Archive for category 日本のオーディオ

Date: 7月 6th, 2019
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(Made in Japan・その5)

1991年ごろのことだ。
府中で、ある看板が目に入った。

木工の工房だった。
そこには、オーレックスのスピーカーの試作品を手がけていた、
そんなことが書かれていた。

そのころオーレックスは、本格的なオーディオから手を引いていた。
なので、その木工の工房も、東芝からの仕事が減ったかなくなったのか。

そのころの私は無職に近い状態だったから、
そこにスピーカー・エンクロージュアの製作を依頼する余裕はなかった。

それから十年くらい経っていただろうか、
その工房のあたりに行ったけれど、見つけることはできなかった。

工房はすでに閉めていたのか、
それとも私の記憶違いで、別の場所で探していたのか。

その後、何度かこのあたりを通りかかることはあった。
気をつけて見ていたけれど、見つけられなかった。

この工房が、オーレックスのスピーカーシステムの試作のどれだけを請け負っていたのか、
それはわからない。
試作品の大半を、この工房で作っていたのか、ごく一部だけなのか。

ただいえるのはエンクロージュアの試作品を外注していたことは確かだ、ということ。
このことが、当時の私には意外だった。

オーレックス(東芝)ほどの大企業でも、エンクロージュアの試作品を外注に出すのか。
自社で腕のいい木工職人を雇っていなのか。

他のメーカーはどうだったのか。
エンクロージュアの試作品は外注に出さず、すべて自社内で作っていたところは、
どのくらいあったのだろうか。

Date: 6月 7th, 2019
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(韓国、中国は……・その6)

AliExpressを見るのは楽しい。
楽しいんだけれど、なぜ、こんなに楽しんでいるのか、と自分でも不思議に思うほどである。

先週もAliExpressを眺めていた。
眺めていて、ふと気づいた。
というか思い出した、としたほうがいいかもしれない。

そうだ、同じことを、ずっと以前、
四十年以上前にやっていた。

オーディオに興味を持ち始めて、
おもにステレオサウンドを眺めては、
いろんな組合せを想像していた。

予算もいくつか設定して、
この予算ならば、スピーカーはこれに決めて、
ならばアンプは、あさかこれか、
カートリッジは……、そんなふうに組合せを楽しんでいた。

といっても、すぐにそんな組合せを自分のシステムとして導入できるわけではない。
だから、どれだけ安く仕上げられるか。
そんなことも考えていた。

当時の無線と実験には、広告がけっこう載っていた。
パーツ店、キット、基板を取り扱っている店も多く載っていた。

そうなのだ、いまのAliExpressと同じような世界が、ずっと以前の日本にもあったのだ。
そのことを思い出し、
四十年前と変らぬことも、五十すぎてもやっていることに気づいた。

Date: 6月 5th, 2019
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(Made in Japan・その4)

製品開発と製造は違う国で行うことは、いまや珍しいことではない。
各国の、いろんなメーカーがすでに行っていることである。

オーディオも以前からそうなっていた。
特にローコストの製品はそうだった。

高級品(高額品)もそうなりつつある、というところなのか。
製品の品質に問題がなければ、特に取り上げるようなことではない。

なのにここで書いているのは、電子機器ではなく、
スピーカーシステムにおいて、このやり方を続けていく──、
どうなるのかという懸念がないわけではない。

スピーカーシステムのエンクロージュアが木工でなければ、あまり問題にはならないが、
金属エンクロージュアも登場してきたとはいえ、
やはりエンクロージュアの多くは木である。

井上先生がよく言われていたことがある。
エンクロージュアづくりの難しさである。
木工の難しさである。

いまはどうなのか知らないが、
当時のオーディオメーカーは、腕利きの木工職人を抱えていた、ときく。

スピーカーシステムの開発には、なくてはならない存在である。
ベテランの職人であっても、
まったく同じといえる二本のエンクロージュアをつくるのは、
ほぼ無理だ、と井上先生はいわれていた。

木工のデリケートさを強調されていた。
接着剤の量、接着まで終えるまで、各部にかける圧の調整、
湿度や温度、とにかくいろんな要素によって、エンクロージュアの音は違ってくる──、
そういうものである。

Date: 5月 30th, 2019
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(Made in Japan・その3)

タンノイのウェストミンスターの登場は、1982年。
そのころだと木工職人の人件費は、イギリスよりも日本の法が高い、ということだった。

タンノイは、構造が複雑なエンクロージュアのオートグラフの製造をやめている。
ウェストミンスターは、レクタンギュラー型、コーナー型という違いはあるが、
オートグラフと基本的な構造は同じである。

フロントショートホーンをもち、バックロードホーンでもある。
オートグラフの製造をやめてしまったタンノイが、
ほぼ同じ構造のエンクロージュアのウェストミンスターを製造するということは、
オートグラフの再生産を始めたようなものである。

ティアックによる国産エンクロージュアによるオートグラフもよく出来ていた。
それでも、日本ではオリジナル・エンクロージュア神話(みたいな)がある。

私も、オートグラフを購入するのであれば、イギリス製(オリジナル)エンクロージュアを探す。
そういうものである。

それは、いま以上に、当時のほうが強かったはずだ。
そんななかウェストミンスターが登場したわけだ。

ウェストミンスターの登場は、モノづくりの難しさとともに、
モノづくりを囲む状況の変化といったことも考えさせられる。

この状況は変化している。
私はそれほど、その変化に詳しいわけではないが、
それでも数年ほどではっきりとした変化があるように感じている。

ある時期、中国は世界の工場と呼ばれていた。
けれど、五年ほどくらい前からか、
以前は中国で製造されていたのに、
いつのまにかベトナム、インドネシアに変っていたという例を、
オーディオではないけれど、いくつかのジャンルでいくつも知っている。

Date: 5月 27th, 2019
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(Made in Japan・その2)

試作品の音を、インターナショナルオーディオショウで聴き、
強く感心し強い関心と期待をもったけれど、
完成品として仕上がった、その音に、こんなふうになってしまったのか……、
と個人的にひどくがっかりしたのは、ヤマハのNS5000である。

もっとも私がそう感じているだけで、
多くの人は、試作品のNS5000の音よりも、
完成品のNS5000の音を高く評価しているようだから、
まぁ、それはそれでいいんじゃないか、と思うしかない。

私はNS5000への関心を急速になくしてしまった。
なので、つい最近知ったのだが、
NS5000は、日本製ではなくインドネシア製である。
専用スタンドはマレーシア製である。

そのことを批判したいわけではない。
ちょっと意外だっただけである。

でも、これ以前書いているが、
TADの以前のフロアー型システムは、中国で製造していた。
オーディオアクセサリーだったと思うが、記事にもなっていた。

中国だから、この値段に抑えられている、ということも書いてあったよう気がする。
NS5000もそうなのだろう。

このことに関連して思い出すのは、
タンノイのウェストミンスターが登場したときの話である。

タンノイはオートグラフの製造をやめた。
輸入元のティアックが、承認を得て日本でオートグラフのエンクロージュアを製作するようになった。

そういうことが背景としてあったものだから、
ウェストミンスターが登場したときに、
ステレオサウンド編集部の誰かが、「イギリス製ですか」と訊ねた。

返ってきたのは、
日本でよりも、いまではイギリスで作るほうが安く仕上がる、とのことだった。

Date: 1月 22nd, 2019
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(韓国、中国は……・その5)

AliExpressはブラウザーでも見られるけれど、
スマートフォンからだと専用アプリの方が見やすいし使いやすい。

電車に乗っているときなど、ちょっとした空き時間のときに、
AliExpressのアプリを開いている。

いまのところ週に一回ほどはAliExpressで、様々なオーディオ機器を検索している。
とにかく、ある。

ある、としか書きようがないくらいに、いろいろなオーディオ機器が、
AliExpressで売られている。

管球式でしかもバリコン式のチューナーの基板まであるのは、
ちょっと驚いている。
ステレオデコーダーは半導体が試用されているが、
いま日本で、例えキットとはいえ存在しているだろうか。

もう20年くらい前だったか、
秋葉原のオーディオ店にいたら、ある客(50代くらい)が店員に食い下がっていた。
バリコン式のチューナー、それも新品が欲しい、ということだった。

20年くらい前、つまり2000年前後のことだ。
すでにバリコン式のチューナーを、国産メーカーが製造しなくなってけっこう経っていた。
そのことも店員は説明していた。

そういう製品を新品で手に入れるのは無理だ、と。
それでも客は、欲しい、どうにかしてくれ、という。
無理なことをいっているという認識が客側にないように感じられた。

バリコン式のチューナーは、そのころすでに骨董品的でもあった。
管球式ともなれば、さらに遺物的とでもいおうか。

そういうチューナーが、中国のAliExpressでは、
電源トランス、シャーシーを用意しなければならないとはいえ、新品で入手できる。

中国のチューナーなので、そのまま日本のバンドに適合しているわけではない。

それでも、なんだかすごいなぁ〜、と思ってしまう。
こういうモノが見つかるから、AliExpressをたまに覗いてしまう。

Date: 1月 17th, 2019
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(上原晋氏のこと・その6)

上原晋氏のリスニングルームに庭に面している一辺はアルミサッシである。
おそらく、ではあるが、リスニングルームの設計段階、
それに完成した当初は、このサッシを背にしてスピーカーを置かれていたはずだ。

庭の景色をながめての音楽鑑賞を描かれていたように思う。
そのことはリスニングルームのカベに飾られていた写真からもうかがえる。

花の写真があったが、長男の嵩史氏によると、庭に咲いている花であろう、とのこと。
ならば庭をながめながら、だったはずだ。

けれど意に反して、満足のえられる音が出なかったのか。
それでラックスの冊子、それに現在のように、
作業室へと通じる引き戸側にスピーカーを移動された、と推測できる。

そういえば、瀬川先生がステレオサウンド 54号に書かれていることを思い出す。
     *
 部屋の基本的な音、響きについては十分に満足をし、成功したものの、実は当初予測し切れなかった小さな誤算がひとつあった。
 以前から私は、部屋の中でのスピーカーの置き方として、長方形の部屋の場合、長手方向の壁面をスピーカーの背面として使ってきた。つまり部屋を長手方向に使うのではなく、短手方向に、左右のスピーカーのさらに外側を広くあけて使う、という置き方をしてきた。それはかつて、6畳ないし8畳という、決して広くない空間で、できるかぎり音の広がりと奥行き、定位といったステレオエフェクターを最大限に活かすために、体験的にあみ出した方法だった。
 スピーカーの二つの間隔がせますぎ、なおかつスピーカーの左右両わきに十分な空間がとれないと、どうしても音の広がりが得られない。いったんスピーカーを十分に広げて音の広がりを体験してしまった耳には、ひどくもどかしく感じられる。それを6畳ないし8畳、あるいはせいぜい本誌試聴室の15畳の広さで実験してみた場合、部屋を短手方向に使う以外にないようだ。ここ数年来の本誌のテストでも御承知のように他のリポーターが部屋を長手方向に使う場合でも、私だけは頑固に短手方向に使うということを一貫して行なってきたというのも、その主張のあらわれに他ならない。
 にもかかわらず、自分のリスニングルームを計画した時、部屋の短辺の壁面が内寸(実効寸法)で4・5メートル以上とれれば、部屋を長手方向に使っても2つのスピーカーの間隔はほぼ十分にとれ、従来のように部屋を短手方向に使う必要がないと、この部屋に関しては最初から決めてかかり、当然、視覚的な窓の配置等を含めたインテリアもその方向で仕上げてしまった。
 ところが、スピーカー運び込み、初めて鳴らしてみた時に、予測しないトラブルが生じた。十分聴き慣れていたはずのJBL♯4343が、部屋の短辺に置いたのではひどくこもった、まるで魅力のない音でしか鳴らない。魅力がないどころか、その音はむしろ、欠点だらけといいたいほどひどいバランスで、一時は♯4343を手離すことさえ考えた時期もあった。転居してしばらくの間は、♯4343はそうして部屋のすみに放り出されていた。ある日フト思いついて、部屋の長辺のほうに左右の両はしを十分にあけた形で、♯4343を置いてみた。するとどうしたことだろう、長手方向でまったくサマにならなかった♯4343が、これまた一変して予測もしなかった、たいへん見事な音で鳴り始めたではないか。
 この♯4343の置き方がヒントになって、各種のスピーカーを部屋の長手方向、短手方向に置き変えてみた結果、少なくとも音の響きの美しさを活かしながら、細かな音をよく聴き分けるには、やはりこの部屋でも短手方向に使う方がすぐれていることが確認できた。前述のようにこの形で聴くかぎり、視覚的にはやや落着きのない結果になってしまった。リスニングルームを計画するにあたっての小さな、しかし重大な誤算であったと反省している。
 この体験を通して確認できたことは、従来さまざまな部屋で体験していたことだが、同じ部屋の中で、同じスピーカーが、置かれる場所(面)によってまるで別物といいたいほど性格を変えるということだ。そのことからも、リスニングルームを計画するにあたって、スピーカーの位置をあらかじめ決めて、つくり付けにしてしまうというようなことは、とうてい私にはできないと再確認した次第である。
     *
瀬川先生は
《リスニングルームを計画するにあたっての小さな、しかし重大な誤算であったと反省している》
と書かれている。

上原晋氏も同じように思われていたのだろうか。

Date: 12月 8th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(韓国、中国は……・その4)

ここまで書いてきて、そうだ、と思い出したことがある。
なので、ちょっと脱線してしまう。

もう十年くらい前になるか、
Red Rose Musicのアンプのことが、ちょっと話題になっていた。
Red Rose Musicは、マーク・レヴィンソンが、マークレビンソン、チェロに続いて興した会社。

最初はオーディオプリズムの真空管アンプをベースに、
マーク・レヴィンソンがチューニングを施した製品だった。
その後、トランジスターアンプが、それからスピーカーシステムが登場した。

これらは、中国のメーカーによるモノだった。
アンプはDussun、スピーカーシステムはAurum Cantus製で、
しかも中国では、それぞれのブランドで安価に売られていた。

写真を見る限り、外観はRed Rose Musicブランドであっても、
Dussunブランド、Aurum Cantusブランドと同じである。

中は違っている、といわれていた。
マーク・レヴィンソンがチューニング(モデファイ)している、ということだった。

けれど、それもアヤシイといわていた。
どちらも内部を見たことはない。
そのウワサが事実なのかどうかはなんともいえないが、
少なくともマーク・レヴィンソンにとって、
Red Rose Musicの製品として売るだけの良さがあったのだろう。

もっといえば、どこか琴線にひっかかってくるものがあったのだろうか。
琴線と書こうとして、(きんせん)と入力したら金銭と出てしまい、
それもまたマーク・レヴィンソンらしい理由かも──、と思ってしまう。

金銭か琴線なのかは措くとして、
少なくともRed Rose Musicブランドとして恥ずかしくないクォリティを持っていると、
マーク・レヴィンソンは判断したはずだ。

それから十年ほどが経っている。

Date: 12月 4th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(上原晋氏のこと・その5)

上原晋氏のリスニングルームは、ちょっと変形なため広さをややつかみにくいが、
20畳はあろう。

私だったら、これだけのスペースがあればためらうことなくSuper Red Monitor(SRM)を入れる。
もっと狭いスペースでも、SRMを鳴らしたいと思ったなら入れる。
たとえ六畳間であっても、SRMを設置できるのだから、SRM12Xを含めて、
SRMシリーズの他の機種はもう目に入らない、とでもいったほうがいい。

結局、欲しいと思えたスピーカーの大きさなんて、ほとんど気にしない。
もちろん物理的に部屋に入らないほどの大きなモノならば、あきらめるが、
部屋に入る以上は、そこを、それを目指す。

上原晋氏がSRM12Xを選ばれたのか、その理由はわからない。
リスニングルームの片隅には、いまは鳴らされていないQUADのESLがあった。

おそらくSRM12X導入前は、このESLを鳴らされていたのだろう。
リスニングルームの完成は前にも書いているように1978年だから、
SRM12Xもちょうどその頃からなのだろう。

となるとESLは以前のリスニングルームに鳴らされていたのか。
そのときの部屋の広さはどのくらいだったのだろうか。

狭くはなかったように勝手に思っている。
おそらく空間の広さに応じてのスピーカーの選択ということ、
つまりバランスを重視しての選択をされていたのではないのか。

私もESLを鳴らしていた。
六畳弱の狭い部屋で鳴らしていた。
しかも部屋は横長に使っていた(長辺側にスピーカーを置いていた)。
ESLと私との距離は、ごく短い。
手を伸ばせば、誇張でなくもう少しでESlに届くほどだった。

ESLとカベとの距離も最低限しか確保できなかった。
アンプはSUMOのThe Goldだった。
そんな極端なアンバランスな環境きもとで、私はESLを鳴らしていた。

上原晋氏は、こんなことは決してやらない人なのだろう。

Date: 11月 28th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(上原晋氏のこと・その4)

ステレオサウンド 55号から、菅野先生によるタンノイ研究が始まった。
一回目は、やはりオートグラフである。
二回目が、SRMとCLMの比較であり、
四回目(58号掲載)で、SRMシリーズを全機種試聴というものである。

SRMシリーズには、オリジナルとなるSuper Red Monitor(SRM)、
これをやや小型化したSRM15X、
12インチ口径同軸搭載のSRM12XとSRM12B、
10インチ口径のSRM10Bの五機種があった。

つまりABCシリーズのArden、Berkeley、Cheviot、Devon、Eatonのラインナップが、
そのままSRMシリーズでも展開されていた。

SRMシリーズは、大掴みに言えばABCシリーズのエンクロージュアを強固にしたものだ。
SMM12Xは、だからABCシリーズのCheviotに相当するモデルともいえる。

CheviotとSRM12Xの外形寸法はほぼ同じだが、重量はCheviotが25kg、SRM12Xが30kgである。
SRM12Xだけでなく、SRMシリーズは、ABCシリーズの相当モデルよりも重量は増えている。

私はSRMシリーズはほとんどが聴いていない。
かろうじてSRMを、わすかな時間聴いたことがあるだけだ。

参考までに、ステレオサウンド 58号での菅野先生の評価を引用しておく。
     *
 SRM12Xは、ユニット口径が12インチの同軸型で、3149と称されるユニットが内蔵されている。トゥイーターとのクロスオーバーも、15インチユニットとは異なり、1・4kHzにとられている。最大連続入力100W、ピークなら350Wというヘヴィデューティな設計で、92dB/W/mの音圧レベルだから、相当な能力をもっているといえるだろう。一連の音質調整をこのシリーズはすべて備えていることはいうまでもない。つまり、ロールオフ4段、ハイエナジー5段でコントロールが可能。エンクロージュアはバスレフ型で、パイプダクトが下部に一本ある。たいへんバランスのよいシステムで今回の試聴機種の中では最も強く印象づけられた製品であると同時に、SRMシリーズの中にあって、堂々と存在の独自性を誇り得る機種でもあると思う。12インチ口径のユニット3149の音質はたいへん優れていて、全帯域のバランスとしては、むしろ15インチ口径のK3808や、K3838、3828よりよいと思われる。ごく低い領域は15インチ口径が勝ることは当然だが、しかしエンクロージュアを小型化した場合には、絶対、12インチ口径の低音のほうが質がよいはずだ。
(中略)
 SRM12Xは、SRMシリーズの中で最も一般向きとして受け入れられる製品だと思う。30cmのデュアルコンセントリックのバランスはたいへん好ましく、音の質感はタンノイの重厚さを保ちながら、シリーズ中、もっともカラーレイションの少ないものといってよい。聴き応えのあるタンノイ特有の説得力は強いが、中低行きがよくコントロールされているので、固有の癖と感じられる音ではない。スケール感は十分で,15インチユニットの大型フロアータイプとまではいかなくても、一般家庭の20畳ぐらいまでの部屋なら不足はないはずだ。
     *
いまこうやって菅野先生のSRM12Xの評価を読み返していると、
上原晋氏らしい選択とおもえてくる。

Date: 11月 28th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(上原晋氏のこと・その3)

上原晋氏のリスニングルームに入って、まず思ったのは、
ラックスのアルティメイトシリーズの冊子ではよくわからなかった部屋の形である。

大きく捉えれば五角形の部屋である。
とはいえ正五角形ではないし、
あくまでも大きく捉えれば、であって、平行面の少ない部屋である。
この部屋の形は、数枚の写真だけで正確に伝えるのは難しい。

天井はもっとも高いところでは4mを優に超えている。
教会の建物のように天井は傾斜している。
1978年に完成したリスニングルームとのことだった。

基本的な設計は上原晋氏自身によるもの、らしい。
リスニングルームは、そのように変形とはいえ、建物の外観はごく普通である。
ラックスの冊子にもあるように、
左右のスピーカーの間にある扉を開けると、上原晋氏の作業室といえる空間がある。

この空間も、また変形である。
つまりリスニングルームを、そういう設計(形)にするために生じた空間を、
仕事場にされていたし、その隣は暗室であった。

リスニングルームには、上原晋氏撮影の写真が飾られていた。
長男の嵩史氏によれば、晩年はオーディオはあまりやられていなかったようだ。

写真に集中されていた、とのこと。
理由はよくわからない、とのことだった。

でも上原晋氏のシステムを眺めていると、
なんとなくではあるが、そうかもしれない、とはおもえてくる。

スピーカーは前述したようにタンノイのSRM12Xだ。
このスピーカーは型番の数字が示すように12インチ口径の同軸型ユニットを搭載している。

SRMは、Super Red Monitorの略で、
15インチ口径搭載のSuper Red Monitorがあるし、SRM15Xもあった。
さらには外観的はほぼ同じである、Classic Monitor(CLM)もあった。

けれど上原晋氏はSRM12Xを選ばれている。
アナログプレーヤーにも同じことがいえる。

回転数が合わないということで、別のプレーヤーをいまは使用されているが、
リスニングルームには、ラックスのPD131が置いてある。
上級機のPD121ではなく、131の方があった。

Date: 11月 27th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(上原晋氏のこと・その2)

アルティメイトシリーズは1983年に発売になった。
ラックス最後の真空管アンプということだけでなく、限定販売でもあった。

けれど翌1984年には、
ウェスターン・エレクトリックの300Bを採用したシングルアンプMB300を出す。
その後も、ラックスは真空管アンプを出しつづけているし、
現在も真空管アンプはラインナップのなかに、いつもある。

アルティメイトシリーズは、すぐに完売した、ともきいている。
限定ということも売行きを加速したのかもしれないが、
真空管アンプは、まだまだ商売になる、とラックスは思ったのだろうか。

このことについて、あれこれ書くつもりはない。
アルティメイトシリーズは、ラックスにとって特別な製品であったのだろう、
カタログの他に、冊子もつくっている。

ラックスの製品で、こういうことはあったのかどうか知らないが、
他のメーカーをながめてみても、あまり例がないことだろう。

冊子がつくられることは、ままある。
けれど、それらの冊子は、
各オーディオ雑誌に製品が取り上げられた記事をまとめたものである。

アルティメイトシリーズの冊子のような例は、少なくとも私には他に知らない。

この冊子をみたことがある人ならば、
そこに上原晋氏のリスニングルームが載っていることを記憶されていることだろう。

タンノイのGRFメモリーが置かれてあった。
このタンノイを、アルティメイトシリーズのアンプで鳴らす、という記事である。
この記事のせいだろうか、
上原晋氏は、GRFメモリーを鳴らされていた、と思われた人は少なくないはず。
けれど、実際はタンノイのSRM12Xを鳴らされていた。

冊子の記事をよく読み、よく写真をみれば、なんとなくわかることなのだが、
GRFメモリーは、冊子のために一時的に上原晋氏のリスニングルームに持ち込まれたものだ。

Date: 11月 25th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(Made in Japan・その1)

何年くらい前からだろうか(オーディオ以外のところで)、
Made in Japanを誇らしげに謳っているのをよくみかけるようになった。

それらをみかけるたびに思っているのは、
ずっと以前のMade in Japanと、現状でのMade in Japanは、
意味するところは必ずしも同じではないはず、ということだ。

ずっと以前のMade in Japanは、いわばMade by Japaneseだった。
日本でつくられるイコール日本人によってつくられたモノであった。

いまはMade in JapanイコールMade by Japaneseなわけではなくなりつつある。

Made by JapaneseであるモノとMade by Japaneseではないモノ。
どちらが優れているとかそういうことではない。

ただMade in Japanを、誇らしげに(ことさらに)謳っているのをみると、
Made in Japanとは、どういうことなのかを問い正しくなる、ということである。

Date: 11月 24th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(上原晋氏のこと・その1)

昨日(11月23日)は、兵庫と大阪に行っていた。
大阪ハイエンドオーディオショウが第一の目的ではなかった。
大阪ハイエンドオーディオショウをみたのが、二時間足らずだったのはそのためである。

兵庫は宝塚に行っていた。
ラックスの上原晋氏のリスニングルームに行っていた。

上原晋氏は、ラックスの技術部長、技術顧問、常務だった人である。
2015年12月に亡くなられている。
故人のリスニングルームを訪問してきた。
いまは長男の上原嵩史氏が、維持され鳴らされている。

上原晋(すすむ)氏の名前は、ラックスというオーディオメーカーに興味のある人ならば、
ある世代よりも上ならば、たいていの人が知っている。

それまで上原晋氏のことを知らなかった人でも、
1982年に発表されたアルティメイトシリーズ、
プリメインアンプLX38u、コントロールアンプCL36u、パワーアンプMB88uの記事で、
上原晋氏の名前と存在を知ったであろう。

ステレオサウンド 65号(1982年12月発売)に、
「ラックスのアルティメイト・シリーズに見るオーディオ工芸家 上原 晋論」が載っている。
永井潤による文章だ。

アルティメイトシリーズのアンプ三機種は、いうまでもなく真空管アンプである。
型番末尾につく「u」はアルティメイト(ultimate)を表わしている、と発表されているが、
じつのところ上原晋の「u」でもある。

記事にもあるが、このアルティメイトシリーズが、
ラックス最後の真空管アンプとなる予定だった。

Date: 11月 7th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(韓国、中国は……・その3)

1970年にトランジスタ技術別冊として「世界の名器に挑戦」というムックが出ている。
出ていることは知っているけれど、手にとって読んだことはない。

内容は、海外の有名アンプのコピー(クローン)を製作するというもの。
コントロールアンプでは、マランツのModel 7T、JBLのSG520、
マッキントッシュのC27とC26、ダイナコのPAT4、QUADの33、CMラボラトリーズのCC2。
パワーアンプは、マランツのModel 15、JBLのSE400S、ダイナコのStereo 120、
アコースティックのModel I、QUADの303、アルテックの351C、CMラボラトリーズの350、
プリメインアンプはJBLのSA600が取り上げられている。

おもしろい企画だと思うし、この時代ならではの企画でもあろう。

スピーカーシステムでは、同じ企画はいくつもある。
自作のパラゴン、自作のハーツフィールドなどの記事は、過去にいくつもあった。

どこまで本物に迫れるか。
自作する人の腕の見せどころでもあるし、
本物に迫ろうとすればするほど、本物を買った方が結果としては安くつくのではないのか。

それでも人は作る。

AliExpressでオーディオに関するものを検索していくと、
1970年代の日本のオーディオのありかたと重なってくるところがあるようにも感じる。

そういえば、そのころ日本にはジムテックというメーカーがあった。