オーディオと青の関係(名曲喫茶・その3)
西新宿といっても、
高層ビルが建ち並ぶ一画ではなく、青梅街道を挟んで位置する西新宿。
雑然とした一画があった。1980年代のはじめ、
あのへんにはストリップ劇場もあったし、ソープランドもたしか二軒あった。
墓地はいまでもある。
夜は薄暗い雰囲気だったのをおぼえている。
そこに一軒の喫茶店があった。
当時既に、あのへんでも珍しかった木造長屋の建物の二階に、その喫茶店はあった。
新宿珈琲屋といった。
カウンターだけの小さな店。
客の印象にあわせてコーヒーカップを選んで、という店のはしりである。
この店が始まりだともきいている。
この店は、ステレオサウンドの弟誌にあたるサウンドボーイに載っていた。
まだ田舎にいたころに読んだのだったか、
東京に行ったら、この店に行こう、と思いながら、
その記事の写真をよく眺めていた。
そうはいっても、コーヒー一杯に500円の店には、なかなか行けなかった。
そういうコーヒー専門店に入ったこともなかった。
なんとなくひとりで行くのに、気後れしていたところもあった。
初めて行ったのは、東京に出て来て一年ほど経ってからだった。
ステレオサウンドで働きはじめていて、少しは東京のそういう店にも入れるようになっていた。
サウンドボーイに紹介されるくらいだから、名曲喫茶ではないけれど、
きちんとしたシステムがあった。
QUADのESL、アンプもQUAD(33と50E)、アナログプレーヤーはトーレンスのTD125に、
SMEの3009 Series IIにオルトフォンのMC20だったはず。
バロック音楽だけを、ひっそりした音量で鳴らしていた。
レコードも多くは置いてなかった。
30枚ほどだったか。
グレン・グールドのバッハもあったし、よくかけられていた。