Archive for category 公理

Date: 2月 17th, 2015
Cate: 公理

オーディオの公理(その7)

ステレオサウンドは70号で、「真空管アンプの新しい魅力をさぐる」と題して、
28機種の真空管セパレートアンプの試聴を行っている。
ふだんのステレオサウンドの特集では登場しないブランドのアンプも、ここでは取り扱っている。

この試聴記事の冒頭には、
試聴メンバーの長島達夫、山中敬三、細谷信二による鼎談
「真空管アンプはなぜ音がいいのか、現代にも通用するサウンドの特質とその秘密をさぐる」があり、
試聴記事の後には「内外真空管アンプメーカーに聞く アンプづくりのポリシーとノウハウ」という、
アンケート調査の結果がある。

これらの記事から、真空管アンプの音について、公理といえることが読みとれるだろうか。
鼎談の中にも、ウォームトーンという単語が出てくる。
長島先生の発言だ。
     *
これは前から気になっていたことですけど、真空管アンプ=ウォームトーンという言葉が一時、流行しました。やわらかく穏やかで、全体を包み込むような雰囲気がある。そのかわり、中身がはっきり見えないということなんだ。はっきり言ってしまえば、音に偏りがあるアンプということだとぼくは思うんです。
それは、コンストラクションとか回路をわりあいとイージーにまとめてしまったことが原因なんですね。ところが、そういうアンプでも四次元目はあるわけです。その四次元目をあまりにもクローズアップしたがために、非常に大事な音の基本的な三次元の要素が忘れられてるということなんです。これはアンプとしてやっぱり落第だとぼくは思う。
本当の真空管アンプというのは、決してそんな特定の色合いはないんですよ。
     *
ここで公理として浮び上ってくるのはウォームトーンではなく、四次元目ということになる。

Date: 2月 17th, 2015
Cate: 公理

オーディオの公理(その6)

マイケルソン&オースチンからも、管球式のコントロールアンプTVP1が出た。
価格は330000円。TVA1とペアとなるコントロールアンプというよりは、
TVA1の姉妹機TVA10(440000)とペアとなるモノという感じだった。

1982年にTVP1の上級機TVP-X(570000円)も登場した。
これがTVA1とペアになるわけだが、どちらもあまり話題になることはなかった。

1981年のステレオサウンド別冊「’81世界の最新セパレートアンプ総テスト」でも、
マイケルソン&オースチンのパワーアンプは取り上げられている。
けれど1979年発売のTVP1は登場していない。

「’81世界の最新セパレートアンプ総テスト」では、コントロールアンプ、パワーアンプを、
それぞれリファレンスアンプ(マッキントッシュのC29とスレッショルドのSTASIS1)と組み合わせて試聴、
さらに純正ペアでの試聴も行っている。
にも関わらず、マイケルソン&オースチンはパワーアンプの三機種のみだった。

まだ読者だった私は不思議に思っていた。
不思議に思った人は多いと思う。

そういうことだったのか……、とわかったのはステレオサウンドで働くようになってからだった。
マイケルソン&オースチンは、パワーアンプを得意とするメーカーであり、
コントロールアンプに関しては不得手だったメーカーである。

直接比較することはなかったけれど、アメリから登場した新しい世代の管球式コントロールアンプとは反対に、
マイケルソン&オースチンは、古めかしい印象を音に残したままだった。

とはいっても、アメリカの新しい世代のコントロールアンプはノイズに問題のあるモノがいくつかあった。
残留ノイズが耳につくレベルであり、
この点に関しては古い世代(つまりマランツやマッキントッシュなど)よりも、悪いという印象が残る。

Date: 2月 2nd, 2015
Cate: 公理

オーディオの公理(Nutubeのこと)

ノリタケとコルグの共同開発による新たな真空管、Nutube。
オーディオと直接関係のない、ニュース系サイトでも取り上げられている。

話題になるのはいいことだが、そこに、こんな記述があった。
GIZMODOの記事だ。
《真空管ならではのちょっとナロー》、
真空管アンプの音は、オーディオに特に関心のない人にとっては、ナローということになるのか。

この記事を書いた人がどういう人なのかはまったくわからないし、
これを一般的な人の意見と受けとめていいものかはっきりとしないが、
それでもナローという印象が、真空管アンプの音に対してあることが、私には意外なことだった。

Date: 1月 30th, 2015
Cate: 公理

オーディオの公理(その5)

マイケルソン&オースチンのパワーアンプTVA1は、1978年にイギリスから登場した。
出力管のKT88、クロームメッキのシャーシーという共通性から、
現代のマッキントッシュMC275といういわれかたもされた。

真空管アンプ、それもパワーアンプの代表的な機種としてMC275は、広い世代から挙げられることが多い。
マランツのModel 9と違い、いかにも真空管パワーアンプといえるルックス、
五味先生が愛用されたパワーアンプ、
私も真空管パワーアンプとしてMC275をイメージすることは多い。

その意味でTVA1の音も、開発年代の新しさがその音にあらわれているといっても、
誰が聴いても真空管アンプだと認識してしまうものをそなえていた。

TVA1をブラインドフォールドテストで聴かされて、半導体アンプだと思う人はほとんどいないと思う。
そのくらいに真空管アンプの音としての特徴が、TVA1の音の特徴でもある。

ラックスのLX38、マイケルソン&オースチンのパワーアンプTVA1と聴いてくると、
真空管アンプには、やはり真空管アンプならではの音の特徴がある、ということになる。
たったふたつのサンプルとはいえ、共通する良さ、
しかもその良さは、そのころの最新のトランジスターアンプからはなかなか聴けない良さであったのだから。

けれどこのころになると、アメリカから真空管を使った新しい世代のコントロールアンプがいくつか登場しはじめる。
ビバリッジのRM1+RM2、プレシジョン・フィデリティのC4、ミュージック・レファレンスのRM5、
コンラッド・ジョンソンのPreAmplifier、カウンターポイントのSA1などである。

これらのコントロールアンプをブラインドフォールドテストで聴かされたら、
すべてを真空管アンプだといいあてることはなかなかに難しいのではないだろうか。

Date: 1月 21st, 2015
Cate: 公理

オーディオの公理(その4)

ラックスのLX38はプリメインアンプということもあって、外側から真空管は見えない。
よく真空管のヒーターの灯っているのがあたたかみを感じさせてくれる、というが、
SQ38FD/II、LX38にはそのことはあてはまらない。

何も知らない人にとっては、SQ38FD/IIもLX38も真空管アンプとは見えないといえる。
同じように、このころのラックスのコントロールアンプCL32は、
当時としては真空管アンプとは思えない薄さ(7.7cm)だった。

CL32はその外観からもわかるように、懐古趣味的な真空管アンプとしてではなく、
新しい時代のラックスの真空管アンプとして開発されたものであった。

そのCL32の音については、どう評価されていたのか。
私のもうひとつのブログ、the re:View (in the past)をお読みいただきたい。

井上先生、菅野先生、岩崎先生、瀬川先生の評価が読めるわけだが、
みなCL32の音に真空管アンプならではの音の特徴を認められているのがわかる。

CL32はLX38よりも、もっと真空管アンプであることを視覚的な印象からは感じさせないにも関わらず、
しかもLX38はSQ38シリーズの最新モデルという、ある種のしがらみのようなものは、CL32にはなく、
まったくの新製品であるにも関わらず、よくいわれる真空管アンプの良さを持っている(残している)。

LX38の次に私が聴いた真空管アンプは、マイケルソン&オースチンのパワーアンプTVA1である。

Date: 1月 21st, 2015
Cate: 公理

オーディオの公理(その3)

私が初めて聴いた真空管アンプも、ラックスのアンプだった。
SQ38FD/IIの次期モデルであったLX38で、
瀬川先生が定期的に来られていた熊本のオーディオ店でのイベントにおいてである。

他にはトランジスターアンプがあった。
何機種あったのかはもうおぼえていないけれど、LX38だけが真空管アンプだった。

トランジスターか真空管という違いよりも、
アンプメーカーによる音の違いが大きいといえばそうなるし、
真空管アンプすべてに共通する音の特質はあるようでいてないような、
そんなはっきりとしないことがあるのはわかっていても、
LX38の音はSQ38FD/IIの後継機であることもあってか、
やはりあたたかい、とか、やわらかい、といわれる類の音ではあった。

この時、瀬川先生が聴きたいモノのリクエストはありませんか、といわれたので、
スペンドールのBCIIとLX38、それにカートリッジはピカリングのXUV/4500Qの組合せで鳴らしてもらった。

この時の音については以前書いているけれど、
われながら、いい組合せだったと思う。
瀬川先生からも「これは玄人の組合せだ」といわれて、嬉しくなったことははっりきと憶えている。

私がお願いしたレコードをかけ終って、「これはいいなぁ」といわれて、
自分で聴きたいレコードをかけられたほどだった。

スペンドールのBCIIの音にもどこかピンとの甘いところがある。
LX38の音にもそういうところがある。
だからBCIIの良さをLX38は、うまく抽き出してくれたのだが、
カートリッジにまで同じようにピンとの甘い音のものをもってきたら、
おそらく聴くにたえかった、と思う。

XUV/4500Qには、そういうところはなかった。

これが私にとっての初めての真空管アンプのアンプということなのだから、ことさら印象に残っている。
たしかにLX38の音は、一般的にいわれているような真空管アンプらしい音であった。

Date: 8月 10th, 2013
Cate: 公理

オーディオの公理(その2)

真空管アンプの音はやわらかくあたたかい──、
これなどはあきらかにおかしなことである。

真空管はトランジスターよりもずっと以前に登場した最初の増幅素子である。
つまりトランジスターが登場する前は、
世の中のアンプはすべて真空管だったわけで、
その時代のアンプの音すべてがやわらかくてあたたかいわけではなかった。

真空管アンプの中にも、あたたかい音もあればそうでない音もあった。
やわらかい音もあればそうでない音もあったわけだ。

よくいわれることだが、
正しくメンテナンスされたマランツのModel 7とModel 2もしくはModel 9の音は、
これらのアンプが真空管だということを知らない人が聴けば、
真空管アンプだとは気がつかないはず。

井上先生が以前から指摘されていたことなので、
ステレオサウンドで読んだ記憶があるという方もおられるだろう。
日本で、真空管アンプの音がやわらかくてあたたかい、という印象が広まってしまったのは、
ラックスのプリメインアンプSQ38FD/IIの音のせいであると。

当時どのメーカーも真空管アンプの製造をやめてしまったあとでも、
ラックスだけは真空管アンプをつくり続けてきた。
セパレートアンプでは他のメーカーもつくってはいたけれど、
プリメインアンプで真空管式のモノは、ラックスのSQ38だけになっていた。

海外にはダイナコのSCA35が1976年くらいまでカタログには残っていた。

日本では真空管アンプといえばラックスだったし、
ラックスを代表する真空管アンプといえば、セパレートアンプもあったけれど、
やはりSQ38FD/IIということになる。

このSQ38FD/IIの音の印象が、
いつしか真空管アンプの音の印象となっていった、ということだった。

Date: 8月 10th, 2013
Cate: 公理

オーディオの公理(その1)

辞書(大辞林)には公理とは、
真なることを証明する必要がないほど自明の事柄であり、
それを出発点として他の命題を証明する基本的命題、
とある。

オーディオに、果して公理はあるのだろうか。

例えばCD(デジタル)は無機的で冷たい音がする、
アナログディスクはあたたかい音がする、
といったことが、いまもいわれ続けている。

これはオーディオの公理なのだろうか。

同じようなことでは、真空管アンプはやわらかくあたたかい音が特徴というのがある。
これはほんとうにそうなのだろうか。
証明の必要がないほど自明のことなのだろうか。

いまでは以前ほど口にされることは少なくなってきたけれど、
JBLはジャズ向きで、タンノイはクラシック向き、というのがある。
いまはそうではなくなったけれど、昔は、これは公理といえたのだろうか。

こういうことをひとつひとつ挙げていくと、数えきれないほど出てくる。
ターンテーブルは重いほどよい、
トーンアームは長いほどよい、
リニアトラッキング型が、一般的なトーンアームよりも理想に近い、
MC型カートリッジのほうが、その他の発電方式のカートリッジよりも緻密な音がする、
ローインピーダンスのMC型にはトランス、ハイインピーダンスのMC型にはヘッドアンプが向く、
信号ケーブルは短いほどよい、素材の純度は高いほどよい、
ステレオ構成よりモノーラル構成にしたほうがよい、
アルニコマグネットのほうがフェライトマグネットよりも音がよい、
……まだまだあるけれど、このへんにしておこう。

この中に、公理といえるものはあっただろうか。
オーディオに公理といえるものはあるのだろうか。