ハイ・フィデリティ再考(続×十五・原音→げんおん→減音)
そういえば山中先生もアルテックのA5をメインスピーカーにされていた時期がある。
ステレオサウンド 16号の五味先生のオーディオ巡礼に載っている。
写真でみるかぎりは決して狭い部屋ではない山中先生のリスニングルームではあるけれど、
アルテックのA5には狭い空間のように、その写真はみえる。
五味先生も書かれている。
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私は辞去するとき山中さんに言ったのだ。あなたにはもっと広いリスニング・ルームを造ってあげたいなあと。心から私はそう言った。
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だからといって、山中先生は「劇場ふうな音楽」を鳴らされていたわけではなかった。
五味先生に、最初にかけられたレコードは「かえって哀愁のある四重唱」で、
次にかけられたのは「ピアノを伴う独唱」である。
そして五味先生はマーラーの交響曲を聴かせてほしい、といわれている。
ショルティによる「二番」のあとにヨッフムによるブルックナーの交響曲を聴かれている。
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同じスケールの巨きさでもオイゲン・ヨッフムの棒によるブルックナーは私の聴いたブルックナーの交響曲での圧巻だった。ブルックナーは芳醇な美酒であるが時々、水がまじっている。その水っ気をこれほど見事に酒にしてしまった響きを私は知らない。拙宅のオートグラフではこうはいかない。水は水っ気のまま出てくる。さすがはアルテックである。
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こういうブルックナーの交響曲が響いたのはアルテックのA5だからでもあるのだが、
山中先生の鳴らし方によるところもまた大きいのはいうまでもない。
けれど、それでもアルテックのA5だから、こういう芳醇な美酒として響かせるのである。
そういうアルテックのA5をネルソン・パスは選んでいるのである。
マーチンローガンのコンデンサー型は、
水っ気を、どちらかといえば水っ気ではなく水(それも少し味気ない水)にして出すスピーカーといえよう。
そういう性格のスピーカーから正反対ともいえる性格のA5を使っている。
この水っ気を芳醇な酒として響かせる性格は、ラッシュモアにも引き継がれている、と私は思っている。