4343と4350(補足)
ボイスコイル径で思い出したことがあるので補足しておく。
セレッションのSL6(SL600)は、グラハム・バンクがユニットを、
サイズにとらわれることなく一から設計したことは「サイズ考」に書いたが、
SL6のユニットも、ウーファーとトゥイーターのボイスコイル径は等しい。
推測にしかすぎないが、おそらくいくつもの口径のユニットとともに、
ボイスコイル径もいくつも試作した結果だろう。
ボイスコイル径で思い出したことがあるので補足しておく。
セレッションのSL6(SL600)は、グラハム・バンクがユニットを、
サイズにとらわれることなく一から設計したことは「サイズ考」に書いたが、
SL6のユニットも、ウーファーとトゥイーターのボイスコイル径は等しい。
推測にしかすぎないが、おそらくいくつもの口径のユニットとともに、
ボイスコイル径もいくつも試作した結果だろう。
セレッションのSL6の登場以降、いわゆる小型スピーカーの鳴り方は、
ロジャースLS3/5Aと比べると大きく変化した。
小型スピーカーだから、あまりパワーを入れてはいけない、大きな音はそれほど望めない、
低域に関してもある程度あきらめる……などといった制約から、ほぼ解放されている。
SL6はその後、エンクロージュアの材質を木からアルミ・ハニカム材に変更した上級機SL600を生み、
さらにトゥイーターの振動板をアルミに変更し、
専用スタンドとの一体化をよりはかったSL700へと続いていく。
同じイギリスからは、すこし遅れてアコースティック・エナジーが登場している。
フィル・ジョーンズが設計をつとめたAE1とAE2は、
アルミ合金を芯材として表面を特殊処理の薄膜シートで被うことで、
高剛性と適度内部損失を両立させただけでなく、
大入力時のボイスコイルの熱を効率良く振動板から逃がすことにも成功している。
口径はわずか9cm、センターキャップが鋭角なのも視覚的な特徴であるとともに、
このブランドのスピーカーの音とぴったり合う。
トゥイーターもマグネシウム合金を採用するなど、意欲的な設計だ。
そしてAE1、AE2が、LS3/5Aとはもちろん、SL6とも大きく異るのは、
バスレフ型エンクロージュアを採用していることだ。
セレッションSL6の開発スタイルは、同じイギリスのアレックス・モールトンとそっくりだと思う。
アレックス・モールトンは小口径ホイールの自転車で、
日本で一時期流行したミニサイクルの原型と言われている。
開発者のモールトン博士は、理想の自転車を開発するために、
まず従来の大口径ホイール(28インチ)とダイヤモンド・フレームという組合せだけでなく、
いままでの自転車の乗り方にまで疑問を持ち、自ら、ひとつひとつの疑問に答を出し、
その結果が、小口径ホイール(17インチ)とサスペンション、トランス・フレーム採用の、
現在の形態である。
通常とは異る乗り方も考え出したらしいが、危険な面もあり、従来の位置関係を踏襲している。
モールトンは、まずサイズありき、でもない。一般的な常識ありき、でもない。
従来の枠組みの中での理想を追い求めたのではない。
アレックス・モールトンの輸入元は、
質量分離型トーンアームの DV505やスーパーステレオ方式、
ダイヤモンドカンチレバーを早くからカートリッジに採用していたダイナベクターである。
ブリヂストンがライセンス生産しているブリヂストン・モールトンもある。
セレッションSL6の横幅は20cmである。
開発リーダーのグラハム・バンクが当時語っていたのが、
エンクロージュアの横幅が広いと音場感の再現に悪影響をもたらす、ということだった。
エンクロージュアの左右の角からの不要輻射とユニットからの直接音との時間差がある程度以上になると、
人間の耳は感知し、その結果、音場感がくずれてしまうらしい。
スピーカーを左右の壁に近づけすぎると、
スピーカーからの直接音と壁からの一次反射音との時間差が少なくなると、
部屋の響きとしてではなく、音の濁りとして感知されるということは、
以前から言われていたが、エンクロージュアの不要輻射に関しては反対のようだ。
おそらく面と線(エンクロージュアの角)の違い、
反射と不要輻射の違いからくるものだろう。
個人的な意見だが、エンクロージュアの側板の鳴きは、響きが美しければ、
スピーカー全体の音を豊かに響かせてくれると感じている。
スピーカーの角度の振りは、聴取位置から、
エンクロージュアの側板が見えるくらいの方が、時として楽しめる音を出してくれる。
グラハム・バンクによれば、ひとつの目安として、
エンクロージュアの横幅は、人間の左右の耳の間隔と同じにすることらしい。
これよりあきらかに横幅が大きくなると、音質上問題が生じるとのこと。
SL6のウーファー口径の15cmは、
エンクロージュアの横幅をぎりぎりまで狭くしたいことも理由のひとつだったのかもしれない。
日本のスピーカーで、ラウンドバッフルが流行った。左右のコーナーを直角ではなく、丸く仕上げている。
ラウンドバッフルは指向性の改善のためと言われているが、
ある程度低い周波数まで効果があるようにするには、かなり大きいカーヴが必要になる。
ダイヤトーンの2S305くらいのラウンドバッフルでなければ、改善効果は高い周波数に限られる。
にも関わらずカーヴの小さなラウンドバッフルが増えてきたのは、不要輻射を抑えるためである。
直角よりも少しでもラウンドバッフルにしたほうが、
エンクロージュアの左右の角からの不要輻射は減ることがわかっている。
一般的なコーン型ユニットの口径は、8cm、10cm、12cm、16cm、20cm、25cm、30cm、38cmである。
セレッションのSL6のウーファーの口径は15cm。おそらく他のメーカーだったら16cmを採用しているだろう。
15cmと16cm、それほど大きな違いはないようにも感じられるが、
あえて15cmにしている点は見逃せないと思える。
SL6のユニットは、トゥイーターもウーファーも、専用の新規開発だから、
16cmすることもたやすかったはず。
それにウーファーは面積が大きいほど低音再生に関しては有利になってくる。
SL6はウーファーは高分子系重合材を振動板に採用している。
剛性、内部損失、経年変化の度合い、製造時のバラツキの少なさなどを考慮しての選択だろうが、
おそらく16cmもつくっていると、私は思っている。もしかしたら14cmのものをつくっているのかもしれない。
それらをレーザー光線による振動の動的解析を行なった上で、振動板の材質との兼合いも含めると、
15cm口径が、彼らの求める性能を実現してくれたからなのだろう。
まずサイズありき、の開発では、15cm口径のウーファーはあり得なかっただろう。
そういえば、同じイギリスのグッドマンのAXIOM80も、約22.5cmという中途半端な口径だった。
どちらかといえば保守的な印象の濃いイギリスだが、
暗黙の規格に縛られないところもイギリスの良さなのかもしれない。
私がステレオサウンドに入ったころの、試聴室でリファレンスアンプとして使われていたのは、
マッキントッシュのC29とMC2205の組合せだった。
セレッションのSL6も、最初、この組合せで聴いた(はずだ)。
まだCD登場前だから、プログラムソースはアナログディスクで、
プレーヤーはパイオニア・エクスクルーシヴのP3aと、
カートリッジはオルトフォンのMC20MKIIを使用。
この組合せから出てきた音に、驚いた。
そしてクレルのKMA200と、純正のコントロールアンプPAM2の組合せにつないだときの驚きは、
オーディオで体験した驚きの中で、いまでも強烈な印象を残している。
何がそこまで強烈だったのか。低音の再現力の素晴らしさであった。
JBLの4343BWX(もしくは4344)でも、当然KMA200の音を聴いている。
JBLでの、マッキントッシュとクレルの差よりも、SL6で聴いたほうが違いが素直に出てきた。
低域にその違いがはっきりと出た。
SL6のウーファーは、高分子系の振動板で、ダストキャップのないワンピース構造という特徴はあるが、
口径はわずか15cm。JBLは38cm口径。
にも関わらず、圧倒的な、最低域まで素直に伸びた、量感ある低音を聴かせてくれたのはSL6だった。
アンプを変えたことで、ここまでスピーカーの低域の再現能力が大きく変化するとは、
JBLで、KMA200を聴いた時には想像できなかった。だから驚きは倍加された。
しかも安定した鳴りかたで、まったく不安定さを感じさせない。
こういう低音は、聴いていて気持ちがいい。
そして、クレルのアンプも、サイズについて考えるのに好適の存在である。
セレッションのSL6をはじめて聴いたのは、ステレオサウンドの新製品紹介の記事の試聴で、だ。
山中先生に試聴をお願いしていた新製品のいくつか聴いてもらい、最後に鳴らしたのがSL6である。
当時の試聴室のリファレンススピーカーのJBL(4343BWXだったり4344だったりしていた)を
どかした場所に専用スタンドの上に乗せたSL6を設置した。
小型スピーカー・イコール・LS3/5Aの印象が強いころだっただけに、
「この位置で、ほんとうに大丈夫?」と訝りながらも、出てきた音には素直に驚いた。
SL6が登場したときは、まだCDが出ておらずアナログディスクでの試聴なのだが、
ウーファーのフラつきがなく、いささかの不安も感じさせずに安定した低音を響かせる。
LS3/5Aよりもサイズはたしかに大きいが、あきらかに時代の違いが現われている。
とにかく音だけ聴いていると、目の前にあるSL6のサイズを想像できない。
山中先生も興奮されている。
「これで鳴らしてみようよ」と言われた。
さっきまでJBLで聴いていたクレルのモノーラルパワーアンプのKMA200は、
A級動作で200Wの出力をもつ、筐体の大きさはSL6よりも大きい。
価格もSL6がペアで156000円に対し、KMA200はたしか258万円だった。
ここでもう一度驚くことになる。
ロジャースのLS3/5AとセレッションのSL6、どちらもイギリスで誕生した、いわゆる小型スピーカーだが、
LS3/5Aが可搬型モニタースピーカーとして、サイズ自体の設定から開発が始まったのに対し、
SL6は、技術者が求める性能を満たすために必要な仕様として、逆にサイズが割り出されたものであること、
最初から小型スピーカーとして開発が始まったわけではない、という点が、
開発年代の違いとともに、2つを比較すると浮び上がってくる。
セレッションはSL6の開発にあたり、従来の開発手法を用いるのではなく、
技術部長のグラハム・バンクが数年前から取り組んでいたレーザー光線とコンピューターによる
スピーカーの振動モードの動的な解析技術を導入している。
この解析法で、スピーカーユニットの振動板の形状から素材まで徹底して調べ研究することで、
ユニットの口径・構造、システム全体の構成、エンクロージュアの寸法まで決定されている。
SL6は小型スピーカーをつくろうとして生れたきたものではなく、
セレッションが、当時の、持てる技術力で最高のスピーカーをつくろうとした結果のサイズである。