S氏とタンノイと日本人(その10)
ステレオサウンドのベストバイは、その後も続いているが、
瀬川先生は59号まで、である。
60号「ザ・ビッグ・サウンド」にタンノイのGRFメモリーが登場した。
菅野先生が書かれている。
さらに55号から始まったタンノイ研究の五回目も、GRFメモリーであり、
10ページが割かれている。こちらも菅野先生が書かれている。
一つの機種が、一冊のステレオサウンドのなかで、
これだけのページで取り上げられているのそうそうない。
しかも菅野先生一人で、二つの記事で、ということは初めて、といっていい。
それだけにGRFメモリーの評価は高かった。
GRFメモリーは、タンノイがハーマン傘下から離れた最初の製品である。
タンノイと輸入元ティアックが協力して株を買い戻している。
GRFメモリーに搭載されているユニットは、3839/Mである。
このユニットは、クラシック・モニター搭載のK3838のスペシャルヴァージョンということだった。
このことからも想像できるし、
ステレオサウンド 60号のタンノイ研究では、クラシック・モニターとの比較表があることからも、
ベースモデルとしてクラシック・モニターがあった、といえるだろう。
エンクロージュアの形状は、この二つは違いがあるが、
内容積はクラシック・モニターが230リットル、GRFメモリーが220リットルと近い。
重量はクラシック・モニターが65kg、GRFメモリーが62kgである。
型番の違い、クラシック・モニターやスーパー・レッド・モニター、
それからSRMシリーズは、モニターの名がついている。
GRFメモリーには、モニターの文字はない。
アピアランスも、
クラシック・モニターやスーパー・レッド・モニターはスタジオモニター用に対し、
GRFメモリーは家庭用スピーカーとしてのそれである。
クラシック・モニター、スーパー・レッド・モニターにはバイアンプ駆動端子があったが、
GRFメモリーにはない。
そのネットワークも、K3838と同じではない。新設計ということだったし、
クラシック・モニター、スーパー・レッド・モニターが、
プレゼンス・エナジー、トレブル・ロールオフ、トレブルエナジーの3コントロールに対し、
GRFメモリーは従来と同じトレブル・ロールオフとトレブル・エナジーの2コントロールに戻っている。
クラシック・モニター、スーパー・レッド・モニターなどは、
日本市場でJBLのスタジオモニターが好評であることから出てきた製品なのかもしれない。
どちらもハーマン傘下のスピーカーメーカーであったわけだから、
タンノイのスタジオモニターを出せば……、
ということを親会社のハーマンが考えていたとするのは、私の妄想だろうか。
でも、タンノイがつくりたかったスピーカーは、
モニタースピーカーではなかった、というわけだ。
そんな背景があって、GRFメモリーの評価は高かった、ともいえる。
けれど、瀬川先生はどうだっただろうか、とどうしても考えてしまう。