Date: 7月 29th, 2020
Cate: 日本のオーディオ
Tags:

S氏とタンノイと日本人(その11)

瀬川先生は、GRFメモリーを聴かれていないはず、である。

ステレオサウンド 61号に岡先生が書かれている。
     *
 八月七日、本誌第六十号のアメリカ・スピーカー特集のヒアリングの二日目、その日の夕刻から急にくたびれた様子が目立っていた彼の夕食も満足にできないという痛痛しい様子に、早く寝た方がいいよと思わずいってしまった。翌朝、彼は必死の気力をふりしぼって病院にかけつけ、そのまま入院した。それから、一進一退の病状が次第に悪化して、ちょうど三ヵ月目に亡くなった。
     *
それからは退院されることなく、11月7日に亡くなられた。
瀬川先生はGRFメモリーを聴かれていない──、と断言してもいい。

だから、あのころ、とても気になっていた。
瀬川先生は、GRFメモリーをどう評価されたのか、が。

ほかの方と同じに高く評価されたのか、
それとも59号のベストバイでの評価のようだったのか。

私は、後者ではなかったのか、と思っている。
それほど高く評価されなかったのではないだろうか。

いや、高く評価されたに違いない、と考える人もいていい。
私と同じように考える人もいていい。
誰にもどちらが答なのかは、わからない。

だから、瀬川先生がGRFメモリーを高く評価されているところも想像してみたことがある。
そうでない瀬川先生も想像してみていた。

考えては、また考える。
そうやって考えのあとに私のなかに残ったのは、GRFメモリーを高く評価されない瀬川先生である。
酷評されることはなかった、はずだ。

59号の次のベストバイ、63号まで生きておられたどうだったか。
おそらく59号の結果と同じだったのではないのか。

59号では、ヴァイタヴォックスのCN191、セレッションのDedham、
エレクトロボイスのパトリシアン800、JBLのパラゴンといったスピーカーに点を入れられている。
なのにタンノイに関しては、オートグラフにも点を入れられていない。

その理由を、私はどうしても考えてしまう。

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