Archive for category Bösendorfer/Brodmann Acoustics

Date: 11月 3rd, 2013
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, ショウ雑感

Bösendorfer VC7というスピーカー(2013年ショウ雑感)

Bösendorfer VC7というスピーカー」という項を立てて、(その28)まで書いている。
まだ書いて行く。

Bösendorfer(ベーゼンドルファー)からBrodmann Acousticsに変ってから、
日本へは輸入されていない。
現行製品ではあるけれど、日本ではいまのところ買えない。

だからこそ書いていこう、と思っているし、その反面、輸入が再開される可能性も低いだろう、と思っていた。

今年のインターナショナルオーディオショウでの、予想していなかった嬉しい驚きは、
Bösendorfer(Brodmann Acoustics)のスピーカーシステムが、
フューレンコーディネイトのブースの片隅に展示されていたことだった。

目立たないように、という配慮なのだろうか。
うっかりすると見落してしまいそうな感じの展示である。

今日の時点ではフューレンコーディネイトのサイトには何の情報もない。

Brodmann Acousticsのスピーカーシステムの日本での不在の期間(三年ほどか)がひどく永く感じられた。
このスピーカーシステムは、だからといって日本でそれほど売れるとは思えない。
思えないからこそ、このスピーカーシステムの輸入を再開してくれるフューレンコーディネイトには、
感謝に近い気持を持っている。

スピーカーのあり方は、決してひとつの方向だけではない。
そんなことはわかっている、といわれそうだが、
実際に耳にすることのできるスピーカーシステムの多くがひとつの方向に集中しがちであれば、
この当り前のことすら忘れられていくのではないだろうか。

その意味でも、Brodmann Acousticsが聴けるということは、
大事にしていかなければならないことでもある。
フューレンコーディネイトが、その機会をふたたび与えてくれる。

Date: 11月 6th, 2012
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その28)

VC7のウーファーはエンクロージュアの両側面にとりつけられている。
フロントバッフルにはとりつけられているのはトゥイーターのみ。

VC7と同じユニット配置のスピーカーシステムは他にもいくつか存在しているが、
そういったスピーカーシステムとVC7がはっきりと違う点は、
エンクロージュアの両側面に響板と呼べるものがとりつけてあることだ。

エンクロージュア両側面にとりつけられているウーファーの前面に、この響板がある。
ウーファーと響板との距離は狭い。

VC7におけるウーファーと響板の位置的関係をみていると、
別項「言葉にとらわれて」の(その7)で書いてる
エレクトロボイスの大口径ウーファー30Wの使い方と共通するところがあるのに気づく。

ここにVC7のもつ音響的バイアスの秘密があるのではなかろうか。

Date: 10月 30th, 2011
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その27)

ホールにはいったときに感じられる空気感は、ある種の音響的バイアスのようなものであり、
この音響的バイアスを再現できるスピーカーシステムと、そうではないスピーカーシステムがある。

再現できる、とつい書いてしまったが、
正しくは音響的バイアスを有するスピーカーシステムとそうでないスピーカーシステムがある、
としたほうが、じつのところ、より正確かもしれない。

つまり音響的バイアスは、スピーカーシステムがつくり出す演出的なもの、という捉え方もできよう。
タンノイのオートグラフは、まさにそういうスピーカーシステムであった、と思う。

音響的バイアスはプログラムソースに完全なかたちで収録されているであれば、
スピーカーシステムの演出による音響的バイアスに頼ることはないわけだが、
うまく収録されている録音もあればそうでない録音もあるだろうし、
まなじ、こういう音響的バイアスはないほうがすっきりしていていい、と思う人もいるし、
聴く音楽のジャンル(性質)によっては、よけいな響きというふうに認識されてしまうだろう。

音響的バイアスに対する評価は、人によってそれこそ大きく違ってこよう。
音響的バイアスを求める人にとって、VC7は貴重な存在といえる。
私にとっては、そういう存在のスピーカーシステムである。

VC7登場以前、音響的バイアスを再現(演出)してくれるスピーカーシステムは、
大口径ウーファー搭載のフロアー型スピーカーシステムばかりだった。

もちろん大口径ウーファー・大型フロアー型であれば……というわけではなく、
なかなかうまく再現してくれるスピーカーシステムはなかった。

小型スピーカーシステムにも優れたモノはいくつもある。
そういうスピーカーシステムには心情的にも惹かれるところがあるけれど、
音響的バイアスに関しては、まず無理だと思っていた。
なのにVC7は、じつにこの音響的バイアスを、VC7なりに自然に再現しているように思う。

Date: 10月 12th, 2011
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その26)

微小入力へのリニアリティという捉え方は、
そこにスピーカーのピストニックモーションの追求・実現が強いように感じる。

ベーゼンドルファーのVC7に私が感じているよさは、
そういう意味では微小レベルへのリニアリティのよさ、ということとはすこし違っている。
なんといったらいいのか、なかなかうまい言葉が見つからないのだが、
ごく小さなレベルでの空気のゆらぎみたいなものを、このスピーカーシステム(VC7)は再現している気がする。

クラシックの公演をメインを行っているホール、それも響きがいいといわれているホールに入ると、
あきらかにロビーとの空気の違いを感じる。
空気がゆったり動いているような、そんな感じを受ける。

まだ演奏は始まっていないが、人は大勢いる。
一緒に来た人と話している人もいれば、パンフレットをめくっている人もいる。
席を探している人、バッグを開け閉めしている人、
そういう人たちがつくり出している音がホールの壁や天井に反射しての空気のゆれ・ゆらぎなのだろうが、
この感じが、これからホールで演奏を聴くという気持にもっていってくれる。

開演ぎりぎりにホールにはいってしまうと、この空気感をあじわう時間的余裕が無く、
いきなり音楽が目の前で始まってしまう。それではせっかくの音楽が充分に楽しめなくなる。

変な例えで申し訳ないが、この開演前のホールの空気感を味わうのは、
アンプのウォームアップにも似ているような気もする。
アンプにしてもCDプレーヤーにしても、電源スイッチをいれて、たしかにすぐに音は出るものの、
その音はけっして安定した音ではない。アンプやCDプレーヤーが温まってくるにつれて、音も変化していく。

その変化の仕方は製品によって違うものの、どんなアンプでもウォームアップの時間は必要とする。

ホールにおいての聴き手のウォームアップ(というか気持の準備のようなもの)としても、
ホールの空気の揺れ・ゆらぎがあり、
これは再生においては単純に微小レベルへのリニアリティだけでは語れない要素のはずだ。

VC7よりも微小レベルへのリニアリティの優れたスピーカーシステムは、おそらくあるだろう。
でも、そのスピーカーシステムが、VC7のように響きの鳴らし分けに優れているかどうかは、別問題のように思う。

Date: 8月 31st, 2011
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その25)

ベーゼンドルファーのVC7は、録音(演奏)された場が、どういうところなのかを、
その響きの違いでしっかりと提示してくれる。
このことは、スピーカーシステムのどういう能力と関係することなのだろうか。

木で造られた教会か石で造られた教会なのかの違いは、
マイクロフォンが収録する間接音成分によってわれわれは聴き分けている。
マイクロフォンがとらえる楽器や歌手からの直接音には、その録音(演奏)の場に関する情報は含まれていない。
そういう場の情報は、マイクロフォンにはいってくる間接音に含まれている。

だからVC7が響きへの対応の柔軟性の確かさを高く評価しているけれど、
もともとの録音に、「場」に関する音的情報が収録されていなければ、
どんなスピーカーシステムをもってこようと、聴き分けることはできない。

録音における直接音と間接音のレベル的な比率は、いったいどのくらいなのだろうか。
マイクロフォンが楽器に近ければ近いほど直接音の比率が高くなり、間接音の比率は低くなる。
楽器とマイクロフォンとの距離が離れていくほど、間接音の比率は上ってくる。
ここまでははっきりといえても、マイクロフォンの設置場所やその場の広さやつくりなどによって、
直接音と間接音のレベル的な比率はさまざまであろうから、この程度だという具体的なことはいえない。

それでも大半の録音では直接音のレベルのほうが高い。
それに間接音には1次反射だけでなく、2次反射、3次反射……とある。
反射の次数が増えていくほどレベルは低くなる。

ただ録音(演奏)の場の壁が木なのか石なのか、
そういう違いは1次反射にそれに関する情報量が多く含まれているのか、
意外に2次反射、3次反射のほうがレベル的には低くなっても、
壁の材質に関する情報は逆に増えているのかもしれない。
それともまた別の要素があって、それも絡んでのことなのだろうか……。

このへんになると不勉強ゆえ、これ以上のことはなにも書けないけれど、
響きの鳴らし分けに関しては、レベル的には低いところのスピーカーの鳴りが大いに関係しているように思えるし、
それはただ単に微小入力へのリニアリティが優れていることだけではなさそうである。

Date: 8月 24th, 2011
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その24)

ベーゼンドルファーVC7の開発者は、
「カンターテ・ドミノ」のCDをかけ終った後に、
「これが録音されたのは木造りの教会で、そのことが響きとして表現されていたでしょう」といい、
「今度は石造りのところで録音されたCDをかけます」といった。

「カンターテ・ドミノ」の次にかけられたのが何のCDだったかは失念してしまったが、
VC7の開発者がいったように、そこで鳴っていた響きは、「カンターテ・ドミノ」のときとは違う。
録音が行なわれた建物が「カンターテ・ドミノ」の教会とはあきらかに違うことは、響きの違いとして顕れていた。

「カンターテ・ドミノ」が木の教会の響きでなっても、
そうでない場所で録られた録音までも「カンターテ・ドミノ」的な響きで鳴らされては困る。
どんなに「カンターテ・ドミノ」がうまく鳴ったところで、
それは「カンターテ・ドミノ」の録音状況に合っていたということで、
VC7が優れたスピーカーシステムということにならないわけだが、「カンターテ・ドミノ」を聴きながら、
じつはそのことがすこし気になっていたのだ。

もし石造りの建物で録音されたCDまで木の教会の響きで染めてしまったら、VC7への興味は失ってしまうかも……と。

どうもVC7は、日本では、試聴に限定条件がついてまわるスピーカーシステムとして思われている気がしていたし、
そのことを、私自身も、しっかりと確かめたかったから、2008年のノアのブースで聴くことができた2枚のCDは、
私のそんな杞憂をきれいに吹き飛ばしてくれた。

VC7は高価なスピーカーシステムだし、同じ価格を出せば、優れたスピーカーシステムを購入できる。
そういった優秀なスピーカーシステムと直接比較すると、いくつかの点でもの足りなさを感じることはあろう。
それでもVC7の、響きへの対応の柔軟性と見事さは、
そういった優秀なスピーカーシステムではなかなか得にくいものであることもたしかだ。

音楽における響きとはなんなのか、オーディオにおける響きとはなんなのか。
響きについて、なにかを学べるスピーカーシステムとして、私はベーゼンドルファーのVC7を高く評価している。

Date: 8月 23rd, 2011
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その23)

スウェーデンのプロプリウスから発売されている「カンターテ・ドミノ」が録音されたのは1976年、
テープレコーダーはルボックスのA77で、ワンポイント録音。

A77は、スチューダーのプロ用機器とは違い、あくまでコンシューマー用のデッキ。
それで録音されたものが、いまでも優秀録音の一枚として、いまでも試聴レコードとして使われている。

2008年のインターナショナルオーディオショウでのノアのブースでのベーゼンドルファーVC7が鳴らされたときも、
「カンターテ・ドミノ」が使われていた。

VC7を鳴らすためのディスクを選んでいたのは、VC7の開発者だった。
実は、このときのVC7の音を聴いて、さらに惚れ込んでしまった。

VC7からの「カンターテ・ドミノ」の響きには、木の響きが感じられたからだ。

欧米の教会が身近にない環境で育っているためか、
「教会」ときくと、テレビや映画によく出てくるような石造りの建物を私などは連想してしまいがちだが、
「カンターテ・ドミノ」の録音に使われた教会は、そういう石造りの教会ではなく木造りの教会だ。
だから、「カンターテ・ドミノ」では、そういう木造りの教会の響きがしてこなければ、おかしいということになる。
石造りの教会を連想させる響きでは、「カンターテ・ドミノ」を十全に再生できた、とはいえないことになる。

井上先生は、よく「カンターテ・ドミノ」を試聴に使われた。
「カンターテ・ドミノ」で何度もかけながら細かい調整をされていく。
すると、途中であきらかに響きの質が変化するときがある。
響きがあたたかくやわらかい感じになる。
このことを井上先生にきいてみると、「それは木の教会だからだよ」と教えてくれた。

VC7の開発者も、同じことを言っていた。

Date: 8月 22nd, 2011
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その22)

鉄を目の敵にするのは、正直どうかと思う。
鉄が悪いわけではなく、その人の使い方に鉄が向いていなかっただけの話ではなかろうか。

私は、優れた鉄のもつよさは、積極的に認めたいほうだ。
ただTAD(パイオニア)がTL1601cの製造をやめてしまったのは、鋳鉄フレームを自社生産することはできず、
外注に出していたのだが、その外注先がなくなってしまい、
同じクォリティの鋳鉄フレームがもう造れなくなってしまったから、ときいている。

TADはパワーアンプのM600に鋳鉄ベースを採用している。
ということは、腕のいい職人のいる外注先が見つかった、ということなのだろう。
となるとTL1601cの復活もあるかしれない、と実はすこし期待している。

ベーゼンドルファー(ヤマハに買収された後スピーカー製造部門は独立し、現在はBrodmann Acoustics)のVC7、
ウーファーのフレームが鉄製であることは、すでに書いた。
それが安もののユニットに多く採用される薄い鉄板フレームなのか、
それともピアノのフレームやTADのTL1601cと同じく鋳鉄製なのかは、はっきりとしない。
ただ音を聴いていると、なんとなく鋳鉄製であってほしい、と思っているわけだ。

私の予想・予感が外れて鉄板のフレームだったとしても、
それで、あの響きを出しているのだから、それはそれで感服することになる。

なぜか日本ではVC7の評価は、低い。
最初ベーゼンドルファーのスピーカーシステムとして出たことも大いに関係しているのだろうが、
ピアノがうまく鳴るスピーカー、といった程度にしか受けとめられていないのではなかろうか。

ピアノはうまく鳴る。でもそれだけのスピーカーシステムではない。
VC7の良さは、響きの再現性にある。

Date: 8月 22nd, 2011
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その21)

どこかのピアノメーカーが、鉄フレームとアルミフレーム以外は、
あとはまったく同一というピアノをつくってくれて、その比較試聴ができればいいのだけれど、
そんなことをやるピアノメーカーはないから、
想像で書くしかないのだが、おそらくアルミフレームのピアノと鉄フレームのピアノとでは、
響きの芯の確かさ、と表現したくなる要素が大きく違ってくるのではないだろうか。

どんな材質にも、その材質特有の固有音がある。
固有音のないものは世の中には存在しないし、鉄には鉄ならではの固有音があり、
アルミニウムにはアルミニウムならではの固有音があり、
固有音をうまく音に活かせれば、いい意味での個性になり、
扱い方をあやまるとクセとなり、耳につきわずらわしく感じられることになる。

鉄とアルミニウムは、オーディオにもっとも多く、長く使われてきている金属の代表でもある。
見た印象が鉄とアルミニウムとは違うし、叩いたときの固有音も似ているとはいえない。
それにアルミニウムは非磁性体、鉄は磁性体という、ピアノでは関係ない要素も、
オーディオには音に関係してくる要素となる。

いまでもそうだがプロ用の器材には、鉄板のシャーシのものが意外と多い。
コンシューマー用のオーディオ機器のようにアルミニウムを贅沢に使ったものはほとんどない、といっていいはず。

以前、井上先生からきいた話だが、プロ用器材に共通する開放感がある音は、
アルミニウムでがっちりつくってしまうと、意外にどこかにいってしまう、ということだった。

それに鉄とアルミニウムとではシールド材としても違う性格がある。
シールドできる周波数帯域が、鉄とアルミニウムとでは異る。
より広い帯域のノイズをシールドしたければ、どちらかひとつに絞るのではなく、
複数の金属をうまく組み合わせたほうがいい、ということだ。

Date: 7月 3rd, 2011
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その20)

ひところ自転車のフレームの材質として、アルミニウムが流行ったことがあった。
それまでは、ただぼんやりとアルミは鉄よりも軽くて非磁性体だけど、強度は鉄の方が上、と思っていた。

自転車の雑誌には、各メーカーからのアルミ・フレームの新製品がほぼ毎月のように掲載されていた。
そしてアルミの種類についての記述があった。

アルミニウム、といっているけど、実際に自転車のフレームに使われるのはアルミニウム合金であって、
銅、マンガン、硅素、マグネシウム、亜鉛、ニッケルなどが加えられ、
1000番、2000番、3000番、4000番、5000番、6000番、7000番と大まかに分類され、
それぞれに、いくつかの種類が存在していることを知った。

しかも熱処理をするかしないか、するとしたら、どの程度の温度でどの程度の時間、行うかによって、
強度がまた変化することも知った。

つまり一般的な鉄よりも、ずっと硬いアルミニウム合金がある、ということだ。
その一方で、ナイフで切れるほどやわらかいアルミニウムもある、ときいている。

鉄と同等、それ以上の強度を実現しているアルミニウム合金ならば、
ピアノのフレームに使っても、強度的な問題はないはず。
アルミニウム合金でフレームをつくれば、ピアノの重量は軽くなり、運搬もすこしは楽になる。
けれどアルミニウム合金フレームのピアノは、ない。
(念のため検索してみたら、1938年にドイツのブリュートナーが、
飛行船に乗せるためにアルミ・フレームのグランドピアノを作って話題になった、とある。)

なぜアルミ・フレームのピアノは登場しないのか。
もしかすると各社、研究はしている、もしくはしていたのかもしれない。
いまの技術があれば、1938年のアルミ・フレームよりも優れたものが作れるはずなのに、
出てこないのは、やはり「音」が関係しているからだろう。

Date: 6月 30th, 2011
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その19)

私が感じている、よくできた鉄芯型のカートリッジに共通するよさは、
中低域から低域にかけての響きの充実ぶり、とでも表現できる要素である。

このことは、クラシックを聴くことがほとんど私にとって譲れないところでもある。

鉄芯型の優秀なMC型カートリッジが、
なぜ、そういう音(むしろ響きと表現したい)を聴かせてくれるのかについては、
その理由ははっきりとわかっていない。
けれど、このしっかりとして、そして豊かな中低域から低域のよさは、
音楽をしっかり支えてくれて、フォルティッシモではそのことを強く感じることができる。

たしかに空芯型の優秀なMC型カートリッジを聴いたあとでは、鉄芯型のフォルティッシモは、
やや濁りが生じて解像力の高さということではすこし劣る。
でもその反面、力に満ちて吹きあげるようなフォルティッシモとなると空芯型では、
優秀なものでも、鉄芯型の優秀なカートリッジと比較すると、もの足りなさを感じる。

鉄芯型の優秀なカートリッジには、響きの確かさがある、と思う。
そして、この響きの確かさは、ピアノのフレームに鉄が使われていることにも関係しているように思えてならない。

Date: 6月 29th, 2011
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その18)

オルトフォンのSPU、もしくはMC20MKII、MC30といった鉄芯型と、空芯型のMC2000と比較する。
デンオンのDL103を、空芯型のDL303、DL305と比較する。

これらの比較は振動系も違うし、ボディのつくりも違うから、鉄芯型と空芯型の正確な比較試聴とはいえないまでも、
大まかな傾向はつかむことができる。

空芯型のMC型カートリッジの方が、聴感上の歪は少ないと感じる。
ピアニッシモでもそのことは感じるし、フォルティッシモにおいても濁りが少ない、
だから、キメの細かさを感じさせる。
優秀な録音のアナログディスクになればなるほど、この差ははっきりとしてくる。

こういう実例を耳にすると、磁気回路という大きな磁性体のカタマリを排除できなくても、
地道にひとつずつ磁性体を取り除いていくことの大切を感じる。

でも、そういったことがわかっていながら、私が選んできたカートリッジは、鉄芯型のモノばかりである。

まったく同じ発電構造であれば、鉄芯型と空芯型では、鉄芯型の方が発電効率は高い。
つまり出力電圧は大きくなる。
もともと出力電圧の低いMC型カートリッジにおいて、出力電圧が少しでも高くなることは、
音質的にもメリットはいくつもある。
鉄芯型の音質的メリットは、このことだけだろうか。
ただ出力電圧が大きいことだけが音に与えるメリットだけで、私は鉄芯型のカートリッジを選んできたのだろうか。

アナログディスクの音溝に刻まれたエネルギーをカートリッジの針先が拾い、
カンチレバーを伝わって信号を発電する。つまりコイルの巻枠もとうぜん振動している。

このコイルの巻枠の振動モードが、空芯型と鉄芯型はずいぶん違うのではなかろうか。
そのことと出力電圧の大きさとが相俟って、鉄芯型でなければ表現できない音をつくり出している──、
鉄芯型の優秀なMC型カートリッジを聴くと、そう思ってしまう。

Date: 6月 29th, 2011
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その17)

鉄(磁性体)がオーディオの系の中にあると、音を汚す、濁す。
だから徹底的に排除していくべきだ、という考え方は正しいと思う。
だからといって、絶対的なものである、とは思わない。

いまのところどうやっても電源トランスには鉄芯が、
スピーカーユニットには磁気回路に磁石と磁性体が、最後まで残ってしまう。

たとえ磁気回路を必要としないコンデンサー型スピーカーにしても、
昇圧のためのトランスが必要になってくる。ここに鉄心がある。

そうはいっても、信号系からひとつひとつ磁性体取り除いていく、
直接信号系に含まれていなくても、周辺にあるだけでも磁性体は影響を及ぼすから、
取り除いていけば、それだけの効果はある。

一般的に鉄(磁性体)は悪者ということになっている。
でもMC型カートリッジを例にとると、果して、磁性体は悪影響ばかりだろうか、とも思う。
MM型、MC型にしても磁石は必要とする。
スピーカーユニット同様、磁性体から逃れられないオーディオ機器のひとつである。

そのMC型カートリッジには、大きく分けてふたつある。
発電コイルの巻枠が磁性体か非磁性体か、である。

いわゆるオルトフォン型と呼ばれるMC型カートリッジは、巻枠に磁性体を使用している。
オルトフォンのSPUがその代表的なカートリッジであり、デンオンのDL103、EMTのTSD15などがある。

井上先生は巻枠に非磁性体を使用したカートリッジ(空芯型)を、純MC型とも呼ばれていた。
オルトフォンもMC2000で空芯型を発表、デンオンもDL303、DL305などは空芯型となっている。

Date: 1月 7th, 2011
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その16)

国産アンプで、磁性体を徹底的に取り除こうとしたのはソニー/エスプリのTA-E901、TA-E900があげられる。

1982年、このころの国産メーカーのオーディオ雑誌の広告は、いまとは違って、文字がびっしりあった。
それをしっかり読むことでも、オーディオの勉強になることも、けっこうあった。

ソニーのこのころの広告もそうだ。
中島平太郎氏が署名入りの文章が載ったこともあるし、
設計者自ら、広告の文章を書いているものもいくつもある。

たとえばステレオサウンド 63号に上記、ふたつのコントロールアンプの広告が載っている。
設計者の樋口正氏が書かれている。
設計者が語るESPRITの「エスプリ」、という題名がついている。

そこに、TA-E901、TA-E900からいかにして磁性体を排除していったかについての内容で、
その手法は、正直、いまでも役に立つものだと思う。

磁性体かどうかを判断するのに磁石を使う。くっつけば磁性体。くっつかなければ非磁性体。
でもなかには、これでは検知できないミクロンオーダーの鉄分があって、
そんなわずかな量の鉄分であっても、確実に音に影響を与える、とソニーの広告にはある。

そんなごくごくごわずかな量の鉄分を検知するために、0.1gのサマリウムコバルトマグネットを、
女性の髪の毛に結びつけ、磁気検出計として使った、とある。

少しでも敏感に反応するために、できるだけ細く、しなやかで長い髪の持ち主探しからはじまった、
その検出計は、わずかな鉄分が含まれているだけですーっと吸いつく、そうだ。

その検出計がある部品(抵抗)に反応した。
でもこの抵抗を分解してみても、使用材質に磁性体はない。
それでも検出計が反応するわけだから、
さらに調べていくと、塗料に磁性体が含まれていたことを発見できた、とのことだ。

これはいまでも役に立つ手法だろう。

こういう情報が得られたのにくらべると、いまの広告は、いい悪いは措いとくしても、
なにかものたりなさを感じてしまう……のは、こちらが歳をとったということだけではないはずだ。

Date: 11月 23rd, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その15)

少なくとも国産アンプからは、磁性体は排除される方向で進んでいくと思われたが、
1991年、ビクターのモノーラルパワーアンプ、ME1000は、鋳鉄製のベース(重量33kg)に、
電源トランス、電解コンデンサー、ヒートシンクといった、
パワーアンプ内で振動源となりやすい部品をしっかり固定することで、
いわゆるメカニカルアース化(振動モードの一元化)をはかっていた。

ME1000、1台の重量は83kgである。

今年、今度はTADから、鋳鉄製ベースを採用したパワーアンプが登場した。M600だ。
M600の鋳鉄ベースも重量はほぼ30kgで、トータル重量は90kgと、ME1000と、ほぼ同じ規模である。
M600も、鋳鉄ベースに、電源トランス、電解コンデンサー、ヒートシンクをしっかりと固定している。

ME1000もM600も、一台のアンプに使われる鉄の量としては、過去最大ではなかろうか。
なぜ、あえて鉄を選んだのだろうか。