終のスピーカー(その18)
これこそが自分にとっての終のスピーカーだ、といったところで、
そうやって思い込もうとしたところで、
心に近い音を求めない人には、永遠に終のスピーカーは存在しない。
終のスピーカーとは、そういう存在のはずだ。
これこそが自分にとっての終のスピーカーだ、といったところで、
そうやって思い込もうとしたところで、
心に近い音を求めない人には、永遠に終のスピーカーは存在しない。
終のスピーカーとは、そういう存在のはずだ。
別項「2023年ショウ雑感」で書いているように、
ジャーマン・フィジックスのHRS130を、
カノア・オーディオの管球式プリメインアンプ、AI 1.10で鳴らした音は、
単にいい音であっただけでなく、
Troubadour 40を終のスピーカーとして認めている私にとっては、
いろいろと、改めて考えさせる「音」でもあった。
(その1)で、こんなことを書いている。
ピストニックモーションのスピーカーを定電圧駆動があり、
ベンディングウェーヴのスピーカーを定電圧駆動、
ピストニックモーションのスピーカーを定電流駆動、
ベンディングウェーヴのスピーカーを定電流駆動、
──この4つのマトリクスがある、と。
AI 1.10で鳴らしたHRS130の音を聴いただけで、
ベンディングウェーヴ型スピーカーと管球式アンプの相性はいい──、
と断言するつもりはないが、少なくとも相性の悪さは感じられなかった。
管球式アンプとひとくくりにできないこともわかったうえで書いている。
それでもジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットの振動膜は、わずか3gである。
この軽い振動膜を、ピストニックモーションではなく、
ベンディングウェーヴで動作させるのだから、パワーアンプに求められることすべてが、
まったく同じとは考えにくい。
共通することもあれば、そうでないこともあるはず。
(その5)まで書いてきて、ふと思い出したのがJBLのB460だ。
1982年に登場したB460は、その型番が示すように43cm口径のウーファー、
2245Hを搭載したサブウーファーである。
エンクロージュアはバスレフ型の横置きのスタイル。
ウーファーが取りつけられているバッフルは垂直だが、
このバッフル面に一段奥にあり、ウーファーの右側は傾斜している。
サランネットを取りつけた状態でも傾斜したスタイルで、
瀬川先生の提唱されていたエンクロージュアに似ている。
しかもB460のバスレフポートは三つ。
瀬川先生が「華麗なる4ウェイシステムの音世界」で提唱されているのも、
バスレフポートは三つである。
瀬川先生の案ではバスレフポートはフロントバッフルに縦に並んでいるのに対し、
B460ではエンクロージュアのサイドに縦に並んでいる。
このB460を思い出しながら、
こういうスタイルのエンクロージュアは、やっぱりいい感じだな、と思っているところだ。
「華麗なる4ウェイシステムの音世界」を引用しておく。
*
JBLのプロシリーズユニットを中心にマーク・レビンソンのアンプを使ってマルチドライブするという贅沢な組合せ。ユニット構成は片チャンネル当りウーファーに2231Aを2本、中域用にドライバー2420に2397ホーンの組合せ、トゥイーターには2405、さらに超高域にテクニクス10TH1000を加えた4ウェイ構成だ。アンプ類はマーク・レビンソンの最新製品を使って徹底的にマルチ化を図る。パワーアンプは低音用、中音用にそれぞれモノ構成のML2Lを2台ずつ使い、高音用、超高音用にステレオ構成のML3を1台ずつ使う、計6台という夢の組合せだ。ML2LはA級動作で出力25W、ML3はAB級動作で250W×2だが、実際に比較して聴いてみると、ML2Lの方が音の輪郭が明解でML3の方が少し甘いという印象がある。したがって、好みに応じてマルチ帯域分担を交換してもかまわない。この6台のパワーアンプをもっと凝って使うなら、低音用にML2Lをブリッジ接続にして計4台使い、中音用と高音用にML3を1台ずつ、超高域はLCネットワークで分割するという方法もある。8Ωの2231Aは並列接続で4Ωになり、ブリッジ接続のML2Lからは200Wのパワーが供給できる。ML2Lは実際には公称出力の倍以上の実力があり、これは事実上400Wクラスに相当するといってよい。エレクトロニック・クロスオーバーはLNC2Lを2台使い、クロスオーバーは800Hzと8kHz近辺でうまくいくはずだ。LNC2Lは2チャンネル型だが、別売のOCSモジュール組込みの3ウェイ型にすると、高域は15kHz近辺でクロスさせれば゛4ウェイマルチドライブとなる。コントロールアンプのML6は、輸入元への注文によりフォノイコライザーのゲインやインピーダンス値をEMT・TSD15カートリッジ用に調整してもらう。プレーヤーは、DD型全盛時代にあえてマイクロのRX5000/RY5500の糸ドライブを選ぶ。このプリミティブな方式により安定した音が再生できるので、ハイエンドのユーザーにも十分価値のある製品といってよい。アームはオーディオクラフトのAC3000MCで、アームパイプをEMT・TSD15用とする。取りつけるカートリッジの最適ポイントに合わせた音はすばらしい。
*
マルチアンプ駆動による4ウェイ・システムだから、かなり大がかりなシステムであり、
このシステムの規模からすると、瀬川先生が提案されているリスニングルームとしてのスペースも、
かなり広いものだと想像されるかもしれないが、
瀬川先生が、この組合せで想定されているのは10畳ほどの空間だ。
ウーファー用のエンクロージュアは、
HIGH-TECHNIC SERIES-1と「華麗なる4ウェイシステムの音世界」とでは、基本的に同じである。
フロントバッフルが傾斜している形状の横に長いエンクロージュアである。
寸法比には気を配られている。
そのくらいで、特別なエンクロージュアとはいえない。
HIGH-TECHNIC SERIES-1、「華麗なる4ウェイシステムの音世界」の記事は、
どちらも1970年代後半であり、それから四十年以上が過ぎ、
エンクロージュアは形状も材質も仕上げも、実に多彩になってきた。
それらエンクロージュアを見慣れた目には、
瀬川先生提案のエンクロージュアは、際立った特徴はないといえる。
何の変哲もないエンクロージュアだけれども、
凝ることのみにこだわってしまい、先に進めない状況を自らつくりだすよりも、
まず、このエンクロージュアでいい。
そうなるとウーファーユニットの選定だ。
Troubadour 40という私にとっての終のスピーカーに組み合わせるウーファーだけに、
どうしても最初から理想に近いもの、最高に近いものを求めがちになるけれど、
そんなことではいつまで経っても先には進めない。
菅野先生にしても、長い時間をかけての、あの低音の実現だったのだから、
とにかく始めることが大事なのだ。
そこで頭に浮ぶのは、瀬川先生がステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES-1での、
フルレンジからスタートする4ウェイ・システムの構想である。
Troubadour 40も、フルレンジユニットといえば、そうである。
瀬川先生のフルレンジからスタートする4ウェイについては、
別項で書いているからここでは省略するが、
HIGH-TECHNIC SERIES-1を読んだ高校生のころ、実現したいことの一つであった。
それを四十数年後にようやく取り組もうとしている。
瀬川先生のプランはフルレンジ、そこにトゥイーターを加え2ウェイ化。
それからウーファーを加えて3ウェイ、
最終的にフルレンジとトゥイーターのあいだにミッドハイをくわえての4ウェイである。
私のところにはフルレンジとなるTroubadour 40がある。
トゥイーターとなるエラックの4PI PLUS.2もある。
これだけで低音は不足気味ではあるけれど、2ウェイまでは用意されている。
ウーファーである。
ならば、ここでも瀬川先生が挙げられていたエンクロージュアをそのまま使うという手がある。
同様のプラン、そして同様のエンクロージュアは、
ステレオサウンド別冊「SOUND SPACE 音のある住空間をめぐる52の提案」にも出てくる。
「華麗なる4ウェイシステムの音世界」というタイトルがついている記事である。
2008年ごろ、知人がTroubadour 40を購入した。
そのとき、ウーファー、何にします? と訊かれた。
即答で、JBLの1500ALを挙げた。
他にも使ってみたいウーファーユニットはいくつかあったけれど、
やはりパッと浮んできたのは、1500ALだった。
知人も1500ALが第一候補だったようで、すぐに購入していた。
けれど、残念なことにTroubadour 40と1500ALの音は聴いていない。
知人もエンクロージュアをどうするのか、
ここのところに悩んでいて、1500ALは購入したものの、
元箱に収まったままだった。
1500ALは、ほんとうにいいウーファーだと思っている。
だからこそ、エンクロージュアはできるかぎりいいモノに仕上げたい──、
けれどその気持が強すぎると、知人の例のようになってしまう。
とりあえず1500ALを鳴らして、Troubadour 40と組み合わせてみよう、といいたい気持と、
中途半端な気持(状態)で、1500ALを鳴らしたくない、というのはよくわかる。
もし、いま1500ALのひじょうに程度のいいモノが手に入ったとして、
エンクロージュアにはそうとう悩むことになるのは目に見えている。
終のスピーカーとしてやって来たのが、Troubadour 40ではなくUnicornであれば、
ウーファーで悩むことはない。
Unicornであれば、このテーマで書き始めてもすぐに結論に近いものが書けただろう。
けれど、やって来たのはTroubadour 40なのだから、
ウーファーをどうするか、徹底的に考えることから、ここでのテーマは始まる。
ジャーマン・フィジックスのTroubadour 40が、
終のスピーカーとして、昨年やって来たのだから、終の組合せを考える。
ここでの組合せは、現実に買える金額かどうかはあまり考慮しない。
それでも(その1)を書いてから、五ヵ月。
なかなか続きを書かなかったのは、やはりウーファーをどうするか。
ここで悩んでいるというか、迷っているというか、あれこれ考えているからだ。
菅野先生は、
JBLの2205Bをパイオニア製エンクロージュアにおさめられたモノを使われていた。
同じモノを、と考えなくもないが、
2205Bは中古市場にもあまり出てこないし、もちろん新品はすでにない。
パイオニアのエンクロージュアも手に入らないし、
仮に新品同様の同じモノが手に入ったとしても、
菅野先生のリスニングルームでの、あの低音の素晴らしさは、それだけで実現できるものではなく、
グラフィックイコライザーを含めての使いこなしがあってのものだ。
Troubadour 40が新製品として登場したころ、
JBLは1500ALを単売していた。
そのころはTroubadour 40が欲しい、とつよくおもってはいても、
すぐに買えるというわけではなかった。
けれど、Troubadour 40を買ったら、ウーファーは1500ALが第一候補だった。
エンクロージュアをどうするのかはなにも考えてなかったければ、
当時市販されていたウーファーで、1500ALはそうとうにいいウーファーだったはずだ。
その1500ALも製造中止になり、Troubadour 40も製造中止になった。
耳に近い音は、自分自身を進化させてくれるかもしれないが、
己を純化させるのは心に近い音のはずだ。
終のスピーカーとは、
自分自身を進化ではなく、己を純化させてくれるモノなのだろう。
エラックの4PI PLUS.2は現行製品だと思っていた。
別項「終のスピーカーがやって来る」で書いているように、
昨年10月下旬に、ジャーマン・フィジックスのTroubadour 40ともに、
4PI PLUS.2もやって来ることになった。
その時点で、4PI PLUS.2の価格を調べようとしたところ、
エラックの輸入元のユキムのサイトでは、調べられなかった。
製造中止となっているわけではないが、
もしかしてそうなってしまったのか? と思い、エラック(ELAC)のサイトを見ると、
4PI PLUS.2のページはなかった。
ほんとうに製造中止なのか。
それがはっきりしないまま年が明けて、つい先日、
4PI PLUS.2の販売再開のニュースがあった。
製造(販売)が休止されていたのか。
それとも製造中止になっていたのが、復活したのか。
そのへんの事情はわからないけれど、とにかく現行製品として入手できる。
ステレオサウンド 51号掲載の「オーディオ巡礼」で、
五味先生はH(原田勲)氏のリスニングルームを訪問されている。
*
H氏は、じつはまだ音が不満で、何故なら古い録音のレコードなら良いのだが、多チャンネルで収録した最新録音盤では、高域の輝きに欠けるし、測定データをとってみてもクリプッシュホーンは340ヘルツあたりで10デシベルちかく落ちこんでいる。このためチェロが玲瓏たる音をきかせてくれないので、高域にはリボン・トゥイーターを加え、340ヘルツあたりも何とか工夫したいと言う。このオーディオの道ばかりは際限のない、どうかするとドロ沼におち込む世界だ、それは私も知っているが、特性を追いすぎるとシンセサイザーになるのを危惧して、夫人に「いじらせないように」と言ったわけである。もっとも、私を送ってくれる車中で彼はこう言った。「どれほど優秀なシステムでも、今は、オリジナルにどこかユーザーが手を加えねば、マルチ・チャンネル方式で録音される現在のオーディオサウンドを十全には再生できない。どこにどう手を加えるかがリスナーの勝負どころだろうと思うんです。オリジナルをいじるというのは邪道かもしれないし、本当はたいへんむつかしいことでしょう、しかしうまくそれがなし得たとき、はじめて、その装置は自分のものになったといえるんじゃないですか」そうかも知れない、私もそれは感じていることだが、まあそういうものが完成したら又きかせてもらいましょう、と言った。内心では、家庭で音楽を鑑賞するためのオーディオなら、今の音で十分ではないか、とやっぱり思っていた。
*
《高域にはリボン・トゥイーターを加え》とある。
どこのリボン・トゥイーターなのかは書かれていないが、
私は、ピラミッドのT1だと思っている。
このころのリボン型トゥイーターは、パイオニア、デッカ、ピラミッドぐらいしかなかった。
だとしたら、ピラミッドのはずだ。
H氏の、このころのスピーカーはヴァイタヴォックスのCN191である。
ヴァイタヴォックスのスピーカーは、終のスピーカーを手に入れたいまでも、
いつかは自分の手で鳴らしてみたい、と思い続けている。
現実には置き場所もないし、復刻されたヴァイタヴォックスはそうとうに高価だし、
導入できるだけの経済的余裕はないけれど、
それでもいつかは、一度は──、というおもいは持ち続けている。
もしヴァイタヴォックスを鳴らせる日がおとずれたら、
私もやっぱりトゥイーターを加えたい。
そうなると過去の製品を含めても、エラックの4PI PLUS.2を選ぶ。
私にとって4PI PLUS.2は、そういう存在のトゥイーターだ。
ここで、しつこいぐらいに、伊藤先生の言葉──、
《スピーカーを選ぶなどとは思い上りでした。良否は別として実はスピーカーの方が選ぶ人を試していたのです。》
を引用しておく。
ステレオサウンド 72号に載っている。
記事ではなく、上弦(かみげん、と読む。シーメンス音響機器調進所)の広告に載っている。
ジャーマン・フィジックスのTroubadour 40は、
さしずめ私を試すために、終のスピーカーとしてやって来たのだろう。
終のスピーカーがやって来た。
だから、終の組合せというものを考えているところだ。
ここでの終の組合せは現実的に購入できる価格帯のモノではなくて、
予算に制約のない、いわば妄想組合せでもある。
ジャーマン・フィジックスのTroubadour 40が、
終のスピーカーとして私のもとにある。
では、このTroubadour 40を中心にしての終の組合せをどう考え、どう展開していくのか。
いまのところ、ただぼんやりとしているだけだ。
はっきりしているのは、D/AコンバーターはメリディアンのULTRA DACということだけ。
この二点だけは決っている。
私にとっては変えようがない決定でもある。
あとはアンプとトランスポートである。
妄想組合せといっても、現行製品のなかから選んでいきたい。
価格の制約こそないものの、
すべての制約をなくしてしまっては組合せを考える愉しみは薄れてしまう。
とはいうものの、これがいちばんの制約のようにも感じている。
JBLのハークネスの上には、預かりもののJBLの375+537-500がのっている。
そのすぐ近くにTroubadour 40と4PI PLUS.2を置く。
菅野先生のところと見た目だけは近くなる。
エラック 4PI PLUS.2の外箱には、
“PERFECT FOR YOU”とある。
なるほどなぁ、と感心する。
4PI PLUS.2は、そういうトゥイーターといえる。