Archive for category マッスルオーディオ

Date: 6月 13th, 2023
Cate: マッスルオーディオ

muscle audio Boot Camp(その22)

1990年代、ゴールドムンドのMimesisシリーズのパワーアンプが登場し、
高い評価を得ていた。

Mimesisシリーズのパワーアンプは、電源部の平滑コンデンサーの容量に特徴があった。
それまで大容量を謳うメーカー(アンプ)は数多くあったなかで、
ハイスピードの実現ということで、あえて小容量のコンデンサーを採用していた。

そのかわりというか、電源トランスはかなり大きいものを搭載していた。
そのころから、アンプのハイスピード化には、平滑コンデンサーに大容量のモノを使うのは、
ダメみたいな受け止め方もされるようになってきた。

けれど実際のところ、ほんとうのところどうなのだろうか。

私の考えでは、出力段がA級かB級かによって、最適なコンデンサーの容量は違ってくる。
A級アンプだと、アイドリング電流をたっぷりと流して、出力段に流れる電流の変化幅も小さい。
こういうアンプの場合は、大容量のコンデンサーを搭載した方が、
一方、アイドリング電流をあまり流さないB級(もしくはA級領域が少ないAB級)の場合、
電流の変化幅は、出力が大きいほどに変化するわけだから、
容量の大きさよりも、反応速度を重視すべき──、なのではないだろうか。

そのことを無視して、単に平滑コンデンサーの容量が大きい方がいい、
いや小さい方がいい、というのは、不毛でしかない。

Date: 1月 15th, 2023
Cate: マッスルオーディオ

muscle audio Boot Camp(その21)

ステレオサウンド 45号の新製品紹介の記事で、
マークレビンソンのML2が登場した。

このころのステレオサウンドの新製品紹介は、
井上先生と山中先生の二人で担当されていただけでなく、
新製品を聴いての全体の傾向などについての対談も掲載されていた。

その対談で、こんなことが語られている。
     *
山中 このパワーアンプを開発するにあたってマーク・レビンソン自身は、本当のAクラスアンプをつくりたい、そこでつくってみたところがこの大きさと出力になってしまった。出力ももっと出したいのだけれど、いまの技術ではこれ以上無理なんだといっているのですが、いかにも彼らしい製品になっていと思います。
 実際にこのアンプの音を聴いてみますと、今までのAクラスパワーアンプのイメージを打ち破ったといえるような音が出てきたと思うのですがいかがでしょうか。
井上 そうなんですね。いままでのAクラスパワーアンプは、どちらかといえば素直で透明な音、やわらかい音がするといわれてますね。それに対してこのアンプではスピーカーとアンプの結合がすごく密になった感じの音といったらいいのかな……。
山中 その感じがピッタリですね。非常にタイトになったという感じ。スピーカーを締め上げてしまうくらいガッチリとドライブする、そんな印象が強烈なんです。
井上 一般的に「パワーアンプでスピーカーをドライブする」という表現が使われるときは、一方通行的にパワーアンプがスピーカーをドライブするといった意味あいだと思うのです。このマーク・レビンソンの場合は対面通行になって、アンプとスピーカーのアクションとリアクションがものすごい速さで行われている感じですね。
山中 ともかく片チャンネル25Wの出力のアンプで鳴っているとは思えない音がします。この25W出力というのは公称出力ですから、実際の出力はもう少しとれているはずですし、しかもインピーダンスが8Ω以下になった場合はリニアに反比例して出力が増えていきますから、やはり電源のしっかりしたアンプの底力といったものを感じますね。
井上 昔から真空管アンプのパワーについて、同じ公称出力のトランジスターアンプとくらべると倍とか四倍の実力があるといったことがよくいわれていますね。
山中 それに似た印象がありますね。
井上 でも真空管アンプというのはリアクションが弱いでしょ。やっぱり一方通行的な部分があって、しかも反応がそんなに速くない。アンプとの結びつきが少し弱いと思うのだけど、この場合はガッチリ結びついた感じのするところが大変な違いだと思います。
山中 とにかく実際にこのアンプを聴いた人はかなり驚かされることになると思います。
     *
パワーアンプの出力インピーダンスが変動しているはず──、
なんてことは、この記事を読んだ時はまったく考えていなかった。

素直にML2はすごいアンプなんだ、
早く聴いてみたい、と思っていた。

実際に聴いたML2の音は、まさにそういう音だった。
そしていま、出力インピーダンスの変動を念頭において読むと、
そういうことか──、というふうにも読める。
そういう読み方が正しいかどうかは措くとしても、
A級アンプの出力インピーダンスの変動が小さいからこそのML2の音の特徴に結びつく。

Date: 1月 6th, 2022
Cate: マッスルオーディオ

muscle audio Boot Camp(その20)

ダンピングファクターは、スピーカーの駆動力だと思っている人が、
キャリアの長い人であってもけっこう多い。

ここではくり返さないが、
ダンピングファクターとは、スピーカーのインピーダンス(つまり8Ω)を、
アンプの出力インピーダンスで割った値でしかない。

なので出力インピーダンスが低いほどダンピングファクターは当然高くなるわけだが、
この出力インピーダンスというのは、アンプのスピーカー端子のところでの値でしかない。

そして、何度もくり返すが、あくまでも静的なダンピングファクター(出力インピーダンス)だ。

ダンピングファクターが高ければ高いほど駆動力の高いアンプである──、
中学生のころは、わりと信じていたが、
NFBをかける前の周波数特性と出力インピーダンスのカーヴとの関連性に気づくと、
実質的なダンピングファクターの高さとは? と考えるようになってきた。

そして決定的だったのは、伊藤先生製作の349Aのプッシュプルアンプを聴いてからだった。
ウェスターン・エレクトリックの349Aは小型の五極管。
6F6と差し替えられる。

なので349Aでアンプを作るのであれば、
一般常識的には出力トランスの二次側からのNFBが必須である。
NFBがなければ出力インピーダンスはかなり高く、
いわゆるまったくダンピングのかからない低音になってしまう──、
つまりブンブンとうなってばかりで、締まりのない低音である。

伊藤先生のアンプはウェストレックスのA10の回路を採用したもので、
出力トランスの二次側からのNFBはかかっていない。
NFBは位相反転回路までで、出力管はそこに含まれていない。

なので349Aのプッシュプルアンプのダンピングファクターは、そうとうに低くなる。
それでも実際に音を聴くと、まったくそんな感じがしない。
ボンつくことがない。
むしろ澄明な低音が鳴ってきた。

出力わずか8Wのアンプだから、ウーファーを牛耳って、という感じではまったくないが、
いい音だな、と聴き惚れていたし、なんといっても音の減衰のしかたがほんとうに美しかった。

Date: 12月 1st, 2021
Cate: マッスルオーディオ

muscle audio Boot Camp(その19)

パワーアンプの出力インピーダンスは動的に変化している──、
そういう予測を私は持っている。

実際に測定してみたわけではないし、
どうすれば動的な出力インピーダンスを測定できるのかもよくわかっていない。

静的な出力インピータンスの測定方法はもちろん知っているが、
同じ方法で動的な出力インピーダンスが測定できるわけではない。
もしかすると動的な出力インピーダンスの測定は無理なのかもしれない。

となればシミュレーターの登場なのだろうか。

とにかく私はアンプの出力インピーダンスは動的に変動していると確信している。
それに静的な出力インピーダンスも、以前から書いているように周波数特性をもつ。
基本的にNFBをかけたアンプの場合、
NFBをかける前の周波数特性と同じカーヴになる。

ということは動的な出力インピータンスは周波数特性的にも変動しているわけで、
中高域にかけての変動率は、低域(つまり十分なNFB量がかかっている帯域)よりも、
大きくなっている可能性もある。

(その14)から(その18)まで、動的な出力インピーダンスのことを書いてきた。
ソリッドステートアンプの場合について書いてきている。

では真空管アンプの場合はどうなのだろうか。

Date: 5月 11th, 2020
Cate: マッスルオーディオ

muscle audio Boot Camp(その18)

実際にパワーアンプの動的な出力インピーダンスの変動を測定していないし、
そういう測定器データをみたことがないけれど、
おそらくA級動作とB級動作とでは変動の仕方に違いがある、と考えられる。

そしてA級動作のほうが、変動の幅も小さいはずだ。

そして、これも推測でしかないのだが、
出力段の回路構成だけではなく、電源によっても変動の仕方は変化しているはずだ。

さらに負荷インピーダンスの急激なインピーダンス変化でも、
出力インピーダンスは変化しているのではないだろうか。

そんな推測を立てて、ステレオサウンド 64号の測定データをみると、けっこう納得がいく。
これをこじつけと捉える人もいるだろうが、
だからといって、パワーアンプの出力インピーダンスが、
信号の変化、出力段の構成と動作、電源部の設計とコンストラクション、負荷インピーダンスの変化、
これらの要素によって、動的に変動しない、とはいえないはずだ。

ケンウッドのL02Aは、64号での測定で、もっとも優れていた。
ということは、L02Aは動的な出力インピーダンスが安定している、ということなのか。

Date: 4月 28th, 2020
Cate: マッスルオーディオ

muscle audio Boot Camp(その17)

半導体式パワーアンプの出力段は、
ほぼすべてといっていいくらいにSEPP(Single Ended Push-Pull)である。
いうまでもなくトランジスターならばNPN型とPNP型、
FETならばNチャンネル、Pチャンネルによるプッシュプルである。

もちろんそうでない回路を採用しているパワーアンプもないわけではないが、
ごくわずかであり、ほぼすべてSEPPといっても言い過ぎではない。

NPN型、PNP型トランジスターが、
完全に対になる特性を実現しているならばいいのだが、
現実はそうではない。

そこに出力段の動作方式が加わる。
A級動作とB級動作である。

実際は純B級といえるパワーアンプは存在しないといっていいだろう。
市販されている製品は、A級かAB級である。

どうも世の中には、AB級を勘違いしている人が少なからずいる。
オーディオ関係の出版社にもいるようで、
製品の解説で、小出力時はA級動作で、出力が増すとAB級動作に移行する──、
こんな感じのことを書いている。

小出力時がA級動作で、出力が増えるとB級動作に移行するのがAB級であるにもかかわらずだ。
こんな基本的な勘違いが、いまだ続いている、というか、昔ならばなかったことである。

そしてアンプに入力される信号は、交流である。
プラス側にもマイナス側には信号はふれるわけで、
プラスからマイナス、マイナスからプラスへとうつる際には、0Vの瞬間がある。

これら三つのことを考え合わせると、
パワーアンプの出力インピーダンスは変動していても不思議ではない、と考えられる。

Date: 4月 26th, 2020
Cate: マッスルオーディオ

muscle audio Boot Camp(その16)

動的なダンピングファクター、
つまり動的な出力インピーダンスについて考えるきっかけとなったのは、
ステレオサウンド 64号での長島先生によるパワーアンプの測定である。

パワーアンプの負荷を8Ωから1Ωに瞬時に切り替えた際の電流供給能力を測定し、
グラフと実際の波形で表している。

これとは別に参考データとして、
8Ω/4Ω瞬時切替THD測定データが、九機種分載っている。
こちらはあくまでも参考データということで機種名はふせてある。

この全高調波歪で、一機種のみ圧倒的に優れた特性を示している。
これがケンウッドのL02Aである。

そして瞬時電流供給能力の波形とグラフをみても、
L02Aが瞬時の負荷抵抗の変動に対応しているのがわかる。

64号をもっている人は、L02Aと、他の機種との比較してほしい。
L02Aは、もっと物量投入型のモデル、高価なモデルよりもきわめて優秀な特性である。

このころは、L02Aは電源が大容量なのだ、と最初は考えた。
けれど、64号ではプリメインアンプだけでなくパワーアンプの測定も行なっている。

電源の容量の大きさならば、L02Aよりも上のモデルがある。
それよりもL02Aは優れている。

単に電源の容量だけでなく、配線を含めての設定がうまいのか──、
次にそう考えた。

それでもL02Aだけが、ここまで測定結果が優れている理由の説明には足りない。
他にどんなことが考えられるか。
一年ほどあれこれ考えた結果が、出力インピーダンスの変動ではないか、だった。

Date: 4月 22nd, 2020
Cate: マッスルオーディオ

muscle audio Boot Camp(その15)

オーディオにおいて、静的特性の優秀さだけでなく、
動的特性の優秀さが求められるようになってきたのは、
1970年代後半ぐらいからだろうか。

広告やカタログをみても、動的特性の重要性が謳われるようになってきたし、
よく知られるところではTIM歪も、いわば動的な歪である。

ステレオサウンドでの、長島先生による測定でも、
パワーアンプの測定には、一般的にダミー抵抗を用いられるが、
それだけでなく三菱電機製作のダミースピーカーを負荷とした測定も行われている。
さらに負荷のインピーダンスを急激に変化させた状態での測定も行われていた。

動的特性が、静的特性よりも重要とはいわれながらも、
浸透しているようで浸透していないと感じることも、いまだけっこうある。

この項で書いてきているダンピングファクターは、その代表例といえる。
いまだダンピングファクターがいくつか、高い、低い、
そんなことを気にしている人が、若い人だけでなく、
私と同世代、上の世代の人のなかにはけっこういる。

よくいわれるのが、スピーカーのインピーダンスの動的な変化だ。
カタログに載っているインピーダンスカーヴは、いわば静的な値である。
実際の音楽信号が送り込まれたときのインピーダンスが、どんなふうに変化しているのかは、
いまだ誰も測定していないのではないだろうか。

少なくとも、私はこれまで見たことがない。

スピーカーのインピーダンスが、動的にはかなり変化しているのであれば、
アンプの出力インピーダンスも同じなのかもしれない。

静的な出力インピーダンスと動的な出力インピーダンスは、同じではないはず──、
そういう想像がつく。

Date: 3月 7th, 2018
Cate: マッスルオーディオ

muscle audio Boot Camp(その2についての補足)

muscle audio Boot Camp(その2)」で、
直列型のネットワークは、バイワイヤリングはできない、と書いている。

約二年前は、そう考えていた。
けれど昨年、気づいた。
こうすれば、直列型ネットワークでもバイワイヤリングが可能になるのではないか、と。

同時に、直列型ネットワークの配線において重要なポイントはどこなのかも、
はっきりと見えてきた。

まだ試していない。
今日のaudio wednesdayで、実験の予定である。
バイワイヤリングにすることで、直列型ネットワークの良さが活きるのか、
それともスポイルされる方向へと変化するのか。

音は出してみないことには、わからない。

Date: 6月 18th, 2017
Cate: マッスルオーディオ

muscle audio Boot Camp(その14)

アンプのカタログに載っているダンピングファクターではなく、
スピーカーユニットからみた実効ダンピングファクターには、
スピーカーに内蔵されているLCネットワークの出力インピーダンスも関係してくる。

ウーファーの場合、6dB/octスロープのネットワークでは、コイルが直列に入る。
コイルのインピーダンスは高域にいくにしたがって高くなっていく。
こういう特性をもつコイルが関係してくるし、
コイルも銅線を巻いたものだから、そこには直流抵抗も存在する。

12dBスロープだと、コイルに対し並列にコンデンサーがあり、
コンデンサーのインピーダンスは高域にいくにしたがって低くなる。
18dBスロープだと、もうひとつコイルが直列に入る。

ネットワークの次数の違いは、スロープの違いだけでなく、
出力インピーダンスについても考える必要がある。

実効ダンピングファクターには、これらの要素も含めて考えなければならない。
さらにスピーカー内部配線の具合によっても、ダンピングファクターは変化する。

よくアンプで、新型になって内部配線を見直したり、
保護回路のリレーを交換したりすることで出力インピーダンスの、これらによる上昇を抑え、
ダンピングファクターの数値を向上させた、と謳うことがある。

確かにアンプの出力端子でのダンピングファクターは向上している。
このことは、そんなわずかなことでも影響を受けるということを暗に語っている。

にも関わらず、
スピーカーシステム内部の、もっともっと影響を与える要素について触れられることは稀である。

それにアンプ単体でみても、ダンピングファクターはそう簡単に語れるものではない。

Date: 5月 14th, 2017
Cate: マッスルオーディオ

muscle audio Boot Camp(その13)

その12)に、
スピーカーのインピーダンスをアンプの出力インピーダンスで割った値がダンピングファクターだから、
ダンピングファクターが高いということは、アンプの出力インピーダンスが低いということである、
と書いた。

昔のオーディオの教科書にはそう書いてあるし、
いまでも、おそらくそう説明されている、と思う。

間違っているわけではない。
ただこれだけでは不十分なのだ。

スピーカーシステムがもつ直流抵抗分が抜けた状態でのダンピングファクターであるからだ。
実は、このことはずいぶん昔からJBLのエンジニアが指摘していたことであるにも関わらず、
なぜか、ほとんどのオーディオの教科書には載っていない。

スピーカーユニットにはボイスコイルがあり、
ボイスコイルは細い線で巻かれていることもあって、
たいていの場合、ユニットの公称インピーダンスが8Ωであれば、
60から70%の値の直流抵抗(4.8Ωから5.6Ω程度)をもつわけだ。

この直流抵抗分は、スピーカーユニットから見れば、
アンプの出力インピーダンスに加算されたかっこうとなる。

公称インピーダンスが8Ω、直流抵抗が6Ωのユニットだとしよう。
アンプの出力インピーダンスが8Ωであれば、
アンプのダンピングファクターとして発表される値は1であり、
直流抵抗を含めての実効ダンピングファクターは0.57となる。

アンプの出力インピーダンスが1Ωであれば、8と1.14、2Ωでは4と1、
0.5Ωでは16と1.23、0.1Ωでは80と1.31、0.05Ωでは160と1.32……、というふうになる。

アンプの出力インピーダンスが低ければ低いほど、
カタログに載るダンピングファクターは100、200、さらには1000という値にもなるが、
そこにユニットの直流抵抗を加算して、実効ダンピングファクターを計算してみると、
大きな違いではないことになる。

しかも実際のスピーカーシステムではアンプとユニットのあいだに、
LCネットワークが介在する。

Date: 5月 23rd, 2016
Cate: マッスルオーディオ

muscle audio Boot Camp(その12)

スピーカーの振動板はアンプからの信号によって振動する。
この振動によって発電もしている。

フレミングの法則からいっても、そうである。
そうやって起る電気のことを逆起電力という。

この逆起電力がスピーカーの音に影響を与えている。
そのため逆起電力をアンプ側で吸収するために、
パワーアンプの出力インピーダンスは理想をいえば0(ゼロ)でなければならない、
ダンピングファクターは高くなければならない──、
そういったことが昔からいわれている。

いまもダンピングファクターの値を気にする人が少なくないのに、驚くことがある。
数年前のインターナショナルオーディオショウの、とあるブースでオーディオマニアが、
ブースのスタッフと会話されているのが聞こえてきた。

ダンピングファクターに関する内容だった。
かなり高価なアンプを使われていること、オーディオのキャリアも長いことがわかる。
だから、この人でも、いまだにダンピングファクターの値にとらわれているのか、と驚いた次第だ。

話はさらにスピーカーの能率とダンピングファクターと関係に進んでいった。
その話の最後がどうなったのかは知らない。
私は、そのブースで見たいモノを見て、すぐに出ていったからだ。

スピーカーの逆起電力は、オーディオに興味を持ち始めたばかりのころ、ないのが理想だと思っていた。
でもスピーカーの動作原理上発生するものだから、なんとかキャンセルできる方法はないものだろうか。
そんなことを考えていたこともある。

でも逆起電力をなんらかの方法で完全にキャンセル(打ち消す)ことができたとしたら、
スピーカーの動作はどうなるのだろうか。

モーターを使った実験がある。
乾電池をつなげばモーターは回転する。
乾電池を外せばモーターはすぐに止るからといえば、しばらく廻っている。

ではモーターを瞬時に止めるにはどうすればいいか。
モーターをショートさせる。するとモーターはぴたりと止る。
つまりモーターが発生させている逆起電力によってブレーキをかけるからである。

スピーカーのインピーダンスをアンプの出力インピーダンスで割った値がダンピングファクターだから、
ダンピングファクターが高いということは、アンプの出力インピーダンスが低いということである。
ダンピングファクターが高ければ高いほど、出力インピーダンスは0に近づく。
0Ωでショートされる状態に近づくことになる。

Date: 5月 18th, 2016
Cate: マッスルオーディオ

muscle audio Boot Camp(その11)

もちろん6dB直列型の音が、バイアンプの音をすべての点で超えているわけではない。
バイアンプでなければ鳴らない(鳴らしにくい)音があるのは確かだ。

それでも6dB直列型ネットワークにしたときの音は、
これはこれでいい、といえるだけの説得力が確かにあった。
だからこそ「バイアンプにしましょう」という声があがらなかった、
と私は勝手に解釈している。

バイアンプの良さは、まずウーファーとアンプが直結されることにある。
クロスオーバー周波数が低いほど、コイルの値は大きくなり、
コイルのサイズも大きくなっていく。コイルの直流抵抗もその分増えていく。

コイルは銅線を巻いたもの。
値によって変るが銅線の長さはすぐに10mをこえる。
数10mになることも珍しいことではないし、場合によっては100mほどになることだってある(空芯の場合)。

よく言われることだが、
スピーカーの入力端子まで、スピーカーケーブルにどんなに高価なケーブルを使おうと、
もしくはできるかぎりスピーカーケーブルを短くしても、
スピーカー端子の裏側には、長い長い銅線をぐるぐるに巻いたコイルが、
ウーファーであれば直列に入っている。

それでもスピーカーケーブルを交換すれば、
スピーカーケーブルを短くすれば、音は変るけれど、
バイアンプ駆動にしてコイルを省けば、音の変化はもっと大きい。

一度コイルなしのウーファーの音を聴いてしまうと、やはりバイアンプ(マルチアンプ)か、と思う。
でも6dB直列型の音を聴いていると、そうは思わなかった。

この音が出るのなら、もっともっとこまかくチューニングを施していけば……、
そう期待できる音だった。

最終的にはバイアンプに目指すことになろうとも、
この音は、この音としていつでも鳴らせるようにしておきたい。

Date: 5月 18th, 2016
Cate: マッスルオーディオ

muscle audio Boot Camp(その10)

3月のaudio sharing例会で「マッスルオーディオで聴くモノーラルCD」をやった。
ここでは、マッキントッシュのMA2275の左チャンネルを低域に、右チャンネルを高域に割り当てた。
つまりバイアンプ駆動でネットワークは、アンプとユニットの間に介在していない。

ユニット構成はそのままでステレオにする場合、アンプをどうするのか。
もう一台ステレオアンプを用意して、モノーラル時と同じにバイアンプにするのか。
それともLCネットワークでいくのか。

理屈でいけば、もう一台アンプを用意してバイアンプ駆動にしたほうがいい。
それでも今回試したかったのは、
モノーラルからステレオへの移行期にオーディオをやっていたという仮定の元で、
どうステレオ化していくか、である。

LCネットワークで満足のいく結果が得られれば、それにこしたことはない。
けれどバイアンプとLCネットワークとでは経済的負担も違えば、
得られる結果も当然違う。

同じ結果が得られると考えること自体が間違っているわけで、
LCネットワークならではの良さがあますところなく発揮されれば、
どちらがいいということではなく、バイアンプもLCネットワーク、どちらもいいということになるし、
そういう結果をめざしていたからこそ、6dB直列型を試してみた。

結論をいえば、12dB並列型ネットワークの音だけを聴いていると、
やはりバイアンプにしたい、と思う。
一ヵ月前に、同じシステム(スピーカーの配置は違うが)で、その音を聴いているだけに、
よけいにそう思ってしまう。

6dB並列型にした音は、12db並列型よりもよかった。
それでも前回鳴らしたバイアンプの音を聴いていた人から「バイアンプにしましょう」という声があがった。

私もそれは同じだった。
けれどまだ6dB直列型の音が残っている。
この音を聴いてからである、バイアンプにするのかしないのかも。
実をいうと、バイアンプにするためのケーブル(フィルター内蔵)も用意していた。

このケーブルの出番はなかった。
6dB直列型の音は、そのくらいいい感じで鳴ってくれたからだ。
この音には、「バイアンプにしましょう」という声はあがらなかった。

Date: 5月 11th, 2016
Cate: マッスルオーディオ

muscle audio Boot Camp(余談)

5月のmuscle audio Boot Campで、直列型ネットワークの音を聴かれた方が、
自分のシステムを、6dB直列型ネットワークにしたい、ということになった。

その方は熱心なジャズの聴き手。
JBLのD130、LE85+2345、075というシステムである。
現在使用されているネットワークはもちろんJBL製で、N1200とN7000である。

2345はカットオフ周波数800Hzのラジアルホーンだ。
LE85のクロスオーバー周波数は500Hz以上となっている。

N1200は型番からわかるように1200Hzのクロスオーバーである。
今回、これも変更してみたい、ということである。
800Hzの6dB直列型にしたい、という要望だ。

2ウェイであるならば、今回muscle audio Boot Campで使用したネットワークで、
そのままいけるわけだが、3ウェイである。

3ウェイの6dB直列型にするという手もあるし、
D130とLE85を直列型ネットワークでまとめあげ、
この2ウェイに対して075を、コンデンサーで低域をカットするという手で追加するという案もある。

JBLの純正ネットワークとつねに比較することができるだけに、
この依頼はひじょうに楽しみである。

結果については、何ヵ月後かに書く予定だ。