Archive for category 原器

Date: 11月 25th, 2016
Cate: 原器

オーディオ「原器」考(続々続・マイクロフォンこそが……)

昔のソニーの広告にあったように、
マイクロフォンがオーディオの出発点とすれば、
スピーカー、ヘッドフォン、イヤフォンが終着点ということになる。

出発点と終着点の対称性ということでは、
マイクロフォンとスピーカーシステムよりも、
マイクロフォンとヘッドフォン(イヤフォン)が、はるかに対称性を保っている。

たとえばゼンハイザーのマイクロフォンでの録音を、
ゼンハイザーのヘッドフォンもしくはイヤフォンで聴く。

マイクロフォンとヘッドフォンを同じメーカーで揃えることで、
出発点と終着点の対称性は、さらに高くなる──、といえるのだろうか。

Date: 11月 25th, 2016
Cate: 原器

オーディオ「原器」考(続々・マイクロフォンこそが……)

アメリカの三大スピーカーメーカーとして、
1970年代まではJBL、アルテック、エレクトロボイスを挙げることができた。

アルテックとエレクトロボイスはスピーカーとともにマイクロフォンも手がけていた、
JBLは違っていたことは、前回書いた。

JBL、アルテック、エレクトロボイスの音はそれぞれ個性があり違う。
それでもマイクロフォンを手がけてきたアルテックとエレクトロボイスは、
JBLとはあきらかに違う、といえる。

もちろんアルテックとエレクトロボイスの音は違う。
それでもJBLの音と比較した場合、
アルテックとエレクトロボイスの音には共通するところがあるともいえる。

その理由はいくつかあるのだろうが、意外にもマイクロフォンを手がけてきたメーカーと、
そうでないメーカーの違いが、音として顕れているのかもしれない。
偶然の一致なのだろうが、そうだろうか、とも思えてしまう。

いまスピーカーとマイクロフォン、
どちらも手がけているメーカーはいくつあるのか──、とすぐには思い浮ばないが、
これがヘッドフォンとマイクロフォンということになると、海外にはいまもいくつかある。
AKG、ベイヤー、ゼンハイザー、シュアー、などがある。

ヘッドフォンでも、マイクロフォンと手がけているメーカーとそうでないメーカー、
何か共通することがあるのだろうか。

Date: 8月 26th, 2016
Cate: 原器

オーディオ「原器」考(SPUと国産MC型)

オルトフォンのSPUは、鉄芯入りMC型カートリッジの原器といっていい存在である。
日本のMC型カートリッジにも、
SPU型といえるMC型カートリッジがいくつも存在していた。

コーラルの777シリーズ、デンオンのDL103シリーズ、アントレーのEC1、EC10、グレースのf10シリーズ、
ハイレクトの2017、ナカミチのMC1000、スペックスのSD909などがそうだ。
海外モデルではEMTのTSD15がある。

上記の国産MC型カートリッジは、構造によってふたつに分けられる。
コーラル、アントレー、グレースのグループと、
デンオン、ハイレクト、ナカミチ、スペックスのグループとにである。

手元にステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 2がある方は、
これらのカートリッジの内部構造図を比較していただきたい。
すぐに気づかれるであろう。

MC型カートリッジの構造はコイルの後にダンパーがあり、
さらにその後にはポールピースがあり、
ポールピースと向き合うようにマグネットが配置されている。

SPUではマグネットとポールピースは平行の位置関係にある。
カンチレバーはポールピースからまっすぐに出ている。

SPUのカートリッジ本体をGシェル(もしくはAシェル)から取り出してみると、
マグネットが斜めになっている。
そのため通常のヘッドシェルにSPUの本体を取り付けるためにはスペーサーが必要になる。
以前はオーディオクラフト、フィデリティ・リサーチからSPU用のスペーサーが発売されていた。

つまりトラッキングアングルの分だけSPUの本体は角度をつけて専用シェルに取り付けられている。
国産MC型のコーラル、アントレー、グレースのグループは、
SPUと同じで、ポールピースとマグネットが平行関係にある。

これだとカートリッジの内部でなんからのスペーサーを必要とする。
ならばポールピースとマグネットを平行の位置関係にせずに、
ポールピースをトラッキングアングルの分だけ傾けてしまえば合理的ともいえる。
デンオン、ハイレクト、ナカミチ、スペックスのグループが、これにあたる。

どちらが構造として優れているのだろうか。
SPU型ではない他のMC型カートリッジをみると、
ポールピースとマグネットが平行の位置関係であるモノが多い。

ちなみに構造をみれば、
ナカミチのカートリッジを製造していたのはスペックスだとわかる。

Date: 3月 2nd, 2015
Cate: 原器

オーディオ「原器」考(続・マイクロフォンこそが……)

マイクロフォンがオーディオの原器だと仮定して考えていけば、
エレクトロボイスは、
マイクロフォンとスピーカー、両方において積極的であったメーカーだったことに気づく。

アルテックのマイクロフォンもある。
鉄仮面と呼ばれている639が有名だが、他にどれだけのマイクロフォンがあっただろうか。

JBLは手がけてなかった。
タンノイはどうだったろうか。

マイクロフォンもスピーカーも、動作こそ対照的ではあるが音と電気の変換器である。

Date: 3月 2nd, 2015
Cate: 原器

オーディオ「原器」考(マイクロフォンこそが……)

1977年のソニーの広告に、原器の文字がある。
マイクロフォンの広告だった。ステレオサウンド 45号に載っている。

こうあった。
     *
「オーディオの原器。」
考えてみてください。
レコード、テープ、放送……どのオーディオをとってみても、
オーディオの出発点にマイクロホンが存在することを。
     *
たしかにそのとおりである。

ソニーはコンシューマー用マイクロフォンだけではなく、プロフェッショナル用マイクロフォンも手がけていた。
広告には、C38Bの写真が大きく使われている。

こういう広告はコンシューマー用オーディオ機器だけでなく、
プロフェッショナル用も手がけていて、
それもマイクロフォンから録音器、プレーヤー、アンプ、スピーカーにいたるまで、
オーディオ機器のすべてを手がけているメーカーだからこそ、自信をもっていえることだと感じられる。

広告には、こうも書いてある。
《マイクロホンの進歩なしにはオーディオ機器全体の進歩は望めないとまでいえる。》と。

Date: 2月 9th, 2015
Cate: 原器

オーディオ「原器」考(その7)

マークレビンソンのLNP2は、JC2(後のML1)の価格の約二倍していた。
日本ではJC2よりもLNP2の方が売れているような印象すらある。

日本におけるマークレビンソンの名声はLNP2によって築かれたともいえる。
けれど、LNP2が同時代の日本のコントロールアンプにどれだけの影響を与えただろうか。

アメリカでは比較広告が認められているため、
マークレビンソンのアンプと比較して……、と自社のアンプのスペックの優秀性を誇る広告が、
けっこうあったときいている。

マークレビンソンの成功は、多くの人を刺戟していた。
それでもLNP2をマネたようなコントロールアンプは登場していない。

それが日本になると少し事情が違ってくる。
日本では当時は比較広告は認められていなかった。
だから、日本の各オーディオメーカーがどの程度マークレビンソンを意識していたのかは、
広告からはわからない。

けれどJC2の登場以降、日本では薄型コントロールアンプがいくつも登場してきた。
つまり影響の大きさでいえば、JC2の方がはるかに大きい。

ラックスでさえ、CL32という真空管アンプながら厚さ7.7cmの薄型を出してきた。
そして機能を省略したアンプも増えてきた。

この流れは、はっきりとJC2の影響だといえる。
ならばJBLの4343、SMEの3012と同じ意味で、JC2も「原器」といえるのかというと、
私はそうは思えない。
なぜそう思えないのか。ここに「原器」とは何かをさぐる鍵があるような気がする。

Date: 2月 8th, 2015
Cate: 原器

オーディオ「原器」考(その6)

4343を「原器」とするならば、
トーンアームの「原器」は、やはりSMEの3012ということになる。
少なくとも日本では、そうだといえる。

オルトフォンのSPUを使うために開発されたSMEの3012に採用されたのが、
その後日本では標準規格といえるほど普及してしまったプラグインコネクターである。

このコネクターの採用だけでも、SMEの日本のトーンアームにおける影響の大きさがわかる。
このコネクターの採用があったからこそ、
日本ではカートリッジの交換を、多くの人があたりまえのように行えるようになった。

アナログプレーヤー関連のアクセサリーがあれだけ充実したのも、
プラグインコネクターの普及のおかげもある。
ヘッドシェル、リード線、取付けネジなどのアクセサリーは、
プラグインコネクターの採用があったからこそのモノともいえる。

SMEの3012の影響はそれだけではない。
ある時期の日本のトーンアームは、3012のコピー(部分的なコピーを含めて)といえるモノがいくつもあった。

SMEの3012も、4343と同じ意味で「原器」であったといえよう。

では同じようにマークレビンソンのLNP2も「原器」といえるだろうか。
「LNP2と同時代のコントロールアンプ」とテーマで書け、といわれれば、いくらでも書いていける。
けれど、冷静にみればわかることなのだが、LNP2は4343、3012のような影響を、
同ジャンルの日本のオーディオ機器に与えただろうか。

影響の大きさだけでみれば、LNP2よりもJC2の方が大きい。

Date: 2月 7th, 2015
Cate: 原器

オーディオ「原器」考(その5)

ブログを始めたばかりのころ「4343と国産4ウェイ・スピーカー」というタイトルで書いていた。

4343の登場が1976年。
このころ国産スピーカーに4ウェイのモノはほとんどなかった。
それが数年後、各社から4ウェイのシステムが登場してきた。

4343と同じフロアー型もあればブックシェルフ型の4ウェイもあった。
これは明らかにJBLの4343の成功(爆発的な売行き)があったからこその現象といえる。

ダイヤトーンのDS5000は4343と同サイズである。
このことが何を物語っているのか。

国産メーカーだけでなくアルテックからも6041という4ウェイ・システムが登場した。
6041は後で知るのだが、輸入元による日本発の企画であったらしい。
それにしても、と思う。

これは日本のオーディオだけに限定された現象なのかもしれない。
けれど、そのころの日本はオーディオ大国であった。
非常に大きなマーケットであった。

そこに4343は、ひとつのはっきりとした流れをつくった、といえる。
だからこそ、4343と同時代のスピーカーというテーマが成り立つ。

これだけの影響を与えたオーディオ機器となると、他にどんなモノがあるだろうか。
話題になったオーディオ機器は他にもいくつかある。

どれだけ話題になっても、ひとつの趨勢となるのかは別のことである。
4343の影響は大きくはっきりとしていただけに、
4343はある一時代における「原器」であったはずだ。

Date: 2月 6th, 2015
Cate: 原器

オーディオ「原器」考(その4)

オーディオ機器の中で、まだ30年ちょっという歴史しかもたないCDプレーヤーは、
簡単に原器といえる候補を挙げられそうに思える。

私が最初に聴いたCDプレーヤーは、マランツのCD63だった。
試作品のCD63だったこともあり、後に市販されたCD63とは比較にならない音の良さを持っていた。

以前書いているように、
ステレオサウンドにそのころリファレンスプレーヤーとしてあったパイオニアのExclusive P3との比較で、
小沢征爾指揮の「ツァラトゥストラ」を聴いた。

Exclusive P3からみればちっぽけな筐体のCDプレーヤーが、抜群の安定感をもって、
冒頭の、あの有名なフレーズを試聴室に響き渡らせた。

すべての点でCDが優れていたわけではなかったけれど、
すごい可能性をもったメディアが登場したことを、試聴室にいたすべての者に強く印象づけた。

CDのオリジネーターでもあるフィリップスによるCD63だから、これがCDプレーヤーの原器といってもいい──、
そう思いつつも、フィリップスのLHH2000の初期モデルの音こそが原器と呼べるかもしれない、と思ってしまう。

CDのオリジネーターはフィリップスだけではない。ソニーもである。
だからソニーのCDP101も原器といえるのか。
トレイ式のCDプレーヤーとしては原器といえる。
だが肝心の音に関しては、次のモデルのCDP701ESのほうが印象に残っている。

ここで少し考えを変えてみたい。

実は別のテーマで書こうと考えていたことに、
LNP2と同時代のコントロールアンプ、4343と同時代のスピーカーシステム、というのがある。
この「○○と同時代の……」における○○も、原器のようなモノなのかもしれない、と思えてきたのだ。

Date: 2月 6th, 2015
Cate: 原器

オーディオ「原器」考(その3)

それぞれのジャンルの原器について考えてみる。
パワーアンプの原器といえるモノには何があるのか。

まずいえるのは真空管アンプだということ。
けれど、そこから先のこととなると、意外に難しい。
マッキントッシュ、マランツの真空管パワーアンプを挙げるのに、なぜか抵抗を感じる。

そしてメーカーの特定の機種ということよりも、
オルソン型アンプなのかウィリアムソン型アンプなのか。
どちらが原器といえるのかについて考えている。

トランジスターのパワーアンプとなると、さらに悩む。
真空管アンプの回路をトランジスターに置き換えたQUADの50Eというアンプがある。
これを原器といえるのか。
トランジスターアンプならではの回路を採用したアンプが、原器となるのか。
そうなるとJBLのトランジスターアンプなのか。

スピーカーの原器とは、といえば、フルレンジということになるのか。
ライス&ケロッグによるユニットが文字通り世界初のコーン型フルレンジユニットなのだから、
原器といえばそういえる。
だが、ここで挙げている原器とはニュアンスが違う。

そうなるとウェスターン・エレクトリックのスピーカーユニットということになるのか。
技術的にはそういえのはわかっていても、
ウェスターン・エレクトリックのスピーカーといえば、どうしてもスピーカーユニットの印象が強すぎる。
スピーカーシステムとしてのウェスターン・エレクトリックが、
家庭用スピーカーシステムの原器とは到底いえない。

スピーカーもまた難しい。
スピーカーユニットとしての原器、スピーカーシステムとしての原器があるからだ。

Date: 2月 3rd, 2015
Cate: 原器

オーディオ「原器」考(その2)

原器としての候補を思いつくまま挙げてみる。

音の入口からいけば、カートリッジではまずオルトフォンのSPUが、候補として真っ先に浮ぶ。
と同時に、カッターヘッドをそのままカートリッジに置き換えたものがひとつの理想とすれば、
ウェストレックスの10Aも原器といえる。

トーンアームは、やはりSMEの3012、3009が原器ということになるのか。
とはいえ現行製品に多く見受けられるワンポイントアーム。
これこそがトーンアームの原器とすれば、SMEではなく、他のトーンアームが候補として浮ぶ。
たとえはグレイ(マイクロトラック)の206Sといった、プリミティヴなトーンアームが原器となるのか。

ターンテーブルはどうか。
まずダイレクトドライヴ型の原器としてはテクニクスのSP10が存在する。
これは誰も否定することのできない原器である。
だがターンテーブルの原器となると、ずっと溯ることになる。

ガラードの301、トーレンスのTD124あたりを原器とするのには、やや抵抗がある。
けれど他にどんなモノがあったろうか。

コントロールアンプはどうか。
ここでもマランツのModel 7は外せない。
だがModel 7の原器としてModel 1があり、
Model 1はモノーラルだが、
これを二台使い、Model 6とともにウッドケースにおさめたモノがModel 7の原器といえばそういえる。

Model 7を挙げるのならば、マッキントッシュのC22はどうか、となる。

C22もModel 7も真空管アンプである。
トランジスターアンプとしての原器はないのか。

Date: 9月 29th, 2013
Cate: 原器

オーディオ「原器」考(その1)

オーディオの原器とは、いったいなんになるのか、どういうものか。
簡単にいってしまえば蓄音器ということになるわけだが、
現代の、ここまで複雑に進歩した、といえるオーディオの原器として、
いま蓄音器──ここでいう蓄音器とは電気を必要としないアクースティック蓄音器のこと──をあげるのが、
果して適当なことなのだろうか、という考えがあるだけでなく、
こういう大きな括りとしての「原器」ではなく、
ここまで細分化してきたオーディオ機器の、それぞれの原器、
つまりアナログプレーヤーの原器、
このアナログプレーヤーに関しても、
カートリッジの原器、トーンアームの原器、ターンテーブルの原器というふうに見ていける。

原器とは辞書には、測定の標準器としての意味がある。
この意味での「原器」ではなく、もうひとつの、
同種類のモノの標準として作られた基本的な器としての、オーディオ機器の原器とは何か。

これまでに多くのオーディオ機器が登場してきた。
さまざまな技術的特徴をもつオーディオ機器があった。
消えていった技術、主流とはなれなかった技術もある。
いまも存在している技術もある。

過去の、こういった技術を知っているのか知らないのか、それは不明だけれど、
いまそういう技術と同じようなことをやっているオーディオ機器もある。
とにかく、実にさまざま(玉石混淆)である。

メーカー側がそうであるのと同じに、ユーザー側(オーディオ・ジャーナリズムもここに含む)も、
そういう技術について知っているの知らないのか、それは不明なのだが、
ある一定の評価をする人がいることも事実である。

視点の違いにより評価は変ってくるものだし、
また、その評価が正しいとか間違っているとかではなく、
いまオーディオ機器の評価は難しくなってきているし、微妙な面が色濃くなりつつある。

だからこそ、「原器」について考えてみる必要があるのではないか。