Archive for category 数字

Date: 1月 17th, 2017
Cate: 数字

数字からの解放(その6)

別項を書くためにステレオサウンド 131号を、ここ数日手元に置いている。
パラパラとめくって、目に留った記事を読む。

勝見洋一氏の「硝子の視た音」を読んでいた。
     *
 こんなことで気分のすぐれない日々を送っていたら、フランスの美術館から写真の束が送られてきた。
 以前、私の本業である美術品の鑑定を受けた美術館からなので、興味深く写真を見つめてびっくりした。
 ほとんどが偽物である。
 写真を見ただけではっきりと判るくらいなのだから、よほど性質の悪いものなのだ。
 てっきり偽物美術展を冗談まじりでやるのかと思ったら、大まじめ、近ごろの鑑定人たちも質が落ちたものだ。
 写真と一緒に分厚い資料があった。中を見るとコンピューターを使った鑑定方法ばかりの結果だった。なるほど、原因はこれである。
 昔ならばその道の権威が自分のプライドをかけて良いといえばそれで済んでしまったことである。もし間違えれば世間で笑いもの。美術館の展覧会の鑑定を引き受けるということは真剣勝負そのものだった。
 ではなぜコンピューターによる鑑定が基本的な間違いを起こすのだろうか。これは単純な話である。
 コンピューターに入れたデータの上をいく偽物が増えてきたのだ。
 しかしコンピューターをだますために作られているのだから、経験のある人間の眼をだますためには作られていない。ひどくめちゃくちゃな偽物が、コンピューターの結果で本物になってしまう。まあそれ以上に、見る目がなくなった若い鑑定人たちが増え過ぎたということが原因なのだが、と言って溜飲を下げるのである。
     *
131号は1999年の夏号だ。
18年ほど前に出ている。

ここまでインターネットは普及していなかった。
個人のウェブサイトも数はそう多くはなかった。
SNSもなかった時代だ。

そのころ読んだ感想と、いま読んだ感想とでは、その点が違っている。
131号が出て以降、インターネットは急速に普及して、
さまざまな面をディスプレイを通して伝えてくる。

勝見洋一氏の文章は、そのままオーディオにいえることだ。
このことを強く感じている。

当時でも、測定結果・数値のみに拘泥する人たちはいた。
でも、それほどとは思っていなかったが、
インターネットの普及は、意外にもそういう人たちが少なくないことを伝えている。

Date: 7月 13th, 2014
Cate: 数字

数字からの解放(その5)

測定で得られるものとは、いったい何なのか。

歪率を測る。
そこで得られた値をグラフに表示する。
もしくは数字でカタログに載せる。

世の中には測定値に変化がなけれは、さらにはほぼ同じであれば音は変らない、という人がいる。
オーディオは科学技術の産物で、スピーカーよりも特にアンプはそうである。

そのアンプを比較するときに、測定結果が似たようなものであれば、音に違いはない、ということである。
そんなに簡単なことであるならば、アンプはとっくに完成形に至っている、といえる。
けれど実際には、まだまだそこには遠く至っていない。

測定値が……と主張する人は、測定で得られる数値が、質を直接的に表していると勘違いしているのではないか。
歪率が良ければ、それは質の高さ・良さを保証していることになるだろうか。

歪率が良いとは歪が少ないことであり、
歪率が悪いとは歪が多いことであり、
つまりは歪の多い少ない、量を表していることになる。

これが歪波形をオシロスコープで表示して、それを写真におさめたものとなると、
そこでは量とともに質に関係してくることを読みとることができないわけではない。

だが歪率を数字で表している以上、そこでの比較はあくまでも量にとどまる。

量と質は、必ずしも切り離せるものでないことはわかっている。
それでも、測定で得られる数字はどこまでいっても量である。
歪率だけではない、S/N比も、
ノイズの多い少ないであり、そこでのノイズの質(しつ・たち)を表しているとは言い難い。

Date: 12月 31st, 2013
Cate: 数字

100という数字(その7)

でかい音を、どう表現するか。

でかい音を聴いたことのある人が、その時について話す時に注意してきいていると、
あの音圧はスゴかった、と音圧で表現する人もいるし、
あの音量にはまいった、と音量で表現する人もいる。

意識して音圧と音量を使い分けているとは思えないからこそ、
ここでの音圧と音量の、いわば無意識の使い分け(というよりも選択というべきか)は、
おもしろいと思うこともある(そうでないこともある)。

音圧はsound [acoustic] pressure、
音量はthe volume、である。

Date: 11月 17th, 2013
Cate: 数字

100という数字(その6)

変換効率の高いスピーカーは、カタログスペックの出力音圧レベルの値が高い。

いまでは一般的とはいえなくなったが、
私がオーディオに興味を持ち始めたころ、
つまり1970年代後半の国産ブックシェルフ型スピーカーシステムの出力音圧レベルは92dB/W/m前後だった。
実はこの92dBという値は、アンプから入力された信号の1%が音に変換された、ということである。
残りの99%は熱になって消費されてしまう。

92dBを切っているスピーカーシステムは、1%以下の変換効率ということになるわけだ。
92dBよりも10dB低い82dB/W/mだと、10dBは約3.16倍であるから、1%を3.16で割ればいいし、
102dB/W/mだと10dB高いわけだから、1%の3.16倍の変換効率といえる。

100%は1%の100倍だから、dBでは40dBの差となる。
92dB+40dB=132dB、である。

JBLのD130のカタログに発表されている出力音圧レベルは103dB/W/mだから、
これで計算すれば、92dBのスピーカーの約3.54倍となる。
82dBのスピーカーと比較すれば、約11.22倍となる。

ちなみにJBLのコンプレッションドライバーの2440は、カタログには118dB/W/mと表記されている。
92dBとの差は26dBだから約19.95倍となる。

100dBを超えているスピーカーを、簡単に高能率といってしまっているけれど、
130dBのD130ですら、約3.54%しか音に変換できていないわけで、
dBではなく%でみると、D130ですら、高能率といっていいのかどうか考えてしまう。

こんな計算をしながら考えていたのは、
音圧と音量について、である。

Date: 10月 23rd, 2013
Cate: 数字

100という数字(その5)

いまスピーカーシステムは、高性能化している、といわれる。
たしかに周波素特性は低域、高域の両端に伸びているし、
しかもただ伸びているだけでなく、一部のスピーカーシステムでは、
以前では考えられなかったほど平坦な周波数特性も実現している。

なにも周波数特性だけではない。
パルスを使った測定で明らかになる累積スペクトラムでも、
見事としか、他にいいようのないくらいに高性能化しているモノもある。

その意味では、はっきりとスピーカーシステムは、高性能化している──、
私もそう思っているし、そういうことがある。

けれどスピーカーはカートリッジと同様、変換器である。
変換器の性能として語られるのは、周波数特性、歪率……といった項目だけでいいのだろうか。

変換器としての重要な項目は、変換効率なのではないだろうか。

真空管からトランジスターへと移行して、大出力が実現し得やすくなっている。
そのこともあって、スピーカーの変換効率は、他の項目を優先するために犠牲になってきている。

周波数特性と変換効率は、今のところ両立し難い。
変換効率を高くしていけば、周波数特性は狭くなる傾向にある。
周波数特性をワイドレンジにしようとすれば、変換効率を犠牲にすることにつながっていく。

アンプのパワーが、実質的には制限なしに得られる状況では、
スピーカーの変換効率は優先順位として下にきてしまうのは、仕方ないことになってしまう。

だが、スピーカーは、あくまでも変換器であり、
変換器にとって、変換効率の高さはどういうことを指すのだろうか。

Date: 10月 15th, 2013
Cate: 数字

100という数字(WIN LABORATORIES SDT10)

ウイン・ラボラトリーズというカートリッジメーカーがあった。
ステレオサウンド 43号に広告が載っていた。
当時は菅原商会というところが輸入元になっていて、その後別のところに変ったと記憶している。

ウイン・ラボラトリーズのSDT10というカートリッジに関する資料は少ない。
43号に掲載された菅原商会の広告の文章、
それにインターネットで検索して得られることぐらいである。

SDT10の型番は、Semiconductor Disc Transducerの略であり、
型式としては、Semiconductor Strain Gaugeとなっている。
半導体型のカートリッジと理解していいはずだ。

だからPOWER SOURCEと名づけられた外部電源を必要とする。

詳細についてあまりわかっていない。
実物をみることはできなかった。
いったいどれだけ日本に輸入されたのかもわからない。

でも、聴いてみたかったカートリッジのひとつであり、
いまも機会があればぜひとも聴いてみたい、と思い続けている。

SDT10はかなりの高出力型である。
たしか500mVで、負荷インピーダンスは500Ωとなっていた。
SDT10の出力電力は0.5mWとなる。

桁違いの出力電力の大きさである。
SPU-Synergyにしてもマイソニックの一連のカートリッジにしても、単位はnW(ナノワット)だった。
SDT10はmW(ミリワット)である。

オルトフォンのSPU-Synergyよりも、マイソニックのカートリッジよりも圧倒的に高い出力電力ではあるが、
オルトフォン、マイソニックのカートリッジが磁界中のコイルを動かして発電しているのに対し、
SDT10は発電をして、これだけの高出力電力を得ているわけではない。
あくまでも外付けの電源から供給されるバイアスを変調させているのだから。

とはいうものの、イコライザーアンプも原則として必要としない振幅比例型で、
しかも高出力ということでライン入力、ボリュウムつきならばパワーアンプに直結もできる。

SDT10は出力の高さから高効率といえるけれど、発電という意味ではない。
同じ高効率でも発電しての高効率との音の出方の違い、表現の違いがあるのかどうか。
そして高効率ということに共通する良さが、SDT10にもあるのかどうか──、
こうやって書いていると、一度でいいから聴きたいという気持はますます強くなってくる。

Date: 10月 13th, 2013
Cate: 数字

100という数字(補足)

MC型カートリッジで、出力電力が100nWを超えているのはオルトフォンのSPU-Synergyであり、
その出力電力の高さを超えるものは現れないだろう、と書いた後に、
マイソニックのカートリッジの存在を忘れていたことに気づいた。

マイソニックのMC型カートリッジは、
Webサイトのトップページ
「Source(ソース)インピーダンスは低く、出力エネルギーは高く!」と表示されているように、
どのモデルもインピーダンスは確かに低く、出力電圧を二乗して、インピーダンスで割った値は100nWに達する。
出力電力の高いMC型カートリッジばかりである。

マイソニックのことを忘れていたのは、うっかりでもあるし、
マイソニックのカートリッジを聴く機会がなかったこともある。

オルトフォンのカートリッジは、私にとって最初のMC型はMC20MKIIだったし、
その後もいくつものオルトフォンのカートリッジは聴く機会があった。
いわば馴染みのあるカートリッジのブランドであり、存在だから、
カートリッジに関することを書く時でも、すぐに頭に浮んでくる。

マイソニックのことを忘れていた(というよりも頭になかった)のは、そのためである。

マイソニックのカートリッジ、
どういう音を聴かせるカートリッジなのだろうか。

Date: 10月 12th, 2013
Cate: 数字

100という数字(その4)

SPU-Synergyは磁気回路にネオジウムマグネットを採用している。

実は、この点もSPUシリーズの乱発とともに気にくわなかったところでもある。
ネオジウムマグネットが強力であることは、
スピーカーユニットに搭載されていることでも知ってはいても、
なんとなく「ネオジウムマグネットは優れた磁石です」という謳い文句を素直に信じられない。

どんな物質にもメリット・デメリットがあるわけだから、
ネオジウムマグネットの良いところばかり喧伝されているのを目にしてしまうと、
なんとなく眉に唾をつけてしまいたくなるところがないわけではない。

そんなわけで、SPU-Synergyの出力電力を計算してみたのは、
登場から一年以上は経っていた、もっとだったかもしれない。

0.5mVの二乗を2Ωで割る。
その値は125nWとなる。

出力電力100nWを超えるカートリッジが、オルトフォンから登場した。
しかもSPUシリーズの中からである。

99nWではなく100nWをはっきりと超えているどころか、
SPUの41.66nWの三倍以上の出力電力という高効率である。

電卓があれば数秒で終る計算なのに、SPU-Synergyが登場した時にやらなかった。
計算していれば、SPU-Synergyに対する見方もずいぶん変っていた。
登場時に気づけたはずのことを、一年以上経ってから気がつく。
何事も先入観はよくない──、このことをあらためて思い知らされた。

今後も、この100nWを超える出力電力は破られないだろう。

SPU-Synergyは、幸いいまも現役のSPUである。
まだまだこれから先も、SPU-Classicとともにずっと作り続けてほしいSPUであるし、
JBLのD130のパートナーとして考えているカートリッジが、このSPU-Synergyである。

高効率同士の変換器の組合せから得られる「音」がきっとあるはずだと信じているからだ。

Date: 10月 12th, 2013
Cate: 数字

100という数字(その3)

オルトフォンのSPUは、MC型カートリッジの中でも出力電圧は低い部類となる。
けれど出力電力となると、一転して非常に高い、といえる。

ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIESの2号に長島先生が、
カートリッジの出力電力について書かれた文章を読んでから、ずっと望んでいたことがある。
それは出力電力がSPUの二倍以上の100nWを超えるモノが登場することである。

出力電力の計算は難しいものではないから、
出力電圧がある程度高くて、インピーダンスが低いMC型カートリッジが出てきた時には計算していた。
なかなか100nWに達するモノは出てこないばかりか、
SPUに匹敵するカートリッジすら、そう多くはない、というのが実情だった。

出力電力100nWに達する(超える)カートリッジは、望めないのか……。
そのことを忘れかけていたころ(2006年)に、
オルトフォンからSPU-Synergyが登場した。

数あるオーディオ機器のなかで最も息の長いSPUだが、
SPU-Goldの登場以降、実に様々なSPUが登場した。

SPUには関心の高かった私だったが、さすがにそれは乱発としか思えなかったし、
SPU-Classicを製造しつづけてくれれば、それで充分だ、と思い始めていた。

そんなふうにSPUを見ていた時に、SPU-Synergyは登場した。
SPUとしては、過去最大の出力電圧0.5mVを実現していながらも、インピーダンスは2Ωである。
すぐに計算していれば気がついたことなのに、
この時はそんな感じだったため、計算することをしなかったばかりか、
SPU-Synergyにさほど興味を抱くこともなかった。

Date: 10月 12th, 2013
Cate: 数字

100という数字(その2)

数字はおもしろいし、やっかいだとも思う。
100という数字にしても、
100dB/W/mと99dB/W/mとのあいだに歴然とした差が存在するわけではない。
そんなことは頭ではわかっていても、心情的・感覚的には99dBよりも100dBは、
はっきりと大きな数字として印象に残る。

重量にしてもそんなところがある。
スピーカーシステムの重量として、99kgと100kgと表示されているのがあれば、
100kgの方が実際に重いわけなのだが、それ以上の開きを感じることもある。

実際に持ち上げようとしてみて、99kgと100kgの違いをはっきりと感じとれるわけはないだろう。
それでも、桁がひとつ増える100という数字は、単なる数字とは割り切れない何かを感じている。

100という数字が、そんなふうに作用するカタログ上の項目では、他にはS/N比がある。
私が、ひとつ100という数字に注目している項目に、カートリッジの出力電力がある。

出力電圧はカタログに載っているが、出力電力はまず載っていない。
だから出力電圧とインピーダンスから算出することになる。

カートリッジの出力電力については、別項でふれている。
出力電圧の二乗を負荷インピーダンスで割った値が出力電力となる。

出力電圧が高いMM型は、出力電力ではMC型よりもずっと低くなる。
MC型でもハイインピーダンス型よりもローインピーダンス型の方が、
電力ということに関しては有利になることが多い。

別項で例にあげているオルトフォンのSPUだと、41.66nWとなる。
シュアーのV15 TypeIIIの出力電力は0.2606nWと、かなり低い。

Date: 10月 12th, 2013
Cate: 数字

100という数字(その1)

このへんは世代によって違うのかもしれないし、
同世代でも私と同じような印象を持っている人が多いのかそれとも少ないのか、
はっきりとはわからないものの、
少なくとも私は、カタログに載る項目で、100という数字、もくしは100を超える数字を見つけると、
なんとなく嬉しくなる気持がある。

たとえばスピーカーの出力音圧レベル。
いまや90dB/W/mでも、比較的能率が高いと認識されているけれど、
やはり私にとっての高能率スピーカーといえば、出力音圧レベルが100dBを超えているモノである。

99dBでも、充分高能率ではある。
100dBと99dBの差はわずか1dB。
99dBでも、ほとんど100dBといってもいい、とは私だって思っている。

それでも、やはり99dBと100dBの、わずか1dBの差は決して小さくはない差である。

100dB/W/mというのは、
なにかひとつレベルを超えた、という感じもあるし、
ひとつの境界線という印象も持っている。

100という値は、パワーアンプの出力に関しても、同じ印象を持っている。
いまでこそ、以前では考えられなかった大出力が安価で、しかも安定性も高く得られる状況からすれば、
100Wの出力は、決して大きくはない。

これに関してはスピーカーの出力音圧レベルとは反対の状況にあるわけだが、
そうであっても、プリメインアンプの出力が100W+100Wを超えていると、
少なくとも1970年代後半からオーディオをやっている者にとっては、やはり大出力の実現であった。

パワーアンプでは100Wを超える出力をもつモノは一般的になっていたけれど、
A級動作で100Wを実現、もしくは超えた出力をもつアンプが登場した時は、
ついにA級動作でも100W、という感慨に近いものがあった。

Date: 3月 20th, 2013
Cate: 数字

数字からの解放(その4)

マーク・レヴィンソンは、LNP2、JC2をよりよいアンプとして完成へと近づけていくために、
常に改良を加えていたことは、よく知られている。

型番こそLEMO製のコネクターを採用した時点で、末尾に「L」がつけられるようになったぐらい。
しかも、これは日本市場だけの型番の変更であり、並行輸入対策でもあった。
アメリカや他の国で売られていたLNP2、JC2などは末尾に「L」はついていない。

マークレビンソンのアンプが、他のメーカーのような型番のつけ方をもしやっていたとしたら、
LNP2は、MK5とかMK6でも足りずに、もしかするとMK10ぐらいまでいっていたのかもれない。

そこまで改良が加えられてきたLNP2、
マーク・レヴィンソンはひとつひとつ使用部品の音を丹念に聴き分けていっていた、という。
このレベルになると、測定結果には違いは出ない、といっていい。

トランジスターを互換性のある別の品種のものに換えれば、
わずかとはいえ測定結果に違いは出る。
けれどどこか一箇所のコンデンサーなり抵抗を交換したとき、
音はわずかではあっても確実に変化する。けれどおそらく、このときの音の違いは測定結果としてあらわれない。

もしかすると最初のうち、マーク・レヴィンソンは部品を交換しては測定をしていたのかもしれない。
けれど、どんなに精密な測定を行ったとしても違いが出てこない。
それで音が変らなければそこで済んでしまうことなのだが、
そこに少しでも音の変化があれば、無視できない。

部品を交換しては音を聴き、判断する。
そしてまた部品を交換し……。
こういうことを何度も何度もくり返し、ひとつのアンプを洗練させていく。

この気の遠くなるような行為が、マーク・レヴィンソンを数字から解放したのかもしれない。

Date: 1月 22nd, 2013
Cate: 数字

数字からの解放(その3)

マーク・レヴィンソンは、とにもかくにもマークレビンソン・ブランドで出すアンプのスペックに関しては、
最少限の項目(入力インピーダンス、出力、消費電力など)のみの発表にしてしまった。

だからといって測定を行なっていないわけではない。
このころのマークレビンソンのアンプはモジュール形式を採用していたから、
おそらくモジュールができ上がった時点で、一個ずつ測定しチェックしていただろうし、
さらにLNP2、JC2といったアンプとして完成させた時点でも、
不備や異状がないかを測定してチェックしていたであろうことは間違いないはず。

それにアンプの開発においても測定はしていた、と思う。
けれど、それらの測定データ(歪率、S/N比など)はいっさい公表しなくなった。
マーク・レヴィンソンが次に興したチェロにおいても、そういえば使用上必要な項目のみだった。

これは、思い切ったことだと思う。
LNP2やJC2の入出力端子を、一般的でもあり標準的なRCAタイプから、
CAMAC規格のLEMO製のコネクターに全面的に変更したときも、やはり思い切ったことであった。

RCAコネクターをやめ、それまでどこのメーカーも採用したことのないコネクターを採用するということは、
他のメーカーのオーディオ機器といっしょに使う場合には、
コネクターの変換プラグが必要となる。
それにマークレビンソンが採用したCAMAC規格のコネクターは線径の太いケーブルは使えない。
頼りないと感じるくらいの細いシールド線しか使えなかった。

いくつもの制約がありながらも、
マーク・レヴィンソンがCAMAC規格のコネクターの採用に踏み切ったのは、
コネクターにおける信頼性の圧倒的な向上であり、音質的なメリットであったはず。

この時代のマーク・レヴィンソンという男は、そういう人物であった。
(Mark Levinsonのカタカナ表記については、こちらを参照のこと)

Date: 1月 21st, 2013
Cate: 数字

数字からの解放(その2)

アメリカは比較広告の社会であるから、
マークレビンソンの成功に刺戟され、雨後の筍のように登場したガレージメーカーの多くは、
広告において、「マークレビンソンと比較して……」という謳い文句を使っていた、ときいている。

マークレビンソンの当時のアンプはLNP2にしろ、JC2にしろ非常に高価なコントロールアンプだった。
マークレビンソン以降登場したアンプメーカーのほとんどは、
価格の面ではマークレビンソンのアンプよりも安価だった。

JC2とほぼ同価格のアンプはあっても、LNP2と同価格のアンプは、思い出そうとしても浮んでこない。
そういう、LNP2よりも安価なアンプが広告で「マークレビンソンと比較して……」をやる。

当然、そこにはマークレビンソンのアンプのスペックよりも優秀な値が並んでいたはず。

広告から音は聴こえてこない。
だからこそ広告では、もっとも比較しやすい数字を提示する。
これだけの高性能を実現しています、
けれどマークレビンソンのアンプよりもずっと安価です、
こんな広告がいくつも登場するようになっては、マーク・レヴィンソンのプライドはどうなっていっただろうか──。

ステレオサウンド 47号掲載のR.F.エンタープライゼスの広告を読んでから1年ほど経ったころ、
そんなことを私は考えていた。

マーク・レヴィンソンが、R.F.エンタープライゼスの広告で語っていたことは本心から、だとは思っている。
でも、それだけはなかったのではないか、とも思う。

あのころのLNP2、JC2はマーク・レヴィンソンの分身でもあったように思う。
そうだとしたら、レヴィンソンにとって、スペック上の数字とはいえ、
自分の分身よりも優秀な値を示すアンプがいくつも登場してきたことを認めたくなかった……。

そういう気持が皆無だったとは思えないのだ。

Date: 1月 18th, 2013
Cate: 数字

数字からの解放(その1)

マーク・レヴィンソンは1977年にパワーアンプのML2を発表したときに、
実際の使用にあたって必要となる基本的な項目──、
入力インピーダンス、電源電圧と消費電力、外形寸法と重量、こういった項目以外の、
たとえば周波数特性、混変調歪率、高調波歪率、S/N比などの表示を行わない、と明言している。

このことはステレオサウンド 47号に掲載されている、
当時のマークレビンソンの輸入元であったR.F.エンタープライゼスの広告が詳しい。

レヴィンソンは、その理由として、
「10年も20年も前に作られた製品の中に、現在のすばらしい〝特性〟を誇る優秀製品のあるものに比べても、
音楽をきいたとき、ずっと楽しめるものがすくなくない」ことをまず挙げ、
「こうした測定によって得られた数値から、われわれはいったい何を知ることができるのだろうか」
と続けている。

さらに
「最も重要な問題は、これらの〝特性〟のうち何が、肝心の音の良し悪しを明確に示してくれるか、ということだ。
答えは、『どれも、それを示すものはない』である。これはまことに、いらだたしくもあり、
厄介千万なことだけれども、しかし、これが事の真相だ。」
と語っている。

47号は1978年6月に出ているから、47号を読んだ時、私は15歳。
素直に、マーク・レヴィンソンが語る言葉を信じていた……。