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Date: 12月 21st, 2025
Cate: PM510, Rogers, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと
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瀬川冬樹氏のこと(ロジャース PM510・その10)

(その9)を読まれた方の何割かは、LS3/5Aを嫌っている、あまり高く評価していないと受け止められたようだ。

そうではなくて、ロジャースのLS3/5Aの15Ω仕様は大好きなスピーカーだし、いまでも手に入れたいと思いつつも、
ヤフオク!を眺めていると、とんでもない金額で落札されていて、
遠い存在のスピーカーになってしまったなぁ──、と思うしかないし、ならば今時のレプリカモデルに手を加えて、ということを考えてしまう。

LS3/5Aの15Ω仕様と11Ω仕様の音に違いについて、時々きかれる。
どちらであっても他のスピーカーと比較すれば、LS3/5Aであることに違いはないのだが、
それでも直接比較でも、記憶の中での比較でも、違う、といえる。

細かく書いていけば幾つもあるが、些細なことだったりするが、私が個人的に大きく違うと感じるのは、低域の腰の強さだ。
11Ω仕様モデルは、15Ω仕様よりも弱い。同じスピーカーユニットなのにも関わらず、この差は、私には大きい。

11Ω仕様をもつ友人宅に、15Ω仕様のLS3/5Aを持っていったことがある。そして、なんとか15Ω仕様に近づけられないか、と頼まれた。

ネットワークを15Ω仕様のモノにすれば、と、いっても、それは当時はけっこうたいへんなことだった。
なので、ある方法を提案した。かかった費用は三十数年前で数千円ほど。

効果は大きかった。その音をいま思い出すと11Ω仕様を手に入れて、また試してみるのもいいかも、ぐらいには思っている。

Date: 12月 7th, 2025
Cate: PM510, Rogers, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(ロジャース PM510・その9)

BBCモニター系列のスピーカーの音に惹かれることは、すでに書いてきているが、
ここでBBCモニターの音と書いても、それがあまり意味を持たないこともわかっている。

私にとってのBBCモニター系列のスピーカーを挙げると、もちろんロジャースのPM510、それからロジャースのLS3/5A(15Ω)、
スペンドールのBCII、あとハーベスのMonitor HLあたりとなる。

LS3/5Aはいまでも人気の高いスピーカーだし、ロジャース以外にも製造していたメーカーはいくつかあったし、
いまも復刻モデルが手に入るから、上に挙げたスピーカーの中では最も聴かれているといっていい。

オーディオショウでも何度も聴いているし、個人宅でも聴く機会は複数回あった。
どれも同じ音で鳴っていたわけではない。同じ音で鳴っていることを期待していたわけではないし、オーディオとはそういうものではない。

けれど、それらで聴けたLS3/5Aの音に、私が惹かれるBBCモニターの音を感じたことはなかった。

私が初めて聴いたBBCモニターのスピーカーは、BCIIだった。
瀬川先生が熊本のオーディオ店に来られた時に鳴らされたBCIIの音だ。

Date: 10月 22nd, 2025
Cate: CN191, VITAVOX, 瀬川冬樹

Vitavox CN191と瀬川冬樹(その2)

瀬川先生の文章に魅了され、熱心に読んできた者にとって、
瀬川先生が生きておられたら、スピーカーは何を鳴らされていただろうか、は永遠に答の出ないテーマであり、
早瀬文雄(舘 一男)さんとは、よく話したものだ。

瀬川先生はメインのスピーカーとして、JBLの4341、4343、4345と鳴らされていた。
4345の次は、いったいどのスピーカーにされたのか。

JBLのスピーカーを選ばれたのか。それとも──、楽しいオーディオ談義でもあった。

決定的なコレだ、というスピーカーはなかったけれど、ダリのSkyline 2000は、かなり高い評価をされたはず、と二人で納得したこともある。

それでもSkyline 2000を購入されるのかどうかは、なんとも言えなかった。
反対に、コレはないな、というスピーカーについても話していた。

1990年代のころ、アメリカのハイエンドオーディオを代表するブランド、
具体的に挙げればアヴァロン、ティール、ウィルソン・オーディオは、絶対にない、と、これも二人とも共通していた。

そんなことを話しながらも舘さんに話すことはなかったが、
私はJBLのパラゴンとヴァイタヴォックスのCN191のことも考えていた。

Date: 10月 21st, 2025
Cate: CN191, VITAVOX, 瀬川冬樹

Vitavox CN191と瀬川冬樹(その1)

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)、
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」で瀬川先生は、ヴァイタヴォックスのCN191について、こう書かれていた。
     *
 いまの私には、これを鳴らす理想的なコーナーを整えるという条件を満たすことができないからあきらめているが、せめていつかは、この豊潤で渋い光沢のある独特の音質をわがものにしてみたいという夢を持っている。いまやこれだけが、現行製品の中で良き時代を残した最後の生き残りなのだから。
     *
CN191のことは、「五味オーディオ教室」を読んでいたから、その存在だけは知っていた。
五味先生のタンノイのオートグラフと双璧をなすスピーカーシステム、
それもアメリカ製ではなく、イギリスのスピーカーシステム。

さらに私がオーディオに興味を持ったころ、オートグラフはタンノイでは製造しておらず、
輸入元のティアックがライセンスを得て日本でエンクロージュアを作っていたのだから、
イギリス・オリジナルのスピーカーユニットとエンクロージュアの組合せによるスピーカーシステムの音を聴けるのは、
もうそれだけで素晴らしい価値あることだと、中学生だった私は思っていた。

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」では、《コーナー型オールホーン唯一の、懐古趣味でなく大切にしたい製品。》と、
瀬川先生は書かれている。

1978年でも、CN191を懐古趣味として見る人はいたわけだ。
ましてそれから五十年近く経っているのだから、
ヴァイタヴォックスという会社すら知らない若い世代にとっては、
懐古趣味どころか化石のような存在なのかもしれない。

スピーカーユニットが何ひとつ見えない。
ウーファーはクリプッシュホーンによって隠れている。
中高域を受け持つドライバーとホーンも、化粧カバーに覆われていて見えない。

CN191は、そういうスピーカーである。

Date: 6月 24th, 2025
Cate: 黒田恭一

黒田恭一氏のレコード・コレクション

黒田先生のレコード・コレクションが、渋谷にあるbar bossaにて展示されている。
しばらくの間の展示とのこと。

詳しいことは、bar bossaのnoteをお読みください。

Date: 6月 19th, 2025
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その32)

JBL D44000 Paragon。
死ぬまでに一度鳴らしてみたいスピーカーの筆頭だ。

パラゴンが、私にとっての終のスピーカーとなることはあまりないけれど、
一年間、じっくりと取り組んでみたい、といまでも思う。

パラゴンとともに大きな部屋が欲しいわけではない。
オーディオ専用の空間であれば、六畳間くらいの部屋でもいい。

パラゴンにグッと近づいて聴く。小音量で鳴らしたい。
だから、静かなオーディオ機器を用意したい。
電源トランスも唸らず、空冷用のファンもないアンプで鳴らす。

ローレベルのリニアリティ、S/N比の良さだけでなく、
ローレベルのリアリティの優れたアンプを持ってきたい。

Date: 6月 10th, 2025
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のこと(ベートーヴェン観・その2)

6月4日のaudio wednesdayで、ジョージ・セル指揮ウィーン・フィルハーモニーによるベートーヴェンの「エグモント」をかけた。

長島先生が、よく試聴レコードとして鳴らされていたし、CDが登場して数年経ったころ、
音楽之友社が独自にCD化したこともある。

そのころ、名盤と言われていても、なかなかCDにならないアルバムがけっこうあった。
音楽之友社は、そういったアルバムを限定で復刻していた。
セルの「エグモント」の解説は、黒田先生が書かれていたと記憶している。

もちろん、この時、セルの「エグモント」のCDは買った。今回鳴らした「エグモント」は、タワーレコードが独自復刻したもの。

セルの「エグモント」ということは言わずにかけた。かけ終ってから、セルだ、と伝えたところ、
曲名検索アプリのShazamでは、モントゥーと表示される、と言われた。

Shazamも間違えることもあるんだ、ぐらいで受け止めていた。
audio wednesdayを終え帰宅したのは日付が変ったころ。
「エグモント」の件が気になって、モントゥーの演奏を検索する。
序曲だけだから、長いわけではないから、これ一曲、聴いてから寝よう。
そんなふうに書き始めた。

「エグモント」を聴き終って、ベートーヴェンの交響曲第三番も、冒頭だけ聴いてみよう、と思った。
最後まで聴いていた。

菅野先生は、コリン・デイヴィスのベートーヴェンの「序曲集」も高く評価されていた。
録音だけでなく、まさしくベートーヴェンだ、と、その演奏も高く評価されていたし、
児玉麻里/ケント・ナガノのベートーヴェンのピアノ協奏曲についてもそうだった。

モントゥーのベートーヴェンについて、菅野先生と話しておけばよかった……、とおもっても遅すぎる。

Date: 4月 13th, 2025
Cate: PM510, Rogers, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(ロジャース PM510・その8)

audio wednesdayを毎月第一水曜日にやる度に思うことがある。
オーディオ業界から離れている私だってやれることを、
どうしてステレオサウンドをはじめとするオーディオ雑誌はやらないのか、だ。

機材も人もそろっているわけだから、
私がやっているよりも、ずっと多くのことができるわけだし、協力してくれるメーカーや輸入元は、ほぼすべてと言ってもいいはず。

ステレオサウンド編集部が、こういうことを定期的にやりたいと、
メーカーや輸入元に声をかければ、断るところはないと思う。
特に準備期間はなくとも、すぐに始められるはずだけ。
けれど、やらない。
もったいないな、とも思う。

こんなことを、audio wednesdayをやりながら毎回思うし、
瀬川先生だったら、どんなふうにやられただろうか、も考えてしまう。

JBLの4343を鳴らしてから思い始めたことがある。
ロジャースのPM510を鳴らしてみたい、と。

Date: 2月 21st, 2025
Cate: PM510, Rogers, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(ロジャース PM510・その7)

(その6)で、瀬川先生にとって、
JBLの4343は冒険、ロジャースのPM510は旅行と書いた。

瀬川先生が、「コンポーネントステレオの世界 ’80」の巻頭に書かれていることが、このことに私の中では関係している。
     *
 現にわたくしも、JBLの♯4343の物凄い能力におどろきながら、しかし、たとえばロジャースのLS3/5Aという、6万円そこそこのコンパクトスピーカーを鳴らしたときの、たとえばヨーロッパのオーケストラの響きの美しさは、JBLなど足もとにも及ばないと思う。JBLにはその能力はない。コンサートホールで体験するあのオーケストラの響きの溶けあい、空間にひろがって消えてゆくまでの余韻のこまやかな美しさ。JBLがそれをならせないわけではないが、しかし、ロジャースをなにげなく鳴らしたときのあの響きの美しさは、JBLを蹴飛ばしたくなるほどの気持を、仮にそれが一瞬とはいえ味わわせることがある。なぜ、あの響きの美しさがJBLには、いや、アメリカの大半のスピーカーから鳴ってこないのか。しかしまた、なぜ、イギリスのスピーカーでは、たとえ最高クラスの製品といえどもJBL♯4343のあの力に満ちた音が鳴らせないのか──。
     *
《JBL♯4343のあの力に満ちた音》、
ここがとても重要になってくる。
このことがあっての1月のaudio wednesdayでは4343でライヴ録音のみをかけたわけだ。

Date: 1月 10th, 2025
Cate: 瀬川冬樹

90回目の1月10日

今日(1月10日)は、瀬川先生の誕生日。
生きておられたら九十歳。

九十歳の瀬川先生は、想像できない。

私の手元には、活字にならなかった書きかけの原稿、
原稿書きのためのプロット、
新しいオーディオ雑誌の企画書の下書き、
アンプやツマミのスケッチ、
それからなで肩だったためオーダーされたコート、
それからテクニクスのSB-F01がある。

SB-F01を、どう使われていたのか。
まったくわからない。
ごく小音量で聴かれていたのか。

SB-F01を、数年ぶりに鳴らしている。
SB-F01には入力端子が二つある。
一つはヘッドフォン端子用、もう一つはスピーカー端子用で、
アンプのスピーカー端子とSB-F01のスピーカー端子用を接続した方が良さそうに思えるが、
スピーカー端子用には68Ωのセメント抵抗が直列に入る。
ユニットの保護のためである。

音のよいヘッドフォン端子をもつアンプがあれば、
こちらの方がいい結果は得やすい。

今日、どうやったかといえば、
アキュフェーズのDC330のライン出力を、SB-F01のヘッドフォン端子と接いでいる。

かけられる曲は限られる。
ひっそりと鳴っている。

Date: 11月 18th, 2024
Cate: 五味康祐

続「神を視ている。」(その4)

(その1)でも引用しているけれど、いい文章は何度でも引用したくなる。
     *
われわれはレコードで世界的にもっともすぐれた福音史家の声で、聖書の言葉を今は聞くことが出来、キリストの神性を敬虔な指揮と演奏で享受することができる。その意味では、世界のあらゆる──神を異にする──民族がキリスト教に近づき、死んだどころか、神は甦りの時代に入ったともいえる。リルケをフルトヴェングラーが評した言葉に、リルケは高度に詩的な人間で、いくつかのすばらしい詩を書いた、しかし真の芸術家であれば意識せず、また意識してはならぬ数多のことを知りすぎてしまったというのがある。真意は、これだけの言葉からは窺い得ないが、どうでもいいことを現代人は知りすぎてしまった、キリスト教的神について言葉を費しすぎてしまった、そんな意味にとれないだろうか。もしそうなら、今は西欧人よりわれわれの方が神性を素直に享受しやすい時代になっている、ともいえるだろう。宣教師の言葉ではなく純度の最も高い──それこそ至高の──音楽で、ぼくらは洗礼されるのだから。私の叔父は牧師で、娘はカトリックの学校で成長した。だが讃美歌も碌に知らぬこちらの方が、マタイやヨハネの受難曲を聴こうともしないでいる叔父や娘より、断言する、神を視ている。カール・バルトは、信仰は誰もが持てるものではない、聖霊の働きかけに与った人のみが神をではなく信仰を持てるのだと教えているが、同時に、いかに多くの神学者が神を語ってその神性を喪ってきたかも、テオロギーの歴史を繙いて私は知っている。今、われわれは神をもつことができる。レコードの普及のおかげで。そうでなくて、どうして『マタイ受難曲』を人を聴いたといえるのか。 (「マタイ受難曲」より)
     *
五味先生の「神を視ている」。
これをどう解釈するのか。

《自分自身の神性の創造》というのが、私の解釈だ。

Date: 11月 5th, 2024
Cate: 瀬川冬樹

虚構を継ぐ者(その6)

映画「八犬伝」を観てきた。

映画後半で、渡辺崋山が滝沢馬琴に語るシーンがある。
オーディオにそのまま当てはまることが語られる。

深く感じるものがあるはずだ。

Date: 3月 16th, 2024
Cate: audio wednesday, 五味康祐

「音による自画像」(とaudio wednesday)

五味先生がいわれた「音による自画像」。
あれこれ考える。

今年になって、ふたたびaudio wednesdayで音を鳴らすようになって、
やはり「音による自画像」について考える。

いまのところ三回やっている。
そこでの音は「音による自画像」なのだろうか。

そんなふうに問いになっていく。

Date: 10月 13th, 2023
Cate: 菅野沖彦

10月13日(2023年)

五年が経った。
一年前に、四年が経った、
二年前には、三年が経った、
三年前には、二年が経った、
四年前には、一年が経った、
と書いている。

結局、今年もこうやって書いている。

この五年間は、人によって受けとめ方はかなり違ってこよう。
皆が同じように受けとめることこそ、おかしい。

もう五年経つのか……、
そう思う人もいれば、まだ五年間なのか、という人もいる。

五年のながさも、人によって違う──、
こんなことを思いつつ書いていると、ある人のことを思い浮べる。

この春に亡くなっている。
音楽好き、オーディオ好きと知られている人であったけれど、
私の目には、菅野沖彦マニアとして映っていた。

菅野沖彦マニアであったからこその、
音楽好き、オーディオ好きであったようにも思えてならない。

ほんとうのところはわからない。
本人もわからなかったのではないだろうか。

菅野沖彦マニアだった人にとっての五年間は、どれだけのながさだったのだろうか。

Date: 7月 6th, 2023
Cate: 井上卓也

井上卓也氏のこと(アンペックス MR70)

アンペックスのオープンリールデッキとオーディオ評論家といえば、
個人的には瀬川先生とAG440Bのことが、最初に浮ぶ。

ステレオサウンド 38号の特集「オーディオ評論家──そのサウンドとサウンドロジィ」、
そこで見た瀬川先生のリスニングルーム、
JBLとKEF、二つのスピーカーのあいだに、AG440B-2があった。

このAG440B-2は、49号の巻末のUsed Component Market(売買欄)に出ていた。
実働250時間、完全オーバーホール、オプションの4トラック再生用ヘッドなどがついている。
希望価格は125万円で、連絡先はステレオサウンド編集部気付になっていた。

38号では、山中先生のリスニングルームにModel 300があった。

井上先生の、当時のリスニングルームにはなかった。
先日、ある方と話していて、井上先生のことが話題になった。

井上先生のところで聴いたアンペックスのデッキの音はすごかった。
そんなことを話された。
AG440Bではないとのこと。

型番を忘れてしまったけれど、もっと大型で、
1/4インチから1インチまでのテープ幅に対応できたモデル──、
となると、MR70である。

井上先生はMR70をお持ちだったのか。
ステレオサウンド 44号、「クラフツマンシップの粋」はアンペックスで、
MR70のカラー写真も掲載されている。

このMR70は井上先生の私物だったのだろう。