Archive for category Mark Levinson

Mark Levinsonというブランドの特異性(その56)

このブログは、2023年1月29日で終りなのだが、
いまのペースで書いていると、この項に関しても結論を書かずになってしまうそうである。

ちょっとペースをあげないと──、と思っていたところに、
今日未明に、Fさんという方からのメールが届いていた。

以前、何度かやりとりをしたことがある人で、
マークレビンソン、Celloの製品を愛用されてきた人である。

今回のメールには、Fさんのコントロールアンプ遍歴が綴られていた。
そこには、CelloのAudio Suiteこそが、
マーク・レヴィンソンの究極なのだろうと感じた、とある。

この一点こそが、この項でのいわば結論である。
私もAudio Suiteこそが、
マーク・レヴィンソンという男の、全き個性の完成形と感じている。

FさんはマークレビンソンのLNP2、ML6、
CelloのEncore 1MΩという遍歴の末のAudio Suiteである。

だからこそ、わかるなぁ、とひとりごちた。

Fさんのメールを読みながら、Audio Suiteを初めて聴いた日のことを思い出していた。
ステレオサウンドの試聴室で聴いている。

Audio Suiteの、コントロールアンプとしての完成度に関しては、
いくつか注文をつけたくなることがある。

でも、そんなことは音を聴いてしまうと、一瞬のうちに霧散してしまう。
魅力的ではなく、魅惑的に響く。
音楽が魅惑的に鳴り響くのである。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その55)

マークレビンソンというオーディオ・ブランドは東海岸なのだが、
このブランドの創立者であるマーク・レヴィンソンは、
カリフォルニア州オークランド生れ、とステレオサウンド 52号に書いてある。

安原顕氏の「わがジャズ・レコード評」の冒頭にある。
     *
 周知の通り、マーク・レヴィンソン(1946年12月11日、カリフォルニア州オークランド生れ)といえば、われわれオーディオ・ファンにとって垂涎の的であるプリアンプ等の製作者だが、彼は一方ではバークリー音楽院出身のジャズ・ベース奏者でもあり、その演奏は例えばポール・ブレイの《ランブリン》(BYG 66年7月ローマで録音)などで聴くことが出来る。
     *
1946年12月11日生れなのは確認できている。
けれど検索してみても、どこで生れたのかはわからなかった。

カリフォルニア州オークランド生れならば、いつコネチカットに住むようになったのだろうか。

そんなことはどうでもいいことのように思われるかもしれないが、
LNP2、JC2、ML2、ML6に憧れてきた、当時10代の私には、
マーク・レヴィンソンは、いわば目標でもあった。

それだから気になる、というよりも、
LNP2、JC2、ML2、ML6に共通する音と、
ML3、ML7以降の音、
それからマークレビンソンを離れてからのCelloの音、
そして忘れてはならないのがHQDシステムの存在と、
Cello時代のスピーカーシステムの関係性である。

これらの音を俯瞰すると、
マーク・レヴィンソンにとっての西海岸、東海岸の音、
アンプの回路設計者のジェン・カールとトム・コランジェロ、
これらの要素を、少なくとも私は無視できない。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その54)

「世界のコントロールアンプとパワーアンプ」の’76年版、
「私の推奨するセパレートアンプ」での特選三機種は、
マークレビンソンのLNP2とSAEのMark 2500の組合せ、
それとQUADの405である。

LNP2+Mark 2500について、こう書かれている。
     *
 マーク・レビンソンはコネチカット、SAEはカリフォルニア、東海岸と西海岸の互いに全く関係のないメーカーなのに、LNP2とMARK2500に関するかぎり、互いがその音を生かし合うすばらしく相性のいい組合せだと思う。LNP2の音はおそろしくデリケートで、かつてJBL SG520が聴かせた音を現代の最高水準に磨きあげたようだ。一聴すると細い音なのに、よく聴くと中〜低域がしっかりと全体を支えてバランスが素晴らしく、繊細でしかもダイナミックな音を聴かせる。JC2はもっと解像力が良いが、音楽的な表現力ではLNPの方が一段上だ。そしてこの音が、SAE♯2500の音をよく生かす。あるいは♯2500がLNPの音をよく生かす。
 SAE♯2500は、非常に深みのある音質で、第一印象はLNP2と逆に音像が太いように感じられるが聴き込んでゆくにつれて、幅広く奥行きの深い豊かな音の中に実にキメの細やかな音を再現することに驚かされる。
     *
いまでは、あまり国による音の違いは、語られなくなってきている。
でも、LNP2、Mark 2500のころ(1970年代後半)は違っていた。

もちろんメーカー(ブランド)による音の違いがあるものの、
俯瞰してみれば(聴けば)、お国柄といえる共通する音が色濃くあったものだ。

こういうことを書くと、私よりも上の世代のオーディオマニアから、
そんなことはなかった──、と十年ほど前にいわれたことがある。

オーディオマニアが販売店や、個人のリスニングルームで聴いている範囲では、
そういう印象なのかもしれないが、オーディオ雑誌での、いわゆる総テストで、
スピーカーやらアンプを、集中して数十機種聴くという経験をしていれば、
イギリスにはイギリスの音、ドイツにはドイツの音、
アメリカにはアメリカの音(それも西海岸と東海岸の音)があることが感じられる。

瀬川先生の文章を読んでいると、
SAEが東海岸、マークレビンソンが西海岸のブランドのように思えてくる。

《かつてJBL SG520が聴かせた音を現代の最高水準に磨きあげたようだ》と、
瀬川先生も書かれている。
いうまでもなくJBLは西海岸のブランド(メーカー)である。

Date: 3月 26th, 2022
Cate: LNP2, Mark Levinson

Mark Levinson LNP-2(silver version・余談)

ブラックパネルだけだとおもっていたモデルに、
シルバーパネルまたはホワイトパネルがあるのを知ることがある。

マークレビンソンのLNP2だけでなく、ヤマハのC2もそうである。
GASのコントロールアンプのThaedraにもホワイトパネルがある。

ステレオサウンド 38号の特集、
山中先生のリスニングルームにはホワイトパネルのThaedraが置かれてた。

Thaedraのホワイトパネルは、初期のThaedraだけかとずっと思い込んでいた。
それにThaedraだけにホワイトパネルがある、とも思っていた。

ヤフオク!やソーシャルメディアを眺めていると、そうでなかったことを知る。
Thaedra IIにもホワイトパネルがある。
それだけでなく、Thaliaにもホワイトパネルがあるのを数ヵ月前に知った。

となるとThoebeにもホワイトパネルがあってもおかしくない。
あるのだろうか。

おもしろいのは、いまのところホワイトパネルが存在するのは、
コントロールアンプだけのようである。

マークレビンソンもヤマハもGASもそうである。
私がまだ知らないだけで、パワーアンプにもホワイトパネルがあったりしたのだろうか。

Date: 4月 21st, 2021
Cate: Mark Levinson

ベーシストとしてのマーク・レヴィンソン(その2)

(その1)は、2009年3月に公開している。
マーク・レヴィンソンがベーシストとして参加しているポール・ブレイのアルバム、
「Ballads」について、簡単に紹介したぐらいで、
(その2)を書くつもりは、その時点ではまったくなかった。

さきほど、そういえば、と思って、TIDALで“Mark Levinson”で検索してみた。
同姓同名の歌手のアルバムが表示されるが、
ポール・ブレイ・トリオの「Bremen ’66」も出てくる。
それで(その2)を書いている。

「Bremen ’66」は、タイトルどおり、1966年のブレーメンでのライヴ録音である。
「Ballads」の一年前のレヴィンソンの演奏、それもライヴでの演奏が聴ける。

「Ballads」は買って聴いた。
「Bremen ’66」はCDで見つけたとしても買わなかっただろう。
それでもTIDALにあるから、一曲だけ聴いてみたところ。

もちろん「Ballads」もTIDALで聴ける。

Date: 10月 15th, 2019
Cate: LNP2, Mark Levinson

Mark Levinson LNP-2(silver version・その6)

その1)は、三年前の春である。
先日、やっとシルバーパネルのLNP2と対面できた。

当り前のことだが、写真そのままの印象のLNP2だった。

その2)でも書いているのだが、
LNP2にはいくつかの特別なLNP2がある。
シリアルナンバー1001のLNP2、シルバーパネルのLNP2の他に、
私には特別なLNP2が、もう一台ある。

瀬川先生が愛用されていたLNP2である。

(その2)でも書いているように、
瀬川先生愛用のLNP2とは、
私がステレオサウンドで働き始めたばかりのころ、
1982年1月、試聴室隣の倉庫に、置かれてあった。

ツマミに触れるのさえ憚れる──、
そんな気さえした。

いずれ、倉庫から誰かの手に渡っていくLNP2であることはわかっていた。
いまどこかに、誰の元にあるのか。
何もわかっていない。

シリアルナンバーも記憶していない。

それでもシリアルナンバー1001のLNP2、シルバーパネルのLNP2が集まっているところに、
いつの日か瀬川先生愛用のLNP2も来るのかもしれない。

Date: 7月 5th, 2018
Cate: audio wednesday, LNP2, Mark Levinson

LNP2になぜこだわるのか(軽い実験)

昨晩のaudio wednesdayでは、
スピーカーとは直接関係のないところで、ちょっと実験的なことをしてみた。

使用したコントロールアンプのLNP2のモジュールを、
途中で一部だけ交換してみた。

LNP2の借用をKさんに頼んだとき、
Kさんから、バウエン製モジュールにしますか、LD2モジュールにしますか、ときかれた。
LD2で依頼した。

届いていたLNP2はLD2モジュールが搭載されていた。
Kさんは、その他にバウエン製モジュールも持参されていた。

今回はグッドマンのAXIOM 402を鳴らすことがメインテーマだから、
モジュールについてそれほど時間は割けなかったが、
それでも以前から試してみたいことがひとつあった。

バウエン製モジュールとLD2モジュールの同居である。
一台のLNP2の中に、バウエン製とLD2を組み込む。
今回はINPUT AMPをバウエン製モジュールにしてみた。

けっこうな音の変化があった。
LD2で統一した方がいいのか、バウエン製モジュールとLD2の混成がいいのか、
これはもう好みかもしれない。

もし黙って聴かされて、
バウエン製モジュールのLNP2か、LD2モジュールのLNP2なのか、と問われたら、
バウエン製モジュールのLNP2と答えてしまうそうになるくらいの音の変化である。

これはじっくり時間をかけて、交換するモジュールの位置もあれこれ変えてみた上で、
どの構成が、どういう音になるのか試してみたい。

それでもごく短時間の試聴では、LD2で統一した方が、安心して聴ける。

Date: 3月 12th, 2018
Cate: LNP2, Mark Levinson

Mark Levinson LNP-2(silver version・その5)

(その1)で紹介しているサイトは、
その後もシルバーパネルのLNP2についての情報が書き足されている。

シルバーパネルのLNP2は、これ一台だけなのだろうか。
だとしたら、これはやはり、マーク・レヴィンソンが、
瀬川先生のためにつくった一台なのかもしれない、というおもいが、強くなっている。

LNP2は、INPUT AMPのゲインを切り替えられる。
上記のリンク先には、こう記述されている。
     *
webを見ていて面白いことに気づいた
silver LNP のシリアルNo.は1929
この1番前のNo.1928がハイファイ堂で売られていたのだ
dB GAINを見ると0-10-20
1929のdB GAINは0-10-20-30-40
ということは
No.1001~1010 dB GAIN 0-10-20-30-40
No.1011~1928 dB GAIN 0-10-20
No.1929~○○○○ dB GAIN 0-10-20-30-40
No.○○○○~2667 dB GAIN 0-5-10-15-20
ということになる
○○○○が知りたいな
     *
このところを読んで、シルバーパネルのLNP2は、やはり瀬川先生のための一台だったんだ──、
少なくとも私のなかでは、そう信じられるようになった。

dB GAINに、30と40が加わっているからだ。
たったそれだけの理由? と思われるだろうし、
そんなことが理由になるの? とも思われるだろう。

私の勝手な思い込みなのは書いている本人がいちばん実感している。
まるで見当はずれのことを書いている可能性もある。
それでもいい。

シルバーパネルのLNP2は瀬川先生のための一台だった──、
そう信じ込んでいた方がいい、とおもう。

Date: 7月 4th, 2016
Cate: audio wednesday, LNP2, Mark Levinson

LNP2になぜこだわるのか(その12)

これまでにも何度となく聴感上のS/N比について書いてきた。
これからも何度となく書いていくと思う。
そのくらい聴感上のS/N比は重要なことである。

聴感上のS/N比というくらいだから、物理的なS/N比がある。
測定データとしてのS/N比である。

LNP2のインプットアンプのゲインはNFBによって切り替えられている。
ということはゲインを0dBにした状態で、NFB量は最大になる。
20dBと0dBとでは、NFB量は20dB違うわけだ。

NFBをかけることでS/N比も改善される。
ならばインプットアンプの物理的なS/N比は0dBが、もっとも良くなる、といえる。

さらにアンプ全体のS/N比はレベルダイアグラムも関係してくる。
インプットアンプのゲインを高くするということは、
このアンプの手前にあるポテンショメーター(INPUT LEVEL)を、その分絞ることになる。

つまりインプットアンプに入力される信号レベルは低くなり、その分S/N比的には不利になる。
ノイズ量が同じならば信号レベルが高い方がS/N比は高くなるのだから。

インプットアンプのゲインを0dBにしたほうが、物理的なS/N比に関しては有利である。
測定してみれば、違いは出てくるはずである。
頭でっかちな聴き手であれば、ゲイン0dBで使う方が、S/N比が高いからいいに決っている──、
となるのかもしれない。

LNPはLow Noise Pre-amplifierを意味しているのだから、
それをインプットアンプのゲインを高くして、ポテンショメーターでゲイン分だけ絞るような使い方は、
本来的な使い方ではない、という人がいるかもしれない。

けれどLow Noise Pre-amplifierだから、こういう使い方ができるともいえる。
つまり聴感上のS/N比をよくする使い方(ゲイン設定とレベル設定)ができる。

Date: 7月 3rd, 2016
Cate: LNP2, Mark Levinson

Mark Levinson LNP-2(silver version・その4)

しなかった後悔は、あとひとつある。
瀬川先生のLNP2のシリアルナンバーを記憶しなかったことだ。

いまだったら即シリアルナンバーを憶えるのに、なぜかあのときはしなかった。
数ヵ月はステレオサウンドの倉庫にあったのだから、確認する機会はいつもあったのに。

もうあえない、と思っていたからなのだろうか。
よくわからないけれど、後悔している。
LNP2だけではない、スチューダーのA68のシリアルナンバーも憶えておくべきだった。

いまになってひどく後悔している。
シルバーパネルのLNP2の話を読んで、
もしかするともう一度あえるかもしれない──、そう思いはじめているからだ。

それともシリアルナンバーなど記憶していなくとも、
あのLNP2にであえれば、直感がささやいてくれるのを期待したい。

Date: 7月 3rd, 2016
Cate: LNP2, Mark Levinson

Mark Levinson LNP-2(silver version・その3)

30年以上前のあの時、もし「欲しい」と意思表示していたとしても、
瀬川先生のLNP2を自分のモノとする可能性は、きわめてゼロに近かった。

ならば意思表示してもしなくても同じだ、とは考えていない。
意思表示をしなければ、当り前すぎる話だが、可能性はゼロのままだ。
まったくないわけだ。

けれど強く意思表示をすれば、ほんのわずかは変ってくる。
それでも遠いものは遠いことには変りはないけれども。

いまになっても、意思表示しておけば……、と後悔している。

三年近く前に「EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ)」を書いた。
衝動買いといえる買い方だった。
いまになって思うのは、
瀬川先生のLNP2に意思表示ができなかったことの後悔からだったのかもしれない、ということ。

若いときは、たいていはふところに余裕がない。
そんなときに、私にとってのLNP2にあたるモノと出合うかもしれない。

お金がないと、欲しい、ともいえない。
その気持はよくわかる。私がそうだったからだ。
意思表示したい気持さえ抑え込んでしまう。

でも、それだけは止した方がいい。
可能性はほとんど変らなくても、「欲しい」という意思表示だけはしたほうがいい。
たとえ笑われたとしてもだ。

Date: 7月 3rd, 2016
Cate: LNP2, Mark Levinson

Mark Levinson LNP-2(silver version・その2)

マークレビンソンのLNP2が製造中止になって、もう三十年以上が経つ。
今回のシルバーパネルのLNP2はRFエンタープライゼス扱いの時期のモノだから、
さらに前のモノということになる。

そういうアンプが、どこかからひょっこりと現れる。
それまで噂でしかなかったモノの所在がはっきりとなる。

時間とともに記憶は曖昧になるものだ。
けれど、こういうモノが突如として現れることで、鮮明なものに書き換えられていく。

LNP2にはいくつかの特別なLNP2がある。
シリアルナンバー1001のLNP2、シルバーパネルのLNP2の他に、
私には特別なLNP2が、もう一台ある。

瀬川先生が愛用されていたLNP2である。
私がステレオサウンドで働き始めたころ、
試聴室隣の倉庫の棚にLNP2があった。

ステレオサウンド試聴室でリファレンス機器として使っていたLNP2の他に、
もう一台、特別なLNP2があった。
瀬川先生の遺品のLNP2である。

しばらくそこにあった。
経済的余裕があれば、どうしても手に入れたかったLNP2である。
でも、当時まだ10代だった私には、どうやっても手が届かないモノであり、
欲しい、と意思表示すらできなかった。

あのときスチューダーのパワーアンプA68もあった。
KEFのLS5/1Aもあった。

所在がわかったのはLS5/1Aのみである。
LNP2とA68は、いまも音を鳴らし続けているのだろうか。

Date: 7月 3rd, 2016
Cate: LNP2, Mark Levinson

Mark Levinson LNP-2(silver version・その1)

マークレビンソンのLNP2に深い関心をもってきた人ならば、
シルバーパネルのLNP2があることは、どこかで聞いていることだろう。

そのことは知っていた。
以前、なにかの雑誌に載っていた、ということも聞いていた。
残念ながら、その雑誌を私は見ていなかった。

でも日本にシルバーパネルのLNP2があることは確かだった。
シルバーパネルのLNP2のことは、LNP2好きが集まれば、話題にのぼることもある。
とはいえ、ほとんど情報がないだけに、あったらしいよね、ぐらいで終ってしまっていた。

あのLNP2はどこに行ってしまったのか。所在はわからなかった。
けれど、先日、ある方のウェブサイトにシルバーパネルのLNP2の写真が出ていた。
雑誌からコピーではなく、新しく撮られた写真が載っていた。

以前はよく個人のウェブサイトを見ていた。
でも十年ほど前から、あまり読まなくなってきた。
定期的にアクセスするオーディオの個人サイトはほとんどない、といえる。

その数少ないウェブサイトで、シルバーパネルのLNP2が突如として現れた。
写真を見て、そうか、ツマミは黒なのか、と思った。

GASのコントロールアンプThaedraのホワイトパネルのような感じだろうか、と、
シルバーパネルのLNP2の存在を知ったとき、そうイメージしていた。
ツマミが黒なのはそのとおりだったが、パネルの仕上げは写真を見る限り、
白ではなくあきらかにシルバーといえる。

ホワイトパネルのThaedraのことを、パンダThaedraと勝手に呼んでいるけれど、
シルバーパネルのLNP2は、パンダLNP2とは呼べない雰囲気がある。
ここがLNP2とThaedraというコントロールアンプの性格の違いでもあるのだが。

リンク先にはシルバーパネルのLNP2の詳細はあまり書かれていない。
シルバーパネルということで想像してしまうのは、やはり同じシルバーパネルのML6だ。
もしかするとシルバーパネルのLNP2もML6同様、銀線を内部配線に使っているのだろうか。

でもツマミが黒だから(ML6のツマミは黒ではない)、銀線ではないのだろうか。
バッファーアンプは搭載されているのだろうか、
ツマミが黒ではなく通常のLNP2と同じ仕上げのモノがついていたら、どんな感じだったのか、
そんなことを想像していた。

これらの想像は写真を見てしばらくしてからのものであり、
シルバーパネルのLNP2を見て、最初に感じたのは、別のことだった。

「ステレオのすべて ’73」に載っていたRA1501のことが、最初に浮んでいた。
RA1501とは伊藤先生製作のコントロールアンプである。
フロントパネル中央にVUメーターがあり、ツマミは左右対称に配置されている。

いわばLNP2と基本レイアウトは同じである。
RA1501はほとんどがブラックパネルである。
けれど「ステレオのすべて ’73」に載っているRA1501は、そうではない。
不鮮明な写真なのだが、そこで受けた印象とシルバーパネルのLNP2の印象が重なってきた。

伊藤先生とマーク・レヴィンソン。
ふたりの違いは大きい。国の違い、世代の違い……。
ふたりを一緒にするな、といわれそうだし、そうだと思うところは私の中にはあるけれど、
シルバーパネルのLNP2を見て、それでもふたりが重なってくる感じが、いまもしている。

Date: 6月 18th, 2016
Cate: audio wednesday, LNP2, Mark Levinson

LNP2になぜこだわるのか(その11)

アクースタットのModel 3を聴いたとき19歳だった。
欲しい、と思ったことは告白しておく。
無茶苦茶高価なスピーカーではなかったから、かなり無理すれば手が届かないということはなかった。

若かったから、そういう無茶もやれないわけでもなかった。
それでも欲しい、と思いながらも、欲しい! とまではいかなかった。

若さは馬鹿さで、突っ走ることはしなかった。
それはなぜだろう、と時折考えることもあった。

ある日、ステレオサウンドのバックナンバーを読んでいた。
32号、チューナーの特集号を読んでいた。

伊藤先生の連載「音響本道」が載っている。
32号分には「孤独・感傷・連想」とある。

タイトルの下に、こう書いてあった。
     *
孤独とは、喧噪からの逃避のことです。
孤独とは、他人からの干渉を拒絶するための手段のことです。
孤独とは、自己陶酔の極地をいいます。
孤独とは、酔心地絶妙の美酒に似て、醒心地の快さも、また格別なものです。
ですから、孤独とは極めて贅沢な趣味のことです。
     *
ここのところを読み、なにかしら感じた人は、ぜひ本文も何らかの機会に読んでほしい。

私がそうだ、これだったのか、と思ったのは、
《孤独とは、酔心地絶妙の美酒に似て、醒心地の快さも、また格別なもの》のところだ。

醒心地の快さ──、
私はアクースタットのModel 3から感じとることができなかった。
だから欲しい! とはならなかった、といまはおもう。

Date: 6月 16th, 2016
Cate: audio wednesday, LNP2, Mark Levinson

LNP2になぜこだわるのか(その10)

ステレオサウンド別冊 Sound Connoisseur(サウンドコニサー)で、
黒田先生は”Friday Night In San Francisco”について、こう語られている。
     *
このレコードの聴こえ方というのも凄かった。演奏途中であれほど拍手や会場のイズが絡んでいたとは思いませんでしたからね。拍手は演奏が終って最後に聴こえてくるだけかと思っていたのですが、レコードに針を降ろしたとたんに、会場のざわめく響きがパッと眼の前一杯に広がって、がやがやした感じの中から、ギターの音が弾丸のごとく左右のスピーカー間を飛び交う。このスペクタキュラスなライヴの感じというのは、うちの4343からは聴きとりにくいですね。
     *
まさしく、この通りの音がアクースタットのコンデンサー型スピーカーから鳴ってきた。
《会場のざわめく響き》が拡がる。
もうこの時点で耳が奪われる。
そのざわめきの中から、ギターの音が、まさしく《弾丸のごとく》飛び交う。

私は黒田先生とは逆にアクースタットで聴いた後に、JBLのスピーカーで聴いた。
確かにスペクタキュラスな感じは、聴きとりにくかった。

アクースタットの音は、新しい時代の音だ、といえた。
では、全面的にJBLのスピーカーよりも優れているのかといえば、そうではない。
いつの時代も、どのオーディオ機器であれ、すべての点で優れている、ということはまずありえない。

アクースタットの音は、黒田先生も指摘されているように、
かなり内向きな音である。
それこそ自分の臍ばかりを見つめて聴いている──、
そんなふうになってしまいそうな音である。

いわゆるコンデンサー型スピーカーというイメージにつきまといがちな、
パーカッシヴな音への反応の苦手さ、ということはアクースタットからはほとんど感じられなかった。

けれど《三人のプレーヤーの指先からとびだす鉄砲玉のような、鋭く力にみちた音》かというと、
ここには疑問符がつかないわけではない。

黒田先生は「コンポーネントステレオの世界 ’82」で、
パコ・デ・ルシアがきわだってすばらしく、
ジョン・マクラフリンはちょっと弱いかな、と書かれているが、
その後、このディスクを手に入れて自分で鳴らしてみると、
アクースタットでの、あの時の音は、パコ・デ・ルシアの音がちょっと弱いかな、
と思わせてしまうところがあったことに気がつく。

順番が変るわけではないから、
ジョン・マクラフリンはちょっと弱いかな、が、もう少し弱くなる。

こんなことを書いているが、
アクースタットで初めて聴いた”Friday Night In San Francisco”の音は、
私にとって、このディスクの鳴らし方のひとつのリファレンスになっている。