Archive for category Model 7

Date: 9月 1st, 2020
Cate: Marantz, Model 7

マランツ Model 7はオープンソースなのか(その8)

私がオーディオに興味をもったころには、アンプのキットがいくつもあった。
有名なところではダイナコ、ラックスキットである。

ダイナコの場合、完成品と同じモデルがキットになっていた。
つまり完成品の音を聴こうと思えば聴けた。

自分で組み立てたダイナコのキットの音と、
完成品のダイナコのアンプとを比較試聴しようと思えば、それは可能だった。

ラックスキットは完成品のアンプすべてがキットになっていたわけではなかったし、
キットになっているアンプの完成品がすべてあったわけでもない。

それでも完成品とキット、両方出ているモデルもあった。
たとえばコントロールアンプのCL32のキットは、A3032だった。

だから、ラックスキットもダイナコと同じように、完成品の音、
つまり、そのアンプ本来の音を聴ける(確認できる)。

NwAvGuyのヘッドフォンアンプ、D/Aコンバーターは、どうだろうか。
NwAvGuyの指定通りに組み立てられた完成品が、二社ぐらいから出ている。
けれど、その音を、NwAvGuyが聴いて、本来の音が出ていると確認している、とは思えない。
NwAvGuyが匿名のエンジニアだからだ。

同じことは、無線と実験やラジオ技術に発表されるアンプについてもいえる。
回路図もプリント基板のパターンも、実体配線図も記事に載っているし、
部品の指定も、金田アンプの場合は、かなり細かい。

けれど、記事に発表されたアンプ、
つまり記事を書いた本人が組み立てたアンプの音を聴いている人は、ごくわずかだろう。

金田アンプの試聴会は、開かれている。
そこで使われている金田アンプは、金田明彦氏本人が組み立てたアンプである。
とはいえ試聴会で聴いたから、といって、
比較対象となるほかのアンプもない状態で、どれだけ正確に、
金田アンプ本来の音を聴いた、といえるだろうか。

Date: 8月 31st, 2020
Cate: Marantz, Model 7

マランツ Model 7はオープンソースなのか(その7)

1978年に、日本マランツからModel 7KとModel 9Kが発売になった。
型番末尾にKがつくことがあらわしているように、キットである。

この高価なキットの資料には、次のようなことが書いてある。
     *
ニューヨークの倉庫からする古い青図を私達は入手し、パーツリストをたどってオリジナルのパーツを極力探す努力をしました。ただし年月も経ち今や百パーセントオリジナルパーツの入手はもとより不可能です。従って完成品の再現ではなくして、こよなく♯7、♯9を愛しておられる方に、そして管球式アンプをよく熟知された高度なマニアに部品を提供し♯7、♯9を再現していただこうということになりました。
     *

オリジナルにより近いということでは、このキットのほぼ20年後に出た7と9のほうだろう。
だからこそ、キットではなく完成品として、この時は出してきた。

マランツ Model 7はオープンソースなのかについて、考えるうえで、
キットの存在は忘れてはならない。

ステレオサウンド 49号の記事には、資料からの引用がさらに続く。
     *
通常のキットとはかなりその意味が異なります。オリジナルな音の記録は現実にはありませんし、現状の古いアンプもパーツの老化を含めて本来の音の保証もありません。この音についてはより知っておられるユーザーに作っていただこうという趣向です。
     *
本来の音、
マランツ Model 7の本来の音。
それを知っている人がどれだけいるのだろうか。

私のModel 7はオリジナルだ、
その音こそ、オリジナルのModel 7の音だ、
こんなことを主張する人はいる。

それでも、その人がそう思い込んでいるだけであって、
オリジナルの音そのままだという保証は、どこにもない。

その6)で、アメリカのNwAvGuyと名乗る匿名のエンジニアのことを書いた。
彼が設計したヘッドフォンアンプとD/Aコンバーターは、回路図はもちろん、
プリント基板のパターンも公開されている。

指定通りに製作すれば、NwAvGuyの意図したとおりの、
つまり本来の音が出せるのか。

出てくるはず、と考えられるが、
NwAvGuyのヘッドフォンアンプ、D/Aコンバーターのオリジナルの音、
つまりNwAvGuyが製作したこれらの音を聴いている人は、
おそらくほとんどいないと思われる。

指定通りに製作して、その結果として出てきた音を、
本来の音と信じるしかない、ともいえる。

Date: 9月 17th, 2018
Cate: Marantz, Model 7

マランツ Model 7はオープンソースなのか(その6)

四年前に、ある記事を読んだ。
それがきっかけで、マランツのModel 7はオープンソースなのか、ということを考えるようになった。

その『多くのファンを魅了しながら突然姿を消した謎の天才オーディオエンジニア「NwAvGuy」』で知ったのだが、アメリカにはNwAvGuyと名乗る匿名のエンジニアがいる。
2012年を最後に、なぜかぷっつり活動を止めてしまっているようだが、
彼が設計したヘッドフォンアンプとD/Aコンバーターは、かなり安価に製作できるにも関らず、
かなりの高音質で話題になった、とある。

NwAvGuyは、回路図をオープンソースとして公開している。
詳しいことは、上記リンク先の記事を読んでほしい。

オープンソースの規約に基づいて製品化もなされている。
いま現在も購入できる。

回路図だけでなくプリント基板のパターンも公開されている。
製品化されたモノを買わなくとも、腕に自信のある人ならば、完全なコピーを作ることも可能だ。

同じことは、無線と実験、ラジオ技術などの技術誌の自作記事でもいえる。
回路図は公開されている。
プリント基板のパターンも同じく公開されている。
シャーシーの加工図もある。
部品の指定もある。

同じといえば同じである。
けれど、それらの記事のアンプが、オープンソースを謳うことはなかった。
当り前といえば当り前のことなのだが、
オーディオ雑誌でのアンプの自作記事を数多く、それまで見てきた者にとっては、
NwAvGuyのオープンソース宣言は、そういう考え方もできるんだな、と多少の驚きがあった。

オープンソースという言葉が生れたのは1998年らしい。
もちろんコンピューターのソフトウェア関係から生れている。

それまでそういう言葉、そういう考え方は、オーディオの世界にはなかったといってもいいのだから、
雑誌記事の回路図、プリント基板のパターン、
それだけでなく、マランツやマッキントッシュQUADなど、
過去のアンプの回路図もまた公開されてきたけれど、
それらをオープンソースと呼ぶ人は誰もいなかった。

けれどいわれてみれば、オープンソースなのかもしれない、と思う。
マランツのModel 7にしても回路図、その他はさまざまなところで公開されている。
解説記事もいくつもある。

Model 7はプリント基板を使うわけではないから、自作の難度は低くはない。
それでもデッドコピーを作るのに不足している情報はない、といってもいい。

これがマッキントッシュの真空管パワーアンプだと、
回路図、コンストラクションはマネできても、出力トランスだけは無理である。

その点、Model 7はコントロールアンプだから、その厄介さはない。
だから、ここでのタイトルは、マランツのModel 7なのである。

Date: 7月 24th, 2018
Cate: Marantz, Model 7

マランツ Model 7はオープンソースなのか(その5)

マランツのModel 7についてオーディオマニアが語るとき、
ほぼ必ずといっていいほど、そのデザインのことが話題になる。

基本シンメトリーなのだが、左右のバランスをほんのちょっとだけくずしてある。
それがまた絶妙──、
そんなことが語られる。

瀬川先生がずっと以前に書かれていたことで、
おそらく岩崎先生は瀬川先生よりも前に、同じことを指摘されている。

Model 7は、いいデザインと思うけれど、
Model 7がオープンソースなのか、ということについて考えるようになったきっかけも、
Model 7のフロントパネルの写真を眺めていたときに気づいたわけだから、
そのデザインといえる。

Model 7のデザインの見事さは、特註パーツを使用していないことにもある。
もちろんフロントパネルの仕上げは、昔の職人でなければできないレベルであるのは知っている。
いまでは、同じヘアラインは出来ない、とすでに30年くらい前に聞いている。

フロントパネル以外、スイッチ、ツマミはすべて市販品のはずだ。
Model 7の特徴的といえる中央の四つのレバースイッチとツマミ。
スイッチは市販品だし、ツマミのそのはずだ。

私以外にも気づいている人はいるはずだが、
マッキントッシュのパワーアンプMC240、MC275の入力切替えのスイッチ。
これはModel 7とスイッチもツマミと同じのはず。

両者を並べて比較したことはないので断言はできないけれど、
それぞれは何度も実機を見ているし、写真で見ても同じ、といえる。

デザインにこんなにこだわっています──、
そんなことをアピールするオーディオ機器がある。
その対極にModel 7があるからこそ、オープンソースなのか、と考える。

Date: 11月 12th, 2017
Cate: Marantz, Model 7

マランツ Model 7はオープンソースなのか(その4)

瀬川先生がマランツのModel 7を購入された時のことは、
ステレオサウンド 52号に書いてある。
     *
 余談が長くなってしまったが、そうして昭和三十年代の半ばごろまでアンプは自作するものときめこんでいたが、昭和36年以降、本格的に独立してインダストリアルデザインの道を進みはじめると、そろそろ、アンプの設計や製作のための時間を作ることが困難なほど多忙になりはじめた。一日の仕事を終って家に帰ると、もうアンプの回路のことを考えたり、ハンダごてを握るよりも、好きな一枚のレコードで、何も考えずにただ疲れを癒したい、という気分になってくる。そんな次第から、もうこの辺で自作から足を洗って、何かひとつ、完成度の高いアンプを購入したい、というように考えが変ってきた。
 もうその頃になると、国内の専業メーカーからも、数少ないとはいえ各種のアンプが市販されるようになってはいたが、なにしろ十数年間、自分で設計し改造しながら、コンストラクションやデザインといった外観仕上げにまで、へたなメーカー製品など何ものともしない程度のアンプは作ってきた目で眺めると、なみたいていの製品では、これを買って成仏しようという気を起こさせない。迷いながらも選択はどんどんエスカレートして、結局、マランツのモデル7を買うことに決心してしまった。
 などと書くといとも容易に買ってしまったみたいだが、そんなことはない。当時の価格で十六万円弱、といえば、なにしろ大卒の初任給が三万円に達したかどうかという時代だから、まあ相当に思い切った買物だ。それで貯金の大半をはたいてしまうと、パワーアンプはマランツには手が出なくなって、QUADのII型(KT66PP)を買った。このことからもわたくしがプリアンプのほうに重きを置く人間であることがいえる。
 ともかく、マランツ7+QUAD/II(×2)という、わたくしとしては初めて買うメーカー製のアンプが我が家で鳴りはじめた。
 いや、こういうありきたりの書きかたは、スイッチを入れて初めて鳴った音のおどろきをとても説明できていない。
 何度も書いたように、アンプの回路設計はふつうにできた。デザインや仕上げにも人一倍うるさいことを自認していた。そういう面から選択を重ねて、最後に、マランツの回路にも仕上げにも、まあ一応の納得をして購入した。さんざん自作をくりかえしてきて、およそ考えうるかぎりパーツにぜいたくし、製作や調整に手を尽くしたプリアンプの鳴らす音というものは、ほとんどわかっていたつもりであった。
 マランツ7が最初に鳴らした音質は、そういうわたくしの予想を大幅に上廻る、というよりそれまで全く知らなかったアンプの世界のもうひとつ別の次元の音を、聴かせ、わたくしは一瞬、気が遠くなるほどの驚きを味わった。いったい、いままでの十何年間、心血そそいで作り、改造してきた俺のプリアンプは、一体何だったのだろう。いや、わたくしのプリアンプばかりではない。自作のプリアンプを、先輩や友人たちの作ったアンプと鳴きくらべもしてみて、まあまあの水準だと思ってきた。だがマランツ7の音は、その過去のあらゆる体験から想像もつかないように、緻密で、音の輪郭がしっかりしていると同時にその音の中味には十二分にコクがあった。何という上質の、何というバランスのよい音質だったか。だとすると、わたくしひとりではない、いままで我々日本のアマチュアたちが、何の疑いもなく自信を持って製作し、聴いてきたアンプというのは、あれは一体、何だったのか……。日本のアマチュアの中でも、おそらく最高水準の人たち、そのままメーカーのチーフクラスで通る人たちの作ったアンプが、そう思わせたということは、結局のところ、我々全体が井の中の蛙だったということなのか──。
     *
この時、瀬川先生はModel 7の回路図も入手されていたのだろうか。
ここにははっきりと書かれていないが、
「世界のオーディオ」のマッキントッシュ号での「私のマッキントッシュ観」では、こう書かれている。
     *
 昭和31年の2月、フランク・H・マッキントッシュは日本を訪問している。マッキントッシュ・アンプの設計者でありマッキントッシュ社の社長として日本でもよく知られていたミスター・マッキントッシュが、何の前ぶれもなしに突然日本にやって来たというので、『ラジオ技術』誌のレギュラー筆者たちが急遽彼にインタビューを申し込み、そのリポートが「マッキントッシュ氏との305分!」という記事にまとめられている。こんな古い記事のことをなんで私が憶えているのかといえば、ちょうど同じこの号が、おそらく日本で最初にマルチアンプ・システムを大々的にとりあげた特集号でもあって、「マルチスピーカーかマルチアンプか」という総合特集記事の中には、私もまた執筆者のはしくれとして名を連ねていたからでもあるが、しかしこのころの私はまた『ラジオ技術』誌のかなり熱心な愛読者でもあって、加藤秀夫、乙部融郎、中村久次、高橋三郎氏らこの道の先輩達によるマッキントッシュ氏へのインタビュウを、相当の興味を抱いて読んだこともまた確かだった。
 しかしその当時、マッキントッシュ・アンプの実物にはお目にかかる機会はほとんどなかった。というよりも日本という国全体が、高級な海外製品を輸入などできないほど貧しい時代だった。オーディオのマーケットもまだきわめて小さかった。安月給とりのアマチュアが、いくらかでもマシなアンプを手に入れようと思えば、こつこつとパーツを買い集めて図面をひいて、シャーシの設計からはじめてすべてを自作するという時代だった。回路の研究のために海外の著名なアンプの回路を調べたり分析して、マランツやマッキントッシュのアンプのこともむろん知ってはいたが、少なくとも回路設計の面からは、それら高級アンプの本当の姿を読みとることが(当時の私の知識では)できなくて、ことにマッキントッシュのパワーアップに至っては、その特殊なアウトプットトランスを製作することは不可能だったし、輸入することも思いつかなかったから、製作してみようなどと、とても考えてもみなかった。そうしてまで音を聴いてみるだけの価値のあるアンプであることなど全く知らなかった。これはマッキントッシュに限った話ではない。私ばかりでなく、当時のオーディオ・アマチュアの多くは、欧米の高級オーディオ機器の真価をほとんど知らずにいた、といえる。実物はめったに入ってこなかったし、まれに目にすることはあっても、本当の音で鳴っているのを聴く機会などなかったし、仮に音を聴いたとしても、その本当の良さが私の耳で理解できたかどうか──。
 イソップの物語に、狐と酸っぱい葡萄の話がある。おいしそうな葡萄が垂れ下がっている。狐は何度も飛びつこうとするが、どうしても葡萄の房にとどかない。やがて狐は「なんだい、あんな酸っぱい葡萄なんぞ、誰が喰ってやるものか!」と悪態をついて去る、という話だ。
 雑誌の記事や広告の写真でしか見ることのできない海外の、しかも高価なオーディオパーツは、私たち貧しいアマチュアにとって「すっぱいぶどう」であった。少なくとも私など、アメリカのアンプなんぞ回路図を調べてみれば、マランツだってマッキントッシュだってたいしたもんじゃないさ、みたいな気持を持っていた。私ばかりではない。前記の『ラジオ技術』誌あたりも、長いこと、海外のパーツについて正しい認識でとりあげていたとは思えない。そういう記事を読んでますます、なに、アメリカのオーディオ機器なんざ……という気持で固まってしまっていた。
     *
はっきりとはModel 7の回路図とは書かれてないが、
おそらくModel 7の購入にあたっては、回路図も入手されていたと思われる。

Date: 6月 17th, 2016
Cate: Marantz, Model 7

マランツ Model 7はオープンソースなのか(その3)

ウィリアムソンアンプはイギリスから登場した。
ほぼ同時代にアメリカからはオルソンアンプが登場している。

向うを張る、という表現があるが、
オルソンアンプはまさしくウィリアムソンアンプの向うを張る、といえるパワーアンプである。

オルソンアンプはRCAのスピーカーLC1による生演奏すり替え実験に使われていることでも知られている。
ウィリアムソンアンプとは、違いはどこにあるのか。
似ているところもある。
位相反転はどちらもP-K分割である。
出力段はどちらも三極管接続である。

電圧増幅段にはどちらも6J5と6SN7が指定されている。

けれど決定的に違うのは、オルソンアンプは無帰還アンプであるということ。
三極管接続した6F6を四本使ったパラレルプッシュプルで、出力は5W。

ここもウィリアムソンアンプと違うところである。
出力段のバイアスも違う。ウィリアムソンアンプは固定バイアス、オルソンアンプは自己バイアス。
よってオルソンアンプにはDCバランスの調整もない。

電源部もウィリアムソンアンプはコンデンサー入力のチョークコイル使用に対して、
オルソンアンプはチョークコイルを省いている。

ウィリアムソンアンプの追試・実験は当時の日本では困難であったが、
オルソンアンプはそうではないように、一見思える。
出力トランスの問題もないし、チョークコイルも不要だし、
アンプ製作にかかるコストも負担が少ないオルソンアンプはすんなり作れたか、というと、
どうでもそうではなかったらしい。

まず電源部。
オルソンアンプは450WV・50μFのコンデンサーを使っている。
チョークコイルを省いているための、この容量であるわけだが、
当時の日本製の電界コンデンサーで、
この規格のものとなると入手困難か非常に高くつくものであったらしい。

それだけでなく出力段の6F6の使い方も、
アメリカ製の6F6の使用を前提としているため、
日本製の6F6を使ってオルソンアンプをそのまま作ってしまうと、
最大定格以上のプレート電圧がかかってしまうため、わずか数日で6F6がダメになってしまう、とのこと。

RCAの6F6を使えば問題なく動作するそうだ。

いまならばオルソンアンプをそのまま再現することは特に難しいことでない。
けれどウィリアムソンアンプ、オルソンアンプが発表された1950年ごろの日本は、そうではなかった。

Date: 6月 17th, 2016
Cate: Marantz, Model 7

マランツ Model 7はオープンソースなのか(その2)

オーディオ機器の中で、オープンソースに成りえるのは、やはりアンプであろう。
スピーカーシステムだとエンクロージュアは木工を得意とする人ならば、
同等かそれ以上のモノをつくれる。

けれどスピーカーユニットはそうはいかない。
細かな仕様まで公開されていたとしても、
個人がその仕様書を見て、同じユニットをつくれるかというと、そうとうに困難である。

フレームはどうするのか、マグネットは……。
振動板は……、そんなことを考えてみると、
スピーカーのオープンソースは難しい、といえるし、
アンプの方がオープンソースに向いている、ともいえる。

ラジオ技術の1949年3月号に、ウィリアムソンアンプの記事が載っている。
Wireless World(1947年4月号、5月号)に発表された記事を元にしたものである。

KT66の三極管接続を出力段に使いながらも、NFBをかけている。
しかもかなりNFB量(20dB)は多いものだった。

記事には回路図やシャーシーに関するだけでなく、出力トランスの仕様まで出ていたそうだ。
いいかげんな出力トランスでは、ウィリアムソンアンプなみのNFBはかけられない。
実際のウィリアムソンアンプにはパートリッジ製が使われていたそうだ。

日本には、その頃ウィリアムソンに使える出力トランスはなかった、と聞いている。
オーディオフェアの第一回開催時に、
山岸無線というメーカーがウィリアムソンアンプ用のトランスを展示しているが、
実はケースだけであり、中身はなかったそうである。

この時代、日本ではウィリアムソンアンプの追試をやろうとしても無理だった。
管球式パワーアンプでは、出力トランスがネックになることがある。

もうひとつの例を挙げれば、マッキントッシュの管球式パワーアンプがある。
当時すでに日本にもマッキントッシュのアンプの情報は入ってきていて、
ずいぶんマッキントッシュ型の出力トランスの試作は行われた、と聞いている。
しかしレアショートの問題があって、同等のトランスはつくれなかった、そうだ。

この話はよく聞いている。
そのころの日本のトランスは絶縁材ひとつとっても、十分な性能・品質でなかった、と。

Date: 6月 16th, 2016
Cate: Marantz, Model 7

マランツ Model 7はオープンソースなのか(その1)

私が読みはじめたころの無線と実験には、
毎号、国内外のオーディオ機器の回路図が載っていた。

それ以外にも、オーディオ雑誌には、
過去のオーディオ機器の回路図が載っていることはけっこうあった。

有名なところではマランツのModel 7とマッキントッシュのC22。
同時代の、管球式コントロールアンプとしてもっとも知られる存在の二台は、
フォノイコライザーの回路が対照的ともいえる。

技術解説の記事、コピー製作の記事などで、
Model 7、C22の回路図はたびたび登場していた。
トランジスターアンプでも、JBLのSG520、SA600などの回路図も、割と載っていた方だ。

ある時期から、メーカー製のオーディオ機器の回路図が載る記事は減ってきた。
いまはどうか、というと、インターネットの普及により、
過去の製品に限れば、回路図だけでなくサービスマニュアルも公式、非公式で公開されている。
探すのにほとんど苦労はいらない、といえる状況になってきている。

サービスマニュアルとなると、
回路図だけでなくシャーシー構造、調整の仕方など、詳細な情報が載っている。
QUADの405のサービスマニュアルを見ると、405は小改良が加えられている、といわれてきたことが、
はっきりとわかる。
405から405-2になるまでにもいくつかのヴァージョンがある。

自分が気に入っているオーディオ機器のサービスマニュアルは、非常に勉強になる。
便利な時代である。

同時に、そういったサービスマニュアルを手にして見ていると、
これはオーディオのオープンソースといえるのだろうか、と考えてしまう。

オープンソース(open source)は、コンピューター関係から来ているわけで、
言葉通りであれば、ソースコードを公開する、という意味になる。

ソースコードは、オーディオではいわゆる回路図である。
オーディオ機器は回路図だけではまったく同じモノがつくれるわけではない。
ならばオーディオの世界では回路図が公開され、
細かな仕様まで公開されているとなると、オープンソースといえるのだろうか。

例えばマランツのModel 7ほど、オーディオ雑誌で取り上げられているアンプはない。
回路図の掲載回数においてもそうだし、Model 7の技術解説記事も多い。
日本マランツは1978年にModel 7とModel 9のキットを出している。
Model 7KとModel 9Kはトータルで80万円という、キットとしては最も高価なモノだった。

これに製作のコストがかかる。
目に見えるコストとそうでないコストがかかるわけで、その意味でも決してお買得な買物ではなかった。
それでもModel 7KとModel 9Kが存在していたということは、
オーディオ機器のオープンソースということを考えるにあたって、重要なことのように思える。