Archive for category Studio Monitor

Date: 6月 24th, 2015
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL 4315(その4)

JBLの4315は、ステレオサウンドに登場したという記憶はない。
けれど別冊には登場というほどの扱いではないが、瀬川先生がコメントを残されている。

「コンポーネントステレオの世界 ’80」で、予算200万円の組合せをつくられている。
選ばれたスピーカーはアルテックの620Bだが、
候補は他にもあって、ひとつはUREIの813、もうひとつがJBLの4315である。

813は耳の高さに604のユニットの位置がくるようにするためには、
かなり高い台に乗せる必要があり、ここが一般家庭ではちょっと使いにくくなるということで、
候補から外されている。

4315は、ちょっと捨てがたい感じはあるけれど、アルテックの620Bに決められている。

「コンポーネントステレオの世界 ’80」の瀬川先生の発言でわかるのは、
4315を開発したのはゲイリー・マルゴリスということ。
マルゴリスは、彼が手がけたモニタースピーカーの中でいちばん好きで自宅でも使っているのが、
どちらかといえば地味な存在の4315とのこと。

この話をマルゴリス本人から聞いて、
《いっそう興味がでて、最近の新しい♯4315を聴きなおして見よう》と思われたそうだ。

つまりそれ以前の4315は、瀬川先生にとってそれほどいい音のスピーカーシステムであったわけではない。
こんなことを話されている。
     *
この♯4315は4ウェイですが、ウーファー、ミドルバス、ミドルハイ、トゥイーターという構成のなかの、ミドルは医に5インチつまり13cmのコーン型が使われていることです。JBLの13cmのコーン型のミドルレンジ・スピーカーというのは、JBLのなかでいちばん駄作だという印象を、ぼくはもっています。事実、これがついているシステムは、どれを聴いてもこの音域に不満がのこるんですね。
ところが、詳しいことはわかりませんけれど、この1年ほどのあいだに、JBLではこのユニットに改良を加えたらしいのです。
     *
「コンポーネントステレオの世界 ’80」は1979年暮に出ているから、
1978年ごろからの4315の音は音が良くなっている可能性が高い。

新しい4315の音はどうだったのか。
     *
かつての製品は、ミドルハイに粗さがあって、それが全体の音の印象をそこなっていたわけですが、最近のものはためらかさがでてきているのです。ごく大ざっぱにいえば、♯4343の弟分とでもいった印象で、スペースファクターのよさもあって、なかなか魅力的なスピーカーになったと思います。
     *
瀬川先生は予算400万円の組合せで4343を選ばれている。
4343を400万円の組合せで使われていなければ、200万円の組合せのスピーカーは4315になっていたかもしれない。

Date: 6月 20th, 2015
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL 4315(その3)

4315の概要がわかっても、なぜ型番が4315なのかと疑問だった。
価格的には4331よりわずかに安いだけにも関わらず、型番は4315という、
4311と同じブックシェルフを思わせる型番であるのは、なぜだろう、と。

4315のミッドハイの2105は、LE5のプロフェッショナル版であることに気づけぃは、答は簡単だった。
LE5は、4311のミッドレンジに採用されているユニットである。

4311もウーファーは4315と同じ12インチ口径。
つまりは4311にミッドバスを加えて4ウェイ化したモデルが4315なのではないか。
そう考えると、4315という、やや中途半端な印象の型番に納得がいく。

3ウェイの4333にミッドバスを加えたのが4341であり、その改良版が4343という捉え方もできる。
ならば4315は4311が、その開発の出発点であったと仮定してもいいのではないか。

ステレオサウンド 60号の特集の座談会で菅野先生が、JBLの4ウェイについて発言されている。
     *
 4ウェイ・システムは、確かに非常にむずかしいと思う。瀬川さんが以前「3ウェイで必ずどこか抜けてしまうところを、JBLはさすがにミッドバスで補った」という発言をされたことがあるように記憶しているんですが、卓見ですな。
     *
4315も3ウェイでどこか抜けてしまうところをミッドバスで補ったということになるのか。
そうだとしたら、この場合の3ウェイとは、4311ということになる。

抜けてしまうところを補ったからこそ、トゥイーターが2405に変更されたのではないのか。
4311のトゥイーターはコーン型のLE25。
そのままではエネルギーバランス的に不足があったのかもしれない。

とはいえ設計コンセプトは4311と4315は異る。
ネットワークをの回路図を比べてみれば、すぐにわかる。
4315のネットワークは基本的に12dB/oct減衰である。
2405のみ18dB/octとなっている。

この視点から捉えれば、4315はコンシューマーモデルのL65をベースに4ウェイ化したともみれなくはない。
どこかで以前4343と4315が並んでいる写真を見たこともある。
となると4315は4343のスケールダウン版なのか、とも思える。

はっきりと正体の掴めないところのあるスピーカーシステムともいえる4315の音は、どんなだったのか。
できれば4311、L65と比較してみたい。

いまも不思議と気になるスピーカーシステムである。

Date: 6月 18th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor, 型番

JBL Studio Monitor(型番について・続余談)

リニアテクノロジーは、LTspiceという回路シミュレーターを公開している。
この回路シミュレーターは無料で使える。
これまではMac用はなかったけれど、昨年秋に公開されたことを先月に知った。
さっそくダウンロードした。

このときにリニアテクノロジーのtwitterのアカウントもフォローした。
昨日のツイートに、LTC4320と書いてあった。

4320という型番の製品がリニアテクノロジーにあるのか、と思って、
他にどんな型番の製品があるのか検索してみたら、LT4320というのもあった。

こちらはMOS-FETを使って整流回路を構成するパーツで、
資料には理想ブリッジダイオードコントローラーとある。
これはそのままオーディオにも使える製品である。
それに4320という型番がついているのだ。

他愛のないことだけど、これだけのことで使ってみたい気にさせてくれる。

Date: 5月 26th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL Studio Monitor(4400series・4435のウーファー)

4430のウーファーは2235H、4435のウーファーは2234H(二発)と書いた。
けれどステレオサウンドを注意深く読んできた人の中には、あれっ? と思われる方もいると思う。

ステレオサウンド 61号での紹介記事のページに掲載されている4435のスペックには、
ウーファー:38cm×2(2234H、2235H)、とあるからだ。

マスコントロールリングをもつ2235Hを200Hz以下を再生するサブウーファーとして使っている。
ちなみに235Hのマスコントロールリングの重量は100g。

この仕様の4435は61号で紹介された、いわばサンプルだけのようで、
ステレオサウンド 62号掲載の井上先生による「JBLスタジオモニター研究」には、こう書いてある。
     *
4435には、振動系は2235Hと同じだが、マスコントロールリングのない2234Hが2本使用されている。なお、4435の最初に輸入されたサンプル(編注=本誌No.61の新製品欄で紹介したもの)では、低域は2234Hと2235Hの異種ウーファーユニットの組合せであったが、正規のモデルは2234Hが2本に変更されている。
     *
なぜJBLが4435の仕様をこれだけ早く変更したのか、その理由ははっきりとしない。
ステレオサウンド別冊「JBL 60th Anniversary」にも、4435のウーファーは2234Hとあるだけで、
サンプルでの2235Hとのスタガー接続についての記述はどこにも書いてない。

菅野先生が61号に書かれた4435の音──、
《一言にしていえば、その音は私がJBLのよさとして感じていた質はそのままに、そして悪さと感じていた要素はきれいに払拭されたといってよいものだった。私自身、JBLのユニットを使った3ウェイ・マルチアンプシステムを、もう10数年使っているが、長年目指していた音の方向と、このJBLの新製品とでは明らかに一致していたのである》
これはあくまでも2234Hと2235Hのスタガー使用の4435の音である。

では市販された4435の片側のウーファーを2235Hに交換すればサンプルと同じになるかといえば、
正規モデルの4435では100Hz以下で2234Hをもう一本加えている形なのに、
サンプルの4435では200Hz以下という違いがあるから、うまくいくかもしれないし、そうではないかもしれない。

Date: 5月 25th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL Studio Monitor(4400series・その3)

この新しいバイラジアルホーンを搭載した、ふたつの4400シリーズ。
4430は15インチ口径のウーファー2235Hを一発、4435は15インチ口径の2234Hを二発搭載している。

2235Hは4300シリーズに採用されてきた2231の改良型である。
そのためコーン紙の根元にマスコントロールリングが使われている。
2234Hは、このマスコントロールリングを取り外したものである。

となると当然振動系の実効質量は軽くなり、その分F0は高くなる。
低域の再生能力は多少狭まることになるけれど、4435では100Hz以下ではダブルウーファーとして動作させ、
100Hzより上の帯域ではホーンの真下に取り付けられているウーファーのみが鳴る。
こうすることでマスコントロールリングがないことによる低域のレスポンスの低下をカバーしている。

ここところが同じ15インチ口径のダブルウーファーでも、4350、4355とは違う点であり、
この4435のウーファーの使い方は、4435の25年後に60周年モデルと登場したDD66000に生きている。

この点に注目して、4435とDD66000を見ていくと、
DD66000の原型は4435ではないか、と思えてくる。

それはウーファーの使い方だけではない。
ホーンに関しても共通するものがある。

Date: 5月 25th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL Studio Monitor(4400series・その2)

アルテックとJBLの新しいホーン。
共通するところがあると同時に、そうでないところもある。

まずアルテックのマンタレーホーンMR94は奥行き71.1cm、開口部は86.4×161.0cmという、かなり大型である。
JBLの4430、4435に搭載されたバイラジアルホーンは、かなり短い。正確な寸法はわからないが、
写真を見ても、その短さはかなり特徴的ですらある。

バイラジアルホーン(マンタレーホーン)以前のホーンでも、
アルテックとJBLのホーンを比較すると、JBLはショートホーンであることが多い。
4350に搭載されているホーン2311-2308は短い。
2308がスラントプレートの音響レンズの型番で、2311がホーンの型番で、2311の奥行きは11.7cmしかない。
これでカタログに掲載されているクロスオーバー周波数は800Hzとなっている。

同じ時期のアルテックのホーンでクロスオーバー周波数が800Hzになっている811Bの奥行きは34.0cmある。

JBLのホーンが短い(短くできる)のにはわけがある。
そして短くしたことによるメリットとして、ホーンにつきまとうホーン臭さの要因でもあるホーン鳴きは、
当然、長いホーンよりも抑えられるわけだ。

JBLはバイラジアルホーンでも、このメリットを活かしている。
もっともその後JBLから単体ホーンとして登場したバイラジアルホーン2360、2366の奥行きは、
それぞれ81.5cm、139.0cmとかなり長い。

同時期のバイラジアルホーン2380、2385の奥行きは、どちらも23.6cm。
このホーンのカットオフ周波数は400Hzで、推奨クロスオーバー周波数は500Hzとなっている。

Date: 5月 25th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL Studio Monitor(4400series・その1)

ステレオサウンド 61号の新製品紹介のページに、JBLの4430と4435が取り上げられている。
菅野先生が書かれている。

4345に関しては半年ほど前に、4345という4343の上級機が登場するというアナウンスがあったのに対して、
4430、4435は型番からもわかるように、まったく新しいスタジオモニター・シリーズあるにも関わらず、
そういった事前のインフォメーションはまったくなく、いきなり登場した。

しかもその姿、システム構成のどちらも、それまで4300シリーズを見てきた者には驚く内容だった。
まず2ウェイであること。中高域はホーン型が受け持つが、そのホーンの形状がいままでみたことのないものだった。

バイラジアルホーンと呼ばれる、そのホーンは、注意深くみていくと、
前号(60号)の特集に登場したアルテックの、
これもまた従来のホーンとは大きく異る形状のマンタレーホーンと共通するところが見いだせる。

ホーン奥のスリットがどちらも縦に細長い。
音響レンズつきJBLのホーンの場合、ドライバーの取り付け部の形状は丸。
ドライバーの開口部も丸だから、そのまま取り付けられる。
JBLのホーンでもディフラクションホーン、ラジアルホーンはドライバー取り付け部は四角なため、
ドライバーとホーンとの間に丸から四角へと形状を変化させるスロートアダプターが必要となる。

つまりバイラジアルホーン以前のホーンでもホーン奥のスリットは長方形だった。
だが同じ長方形でもバイラジアルホーン以前は約1:3ほどの縦横比だったのに対し、
バイラジアルホーンではそうとうに細長くなっている。

ステレオサウンド 60号に載っているアルテックのマンタレーホーンをみると、
その細長いスリットがかなり奥に長い。開口部の広がり方もいままでのホーンを見慣れた目には特異にうつる。

くわしいことはわからなくとも、60号のアルテックのマンタレーホーン、61号のJBLのバイラジアルホーン、
新しいホーンが登場したことははっきりとわかった。

Date: 5月 21st, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor, 型番

JBL Studio Monitor(型番について・余談)

D/Aコンバーターを自作しようと考えたことのある人、
そこまでいかなくとも市販のD/Aコンバーターの内部に興味のある人にとって、
シーラス・ロジック(CIRRUS LOGIC)の名前は聞いたことがあることだろう。

仮になかったとしても、CS8412といった型番は記憶のどこかにあるとおもう。

シーラス・ロジックはD/Aコンバーターのチップもつくっている。
このシリーズの型番は43ではじまる。
CS4341、CS4344、CS4345、CS4348、CS4350、CS4365と、
JBLのスタジオモニター4300シリーズの型番と重なるものがある。

こういう型番を見ると、単純に嬉しい。

シーラス・ロジックの場合、電子部品だからあまり馴染みはないだろうが、
ソニーの1970年代半ばの製品には、PS4350(アナログプレーヤー)、
TC4350SD(オープンリールデッキ)があった。

オーディオとはまったく関係ないけれど、4300シリーズの数字をよく見かけるものとして、
アメリカのドラマ「デスパレートな妻たち」がある。
登場人物が住む家には、それぞれ番地が大きく表示されていて、ほとんどが4300番台なのだ。
4355という家も登場する。

単なる数字でしかない。
シーラス・ロジックの製品が43から始まるのは単なる偶然だろうし、
デスパレートな妻たちの番地もたまたまなのだろう。
それでも、もしかすると……、と考えるのが馬鹿馬鹿しいのはわかっていても楽しかったりする。

Date: 5月 18th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL Studio Monitor(型番について)

4350は最初白いコーン紙のウーファー2230を搭載し1973年に登場している。
1975年にウーファーが2231Aに置き換えられ、4350Aとなる。

1980年、ウーファーとミッドバスが、
アルニコマグネットからフェライトマグネットに置き換えられた2231H、2202Hに変更され、4350Bとなる。

4300シリーズのほかのシステム、4331と4333も、おもにエンクロージュアの改良で4331A、4333Aとなり、
1980年にやはりウーファーがフェライト化され4331B、4333Bとなっている。

4311にも同じで、4311、4311A、4311Bという変遷がある。

つまり4300シリーズの型番末尾のアルファベットは、いわゆるMKI、MKII、MKIIIと同じで、
改良を意味している。

1980年にコバルトの世界的な枯渇によりアルニコマグネットからフェライトマグネットに変更されたときに、
4300シリーズの型番にはすべてBがついた。

4343にもBがついた。
そのためか型番末尾のAがアルニコ仕様だと勘違いしている人がいる。
そういう人は、4343のアルニコ仕様モデルを、4343Aと書いたり言ったりする。
だが4343には、4343Aというモデルは存在しない。

あるのは4343と4343Bである。
同じような間違いは、実はステレオサウンドもやっている。

4345が登場したときに、4345BWXとしている。
4345BWXという型番は実際にはない。
あるのは4345である。

4345は最初からウーファーとミッドバスはフェライトマグネットだから、
Bタイプとしたのはわかるし、ウォールナット仕上げだからさらにWXをつけたのもわかる。

だが4345には、サテングレー仕上げはなくウォールナット仕上げのみである。
だから仕上げを区別するためのWXはつかない。
改良モデルでもないから型番の末尾にアルファベットもつかない。

Date: 5月 2nd, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL 4320(その10)

JBLの4320から4343、4343からアクースタットへのスピーカーの移り変りについて、
つまり「スピーカーが変ってきた背景では、音楽の状況そのものも変ってきた」とされ、
オリジナル楽器による演奏が増えたきたこと、そして、いまもJBLであったなら、
「ああいう変則的な倍音を使った楽器の音が、あそこまでおもしろいとはおもえなかったかもしれない……」
とも書かれている。

こういうふうに「音楽とハードが持ちつ持たれつ変っていく」わけである。
だから黒田先生は「幾つになってもXとYを可変の状態においていたい」とされている。

変るのは音楽の状況とスピーカー(ハードの変化)だけではない。
聴き手もまた変っていく。変っていくスピードは違っていても。

このことはなにも聴き手側・再生側だけの話ではない。
送り手側・録音側にもいえることであり、
この送り側にはレコードという送り手とオーディオ機器という送り手がある。

送り手にも可変のXと可変のYが存在する。
スピーカーシステムの製作者にも可変のXと可変のYがあり、
このふたつが掛け合されるところでスピーカーが生まれてくる、ともいえよう。

しかもこのことはコンシューマー用スピーカーよりも、
録音の現場で使われるスピーカー(プロフェッショナル用スピーカー)のほうが、
可変のXと可変のYを無視するわけにはいかない。

JBLの4320とほぼ同じといえるユニット構成である4331、
同じJBLのスタジオモニターでも4320と4343の違いを語るとき、
可変のXと可変のYを抜きにしては、だから無理である。

Date: 4月 30th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL 4320(その9)

「音に淫してしまうような」のところを読んで、
あの当時、アクースタットの世界にまいってしまった者のひとりとして思い出すことがある。

ある試聴のとき、アクースタットのことが話題になった。
よく出来ているコンデンサー型スピーカーとして認めるけれども……、とある人がいわれた。
これは記事にはなっていないし、誰の発言なのかにはふれない。

そう、こんなことをいわれた。
「女だと思って服を脱がしてみたら男だった。そういうところがアクースタットの音にはある」

このとき他の方も同席されていて、「たしかにそういうところがある」と同意されていた。

そのころの私はアクースタットにまいっていたものの、
もうひとつ買う決心がつかないままでいた。
そこに、この発言だった。

これに対して、半分は反論したかった気持と、それが決心を鈍らせていたのかも、と思った。

何もスピーカーは擬人化で女性である必要はない。
男性的であるスピーカーもあるし、いい音であるならば男性的なスピーカーにだって惚れる。

けれどアクースタットのように性別が不明、とでもいおうか、
そういう性格の音に対しての敏感さは、当時の私にはまだなかった。

「音に淫してしまうような」アクースタットの音は、そういうところなのかもしれない。

念のため書いておくが、だからといってアクースタットの音を否定したいのではない。
いまふり返ってみて、アクースタットの登場は、
あきらかにそれまでのアメリカのスピーカーということにとどまらず、
ヨーロッパのスピーカー、日本のスピーカーにもなかった性格を持っていた、ということがはっきりとしてくる。

Date: 4月 30th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL 4320(その8)

ステレオサウンド 100号には、こう書かれている。
     *
 しばらくして『ステレオサウンド』の試聴室でアクースタットに出会う。声を聴いたときの独特の生々しさ、ある色っぽさにほろっとまいってしまった。すこし潤んだような目で見つめられたような感じであった……きつめの女につき合ってきて、すこし疲れていたのかもしれないし、僕のほうもエネルギーが落ちていたのかもしれない。
 だが、これは「暗い」というか、「うつむきかげん」というか……聴くものも完全にそっちへ振られてしまった。あの時代、聴いていたのは圧倒的に歌と弦、ジャズはあまり聴かなかった。ポップスを聴いても女性ヴォーカル、なにか音に淫してしまうようなところがあった。
     *
黒田先生がアクースタットと出会われたのは1982年だから、
1938年1月生れの黒田先生は44歳。
40代の後半をアクースタットという「うつむきかげん」のスピーカーで、
歌と弦を圧倒的に聴かれていたことになる。

このとき、黒田先生にとっての「怒る勇気を思い出し、怒るという感情の輝きを再確認」する音楽である、
チャールス・ミンガスは聴かれていたのだろうか……。
「音楽への礼状」で、
「ぼくは、怒ることを忘れるほどに疲れたとき、これからもずっと、あなたの音楽をききつづけます。」
とまで書かれている。

アクースタットでは、ジャズはあまり聴かなかった、とある。
ここでのジャズにミンガスは、きっと含まれている。

Date: 4月 29th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL 4320(その7)

アクースタットのコンデンサー型スピーカーは、
同じコンデンサー型であってもイギリスのQUADのESLとは違うところがある。

以前、瀬川先生がステレオサウンド 52号で、
マッキントッシュのアンプとQUADのアンプの違いについて書かれていることが、ここでもあてはまる。
     *
 ずっと以前の本誌、たしか9号あたりであったか、読者の質問にこたえて、マッキントッシュとQUADについて、一方を百万五を費やして語り尽くそうという大河小説の手法に、他方をあるギリギリの枠の中で表現する短詩に例えて説明したことがあった。
 けれどこんにちのマッキントッシュは、決して大河小説のアンプではなくなっている。その点ではいまならむしろ、マーク・レビンソンであり、GASのゴジラであろう。そうした物量投入型のアンプにくらべると、マッキントッシュC29+MC2205は、これほどの機能と出力を持ったアンプとしては、なんとコンパクトに、凝縮したまとまりをみせていることだろう。決してマッキントッシュ自体が変ったのではなく、周囲の状況のほうがむしろ変化したのには違いないにしても、C29+MC2205は、その音もデザインも寸法その他も含めて、むしろQUADの作る簡潔、かつ完結した世界に近くなっているのではないか。というよりも、QUADをもしもアメリカ人が企画すれば、ちょうどイギリスという国の広さをそのまま、アメリカの広さにスケールを拡大したような形で、マッキントッシュのサイズと機能になってしまうのではないだろうか。
     *
アメリカという国とイギリスという国の広さの違いが、
アクースタットのコンデンサー型とQUADのコンデンサー型との違いといえる。

アクースタットのModel3でもQUADのESLよりも振動板の総面積は確保している。
さらに黒田先生はModel3の次に倍のサイズのModel6を入れられている。

Model6までくると、そのままアメリカとイギリスの国の広さの違いにより近くなってくる。
そういうコンデンサー型スピーカーだから、音のエネルギーはQUADよりも出してくる。

けれど、アクースタットの音は本質的にうつむきがちであり、決して背筋のぴんとした印象ではない。
黒田先生もそのことは、アクースタットと出合ったSound Connoisseurでも語られているし、
ステレオサウンド 100号でも、また語られている。

Date: 4月 28th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL 4320(その6)

ステレオサウンド 100号を読めば、その理由の一端がわかる。
     *
(4320は)しかし、いくら眼がぱっちりといっても、細やかさがすこさし足りないように思えた。次に買った4343はそれをうまく補ってくれたが、4320のあのパーンと音の出る、響きのある開放感は抑え込まれてしまった。
     *
4320は黒田先生が書かれているように、ピアニストのポリーニが出てきたころに登場している。
「かれのあのピーンと張った音と4320が合った」ことで手に入れられたわけである。

ステレオサウンド 100号では、
「究極」とは可変のXと可変のYを掛け合せているようなもの、と書かれている。
「可変のYの部分が、機器そのものによって変化させられてしまう」し、
「音楽とハードが持ちつ持たれつ変っていく」わけだ。

黒田先生は「幾つになってもXとYを可変の状態においていたい」から、
黒田先生のスピーカー遍歴はある。

「なよなよしたスピーカーはきらい」で、
「背筋がぴんとしていて目がきっとしている……そんなスピーカーにいつも惹かれてきた」黒田先生が、
4343のあとに入れられたのはアクースタットのModel3だった。

スピーカーから出てくる音の感じとり方は人によって違うのはわかっている。
アクースタットのコンデンサー型スピーカーの音を、どう受けとめるかも人によって違うのを知っている。

そのうえで書けば、アクースタットは「なよなよした」ところをもち、
「背筋がぴんとして」いるとは言い難い面をもつスピーカーである。
そういうスピーカーを、黒田先生は4343の次に迎え入れられている。

Date: 4月 24th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL 4320(その5)

「なよなよしたスピーカーはきらい」で、
「背筋がぴんとしていて目がきっとしている……そんなスピーカーにいつも惹かれてきた」黒田先生。

ステレオサウンド 100号の「究極のオーディオを語る」によれば、
ワーフェデールが最初のスピーカーで、次に岡先生から譲られたアコースティックリサーチのAR3。
この次がJBLの4320。

4320の次は同じJBLの4343。
その後、アクースタット、アポジーとつづく。

4320と4343。
同じJBLの、それも同じスタジオモニターとして開発されたスピーカーシステムなのだから、
例えばAR3と4320、4343とアクースタットの違い、アクースタットとアポジーDivaとの違い、
これらの違いにくらべれば、近い音のするスピーカーといえなくもない。

けれどそんな4320から4343へのスピーカー遍歴において、
黒田先生は4320を手元に残されている。

4343からアクースタットModel3へのとき、4343は手離されている。
アクースタットModel6からアポジーDivaへのときも、Model6は手離されている。
その黒田先生が、4320だけは、松島の家で鳴らされているわけである。

ここに4320のというスピーカーシステムの魅力があられわている。