Archive for category 日本のオーディオ

Date: 8月 12th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(AT-ART1000・その5)

余韻が短くなってきたな、と感じるのは、
オーディオのことではなく、社会全般のことだ。

小学生のころ、正月は長かった。
田舎町ということもあってだろうが、
大半の店が初売りは5日ぐらいだった、と記憶している。
店によっては7日に開けるというところもあった。

熊本にはポレエルというおもちゃ専門店があった。
ここだけが元日から営業していた。
それが珍しい存在だった。

それからオリンピック。
あのころは、オリンピックが終りしばらくして、
新聞社が出す写真誌(アサヒグラフ、毎日グラフ)が、
オリンピックの特別号を出していた(と記憶している)。

当時と今とでは、印刷のスピードが違う。
編集作業にかかる時間も、いまでは短縮されている。

オリンピックのような大きなイベントが終って、
すぐにでも特別号的なものを出版できるが、あのころは遅かった。

遅かったからこそ、
そこまでオリンピックという四年に一度の大きなイベントの余韻が持続していた、ともいえる。

こんなことを書いているのは、
オーディオでも同じことを感じはじめたからである。

オーディオテクニカのカートリッジAT-ART1000が、
ドイツのオーディオショウで発表された時、これは話題になる、と思った。

話題にはなった。
でも、私が思っていた話題になる、は、もう少し長く持続しての話題になる、だった。

けれど話題の余韻は、短かった。
AT-ART1000という製品の性格上・構造上、もっと持続してほしかった、と思う。

AT-ART1000を絶賛はしないが、このカートリッジは、
カートリッジを愛でる、という感覚からも、持続して取り上げられるモノだと思う。

Date: 7月 30th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(OEM・その5)

エレクトロボイスのPatrician 800の復刻について、
もうすこし記憶をたどっていくと、
1981年以前にも一度限定で復刻していることを思い出す。

1979年暮に、当時の輸入元であったテクニカ販売が、
予約限定販売を行っていた。
50組(100台)のみの復刻だった。

Patrician 800のエンクロージュアは、カナダの家具メーカーによる製造だった。
このことは最初のPatrician 800のころからそうである。

Patrician 800の製造中止の理由は、コストの問題だったらしい。
そのカナダの家具メーカーが、特別に50組製造することになり、
1979年暮の復刻が実現している。

この時の復刻はテクニカ販売からの依頼のようで、
50組のPatrician 800は、日本向けに出荷された、ときいている。
ちなみに、この時のPatrician 800の予約は、一ヵ月足らずで現定数に達したとのこと。

Patrician 800の復刻は、だから好評だった、といえる。
おそらくテクニカ販売に、さらなる復刻の要望が届いたであろう。
とはいえカナダの家具メーカーが応じてくれたかどうかはわからない。

それでサカエ工芸が製造を請け負うことになったのではないか。

つまりPatrician 800には三つのヴァージョンが存在するわけだ。
元々のPatrician 800、
1979年暮に復刻が発表されたPatrician 800、
このふたつのエンクロージュアの製造は、カナダの家具メーカー、
それ以降の復刻(限定ではなくなった)Patrician 800、
このヴァージョンのエンクロージュアは、日本のサカエ工芸による製造、
こう見て間違いはなかろう。

Date: 6月 29th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(OEM・その4)

サカエ工芸のウェブサイトを見ていただくと、
そこにはエレクトロボイスのスピーカーシステムの写真がある。

えっ、と思われたはずだ。
私も驚いた。

そこには《フォスターブランドのエンクロージャー製造を継続する一方、独立系メーカーとして主要オーディオメーカー各社にエンクロージャー供給を開始。パトリシアン他、エレクトロボイス社へのホーム用、PA用各種エンクロージャーを供給。》とある。

1982年に《フォスター電機の主要製造拠点海外移転を機にフォスターグループから独立し、新たに株式会社サカエ工芸として発足》とある。

Patrician 800、Sentry IVB、Interface:D、Georgianの写真が、
サカエ工芸のウェブサイトにある。

Patrician 800もサカエ工芸でつくっていたのか、と驚いた。
Patrician 800の復刻は1981年秋である。

サカエ工芸がフォスターグループから独立したのは1982年、とある。
ということはPatrician 800の復刻モデルの最初のほうは、エレクトロボイスでつくっていたのか、
途中からサカエ工芸製エンクロージュアに変更されたのか。

それともサカエ工芸で最初から復刻モデルを手がけていたのか。
もう一度ステレオサウンド 60号を取り出してきた。
エレクトロボイス訪問記の写真を見た。

Patrician 800の生産ラインとして紹介されている写真は、
エンクロージュアの生産ラインではない。
エンクロージュアはすでにできあがっていて、ユニットを取り付けている写真である。

Date: 6月 29th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(OEM・その3)

エレクトロボイスのPatrician 800復刻のニュースをきいてまず思ったのは、
ティアック製オートグラフと同じで、エンクロージュアは日本製なのかもしれない……だった。

オートグラフや、それ以前のPatricianシリーズほどではないにしろ、
Patrician 800のエンクロージュアは、単なる四角い箱ではない。
コーナーホーン型である。

Sentry IVBもそうである。
30cm口径ウーファーを二基搭載したフロントローディングホーン型である。

だからエンクロージュアは日本製かも……、と思ったわけだ。

ステレオサウンド 60号にエレクトロボイス訪問記が掲載されている。
Patrician 800復刻関連の記事といえる。

Patrician 800の生産ラインの写真もあった。
Patrician 800はアメリカで製造しているのか、
日本製エンクロージュアかも……、というのは私の思い過しだったのか。

今日までそう思っていた。

ここ数日、エレクトロボイスの1828Cを眺めては、
あれこれプランを考えていた。
1828Cは岩崎先生が所有されていたモノだ。

鳴らされていた形跡はない。
岩崎先生は、このホーンドライバーを使って、
何をされようとされたのか──、そんなことも考えながらの自作スピーカーの構想である。

20cm口径ウーファーを、
アルテックの828エンクロージュアの1/2スケールのモノにおさめて、
上に1828Cを置けば、ナロウレンジなシステムではあるがA7のミニチュア版になる。
30cmウーファーと組み合わせて、トゥイーターを加えての3ウェイも考えている。
なのでエンクロージュアに関して、いくつか検索していた。

あるエンクロージュア製造の会社のウェブサイトを見つけた。
サカエ工芸という会社だ。

Date: 6月 29th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(OEM・その2)

スピーカーのエンクロージュアも日本製である例がいくつかある。

よく知られるところでは、タンノイのオートグラフとGRFである。
タンノイが手間がかかりすぎるということでやめてしまったエンクロージュアの製造を、
輸入元のティアックがタンノイの承認を得て、日本で始めた。

イギリス製から日本製へと変ったことであきらかになったのは、
タンノイにはオートグラフの図面は存在しなかった、ということ。

そのためティアックではオリジナルのオートグラフを一台分解している。
木工の専門家が分解することで、
図面だけではわからない構造と材料についてのノウハウがわかる。

結果としては図面がなかったことが、
オリジナルに近いモノを製造できることにつながったはずだ。

図面だけでつくられたモノはコピーなのかもしれない、
こうやってオリジナルを分解して、という作業を経たモノはレプリカなのかもしれない。
このへんのことはステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」タンノイ号に載っている。

ヴァイタヴォックスにも国産エンクロージュアのモノが、
輸入元の今井商事から販売されていたこともある。

オートグラフにしてもヴァイタヴォックスにもしても、
ティアック、今井商事がユニットとネットワークを輸入して、
国産エンクロージュアに組み込む作業を行って出荷していた。

こういう例は、そんなにないものだと、その頃は思っていた。
カートリッジと違い、スピーカー・エンクロージュアはサイズが大きく違うためである。

あるスピーカーに関しては、ある時期から国産エンクロージュアになった、という話をきいた。
エレクトロボイスのSentry IVBである。

ちょうどその頃だったか、
エレクトロボイスが、Patrician 800を復刻した。
Patrician 800だけにとどまらず、Baronet、Aristocrat、Regencyも続けての復刻である。

Date: 6月 29th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(OEM・その1)

オリジナル、オリジナル、何が何でもオリジナル、
とにかくオリジナルであることにこだわる人、
オリジナルであることにしか価値を見いだせない人がいる。

それも趣味といえば、それまでであって、
まわりがとやかくいうことではないとはわかっていても、
あまりにも度が過ぎている発言を、SNSでみかけると、
どうしてこんなふうになってしまった(ゆがんでしまった)のかと嘆息する。

そんて人のなかには、日本製であることを極端に毛嫌いする人がいる。
日本製のパーツがひとつでも使われいてると、
そのオーディオ機器の音楽性が破壊されてしまう……らしい。

ずっと以前から日本製の海外オーディオ機器は存在していた。
代表的なのはカートリッジである。

たとえばメガネのフレームは、
海外のブランドものをふくめて、福井の鯖江で、その大半が製造されていることは知られている。

カートリッジもそういう時代があった。
かなり以前は、海外ブランドのカートリッジを、他の海外ブランドが製造していた。
けれどいつしか日本製にうつっていった。

具体的なブランド名は出さないが、
そうとうな数のブランドのカートリッジが日本で製造されていた。
MM型、MI型カートリッジは大量生産に向く。
しかも日本は品質管理がしっかりしている。

日本製・海外ブランドのカートリッジが増えるのは当然といえよう。

手作業の工程の多いMC型カートリッジも、日本製だったものがけっこうある。
最終調整は、その海外ブランドで行われることもあろうが、日本製であることにはかわりない。

Date: 3月 26th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(ブームだからこそ・その6)

ステレオサウンド 40号の音楽欄に、
「キングの《ステレオ・ラボラトリー》クラシック篇を聴く」という記事がある。

キングレコードのプロデューサー(当時)の高和元彦氏、
キングレコードの録音部長(当時)の菊田俊雄氏、
それに井上先生の鼎談で構成されている。

レコード制作者側の発言として、こうある。
     *
菊田 2万ヘルツ以上の音というのは、耳には聴こえないわけですから、カッティングの場合は、ふつうは、2万でフィルターを入れるんです。2万以上あるとレコードの盤面でひじょうに高いハーモニックスが入ってくるわけで、当然カッティングされる波がギザギザになってきますから、摩耗の点で問題が出てきます。そこで、2万5千ヘルツぐらいまでフィルターをいれずにカッティングすることは、あまりやりたくないわけです。今回も、最初は摩耗という点で上の方をカットしたりしてみたんですが、そうすると可聴周波数外でありながら、フィルターを入れるために可聴周波数内の音色が変化してくるんですね。これはまずいということで2万5千ぐらいまではそのまま伸ばしてカッティングしてみましたら、ひじょうにバランスがよく、音色的にもきれいに聴こえるようになりました。
 それから聴感上の迫力といいますかパンチといいますか、そういう点は、カッティング・レベルを十分にとることである程度は補なうことが出来るようです。さっき高和がいいましたように、高いほうが伸びるとどうしても音が薄くなるというか、柔らかくなるんです。とくに歪みなどをとればとるほどパンチがなくなります。だからポピュラーなどでは、わざと高いほうを入れないことがあるんですね。とくにブラスの音などは、そのほうが前に出てくるんです。今回の場合は、そうしたことが出来ないわけで、それだけ苦労しましたね。
     *
キングのステレオ・ラボラトリーは、
いわゆるオーディオマニアを対象としたLPだった。

当時の広告には、
レコード技術の限界に挑戦!!、
最高水準レコードは最高の再生音を生み出します、
音の極限を征服した特別製レコード、
などのコピーが並んでいた。

そういうレコードであるからカッティング時に高域をカットしていないが、
通常のレコードでは、菊田氏が述べられているように高域をカットしている。

Date: 2月 23rd, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(OTOTEN)

いくつものテーマで書いている、このブログだが、
すごく書きたいと思っているテーマのひとつが、「日本のオーディオ、これから」である。

「日本のオーディオ、これまで」も書いている。
書きたいのは「これから」である。

とはいえそれほど書いていない。

今年、音展がOTOTENになった。
会場がインターナショナルオーディオショウと同じ国際フォーラムで開催される。
5月13日(土)、14日(日)の二日間である。

OTOTENの前身はオーディオフェアである。
私にとってオーディオフェアは晴海の見本市会場で行われているものであって、
その後、会場をいくつか変って、名称も変ってきた。
そして足が遠のいた。

オーディオフェアでは、満足のいく音を聴かせられない、ということで、
輸入オーディオショウが開催されるようになって、
輸入オーディオショウがインターナショナルオーディオショウへとなっていった。

前身が輸入オーディオショウということもあって、
日本のメーカーが出展するまでには時間がかかった。
いまではヤマハやテクニクスも出展するようになったが、
晴海でのオーディオフェアを知る者にとっては、
「日本のオーディオ、これから」を書いていきたい者としても、
どこか寂しさのような感じてしまっていた。

音展がそこを満たしていたかというと、そうとはいえなかった。
台場での音展は、うらぶれてしまった感があった。

今年のOTOTENがどういう内容になるのか、詳細はまだはっきりしていないが、
少なくともこれまでよりも期待できるのでは……、と思っている。

Date: 12月 26th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ラックスCL32・その10)

この項は、(その3)ぐらいで終るつもりで書き始めた。
なのに(その10)まで来てしまっているし、もう少し書くつもりでいる。

書きながら、なぜ長くなっていくのか、と考えてもいる。
     *
 昭和三十三年ごろ、つまりレコードがステレオ化した頃を境に、私はインダストリアルデザインを職業とするための勉強を始めたので、アンプを作る時間もなくなってしまったが、ちょうどその頃から、ラックスもまた、有名なSQ5Bをきっかけに完成品のアンプを作るようになった。SQ5Bのデザインは、型破りというよりもそれまでの型に全くとらわれない新奇な発想で、しかも♯5423やXシリーズのトランスのデザインとは全く別種の流れに見えた。
 途中の印象を飛ばすと次に記憶に残っているのはSQ38である。本誌第三号(日本で最初の大がかりなアンプ総合テストを実施した)にSQ38DSが登場している。いま再びページを開いてみても当時の印象と変りはなく、写真で見るかぎりはプロポーションも非常に良く、ツマミのレイアウトも当時私が自分なりに人間工学的に整理を考えていた手法に一脈通じる面があってこのデザインには親近感さえ感じたのに、しかし実物をひと目見たとき、まず、その大づくりなこと、レタリングやマーキングの入れ方にいたるまですべてが大らかで、よく言えば天真らんまん。しかしそれにしては少々しまりがたりないのじゃないか、と言いたいような、あっけらかんとした処理にびっくりした。戦前の話は別として♯5423以来の、パーツメーカーとしてのラックスには、とてつもなくセンスの良いデザイナーがいると思っていたのに、SQ5BやSQ38を見ると、デザイナー不在というか、デザインに多少は趣味のあるエンジニア、いわばデザイン面ではしろうとがやった仕事、というふうにしか思えなかった。
 少なくともSQ505以前のラックスのアンプデザインは、素人っぽさが拭いきれず、しかも一機種ごとに全く違った意匠で、ひとつのファミリーとして統一を欠いていた。一機種ごとに暗中模索していた時期なのかもしれない。その一作ごとに生まれる新しい顔を見るたびに、どういうわけか、畜生、オレならこうするのになア、というような、何となく歯がゆい感じをおぼえていた。
 ほかのメーカーのアンプだって、そんなに良いデザインがあったわけではないのに、ラックスにかぎって、一見自分と全く異質のようなデザインを見たときでさえ、おせっかいにも手を出したくなる気持を味わったということは、いまになって考えてみると、このメーカーの根底に流れる体質の中にどこか自分と共通の何か、があるような、一種の親密感があったためではないかという気がする。
     *
瀬川先生によ「私のラックス観」からの引用だ。
(ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」ラックス号より)

現在のラックスの一部のアンプのデザインについて書いている。
いいことを書いているわけではない。

ラックスのアンプのデザインだけがだめだというわけではない。
瀬川先生が書かれているように「ほかのメーカーのアンプだって、そんなに良いデザイン」ではない。
なのに、なぜラックスのアンプについてだけ、書きたいことがとまらないのか。

瀬川先生はインダストリアルデザイナーを志されていたから「おせっかいにも手を出したくなる気持」に、
私はデザイナーではないけれど、おせっかいとわかっていても、
何かいいたくなる気持がわいてくる。

これはきっと私だけではないはずだ。
ラックスの歴史は長い。
それだけに多くのユーザーとファンがいる。

昔からのユーザーとファンは、大なり小なり、一種の親密感をおぼえているだろうから、
黙っていられないところがある──、私は少なくともそうである。

Date: 12月 25th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ラックスCL32・その9)

ラックスの歴史は長い。
錦水堂ラジオ部として、ラックスは大正14年に発足している。

錦水堂ラジオ部とあるくらいだから、本家の錦水堂があり、
こちらは額縁屋である。

ラックスのアンプと木製ケースについて、何かを語ろうとするときに、
このことは忘れてはいけないように思っている。

少なくとも1970年代までのラックスのアンプは、
錦水堂が額縁屋だったことを感じさせてくれる。

それがいまはどうだろか。
まったく感じられなくなっている。

アンプだけではない。
アナログプレーヤーのPD121もそうだ。
額縁という観点から、もう一度PD121を見直していただきたい。

PD121のキャビネットを囲っているローズウッド。
実はプリント材である。
     *
 例えばラックスの美しいプレイヤーユニットPD121、131の側面には、とても質の良い──北欧製の高
級家具ぐらいでしかお目にかかりにくいような──美事なローズウッドが張ってある……と思いきや、これが実はプリント材なのだ。ラックスの話によると、あの狭い面積であれだけ美しく見えるローズウッドは、もはや天然材の中からは探し出すの容易でない。一品もののような家具なら別だが、量産用としてほ、もう日本に輸入されるローズウッドからは、不可能に近い。そこで、できるだけ質の良いプリント板を探してみた結果、ああなったのだ、という。
 木目の美しさを見せるなら、絶対に天然材を使うべきで、プリント板などというゴマ化しは絶対に認めたくない、という主義の菅野沖彦氏でさえ、これがプリントだとは見破れなかった。
 ある日この話を彼にしたところ、うーん! とうなって、数十秒間絶句していたが、やがて口を開いてのひと言が、またいかにも菅野氏らしかった。
「うーん……信じていた女の過去を突然聞かされたみたいなショックだよ!」
     *
瀬川先生が、以前FM fan連載の「オーディオあとらんだむ」で書かれていた。
知った上で見ても、プリントとは見破り難い。
これは、やはり錦水堂本家が額縁屋だったからなのだろう。

Date: 12月 24th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ラックスCL32・その8)

先日のKK適塾の二回目、澄川伸一氏の話に比率の美しさがあった。
私がここ数年のラックスのアンプに感じているのは、その逆、
比率の醜さである。

ラックスのいうところの伝統のデザインを継承している機種に、
特にいえることであり、それは最新機種のLX380だけでなく、
それ以前に出ている、昔ながらのラックス・デザインのアンプにもいえる。

ひとつひとつ機種名は挙げない。
昔からのラックスのアンプを知っている人ならば、
どれらのアンプのことを言っているのかはすぐにわかってもらえよう。

だから、ここでは代表してLX380について書いていく。
LX380は管球式プリメインアンプである。

LX380を構成する部品で背の高いものといえば、出力管とトランスになる。
出力管に何を採用するかで、アンプの高さはある程度決ってくる。

出力管を水平配置にしないかぎり、管球式プリメインアンプは厚みのあるものになってしまう。
けれどLX380を見て感じるのは、プロポーションの圧倒的な悪さである。
比率の醜さといってもいい。

なぜ、ここまでずんぐりむっくりにしたのだろうか。
あえて、こういう比率にしているのか。

ラックスのウェブサイトでLX380のページには、
「伝統的なノブのレイアウトと木箱ケース」とある。

揚げ足取りみたいになるが、伝統的なデザイン、とは書いてない。
あくまでも伝統的なノブのレイアウトである。

LX380のプロポーションの悪さは、ラックスも認識しているのか、と思いたくなる。
認識しているからこそ、伝統的デザインではなく、伝統的なノブのレイアウトにしているのか。

Date: 12月 19th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ラックスCL32・その7)

型番とは、そのオーディオ機器のいわば名前である。
名前をおろそかにつける親はいないのとと同じで、
きちんとしたメーカーであれば、自社製品の型番をおろそかにはしない。

そして型番にはそれぞれのメーカーにつけ方のルールがあろう。
アルファベットと数字の組合せからなるのが、大半の型番だけに、
アルファベットが示す意味と、数字が示す意味とは分れる。

ラックスの型番にもルールがあった。
あえて過去形で書いている。

前回(その6)で書いているように、
最初のアルファベットが二文字のときは数字との間にハイフンは入らない、
一文字の場合は数字との間にハイフンがはいる、というルールがあった。

どういう意図で、この型番のつけ方が決ったのかはわからない。
これは知りたいと思っていることのひとつである。

歴史の長いメーカーだと、そのルールをつくった人がすでにいないことも多い。
明文化されていないルールなのかもしれない。

だからいまのラックスはアルファベットが二文字でもハイフンを入れている。
ルールは時代によって変っていってもいい、と考えている。

でも、ラックスの型番に関しては、アルファベット二文字でもハイフンが入るのには、
わずかとはいえ違和感を感じてしまう。
ラックスらしさが消えてしまったかのようにも感じるのだ。

ささいなことといえば、確かにそうだ。
でも、そのささいなルールを変えたのか、破ってしまったのか、
それともルールがあったことすら知らないのか。

ならば型番自体も大きく変えてしまえばいいと思うのだ。
以前からある型番を受け継ぎながらつけていくのであれば、
そこにあったルールを守るべきだ、と私は思う人間だ。

しかも、同じことがラックスの場合、
アンプのパネルフェイスに関してもいえるのが、深刻なように感じてしまう。

LX380を見て、伝統のデザインといえるだろうか。

Date: 12月 3rd, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ラックスのアンプ・余談)

ラックスのこととは関係ないが、
電源周波数の違いは、アナログプレーヤーで、シンクロナスモーターの場合、
メーカーはどう対応しているのか。

シンクロナスモーターであれば50Hz用と60Hz用と、
電源周波数が違えばモーターごと交換するのが本来である。

EMTの930st、927Dstなどはそうである。
けれどすべてのシンクロナスモーター使用のモノがそうではない。

モーターを交換せずに、プーリーと進相コンデンサーを交換で対処するモノ、
プーリーだけを交換するモノがある。

はっきりいってプーリーだけの交換ですませてしまうアナログプレーヤーは、
論外といっていい。
どんなに高音質を謳っているモノであっても、
世評が高いモノであっても、
そのメーカーが50Hz、60Hz、どちらの国なのか、
そしてどちらの電源周波数の地区で使うかによっては、問題が生じることがある。

進相コンデンサーも交換するモノであればまだましだが、
それでもお茶を濁している対処法でしかない。

まして高額なプレーヤーで、モーターを交換しないモノは、私は信用していない。

もちろん発振器とアンプによるモーター駆動回路を搭載しているのであれば、
その限りではない。

Date: 12月 1st, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(続ラックスのアンプ)

同じことをウエスギ・アンプにもおもう。
ここでいうウエスギ・アンプとは現在のそれではなく上杉先生の時代のアンプのことだ。

上杉先生自身がいわれていたように、刺戟的な音は絶対に出さないアンプだった。
そのかわりとでもいおうか、音の力感ということに関しては控えめな表現にとどまっていた──、
そう感じる面をもちあわせていた。

けれど、このことは電源周波数の違いと無関係とは思えない。
上杉先生は兵庫県にお住まいだった。
当然、ウエスギ・アンプはそこでつくられていた。
音決めも60Hz地区である兵庫県で行われていた。

しかもU·BROS3のトランス類はすべてラックス製である。
電源トランスもだ。

この時代のウエスギ・アンプを60Hz地区で聴いたことはない。
なのではっきりしたことはいえないのだが、
U·BROS1とU·BROS3のペアを、60Hz地区で聴いたら、
力感の表現に関しての印象は違ってくるように思われる。

電源周波数の違いで、そのアンプの本質までが180度変ってしまうということはない。
けれど、特質においては意外と変ってしまう面もある。

いまになってU·BROS3を、60Hzで聴いてみたかった、と思っている。

Date: 12月 1st, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ラックスのアンプ)

いまラックスの本社は横浜市にある。
1984年に本社を大田区に移転後、関東にある。

それ以前は大阪に本社はあった。
大阪と関東では電源の周波数が違う。
60Hzと50Hzの違いがある。

大阪本社時代は、製品開発は大阪で行っていたはず。
つまり60Hzの電源の元で行われていたわけだ。

私がはじめて聴いたラックスのアンプはLX38だった。
大阪本社時代のアンプである。
熊本のオーディオ店で聴いているから、60Hzである。

オーディオ雑誌の出版社はすべて東京にある。
50Hzである。
大阪本社時代のラックスのアンプは、50Hzで試聴されていた。
オーディオ評論家によっては、大阪本社に行って試聴している人もいようが、
大阪と東京、どちらで聴く機会が多かったかといえば、東京のはずだ。

50Hzと60Hzによる音の違いは大きい。
アメリカ製アンプで、まだ日本仕様(100V対応)になっていないアンプの場合、
昇圧トランスを使った方がいいのか、とときどききかれる。

どういう昇圧トランスを使うかにもよるし、
アンプにもよって結果は違ってくる。

ここでもオリジナル至上主義者は、アメリカと同じ電圧でなければ、という。
ならば、そういうオリジナル至上主義者は、60Hzで聴いているのだろうか。

厳密な試聴をしての印象ではないが、
60Hzのアメリカ製アンプは、電源電圧よりも電源周波数のほうが影響が大きいように感じている。

大阪本社時代のラックスのアンプも、そうだったのではないだろうか。