Archive for category LS5/1A

Date: 10月 1st, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その28)

LE175DLHの原型とはいえない面ももつけれど、
型番の上からは原型ともいえるD175H1000は、1947年に登場している。
H1000は8セルのマルチセルラホーン。

これが1950年にD175Hとなって、さらに175Hに変更されている。
この名称の変更は、ドライバーのD175が175になったためである。
そして1952年、175DLHが登場する。

175DLHは、175ドライバーと1217-1200(Horn/Koustical Lens)の組合せであり、
この蜂の巣状の音響拡散レンズの原型は、
1949年(ランシングが亡くなった年)にベル研究所のウインストン・コックと
F. K. ハーヴェイによって開発されたもの、とのこと。
この原型を、ウェストレックスのジョン・フレインが引き継ぎ,
バート・ロカンシーとともに完成させている。
それが1217-1200で、これがロカンシーのJBLでの最初の仕事のようである。

175DLHをランシングは、見ていない。
これをもし見ていたら……、と思ってしまう。
もしかしたら、175DLHを搭載した同軸型ユニットを開発していたかもしれない、と。

アルテックの604のマルチセルラホーンのかわりに、1217-1200がついている。
その姿を、妄想してしまうときがある。

Date: 9月 28th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その27)

LE175DLHの型番末尾のDLHは、Driver, Lens, Horn の頭文字をとったもの。
このスピーカーユニットは何度か変更が加えられている。

外観ですぐ分かるのはホーンの長さが初期のモノは長く、途中から短くなっている。
それにごく初期のモノはホーンが金属の削り出し、ということだ。

だからLE175DLHを使う、といってもどの時代のモノを使うのか、という点が問題にならないわけでもない。
程度が優れたモノが入手できるのであれば、そのごく初期の削り出しホーンの175DLHを手にしてみたい、
そういう気持は、オーディオマニアだから否定しようとは思わない。
でもここではそれが2組(4本)必要である。

LS5/1と同じ使い方をするから、下側の配置する175DLHと上側に配置する175DLHが同じ時期、
シリアルナンバーの近くなければ、ということはあまり気にしなくてもいいのかもしれない。

だから初期の175DLHと後期の175DLHがそれぞれ1ペアずつ揃えばいい、という考え方ができるし、
どちらを上側、下側に配置するかは実際に音を聴きながら決めることでもある。

でもそういう気持の一方で、やはり同時期の175DLHで揃えたい、という気持もある。
実際は、こちらの気持などは関係なく、そのとき出合える175DLHによって決ってくる。

こんなふうにあれこれ書いているけれど、この案を実行できる日が来るのかも、書いている本人にもわからない。
でも、LE175DLHが上下に2発配置されていて、その下にヴァイタヴォックスのウーファーがある姿は、
想像していると、けっこう様になっている、意外に堂々とした風貌のスピーカーシステムに仕上がりそうだ。
少なくとも、私の頭のなかでは、いい感じに仕上がっている。

程度のいいモノが入手できて組み上げたからといって、すんなりうまくいく部分もあれば、そうでない部分もある。
少なからぬ時間がとられるとしても、このスピーカーの音は、つくり出したい。

Date: 7月 12th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その26)

低域はヴァイタヴォックスで、中高域はJBL、
つまり低域はイギリスで中高域はアメリカ、ということでもある。
いくらなんでも、そういう組合せでうまくいくわけがないだろう、と思われても仕方ない面がある。

でもヴァイタヴォックスは、ロンドン・ウェストレックスのスピーカーユニットの製造を請け負っていた会社だ。
そういうこともあり、イギリスのアルテック的な捉え方もされている。
となると、ヴァイタヴォックスも、JBLもアルテックも元をたどれば同じところに行きつく。
まったく異質なモノを組み合わせようとしているわけではない、というすこし強引な言い訳はできる。

BBCモニターは、LS5/1のときからウーファーとトゥイーターの製造メーカーは違っていた。
LS5/1ではウーファーはグッドマン製、トゥイーターはセレッション製だった。
LS3/5Aはウーファー、トゥイーターともKEF製だったが、むしろメーカーが揃っていることが珍しい。

BBCの流れを汲むスペンドール、ハーベスなどもウーファーは自社製でも、トゥイーターは他社製だ。
LS5/8ではトゥイーターはフランスのオーダックス製と、国とメーカーも異る仕様になっている。

そんなことも併せて考えると、ウーファーがヴァイタヴォックス製で、トゥイーターがJBLというのは、
なにかうまくいきそうな感じがしないが、
音楽のメロディ帯域の受持つウーファーがヴァイタヴォックス(イギリス製)であれば、
多少苦労してでも、うまく音をまとめあげれば、決して異端のスピーカーシステムというよりも、
わりと真当なスピーカーシステムと仕上がるはずだ。

そんな確信に近いものをもてるのは、
LE175DLHは、瀬川先生が惚れ込まれたユニットのひとつだから、である。

Date: 7月 10th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その19の補足)

ストロットを採用したスピーカーシステムはBBCモニター以外にも、
この項で取り上げたAmazonのA.M.T.One以外にも、日本のスピーカーシステムの中にも過去に製品化されている。

1970年代半ばにオンキョーから出たE212AとE213Aが、そうだ。
BBCモニターと、これら2機種のスピーカーシステムの差違はウーファーの取りつけ方と、
それにともなうストロットの設け方である。

BBCモニターではフロントバッフルの開口部を矩形として、バッフルの裏側からウーファーを取りつける。
オンキョーのスピーカーシステムでは、フロントバッフルの表からとりつけて、
ウーファーの前面に矩形開口部のサブバッフルを取りつけている。

オンキョーでも、矩形開口とすることで、ウーファーの中域までの指向特性を改善できる、としている。
オンキョーの2機種で注目したいのは、ストロットの形状に違いがあること。
E213Aで一般的なストロットだが、E212Aでは矩形開口部の両脇にスリットがある。
つまり細長い板2枚をウーファーの左右両端に配して中央に大きめの矩形開口部をつくり、
ストロットを作っている板の外側にスリットができている。

ただこのスリットから見えるのはウーファーのフレームであり、振動板はかくれている。
ということはこの両脇のスリットからは何の効果もないのか……となりそうだが、
どうもそうは思えない。
それにE212Aのストロットの在り方をみていると、二重スリット実験を連想する。

ストロットの基本はBBCモニター的手法となるけれど、もう少し発展させたストロットがありそうな予感を、
E212Aは与えてくれた、といってもいい。

Date: 6月 25th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その25)

LE175DLHをトゥイーターに使うとしたら、ウーファーはやはり同じJBLのD130もしくは130Aというのが、
順当な選択ということになるが、
元のモデルとなったLS5/1Aがイギリス製の、BBCモニターであるからして、ウーファーはイギリス製にしたい。

中高域にJBLのユニットをもってきている時点で、そんなことをいうのはおかしいだろう、という声もあるだろうが、
私の中でのLE175DLHの位置付けは、他の.JBLのコンプレッションドライバーとはすこし違う。
それからジャズをメインとして聴いているのであれば、JBLのウーファーを迷わず選択するが、
私が聴くのはクラシックが圧倒的に多い。

ウーファーの口径は15インチ(適当なものがなければ12インチ)で、
LS5/1A同様、1.75kHzあたりまで使うこと、それに中古であっても入手がそれほど困難でないもの、となると、
思い浮ぶウーファーはひとつしかない。
ヴァイタヴォックスのAK157だ。この古典的なウーファーは、カタログ上の周波数特性は5kHzまで、となっている。
1.75kHzあたりのクロスオーバー周波数を考えているから、AK157はこの点でもぴったりだ。

カタログには出力音圧レベルの記載はないけれど、能率は高いもののはずだ。
同社のシステムCN191、BassBin、Bitone Majorではコンプレッションドライバーとの組合せで使われている。
このことからして低能率のウーファーではないはずだ。

ウーファーが低能率でも、
中高域のコンプレッションドライバーのレベルをアッテネーターで減衰させればすむこと、
それほどウーファーの能率の高さは考慮しなくてもいい、とは私は思っていない。
できることならアッテネーターはなし、ですませたい。
無理なことが多いから仕方なくアッテネーターを挿入するわけだが、
それでも減衰量はできるだけ抑えたい、と思っているからだ。

Date: 6月 18th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・075について)

075の、誰も思いつかないような使い方を、井上先生が「HIGH-TECHNIC SERIES 1」に書かれている。

JBLのスピーカーユニットを使った3ウェイ構成で、
ウーファーに136A、スコーカーに375にHL88(537-500)、トゥイーターが075という組合せである。
ここで、「高域は文句なしに075だ」とされているが、こうもつけ加えられている。
     *
もしも、075がストレートに過ぎるなら、価格的に少し高いがHL91のスラントタイプ音響レンズだけを組み合わせよう。この場合の075の音は一変し、高音が一段と伸びた大変にスムーズな音がねらえる。
     *
いまの認識では音響レンズは音は悪くするもの。
ホーンの開口部のところには何も置くべきではない、という考えが主流のようで、
JBLから音響レンズ付のものはなくなっている。

そのとおりだとは思う。
けれど、とも思う。
日本のように、比較的近距離で聴く場合には、音響レンズは入念に設計しつくれば、
デメリットはあるもののメリットも、まだある、と考える。

Date: 6月 18th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その24)

JBLには075というトゥイーターがある。
カタログ上のスペックでは、2.5kHz以上で使える、となっている。

ステレオサウンド別冊「HIGH-TECNIC SERIES 3」での
JBLのLE8Tをベースにしたトゥイーター55機種の試聴テストに、075が登場している。

そこで瀬川先生は、クロスオーバー周波数を試しに1.6kHzまで下げても音がへたることなく、
エネルギーとしてきちんと出ている、と話されている。
だからといって1.6kHzから使えるわけではないのだが、
この試聴ではトゥイーターはバッフルに取り付けられることなく行なわれている。

バッフル板があれば、周波数特性は変化する。
それも高い周波数よりも低い周波数において、その差ははっきりと出る。

それに試聴ではスロープ特性は12dB/oct.となっている。
これが18dB、さらに24dBという高次のカーヴで遮断したらどうなるか。

075を2発バッフルに取り付けたとしたら、そして3kHz以上で上側の075をロールオフする。
つまり3kHz以下の周波数においては075は2発鳴っているわけで、
エネルギーレスポンス的に下りがちのこの帯域を補えることになる。バッフル効果にそれに加わる。

最大音圧レベルをそれほど要求しなければ、075でもいける可能性があるかもしれない。
仮にうまくいくという保証があったら、LE175DLHではなく075を使うか、というと、やはりLE175DLHをとる。

これはLE175DLHを選んだ理由でもあるが、放射パターンによって、である。
075のホーンの形状、それから指向特性を実際に見てもビーム状であることが読み取れる。
できるだけ拡散して、それも受持ち帯域内では周波数によって指向特性ができるだけ変化しない、
でということを求めているからだ。

Date: 6月 17th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その23)

瀬川先生の4ウェイ構想のミッドハイが受け持つ帯域は、下は1〜2kHzから上は8〜10kHzあたりの範囲である。

JBLのLE175DLHのことを、特に書かれていない。
国産にはこういう目的に合うものがなかった、とは書かれているが、
JBLではなくともアルテックには802-8Dはあった。
それにJBLだけにしぼったにしても、ホーンはいくつもある。
JBLのスタジオモニターの4300シリーズと同じスラントプレートの音響レンズつきのホーンHL91、
そのプロ用の2391(2307+2308)だってある。
ディフラクションホーンの2397もあったにもかかわらず、LE175DLHの型番しか登場してこないのは、
これは瀬川先生のお気に入りのスピーカーユニットだから、ということになる。
少なくとも私のなかでは、そういう結論である。

瀬川先生が宝物のように大事にしてこられたLS5/1Aを、
他のスピーカーユニットで現代に再現してみよう、というのだから、
瀬川先生がそれだけ気に入っておられたLE175DLHを使いたい。

理由はそれだけではない。
他のホーン、たとえば2397とか、ラジアルホーン、マルチセルラホーンを上下2段に重ねようとは思わない。
LS5/1と同じように、上側のユニットを3kHzから上をロールオフさせる使い方だとしても、である。

けれど蜂の巣状の音響レンズのLE175DLHだったら、うまくいきそうな予感がある。
同じ音響レンズでも、スラントプレート型の2段重ねは見た目の問題から、やる気はない。
375+537-500でもだめである。
高域が伸びていないからだけでなく、あの大きな開口部(直径34.3cm)が上下に2つある姿は美しくないし、
いい音がするとは思えない。
LS5/1がHF1300のフランジを外して、2つのHF1300をできるだけ接近させていることにも反することになる。
これはLE175DLHだから、試してみたい気にさせてくれる。

Date: 6月 16th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その22)

LS5/1というイギリスのモニタースピーカーを、現代につくる、というに、
アメリカの、それもJBLの、さらにはホーン型ユニットを中高域に使うなんて!、と思う人はいるだろう。

でも感覚的に私の中では、AMT型トゥイーターによるLS5/1型スピーカーシステムよりも、
JBLのLE175DLHを使うほうを実行に移したい、という気持はずっと強い。

LE175DLHは、JBLの数々のスピーカーユニットの中で、見ただけで欲しくなってしまったモノである。
LE175DLHよりも、375に537-500を組み合わせたほうが、もっと堂々として存在感がある。
本格的にJBLのユニットでシステムを構築するのであれば、LE175DLHよりも375+537-500の方が可能性は大きい。

だがLS5/1型スピーカーに使うには大きすぎるし、高域の伸びの不足もある。
それにLE175DLHのほうが、美しい。
それは、途中からホーンが短くなり全体にズングリした印象になる以前の、
スマートだったころのLE175DLHは、スピーカーユニットとしてのデザインの完成度は高いと感じている。

瀬川先生がJBLの3ウェイの自作スピーカーで聴かれているころのリスニングルームの写真に、
ウーファー用のエンクロージュアの上に、LE175DLHが置かれている。
鳴っているのは375+537-500である。

375+537-500を使いながらも、音を聴くときに必ず目にはいってくるところに、
それまで使われていたLE175DLHを置かれていること、
そしてステレオサウンド別冊「HIGH-TECHIC SERIES-1」に載っていた瀬川先生の4ウェイの構想。

フルレンジを使うミッドバス、トゥイーターには、それぞれ14機種、推奨ユニットをあげられている。
にもかかわらず、ミッドハイは最初からLE175DLHのご指名である。

Date: 6月 13th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その21)

いま入手可能なスピーカーユニットでつくる、ということで書き始めたのが、この項だが、
この「入手可能」は現行製品に限ると言う意味での「入手可能」ではない。

中古であっても市場に流通していていた数が多いものであれば、比較的状態のいいものがあせらなければ入手できる。
そうやって入手できるスピーカーユニットと現行製品のスピーカーユニットをあわせて、2つの案を考えている。

ひとつはAmazonのA.M.T. Oneと似た構成になるが、トゥイーターにAMT型を採用したもの。
もうひとつはトゥイーターに、JBLのLE175DLHを使ってみたい、と考えている。
もちろんどちらの案でもトゥイーターは片チャンネルあたり2発使う。
その使い方もLS5/1に準じる。

AMT型トゥイーターを使う案では、2ウェイでもできるかぎりワイドレンジにしたい、
LE175DLHでの2ウェイではそうはいかないし、オリジナルのLS5/1よりも高域の伸びは劣ることになる。
それでもLE175DLHでやってみたい、という気持は強い。

Date: 6月 12th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その20)

数年前、ステレオサウンドの連載記事で、「名作4343を現代に甦らせる」というのがあった。

それはアマチュアの自作スピーカーの記事ではなく、
ダイヤトーンでスピーカーの設計に長年携わってこられた佐伯多門氏によるもだった。
佐伯氏がいたころ、ダイヤトーンは4343と同寸法の4ウェイのスピーカーシステムDS5000を出している。

私の勝手な憶測だが、あえてDS5000を4343と同寸法で出してきたということは、
4343を研究し尽くして、のことだと思う。
それにステレオサウンド 47号に掲載されている4343の測定は、ダイヤトーンによって行なわれている。

だから記事の1回目を読んだときは、期待もあった。
けれど残念なことに、回が進むごとに、おかしな方向に進んでいった。

おかしな方向、と書いてしまったが、技術的におかしな方向という意味ではなく、
「名作4343を現代に甦らせる」というタイトルからそれてしまった、という意味でのおかしな方向である。

結局「名作4343を現代に甦らせる」は、
「名作4343の使用ユニットを現代に甦らせる」とタイトルを変えるべき内容であり、
4343という1970年代のスピーカーシステムを、
21世紀のスピーカーシステムとしてリファインする内容ではなかった。

この「名作4343を現代に甦らせる」に欠けていた、
しかし最も大事にしなければならなかったことは、
4343というスピーカーシステムを4343と存在させ、認識させている要素・要因はなんなのかを、
しっかりと見極めたうえで、
変えてもいい箇所、絶対に変えてはいけない箇所をはっきりとさせたものでなくてはならないはずだ。

なのに変えてはいけないところまで無残にも変えてしまった。
だからこの記事は「名作4343の使用ユニットを現代に甦らせる」とすべき内容である。
このタイトルでだったら、こんなことを書かなくてもすむ。

ここの項のタイトルには「妄想組合せ」とはつけてはいても、こんな過ちは犯したくない。

Date: 6月 12th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その19)

BBCモニター系列のスピーカーシステムが、LS5/1から採用してきた、
ウーファーの開口部を矩形にすることを、ストロットと呼ぶ。

LSナンバーをもつBBCの正式モニターでは、このストロットを採用したのはLS5/8が最後だが、
1981年にスペンドールから登場したSAIIIにもストロットは採用されている。
さらに日本のオーディオクラフトが、LS5/8の原型となったチャートウェルのPM450Eを設計し、
ポリプロピレンのコーン型スピーカーに関する特許をもつステビング氏を招いて、
スピーカーシステムの開発を行なっていた。
1982年ごろのことだ。ステレオサウンド 65号のオーディオクラフトの広告で、そのことが触れられているし、
この年のオーディオフェアでも試作品が展示されていた。

型番はAP320で、ロジャースのPM510とほぼ同じ構成で、30cm口径のポリプロピレン・コーン型ウーファー、
ソフトドーム型トゥイーターの2ウェイ構成。
PM510との相違点はトゥイーターが片チャンネルあたり2発使われている。
といってもLS5/1的な使い方ではなくて、フロントバッフルを見る限りは通常の2ウェイ・システムだが、
表から見えるトゥイーターの後ろ側にもう1発のトゥイーターがあり、
表側のトゥイーターの周囲にいくつも開けられている小孔から、そのトゥイーターからの音が放射されるもの。

製品化を待っていたスピーカーシステムだったが、登場することはなかった。
このAP320も、ウーファーの開口部はストロットである。

LS5/1のときは矩形だったストロットは、LS5/8のときには四隅を斜めにカットした形状に変更されている。

この項の(その12)に書いたAmazonのA.M.T. Oneは、
BBCモニターのようにフロントバッフルの裏側からウーファーを取り付けるのではなく、
表側からとりつけ、エンクロージュアの両端にサブバッフルを用意することで、ウーファーの左右を覆っている。
これもAmazon流のストロットといえる。
しかもエンクロージュアの横幅は、これもBBCモニターと同じようにぎりぎりまで狭めている。

Amazonのサイトでは日本の取扱いはスキャンテックになっているが、
スキャンテックのサイトには、取扱いブランドにAmazonはない。
いま日本には輸入代理店がない状態のようだが、A.M.T. Oneは興味をそそるスピーカーシステムだ。

Date: 5月 15th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その18)

LS5/1はトゥイーターのHF1300に手を加えて搭載している。
LS5/1AのウーファーのグッドマンCB129Bも、
そのままではなく、フレームの左右は垂直にわずかとはいえ切り落している。
そうすることで、フロントバッフルの幅をぎりぎりまで狭めている。

イギリスの、それもBBCモニター系列のスピーカーシステムのエンクロージュアのプロポーションは、
横幅はわりと狭く、奥行が概して長くとられている。
高さ方向も、わりと高い方である。

アメリカのスピーカーシステムでは、どちらかといえば横幅が広く、奥行はわりと浅い傾向にある。
その極端な例のひとつが、1980年代に日本にはいってきたボストン・アコースティックスのA400だ。
ここまで奥行を浅くしたイギリスのスピーカーといえば、
ジョーダン・ワッツのモジュールユニットをおさめたものが薄型エンクロージュアだが、
これ以外では、とくにBBCモニター系列のなかにはまず見当たらない。

エンクロージュアのプロポーションは、とうぜん音の傾向に大きく関係してくる。
それにしても、なぜLS5/1Aでは、ウーファーのフレームを切り落としてまでも、
横幅を狭めているのか、と思う。
板取の関係とは思えない。

LS5/1Aはもともと市販するために開発されたものではなく、
そこで板取を優先した結果としてフロットバッフルの大きさが決り、
それに合わせるためのウーファーのフレームの加工、というふうには考えにくい。

これは、やはりエンクロージュアの横幅を狭めることの音質上のメリットを優先してのことだと思う。

Date: 5月 8th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その12の補足)

ステレオサウンド 51号に「♯4343研究」の第一回が載っている。
サブタイトルには、ファインチューニングの文字があり、
JBLのプロフェッショナル・ディヴィジョンのゲーリー・マルゴリスとブルース・スクローガンをまねいて、
ステレオサウンドの試聴室で、実際に4343のセッティング、チューニングを行ってもらうという企画だ。

いまステレオサウンドでは、過去の記事を寄せ集めたムックを頻繁に出しているが、
こういう記事こそ、ぜひとも収録してほしいと思う。

この記事の中で、スピーカーのセッティングは、
ふたつのスピーカーを結ぶ距離を底辺とする正三角形の頂点が最適のリスニングポイント、となっている。
ステレオ再生の基本である正三角形の、スピーカーと聴き手の位置関係は、大事な基本である。

マルゴリスは、正三角形の基本が守られていれば、
スピーカーのバッフルを聴き手に正面を向くようにする必要はないと語っている。
その理由として、水平方向に関しては60度の指向特性が保証されているから、ということだ。

さらにスピーカーシステムにおいて、指向特性が広帯域にわたって均一になっていることが重要なポイントであり、4343、つまり4ウェイの構成のスピーカーシステムを開発した大きな理由にもなっている、として、
他では見たことのないグラフを提示している。

そのグラフは、水平方向のレスポンスが6dB低下する角度範囲を示したもので、
横軸は周波数、縦軸は水平方向の角度になっている。

十分に低い周波数では指向特性はほとんど劣化していない。周波数が上っていくのにつれて、
角度範囲が狭まっていく。
グラフはゆるやかな右肩下りを描く。

グラフ上には、4ウェイの4343、3ウェイの4333、2ウェイの4331の特性が表示されていて、
ミッドバスユニットのない4331と4333では500Hzを中心とした帯域で指向特性が劣化しているのがわかる。
4331ではこの帯域のほかに、トゥイーターの2405がないためさらに狭まっていく。
4343がいちばんなだらかな特性を示している。

ただしこれはあくまでも水平方向の指向特性であり、垂直方向がどういうカーヴを描くのかは示されていない。

マルゴリスは、指向特性が均一でない場合には、直接音と間接音の比率が帯域によってアンバランスになり、
たとえばヴォーカルにおいて、人の口が極端に大きく感じられる現状として現れることもある、としている。

別項でもふれているように、4ウェイ構成は、なにも音圧だけの周波数特性や低歪を実現するためだけでなく、
水平方向の指向特性を均一化のための手法でもあり、
私は、瀬川先生は指向特性をより重視されていたからこそ、4ウェイ(4341、4343)を選択され、
さらにKEFのLS5/1Aを選択された、と捉えている。

だから瀬川先生のリスニングルームに、4341とLS5/1Aが並んでいる風景は、
瀬川先生が何を求められていたのかを象徴している、といえる。

Date: 5月 8th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その17)

LS5/1では、なぜトゥイーターを直接フロントバッフルに取りつけなかったのか、
その理由はHF1300を2本使っていることと関係している。
つまりできるかぎり2つのHF1300を接近させて配置するため、である。

HF1300をそのままとりつけると、当然取付用のためのフレーム(フランジ)の径の分だけ、
HF1300の振動板の距離はひらくため、これをさけるためにLS5/1では、HF1300のフランジを取りさっている。
だから、そのままではバッフルには取りつけられない。

以前のJBLのトゥイーターの075、2405も初期の製品ではフランジがなかった。
そのため4350の初期のモデル(ウーファー白いタイプの2230)では、2405のまわりに、
いわゆる馬蹄型の金属の取付金具が目につく。

4350のすぐあとに発表された4341では、075にも2405にもフランジがつくようになっており、
バッフルにそのままとりつけられている。
4350もウーファーが2231に変更された4350Aからは、2405のまわりに馬蹄型の金具はない。

LS5/1の、トゥイーター部分の鉄板は、このフランジがわりでもある。
おそらくHF1300からの漏れ磁束を利用して鉄板を吸い付けていると思われる。
もちろんこれだけでは強度が不足するので、コの字の両端をすこし直角に曲げ加工した金属を使って、
HF1300を裏から保持している。

つまりLS5/1のトゥイーターは、2本のHF1300をひとつのトゥイーターとして見做している、といえる面がある。
しかもそれは現実には1つのユニットでは実現不可能な、振動板の面積的には、この部分は2ウェイいえる。
ウーファーとのクロスオーバー周波数の1.75kHzから3kHzまではふたつのHF1300は、同条件で鳴り、
振動板の面積は2倍だが、3lHz以上では上側のHF1300はロールオフしていくから、
振動板の面積的には疑似的に下側のHF1300の振動板の面積にしだいに近づいていく。

LS5/1全体としては、振動板の面積でとらえれば3ウェイという見方もできなくはない。