ボイスコイルは、円筒状のボビンに金属線が巻かれているモノだ。
単純な構造といえばそういえるが、そう簡単なモノではない。
コイルの断面は、丸と四角がある。
四角のものはエッジワイズと呼ばれていて、
JBLの主だったユニットはエッジワイズ巻きである。
いまはどうなのか知らないが、JBLのコイルの巻き方はきれいだった。
エッジワイズ巻きは断面が丸の普通の金属線よりも巻きのが難しい、と聞いている。
なのにJBLのエッジワイズは見事だった。
ボイスコイルにはアンプからの信号が通り、
スピーカーの振動系で最初に動き出すのは、ここである。
ここの動きから、すべてが始まるわけで、
ボイスコイルがいいかげんな造りであれば、
他がどんなに立派に見える造りであっても、スピーカーとしての性能は見かけほどではない。
しかもボイスコイルは外側からは一切見えない。
その見えない部分だからこそ、手を抜くこともできる。
けれどわかっているメーカーは、そんなことは絶対にしない。
ボイスコイルの線材は、銅もあればアルミもある。
JBLはフルレンジユニットには軽いアルミを、ウーファーには銅を使う。
たとえばD130はアルミ、D130のウーファー版の130Aは銅である。
スピーカーユニットをバラせば、ボイスコイルを見ることはできるが、
それでも見えないところもある。
熱処理をしているかしていないか、である。
JBLは行っていた(現在はどうなのか知らない)。
他にもボビンの素材、接着剤などが、ボイスコイルには関係してくる。
ボイスコイルを巻き直す、ということは、
修理対象となっているスピーカーユニットの、これらのことをすべて把握したうえで、
まったく同じに仕上げ直すことである。
そんなことが可能だろうか、とずっと思ってきた。
まず無理である。
それとも私の知らない、何か特別な修理方法で断線を直せるのか。
そんなものはないことが、今回の件ではっきりした。
ボイスコイルの断線を修理する、と謳っているところがどんなことをやっているのか。
同等品のボイスコイル(ボビンを含めて)に付け替えている。
すべての修理業者がそんな修理の仕方をしているわけではないだろう。
中にはきちんと巻き直している業者もいるはずだ。
だがコイルをオリジナルとまったく同じに巻き直すことは、まず無理であるし、
手先が器用だから、といって簡単にできることでもない。