オーディオのプロフェッショナルの条件(その2)
オーディオ店の前を通った際、気が向けばふらっと入る。
特に目的があるわけではなく、店内を一周して出てくるわけだが、
時々だが、客と店員の会話が耳に入ってくる。
先日もそうだった。
棚に並んでいるアンプを見ていたら、後から、あるオーディオ機器についての会話が聞こえてきた。
それから別の製品との比較の話になり、動作方式への話は移っていった。
製品の比較の時から、少し誤解があるよな、と思いつつ聞いてきたが、
動作方式に関しては、明らかに店員の説明は間違っている。
けれど客は、いつの間にか、店員の説に完全に同意してしまっている。
これでいいのか、と思う。
横から口を出したくもなったが、我慢した。
こうやって間違った知識が広まっていくのか。
そういえば、瀬川先生も同じようなことを書かれていた。
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ある若い人が私のところにへ相談に来た。新しい装置を入れたところ、低音が全然出ないどこが悪いのだろうか、という内容だ。月に四回、あるデパートでオーディオ・コンサルタントをしている一日のことである。
話を聞いてみると、JBLのプロ用のユニットを特製のキャビネット(この〝特製〟というのも少し怪しいのだが)に収めて大型のスピーカー・システムを作ってもらった、という。その人は自分では知識がないので、信頼している販売店の店員の言うなりらしい。アンプもそれ相応に、マークレビンソンその他でかなりお金がかかっている。それなのに低音が出ないというその出なさかげんは相当にひどいもので、たとえば別のプリアンプを持ってきてトーンコントロールで(マークレビンソンJCー2はトーンコントロールがないので)低音をいっぱいまで上げてみてもまだ出てこない、というのだ。これは異常である。
こういう場合、まず疑ってみるのは低音用スピーカーの接続のあやまちだが、その点は厳重にチェックしているという。むろん話だけで、ほんとうに合っているかどうか確認できないが、それよりもその人が、興味ある話をし始めた。
というのは、低音がどのくらい出ていないかということをチェックしてもらったら、七〇ヘルツまでしか出ていないことがわかった、というのだ。この辺から私は、この話はどこかおかしい、と気がつきはじめた。
七〇ヘルツという低音は、決して本当に低い低音とは言えないかもしれないが、聴感上は相当に「低い感じ」の音であって、たいていのブックシェルフ型スピーカーなら、六〇ないし八〇ヘルツぐらいまでしか出ていないものだし、それでも「けっこう低音がよく出ている」と感じるものなのだ。JBLのプロ用の三八センチ・ウーファーを二本ずつ収めた大型キャビネットで、もしも七〇ヘルツまで出ればもう圧倒的な低音が聴こえて不思議はない。それが出ないというのはどこかに大きなミスがある。
しかし私は、七〇ヘルツまで出ているというチェックの仕方に、まず興味を持った。ふつうの場合こういうチェックは、オーディオ・オシレーターか周波数レコードで低音をスイープ発振して、スピーカー・システムのインピーダンス特性を測定しながら、場合によってはマイクロフォンやオシログラフ、あるいはせめてサウンドレベルメーターを併用してチェックする。そうでなくては、七〇ヘルツぐらいとはいえても、七〇ヘルツまでしか出ていない、などと断定はできない。
しかしそういうめんどうな理屈をこねるような話ではなかった。なんと、その人の信頼している店員氏が、よく聴き馴れた歌謡曲のレコードを持ってきて、しばらく耳を傾けたのちに、「ウン! 七〇ヘルツ……」をやったのだという。気の毒だがやはり本当のことを言ってあげた方がよいと思った。「あなた、相当に程度の悪い人に引っかかってますよ」と。
(「新《サイクリスト》教祖」より)
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ここまで程度の悪い店員ではなかったけれど、
その口調はかなり断定的で、否定的でもあった。
それでも動作方式の技術的解説に間違いがなければまだいいが、そうではない。
あきらかに間違っての認識である。
店の名前を書かないのは、その店の店員ひとりのことであり、
おそらく他の多くの店員はそうではないであろうからだ。