Archive for category 菅野沖彦

Date: 1月 25th, 2017
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のスピーカーのこと(その16)

この項の(その1)を書いたのは、2008年9月だから、
このブログを始めたばかりのころである。
少し時間をかけすぎた、と反省している。

「菅野沖彦氏のスピーカーのこと」というタイトルで書こうと思ったのは、
そのころよく「菅野先生の音は、どういう音なんですか」と訊かれていたからだ。

できるかぎりの説明はするものの、それだけで伝わっているとは思っていない。
菅野先生の音を想像する、それも正しく想像するのに、何かきっかけとなる音、
それも聴こうと思えば、多くの人が聴ける音として、何があるだろうか、と考えた。

浮んだのは、B&OのスピーカーシステムBeolab 5である。
2008年の段階で XRT20は製造中止になって久しいし、
マッキントッシュのラインナップからXRT20の後継機といえるモデルはなかった。

JBLの375を中心としたシステムは、
JBLのスピーカーシステムのラインナップに近いモノはない。

ジャーマン・フィジックスのDDD型を中心としたシステムに関しても、同じだ。

でも、これら三組のスピーカーに共通する要素を考え、抽出し、
その要素を備えているスピーカーシステムとなると、Beolab 5ということになる。

だから、「菅野先生の音は、どういう音なんですか」と訊ねてきた人に対して、
全員ではないけれど、何人かにはBeolab 5を聴いてみることをすすめた。

Date: 9月 11th, 2016
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のスピーカーのこと(その15)

スピーカーユニットを多数使うことに、別に懐疑的ではない。
けれど、若いころは、それこそ絶対的にスピーカーユニットは並列接続すべきだと考えていた。

そう思いこんでいたのは、振動板はピストニックモーションが理想であり、
振動板がピストニックモーションであれば、
その振動板が鳴らす空気もピストニックモーションである──、
そう考えていたからでもあった。

けれどピストニックモーションの幻想から一歩離れてしまえば、
振動板のピストニックモーション・イコール・空気のピストニックモーションではないことは、
容易に想像がつく。

けれど、その一歩離れることが、なかなか難しかったし、
そのきっかけとなったのが、私の場合、(その14)で書いているように1996年、
NTXスピーカーの登場まで俟たなければならなかった。

ピストニックモーションこそが……、という思いこみは、
XRT20を眺めたときに、24個のトゥイーターを並列接続にすべき、と見てしまっていたし、
XRT20以前のスピーカー、BOSEの901に関して、同じに見てしまっていた。

901は10cm口径のフルレンジユニットを9発使っている。
使用されているスピーカーユニットのインピーダンスは0.9Ω。
9発すべてを直列接続しているから、0.9×9=8.1Ωとなる。

901の存在を知ったとき、おもしろいスピーカーと思いながらも、
私だったら、絶対的に並列接続するのに、その方が絶対音は良くなるのに……、
不遜にもそう捉えてしまっていた。

振動板を動かすことと空気を動かすことは、同じではない。

Date: 12月 1st, 2015
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のスピーカーのこと(その14)

NTXシステムの振動板の様子を捉えた写真を見て、
ゴードン・ガウがXRT20のトゥイーターコラムで実現しようとしていたことは、
こういうことなのか、と思った。

XRT20は日本では1981年から販売されている。
けれどアメリカでは1980年から市場に出ていたし、
実のところ日本にもそのころ輸入されていたにも関わらず、そのころの輸入元の判断で、
日本市場では売れない、ということでずっと保管されたままだった。

ステレオサウンドにXRT20が登場したのは59号。
新製品紹介のページで菅野先生が書かれている。
     *
ここに御紹介するXRT20という製品は、同社の最新最高のシステムであるが、すでに昨1980年1月には商品として発売さていたものなのだ。したがって、いまさら新製品というには1年以上経た旧聞に属することになるのだが、不思議なことに日本には今まで紹介されていなかったのである。1年以上も日本の輸入元で寝かされていたというのだから驚き呆れる。
     *
この記事はカラーページだった。
59号を持っている方は、もう一度写真を見直してほしい。
XRT20のウーファーセクションのエンクロージュアの下部が、どうみても新品とは思えない状態になっている。

輸入元で保管といっても、あまりいい状態での保管ではなかったようだ。
空調のきいたところで保管されていたのであれば、エンクロージュアの下部はこんなにはならない。

XRT20はヴォイシングを必要とするスピーカーシステムだったし、
トゥイーターコラムもウーファーセクションのエンクロージュアも壁につけて使うことが前提となる。
いわば制約の多い製品といえる。

こういうモノは売りにくい、売れない、と当時の輸入元が判断したのは、
XRT20というスピーカーシステムを正しく理解していなかったともいえる。

でも、どれだけの人がXRT20を正しく理解していたといえるだろうか。
XRT20を購入した人だから、XRT20を正しく理解しているとはいえない。
それがいい音で鳴っていたとしても、XRT20の理解とは別のところで鳴っているわけである。

オーディオで仕事をしていない人ならば、私はそれでいいと思っている。
正しく理解したからといって、いい音で鳴らせるとは限らないからだ。

ただオーディオの仕事をしている人は、それでは困る。
私は、一度XRT20を一般的なスピーカーと同じようにフリースタンディングで鳴らして、
こう鳴らす方がいい音でしょう、と誇らしげに語った人を知っている。
ここにも、おさなオーディオがある。

この人のスピーカーの理解はこんなものか、と思ってしまった。
とはいうものの、そのころの私も、この人よりはXRT20を理解していたとはいえるが、
ほんとうに正しく理解していたとはいえない。

なぜゴードン・ガウは、トゥイーターコラムを試作品段階で試したコンデンサー型としなかったのか、
なぜハードドーム型ではなくソフトドーム型にしたのか、
24個のトゥイーターを、なぜ、あんなふうに配線しているのか……。

いくつかの疑問があって、その答を見出せずにいた。
1996年までそうだった。

Date: 8月 10th, 2013
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のスピーカーのこと(その13)

1996年12月に発売になったラジオ技術 1997年1月号には、ある特殊なスピーカーのことが記事になっていた。
記事のタイトルは、
 イギリスからやって来たスピーカの革命児
 〝曲げ振動〟を制御するNXTシステムとは
である。

4ページのインタヴュー記事で、
まず、このNTXシステムを完成させたイギリスのヴェリティ(Verity)研究所であり、
このNTXシステムを普及させるためにつくられた会社、New Transducers Ltd、
この会社の副会長ノーマン・クロッカー、技術担当重役ヘンリー・アズマ両氏が登場する。

記事の最初に登場する図は、
QUAD ESL63の振動板の様子を捉えたもの、
その下にはNTXシステムの振動板の様子を捉えたものが載っている。

ESL63はご存知の通り中高域以上に関しては、
同心円状に電極を配置し、それぞれの電極に異る時間差を与えることで、
疑似的な球面波を実現したものである。

ESL63の図はきれいな波紋ができている。
一方のNTXシステムは、いくつもの山谷がランダムにできている。
しかも山の高さ、谷の深さは均一ではなくバラバラである。

何の説明もなく、この二枚の図を見せられたら、
NTXシステムのほうは、分割振動を捉えたものと勘違いしそうになる。

Date: 8月 10th, 2013
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のスピーカーのこと(その12)

そんなソフトドーム型トゥイーターを、マッキントッシュのXRT20は片チャンネルに24個使っている。
ピストニックモーションこそが全てだ、と考えている人にとっては、
XRT20というスピーカーシステムは、なぜ、こんなふうに設計したのか、理解できないだろうし、
評価の対象にもはいってこないのではなかろうか。

事実、口汚く否定的なことを言う人を知っている。
その人には、その人なりの理想のスピーカー像というのが確固としてあって、
その理想像という基準からみれば、XRT20はどうしようもないスピーカーシステムということになるのだろう。

けれど自分の中にあるスピーカーの理想像だけが、評価の基準として存在しているわけではない。
別項で書いているように、ラジオ技術のトーンアームの評価に、
長岡鉄男氏は、テクニクスのEPA100を基準とすればRS-A1はダメだし、
反対にRS-A1を基準にすればEPA100がダメということになる、と発言されるように、
たったひとつの基準──それは往々にしてひとりよがりに陥りがちである──、
それだけでオーディオを捉えてしまうことの怖さと愚かさを、
XRT20を認めない人は気がついていないのかもしれない。

とにかくXRT20はソフトドーム型トゥイーターを24個使っている。
しかも24個のトゥイーターの配線は、24個すべてが同一条件になるようにはなされていない。

ピストニックモーションの正確さをどこまでも求めるのであれば、
スピーカーユニットを複数個使う場合には、すべてのユニットは並列接続が原則となる。
それもできることならそれぞれのユニットへの配線の長さも等しくしたい、ということになる。

ところがXRT20の24個のトゥイーターは直列と並列接続の両方がなされているし、
インピーダンスを合せるために抵抗も挿入されている。

ソフトドーム型トゥイーターの多数使用ととともに、この点を絡めて、
だからXRT20は……、と否定的なことをいうのは難しいことではない。

けれど、実はここにこそXRT20でゴードン・ガウが実現したかったものが隠れている、
ということに私は1996年12月にやっと気がつくことができた。

Date: 8月 10th, 2013
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のスピーカーのこと(その11)

振動板がピストニックモーションからはずれて、脹らんだり縮んだりするのであれば、
逆のこの現象を積極的に利用すれば、ソフトドーム型は呼吸体のような発音方式になるのではないか、
そんなことを考えたこともある。

そのためには伸縮性に富む柔らかい素材でなければならないし、
実際に振動板と磁気回路との間の空間の空気圧の影響を逆手にとることがそううまく行くとは思えない。
でも、ひとつの可能性として、ソフトドーム型だから、それも口径の小さなトゥイーターであれば、
呼吸体の実現も考えられないことではないはずだ。

私が考えつくことだから、誰かがすでに考えていたのではないか、と調べてみれば、
ビクターのSX3のトゥイーターが、まさにそうだった。
40年も前に出ていたわけだ。

当時のSX3の広告をみれば、このことについて触れてあるし、測定結果も載っている。
だからといって、トゥイーターが受け持つすべての帯域において、
ビクターが広告で謳っているとおりに動作しているわけではない、とも考えられる。
それでも振動板を正確に前後に振動させるというピストニックモーションにだけとらわれることなく、
音を出すということを捉え直したビクターのスピーカー・エンジニアリングは高く評価したい。

そして思うのは、同じドーム型の振動板をもつとはいえ、
ソフトドームとハードドームとでは、振動板そのもののモードを考えると、
まったく同じには捉えることはできないものということである。

Date: 8月 10th, 2013
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のスピーカーについて(その10)

マッキントッシュのスピーカーシステム、XRT20を特徴づけている24個のトゥイーター・コラム、
ここに搭載されているのはソフトドーム型ユニットである。

ソフトドーム型ユニットの振動板は、柔らかい素材を使っている。
ドーム型ユニットの構造として、ドーム状の振動板の後方には磁気回路がある。
振動板と磁気回路の間にある空間は、それほど大きなものではない。

つまりこのことは振動板の変形につながっていく。
長島先生から以前きいているし、
ステレオサウンド 111号で、
イギリスのATCのウィリアム・グッドマンにインタヴューされている長島先生の記事でも語られている。
     *
ソフトドーム型ユニットは、ボイスコイルが引っ込んだときに中の空気圧が上がってドームが脹らみ、プラスの音圧が出る。逆にボイスコイルが前へ出たときは、ドームがへっこむわけです。普通、振動板は弾力性があるため、ボイスコイルと空気圧の変移に対してヒステリシスを持つことが多いのです。これがおそらく、いわゆるソフトドームの音を決定づけているのではないかと思うのです。
     *
振動板後方の磁気回路に空気圧を一定にするための逃げ道(孔)を開けるという手法もあるが、
ソフトドーム型ユニットの振動板の動きは、ピストニックモーションの追求には不向きといえよう。

ボイスコイルにプラスの信号が加わるとボイスコイルは前に出る。
ピストニックモーションのユニットであれば、振動板も前に動く。
けれどソフトドーム型ユニットでは振動板とドームとの間に空間が拡がろうとするために、
空気孔がなければ空気圧は低下して、柔らかい振動板であれば内側に向けて変形することは考えられる。

反対にマイナスの信号が加われば後に動こうとするわけで、その空間は縮まろうとするため、
空気圧は増し、振動板は膨れることになる。

Date: 1月 15th, 2013
Cate: 菅野沖彦

嬉しい知らせ

月に一二度はステレオサウンドのサイトにアクセスしている。
今年になって、今日最初のアクセスだった。
HEADLINEを溯ってみていると、「ステレオサウンド編集部より新年のご挨拶」というページがある。

ここに嬉しい知らせがある。
「3月1日発売の186号では、いよいよ待望のあの方が誌面に戻ってくる予定です。」

これ以上の情報はなにもないけれど、
待望のあの方は、やはり、ひとりだけである。
そう思って3月1日の発売日を待っていて、いいと思う。

Date: 11月 30th, 2012
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のスピーカーについて(コメントを読んで)

昨晩書いた「菅野沖彦氏のスピーカーについて(その9)」にコメントがあった。

EddieMunsterさんのコメントは、こうだった。
「JBLとマッキンは同じ穴の狢と感じているのは私だけ^^;」

1行だけのコメントで、EddieMunsterさんがどういう方なのか、私はまったくわからないし、
EddieMunsterさんのコメントにあるJBLとマッキントッシュが指しているのは、
昨晩私が書いたDD55000とXRT18(XRT20)のことなのか、
それとももっと広くJBLのスピーカーシステム、
マッキントッシュのスピーカーシステムすべてを含むのかもわからない。

それにコメントの最後に、顔文字(それも汗を書いている)がついていて、
このコメントを、どう受け取ったらいいものかと、すこし考え込んでしまった。
EddieMunsterさんのコメントを読んでおもったことを書いてみたい。
とりとめのない文章になっていくだろうが……。

「同じ穴の狢」とある。
これの意味は、関係のないようにみえても、実は同類・仲間であること、と辞書には載っているし、
「同じ穴の狢」が使われるときは、いい意味ではなく悪い意味でのことが圧倒的に多い。
なのでEddieMunsterさんも、悪い意味で使われていると仮定して書いていく。

ということは、EddieMunsterさんにとって、
JBLもマッキントッシュのスピーカーも、どうでもいい音のスピーカーということになる。
だとしたら、EddieMunsterさんにとっては、
それが表現(XRTシリーズ)であっても、忠実な変換機(JBLのスピーカー)であっても、
どうでもいい、ということになるのだろう……(ここもはっきりとはわからない)。

EddieMunsterさんにとって、JBL、マッキントッシュよりも、音楽を聴く上でずっと信頼できる、
いい音と思えるスピーカーが、なにかあって、
そのスピーカーとの比較においては、JBLとマッキントッシュも「同じ穴の狢」ということなんだろう、
と勝手に思っている。

そのスピーカーがなんなのかでもわかれば、
EddieMunsterさんが「同じ穴の狢」という表現をつかわれた意図も少しははっきりしてくるのだが、
EddieMunsterさんがどういう人で、どういう音楽を好み、どういう音を鳴らされているのか、
そのために使われているスピーカーがなんなのか、はまったくわからない。

わからないから、もしかするとヨーロッパのスピーカーを愛用されている人もかもしれない、
ハイエンドスピーカーと呼ばれているモデルを使われているのかもしれない、
他にもいくつも考えられるが、考えたところで、何かがいまのところ返ってくるわけではない。

JBLのエンジニアは「忠実な変換機」をつくっている、といっている。
忠実な変換機としてのスピーカーは、技術が進歩していくことによって、
その時点時点では忠実な変換機であっても、
いずれその忠実度は、新しいスピーカーの忠実度よりも劣ることになる。

前の世代が超えられなかった壁を、後の世代にとってはそれは壁ではなくなっている、
そういうことだってある。
けれどスピーカーは、前の世代のものであっても、後の世代のものであって、
いまだ完璧というにはほぼ遠いところにある。

後の世代が出し得ない音を、前の世代はたやすく出していることもある。
そういう例は長くオーディオをやっている人ならば、実感されているはず。
だから、ここではあえて旧い世代とはいわず前の世代としたし、
新しい世代とはせず後の世代とした。

スピーカーがいまの形態(原理、構成など含めて)のままでいるかぎり、
画期的な発明がスピーカーにおいてなされて、スピーカーの能力が飛躍的に向上し、
前の世代のスピーカーだけでなく、
いまの世代のスピーカーをふくめてすべてを旧い世代といってしまう日もいつかはくるだろう。
でもそれまでは、いまあるスピーカーすべて「同じ穴の狢」なのではなかろうか。

Date: 11月 29th, 2012
Cate: 菅野沖彦
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菅野沖彦氏のスピーカーについて(その9)

私にとってマッキントッシュのXRTシリーズのスピーカーシステムといえば、
XRT20とXRT18だけ、ともいえる。

その2機種の後に型番にXRTのつくスピーカーシステムはいくつも登場しているから、
それらも当然マッキントッシュのXRTシリーズのスピーカーの範疇に含まれるといえば、
たしかにそうであるけれど、個人的にはXRTシリーズのもつ特色が色濃く音に反映しているのは、
XRT20とXRT18であり、XRT26、XRT25は形こそXRTシリーズではあるものの、
何かが変ってきてしまったようにも感じてしまう。

XRT20、XRT18とXRT26、XRT25のあいだに登場したXRT22は、
XRT20の後継機といえばそういえなくもないのだけれど、
私としては、なんとなくふたつのXRTシリーズの境界線付近に位置するモデルのようにも見えてしまう。

なぜ、そう感じてしまうのか。

XRT18は、ステレオサウンド 77号(特集はComponents Of The Year)で、
JBLのDD55000、ダイヤトーンのDS10000とともに、ゴールデンサウンド賞に選ばれている。

その座談会で、菅野先生の発言がじつに興味深い。
     *
これはJBLのエンジニアが言った言葉なのですが、マッキントッシュのスピーカーはマッキントッシュの『表現』であると。それに対して我々(JBL)は、忠実な変換機をつくっている、と言うんです。これはある面とても当たっていると思うんです。ですから、マッキントッシュは、自分たちの表現したい方法が見つかれば、変換機としてのオーソドックスなセオリーから外れたとしても、積極的に採用していくという姿勢でしょう。その点で、JBL等の歴史の長いスピーカー専業メーカーとは体質がまったく違う。
(山中先生の発言をはさんで)
ものとしての存在感はJBLの方につよく感じて、マッキントッシュにはものとしての存在よりも、その音の世界の存在を感じますね。
XRT18だと各ユニットの存在は、そのスピーカーの中にある。けれど、JBLはユニットの存在感が強烈にあって、スピーカー全体も大きな存在になっている。それにしてもJBLの人間はうまい表現をしたと思う。
     *
菅野先生も最後にいわれているように、
JBLのエンジニアの、
マッキントッシュにはスピーカーはマッキントッシュの「表現」、
JBLは忠実な変換機をつくっている、は,まさにそのとおりだと思う。

XRT20、XRT18はマッキントッシュの見事な表現であり、
そこのところにおいて、XRT26、XRT25はそこから忠実な変換機でもあろうとし、
マッキントッシュの「表現」に不徹底なところが出てきてしまった……、
そんなふうに私は解釈してしまう。

Date: 4月 13th, 2012
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のスピーカーについて(その8)

現在日本に輸入されているマッキントッシュのスピーカーシステムは、
XRT2K、XRT1K、XR200の3機種で、菅野先生が愛用されているXRT20とはずいぶん違った形になってしまった。

XRT20と型番上は同じXRTシリーズということになるのだろうが、XRT20と現在のXRT2K、1Kの共通点は、
トゥイーターの使用個数が近い、ということぐらいだと私は思う。
そのトゥイーターもXRT20はソフトドームを採用していた。
初期のXRT20はフィリップス製のソフトドーム型だったが、
事情により比較的早い時期からフィリップス製ではなくなっている(と聞いている)。

現在のXRT2K、1Kに使われているトゥイーターはチタン・ダイアフラムのハードドーム型である。

マッキントッシュのXRTシリーズを、
単にトゥイーターを多数使用したスピーカーシステムぐらいにしか捉えられない人にとっては、
ソフトドーム型だろうとハードドーム型だろうと、大きな違いはない、と考えるだろう。
けれど、ゴードン・ガウが、あえてソフトドーム型トゥイーターを24個使うことで実現したものは、
いったいなんだったのかを考えてみると、ハードドームかソフトドームかの違いは、
XRTシリーズの特徴的なトゥイーター・コラムの変えてしまう、とさえ思っている。

同じドーム型振動板をもつトゥイーターでも、
振動板が金属を使った硬い振動板のハードドーム型と樹脂系や布などの柔らかい素材のソフトドームでは、
振動板の動き・挙動はまったく同じとはいえない。
コーン型ユニットでも紙の振動板もあれば金属の振動板のユニットがあるけれど、
コーン型における振動板の素材の違いによる動作・挙動の違いは、
ドーム型における動作・挙動の違いに比べれば小さい、と考えられるのは、ユニットそのものの構造からくる。

Date: 3月 24th, 2011
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のスピーカーについて(その7)

振動板のピストニックモーションということでいえば、コンデンサー型スピーカーもより理想に近い。
ゴードン・ガウはXRT20の開発過程で、コンデンサー型によるトゥイーター・コラムを試した、とのこと。

コンデンサー型は基本的には平面振動板だから、そのままでは平面波が生じる。
XRT20のトゥイーター・コラムが目指したシリンドリカルウェーヴには、そのままではならない。
けれど、ビバリッジのSystem2SW-1は、これを実現している。

System2SW-1はステレオサウンド 50号に登場している。
XRT20は60号。ビバリッジのほうが先に出ている。
しかもSystem2SW-1の前の機種でもビバリッジはシリンドリカルウェーブを実現しているから、
ゴードン・ガウが、ビバリッジのこの手法について全く知らなかったということは、可能性はしては小さい。

シリンドリカルウェーブということにだけでみれば、ビバリッジの手法のほうが、
XRT20のソフトドーム型トゥイーターを多数使用するよりも、ずっとスマートだし、理想には近い。

けれどXRT20のトゥイーター・コラムはコンデンサー型の採用をあきらめている。

いくつかの理由は考えられる。
ウーファー、スコーカーがコーン型であるために、音色的なつながりでの整合性への不満なのか、
オリジナルを大事にするというアメリカ人としては、
他社のマネは、それがどんなに優れていてもやらない、ということなのか。
あとは、昔からその時代時代において、ハイパワーアンプを作り続けてきたマッキントッシュとしては、
コンデンサー型のトゥイーター・コラムでは最大音圧レベルでの不満が生じるのか。

なにが正しい答なのかはっきりしないが、
ゴードン・ガウが求めていたのは、理想的なシリンドリカルウェーブではなく、
結果としてシリンドリカルウェーブになってしまったような気がする。
それに、より理想的なピストニックモーションでもなかった、といえよう。

Date: 3月 15th, 2011
Cate: ベートーヴェン, 菅野沖彦

ベートーヴェン(菅野沖彦氏の音)

2005年の6月から8月にかけての約2ヵ月のあいだに、菅野先生の音を3回聴く機会があった。
ステレオサウンドで働いていたときでさえ、こう続けざまに聴けることはなかった。

最初は私ひとりでうかがった。だからリスニングルームには、菅野先生と私のふたり。
2回目と3回目は二人の方をお連れしてうかがったので、4人である。

お客様に音を聴いていただくときは3人を限度としている、と菅野先生が言われていたことを何度か聞いている。
人がはいれば、そのだけ音は吸われる。
菅野先生がひとりで聴かれる音と、ひとりでも誰かがそこに加わった音は、微妙に違ってくる。
ひとりがふたりになり、ふたりが三人になれば、それだけ音の違いもより大きくなってくる。

厳密にいえば、たとえひとりでうかがっても、
菅野先生がひとりで聴かれているときとまったく同じ音は聴けない道理となる。
それでもひとりでうかがったときの音は、菅野先生がひとりで聴かれている音とほぼ同じといってもいいはず。

わずか2ヵ月のあいだで、菅野先生をいれてふたりのときの音、
4人のときの音(これは2回)をたてつづけて聴いて、
菅野先生が、3人が限度と言われているのが理解できる。

もちろん菅野先生の音も毎日同じわけではないし、
うかがうたびに音は良くなっているけれども、この2ヵ月のあいだの変化は、
とくに前回(私がひとりでうかがったとき)から何も変えていない、と言われていたから、
その差は、ほぼ無視してもいいだろう。

となると、私は菅野先生のリスニングルームにおいて、人が増えたときの音の差を確実に実感できていた。

どこがどう違うのかについてはふれない。
言いたいのは、私がひとりでうかがったときの音と、3人でうかがったときの音は、まったく同じではない。
音のバランスに微妙な違いはあったし、ほかにも気がついたことはある。
だが、どちらの音も、見事に菅野先生の音であったということ、を強調しておきたい。

あれだけ細かい調整をされていると、往々にして人がふえていくことに極端に敏感に反応して、
音が大きく崩れることも、ときにはある。

そんなひ弱さは、菅野先生の音にはなかった。そんな崩れかたはしない。
つまり音の構図がひじょうに見事だからだ。

ちいさな結論(その1)

5年前だったはずだが、菅野先生に、「敵は己の裡(なか)にある。忘れるな」と、言われた。

胸に握りこぶしを当てながら、力強い口調で言われた。
この、もっともなことを、人はつい忘れてしまう。
この菅野先生の言葉を思い出したのは、岩崎先生がなぜ「対決」されていたのか、
なに(だれ)と対決されていたのか、について考えていたからだ。

「自分の耳が違った音(サウンド)を求めたら、さらに対決するのだ!」

岩崎先生の、この言葉にある「違った音(サウンド)」を求めるということは、どういうことなのか。

「複雑な幼稚性」(その3)で、「人は音なり」と書き、悪循環に陥ってしまうこともあると書いた。

悪循環というぬるま湯はつかっていると、案外気持ちよいものかもしれない。
けれど、人はなにかのきっかけで、そのぬるま湯が濁っていることに気がつく。
そのときが、岩崎先生の言われる「違った音(サウンド)」を求めるときである。

Date: 6月 8th, 2009
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のスピーカーについて(その6)

この比較試聴のとき、私が坐っていたところは、かなり後ろのほうで、しかも左寄りの席。
スピーカーの姿は、前にいる人たちの頭にかくれて、ほとんど見えない。
そういう状況においても、どちらがどの振動板かはふせたまま音出しがはじまったとたんに、
「あっ、聴きなれたアルミニウムの音だ、こっちがダイアモンド振動板のトゥイーターだ」
そう、あっけなくわかるほどの、このふたつ振動板の差の大きさだった。

ピストニックモーションということに関しては、アルミニウム振動板よりも、
ダイヤモンド振動板の方がはるかに理想に近い、そんな感じさえ受けるほどだ。

XRT20が登場した1981年に、ダイアモンド振動板のトゥイーターは存在してなかったが、
もしすでに存在していたら、XRT20を、20年かけて開発したマッキントッシュ社長のゴードン・ガウは、
はたして採用していたかというと、それでもソフトドーム型を選んだはずだ。

いまでもダイアモンド振動板のトゥイーターは、かなり高価なものだから、
片チャンネル当り24個もユニットを使うXRT20では、コスト的に採用は無理だろう、という人もいるだろう。

20年もかけてスピーカーを開発しつづけた男が、コストの問題から、
理想に近いユニットを使わないなんてことはあり得ない。
ゴードン・ガウにとって、XRT20にとって理想のトゥイーターは、ソフトドーム型だったはずであろう。

というよりも、XRT20という理想のスピーカーを実現するには、
ソフトドーム型でなければ適わなかったと、言いかえたほうが、より正しいように思う。