background…(その1)
安部公房の「他人の顔」の主人公〈ぼく〉について書いている。
《ぼくは決して、音楽のよき鑑賞者ではないが、たぶんよき利用者ではあるだろう》、
「他人の顔」の〈ぼく〉は、そう語っている。
いまの時代、利用されている音楽は?、というと、ジャズかもしれない──。
e-onkyoの、各ジャンルのニューリリースを眺めるたび、そう思ってしまう。
いまe-onkyoのジャズのニューリリースのところには、
「朝、コーヒー、ジャズ。」、「ゆったり朝に聴きたいボサノヴァBGM」、
「朝カフェで流れるおしゃれなジャズBGM」、
「ハーブティーとゆったりジャズでくつろぐ午後」、
「気分を高めて仕事をするためのジャズ」、
そんな類のタイトルがけっこうな数、並ぶ。
他のジャンルのニューリリースのところには、この手のものがまったくないわけではないが、
ジャズのところの数の多さはダントツ。
見るたびに、なんなんだろう、と思う。
この手のタイトルのアルバムを買う人がいるのか。
そう私は思ってしまうのだが、
以前からずっとリリースされているのだから、ある程度の数は売れているのだろう。
どんな人が買っているのかは、私にはまったくわからない。
そして、タイトルにあるような利用の仕方(聴き方)をしているのかもわからない。
「気分を高めて仕事をするためのジャズ」を、
ハーブティーとともにくつろぎたいときに聴く人はいるのか、
「朝カフェで流れるおしゃれなジャズBGM」を聴いて、
気分を高めて仕事をする人はいるのか──。
この種のタイトルのアルバムを購入する人は、
タイトルにあるような聴き方をしているとすれば、
その人ははたして音楽のよき利用者といえるのか。
ここでのよき利用者は、そういうタイトルをつけて提供している側なのか。