Archive for category バスレフ(bass reflex)

Date: 1月 3rd, 2021
Cate: Cornetta, TANNOY, バスレフ(bass reflex)

TANNOY Cornetta(バスレフ型エンクロージュア・その4)

セレッションのSL6をKMA200で鳴らした時のことについては、
ずっと以前に別項に書いているので、詳細は省く。

この時の音は、私だけでなく山中先生も驚かれていた。
目の前で鳴っているスピーカーの大きさ、ウーファーの口径が信じられないほど、
素直に下までのびていた。

SL6は、小型・密閉型スピーカーである。
コーネッタとは大きさも型式も違う。

それでも低音ののびに関しては共通するものを感じていた。
そして、もうひとつ、QUADのESLのことも思い出していた。

ESLも、一般に思われている以上に下までのびている。
ただし、かなり良質のアンプで鳴らしての場合ではあるが、
その時の音は、SL6を聴いたときの同じように驚いたものだった。

SL6の上級機SL600を、鳴らしていた。
SUMOのTHe Goldで鳴らしていた。

SL600からESLに替えた。
アンプはそのままだった。

SL600の低音もよかった。
それでもESLがうまく鳴るようになってくると、さらに驚きがあった。
ESLはコンデンサー型スピーカーだし、エンクロージュアはない。

コーネッタ、SL6(SL600)、ESLと、
すべてスピーカーとしての型式、大きさ、形状はそうとうに違う。
それでも低音ののびということに関しては、共通するよさというか、
通底するなにかがあるようにも感じられる。

とにかくコーネッタの低音は、聴く前に想像していた以上にのびていた。

Date: 1月 3rd, 2021
Cate: Cornetta, TANNOY, バスレフ(bass reflex)

TANNOY Cornetta(バスレフ型エンクロージュア・その3)

喫茶茶会記のスピーカーシステムは、38cm口径のウーファーである。
アルテックの416-8Cを、ウルトラバスレフ型エンクロージュアにおさめている。

日本では、オンケン型バスレフといったほうがとおりがいい形式のもので、
エンクロージュアの両端にバスレフのスリットが設けられている。

audio wednesdayで、このアルテックのシステムを鳴らしてきて、
ふとした時に思っていたのは、後少し低音が下までのびていれば、ということだった。

1オクターヴとはいわない、半オクターヴほどでいい、
下までのびていればいいのに、と思うのは、
昔、JBLの4343で聴いた印象が強いディスクをかけたときだった。

もちろん不満を感じないこともある。
それでも、ないものねだりなのはわかっていても、あと少し、とおもうことが何度かあった。

コーネッタを喫茶茶会記で鳴らして感じたのは、
このアルテックよりも下がのびている、ということだった。

コーネッタにおさめられているユニットは、HPD295Aで25cm口径である。
38cmと25cmではふとまわり違う。

それでもコーネッタのほうが、アルテックよりも下までのびている感じなのだ。
どちらが良質の低音なのかは、ここでは問わない。
どちらがより低い帯域まで再生できるかといえば、
私だけでなく、ほかの人の耳にも、はっきりとコーネッタだった。

だからコーネッタを聴いていて、思い出していたのは、
セレッションのSL6のことだった。
ステレオサウンドの試聴室で、新製品の試聴で、
クレルのKMA200で鳴らした時のSL6の音、それも低音ののびは、
いまも印象的なほどはっきりと憶えている。

Date: 10月 18th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY, バスレフ(bass reflex)

TANNOY Cornetta(バスレフ型エンクロージュア・その2)

1979年にステレオサウンドから出たHIGH-TECHNIC SERIES 4、
「魅力のフルレンジスピーカーその選び方使い方」に、
瀬川先生の「フルレンジスピーカーユニットを生かすスピーカーシステム構成法」がある。

いくつかの項があって、その一つに「位相反転型の教科書に反抗する」というのがある。
     *
 位相反転型は、いまも書いたように、古くから多くの参考書、教科書で、難しい方式といわれてきた。だがそれは、あまりにもこのタイプの古い観念にとらわれすぎた考え方だ。こんにちでは、スピーカーユニットの作り方や特性が、それらの教科書の書かれた時代からみて大きく変っている。だいいち、メーカー製でこんにち定評のある位相反転型のスピーカーシステムの中に、旧来の教科書どおりに作られているものなど、探さなくてはならないほどいまや数少ない。位相反転型の実物は、大きく転換しているのだ。
 さて、ここで位相反転型エンクロージュアの特性を、多少乱暴だが概念的に大づかみにとらえていただくために、図1から6までをご覧頂く。あくまでも概念図だから、ユニットの設計が大きく異なったりすればこのような特性にはならないこともあるが、一応の目やすにはなる。
 古くからの教科書では、エンクロージュア、ポート、ダクトにはクリティカルな寸法があり、ユニットの特性に正しく合わせなくては、特性が劣化する、とされていた。そして、右の三要素がそれぞれ小さい方にズレると低音の再生限界が高くなりピークができて、低音のボンボンといういわゆる「バスレフの音」になる。また、三要素が大きい方にズレると、f0附近で特性に凹みができて、低音館が不足する……といわれていた。
 意図的に低音の共振を強調して作られた有名な例に、JBLのL26がある。明らかに低音にピークが出ているが、この音を「バスレフ音」とけなした人はあまり知らない。むしろ、とくにポップス系における低音のよく弾む明るい音は、多くの人から支持されている。
 反対に、エンクロージュアを思い切って大きくしたという例は、商品化が難しいために製品での例は知らないが、前に述べたオンキョー・オーディオセンターでの実験で、おもしろいデータが出ているのでご紹介する。
 図7は、同社のFRX20ユニットをもとに、内容積がそれぞれ65リッター、85リッターおよび150リッターという三種類の箱を作り、それを密閉箱から次第にダクト(ポート)を長さを増していったときの特性の変化で、前出の図1や3、4に示した傾向はほぼ同様に出ている。
 これを実際に、約50名のアマチュア立会いでヒアリングテストしたところ、箱を最大にすると共にポートを最も長くして、旧来のバスレフの理論からは最適同調点を最もはずしたポイントが、聴感上では音に深味と幅が増してスケール感が豊かで、とうてい20センチのシングルコーンとは思えないという結果が得られた。
 ヒアリングテストをする以前、無響室内での測定データをみた段階では、測定をしてくださったエンジニア側からは、図7(C)の点線などは、ミスチューニングで好ましくない、という意見がついてきた。しかし、これはあくまでも無響室内での特性で、実際のリスニングルーム内に設置したときは、すべてのエンクロージュアは、壁や床の影響で、概して低音が上昇することを忘れてはいけない(例=図8)。この例にように、エンクローシュア自体では共振のできることを意図的に避けることが、聴感上の低音を自然にするひとつの手段ではないかと思う。とくに、バスレフの二つの共振の山のうち、高い方をできるだけおさえ、低い方を可聴周波限界近くまでさげるという考え方が、わたしくの実験では(この例にかぎらず)概して好ましかった。
 ともかく、バスレフは難しく考えなくてよい。それよりも、むしろ積極的にミスチューニングしよう(本当は、いったい何がミスなんだ? と聞きかえしたいのだが)。
 参考までに、G・A・ブリッグスが名著「ラウドスピーカー」の巻末に載せていたバスレフのポートと共振周波数の一覧表をご紹介しておく(図9)。この本はもともと、一般の計算などにが手の愛好家向けの本だから、なるべつ簡単に説明しようという意図があるにしても、日本の教科書のようにユニットのQだのmだのに一切ふれていないところが何ともあっけらかんとしていておもしろい。そして現実にこれで十分に役に立ち、音の良い箱ができ上るのである。
     *
図について簡単に説明しておくと、
図1は、位相反転型エンクロージュアの箱の容積の大小
図2は、位相反転型エンクロージュアの開口の大きさを変えた場合の傾向
図3は、位相反転型エンクロージュアのダクトの長さの変化と特性器傾向
図4は、位相反転型エンクロージュアのインピーダンス特性
図5は、ドロンコーンの質量の大小と特性の傾向
図6は、吸音材の量と低域特性
図7は、エンクロージュア容積と低域特性の関係
である。
図1から6までは、スピーカーの教科書にも載っていることが多い。
図7は、実測データのグラフである。

Date: 10月 16th, 2020
Cate: Autograph, TANNOY, バスレフ(bass reflex)

TANNOY Cornetta(バスレフ型エンクロージュア・その1)

コーネッタはバスレフ型エンクロージュアである。
コーネッタの記事を読めば、
コーネッタは、バスレフ型としてはミスチューニングと思われる方もいるだろう。

ティール&スモール(Thiele & Small)理論でシミュレートして設計すれば、
もっと小型のエンクロージュア・サイズになるはずだ。

コーネッタの試作のために、レクタンギュラー型のエンクロージュアがある。
W53.0×H68.0×D45.0cmのエンクロージュアである。

このエンクロージュアのポート長は165mmである。
ステレオサウンド 38号に周波数特性が載っている。
典型的なバスレフ型の特性である。
約45Hzあたりまでほぼフラットで、それ以下ではレスポンスか急激に低下する。
インピーダンスカーヴも、約45Hzにピークがあり、約40Ωとなっている。

このレクタンギュラー型エンクロージュアをへースに、
井上先生はコーナー型エンクロージュアの設計にとりかかられている。

コーナーにスピーカーを設置することで、低域のレスポンスは、
無響室の特性よりも、理論的には最大で18dB程度上昇する。

あくまでも、この数値は理論値であって、
現実の壁と床は、この理論値が要求する理想状態からは、ほど遠いため、
現実の上昇は、8〜12dB程度だといわれている。

この数値にしても、かなりしっかりした壁と床があってのものであり、
どちらかが、もしくは両方ともがそうでない造りであれば、低域上昇はもっと低くなる。
それでも無響室よりも、確実に低域のレスポンスは数dBは上昇する。

そのためコーナー型としての設計では、この上昇分を考慮して、
低域に向ってなだらかに下降するレスポンスが求められる。

たとえば1980年ごろに輸入されていたアリソンのスピーカーがある。
トールボーイのコーナー型だった。

このアリソンの広告には、
一般的なスピーカーの無響室での周波数特性とコーナーに設置したときのそれ、
さらにアリソンのスピーカーの、上記の条件で周波数特性、
計四つの周波数特性グラフが載っていた。

Date: 11月 24th, 2017
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(その9)

バスレフポートの位置で、どれだけ音が変るのかで、
市販スピーカーを見渡してみると、アルテックの620がある。

604-8Gを搭載したモデルが620A、
ホーンがマンタレー型になり、
フェイズプラグもタンジェリン型になった604-8Hを搭載したのが620Bである。

エンクロージュアの外形寸法は同じ。
厳密に言えば、カタログ発表値は、
620Aは620Bよりも高さが4mm、奥行きが3mmの違いがある。
補強棧がどうなっているのかは、エンクロージュア内部をみたことがないのでなんともいえない。

620Aと620Bのエンクロージュアの外観的な違いは、バスレフポートの向きにある。
どちらも細長い四角の開口部のポートであっても、
620Aは横長なのに対し、620Bでは縦長に配置されている。

620Aではフロントバッフルの中央より少し下の位置にある。
左右どちらかにオフセットしていることはない。
620Bでは片側にオフセットしていて、フロントバッフルの下部に位置している。

620Aと620Bではユニットが違い、それに伴いネットワークも違う。
厳密な比較は、だからできないのはわかっていても、
このバスレフポートの向きと位置の違いは、620Aと620Bの音の違いに少なからず関係しているはずだ。

バスレフポートの近接周波数特性を測定してみれば、違いは出てくる。

620Aと620Bのバスレフポートの向きと位置の違いは、意図的なことなのだろうか。
604-8Hになり、レベルコントロールが2ウェイに関らず中・高域が独立して調整できるようになり、
そのためコントロールパネルが604-8Gのころにくらべて、
ツマミがふたつになり縦に長くなっている。

620Aのバスレフポートのままで、その下に604-8Hのコントロールパネルは取付はできる。
けれど見た目を想像してほしい。
なんともまとまりの悪いアピアランスになってしまう。

Date: 1月 16th, 2016
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(その8)

ステレオサウンド 47号の時点では、JBLの4344は登場していない。
47号以降、ステレオサウンドに近接周波数特性が載ったことはない。

4344の近接周波数特性があれば、4343のそれと比較できる。
4344と4343のエンクロージュアの寸法は同じである。
エンクロージュア内部で発生する定在波も、ほぼ同じとみていい。

4343ではフロントバッフル下部左右に一つずつあったバスレフポートは、
かなり上部に移動し、しかも片側に寄り縦に二つ並んでいる。

これだけポート位置が大きく移動すると、
バスレフポートの近接周波数特性は違ってくる。

エンクロージュア内部の定在波が同じでも、
バスレフポートが定在波の節のところに位置していれば、
定在波の影響の度合に変化が生じる。

4343ではフロントバッフル下部に左右対称の位置にあったため、
右側のポートであろうと左側のポートであろうと、
その近接周波数特性には変化はないはずだが、
4344のように上下位置の違いがあると、大きな違いではないだろうが、
それぞれのポートの近接周波数特性には違いが生じるはずである。

同じことはポートの長さに関してもいえる。
フロントバッフルにおけるポートの位置は、
上下方向と左右方向に関係してくるが、
エンクロージュアは立体だから奥行きがある。

奥行き(前後方向)に発生する定在波に関しては、ポートの長さによって、
節のところにくるかどうか変化してくるからである。

Date: 1月 15th, 2016
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(その7)

ステレオサウンド 47号掲載の「物理特性から世界のモニタースピーカーの実力をさぐる」、
ここに登場するモニタースピーカーは十機種。
うち六機種がバスレフ型である。

アルテックの620A Monitor、キャバスのBrigantin、JBLの4333Aと4343、
スペンドールのBCIII、UREIのModel 813である。

47号では近接周波数特性のグラフがある。
これをみると、ウーファーの周波数特性とバスレフポートの周波数特性がわかる。

バスレフ型の動作からすれば、ポート共振から上の周波数ではなだらかに減衰していくはずだが、
実際のスピーカーシステムのバスレフポートの近接周波数特性をみると、
UREIのModel 813がかなり近いが、他の機種では減衰していく途中でピークが発生している。

たとえば4343では140Hzあたりにかなり大きなピークがある。
そこから減衰していくが、650Hzあたりが少し小さなピークが発生している。

同じJBLの4333Aでは200Hzあたりにピークがある。
4343の140Hzあたりのピークにほどではないが、けっこう大きなピークである。

4343、4333Aとも、バスレフポートはフロントバッフル下部にある。
4343ではポートは二つ、4333Aでは一つという違いはあるが、
ウーファーとバスレフポートの位置関係はほほ同じでいえる。

このピークは、エンクロージュア内部で発生している定在波とみていい。
4343と4333Aでピークの発生周波数が違っているのは、
エンクロージュアの寸法(プロポーション)の違いからきている。

47号の測定結果は、いまみても実にためになる。
他のバスレフ型のポートの近接周波数特性を、
エンクロージュアの寸法(プロポーション)、ウーファー、ポートの位置関係などをふくめて、
じっくりみてほしい。

Date: 1月 15th, 2016
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(その6)

スピーカーシステムのエンクロージュアは、一種の箱である。
以前は四角い箱が大半をしめていたが、
最近では四角い箱の方が少なくなってきたように感じるほど、
さまざまな形状のエンクロージュアが登場してきている。

エンクロージュア内部では定在波が発生する。
四角い箱であれば、平行する面が三つあるわけだから、定在波が発生しやすい。

エンクロージュアを構成する六面をすべて正方形にすれば、
定在波の発生はもっとも顕著になるといえる。

エンクロージュアの寸法比を黄金比にしたほうがいいといわれているのは、そのためである。
四角い箱でなくともそれなりに定在波は発生する。

発生を完全に抑えることができなければ、
発生する定在波を分散させたほうが好ましい結果が得られる。
それには、四角い箱であるならば、
その3)で書いているように、寸法比に充分な配慮を必要となる。

定在波はユニットの取りつけ位置によっても変化する。
それからバスレフ型であれば、バスレフポートの位置によっても、
定在波の影響の出方が変化してくる。

定在波をエンクロージュア内部で完全に処理できればいいのだが、それはいまのところできない。
この定在波はいろんな影響を与える。
そのひとつに、バスレフポートが定在波の放出口になることがある。

Date: 3月 11th, 2015
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(調整の仕方)

バスレフ型の音(低音)を極端に嫌う人がいる。
そういう人の中には、バスレフ型のスピーカーで聴く場合、
曲ごとにバスレフポートのチューニングをするという人もいる。

ポートになにもつめない状態。つまりメーカーの意図通りの使い方。
ポートに吸音材をつめていく。
吸音材の種類を変えたり、量を変えたりしてチューニングしていく。

バスレフ型のスピーカーを使った経験のある人ならば、
一度は試したことのある人も多いと思う。
いい悪いではなく、かなりの変化があるのは確かで、
でも、曲ごと(レコードごとに)ポートのチューニングを変えるというのは、
やっている本人にしてみれば最適のチューニングポイントを見つけ出して、
それに合わせる行為と思っているだろうが、
実のところ、最適のポイントから少しズレているからこそ、極端なことに走ってしまうともいえなくもない。

もちろんすべての曲(レコード)に対して、最適のポイントが必ずしもあるとはいえない。
けれど、そんな極端なことをやっている(やらざるをえない)のは、
どこか間違っているのではないか、と疑うことも必要ではないのか。

バスレフのチューニングは手軽にやれる。
しかもすぐに元に戻せる。

音に不満がある場合、
それは必ずしもバスレフポートに原因があるとは限らないのだが、
それでもバスレフポートのチューニングをすることを否定はしない。

あれこれやってみて経験を増やしていくことは大事だからだ。

そういえば、井上先生が以前、バスレフ型の簡単なチューニング方法を書かれている。
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」パイオニア号に載っている「音づくりチャレンジプラン」。

ここにこんなことを書かれている。
     *
①アンプの入力端子のプラス側にシールドされていないコードをさし込み、ハム音を出す。このときの出力はできるだけ小さくしておき、だんだん必要な音量にあげること、最初からボリュウムを上げておくとアンプやスピーカーを破損する場合もある。このハム音によって低域のバスレフチューニングをとる。角型ダクトの場合には、ある程度の厚さをもつ板を入れることによりダクトの容積が可変できるので便利だ。このハム音によって低域のレスポンスの変化を聴きとる。
②乾電池の使い古したものを使う方法もある。電池の両端にスピーカー端子をつけたときは、電池の内部抵抗だけでアンプの実装状態に近くなり、放した瞬間は、オープンになったときと同じで、音の消え方が大体判断できるわけだ。こうして電池によって音の立上りや立下りが、とくに低域についてよくわかるので、バスレフチューニングをとる場合などには役立つ方法だ。
     *
試されるのであれば、井上先生が書かれている注意点を守ることである。

Date: 2月 27th, 2015
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(その5)

HIGH-TECHNIC SERIES 4が出たのは1979年春。
約一年前のステレオサウンド 44号、45号、46号の特集はスピーカーシステムだった。
実測データも載っている。インピーダンス特性ももちろん載っている。

これらのグラフをみてわかるのは、典型的なバスレフ型の特性を示すスピーカーシステムの方が、
1977年から1978年の時点で少なくなっていることがわかる。

バスレフ型ならではのインピーダンス特性、
共振のふたつの山ができているのは、エレクトロボイスのSentry V、サンスイのSP-L100、
パイオニアのExclusive 2301、アルテックのModel 19、ビクターのS3000ぐらいである。
意外に少ない。

たとえばアルテックの場合、Model 15とModel 19はどちらもバスレフ型なのに、
インピーダンス特性をみるかぎり、バスレフのチューニングの考え方は違っている。
Model 19の開口部は縦に細長い四角、Model 15は円である。

同じ四角の開口部をもつアルテックの612Cと620Aも、
低い方の山はけっこう高くなりそうではあっても、
掲載されているグラフは20Hzまでであり、それ以下の周波数はどうなっているのかははっきりしない。

けれど低い方の山を可聴周波数限界まで下げるという考え方は、瀬川先生の考え方と一致している。
ただ、ここがオーディオの面白いところなのだが、
だからといって瀬川先生の評価が高いのはModel 15ではなくModel 19であったりする。

JBLはL200、L300、4343、4301、4333などがテストされている。
いずれもバスレフ型だが、低域の共振の山はひとつだけである。
この中では4301がいちばん設計が新しく、インピーダンス特性も、
共振のピークは、他のJBLのモデルよりも抑えられていて、密閉型的な特性のようでもある。

サンスイも、SP-L100ははっきりとバスレフ型とわかる特性だが、
同じシリーズのSP-L150はそうではない。

意図的にメーカーはバスレフのチューニングを、
スピーカーの教科書に書かれていることからははずれたところでやっているともいえるわけだ。

Date: 2月 26th, 2015
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(密閉型について)

何度かオーディオ雑誌や個人サイトで目にしたことがあるのが、
それまで使ってきたスピーカーシステムを挙げて、
密閉型ばかり(もしくは中心に)使ってきた、という記述である。

たしかにそこに挙げられているのは、バスレフ型ではないという意味では密閉型である。
けれどそれらが、いわゆるアコースティックサスペンション方式ばかりだと、
少しばかり異を唱えたくなる気持がわいてくる。

アコースティックサスペンションと、
スピーカーユニットの口径に対して十分すぎる内容積を確保した密閉型とを、
いっしょくたに考え、どちらのスピーカーも密閉型と呼ぶのは少し安易ではないだろうか。

どちらのタイプの密閉型も使ってきた人が、
ずっと密閉型ばかり使ってきた(鳴らしてきた)といわれるのと、
アコースティックサスペンションばかり使ってきた人が、
密閉型ばかり使ってきたというのとでは、読み手としては同じに受けとることはできない。

それでもブランド名と型番を挙げて、そう書いてあればまだいい。
どんな密閉型のスピーカーなのかを挙げずに、
ただ「密閉型ばかりを使ってきた」とあっても、
その密閉型が、アコースティックサスペンションの密閉型なのか、それとも違うのか。
そこがはっきりしない。

Date: 2月 25th, 2015
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(その4)

ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4を読む以前にも、
スピーカーの自作関連の本は何冊か読んでいた。
バスレフの設計についても一通りの知識はもっていたけれど、
私にとってのバスレフ型の考え方の基本は、HIGH-TECHNIC SERIES 4の瀬川先生の考え方である。

HIGH-TECHNIC SERIES 4から約十年後、
ヤマハからAST方式のスピーカーシステムが登場した。
専用アンプ込みでのバスレフ方式であり、
AST1の音を聴いて、技術解説を聞いて、バスレフ型の考え方を修整したともいえる。

AST1以前にも、ダイヤトーンのDS503でバスレフポートの材質を変えた音を聴いている。
寸法は同じでも材質が変れば、想像よりも音の変化は大きい。
紙製のバスレフポートでも、エンクロージュア内の開口部の支持の仕方や、
その部分のダンプによっても音が変ることは体験していた。

とはいえ、これらは根本的なバスレフ型の考え方を変えるものではなく、
バスレフ型のチューニングのテクニックとして、であった。

ヤマハのAST1は、バスレフ型の動作とは、本来こういうものだったのか、という驚きがあった。
AST1以前のバスレフ型は、バスレフ型本来の動作とは決していえないものだったからこそ、
瀬川先生がHIGH-TECHNIC SERIES 4に書かれたことが聴感上好ましい結果を生んでいた──、
ともいえるのではないか。そう考えるようにもなっていた。

Date: 2月 25th, 2015
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(その3)

瀬川先生は、
《エンクロージュア自体では共振のできることを意図的に避けることが、
聴感上の低音を自然にするひとつの手段ではないかと思う》とされている。

クリティカルな設計のバスレフ型のインピーダンス特性は、
良く知られるようにピークがふたつできる。
エンクロージュアの容積が小さすぎ、もしくはポートが短すぎると、
ふたつの山は高域へとスライドし、ふたつの山の高さも同じではなくなり、
高い周波数のピークが大きく、低い方のピークは抑えられる。

エンクロージュアの容積が大きすぎ、もしくはポートが長すぎると、
低い周波数へとスライドする。山の高さはふたつとも低くなり、
低いほうのピークはかなり抑えられている。

バスレフ型では容積が同じで、ポートが短いと低域がやや盛り上り、
適切なポートの長さよりも減衰し始める周波数が高くなる。
反対に長すぎると減衰がはじまる周波数はもっとも高く、しかも段がつく周波数特性となる。

バスレフポートが同じで内容積を変化させた場合も、ほぼ同じ変化をする。
つまり内容積を大きくし、バスレフポートを長くするということは、
瀬川先生も書かれているように、
《バスレフの二つの共振の山のうち、高い方をできるだけおさえ、
低い方を可聴周波数限界近くまで下げるという考え方が、
わたくしの実験では(この例にかぎらず)概して好ましかった》ということになる。

だから瀬川先生は、こう続けられている。
《ともかく、バスレフは難しく考えなくてよい。
それよりも、むしろ積極的にミスチューニングしよう
(本当は、いったい何がミスなんだ?と聞きかえしたいのだが)。》

むしろ瀬川先生はエンクロージュアのプロポーション(寸法比)を重視されている。
エンクロージュアの幅・高さ・奥行きは各辺の比が、
互いに割り切れないような寸法比にすることをすすめられている。

Date: 2月 24th, 2015
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(その2)

HIGH-TECHNIC SERIES 4はフルレンジユニットの一冊であり、
瀬川先生は「フルレンジユニットを生かすスピーカーシステム構成法」を担当されている。

その中の見出しで「位相反転型の教科書に反抗する」というのがある。
ここでは当時秋葉原にあったオンキョーオーディオセンターで行なわれた実験を基にして書かれている。

オンキョーの20cm口径のフルレンジユニットFRX20を、
エンクロージュアの材料、形状、構造やサイズ、プロポーションなどを変えての、かなり大がかりな実験である。
「位相反転型の教科書に反抗する」の章では、
オンキョーオーディオセンターでの実験のデータも紹介されている。

これは興味深いデータであったし、
スピーカーシステムは実際のリスニングルームに設置して聴くものである、という、
ごくあたりまえのことを改めて考えさせられる内容でも合った。

FRX20を使った実験では、内容積が65リッター、85リッター、150リッターの三種類のエンクロージュア作り、
まず密閉型で聴き、その後、バスレフポートの長さを増していくというもの。
その結果を書かれている。
     *
 これを実際に、約50名のアマチュア立会いでヒアリングテストしたところ、箱を最大にすると共にポートを最も長くして、旧来のバスレフ理論からは最適同調点を最もはずしたポイントが、聴感上では音に深みと幅が増してスケール感が豊かで、とうてい20センチのシングルコーンとは思えないという結果が得られた。
     *
実測データとして、
それぞれの内容積で、密閉型、ポートの長さを変えたバスレフ型の周波数特性とインピーダンス特性が載っている。

測定はヒアリングテストの前に行なわれている。
オンキョーのエンジニアからは、ミスチューニングで好ましくない、と意見がついてきた特性、
内容積150リッターで、ポート寸法130φ×365mmの二本の組合せが、
聴感上もっとも好ましい結果となっている。

Date: 2月 24th, 2015
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(その1)

スピーカーのエンクロージュアにはいくつかの種類(構造)がある。
スピーカーの教科書に載っているのは、まず密閉型とバスレフ型がある。
その他にホーン型や音響迷路型と呼ばれるものなど、いくつかがある。

とはいえ、市販されている大半のスピーカーシステムは、密閉型かバスレフ型が多い。
ずっと昔から、密閉型こそが良質の低音を再生してくれるエンクロージュアと主張する人もいれば、
いやバスレフ型こそが自然な低音を再生してくれると主張する人もいる。

どちらにも言い分があって、どちらかが全面的に正しいとはいえない。

岩崎先生はプレーンバッフル(平面バッフル)かホーンバッフル、
それに密閉型を推奨されることが多かった。

バスレフ型に関しては、どちらかといえば否定的なことを書かれることもあった。
とはいえ、岩崎先生の推奨する密閉型は、かなりの内容積をもつモノであるようだ。

密閉型を支持する人の中には、バスレフ型はバスレフくさい音ががする、という人がいる。
いわゆるボンボンという低音の鳴り方をするスピーカーのことを、バスレフくさい音という。

バスレフ型は、スピーカーの教科書には密閉型よりも設計が難しいと書いてある。
使用するスピーカーユニットの細かな特性がわからなくては最適なバスレフ型の設計はできない──、
そんなふうに書いてあり、たいていの場合、難しい数式が並んでいる。

もっとも最近ではバスレフ型のそういった計算をやってくれるウェブサイトもあり、
パソコン、インターネット普及以前にくらべてずっと簡単になっているともいえる。

けれど瀬川先生は、以前、バスレフ型でも、
ほとんど計算しないでも、カンどころをはずさなければ、聴感上十分に良い音質が期待できる、
とステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4に書かれている。