)」に書いたとおりだ。
ではKingdomを鳴らすアンプとして300Bシングルを持ってくるかといえば、
いちどは興味本位で試してみたい気持はあるけれど、ここで使いたいアンプは新しいパワーアンプである。
それも出力もある程度以上のものであってほしい。
Kingdomの出力音圧レベルは92dB/W/mと発表されている。
オートグラフやウェストミンスターと比較するとけっこう低い値だ。
聴く音楽をかなり限定し、音量もそうとうに控え目であれば300Bシングルでも鳴る、といえても、
その限定された枠内でKingdomがもつ能力が十二分に発揮できるかといえば、
実際に試してみないことにはもちろん言い切れないことではあっても、やはり無理だと思う。
五味先生はオートグラフを鳴らすアンプに、さまざまなアンプを試された上でマッキントッシュのMC275を選ばれ、
カンノアンプの300Bシングルもそうとうに気に入られていた。
オートグラフであれば、ウェストミンスターと組み合わせるのとはすこし違う意味で、
私だって300Bシングルをもってきたい。これはもう興味本位の組合せではない。
けれどKingdomは、私の中ではタンノイにおけるオートグラフの後継機種ではあっても、
スピーカーとしての性格がオートグラフ、ウェストミンスターはラッパと呼びたくなるものであるに対し、
Kingdomはラッパと呼ぶことは、ない。
そういう違いがはっきりとオートグラフとKingdomにはあり、
その違いが組み合わせるアンプの選択に直接関係してくる。
Kingdomのウーファーとミッドバスのクロスオーバー周波数は100Hz。
JBLの4343では300Hzだった。
LCネットワーク式のスピーカーシステムで100Hzという値はそうとうに低い周波数であり、
組み合わせるアンプの範囲の狭さと難しさを、このスピーカーを使おうと思っている者に意識させてしまう。