Archive for category 日本のオーディオ

Date: 4月 5th, 2023
Cate: High Resolution, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(MQAのこと・その4その後)

その4)で、TIDALではMQAで配信されているのに、
e-onkyoではflacしかない、ということを書いた。

ドイツ・グラモフォン、デッカなどのユニバーサル系はMQAも新しく配信されていたが、
旧EMIに関しては、2022年リマスターを含めて、flacだけでMQAがないということが増えた。
すべてをチェックしているわけではないが、旧EMIに関しては、ほとんどそうである。

Qobuzを運営しているフランスの会社、Xandrieへ譲渡されたあとからそうなったことから、
そしてQobuzがMQAを扱っていないことからも、
e-onkyoの方針ではなく、親会社の方針としてMQAを扱わないようにしているのか──、
そう思えていた。

Qobuzのサービスが日本でも開始になれば、MQAは扱われなくなるだろう、とも思っていた。
事実、今日、そういう発表があった。

MQAだけではなく、WAV、DIFF、MLP(Dolby TrueHD)、32ビット音源の配信が終了となる。
配信終了予定日は4月25日。

Date: 4月 2nd, 2023
Cate: High Resolution, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(MQAのこと・その13)

ステレオサウンド 226号がKindle Unlimitedで読めるようになっている。
特集のハイレゾオーディオ2023について書く前に、
新製品紹介で、CHプレシジョンのC1.2のことについて触れておく。

三浦孝仁氏が担当で、
本文中には《本機ではMQAにフル対応していることも大きなトピックといえよう》とある。

けれど続く音についてのところでは、MQAの音についてはまったく触れられていない。
《大きなトピック》だったら、なぜMQAの音について触れないのか。

MQAの音について触れないのであれば、
《本機ではMQAにフル対応していることも大きなトピックといえよう》
と書かなければいい──、個人的にはそう思うのだが。

《本機ではMQAにフル対応している》、そこで終っているだけでいい。
《大きなトピックといえよう》とある。
なのに、実際のMQAの音がどうだったかについて、三浦孝仁氏は一言も書かれていないのをみると、
もしかするとステレオサウンド編集部がMQAを封殺しようとしている──、
そんなふうに勘ぐってしまう。

三浦孝仁氏はMQAの音について書きたかったのかもしれない。
けれどステレオサウンド編集部から、触れるな、というお達しがあったのか。

Date: 3月 29th, 2023
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(取り残されてきているのか・その6)

インターネット・オークションといえば、日本ではヤフオク!となる。
ヤフオク!を頻繁に利用はしないけれど、
こんな値段で落札できていいの? と思ってしまうほど、
以前から欲しかったオーディオ機器をいくつか落札したことは別項で書いている。

こういうモノがあるのか、と思う反面、
オーディオに関しては弱いな、とつねづね感じている面もある。

そういうところが、eBayは違う。
製造中止になっているオーディオ機器の補修パーツならば、
ヤフオク!はほとんど頼りにならない。
eBayである。

今月は、三つほど、eBayで補修パーツを手に入れた。
送料が高いのは海外からなのでしかたない。
補修パーツ自体は良心的な価格だった。

eBayの品揃えの豊かさを眺めながら、ヤフオク!と比較してしまうと、
こういうところでも取り残されつつあるような──、そんな感じを受けてしまう。

Date: 3月 26th, 2023
Cate: High Resolution, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(MQAのこと・その12)

(その11)に、facebookにコメントがあった。
ゾノトーンのツイートへのリンクがあった。

そのゾノトーンのツイートは知っていた。
どんな内容かといえば、オーディオアクセサリーを購入する際、
頼りにする情報源は何か、というアンケートである。

結果は、
メーカー発信情報が11%、
オーディオショップ意見が13%、
オーディオ雑誌社の記事が6%、
その他インターネット情報が70%、
である。

メーカー発信情報もインターネットでのことだろうから、
その他インターネット情報とあわせると81%となる。

オーディオ雑誌は、わずか6%である。

このリンクを投稿された方も指摘されているが、
この結果は、ソーシャルメディア上でのものだから、
この数字をそのまま鵜呑みにはできない面もある。

それでもインターネット上の情報を頼りにする人は、かなり多いとはいえよう。
だから、現実にはオーディオ雑誌は読まれていない、
だから封殺も何もない──、とコメントにはあった。

コロナ禍前だったら、今回のコメントにかなり同意しただろうが、
コロナ禍を経て、オーディオマニアのインターネットの活用の具合を、
少しばかり知ることで、実際はけっこう違っている、という認識をもつにいたっている。

ゾノトーンのアンケートは、比較的若い世代の方によるものだろう。
一方、ステレオサウンドの読者の年齢層は、60代より上である。

Date: 3月 24th, 2023
Cate: High Resolution, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(MQAのこと・その11)

(その10)に、facebookにコメントがあった。
とりあげないということには封殺するという意図を感じることがある、というものだった。

同じことは感じていた。

MQAのことを肯定も否定もしない。
ただとりあげないだけ。
つまり封殺したいのだろう、と。

仮にそうだとして、ほんとうに封殺できると編集部(編集者)は考えているのか。
昔のステレオサウンドだったら、もしかした、そんなこともできたかもしれない。
けれど、いまのステレオサウンドができるだろうか。

それに、いまはインターネットが普及して、ソーシャルメディアもまた普及している。
そういう時代においては、もう無理なはずだ。

いまのところ、日本ではTIDALのサービスは開始されていない。
日本でMQAを聴くには、MQA-CDを買ってくるか、
e-onkyoで購入・ダウンロードするくらいしかない。

けれどTIDALが始まったら──。
MQAのデコード機能をもつD/AコンバーターやCDプレーヤーを持つ人は、
TIDALでMQAが聴けるのなら、試しに聴いてみようか、と思うことだろう。

MQAのコアデコードの音だったり、フルデコードの音であったりする。
フルデコードの音を聴いた人ならば、なにかを感じるはずだ。

聴いた人すべてが、MQAを肯定するとはかぎらない。
やっぱりMQAなんて──、という人もいるけれど、
MQAって、いいな! と感じる人もいる。

TIDALが日本で始まる、
つまりMQAでさまざまなアルバムを聴けるようになったとき、
ステレオサウンドのMQA無視のやり方に疑問をもつ人も現れる。

Date: 3月 23rd, 2023
Cate: High Resolution, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(MQAのこと・その10)

編集者(編集部)には、記事をつくらない(とりあげない)自由があるといえば、そういえる。
だからステレオサウンド編集部がMQAをとりあげないのも、
それは編集部の自由といえばそうである。

三年ほど前に、逆木 一氏のブログのことを書いた。
逆木 一氏はアンチMQAである。
自身のブログで、「さよなら、MQA」を公開されている。

「さよなら、MQA」を読んで、どうおもうのかは、その人次第だ。
逆木 一氏の意見に、まったく同感という人もいるだろうし、
こういう意見の人もいるだろうな、とおもう人、
MQAの肯定している人からすれば、なにかいいたくなるか、
もしくは黙っておこう、とおもったのかもしれない。

逆木 一氏を、「さよなら、MQA」をどう読むか、その評価とは別に、
ステレオサウンドの態度と逆木 一氏の態度は、大きく違うことだけは認めている。

逆木 一氏は、きちんと自身の意見・立場を表明している。
それすらせずに、ただただ無視していくだけのオーディオ雑誌がステレオサウンドであることが、
ステレオサウンドはずいぶん変質してしまったなぁ……、とおもわせる。

Date: 3月 10th, 2023
Cate: High Resolution, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(MQAのこと・その9)

ステレオサウンド 226号をすでに読んだ友人によると、
今号もステレオサウンドはMQAを無視なのだそうだ。

特集のハイレゾオーディオ2023に登場する機種のなかにはMQA対応モデルがある。
にも関わらずMQAを無視するということは、
ステレオサウンドの試聴テストの方針として、
そのモデルの機能をチェックするということは優先度としては低い、ということになる。

MQA対応モデルを取り上げておきながら、MQAの音について何も触れないということは、
そういうことである。

そこまでしてMQAを無視するというのは、
現編集長の染谷 一氏の意向なのか、
それともステレオサウンドの執筆者の何人かが、そうなのか。
もしくは両者なのか、そのへんのところはわからないが、
MQAは無視するということだけははっきりしたといえる。

それはそれでもいいのだが、ならば、なぜ、その理由を述べないのだろうか。
何も触れずに無視するだけ。
悪手でしかないような気がする。

Date: 3月 2nd, 2023
Cate: High Resolution, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(MQAのこと・その8)

今日(3月2日)発売のステレオサウンド 226号の特集は、
ハイレゾオーディオ2023である。

まだ読んでいないのだが、MQAは、この特集で取り上げられているのだろうか。

Date: 2月 5th, 2023
Cate: High Resolution, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(MQAのこと・その7)

どうもステレオサウンドは、MQAについては無視か、
冷たい扱いの方針のようだ。

その1)で、
ベストバイの特集で、CDプレーヤーの写真には、CD、SACD、といった対応メディアの記載があるが、
MQAは、ないと書いているが、このことは一年経っても同じである。

225号のベストバイでも、MQA対応機種のところに、MQAの文字はない。

新製品紹介記事で、テクニクスのSL-G700M2が取り上げられている。
山之内 正氏が担当されている。

2ページの記事なのだが、山之内 正氏の文章中だけでなく、
スペックのところにも、写真の説明文のところにも、MQAの文字はまったくない。

MQAに対し、ステレオサウンドは否定的な立場なのだろうか。
それはそれでかまわないのだが、
ならばMQAを認めない理由をきちんと説明したらいいのではないのか。

Date: 10月 31st, 2022
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ヤマハNS1000M・その11)

1979年ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界」の巻頭、
瀬川先生の「80年代のスピーカー界展望」に、こうある。
     *
 この一年間に出揃った国産スピーカーの中から、価格別に話題作・注目作を列挙してみる。
 まず、ひとつの目立った現象は、発表後すでに五年を経て、スウェーデンの放送局が正式のモニターに採用するなど、国際的にますます高まるヤマハのNS1000Mを、おそらく狙い撃ちしようと言う意図のみえる価格設定の製品が、各社から発表されたことだろう。たとえば、パイオニアのS933、オンキョーのモニター100、そして前項であげたテクニクスSB10とビクターのZERO7。
     *
ステレオサウンド 54号の特集をふりかえっても、たしかにそうである。
ヤマハのNS1000Mは、すでにロングセラーモデルといえるようになっていたし、
ベストセラーモデルでもあった。

NS1000Mは、108,000円(一本)していた。
1976年発売のソニーのSS-G7(128,000円)も、
NS1000Mを《狙い撃ちしようと言う意図》のあったモデルといっていいだろう。
ブックシェルフ型とフロア型の違いはあってもだ。

なぜ国産スピーカーメーカーは、この価格帯にもっともっと力を入れなかったのか──、
いまふりかえると、そう思ってしまう。

この文章の数年後に、598スピーカーの不毛な競争が始まる。
ほぼ二倍の価格帯、NS1000Mのライバルとなるスピーカーを、各社が力をいれて開発していたら、
日本のオーディオは、かなり変っていたように、いまは思う。

Date: 8月 29th, 2022
Cate: High Resolution, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(MQAのこと・その6)

HDtracksが数日前からMQAを取り扱うようになった。

TIDALでのMQAのタイトル数と比較すると始まったばかりということもあって、
かなり少ないけれど、HDtracksはダウンロード購入ができる。

TIDALは、というと、昨夏はソニー・ミュージック、ソニー・クラシカルが、
MQAに積極的に取り組むようになって、相当な数のアルバムが、
いまではMQA Studioで聴けるようになったことは、すでに書いてきた。

いま私が注目しているのは、ワーナー・クラシックスである。
こちらも夏あたりからMQAに力を入れてきている。

ソニーはアナログ録音や最新録音だけでなく、
44.1kHz、16ビットのデジタル録音もMQAにしている。

ワーナー・クラシックスも同じ方針でいっているようである。
デジタル初期の録音がMQAで聴けるようになりつつある。
旧EMIの録音が、MQAで、いままで以上に聴けるようになりつつある。

アンネ=ゾフィ・ムターと
アレクシス・ワイセンベルクによるブラームスのヴァイオリン・ソナタ、
廉価盤のジャケットではあるが、MQA(44.1kHz)であるのを昨晩見つけた時は、
かなり嬉しかったし、このアルバムがMQAになっているということは──、
と思い、いくつかのアルバムを検索してみると、いつのまにかMQAで配信されている。

昨夏のソニーの勢いほどではないが、なかなか積極的なようだ。
この分で行くと、来夏はユニバーサル・ミュージックの番か。

MQAに否定的な人は相変わらずだが、MQAは確実に拡充していっている。
なのに日本は……、といいたくなる。

Date: 8月 25th, 2022
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(取り残されてきているのか・その5)

昨年、HiByのTiny USB DACのFC3を、
中国のサイトから購入したことを書いた。

日本に輸入元があるにも関わらず、中国の通販を利用したのは、
その時点で輸入元が取り扱っていなかったどころか、なんの発表もしていなかったからだ。

安価な製品だし、特にサポートを必要とするモノでもなし、
それに早く聴いてみたい、と気持が強くて、そうやって購入したわけだが、
輸入元があれば、そこから購入したい。

HiByは中国のメーカーだけに、立て続けに新製品を出してくる。
FC3の上級機FC5が出た。そしてFC4が発表、発売になった。

このFC4が、HiByのTiny USB DACとして初めてのMQAフルデコード対応である。
FC5もFC3もMQAのレンダラーでしかない。

型番からわかるようにFC5がFC4よりも上級機である。
にもかかわらずFC4はFC5を差し置いてMQAフルデコードである。

FC4は6月に発表になっていた。
どうせ、今回も半年ほど経っての発表・発売なのかな──、ぐらいに思っていた。
けれど、昨日、輸入元の飯田ピアノがFC4のリリースを出している。

9月から発売である。
今回は早い。
しかも価格も、中国のサイトから購入するのとたいして変らない。

前回は、輸入元にたいして苦言めいたことを書いた。
今回は、そんなことを書かずに済んだ。

Date: 8月 5th, 2022
Cate: High Resolution, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(MQAのこと・その5)

8月1日に、矢沢永吉のインターネット配信が始まったことは、
ニュースになったほどだから、多くの人が知っていよう。

矢沢永吉の名前は知っていても、聴かないから関係ない、と思う人もいる。
私も、そんな一人だった──、と過去形で書くのは、MQAが関係してくるからだ。

Apple Musicでは空間オーディオでの配信もある、とのこと。
ではTIDALは? と思って検索してみても、表示されない。

歌手や演奏家が日本人の場合、
同時に配信が始まることもあれば、少し時差のようなものがあるのか、
一日ほど遅れての開始が、これまで何度かあった。

2日になれば──、と思っていたけれど、始まらない。
3日になれば──、まだである。

4日は検索しなかった。
あきらめ半分で今日(5日)、検索したら表示される。
MQA Studioでの配信だ。

TIDALのサービスが日本でも開始され、
矢沢永吉本人がMQAの音を聴き、なんらかのコメントを発したら──、
そんなことを想像してしまう。

矢沢ファンはすごい、ときいている。
私の周りには一人もいないので、どの程度なのかはわからないけれど、
そんな矢沢ファンの何割かがMQAでの矢沢永吉の歌を聴くことになったら──。

Date: 6月 22nd, 2022
Cate: High Resolution, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(MQAのこと・その4)

別項「Jacqueline du Pré」で書いているように、
6月に2022年リマスターCDボックスが発売されて、
TIDALで、かなりのアルバムが新しいリマスターで、
しかもMQA Studio(196kHz)で聴けるようになった。

“Her Early BBC Recordings”もMQA Studio(196kHz)で聴ける。
このアルバムには、バッハの無伴奏チェロ組曲が入っている。
残念ながら全曲ではないけれど、それでも一番と二番を聴くことができる。

聴けないものと思っていただけに、当時、このCDが出た時はほんとうに嬉しかった。
このアルバムが、いまはMQA Studio(196kHz)で聴ける。

こういうアルバムは買っておこう、と思いながら、e-onkyoのサイトをみると、
もちろんラインナップされているのだが、なぜかflacのみ、しかも96kHzである。

今回リマスターされたデュ=プレのアルバムは、
TIDALはMQA Studio(196kHz)に対し、e-onkyoはflac(96kHz)のみである。

理由は、いまのところわからない。
今回のデュ=プレ以外のアルバムではMQAも用意されているので、
e-onkyoがMQAを扱わなくなったわけではない。

このことはQobuzを運営しているフランスの会社、
Xandrieへ譲渡されたことと関係しているのだろうか。

Date: 6月 17th, 2022
Cate: 日本のオーディオ

日本の音、日本のオーディオ(その42)

ステレオサウンド 54号の特集は、スピーカーシステムの総テスト。
巻頭座談会で、こんなことが語られている。
     *
瀬川 黒田さんの言葉にのっていえば、良いスピーカーは耳を尾骶骨より前にして聴きたくなると同時に、尾骶骨より後ろにして聴いても聴き手を楽しませてくれる。それが良いスピーカーの一つの条件ではないかと思います。現実の製品には非常に少ないですけれど……。
 そのことで思い出すのは、日本のスピーカーエンジニアで、本当に能力のある人が二人も死んでしまっているのです。三菱電機の藤木一さんとブリランテをつくった坂本節登さんで、昭和20年代の終わりには素晴らしいスピーカーをつくっていました。しかし藤木さんは交通事故、坂本さんは原爆症で亡くなってしまった。あの二人が生きていて下さったら、日本のスピーカーはもっと変っていたのではないかという気がします。
菅野 そういう偉大な人の能力が受け継がれていないということが、非常に残念ですね。
瀬川 日本では、スピーカーをつくっているエンジニアが過去の伝統を受け継いでいないですね。今の若いエンジニアに「ブリランテのスピーカーは」などといっても、キョトンとする人が多い。古い文献を読んでいないのでしょうね。製品を開発する現場の人は、文献で知っているだけでなく、現物を草の根分けても探してきて、実際に音を聴いてほしい。その上で、より以上のものをつくってほしいと思うのです。
 故事を本当に生きた形で自分の血となり肉として、そこから自分が発展していくから伝統が生まれてくるので、今は伝統がとぎれてしまっていると思います。
黒田 たとえば、シルヴィア・シャシュが、コベントガーデンで「トスカ」を歌うとすると、おそらく客席にはカラスの「トスカ」も聴いている人がいるわけで、シャシュもそれを知っていると思うのです。聴く方はカラスと比べるぞという顔をしているだろうし、シャシュもカラスに負けるかと歌うでしょう。その結果、シャシュは大きく成長すると思うのです。
 そういったことさえなく、次から次へ新製品では、伝統も生まれてこないでしょう。
     *
ブリランテというスピーカーのことを、ここで初めて知った。
知った、といっても、名前だけである。
当時は、これ以上調べることができなかった。

インターネットが普及してからでも、ブリランテというスピーカーのことは、
まったくいっていいほど何も知ることができなかった。

2019年に出た「スピーカー技術の100年II 広帯域再生への挑戦」で、
やっとどんなスピーカーなのかを、ある程度知ることができた。
音を聴くことは、これから先もおそらくないだろう。

瀬川先生が、
《製品を開発する現場の人は、文献で知っているだけでなく、現物を草の根分けても探してきて、実際に音を聴いてほしい。その上で、より以上のものをつくってほしいと思うのです。
 故事を本当に生きた形で自分の血となり肉として、そこから自分が発展していくから伝統が生まれてくるので、今は伝統がとぎれてしまっていると思います。》
と語られている。

54号は1980年春号である。
いまは2022年である。

四十年以上前にとぎれてしまっていた伝統は、いまはどうなのか。
伝統なんて、新製品開発には不要という考えの技術者はいるのかといえば、
私は、いると思っている。

そういう人たちは、日本の音なんて、関係ない、というのであろうか。