Archive for category Kate Bush

Date: 5月 19th, 2022
Cate: Kate Bush, ディスク/ブック

So(その2)

ピーター・ガブリエルの“Don’t Give Up”。
これがケイト・ブッシュではなく、誰か別の女性歌手だったら、
これほど聴いてきただろうか。

ライヴ盤ではケイト・ブッシュではない。
だからといって曲の評価が変るわけではないが、
それでも私はケイト・ブッシュとによる“Don’t Give Up”を聴きたい。

“Don’t Give Up”を聴いたのは23歳のときだった。
1986年、いったい何回“Don’t Give Up”を聴いただろうか。

自分のシステムでも数え切れないほど聴いていたし、
ステレオサウンドの試聴室でも、試聴の準備の時、
試聴が終ってからも聴いていたりした。

そうとうにいろいろな音で、“Don’t Give Up”を聴いている。
それでも飽きずに、いい曲(歌)だな、と感じながら聴いていた。

ケイト・ブッシュが“Don’t Give Up”と歌う。
聴き手のこちらに語りかけるように歌う。

ケイト・ブッシュによる“Don’t Give Up”、この言葉は心に沁みる。
けれど、それは“Don’t Give Up”と誰かに言ってほしかったわけではなかったからだった。

六十年近く生きていれば、
“Don’t Give Up”と言ってほしいときがあった。

そういう時に“Don’t Give Up”を聴いている。
初めて聴いた時よりも、より心に沁みたかといえば、まったく違っていた。

他の人はどうなのかは知らないし、どうでもいい。
私は、そういう時に聴いた“Don’t Give Up”は、最後まで聴けなかった。

Date: 3月 8th, 2019
Cate: Kate Bush, ディスク/ブック

THE DREAMING(その1)

ケイト・ブッシュのアルバムで、強い印象をうけたのは、
やはりデビューアルバムの“THE KICK INSIDE”、
そして“THE DREAMING”である。

“THE KICK INSIDE”を初めて聴いたのは、FMだった。
衝撃だった。

背中に電気が走った、という表現があるが、
“THE KICK INSIDE”を聴いたときが、まさしくそうだった。

ケイト・ブッシュの四枚目の“THE DREAMING”が出た時、東京で暮していた。
同じころ、バルバラの“Seule”で出ていた。

“THE DREAMING”は、“THE KICK INSIDE”以上に、
“THE KICK INSIDE”とは違った衝撃を受けた。

バルバラの“Seule”とケイト・ブッシュの“THE DREAMING”。
どちらも重く、聴き手のこちらにのしかかってくるような感じも受けた。

ひたひたと何かが迫ってくる、とも感じた。
この二枚が、これから先、愛聴盤になっていくのだろうか、とも思っていた。

東京では独り暮しの始まりでもあった。
そのことも、そう感じたことと無関係ではない、といまでは思う。

“THE DREAMING”は、72トラック録音だといわれた。
36トラックのマルチトラックレコーダーを二台シンクロさせての録音である。
当時としては最大数のトラックだったはずだ。
厳密には同期用にトラックが使われているので、
72トラックすべてに録音されているわけではない。

にしても、すごい録音だと感じた。
“THE DREAMING”が発売になって、どのくらい経っただろうか、
ケイト・ブッシュが精神病院に通っている(入院している)というウワサが出た。

そもありなん、と思える録音であった。
事実は、セラピーに通っていた、ということだった。

これだけの録音を仕上げるのは、そうとうにしんどい作業であったはずだ。
“THE DREAMING”はアナログ録音である。

トラックダウン作業の実際を知りたい、とそのころ思っていた。
“THE DREAMING”は、すごく凝った録音なのは聴けばすぐにわかる。

けれど、これだけのものを作り上げるために、どれだけの作業工程が必要だったのか。
“THE DREAMING”は、どう鳴らしてもスタティックな印象がついてまわる。

もっと躍動的に鳴らないのか──、そう感じてもいた。

Date: 11月 5th, 2018
Cate: Kate Bush, ディスク/ブック

Kate Bush – Remastered

ケイト・ブッシュのリマスターの告知は知っていた。
LPとCDの予約が始まっているのも、もちろん知っている。

今日、Kate Bush – Remastered – Adという動画を見た。
最後に、LP – CD – Digitalとある。

Digitalが意味するのは、配信なのだろう。

Date: 5月 19th, 2016
Cate: Kate Bush, ディスク/ブック

So(その1)

30年前の5月19日、ピーター・ガブリエルの五枚目のアルバム”So”が登場した。

当時ステレオサウンド編集部にいたO君が教えてくれたアルバムだった。
ケイト・ブッシュを聴く私に、プログレッシブロック好きのO君が、
「ピーター・ガブリエルのアルバムでデュエットしていますよ」と教えてくれた。

ステレオサウンドがある六本木にはすでにWAVEがあった。
けれどなぜかまだ”So”は入荷していなくて、O君に連れられて渋谷のCiscoに行った。

“So”はレジ横の柱に、他の売れ筋のCDと一緒に貼ってあった。
すぐに買って帰った。

ケイト・ブッシュが参加している三曲目から聴きたかったけど、
一曲目から聴き始めた。
“Red Rain”、”Sledgehammer”と聴いて、お目当ての三曲目。

すぐにケイト・ブッシュが歌いだすわけではない。
待つ。もどかしく待つ。

ケイト・ブッシュが”Don’t Give Up”と歌う。
“Never Give Up”ではなく”Don’t Give Up”と歌う、
聴き手に語りかけるかのように歌う。

“So”を聴き終り、もう一度”Don’t Give Up”を聴いた。

歌詞の意味が知りたくて日本盤も買った。

あの日から、何度聴いたのだろう。
30年の間にはいろんなことがあった。
どんな人であろうと、いろんなことがある。

1月に久しぶりに”Don’t Give Up”を聴いた。
“Never Give Up”ではなく”Don’t Give Up”でよかった、と30年前よりも深く思っていた。

Date: 12月 10th, 2011
Cate: Kate Bush

50 Words For Snow(ケイト・ブッシュのこと)

ケイト・ブッシュの50 Words For Snowはタイトルのとおり、
それにジャケットのイメージが伝えるものからもわかるように、いまの季節にむけたアルバムである。

だからだろう、Twitterをみていると、冷え込んできたここ数日、
50 Words For Snowについてのツイートが増えてきた。

50 Words For Snowを聴きおわって思ってしまうのは、
ケイト・ブッシュはこの50 Words For Snowをいったいいつ録音したのか、ということ。
ジャズやクラシックでは録音データが記載されているけれど、
50 Words For Snowには、そういうデータはいっさいない。

50 Words For Snowは11月の発売だったが、アルバムが完成したから11月に結果としてなった、のではなく、
冬の季節に向けての11月だったはずだ。
だとしたら、録音からマスタリングまでの一連の作業が数カ月から1年の期間だったとして、
真夏にもなにかの制作作業を行っていた可能性はあるはずだ。

50 Words For Snowで描かれているのは冬の「情景」だ。
冬を実感しながら聴く50 Words For Snowは、
この季節を過ごす者への素敵な贈りものといえる。

だからこそ50 Words For Snowをつくるとき、
ケイト・ブッシュは冬以外の季節には制作活動・作業を行っていなかったのだろうか、
それとも真夏にも制作活動・作業をやっていたのだろうか──。
このことが気になってしまう。

Date: 5月 21st, 2011
Cate: Kate Bush

Director’s Cut(続ケイト・ブッシュのこと)

The Sensual Worldには11曲、The Red Shoesには12曲、それぞれおさめられているから、
Director’s Cutにはどの曲をおさめられているのか、まだ発表されていない時点で、
この曲とあの曲は確実だろう、と勝手に思っていた中には、This Woman’s Workがある。

しばらくして収録曲がはっきりして、This Woman’s Workがはいってくることがはっきりした。
それからまたしばらくして、BBCのラジオにて、ケイト・ブッシュのインタビューが放送されたとき、
バックにThis Woman’s Workが、短い時間ではあったが、
しかもケイト・ブッシュの話のバックだったりしていたけれど、流れていた。

はやく聴きたい、という気持がつのっていく。

Director’s Cutの6曲目にThis Woman’ Workはおさめられている。
6曲目から先に聴きたい、という気持をおさえて1曲目のFlower of The Mountainから聴きはじめる。
このFlower of The Mountainのもともとの曲名は、The Sensual Worldである。

このことが示すように、Director’ Cutにおさめられている11曲は、単なる再録音ではない。
聴いていけば、Director’s Cutというタイトルの意味が少しずつはっきりしてくる。

This Woman’s Workを、半分ほど聴いたところで、あれっ、と思った。
This Woman’s Workでもっとももりあがる、ケイト・ブッシュがThis Woman’s Workと歌う、
いわゆるサビがなくなっていることに気づくからだ。

This Woman’s Workは、Director’s Cutのなかでも、This Woman’s Workである。
The Sensual Worldのようにタイトルが変えられているわけではない。
なのに、タイトルにもなっていて、サビのところの歌詞、This Woman’s Workが、
Director’s CutのThis Woman’s Workからはなくなっている。

The Sensual WorldにおさめられていたDeeper Understandingを聴いていて、
頭の中にイメージされていたのは、パソコンの画面の前にいるのは、少年だった。
Deeper Understandingは、Director’s Cutの発売前に、映像つきで公開されていた。
そこにもパソコンの画面の前に、人が坐っている。
だが、その男は少年ではなく、中年をすぎた男性、それもかなり太った男性だ。

これをみたときから、Director’s Cutにおさめられている曲は、
それぞれに異った景色をみせてくれるという予感はあった。
あったけれども、まさかThis Woman’s Workから、
This Woman’s Workという歌詞を消し去ってしまうとは予測できなかった。
This Woman’s Workという歌詞がなくなったThis Woman’s Workへの想いは、
もとのThis Woman’s Workと同じであるし、ひろがっていく感じもある。

This Woman’s Workの歌詞をなくしてしまったのはなぜなんだろう、と思う気持は、
ほかの曲に対しても、ある。
そういう、なぜなんだろうと思う気持は、Director’s Cutをきいているときは先に立つことはない。
聴きおわり、しばらくして、なぜなんだろう、と思う。それが、またたのしい。

こういうたのしみかたができるのは、いわゆる新譜ではない「新譜」だからだ。

Date: 5月 20th, 2011
Cate: Kate Bush

Director’s Cut(ケイト・ブッシュのこと)

ケイト・ブッシュの新譜が5月16日に出た。
Director’s Cutというタイトルから、ある程度想像がつくように、1989年発売のThe Sensual Worldと
1993年発売のThe Red Shoes、この2枚のアルバムから11曲を選んだものだ。

単なるベスト盤、リマスター盤ではなく、当時のトラックをそのまま使っているところがあるけれど、
ケイト・ブッシュのヴォーカルをふくめ、かなり再録音したものとでリメイクされたもの。

このDirector’ Cutを「新譜」ではない、という人もいる。
でも、クラシックをおもに聴いてきた者には、ある演奏家が同じ楽曲を、
ある年月を経てもう一度録音し直したレコード(つまり再録音のこと)も、新譜と呼ぶ。
この感覚があるから、私にとってはDirector’s Cutも「新譜」となる。

Director’s Cutには、3つのヴァージョンがある。
通常盤(CD、1枚)と、これをLPにしたもの(これは2枚組)、
それに限定盤(通常盤に、The Sensual WorldとThe Red Shoesのリマスター盤を加えた、計3枚組)。

数年前に日本で、紙ジャケットで再発売が行われたとき、もしかするとリマスター盤かも、
というウワサが発売前に流れたけれど、リマスターは行われなかった。
ケイト・ブッシュのリマスターCDは、1985年に発売されたHounds of Loveがかなりたってから、
シングル盤のみで発売された曲、12インチ・シングルで出たリミックスをくわえて出ただけである。

だからリマスター盤が聴ける、といううれしさも、今回のDirector’s Cutにはある。

そういううれしさはある一方で、
なぜ、The Sensual WorldとThe Red Shoesからのみからの選曲なのかという想いもある。

1986年に、それまで出ていた5枚のアルバムからのベスト盤、The Whole Storyは出ている。
だから、今回のDirector’s Cutは、The Whole Story以降のアルバムからという推測は、すぐに成り立つ気がする。
でも、それだけだろうか、という思いがある。

The Sensual Worldに収められているThe Fogのなかで、ケイト・ブッシュは父親に、
“Coz you’re all grown-up”と語らせている。
日本語訳では、「もう大人だろう」になっている。

この言葉と、Director’s Cutが、The Sensual WorldとThe Red Shoesからのみの選曲ということとは、
決して無関係ではない、というよりも、深く関係していることとのような気がする。

Date: 3月 18th, 2011
Cate: Kate Bush

名曲とは(THIS WOMAN’S WORK・補足)

5月16日に、ケイト・ブッシュの「DIRECTOR’S CUT」がリリースされる。

「DIRECTOR’S CUT」の名のとおり、ケイト・ブッシュによって、
「THE SENSUAL WORLD」と「THE RED SHOES」からの選曲によるもので、
一部は再録音をしている、らしい。

「THIS WOMAN’S WORK」は「THE SENSUAL WORLD」に収録されているから、
「DIRECTOR’S CUT」でも聴ける可能性は高いと思っている。

「DIRECTOR’S CUT」は通常のCDのほかに、
「THE SENSUAL WORLD」と「THE RED SHOES」のリマスターCDを加えた3枚組、
それにLP(2枚組)、という3つのパッケージでの予定。

Date: 3月 16th, 2011
Cate: Kate Bush, 言葉

名曲とは(THIS WOMAN’S WORK)

はじめてきいたときは、まだステレオサウンドにいた。
昼休みにほぼ習慣となっていたWAVE通い。
CDの置かれている棚には、まったく予想していなかったケイト・ブッシュのシングルCDが並んでいた。
「THIS WOMAN’S WORK」だった。
すぐに会社に戻りヘッドフォンで聴く。涙が出た。

今朝(といっても昼近くに)、ふと聴きたくなった。

また涙が出た。
最初に聴いたときの涙とは違う涙が出た。
「THIS WOMAN’S WORK」の歌詞が、あのときと「いま」とでは心に響いてくる意味が違っているからだ。
20数年を経て、心にしみこんでくる。
20数年前とは違う、心の別のところにしみこんでくる。
こういう音楽こそ、(使い古されたことばだけど)名曲ではないか。

こまかい説明はしたくない。
THIS WOMAN’S WORK」のwomanをほかの単語に置き換えてみても、この歌詞は通用する、とだけいっておく。

[THIS WOMAN’S WORK]
Pray God you can cope
I stand outside this woman’s work,
This woman’s world.
Ooh, it’s hard on the man
Now his part it over
Now starts the craft of the father.

I know you have little life in you yet
I know you have a lot of strength left
I know you have a little life in you yet
I know you have a lot of strength left
I should be crying but I just can’t let it show
I should be hoping but I can’t stop thinking
Of all the things I should’ve said
That I never said,
All the things we should’ve done
That we never did,
All the things we should’ve given
But I didn’t
Oh, daring, make it go,
Make it go away.

Give me these moments back
Give them back to me
Give me that like kiss
Give me your hand.

I know you have little life in you yet
I know you have a lot of strength left
I know you have a little life in you yet
I know you have a lot of strength left
I should be crying but I just can’t let it show
I should be hoping but I can’t stop thinking
Of all the things we should’ve said
That we never said.
All the things we should’ve done
That we never did
All the things that you needed from me
All the things that you wanted fro me
All the things we should’ve given
But I didn’t
Oh, daring, make it go away
Just make it go away now.

(内田久美子氏による和訳)
うまくやっていけるように神に祈りなさい
私はこの女の務めを
この女の世界を外側から眺める
そう 男にとってはつらいこと
いま 彼の役割は終わり
父親としての仕事が始まる

あなたの中にはまだ小さな命がある
あなたにはたくさんの力が残っている
あなたの中にはまだ小さな命がある
あなたにはたくさんの力が残っている
泣けばいいのにそれを顔に出せない
望みをかけるべきときに私は考え続けている
言うべきだったのに
私が言わなかったいろんなこと
するべきだったのに
私たちがしなかったいろんなこと
あなたが私に求めたいろんなこと
あなたが私に欲したいろんなこと
与えるべきだったのに
私がそうしなかったいろんなもの
ダーリン 忘れさせて
みんな忘れさせて

あの時間を取り戻して
私に返して
あのささやかなキスをちょうだい
あなたの手を貸して

あなたの中にはまだ小さな命がある
あなたにはたくさんの力が残っている
あなたの中にはまだ小さな命がある
あなたにはたくさんの力が残っている
泣けばいいのにそれを顔に出せない
望みをかけるべきときに私は考え続けている
言うべきだったのに
私が言わなかったいろんなこと
するべきだったのに
私たちがしなかったいろんなこと
あなたが私に求めたいろんなこと
あなたが私に欲したいろんなこと
与えるべきだったのに
私がそうしなかったいろんなもの
ダーリン 忘れさせて
みんな忘れさせて