ステレオサウンド 34号に「レコーディングにおける音楽創造を探る」という記事がある。
スイスのレーヴェル、クラーヴェス(Claves Records)が、
日本で録音を行った際の取材をもとに記事はつくられている。
クラーヴェスの録音エンジニア兼ディレクターのシュテンプㇷリ氏に、
どんな再生装置を使っていますか、という質問がなされている。
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シュテンプㇷリ 可能なかぎり録音に使ったものと同じ機種で聴いています。具体的にいうとプレーヤーはEMTで、スピーカーはアルテック、そしてスピーカーにはクライン&フンメル社の特製アンプが組み込まれています。これはドイツで放送局用に特注されたもので、OZの型番で呼ばれており、この組み合わせは方々のスタジオで使われていますから、初めてのスタジオでもすぐに仕事にかかれることが多いのです。
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K+HのOZという型番のスピーカーシステム。
どんなスピーカーなのか。
日本での録音でのモニタースピーカーには604Eが入った612が使われていることが、
記事中の写真でも、記事の最後に録音器材のリストでも確認できる。
だからOZは604E搭載で、内蔵アンプがK+Hによるものだと当時は想像していた。
これ以上の情報はなかったのだから、そう思ってしまった。
K+H(KLEIN & HUMMEL)は、現在ノイマン傘下の会社になっているが、
いまもスタジオモニターを開発・製造している。
数年前に製造中止になってしまったのが残念だが、
O500Cという3ウェイのスタジオモニターの特性は驚くほどのレベルだった。
スピーカーの特性を、ここまで向上できるのか、と、
オーディオマニア的おもしろさはやや欠けるものの、
もうスピーカーシステムとは、
デジタル信号処理と内蔵アンプを含めて考えていくものだ、と思わせる。
でもK+Hは、昔もいまもどちらかといえばマイナーな存在といえよう。
ステレオサウンド 46号でOL10とO92が取り上げられていて、
私にとって、OL10はぜひとも聴いてみたいスピーカーのリストのトップになるほど、
興味津々のスピーカーだったが、これも聴く機会はなかった。
K+Hのことになると、どうも話がそれてしまう。
OZのことに話を戻せば、さらに以前のモニタースピーカーということぐらいしかわからなかった。
K+Hのウェブサイトには”Historical Products“という項目がある。
すでに製造中止になったモデルの詳細を、ここで知ることができる。
OZの資料もあたりまえのようにある。
想像していたモノとまるで違う。
604を搭載したシステムではなかった。
15インチ口径のダブルウーファーにホーン型のトゥイーターの2ウェイである。
けっこう大型のシステムだ。
このOZが当時のドイツの放送局のモニタースピーカーだったのか。
これにEMTのアナログプレーヤーの組合せで、
シュテンプㇷリ氏はアナログディスクを聴いていたのか。
K+HにはSSVというコントロールアンプも1974年ごろ、日本にも入ってきていた。
ステレオサウンド別冊HI-FI STEREO GUIDEで、
小さなモノクロ写真と簡単なスペックでしか知らなかった。
おそらくはパランス出力を持っているであろうと予想できても、
昔は確かめようがなかった。
このSSVについても、資料が公開されている。
やっぱりそうだったか、と確認できた。
メーカーにとって過去の製品、
それも製造中止になってそうとうな年月が経つモノに関して、
何の資料も公開しないままでも、誰もそのことに対し否定的なことはいわない。
それだけにK+Hが、こうやって公開してくれているのは、
この会社がプロフェッショナルを相手にしているプロ用機器メーカーだからのような気がする。