Archive for 7月, 2020

Date: 7月 31st, 2020
Cate: ジャーナリズム, ディスク/ブック

自転車道 総集編 vol.01(その1)

オーディオ好きには自転車好きも多い、と聞いている。
どのくらいいるのかは知らない。

だから昨日(7月30日)に発売になった「自転車道」を手にしている人もいることだろう。
自転車の雑誌といえば、私が読み始めたころから、
いまもそうなのだが、サイクルスポーツとバイシクルクラブがよく知られている。

ほかの自転車関係の雑誌を置いていない書店でも、
この二冊は、ほぼ置いてあるほどに自転車の雑誌といえば、この二冊である。

どちらがおもしろいかは、年代によって違っていた。
ここ数年はサイクルスポーツのほうが断然おもしろく感じていた。

その理由の一つが、2014年から始まった「自転車道」という企画である。
残念なことに、2019年8月号で終ってしまったけれど、この記事を読みながら、
一冊の本にまとめてほしい、と思っていたし、
きっとまとめてくれるだろうな、とも期待していた。

連載終了から約一年、総集編 vol.01である。
この総集編のムックの冒頭には、序文がある。

この序文は、このムックでしか読めない。
「自転車道」では、安井行生と吉本司という二人の自転車ライターによる記事だ。

この二人の、連載をふりかえっての短い対談が、序文になっていて、
そこの見出しには、こうある。
《自転車選びが短絡的になってしまった弦駄句へのアンチテーゼとして》

この序文は、自転車をオーディオに置き換えてもそのまま読める内容だ。

自転車は、つい最近までブームだった。
いまでもブームが続いているとみえるかもしれないが、
都内の自転車店は減少している、ともきいている。

自転車の雑誌、ムックも、以前ほどにはみかけなくなってきている。
そういう時期をむかえているときに、「自転車道」が始まって、総集編が出た。

それにしても、いまのオーディオ雑誌は、こういう記事をどうしてつくれなくなったのだろうか。
つくれるさ、という編集者もいるかもしれない。

続けて、その編集者は、こういうのかもしれない。
「つくれるさ、でも、そんな記事を読者は望んでいない」と。

はたしてそうだろうか。

Date: 7月 31st, 2020
Cate: High Resolution

MQAで聴けるバックハウスのベートーヴェン(その4)

いちばん待っていたバックハウスによるベートーヴェンのピアノ・ソナタの30番、31番、32番、
このカップリングのMQAの配信が始まったのは、7月3日だった。

すぐに購入したのか、というと、実はしていなかった。

今年はベートーヴェン生誕250年ということで、
CDだけでなく配信も活発である。

今年のはじめにはクリュイタンスのベートーヴェンの交響曲がMQAで配信され始めた。
一枚ずつの配信が始まった。
どれとどれを買おうか迷っていた。

迷っているうちに、もしかすると最後に全集というかたちでの配信があるかもしれない──、
そう思うようになった。
そして、しばらくしてそのとおりになった。

全集でのMQAの配信は、一枚ずつ購入するよりもずっとお得だ。
バックハウスのベートーヴェンもそうなるかもしれない──、
という期待を勝手にもっていた。

一ヵ月は待ってみよう、
それで全集のかたちで出なければ、30番、31番、32番のカップリングを買おう、と。

クリュイタンスとバックハウスとでは、レコード会社が違う。
クリュイタンスがそうであったとしても、バックハウスがそうであるとはいえないのだが、
なんとなく全集で出る、という確信に近いものがあった。

待っていると、やはり出る。
今日、バックハウスのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集が出た。

あとは「最後の演奏会」とカーネギーホールでのライヴがMQAで出てくれれば、
もう満足といっていい。

Date: 7月 30th, 2020
Cate: 世代

世代とオーディオ(実際の購入・その14)

好感度、という。
オーディオの場合だと、好感度よりも高感度が使われるわけだが、
芸能の業界では、好感度のほうであり、好感度の順位が発表されてたりする。

好感度タレントと呼ばれている人たちがいる。
テレビのない生活を送っていると、
誰が好感度タレントと呼ばれているのかは、なんとなく知っているけれど、
その好感度タレントがテレビに出ているのを見ているわけではない。

好感度タレントが出ているテレビ番組をみて、
なるほど、この人が好感度タレントなのか、と感心するのかどうかはなんともいえないが、
オーディオの世界で、好感度ということについて考えてみると、
たとえば1980年代後半から1990年前半ぐらいまでのBOSEのスピーカーは、
好感度スピーカーといえたのではないだろうか、とちょっと思っている。

好感度タレントの上位にいた人が、ある不祥事で好感度が下ってしまった──、
みたいなことをインターネットで目にすると、
好感度の基準の曖昧さみたいなものを感じるわけだが、
あの時代のBOSEのスピーカーは、いわゆるカフェバーと呼ばれる店には取り付けられていた。

多くは101MMだったし、301MMもあった。
この二つのBOSEのスピーカーは、当時、好感度な存在だったのだろうか。

誰も当時、そんなことはいっていなかったけれど、
多くの人から嫌われていたスピーカーならば、あれだけの多くの店舗で使われることはなかったはずだ。

101MMは大きさ・価格からしてまさにそうだが、
301MMにしても、その用途はBGMを店内に流すためのスピーカーであった。

BOSEのスピーカーの音が好きかと問われれば、嫌いじゃないけれど……、と答えるところがある。
井上先生が鳴らす901の音は、ほんとうによかった。
その音を聴いていたから、いまでも901は、欲しいな、という気持が少しだけ残っている。

でも、あくまでも901に関してだけであって、
他のBOSEのスピーカーを欲しい、と思ったことはない。

それでも、あの当時、オーディオに関心のない人(二人)から、
BOSEのスピーカーを買おうと思っているけれど、どう? と訊かれたことがある。

ずいぶん以前のことだから、はっきりとどんなふうに答えたのかは記憶にないが、
否定することはしなかったはずだ。

Date: 7月 30th, 2020
Cate: 日本のオーディオ

S氏とタンノイと日本人(その13)

朝日新聞社が、1970年代後半、オーディオのムックを出していた、というと、
いまでは懐かしがる人よりも驚く人のほうがずっと多いんだろうな……。

あのころ、朝日新聞社は「世界のステレオ」という、
LPジャケット・サイズのムックを数冊出していた。

1977年夏発行のNo.2に、「オーディオ・コンポーネントを創る」という記事がある。
そこで瀬川先生は、タンノイのアーデンとQUADのアンプとの組合せをつくられている。
     *
 最近の新しいオーディオ装置の鳴らすレコードの音にどうしても馴染めない、という方は、たいてい、SP時代あるいは機械蓄音器の時代から、レコードに親しんできた人たちだ。その意味では、このタンノイの〝ARDEN〟というスピーカーと、クォードのアンプの鳴らすレコードの世界は、むろん現代のトランジスター時代の音でありながら、古い時代のあの密度の濃い、上質の蓄音器の鳴らした音色をその底流に内包している。
 〝古き酒を新しき革袋に〟という諺があるが、この組合せはそういうニュアンスを大切にしている。
 ピックアップに、あえて新製品でないオルトフォン(デンマーク)のSPU−GT/Eを選んだのも、そういう意図からである。
 こういう装置で最も真価を発揮するレコードは、室内楽や宗教音楽を中心とした、いわゆるクラシックの奥義のような種類の音楽である。見せかけのきらびやかさや、表面的に人を驚かせる音響効果などを嫌った、しみじみと語りかけるような音楽の世界の表現には、この組合せは最適だ。
 むろんだからといって、音楽をクラシックに限定することはなく、例えばしっとりと唱い込むジャズのバラードやフォークや歌謡曲にでも、この装置の味わいの濃い音質は生かされるだろう。
 しかしARDENというスピーカーは、もしもアンプやピックアップ(カートリッジ)に、もっと現代の先端をゆく製品を組合せると、鮮鋭なダイナミズムをも表現できるだけの能力を併せもった名作だ。カートリッジにオルトフォンの新型MC20、プリアンプにマーク・レヴィンソンLNP2Lを、そしてパワーアンプにスチューダーのA68を、という組合せを、あるところで実験してたいへん好結果が得られたこともつけ加えておこう。
     *
《あるところで実験》というのは、
1976年12月に出たステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’77」での組合せだ。

「世界のステレオ」のなかにも、酒というたとえがある。
ステレオサウンド 41号のなかにも、
《媚のないすっきりした、しかし手応えのある味わいは、本ものの辛口の酒の口あたりに似ている》
と書かれている。

瀬川先生にとって、タンノイの音(スピーカー)というのは、「酒」なのか。

Date: 7月 30th, 2020
Cate: 日本のオーディオ

S氏とタンノイと日本人(その12)

ステレオサウンド 41号の特集「世界の一流品」で、
瀬川先生は、タンノイのアーデンについて、つぎのように書かれている。
     *
 ARDENを、レクタンギュラー・ヨークとくらべてタンノイの堕落と見る人があるが、私はその説をとらない。エンクロージュアの木質や仕上げが劣るというのなら、初期のオートグラフからIIILZに至る一連の製品のあの艶のある飴色のニスの光沢──その色と艶は使い込むにつれて深みを増したあの仕上げ──にくらべれば、チークをオイル仕上げして日本で広く普及しはじめてからのレクタンギュラー・ヨークの時代から、堕落はすでに始まっていた。そういう見方をするなら、JBLも〝ハーツフィールド〟以前の高級機では、木部のフィニッシュに四通りないし五通りの種類と、それに合わせてグリルクロスが指定できた。いまはそういう時代ではない。残念なことには違いないが、しかしそれはスピーカーに限った話ではなく、もっと大局的にものを眺めなくては本質を見あやまる。
 すでにヨークの後期から、タンノイはユニットの改良に手をつけている。最大の変化はウーファーのコーン背面の補強リブの新設。それにともなって全体が少しずつ改良され、呼び方も〝デュアル・コンセントリック・モニター〟から、単にHPD385A……というように変ってきている。が、そこに流れる音の本質──あくまでも品位を失わない、繊密でしっとりした味わい──には、むしろいっそうの磨きがかけられ、現代のワイドレインジ・スピーカーの中に混っても少しも聴き劣りしないどころか、ブックシェルフのお手軽スピーカーから聴くことのできない音の密度の高い、味わいの濃い、求心的な音楽の表現で我々に改めてタンノイの良さを再認識させる。
 新シリーズはニックネームの頭文字をAからEまで揃えたことに現れるように、明確なひとつの個性で統一されて、旧作のような出来不出来が少ない。そのことは結局、このシリーズを企画しプロデュースした人間の耳と腕の確かさを思わせる。媚のないすっきりした、しかし手応えのある味わいは、本ものの辛口の酒の口あたりに似ている。
     *
冒頭に《レクタンギュラー・ヨークとくらべてタンノイの堕落と見る人があるが、私はその説をとらない》
とある。
1980年のGRFメモリーの登場以降、ハーマン傘下時代のタンノイを堕落と見る意見が、
オーディオ雑誌に載っていた。
いまも載っている、といってもいいだろう。

瀬川先生は43号のベストバイでは、
《ホーン型の鳴らす中〜高域域の確かな手ごたえは、手をかけた料理あるいは本ものの良酒を味わったような充実感で聴き手を満足させる》と書かれていたし、
45号の「フロアー型中心の最新スピーカーシステム」では、
《たとえばKEFの105のあとでこれを鳴らすと、全域での音の自然さで105に一歩譲る反面、中低域の腰の強い、音像のしっかりした表現は、タンノイの音を「実」とすればKEFは「虚」とでも口走りたくなるような味の濃さで満足させる》という評価である。

その瀬川先生の、59号のベストバイでの、タンノイに対しての、いわば無視ともいえる評価。
54号の「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」のあとで、
スーパー・レッド・モニターにふれられているのは、56号である。
     *
 日本の、ということになると、歌謡曲や演歌・艶歌を、よく聴かせるスピーカーを探しておかなくてはならない。ここではやはりアルテック系が第一に浮かんでくる。620Bモニター。もう少しこってりした音のA7X……。タンノイのスーパーレッド・モニターは、三つのレベルコントロールをうまく合わせこむと、案外、艶歌をよく鳴らしてくれる。
(「スピーカーを中心とした最新コンポーネントによる組合せベスト17」より)
     *
59号ベストバイでの評価のあとでは、つけ足しのような感じがしないでもない。

Date: 7月 29th, 2020
Cate: 218, MERIDIAN

218(version 9)+α=WONDER DAC(余談・その後)

ルンダールのLL1658に取り付ける部品の一つが、前回は手に入らなかった。
電話で問い合せてみた。

すると9月に入荷予定、とのこと。
9月なのか……、と思ってしまう。

自分のモノならば、9月まで待つのもいいけれど、頼まれている分だから、
9月までは……、と思うわけだ。

欲しかったのは、DALEの無誘導巻線抵抗の20Ω(3W)が、五本。
これが9月まで手に入らないのであれば、10Ω+10Ωでいくか、と考えた。

けれど10Ωも在庫がない、ということ。
そうなると、サイズがけっこう大きくなってしまうけれど、
20Ω(5W)の無誘導巻線抵抗の在庫を訊いた。

こちらはなんとか必要な本数分あった。
海神無線にはウェブサイトがあって、
そこで各部品の在庫は確認できる。

今回ももちろん確認していた。
DALEの無誘導巻線抵抗の在庫は、ウェブサイト上はあることになっていたが、
こまめに更新されているわけではないことは知っていた。

なので、電話で確認するのが確実である。

3Wと5Wとでは、かなり大きさが違う。
5Wのサイズだとちょっとめんどうかな、と思うところもあるが、
とにかく仕上げることができるようになった。

前回、コロナ禍の影響がこんなところにまで、と書いたが、
影響は想像以上に、こんなところでも大きくなってきているようだ。

Date: 7月 29th, 2020
Cate: 日本のオーディオ

S氏とタンノイと日本人(その11)

瀬川先生は、GRFメモリーを聴かれていないはず、である。

ステレオサウンド 61号に岡先生が書かれている。
     *
 八月七日、本誌第六十号のアメリカ・スピーカー特集のヒアリングの二日目、その日の夕刻から急にくたびれた様子が目立っていた彼の夕食も満足にできないという痛痛しい様子に、早く寝た方がいいよと思わずいってしまった。翌朝、彼は必死の気力をふりしぼって病院にかけつけ、そのまま入院した。それから、一進一退の病状が次第に悪化して、ちょうど三ヵ月目に亡くなった。
     *
それからは退院されることなく、11月7日に亡くなられた。
瀬川先生はGRFメモリーを聴かれていない──、と断言してもいい。

だから、あのころ、とても気になっていた。
瀬川先生は、GRFメモリーをどう評価されたのか、が。

ほかの方と同じに高く評価されたのか、
それとも59号のベストバイでの評価のようだったのか。

私は、後者ではなかったのか、と思っている。
それほど高く評価されなかったのではないだろうか。

いや、高く評価されたに違いない、と考える人もいていい。
私と同じように考える人もいていい。
誰にもどちらが答なのかは、わからない。

だから、瀬川先生がGRFメモリーを高く評価されているところも想像してみたことがある。
そうでない瀬川先生も想像してみていた。

考えては、また考える。
そうやって考えのあとに私のなかに残ったのは、GRFメモリーを高く評価されない瀬川先生である。
酷評されることはなかった、はずだ。

59号の次のベストバイ、63号まで生きておられたどうだったか。
おそらく59号の結果と同じだったのではないのか。

59号では、ヴァイタヴォックスのCN191、セレッションのDedham、
エレクトロボイスのパトリシアン800、JBLのパラゴンといったスピーカーに点を入れられている。
なのにタンノイに関しては、オートグラフにも点を入れられていない。

その理由を、私はどうしても考えてしまう。

Date: 7月 29th, 2020
Cate: 日本のオーディオ

S氏とタンノイと日本人(その10)

ステレオサウンドのベストバイは、その後も続いているが、
瀬川先生は59号まで、である。

60号「ザ・ビッグ・サウンド」にタンノイのGRFメモリーが登場した。
菅野先生が書かれている。

さらに55号から始まったタンノイ研究の五回目も、GRFメモリーであり、
10ページが割かれている。こちらも菅野先生が書かれている。

一つの機種が、一冊のステレオサウンドのなかで、
これだけのページで取り上げられているのそうそうない。

しかも菅野先生一人で、二つの記事で、ということは初めて、といっていい。
それだけにGRFメモリーの評価は高かった。

GRFメモリーは、タンノイがハーマン傘下から離れた最初の製品である。
タンノイと輸入元ティアックが協力して株を買い戻している。

GRFメモリーに搭載されているユニットは、3839/Mである。
このユニットは、クラシック・モニター搭載のK3838のスペシャルヴァージョンということだった。

このことからも想像できるし、
ステレオサウンド 60号のタンノイ研究では、クラシック・モニターとの比較表があることからも、
ベースモデルとしてクラシック・モニターがあった、といえるだろう。

エンクロージュアの形状は、この二つは違いがあるが、
内容積はクラシック・モニターが230リットル、GRFメモリーが220リットルと近い。
重量はクラシック・モニターが65kg、GRFメモリーが62kgである。

型番の違い、クラシック・モニターやスーパー・レッド・モニター、
それからSRMシリーズは、モニターの名がついている。
GRFメモリーには、モニターの文字はない。

アピアランスも、
クラシック・モニターやスーパー・レッド・モニターはスタジオモニター用に対し、
GRFメモリーは家庭用スピーカーとしてのそれである。

クラシック・モニター、スーパー・レッド・モニターにはバイアンプ駆動端子があったが、
GRFメモリーにはない。

そのネットワークも、K3838と同じではない。新設計ということだったし、
クラシック・モニター、スーパー・レッド・モニターが、
プレゼンス・エナジー、トレブル・ロールオフ、トレブルエナジーの3コントロールに対し、
GRFメモリーは従来と同じトレブル・ロールオフとトレブル・エナジーの2コントロールに戻っている。

クラシック・モニター、スーパー・レッド・モニターなどは、
日本市場でJBLのスタジオモニターが好評であることから出てきた製品なのかもしれない。

どちらもハーマン傘下のスピーカーメーカーであったわけだから、
タンノイのスタジオモニターを出せば……、
ということを親会社のハーマンが考えていたとするのは、私の妄想だろうか。

でも、タンノイがつくりたかったスピーカーは、
モニタースピーカーではなかった、というわけだ。

そんな背景があって、GRFメモリーの評価は高かった、ともいえる。
けれど、瀬川先生はどうだっただろうか、とどうしても考えてしまう。

Date: 7月 28th, 2020
Cate: 欲する

何を欲しているのか(サンダーバード秘密基地・その4)

世代とオーディオ(実際の購入・その13)」へのコメントがfacebookにあった。

そこには、スペンドールのBCIIは欲しい製品ではあるけれど、
好きかどうかはわからない──、とあった。

これは、よくわかる。
ここでとりあげているデアゴスティーニからでている週刊サンダーバード秘密基地。
確かに小学生のころ、欲しかった。

けれど、サンダーバードの秘密基地のプラモデルが好きだったのか、というと、
そうでもなかった。
サンダーバードという番組は好きだった。

好きだったからこそ、テレビに出てくる秘密基地そっくりといえるものが欲しかった。
それは無理というものだと大人になればわかるけれど、小学生はそうではなかった。

欲しかったけれど、好きではなかった。
その気持は、別項で書いているマッキントッシュのMC2300やJBLの4310に対してもある。

MC2300が好きかといえば、微妙なところがある。
はっきりといえるのは嫌いではない、ということ。

MC2300の音だけで、これから先ずっと聴いていく、ということは、ごめんこうむる。
そんな気持ははっきりとある。

なのに欲しい、という気持がはっきりとある。

4310に対しても、MC2300とまったく同じとはいわないが、近い。
嫌いではない、と、4310についてもはっきりといえる。

4311は聴いているが、4310の音は聴いていない。
それでも4310の音だけでずっと私が好きな音楽を聴いていくのは、ちょっと無理である。

4310(正しくは4311A)の音は、うまく鳴ったときは惹かれるところがある。
これはMC2300も同じである。

どこか強烈に惹きつける魅力がある──、とはいわない。
まったくよさを感じない人がいるのも事実だからだ。

あくまでも私個人は、ということなのだが、
無性に聴きたくなる衝動が何年かに一回おとずれる(わきあがってくる)ということは、
惹きつけられるなにかを、感じとっているからなのだろう。

カートリッジだとエンパイアの4000D/IIIがそうだ。
好きではない。けれど、ある種の音楽、
それもたまに聴きたくなる音楽のためだけに欲しい、と若いころ思っていた。

Date: 7月 28th, 2020
Cate: ちいさな結論

ちいさな結論(問いつづけなくてはならないこと・その3)

美しく聴く、ということは、
自分と和する心をもつことなのだろう。

Date: 7月 28th, 2020
Cate: 日本のオーディオ

S氏とタンノイと日本人(その8・補足)

facebookでのコメントによると、
SRM 15Xも搭載ユニットはスーパー・レッド・モニターと同じK3808である、と。

私も記憶では確かそうだった、と思っていたけれど、
ステレオサウンドのHI-FI STEREO GUIDEだと、3828となっている。

HI-FI STEREO GUIDEは、編集部による校正だけでなく、
メーカー、輸入元に、その会社の取扱い製品に関してはお願いしていた。

それでも誤植やミスが完全になくなるわけではないことは承知しているが、
それでも輸入元のティアックがチェックしたうえでの、3828である。

K3808と指摘された方は、SRM 15Xを使われているから、K3808で間違いはない。
なのに3828となっているということは、
おそらくどこかでK3808から3828へ変更された可能性が考えられる。

フェライト化されてII型になったアーデンとバークレーは、
当初DC386が搭載されていたが、途中から3828に変更になっている事実がある。

なのでSRM 15Xもそうだったのかもしれない。

Date: 7月 27th, 2020
Cate: アクセサリー

3M Novec Contact Cleaner

オーディオ店に行けば、接点関係のアクセサリーはいくつもある。
なかにはかなり高価なモノもあるし、眉に唾をつけたくなる謳い文句のモノもある。

接点をきれいにしておくことは大事なのだが、
では何を使ったらいいのか? と正直迷う。

効果的であっても、信頼性が高くなければ使いたくない。
けれど信頼性は実際、ある程度の期間を使ってみないことにはなんともいえない。
その期間中に、もしかすると接点をいためてしまうこともないわけではない。

いまのところ、信頼性がありそうだな、と感じているのが、
3M Novec Contact Cleanerである。

私は海神無線で購入している。

Date: 7月 27th, 2020
Cate: 日本のオーディオ

S氏とタンノイと日本人(その9)

スーパー・レッド・モニターは、
ステレオサウンド 54号「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」に登場している。

瀬川先生の試聴記だ。
     *
 タンノイであれば、何よりも弦が美しく鳴ってくれなくては困る。そういう期待は、誰もが持つ。しかしなかなか気難しく、ヴァイオリンのキイキイ鳴く感じがうまくおさえにくい。もともと、エージングをていねいにしないとうまく鳴りにくいのがタンノイだから、たかだか試聴に与えられた時間の枠の中では無理は承知にしても、何かゾクッと身ぶるいするような音の片鱗でも聴きとりたいと、欲を出した。三つ並んだ中央のツマミはそのままにして、両わきを一段ずつ絞るのがまた妥当かと思った。しかし、何となくまだ音がチグハグで、弦と胴の響きとがもっと自然にブレンドしてくれないかと思う。エンクロージュア自体の音の質が、ユニットの鳴り方とうまく溶け合ってくれないようだ。もっと時間をかけて鳴らし込んだものを聴いてみないと、本当の評価は下せないと思った。ただ、総体的にさすがに素性のいい音がする。あとは惚れ込みかた、可愛がりかた次第なのかもしれない。
     *
なんだろう、微妙な評価だなぁ……、とまず感じた。
タンノイのスピーカーは、44号、45号の総テストにも登場している。
その時の試聴記とは、何か違う、とも感じていた。

54号にはクラシック・モニターは登場していない。
スーパー・レッド・モニターの、ステレオサウンドでの評価は高かった。

53号での、ステート・オブ・ジ・アート賞にも選ばれている。
55号のベストバイでも高い得票だった。
59号のベストバイでもそうだった。

読者の選ぶベストバイ・コンポーネントでも、55号、59号で4位である。
注目度は高かった。
私もけっこう注目していたからこそ、59号のベストバイを結果をみて、
54号での微妙な感じは、やっぱりそうだったのか、に変っていった。

59号でもスーパー・レッド・モニターの評価は高い。
ペアで60〜120万円未満のベストバイ・スピーカーで、
JBLの4333Bの18点に次ぐ14点で、2位に位置している。

それでも瀬川先生は、というと、SRMシリーズのタンノイだけでなく、
アーデンII、バークレーIIにも、一点も入れられていない。

51号と55号のベストバイは、
誰がどの機種に点を入れたのかはまったくわからないようになっていた。
瀬川先生がスーパー・レッド・モニターに点を入れられていたのかは、はっきりしない。
けれど、入れられていなかったはずだ。

Date: 7月 27th, 2020
Cate: 日本のオーディオ

S氏とタンノイと日本人(その8)

アーデンがW66.0×H99.0×D37.0cmに対し、
スーパー・レッド・モニターとクラシック・モニターはW72.2×H109.5×D43.6cmとなっている。

重量はアーデンが43.0kg、スーパー・レッド・モニターらは65.0kgとかなり重くなっている。
スーパー・レッド・モニターは聴いている。
けれどエンクロージュアを叩いて見たことはない。
それでも、この重量からも、そしてオーディオ雑誌の記事でも、
アーデンよりもエンクロージュアがしっかりとしたつくりになっている、とのことだった。

スーパー・レッド・モニターとクラシック・モニターから少し遅れて、
SRM 15Xも発売になっている。
型番のSRMは、Super Red Monitorから来ている。

このSRM 15Xの外形寸法は、W65.0×H102.0×D42.0cmとアーデンと近い。
重量は51.0kgとアーデンよりも8kg重くなっている。

SRM 15Xはバスレフボートの数は三つ、スーパー・レッド・モニターらは四つ。
このことからもSRM 15Xはアーデンのエンクロージュアをよりしっかりとしたつくりにしたモノといえる。

だからといって、アーデン(正確にはこの時期にはアーデンIIである)との違いは、
エンクロージュアだけではなく、ユニットも違っている。

SRMの名が示すように、タンノイがスーパー・レッド・モニターと呼ぶK3808が搭載されている。
アルニコ磁石時代のタンノイの同軸型ユニットは、口径の違いだけだったが、
フェライト磁石の同軸型ユニットは、口径が同じでもいくつかのユニットがあった。

38cm口径ではK3808のほかに、クラシック・モニター搭載のK3838、
それからSRM 15X、アーデンII、バークレーII搭載の3828があった。

単売されていたユニットはK3808とDC386で、K3838は単売されなかった。
DC386が、HPD385Aの後継機(フェライト仕様)にあたるわけだが、
このユニットと3828が同じなのか、違うとすればどの程度なのかははっきりとしない。

アーデンIIとバークレーIIの初期の頃はDC386が搭載されていたはずだ。

この時代のタンノイのラインナップから、チェビオット、デボン、イートンは消え、
SRM 10B、SRM 12B、SRM 12Xがかわりに登場した。

さらにはSuper Red Cable 1というスピーカーケーブルも出ていたし、
さらに輸入元のティアックは、タンノイ用を謳ったセパレートアンプPA7とMA7が、
タンノイからはエレクトリッククロスオーバーのXO5000も登場した。

スーパー・レッド・モニターとクラシック・モニターには、
バイアンプ駆動用の端子も用意されていた。

この時代のタンノイは、じっくり聴いてみたかったけれど、それはかなわなかった。
タンノイをXO5000でバイアンプ駆動した音も、ひじょうに興味があった。
いつかステレオサウンドで記事になるはず、と期待していた。
けれど読める日はこなかった。

Date: 7月 26th, 2020
Cate: 日本のオーディオ

S氏とタンノイと日本人(その7)

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」のタンノイ号に、
タンノイのリビングストンと瀬川先生の、こんなやりとりが載っている。
     *
瀬川 実はウインザーとバッキンガムについては、申しわけないのですが、われわれ少し認識不足だったんです。というのは、1年前に発表されたにもかかわらず、品物がほとんどなくて、テスト用のサンプルを借り出すことも不可能だったものですから、われわれとしても勉強不足の点が多々あります。
リビングストン タンノイとしても、まさにバッキンガムがロールスロイス、ウインザーがジャガーのつもりなんです。イギリスでもロールスロイスは18ヵ月、ジャガーは9ヵ月待たなければいけないという状態です(笑)。タンノイとしても、その点は申しわけないと思っております。
     *
積層構造のリジッドなつくりのエンクロージュアの製造がたいへんだったのだろう。
リビングストンによれば、バッキンガムとウインザーは、
イギリスではスタジオモニターとして、カナダではカナダ放送局が採用。

タンノイとしては、当初世界市場で売れても月12台くらいという予測だったそうだ。
それが実際には月40台くらいのペースで注文がくるため、
バックオーダーがたまっていく、ということだった。

以前、「ワイドレンジ考」でキングダムについてふれたさいに指摘しているように、
このバッキンガムの設計思想をより徹底したところでの、1996年に登場したKingdomである。
ことわっておくが、現行製品のKingdom Royalのことではない。

そんな存在であったバッキンガムは、51号の読者の選ぶベストバイで、
わずか9票(0.3%)で37位でしかない。
51号では、アーデンは3位、オートグラフは5位に入っている。

バッキンガムはスピーカーの総テストにも登場していない。
ステレオサウンドでも、取り上げられることはゼロだったわけではないが、
タンノイのフラッグシップモデルにしては極端に少なかった。

聴く機会がなかっただけに、バッキンガムの評価が気になっていたのだが、
1979年ごろには製造中止になって、横型のモデルだけになってしまったし、
さらにSuper Red Monitor、Classic Monitorというモデルが登場した。
どちらも465,000円(一本)。アーデンの約二倍の価格での登場である。