background…(ポール・モーリアとDitton 66・別の余談)
ステレオサウンド 43号、ベストバイの特集のなかで、
瀬川先生がセレッションのDitton 66について、こんなふうに書かれている。
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仕事先に常備してあるので聴く機会が多いが、聴けば聴くほど惚れ込んでいる。はじめのうちはオペラやシンフォニーのスケール感や響きの自然さに最も長所を発揮すると感じていたが、最近ではポピュラーやロックまでも含めて、本来の性格である穏やかで素直な響きが好みに合いさえすれば、音楽の種類を限定する必要なく、くつろいだ気分で楽しませてくれる優秀なスピーカーだという実感を次第に強めている。
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《仕事先に常備してある》。
この仕事先がどこなのか、ずっと疑問だった。
最初に読んだ時は中学三年だったから、
瀬川先生について、それほどいろんなことを知っているわけではなかった。
どこかメーカーのショールームにあるのだろうか、とまず思った。
一、二年読んでいるうちに、デザインの仕事をやられていたことを知った。
だから、デザインの事務所なのか、と次におもった。
けれど、このころは事務所を構えてデザインの仕事をやられていたわけではないことが、
またしばらくしてわかった。
すると、どこなのか。
Ditton 66が常備してある仕事先?
瀬川先生と親しかったオーディオ関係者に訊いたけれど、わからなかった。
どこだったのか。
長年の疑問だった。
一ヵ月ほど前に、ひらめいた。
あそこだ、池袋の西武百貨店のオーディオ売場のことだ。
瀬川先生は西武百貨店のオーディオ売場で、
定期的に客(オーディオマニア)相手の相談の仕事をされていた。
ここならば、確かに仕事先だし、Ditton 66が常備してあっても不思議ではない。
誰かに確かめたわけではないが、間違っていないはずだ。
ほとんどの人にとって、瀬川先生の仕事先がどこなのかは、
どうでもいいことでしかないのはわかっている。
それはそれでいい。
私がそうじゃないだけのことだ。