300(その11)
ステレオサウンドで働いていたときは、もっと大出力のアンプを聴く機会は、
何度となくあった。
500W、600Wが、特に際立った出力の大きさとは感じなくなっていた。
私がいたころは1kWを超えるアンプはなかった。
そのころ聴いていれば、これが1kWのアンプか、と思ったりしただろうが。
1980年代は300Wの出力は、もちろん大出力ではあったけれど、
特別な数字ではなくなりつつあった時代だ。
ふりかえってみると、私が自分で鳴らしてきたアンプで、
もっとも出力が大きかったのは、SUMOのThe Goldの125W+125Wだった。
The GoldはA級動作ゆえの125Wであって、
同規模でAB級動作のThe Powerは、400W+400Wだった。
規模的・物力的には300W超えといえる内容のアンプであったといえても、
実際の出力は125W+125Wである。
今回、私のところにやって来たSAEのMark 2500の300W+300Wが、
最高出力のアンプとなる。
300Wという出力の本領発揮といえるほどの出力を出せる環境なのかといえば、
決してそうではない。
以前から、アンプの出力はどれほど必要なのか、という論争がある。
100Wですら大きすぎる。10Wの程度の良質な出力のアンプがあればいい、という意見もあれば、
質が低下しなければパワーは大きいほどいい、という意見もある。
オーディオ・コンポーネントにおけるパワーアンプは、心臓といえる。
心臓から繰り出されるのは、いわばパルスである。
パワーアンプにおける(出力というより)パワーの違いは、
この心臓の力強さの違いともいえる。
10W程度の出力でことたりる、という人のなかには、
100dB/W/m以上の高効率のスピーカーを鳴らされている人もいるわけで、
確かにそういう人にとって、数百Wの出力は無用の長物だろうが、
そうでないスピーカーを鳴らしていて、そんな出力は……、といっている人のどれだけが、
ほんとうの意味でのハイパワーアンプが鳴らす音とエネルギーを体験しているのだろうか。